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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1309073
審判番号 不服2014-18563  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-17 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2010- 54173「画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月 4日出願公開、特開2010-247528〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本件出願は,平成22年3月11日の特許出願(優先権主張 平成21年3月25日)であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年 2月25日:拒絶理由通知(同年3月4日発送)
平成26年 5月 7日:意見書
平成26年 5月 7日:手続補正書
平成26年 6月10日:拒絶査定(同年同月17日送達)
平成26年 9月17日:審判請求

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの,以下のものである(以下「本願発明」という。)。
「 少なくとも20質量%以上、90質量%以下の水、樹脂及び顔料を含有し、中空糸膜による脱気を行ったインクジェットインクを印刷用塗工紙上に吐出して画像を形成する画像形成方法において、該インクジェットインクを凝集又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液を該印刷用塗工紙上に塗布し、該インクジェットインクを凝集又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液を乾燥させる乾燥工程を経た後、該印刷用塗工紙の表面温度を40℃以上、60℃以下の状態にして該インクジェットインクを吐出して画像を形成し、
該乾燥工程における乾燥によって、該印刷用塗工紙に該インクジェットインクを吐出して該インクジェットインクのインク液滴を着弾させた際に該着弾したインク液滴が目視で確認して滲まないことを特徴とする、画像形成方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,本件出願の優先権主張の日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願2009-29708号(特開2010-184413号公報参照)の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない,というものである。

第2 当審判体の判断
1 先願明細書の記載及び先願発明
(1) 先願明細書の記載
先願明細書には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審判体が付したものである。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
カラー画像を記録する画像記録方法としては、近年、様々な方法が提案されているが、いずれにおいても画像の品質、風合い、記録後のカールなど、記録物の品位に対する要求は高い。
【0003】
例えば、インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野に適用されてきたが、近年では商業印刷分野での応用がなされつつある。商業印刷分野では、写真のような表面を有するものではなく、汎用の印刷紙に印刷された印刷物のような印刷の風合いを有する記録物が要求されている。一般にインクジェット記録専用の記録媒体は、溶媒吸収層が20?30μmと厚いため、記録媒体の表面光沢、質感、こわさ(コシ)等が制限されてしまい、印刷物の風合いを有する記録物を得ることは難しく、さらに溶媒吸収層、耐水層を有することによりコスト高となってしまう。そのため、商業印刷分野でのインクジェット技術の適用は、記録媒体に対する表面光沢、質感、こわさ(コシ)等の制限が許容されるポスター、帳票印刷等に留まっている。
【0004】
一方、高画質な画像を形成するインクジェット記録方法として、通常のインクジェット用インクとは別に、画像を良好にするための液体組成物を用意し、この液体組成物をインクジェット用インクの吐出に先立って記録媒体上に付着して画像を記録する方法が、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。これらの方法では、インクジェット用インクの定着成分によりインク中の成分を紙の表面で凝集させて、クスミや滲みが発生する前に定着する。
【0005】
また、インク溶媒の記録媒体への浸透を早める観点から、インク溶媒の記録媒体への浸透を早めるための浸透液に界面活性剤を含有させる技術や、画像部の耐擦性などの性能を向上するために、画像部にオーバーコート液を塗布する技術も知られている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-59933号公報
【特許文献2】特開2004-174834号公報
【特許文献3】特開2005-271590号公報
【特許文献4】特表2003-514999号公報

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1?4に記載の技術においては、良好な画像品質が得られない場合があり、さらに画像部の耐擦性向上等のために定着ローラー等を用いた定着処理を行なう場合に、記録媒体上の画像部が定着ローラーに転写してしまうオフセットが発生する場合があった。
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、記録による画像品質が良好で、優れた耐オフセット性を有するインクジェット記録方法を提供することを課題とする。」

