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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1309042
審判番号 不服2014-3381  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-24 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2009-540776「太陽光制御フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日国際公開,WO2008/071770,平成22年 4月30日国内公表,特表2010-513942〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2007年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年12月14日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成21年8月17日に特許請求の範囲及び明細書の翻訳文が提出され,平成24年7月19日付けで拒絶理由が通知され,同年10月24日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたが,平成25年10月11日付けで拒絶査定がなされたところ,平成26年2月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,当審において,平成27年3月17日付けで拒絶の理由が通知され,同年6月24日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は,平成27年6月24日提出の誤訳訂正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7によってそれぞれ特定されるものであるところ,請求項1に係る発明は次のとおりのものと認められる。

「太陽に対して配置された太陽光制御フィルムにおいて,
アルミニウム,銀,金,銅,クロム,およびそれらの合金からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含む少なくとも1つの赤外線反射層と,
6ホウ化ランタンナノ粒子,酸化セシウムタングステンナノ粒子からなる群から選択された少なくとも一種のナノ粒子を含み,前記赤外線反射層よりも太陽から遠くに配置された少なくとも1つの赤外線吸収層と,を備え,
可視光透過率(VLT)が64?69,総太陽エネルギー遮断率(TSER)が43?53,および太陽熱利得係数(SHGC)が0.47?0.57であること,を特徴とする太陽光制御フィルム。」(以下,「本願発明」という。)

3 当審で通知した拒絶の理由について
当審において平成27年3月17日付けで通知した拒絶の理由のうち,「理由4」として通知した拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は,本願発明は,特開平10-100310号公報に記載された発明及び特開2004-26547号公報に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

4 引用例
(1)特開平10-100310号公報
ア 特開平10-100310号公報の記載
当審拒絶理由で引用された特開平10-100310号公報(以下,「引用例1」という。)は,本願の優先権主張の日(以下,単に「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用例1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項1】金属を蒸着させたフィルムの上に,熱線吸収能を有する一次粒子径0.5μm以下の無機金属の微粒子とその接着剤としての紫外線で硬化可能なバインダーを成分とする熱線遮断性塗料をコーティングした熱線遮断性フィルム。」

(イ) 「【0001】
【発明の所属する技術分野】本発明は熱線遮断性フィルムに関し,特に耐候性と透明感が良好で且つ格段に熱線吸収能の優れたフィルムが得られるという特徴がある。
【0002】
【従来の技術】熱線遮断性フィルムは,近年特に研究開発が盛んに行われており,情報記録材料,赤外カットフィルターあるいは熱線遮断フィルムとして建物の窓,車両の窓等に利用することができる。
【0003】近年,建築物,車において冷房負荷軽減効果が注目され,窓を通して流入する太陽エネルギ-を遮弊(審決注:「遮弊」は誤記であり,正しくは「遮蔽」と認められる。以下,「遮蔽」と表記する。)するためには可視域での反射のみでは限度があり,可視域での反射・吸収の他に近赤外部-赤外部での反射・吸収能を高める必要がある。・・・(中略)・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の金属を蒸着した熱線反射フィルムは,熱線遮断性能を重視すると熱線のみならず可視光線まで金属蒸着層で反射するので,窓ガラス等に張り付けると採光性が損なわれ,室内が暗くなるという致命的な欠陥があった。このような金属の中でアルミニウムは安価であるために広く建物や車の窓に使用されている。アルミニウムの蒸着品は可視光線透過率を50%から20%にした蒸着品として一般に使用されている。このアルミニウム蒸着品は十分な熱線遮断性を得るためには,可視光線の透過率を低くする必要があり暗くなる。また透過率が低くなると可視光線の反射が強くなるためにミラー状な外観になり,反射光による眩しさが避けられないという欠点もあった。
【0005】また,従来の赤外線吸収性の光線透過性材料を用いて加工されたフィルムは,有機系のものは耐久性が劣り環境条件の変化や時間の経過とともに初期の熱線遮断効果が劣化していくという欠点があった。一方錯体系のものは耐久性はあるが近赤外領域のみならず可視部にも吸収が大きく,そのものが強く着色しているので用途が限られてしまうという欠点があった。
・・・(中略)・・・
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は,赤外部の広い範囲にわたって大きな吸収がみられ,可視光透過率が高く且つ耐久性に優れた熱線遮断材料について鋭意検討を重ねた結果,金属を蒸着したフィルムの上に,一次粒子径0.5μm以下,好ましくは0.1μm以下の熱線吸収能を持つ金属微粒子を紫外線硬化型樹脂バインダー中に分散させて作られた熱線遮断性塗料をコーティングしたフィルムが上記目的を達成することを見いだし,本発明の完成に至った。
【0009】本発明によれば熱線反射能を有する蒸着金属と熱線吸収能を持つ金属微粒子による熱線遮断性能を組み合わせることによって,高い可視光線透過率を有しながら従来に類を見ない高い熱線遮断効果を持たせることが可能になったばかりか,全て無機の熱線吸収剤を用いているので極めて耐久性が高く,またこれらの熱線吸収剤を固定する樹脂として(メタ)アクリロイル基を持つ紫外線硬化型樹脂を用いることによって,耐擦傷性と耐久性に優れた皮膜を効率的に形成させることができる。また前述の如く,蒸着金属は一般に熱線反射効果は優れるものの,可視光線透過率を低下させる影響が大きいが,一方本発明に併用する上記熱線遮断性塗料は可視光線透過率は極めて優れているため,蒸着金属だけを用いる方法に比して可視光線透過率の低下を大きく緩和させる効果がある。また本発明に使用する金属微粒子を含有した熱線遮断性塗料は熱線を吸収する効果は大きいが,可視光線を反射する性能は小さいので,蒸着金属だけを用いた場合よりミラー反射は少なく視認性が向上するという効果がある。」