エ 「【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 記録媒体上に、インク組成物を付与して画像を記録するインク付与工程と、前記インク組成物が付与された記録媒体上に、前記インク組成物中の成分を凝集させる第1の凝集剤を含む処理液を付与する処理液付与工程と、を備えるインクジェット記録方法。
<2> 前記記録媒体は、前記インク組成物中の成分を凝集させる第2の凝集剤を含む前記<1>に記載のインクジェット記録方法。
<3> 前記記録媒体は、紙基材上にコート層を有する前記<1>または<2>に記載のインクジェット記録方法。
【0009】
<4> 前記インク組成物は、顔料を含む前記<1>?<3>のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
<5> 前記インク組成物は、樹脂粒子をさらに含む前記<1>?<4>のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。」

オ 「【発明を実施するための形態】
【0011】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体上に、インク組成物を付与して画像を記録するインク付与工程と、前記インク組成物が付与された記録媒体上に、前記インク組成物中の成分を凝集させる第1の凝集剤を含む処理液を付与する処理液付与工程(以下、「第1の処理液付与工程」ということがある)と、を備え、必要に応じて、その他の工程を備えて構成することができる。
【0012】
記録媒体上にインク組成物を付与した後に、前記インク組成物と接触して凝集物を生成させる凝集剤の少なくとも1種を含む処理液を、インク組成物が付与された記録媒体上に付与することで、付与されたインク組成物で形成された画像部の凝集力を増加させることができ、画像品質に優れた画像を形成することができる。具体的には、例えば、表面荒れなどにより紙表面が変化して最終的な画像面を損なうことがなく、細線や微細な画像部分等を精細にかつ均質に描画でき、ベタ記録など広範囲にインクを付与した際にはムラの発生を抑えて濃度均一性の高い画像が得られると共に、画像の耐ブロッキング性、耐擦性(紙との密着性)も向上する。また、高濃度の画像記録が可能で、画像の色再現性も良好になる。
さらに例えば、処理液を付与した後に定着ローラー等を用いた加熱加圧による定着処理を行った場合には、画像が定着ローラーに転写するオフセットの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明のインクジェット記録方法が備えることができるその他の工程としては、例えば、固定化工程、第2の処理液付与工程、インク乾燥工程等を挙げることができる。具体的には、好ましい態様としては以下のような態様を挙げることができる。
(1)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記処理液付与工程後に固定化工程をさらに備える態様。
(2)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記処理液付与工程が固定化工程をさらに備える態様。
(3)前記インク付与工程後に、インク乾燥工程を備え、前記インク付与工程後に固定化工程をさらに備える態様。
(4)前記インク付与工程後に、インク乾燥工程を備え、前記インク付与工程が固定化工程をさらに備える態様。
(5)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記インク付与工程前に第2の処理液付与工程をさらに備える態様。
(6)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記インク付与工程前に第2の処理液付与工程と、前記処理液付与工程後に固定化工程とをさらに備える態様。
(7)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記インク付与工程前に第2の処理液付与工程を備え、前記処理液付与工程が固定化工程をさらに備える態様。
(8)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記インク付与工程前に第2の処理液付与工程と、前記処理液付与工程前にインク乾燥工程と、前記処理液付与工程後に固定化工程とをさらに備える態様。
(9)前記インク付与工程と処理液付与工程に加えて、前記インク付与工程前に第2の処理液付与工程と、前記処理液付与工程前にインク乾燥工程とを備え、前記処理液付与工程が固定化工程をさらに備える態様。
上記の好ましい態様中、画像品質と耐オフセット性の観点から、(1)、(2)と(5)?(9)の態様がより好ましく、(2)、(5)?(9)の態様がさらに好ましく、(7)、(9)の態様が特に好ましい。
以下、本発明における各工程について説明する。」

カ 「【0021】
(処理液)
本発明においてインク付与工程後に付与される処理液(以下、「第1の処理液」ということがある)は、インク組成物中の成分を凝集させる第1の凝集剤の少なくとも1種を含有し、必要に応じて溶媒やその他の成分を含んで構成することができる。第1の凝集剤(以下、単に「凝集剤」ということがある)としては、インク組成物中の成分と接触して凝集物を生じさせることができる化合物であれば、特に制限なく、公知の化合物から適宜選択して用いることができる。
【0022】
前記凝集剤としては、例えば、インク組成物のpHを変化させることができる化合物、多価金属塩、カチオン性化合物等を挙げることができる。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。
【0023】
インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、酸性物質を挙げることができる。
酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体、ならびにこれらの塩等が好適に挙げられる。
【0024】
中でも、水溶性の高い酸性物質が好ましい。また、インク組成物と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性物質が好ましく、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。
酸性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記処理液が酸性物質を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1?6.0であることが好ましく、0.5?5.0であることがより好ましく、0.8?4.0であることがさらに好ましい。
【0026】
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(ギ酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(ギ酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、チオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、及び、ポリ水酸化アルミニウムである。
【0027】
前記カチオン性化合物としては、カチオン性界面活性剤が好適に挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、1級、2級、又は3級アミン塩型の化合物が好ましい。このアミン塩型の化合物の例として、塩酸塩もしくは酢酸塩等の化合物(例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミンなど)、第4級アンモニウム塩型化合物(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなど)、ピリジニウム塩型化合物(例えば、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイドなど)、イミダゾリン型カチオン性化合物(例えば、2-ヘプタデセニル-ヒドロキシエチルイミダゾリンなど)、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物(例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミンなど)を挙げることができる。また、ポリアリルアミン類を用いても良い。これらのほか、所望のpH領域でカチオン性を示す両性界面活性剤も使用可能であり、例えば、アミノ酸型の両性界面活性剤、R-NH-CH2CH2-COOH型の化合物(Rはアルキル基等を表す)、カルボン酸塩型両性界面活性剤(例えば、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなど)、硫酸エステル型、スルホン酸型、又はリン酸エステル型等の両性界面活性剤、等が挙げられる。
【0028】
凝集剤は、1種単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
インク組成物を凝集させる凝集剤の処理液中における含有量としては、1?50質量%が好ましく、より好ましくは3?45質量%であり、更に好ましくは5?40質量%の範囲である。
【0029】
前記酸性物質とともに、多価金属化合物及びカチオン性化合物の少なくとも1種を併用するとき、多価金属化合物及びカチオン性化合物の処理液中における含有量(多価金属化合物及びカチオン性化合物の全含有量)は、前記酸性物質の全含有量に対して、5質量%?95質量%が好ましく、20質量%?80質量%がより好ましい。」

キ 「【0036】
[インク付与工程]
インク付与工程は、記録媒体上にインク組成物をインクジェット方式で付与して画像を記録することができれば特に制限はない。インクジェット方式による画像記録は、エネルギーを供与することにより、記録媒体上にインク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003-306623号公報の段落番号0093?0105に記載の方法が適用できる。
【0037】
インクジェット方式には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等のいずれであってもよい。
尚、前記インクジェット方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0038】
またインク付与工程は、記録媒体の搬送速度を変えて行うこともできる。該搬送速度は、画像品質を損なわない範囲であれば特に制限はなく、好ましくは、100?3000mm/sであり、より好ましくは150?2700mm/sであり、さらに好ましくは250?2500mm/sである。」

ク 「【0039】
(記録媒体)
本発明のインクジェット記録方法における記録媒体としては、特に制限はないが、印刷物としての風合いの観点から、紙基材上にコート層を有するものであることが好ましい。紙基材上にコート層を有する記録媒体としては、例えば、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙を用いることができる。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の基材の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。
【0040】
一般的に塗工紙を記録媒体として用いる通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の滲みや耐擦性など、品質上の問題を生じるが、本発明のインクジェット記録方法では、画像滲みが抑制されて均質で濃度ムラの発生が防止され、耐ブロッキング性、耐オフセット性、耐擦性の良好な画像を記録することができる。
【0041】
塗工紙は、一般に上市されているものを入手して使用できる。例えば、一般印刷用塗工紙を用いることができ、具体的には、王子製紙製の「OKトップコート+」、日本製紙社製の「オーロラコート」、「ユーライト」等のコート紙(A2、B2)、及び三菱製紙社製の「特菱アート」等のアート紙(A1)などを挙げることができる。」