(ウ) 「【0010】本発明で用いる金属蒸着フィルムは,可視光線透過率が20%以上90%以下,好ましくは40%以上80%以下のものが熱線遮断性能と可視光線透過率のバランスからいって望ましい。フィルムの基材はポリエステル,ポリエチレン,ポリプロピレンポリスチレン,ポリカーボネート,ポリ塩化ビニル,ポリ(メタ)アクリル,ポリアミド,ポリウレタンを基材としとしたもので,特にポリエステルは加工性,強度の面から最適である。これらのフィルム基材は透明度の高いものが好ましいが,所望に応じて着色した透明フィルム基材を用いることもできる。この金属蒸着フィルムに用いられる金属としては,例えばアルミニウム,銅,金,クロムなどがあるが,熱線を遮断する性能を有するものであればこれに限定されない。金属蒸着フィルムの製造は公知の方法で例えば,真空蒸着法や,スパッタリング法等の方法で得られる。フィルムの上に蒸着された金属を保護するために更に樹脂層をコーティングすることも可能である。
【0011】本発明で用いる熱線遮断性塗料中に含まれる熱線吸収能を有する金属としては,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化インジウム,酸化錫,酸化アンチモン,硫化亜鉛,ガラスセラミックス等があるが,特に酸化錫,ATO(アンチモンドープ酸化錫),ITO(インジウムドープ酸化錫),無水アンチモン酸亜鉛のゲル,五酸化アンチモン,酸化バナジウム等の金属酸化物が熱線吸収能力に優れ,好適である。こうした金属を可視光領域において吸収がなく,かつ透明な金属含有の皮膜として形成させるためには,その一次粒子径は0.5μm以下好ましくは0.1μm以下の超微粒子の粉末にする必要がある。またバインダー樹脂中でこの微粒子が凝集することなく安定に保たれねばならない。本特許に使用される熱線遮断性塗料中の固形分に対する無機金属の微粒子の含有量は要求される熱線遮断能に応じて任意に選ぶことができるが,好ましくは20重量%?70重量%が好適である。・・・(中略)・・・
【0012】本発明に用いられる紫外線硬化型樹脂としては,分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な(メタ)アクリレートから任意に選択でき,単独もしくは混合して使用することができる。この(メタ)アクリレートの具体例としては,・・・(中略)・・・などがあげられるが,これらに限定されるものではない。これらのものは単独もしくは任意に混合使用することができるが,好ましくは分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上含有する多官能(メタ)アクリレートモノマーもしくはオリゴマーが重合後の皮膜が硬く,耐擦傷性が良好で好適である。これら紫外線硬化型(メタ)アクリレートの塗料中の樹脂成分に対する割合は,10重量%以上98重量%以下が良く,より好ましくは30重量%以上80重量%以下が望ましい。
【0013】又,バインダー成分として(メタ)アクリロイル基を持つ紫外線硬化型樹脂の他にフィルムとの密着性,あるいは無機金属の微粒子と紫外線硬化型樹脂との相容性をよくする目的で,アクリ樹脂,ポリエステル樹脂,ブチラ-ル樹脂等のポリマ-を添加することができる。例えばポリエステル樹脂としては,バイロン(東洋紡績(株)製のポリエステル樹脂),ブチラ-ル樹脂としては,積水化学製のエスレックを擧げることが出来る。とくにポリエステル樹脂,ポリブチラール樹脂などのヒドロキシル基を有するポリマ-は,金属酸化物の分散性が良好であると同時に,インキの密着性を向上させたり,皮膜の収縮を緩和したりするはたらきがあり好適である。このポリマ-の熱線遮断性塗料中の樹脂成分に対する割合は,2重量%以上50重量%以下,更に好ましくは20重量%以下が好ましい。このポリマ-は含有量が多すぎると得られる塗膜の耐擦傷性が低下し,とくに塗膜面を外側にする使用方法には適さない。」

(エ) 「【発明の実施の形態】
【0017】本発明のフィルムは金属を蒸着した透明フィルムの上に,赤外線吸収能を有する一次粒子径0.5μm以下の無機金属の微粒子と(メタ)アクリロイル基を持つ紫外線硬化型(メタ)アクリレートからなる熱線遮断性塗料をコーティングすることによって得られる。熱線遮断性塗料のコーティング面は金属を蒸着した反対面,もしくは金属を蒸着した上層に重ねてもよい。逆に透明フィルムの上に本発明で使用する熱線遮断性塗料を塗工し,その上面もしくは反対面に金属を蒸着させることも可能である。いずれにしても実際の使用面がハードコート層になることが望ましいので,本発明に使用するの熱線遮断性塗料をコーティングする面が使用面になるよう設計することが望ましい。金属蒸着面が使用面になるよう設計した場合は,蒸着金属を保護する意味で更にハードコート樹脂層を設ける必要がある。本発明における紫外線硬化型熱線遮断性塗料の製造方法及び,これをフィルムにコーティングする方法としては,例えば次の方法があげられる。予め有機溶媒中に0.5μm以下に微分散された金属の分散液に好ましくは分散剤とポリマー樹脂を少量添加して微粒子の分散を安定化させる。しかる後に活性エネルギー線を照射することによって重合可能な未硬化の(メタ)アクリレートモノマーもしくはオリゴマーを単独もしくは2種類以上添加し,更に重合開始剤を溶解させて目的の熱線遮断性塗料を得る。この時必要に応じて適量の溶媒や各種添加剤を添加する事ができる。これらの各成分の混合方法はこの順序に限らず,金属微粒子の安定がはかられる方法ならとくに限定されない。この熱線遮断性塗料を金属蒸着フィルムにコーティングする方法としては例えば浸漬法,グラビアコート法,オフセットコート法,ロールコート法,バーコート法,噴霧法等の常法によって行われ,コートした後に熱風で溶媒を揮散させ続いて紫外線を照射することによってフィルム表面上にコーテイングされた熱線遮断性組成物を瞬時に重合硬化させる。コーティングする乾燥塗膜の厚みは1?10μm,好ましくは2?5μmの厚みがカール防止の観点から適当である。こうして得られた熱線遮断性フィルムは,必要に応じて更に糊付けして貼付することが可能になる。
【0018】
【実施例】次に,実施例をあげて本発明による熱線遮断性フィルムについて詳細を述べるが,例文中の添加割合はすべて重量%で示す。
【実施例1】撹はん器を備えた容器に,0.1μm以下に微分散されたATOを50%含むトルエン溶液50部を入れ,よく撹拌しながら分散剤フローレンAF-405(共栄社油脂(株)製ポリカルボン酸系分散剤)を3%含むトルエン溶液6部を加えた。続いてさらに撹拌しながらポリエステル樹脂バイロン24SSの7部を少量づつ添加し溶解させた。引き続いてトルエン12.5部と紫外線硬化型モノマーのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート22.5部を添加して溶解させ,さらに光重合開始剤イルガキュアー184を2部溶解させて紫外線硬化型の熱線遮断性塗料を得た。厚さ50μの透明ポリエステルフィルムの上にアルミニウムを蒸着させた可視光線透過率56%の蒸着フィルムの反対面に,上記熱線遮断性塗料をワイヤーバーを用いて固形分の塗布量が6.7g/m^(2)になるようコーティングした。溶剤を80℃の熱風で乾燥した後,80Wの高厚水銀ランプをコンベアースピード20m/分のスピードで照射して塗膜を重合硬化させて目的の熱線遮断性コーティングフィルムを得た。
【0019】
【実施例2】実施例1においてATOの代わりに無水アンチモン酸亜鉛のゲルを同量用いて同様の方法で熱線遮断性塗料を得た。厚さ25μの透明ポリエステルフィルムの上にアルミニウムを蒸着させた可視光線透過率56%の蒸着フィルムの上層面に,上記熱線遮断性塗料をワイヤーバーを用いて固形分の塗布量が6.7g/m^(2)になるようコーティングした。溶剤を80℃の熱風で乾燥した後,80Wの高圧水銀ランプをコンベアースピード20m/分のスピードで照射して塗膜を重合硬化させて目的の熱線遮断性コーティングフィルムを得た。
【0020】
【比較例1】実施例1で得られた熱線遮断性塗料を,厚さ50μのアルミニウムを蒸着していない透明ポリエステルフィルムの上にワイヤーバーを用いて固形分の塗布量が6.7g/m^(2)になるようコーティングした。溶剤を80℃の熱風で乾燥した後,80Wの高圧水銀ランプをコンベアースピード20m/分のスピードで照射して塗膜を重合硬化させて熱線遮断性コーティングフィルムを得た。
【0021】更に参考対象とするために実施例1で用いた蒸着フィルムそのものと,市販されている車載用の黒色着色フィルムを試験に供した。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0022】
【表1】
表1
───────┬─────────────────
│ 透明PETフィルムに
│コーティングした時の特性値
├─────┬─────┬─────
│可視光線 │日射吸収率│耐擦傷性
│透過率% │ │
───────┼─────┼─────┼─────
実施例 1 │50.11│0.39 │ ○
実施例 2 │49.87│0.40 │ ○
比較例 1 │81.23│0.23 │ ○
蒸着フィルム│56.08│0.29 │ ×
着色フィルム│21.02│0.35 │ ×
───────┴─────┴─────┴─────