ケ 「【0042】
本発明における記録媒体は、インク組成物中の成分を凝集させる第2の凝集剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。記録媒体が凝集剤を含むことで、記録媒体上に付与されたインク組成物中の成分が凝集剤によって凝集されて、解像度の高い画像を記録することができる。
第2の凝集剤としては、上述の第1の凝集剤と同様のものを用いることができ、その好ましい態様も同様である。また、第2の凝集剤は第1の凝集剤と同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0043】
第2の凝集剤を含む記録媒体は、第2の凝集剤を含む層を紙基材上に設けたものであっても、一般の塗工紙上に第2の凝集剤を含む処理液を付与して形成したものであってもよい。本発明においては、一般の塗工紙上に第2の凝集剤を含む処理液を付与して形成したものであることが好ましい。第2の凝集剤を含む処理液を付与して形成した記録媒体上に後述のインク組成物を用いて画像記録する構成とすることにより、記録後のカールとカックル、及びインクハジキの発生に対する抑制効果も得られ、耐ブロッキング性、耐オフセット性及び耐擦過性が良好な画像を記録することができる。
【0044】
本発明における第2の凝集剤を含む処理液(以下、「第2の処理液」ということがある)としては、上述の第1の凝集剤を含む処理液と同様のものを用いることができ、その好ましい態様も同様である。さらに第2の凝集剤を含む第2の処理液は、第1の凝集剤を含む第1の処理液と同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0045】
一般の塗工紙上に第2の凝集剤を含む処理液を付与する方法としては、公知の液体付与方法を特に制限なく、用いることができる。具体的な液体付与方法としては、第1の凝集剤を含む処理液の付与方法と同様であり、その好ましい態様も同様である。
【0046】
またインク付与工程前に記録媒体に付与する第2の凝集剤を含む処理液の付与量としては、インク組成物を凝集することができ、画像品質に問題がない範囲であれば特に制限はなく、例えば、0.01?5g/m^(2)とすることができ、0.1?4.5g/m^(2)であることが好ましく、0.5?4g/m^(2)であることがより好ましい。
【0047】
また本発明においては、上記のようにして記録媒体(好ましくは、塗工紙)上に第2の凝集剤を含む第2の処理液を付与した後、乾燥処理及び浸透処理の少なくとも一方の処理を行なうことが好ましい。処理工程は、乾燥処理および浸透処理のいずれか一方のみでもよく、乾燥処理及び浸透処理の両方を行なうものであってもよい。
【0048】
前記乾燥処理としては、処理液の付与後に、処理液中に含まれる溶媒を乾燥除去する処理が挙げられる。処理液を記録媒体に付与した後に処理液中の溶媒を乾燥除去することで、カールやカックル、ハジキの発生をより効果的に抑制し、記録画像の耐ブロッキング性、耐オフセット性及び耐擦過性をより向上させることができ、画像の記録をより良好に行なえる。
【0049】
乾燥処理は、処理液に含まれる溶媒(例えば、水、水溶性有機溶剤)の少なくとも一部を除去することができれば、特に制限はない。乾燥除去は、例えば、加熱、送風(乾燥風をあてる等)などによって乾燥させる方法により行なうことができる。
【0050】
浸透処理としては、処理液が付与された記録媒体(好ましくは塗工紙)を所定の時間放置し、毛細管現象等による自然浸透により記録媒体(好ましくは塗工紙)に処理液を浸透させる方法、記録媒体(好ましくは塗工紙)の表面のうち、処理液を付与した面とは反対の面から処理液を減圧吸引する方法、記録媒体(好ましくは塗工紙)の表面と反対の面に蒸気圧差をつける方法等が挙げられる。
処理液が付与された記録媒体を放置する時間は、処理液の付与量や記録媒体上の処理液付与面の面積にもよるが、通常、処理液付与面の面積1m^(2)に対し、0.01秒?2秒である。」

コ 「【0053】
-インク溶媒-
本発明におけるインク組成物は、インク溶媒を含むが、インク溶媒は、例えば、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含んで構成することができる。水溶性有機溶剤を含有することで、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0054】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1?4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-iso-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
乾燥防止や湿潤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
浸透促進の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールが好適である。脂肪族ジオールとしては、例えば、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0057】
また、水溶性有機溶剤としては、記録媒体におけるカール発生抑制の点から、下記構造式(1)で表される化合物の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【化1】


【0058】
構造式(1)において、l、m、及びnは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、l+m+n=3?15を満たし、l+m+nは3?12の範囲が好ましく、3?10の範囲がより好ましい。l+m+nの値は、3以上であると良好なカール抑制力を示し、15以下であると良好な吐出性が得られる。構造式(1)中、AOは、エチレンオキシ(EO)及び/又はプロピレンオキシ(PO)を表し、中でもプロピレンオキシ基が好ましい。前記(AO)l、(AO)m、及び(AO)nにおける各AOはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0059】
以下、前記構造式(1)で表される化合物の例をSP値(カッコ内)と共に示す。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
【化2】


【0061】
・nC4H9O(AO)4-H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1)
・nC4H9O(AO)10-H AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1)
・HO(A'O)40-H(A'O=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:3)
・HO(A''O)55-H(A''O=EO又はPOで、比率はEO:PO=5:6)
・HO(PO)3-H
・HO(PO)7-H
・1,2-ヘキサンジオール
【0062】
前記構造式(1)で表される化合物の全水溶性有機溶剤中に占める含有割合は、3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、更に5質量%以上が好ましい。前記範囲とすることにより、インクの安定性や吐出性を悪化させずにカールを抑制することができ好ましい。
【0063】
水溶性有機溶剤は、1種単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
水溶性有機溶剤のインク中における含有量としては、1質量%以上60質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0064】
本発明におけるインク組成物は、インク溶媒として水を含有することができるが、水の含有量には特に制限はない。中でも、好ましくは10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは、30質量%以上80質量%以下である。更に好ましくは、50質量%以上70質量%以下である。」

サ 「【0065】
-樹脂粒子-
本発明のインク組成物は、樹脂粒子の少なくとも1種を含有することが好ましい。樹脂粒子を含むことにより、インク組成物の記録媒体への定着性、画像の耐ブロッキング性、耐オフセット性及び耐擦過性を効果的に向上させることができる。
また樹脂粒子は、後述する処理液又はこれを乾燥させた紙領域と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。このような樹脂粒子は、水及び有機溶剤の少なくとも1種に分散されているものが好ましい。」

シ 「【0115】
-色材-
本発明のインク組成物は、色材の少なくとも1種を含む。前記色材は、着色により画像を形成する機能を有するものであればよく、顔料、染料、着色粒子等を使用することができる。中でも顔料であることが好ましく、水分散性顔料であることがより好ましく、水不溶性ポリマー分散剤で被覆された顔料であることがさらに好ましい。」