可視光線透過率はJIS A 5759に準拠して測定。
日射吸収率はJIS R 3106に準拠して測定。
(日射吸収率は数値の大きいほど,熱線遮断性能に優れる)耐擦傷性はスチールウール0000番で200g荷重,20回往復で測定。
○:全く傷つかず
×:傷がつく」

(オ) 「【0023】
【発明の効果】本発明で得られた熱線遮断性フィルムは耐擦傷性が優れ,可視光領域の透過性が高く透明で,且つ格段に優れた熱線遮断性能を示す。又本発明に使用する熱線遮断性塗料は紫外線を照射することによって硬い皮膜を容易に形成するので作業性に優れ,建物や車両の窓,光学機器等への応用に最適である。」

イ 引用例1に記載された発明
引用例1の【0023】に記載された「建物や車両の窓」への「応用」が,【0002】ないし【0004】等(前記ア(イ)を参照。)に記載された,建物の窓ガラスや車両の窓ガラスに張り付けることによって,窓を通して流入する太陽エネルギ-を遮蔽する熱線遮断フィルムとして用いることであることが,当業者に自明であり,かつ,引用例1の【0010】に記載された「40%以上80%以下」という金属蒸着フィルムの「可視光線透過率」が,【0022】に記載された実施例1,2等の「可視光線透過率」と同じく,JIS A 5759に準拠して測定したものであることが明らかであるから,前記ア(ア)ないし(オ)に摘記した引用例1の記載から,引用例1には次の発明が記載されていると認められる。

「建物の窓ガラスや車両の窓ガラスに張り付けることによって,窓を通して流入する太陽エネルギ-を遮蔽する熱線遮断フィルムであって,
ポリエステルからなるフィルム基材に,アルミニウム,銅,金またはクロムを蒸着して,JIS A 5759に準拠して測定した可視光線透過率が40%以上80%以下となる金属蒸着フィルムとし,
一次粒子径0.5μm以下の熱線吸収能を有する無機金属の微粒子であって,材質としては酸化錫,ATO(アンチモンドープ酸化錫),ITO(インジウムドープ酸化錫),無水アンチモン酸亜鉛のゲル,五酸化アンチモン,酸化バナジウム等の金属酸化物が好適な無機金属の微粒子を熱線遮断性塗料の固形分に対して20重量%?70重量%含有するとともに,バインダー成分として,(メタ)アクリロイル基を持つ紫外線硬化型(メタ)アクリレートを30重量%以上80重量%以下含有する樹脂を用いた熱線遮断性塗料を,前記金属蒸着フィルムの金属を蒸着した反対面,もしくは金属を蒸着した上層に重ねてコーティングし,
その後,熱風で溶媒を揮散させ続いて紫外線を照射することによってフィルム表面上にコーテイングされた熱線遮断性組成物を重合硬化させて,2?5μmの厚みの塗膜を形成した,
耐擦傷性が優れ,可視光領域の透過性が高く透明で,優れた熱線遮断性能を示す熱線遮断フィルム。」(以下,「引用発明」という。)

(2)特開2004-26547号公報
ア 特開2004-26547号公報の記載
当審拒絶理由で引用された特開2004-26547号公報(以下,「引用例2」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であって,当該引用例2には次の記載がある。(下線は,後述する引用例2記載の技術1及び2の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,建物や車両の窓ガラスとして用いられる断熱合わせガラスに関する。特に,熱線反射フィルムを用いた断熱合わせガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
(社)自動車技術会 学術講演会前刷集 No.96-00,p17-p21(以下,文献1という)には,「金属を含まない熱線反射フィルム」に関する発表の要旨が記載されている。そのなかに,金属を含まないポリマーで構成される熱線反射フィルム(Solar Refecting Film)を用いた合わせガラスが示されている。その構成は,ガラス板/PVB1/SRF/PVB2/ガラス板である(PVB:ポリビニルブチラール)。・・・(中略)・・・
【0004】
また,特開2001-151539では,「複数枚のガラス板と,粒径が0.2μm以下の赤外線遮蔽性微粒子が分散配合された中間膜とを有し,前記複数枚のガラス板間に前記中間膜が介在された合わせガラスにおいて,前記複数枚のガラス板のうちの少なくとも1枚のガラス板が,質量百分率表示でFe2O3換算した全鉄0.3?1%を含有する,ソーダライムシリカガラスからなることを特徴とする合わせガラス」が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述の熱線反射フィルムを用いた合わせガラスでは,熱線反射フィルムとガラス板の日射遮蔽性能がよくないので,表1に示したように合わせガラス全体としても日射透過率(Te)は40%を超えており,日射遮蔽性能が十分でないという問題点があった。
【0006】
また,特開2001-151539に示された合わせガラスでは,微粒子が分散配合された中間膜を用いているので,良好な可視光線透過率を得ることが難しいという問題点があった。また,ガラス板と中間膜が熱線を多く吸収するため,吸収された熱エネルギーの車内側への放射が大きくなるという問題点があった。
【0007】
この問題点について,特開2001-151539に示された実施例1を例にして説明する。
ここで開示されている中間膜を用いると,合わせガラスの日射透過率は46.5%という数値を示している。ただし,この日射透過率の低減の効果は,中間膜の熱線吸収機能によるものであり,中間膜に吸収された熱エネルギーの何割かは,再度車内側に放射されることになる。
【0008】
通常の中間膜を用いた合わせガラスでは,再放射による車内側への放射の割合は14%程度であるのに対し,前記実施例1では17%と,車内への放射の割合が大きなものになってしまう。
【0009】
そこで本発明は,上述のような状況を鑑みなされたものであって,熱線反射フィルムを用い,熱線遮蔽機能と70%以上の可視光線透過率を両立しうる断熱合わせガラスの提供を目的とする。
【0010】
さらに,このような断熱合わせガラスにおいて,熱線遮蔽性微粒子と中間膜を構成する樹脂の好適な混合割合を提供する。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は,請求項1に記載の発明として,
第1ガラス板/中間膜部/第2ガラス板が積層されてなる合わせガラスであって,
前記中間膜部は,熱可塑性樹脂中間膜および熱線反射フィルムを含んでなり,前記熱線反射フィルムと前記第2ガラス板の間には,熱線遮蔽機能を有する膜が設けており,
前記熱線反射フィルムは,屈折率が異なる2種類のポリマー薄膜を多数積層した光学干渉多層膜であり,
合わせガラスとして少なくとも70%の可視光線透過率を有することを特徴とする断熱合わせガラスである。
・・・(中略)・・・
【0015】
請求項5に記載の発明として,
請求項1に記載の断熱合わせガラスにおいて,
前記中間膜部は,第1熱可塑性樹脂中間膜/熱線反射フィルム/第2熱可塑性樹脂中間膜が積層されており,
前記熱線遮蔽機能を有する膜は,前記第2中間膜と前記第2ガラス板の間に形成されている断熱合わせガラスである。
【0016】
請求項6に記載の発明として,
請求項5に記載の断熱合わせガラスにおいて,
前記熱線遮蔽機能を有する膜は,粒径が0.2μm以下の6ホウ化物および/またはITO微粒子を含有させた塗布膜である断熱合わせガラスである。・・・(中略)・・・
【0020】
請求項10に記載の発明として,
請求項1?9いずれか1項に記載の断熱合わせガラスを車体の窓開口に装着した車両用断熱合わせガラスであって,
前記合わせガラスの第1ガラス板が車両の外側に,第2ガラス板が車両の内側になるように配置した車両用断熱合わせガラスである。」

(イ) 「【0021】
本発明による断熱合わせガラスは,上述した文献1に示された構成の合わせガラスと同様に,その中間膜部は2枚の中間膜にて熱線反射フィルムを挟み込んだ構造を有している。
【0022】
この断熱合わせガラスでは,まず熱線反射フィルムを用いて照射された日射エネルギーをできるだけ車外側へ反射させることによって,車内への日射エネルギーの進入を防いでいる。
【0023】
ここで,車両の窓ガラスに,照射された日射エネルギーの収支を見てみるとことにする。通常の単板フロートガラス(5mm)を例にして説明する。照射された日射エネルギーを100としたとき,そのうち82.3が透過され,7.4が反射され,残り10.3がガラス板に吸収される。吸収された10.3のエネルギーのうち,3.7が車内側に放射される。
【0024】
そこで,熱線反射フィルムだけでは断熱性能が不足するので,さらに別の手段で熱線遮蔽機能を付与することを考える。
【0025】
例えば中間膜に熱線遮蔽機能を付与すると,合わせガラスとして吸収する日射エネルギーは大きくなり,それにしたがって車内側に放射されるエネルギーも増える。
【0026】
合わせガラス全体として,日射エネルギーの車内への進入を防ぐためには,透過するエネルギーを抑えながら,一旦ガラスに吸収されて車内側に再放射されるエネルギーも減じる必要がある。
【0027】
そこで本発明は,日射光のエネルギーを熱線反射フィルムにて反射させ,さらに熱線遮蔽機能を有する中間膜あるいは塗布膜にて,熱線を遮蔽することを特徴としている。」

(ウ) 「【0035】
(LaB_(6)の効果)
本発明に使用する熱線遮蔽中間膜は,6ホウ化物および/またはITO微粒子からなる熱線遮蔽性微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用される6ホウ化物微粒子としては6ホウ化ランタン(LaB_(6)),6ホウ化セリウム(CeB_(6)),6ホウ化プラセオジム(PrB_(6)),6ホウ化ネオジム(NdB_(6)),6ホウ化ガドリニウム(GdB_(6))の微粒子あるいはこれらの混合物の微粒子などが,その代表的なものとして挙げられる。
【0036】
6ホウ化物の単位質量当たりの日射遮蔽能力は非常に高く,ITOと比較して10分の1以下の使用量で,同等の効果を発揮する。このため,中間膜に対する微粒子の混合量を少なくすることができる。したがって,合わせガラスとして一定の可視光線透過率を保ちながら,日射遮蔽性能を向上させることができる。またコストダウンにもなる。」

(エ) 「【0037】
なお,本発明による断熱合わせガラスは,車両用に限らず建物用としても適用可能である。この場合は,合わせガラスの第1ガラス板が建物の外側となるように,第2ガラス板が建物の内側となるように配置するとよい。」

(オ) 「【0067】
【表7】
??????????????????????????????????
T_(V)(%) T_(e)(%) η(%) R_(e)(%) R_(V)(%)
??????????????????????????????????
実施例3 70.1 33.7 53.2 11.0 7.7
比較例3 71.5 36.8 57.2 5.4 6.9
参考例3 76.0 46.7 63.5 5.7 7.2
----------------------------------
実施例4 73.5 39.2 53.8 18.2 7.8
実施例5 71.5 38.2 53.2 18.0 7.8
??????????????????????????????????
【0068】
(実施例4:ITO微粒子とLaB_(6)微粒子を分散させた第2中間膜)
熱線遮蔽微粒子としてITO微粒子とLaB6微粒子の混合物を用いて,実施例1と同様に0.76mm厚のシート状の中間膜を作製した。ITOとLaB_(6)微粒子の質量比は98:2とし,中間膜全量に占める熱線遮蔽微粒子(ITOとLaB_(6)微粒子の総量)の含有量は0.14質量%であった。この中間膜を第2中間膜として用い,車外側にクリアガラス板(2.1mm),車内側に紫外線吸収グリーンガラス板(2.1mm)を配置して,実施例1と同様に断熱合わせガラスとした。
【0069】
実施例4の断熱合わせガラスの特性を測定したところ,十分な熱線遮蔽性能が得られていることがわかった(表7参照)。
【0070】
(実施例5:熱線吸収塗布膜を形成)
平均粒径67nmのLaB6微粒子 20g,ジアセトンアルコール(DAA)50g,トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート 20g,水および分散剤を適量混合し,直径4mmのジルコニアボールを用いて100時間ボールミルにて混合して,LaB_(6)微粒子が分散した液100gを調整した(A液)。
【0071】
平均粒径80nmのITO微粒子 20g,トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート 70g,水および分散剤を適量混合し,直径4mmのジルコニアボールを用いて100時間ボールミルにて混合して,ITO微粒子が分散した液100gを調整した(B液)。
【0072】
平均重合度で4?5量体であるエチルシリケート40(コルコート社製)を10g,エタノール 27g,5%塩酸水溶液 8g,水 5gで調整したエチルシリケート溶液をよく混合・撹拌してエチルシリケート混合液50gを調整した(C液)。
【0073】
これらA液,B液,C液を混合し,さらにジアセトンアルコールで希釈して,ITO濃度が7.25質量%,LaB_(6)濃度が0.045%,SiO_(2)濃度が2.5質量%となるように熱線遮蔽膜形成用塗布液を調整した。この塗布液を車内側ガラス板の内面側の面にコーティングして,200℃の電気炉に入れ30分間加熱し,塗布膜を形成した。
【0074】
塗布膜を形成した面が内面側になるようにして,車外側ガラス板(2.1mm),通常の中間膜(0.38mm),熱線反射フィルム,通常の中間膜(0.38mm),車内側ガラス板(2.1mm)を重ね合わせた。これを仮接着した後,140℃,14kg/cm2のオートクレーブにて本接着することにより,断熱合わせガラスを作製した。なお,車外側にクリアガラス板(2.1mm),車内側に紫外線吸収グリーンガラス板(2.1mm)を配置した(表6参照)。
【0075】
その結果を表7に示した。日射透過率は40%より小さい値を示し,十分な日射遮蔽性を示した。また,日射反射率も18.0%と大きな日射反射特性を示し,車内に進入するトータル熱量である日射熱取得率は53.2%と小さく,日射遮蔽性に優れていた。」

イ 引用例2から把握される技術的事項
(ア) 前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載から,引用例2には,建物や車両の窓ガラスとして用いられる断熱合わせガラスにおいて,熱線反射フィルムと,熱線遮蔽性微粒子を含有する熱線遮蔽中間膜とを用いて,熱線遮蔽機能を実現する際に,熱線反射フィルムと熱線遮蔽中間膜の位置として,熱線反射フィルムを建物の外側または車両の外側の位置に,熱線遮蔽中間膜を建物の内側または車両の内側の位置に配置すると,熱線遮蔽中間膜が吸収した日射エネルギーの建物内部側または車内側への再放射エネルギーを減じることができ,断熱合わせガラス全体として,日射エネルギーの建物内部または車内への進入を低減できることが,記載されていると認められる(以下,「熱線反射フィルムを建物の外側または車両の外側の位置に,熱線遮蔽性微粒子を含有する膜を建物の内側または車両の内側の位置に配置すること」を「引用例2記載の技術1」という。)。

(イ) 前記ア(ウ)で摘記した記載から,引用例2には,6ホウ化ランタン(LaB_(6))がITOと比較して10分の1以下の使用量で同等の効果を発揮する日射遮蔽能力の非常に高い物質であることから,熱線遮蔽中間膜に含有させる粒径が0.2μm以下の熱線遮蔽性微粒子として,6ホウ化ランタン(LaB_(6))の微粒子を用いると,一定の可視光線透過率を保ちながら,日射遮蔽性能を向上させることができることが,記載されていると認められる(以下,「熱線遮蔽中間膜に含有させる粒径が0.2μm以下の熱線遮蔽性微粒子として,6ホウ化ランタン(LaB_(6))の微粒子を用いること」を「引用例2記載の技術2」という。)。

5 対比
(1) 引用発明の「熱線遮断フィルム」は,建物の窓ガラスや車両の窓ガラスに張り付けることによって,窓を通して流入する太陽エネルギ-を遮蔽するためのものであるから,太陽光を制御するフィルムであるといえる。
したがって,引用発明の「熱線遮断フィルム」は,本願発明の「太陽光制御フィルム」に相当する。

(2) 引用発明の金属蒸着フィルムは,ポリエステルからなるフィルム基材に,アルミニウム,銅,金またはクロムを蒸着したものであるところ,当該蒸着により形成したアルミニウム,銅,金またはクロムの層(以下,便宜上「蒸着層」という。)が赤外線を反射する機能を有していることは,引用例1の【0004】の「従来の金属を蒸着した熱線反射フィルムは,熱線遮断性能を重視すると熱線のみならず可視光線まで金属蒸着層で反射する」(前記4(1)ア(ア)を参照。)という記載や,【0009】の「本発明によれば熱線反射能を有する蒸着金属」(前記4(1)ア(ア)を参照。)という記載等から明らかである。
さらに,引用発明の「蒸着層」は,アルミニウム,銅,金またはクロムからなるところ,当該材質は,いずれも,「アルミニウム,銀,金,銅,クロム,およびそれらの合金からなる群から選択された少なくとも一種の金属」という本願発明の「赤外線反射層」が含むとされる「金属」の条件を満足する。
したがって,引用発明は,本願発明の「アルミニウム,銀,金,銅,クロム,およびそれらの合金からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含む少なくとも1つの赤外線反射層」を備えるという発明特定事項に相当する構成を具備している。

(3) 特許法184条の6第2項の規定により,同法36条2項の規定により願書に添付して提出した明細書とみなされる外国語特許出願に係る国際出願日における明細書の翻訳文(以下,単に「本願明細書」という。)の【0057】には,「ナノ粒子は,好ましくは,1nmから500nmの範囲内の直径を有している。」と記載されているところ,当該記載からみて,引用発明の「一次粒子径0.5μm以下」の「微粒子」は「ナノ粒子」といえる。
また,引用発明は,熱線吸収能を有する無機金属の微粒子を含有する熱線遮断性塗料を,金属蒸着フィルムの金属を蒸着した反対面,もしくは金属を蒸着した上層に重ねてコーティングし,溶媒を揮散させ,紫外線を照射することによって重合硬化させて,2?5μmの厚みの塗膜を形成したものであるところ,当該形成された塗膜が熱線吸収能を有することは明らかであるから,当該塗膜を「赤外線吸収層」ということができる。
したがって,引用発明は,本願発明と,「少なくとも一種のナノ粒子を含」む「少なくとも1つの赤外線吸収層」を備える点で,一致する。

(4) 前記(1)ないし(3)のとおりであるから,本願発明と引用発明とは,
「アルミニウム,銀,金,銅,クロム,およびそれらの合金からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含む少なくとも1つの赤外線反射層と,
少なくとも一種のナノ粒子を含む少なくとも1つの赤外線吸収層と,を備えた
太陽光制御フィルム。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本願発明は,「赤外線吸収層」が「赤外線反射層」よりも太陽から遠くになるように,太陽に対して配置されるのに対して,
引用発明が,「塗膜」(赤外線吸収層)と「蒸着層」(赤外線反射層)の太陽に対する配置関係が,限定されていない点。

相違点2:
本願発明では,「ナノ粒子」の材質が,6ホウ化ランタン,酸化セシウムタングステンからなる群から選択されるのに対して,
引用発明では,「一次粒子径0.5μm以下」の「微粒子」(ナノ粒子)の材質である「無機金属」は,特定の材料に限定されていない点。

相違点3:
本願発明では,可視光透過率(VLT)の値が64?69であるのに対して,
引用発明では,可視光透過率(VLT)についての限定がなされていない点。

相違点4:
本願発明では,総太陽エネルギー遮断率(TSER)の値が43?53,太陽熱利得係数(SHGC)の値が0.47?0.57であるのに対して,
引用発明では,そのような値が限定されていない点。

6 判断
(1)相違点1について
ア 赤外線吸収層が赤外線反射層よりも太陽から遠くになるように,太陽に対して配置されるという相違点1に係る本願発明の発明特定事項を満足するのか否かは,最終的には,「太陽光制御フィルム」を設置対象物に対してどのような向きで設置するのかという「太陽光制御フィルム」の使用形態によって決まることであって,一方の面に粘着層を有する「太陽光制御フィルム」を,例えば,前記粘着層によって窓ガラスの内側に貼り付けた場合には,赤外線吸収層及び赤外線反射層のうちの一方が太陽から遠くになるよう配置され,同一構成の「太陽光制御フィルム」を前記粘着層によって窓ガラスの外側に貼り付けた場合には,赤外線吸収層及び赤外線反射層のうちの他方が太陽から遠くになるように配置されることとなる。
本願発明は「太陽光制御フィルム」という物の発明であるところ,前述のとおり,同一構成の「太陽光制御フィルム」であっても,その使用形態によって相違点1に係る本願発明の発明特定事項を満足するのか否かが変わることから,当該発明特定事項が,「太陽光制御フィルム」という物自体の形状,構造,組成等を何ら特定するものでないことは明らかである。
そうすると,赤外線吸収層が赤外線反射層よりも太陽から遠くになるように,太陽に対して配置されることが特定された物の発明である本願発明と,塗膜と蒸着層のどちらが太陽から遠くになるのか特定されていない引用発明との間で,形状,構造,組成等の物自体の構成に相違は存在しないといわざるを得ないから,相違点1は実質的な相違点ではないというべきである。

イ なお,仮に,相違点1を実質的な相違点として検討したとしても,次の理由から,引用発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,引用例2記載の技術1に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。
前記5(2)イ(ア)で述べた認定を再掲すると,引用例2には,建物や車両の窓ガラスとして用いられる断熱合わせガラスにおいて,熱線反射フィルムと,熱線遮蔽性微粒子を含有する熱線遮蔽中間膜とを用いて,熱線遮蔽機能を実現する際に,熱線反射フィルムと熱線遮蔽中間膜の位置として,熱線反射フィルムを建物の外側または車両の外側の位置に,熱線遮蔽中間膜を建物の内側または車両の内側の位置に配置すると,熱線遮蔽中間膜が吸収した日射エネルギーの建物内部側または車内側への再放射エネルギーを減じることができ,断熱合わせガラス全体として,日射エネルギーの建物内部または車内への進入を低減できることが,記載されていると認められるところ,引用発明においても,その機能上引用例2記載の熱線反射フィルムに相当する蒸着層を建物の外側または車両の外側の位置に,その機能上引用例2記載の熱線遮蔽中間膜に相当する塗膜を建物の内側または車両の内側の位置に配置すると,塗膜が吸収した日射エネルギーの建物内部側または車内側への再放射エネルギーを減じることができ,日射エネルギーの建物内部または車内への進入を低減できることは,引用例2に接した当業者が容易に理解できることであるから,引用発明において,日射エネルギーの建物内部または車内への進入を低減するために引用例2記載の技術1を適用し,「蒸着層」(赤外線反射層)を建物の外側または車両の外側の位置に,「塗膜」(赤外線吸収層)を建物の内側または車両の内側の位置に配置すること,すなわち,「塗膜」(赤外線吸収層)が「蒸着層」(赤外線反射層)よりも太陽から遠くになるように,太陽に対して配置することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用例1の【0005】の記載(前記5(1)ア(イ)を参照。)から,引用発明の微粒子の材質として無機金属が用いられるのは,有機系のものに比べて耐久性に優れているからと解されるところ,引用例1の【0011】の「酸化錫,ATO(アンチモンドープ酸化錫),ITO(インジウムドープ酸化錫),無水アンチモン酸亜鉛のゲル,五酸化アンチモン,酸化バナジウム等の金属酸化物が熱線吸収能力に優れ,好適である。こうした金属を可視光領域において吸収がなく,かつ透明な金属含有の皮膜として形成させるためには,その一次粒子径は0.5μm以下好ましくは0.1μm以下の超微粒子の粉末にする必要がある。」(前記5(1)ア(ウ)を参照。)との説明から,「微粒子」の材質としては,熱線吸収能力に優れた無機金属であれば,特段の制限なく使用できることを理解できる。
一方,前記5(2)イ(イ)で述べた認定を再掲すると,引用例2には,6ホウ化ランタン(LaB_(6))がITOと比較して10分の1以下の使用量で同等の効果を発揮する日射遮蔽能力の非常に高い物質であることから,熱線遮蔽中間膜に含有させる粒径が0.2μm以下の熱線遮蔽性微粒子として,6ホウ化ランタン(LaB_(6))の微粒子を用いると,一定の可視光線透過率を保ちながら,日射遮蔽性能を向上させることができることが,記載されていると認められるところ,前記熱線遮蔽中間膜が,その機能上引用発明の「塗膜」に相当し,前記熱線遮蔽性微粒子が,その機能上引用発明の「微粒子」に相当するとともに,6ホウ化ランタン(LaB_(6))は無機金属に属する物質である。
そうすると,引用発明において,一定の可視光線透過率を保ちながら,日射遮蔽性能を向上させるために,引用例2記載の技術2を適用し,熱線吸収能を有する微粒子の材質である無機金属として6ホウ化ランタン(LaB_(6))を選択し,その一次粒子径を0.2μm以下とするとともに,当該微粒子の熱線遮断性塗料の固形分に対する含有量を6ホウ化ランタン(LaB_(6))の熱線吸収能に応じて調整することは,当業者が容易に想到し得たことである。
しかるに,引用発明において,熱線吸収能を有する微粒子の材質である無機金属として6ホウ化ランタン(LaB_(6))を選択することは,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることにほかならないから,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,引用例2記載の技術2に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
ア 相違点3に係る本願発明の発明特定事項における「可視光透過率(VLT)」について,如何なる規格に準拠するパラメータであるのかについて本願明細書に明記がないこと,及び「可視光透過率」なる名称からは,JIS A 5759に準拠して測定した「可視光線透過率」を指していると解するのが相当である。
そこで,当該解釈を前提として,前記(2)で述べた構成の変更を行った引用発明における「可視光透過率(VLT)」について検討する。

イ 引用例1の【0004】には,従来の金属を蒸着した熱線反射フィルムは,熱線ばかりでなく可視光線まで反射してしまうことから,十分な熱線遮断性を得るためには,可視光線透過率を低くする(20?50%)必要があり,その結果として暗くなる等の問題があったことが記載されているところ(前記5(1)ア(イ)を参照。),【0008】や【0009】(前記5(1)ア(イ)を参照。)等の記載から,引用発明は,当該欠点を解消するために,金属蒸着フィルムの可視光線透過率を従来のもの(20%から50%)よりも比較的高い40%以上80%以下という値に設定し,当該設定に伴って不足する熱線遮断性を補うために,一次粒子径0.5μm以下の熱線吸収能を有する無機金属の微粒子を含有する塗膜を金属蒸着フィルムに付加したものであると理解される。
そうすると,引用発明は,金属蒸着フィルムの可視光線透過率を40%以上80%以下という範囲の中で適宜変更することによって,フィルム全体の可視光線透過率をある範囲の中で所望の値に調整することができるものであって,当該可視光線透過率を前記範囲の中のどのような値に設定するのかは,必要とされる明るさに応じて決定すべき設計上の事項であることが明らかである。

ウ そこで,引用発明のフィルム全体の可視光線透過率の調整可能範囲について検討すると,引用例1の【0018】及び【0019】に記載された実施例1及び2で用いている蒸着フィルムの可視光線透過率がいずれも56%であり,フィルム全体の可視光線透過率がいずれも50%程度であることから,当該実施例1及び2における,熱線吸収能を有する無機金属の微粒子を含有する塗膜の可視光線透過率がいずれもおよそ90%(=50/56×100)程度であると算出でき,引用発明の塗膜として,可視光線透過率が少なくとも90%程度のものを製造可能であることを把握できるから,引用発明の可視光線透過率の調整可能範囲の下限が36(=0.4×0.9×100)%以下の値であり,上限が72(=0.8×0.9×100)%以上の値であることは明らかである。
しかるに,前記5(2)イで述べたように,6ホウ化ランタン(LaB_(6))は,一定の可視光線透過率を保ちながら,日射遮蔽性能を向上させることができるものであるから,前記(2)で述べた構成の変更(熱線吸収能を有する微粒子の材質である無機金属として6ホウ化ランタン(LaB_(6))を用い,その一次粒子径を0.2μm以下とするとともに,当該微粒子の熱線遮断性塗料の固形分に対する含有量を6ホウ化ランタン(LaB_(6))の熱線吸収能に応じて調整するという変更)を行った引用発明において,塗膜の可視光線透過率について,変更前の可視光線透過率である90%程度の値を実現できることは明らかである。
そうすると,構成の変更後の引用発明の可視光線透過率についても,変更前の引用発明と同様に,金属蒸着フィルムの可視光線透過率を40%以上80%以下という範囲の中で適宜変更する等によって,少なくとも,下限が36%程度,上限が72%程度となる範囲内の如何なる値にも調整可能であることが明らかである。
そして,当該調整可能範囲内の如何なる値に調整するのかは,前記イで述べたとおり,当業者にとって,必要とされる明るさに応じて決定すべき設計上の事項でしかない。

エ 相違点3に係る本願発明の発明特定事項における「可視光透過率(VLT)」についての「64?69」という数値範囲は,構成の変更後の引用発明の可視光線透過率の調整可能範囲(下限が36%程度,上限が72%程度となる範囲)内の数値範囲であるのだから,前記ウで述べた検討結果を踏まえれば,引用発明の「可視光透過率(VLT)」を64?69という範囲内の値に設定すること,すなわち,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,単なる設計事項にすぎない。

(4)相違点4について
ア 相違点4に係る本願発明の発明特定事項における「太陽熱利得係数(SHGC)」について,如何なる規格に準拠するパラメータであるのかについて本願明細書に明記はないものの,【0097】に「太陽熱利得係数(SHGC)は,窓を通過することが許容され,直接伝達かつ吸収され,次いで,対流および輻射によって内方に放出された入射太陽エネルギー(350?2500nm)の比率である。SHGCは,0から1の間の数で表わされる。窓の太陽熱利得係数が小さいほど,窓を透過する太陽熱が小さいことになる。」と説明され,当該説明内容が,入射太陽エネルギーの波長範囲の下限が350nmであることを除けば,JIS R 3106に定義された「日射熱取得率」(波長範囲の下限は300nmである。なお,対応するISO 9050における名称は「Solar Heat Gain Coefficient」。)の技術的内容と合致しており,当該「日射熱取得率」で測定対象となり「太陽熱利得係数(SHGC)」で測定対象としていない300nmないし350nmの波長範囲が紫外線領域の波長であって,当該波長の太陽光が窓を通過することによる日射熱(太陽熱)の透過量はきわめて小さく,無視して差し支えないと考えられることから,「太陽熱利得係数(SHGC)」の値は,JIS R 3106に準拠して測定した「日射熱取得率」の値と概ね一致するものと推察される。
また,相違点4に係る本願発明の発明特定事項における「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」については,本願明細書の【0099】に「TSER=(1-SHGC)*100 %」と説明されているところ,当該説明によれば,相違点4に係る本願発明の発明特定事項における「総太陽エネルギー遮断率(TSER)が43?53」なる規定と,「太陽熱利得係数(SHGC)が0.47?0.57」なる規定が,一方の規定を満たせば必ず他方の規定を満たすという関係にある(すなわち,両者が同一のことを規定している)ことが明らかである。
以上を前提として,前記(2)で述べた構成の変更及び前記(3)で述べた設計変更を行った引用発明における「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」及び「太陽熱利得係数(SHGC)」について検討する。

イ 前記(3)アで述べたように,引用発明は,金属蒸着フィルムの可視光線透過率を従来のもの(20%から50%)よりも比較的高い40%以上80%以下という値に設定し,当該設定に伴って不足する熱線遮断性を補うために,一次粒子径0.5μm以下の熱線吸収能を有する無機金属の微粒子を含有する塗膜を金属蒸着フィルムに付加したものであると理解されるところ,前記(2)で述べた構成の変更及び前記(3)で述べた設計変更を行った引用発明においては,「塗膜」における6ホウ化ランタン(LaB_(6))の微粒子の含有量を調整することによって,「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」の値を調整できることが当業者に自明である。
また,所望の可視光線透過率を確保できる限りは,当該「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」をどのような値にするのかは,熱線遮断フィルムとしてどの程度の熱線遮断性を必要とするのかや,コスト等を総合的に考慮して適宜決定すれば足りる設計上の事項である。

ウ しかるに,引用例2の【0067】の表7に示された実施例4及び5の「日射熱取得率η(%)」が53.8%及び53.2%であって,相違点4に係る本願発明の発明特定事項における「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」の「0.47?0.57」なる範囲内の値であること,また,6ホウ化ランタン(LaB_(6))の熱線吸収能を考慮して6ホウ化ランタン(LaB_(6))微粒子の含有量を1/10(2?7重量%)とした引用発明における6ホウ化ランタン(LaB_(6))の塗布量が,概ね0.049(=2÷(0.02/4.4+0.98/1.2)×0.02)?0.44(=5÷(0.07/4.4+0.93/1.2)×0.07)g/m^(2)と概算(6ホウ化ランタンの比重を4.4,バインダーの比重を約1.2として計算)され,本願明細書の【0103】に記載された実施例「フィルム2」のLaB_(6)ナノ粒子の塗布量の値(0.02g/m^(2))より大きくて,引用発明の塗膜の熱線遮断性が本願明細書に記載された実施例の赤外線吸収層の熱線遮断性より高いと推察されること等に鑑みると,前記(2)で述べた構成の変更及び前記(3)で述べた設計変更を行った引用発明において,「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」の値として,「0.47?0.57」なる範囲内の値を実現することが,当業者にとって格別困難であったとすることもできない。

エ 前記イ及びウを踏まえれば,前記(2)で述べた構成の変更及び前記(3)で述べた設計変更を行った引用発明において,6ホウ化ランタン(LaB_(6))微粒子の含有量を調整して,「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」を「0.47?0.57」なる範囲内の値に設定すること(当該設定により,「総太陽エネルギー遮断率(TSER)」の値は必然的に「43?53」なる範囲内の値となる。),すなわち,引用発明を,相違点4に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,単なる設計事項にすぎない。

(5)効果について
本願発明の奏する効果は,引用例1及び引用例2の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(6)まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び引用例2記載の技術2に基づいて(少なくとも,引用発明,引用例2記載の技術1及び引用例2記載の技術2に基づいて),当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
本願発明は,引用発明及び引用例2記載の技術2に基づいて(少なくとも,引用発明,引用例2記載の技術1及び引用例2記載の技術2に基づいて),当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-21 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-11 
出願番号 特願2009-540776(P2009-540776)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西岡 貴央後藤 慎平  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 大瀧 真理
清水 康司
発明の名称 太陽光制御フィルム  
代理人 木川 幸治  
代理人 佐藤 博幸  
代理人 小池 成  
代理人 渡邉 一平  

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