ス 「【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0147】
(ポリマー分散剤P-1の合成)
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P-1を96g得た。
得られた樹脂の組成は、1H-NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0148】
(樹脂被覆顔料の分散物の調製)
-樹脂被覆シアン顔料分散物-
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブルーA220、大日精化(株)製)10部と、ポリマー分散剤P-1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1mol/L NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2?6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆シアン顔料(カプセル化顔料)の分散物(色材)を得た。
【0149】
-樹脂被覆マゼンタ顔料分散物-
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、Chromophthal Jet Magenta DMQ(ピグメント・レッド122、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆マゼンタ顔料の分散物(色材)を得た。
【0150】
-樹脂被覆イエロー顔料分散物-
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、Irgalite Yellow GS(ピグメント・イエロー74、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆イエロー顔料の分散物(色材)を得た。
【0151】
(自己分散性ポリマー粒子の調製)
-自己分散性ポリマー粒子B-20の合成-
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン540.0gを仕込んで、窒素雰囲気下で75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート108g、イソボルニルメタクリレート388.8g、メタクリル酸43.2g、メチルエチルケトン108g、及び「V-601」(和光純薬(株)製)2.16gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V-601」1.08g、メチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V-601」0.54g、メチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は61000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は52.1(mgKOH/g)であった。
尚、B-20のモノマー組成(質量基準)は、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(20/72/8)である。
【0152】
次に、重合溶液588.2gを秤量し、イソプロパノール165g、1モル/LのNaOH水溶液120.8mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に蒸留水718gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保って溶媒を留去した。更に、反応容器内を減圧して、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を留去し、固形分濃度26.0%の自己分散性ポリマーB-20(樹脂粒子)の水性分散物を得た。
【0153】
上記自己分散性ポリマーB-20の水性分散物の調製において、モノマーの種類と添加量とをそれぞれ変更した以外は、上記と同様にして下記モノマー組成を有する自己分散性ポリマー(樹脂粒子)の水性分散物をそれぞれ調製した。なお、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
【0154】
B-01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B-02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B-03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B-04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B-05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B-06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B-07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B-08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B-09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B-10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B-11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B-12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B-13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B-14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B-15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B-16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B-17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B-18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B-19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0155】
B-21:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(30/62/8)
B-22:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(40/52/8)
B-23:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(50/42/8)
B-24:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(30/50/14/6)
B-25:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(40/50/10)
B-26:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/フェノキシエチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(30/50/14/6)
B-27:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸 共重合体(30/54/10/6)
B-28:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸 共重合体(54/35/5/6)
B-29:メチルメタクリレート/アダマンチルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=23)/メタクリル酸 共重合体(30/50/15/5)
B-30:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(20/50/22/8)
B-31:エチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)
B-32:イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(40/50/10)
B-33:n-ブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/スチレン/アクリル酸 共重合体(30/55/10/5)
B-34:メチルメタクリレート/ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(40/52/8)
B-35:ラウリルメタクリレート/ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(25/65/10)
【0156】
[インクセット1の調製]
以下のようにして、シアンインク(C-1)、マゼンタインク(M-1)、イエローインク(Y-1)、およびブラックインク(K-1)をそれぞれ調製し、これらのインク組成物からなるインクセット1を調製した。
(シアンインクC-1の調製)
上記の樹脂被覆シアン顔料の分散物と自己分散性ポリマーB-20の水性分散物とを用い、下記組成となるように、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及びイオン交換水を混合し、その後5μmメンブランフィルタでろ過してシアンインクを調製した。
【0157】
-シアンインクC-1の組成-
・シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3) ・・・4%
・ポリマー分散剤P-1(固形分) ・・・2%
・自己分散性ポリマー粒子B-20(樹脂粒子、固形分) ・・・6%
・POP(3)グリセリルエーテル(水溶性有機溶剤) ・・・8%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(水溶性有機溶剤)
・・・8%
・オルフィンE1010 ・・・1%
(日信化学(株)製;界面活性剤)
・イオン交換水 ・・・全体で100%となるように添加。
【0158】
pHメーターWM-50EG(東亜DKK(株)製)を用いて、シアン顔料インクC-1のpH(25℃)を測定したところ、pH値は8.5であった。
【0159】
(マゼンタインク(M-1)の調製)
上記シアンインク(C-1)の調製において、樹脂被覆シアン顔料の分散物の代わりに、樹脂被覆マゼンタ顔料の分散物を用いた以外は上記と同様にして、マゼンタインク(M-1)を調製した。pH値は8.5であった。
【0160】
(イエローインク(Y-1)の調製)
上記シアンインク(C-1)の調製において、樹脂被覆シアン顔料の分散物の代わりに、樹脂被覆イエロー顔料の分散物を用いた以外は上記と同様にして、イエローインク(Y-1)を調製した。pH値は8.5であった。
【0161】
(ブラックインク(K-1)の調製)
上記シアンインク(C-1)の調製において、樹脂被覆シアン顔料の分散物の代わりに、顔料分散物CAB-O-JETTM200(カーボンブラック分散物、CABOT社製)を用いた以外は上記と同様にして、ブラックインク(K-1)を調製した。
【0162】
[インクセット2?35の調製]
インクセット1の調製において、樹脂粒子の種類を表1?表2のように変更した以外は、インクセット1と同様にして、インクセット2?35を調製した。
【0163】
(処理液1の調製)
以下の材料を混合して、処理液1を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM-50EGにて、処理液1のpH(25℃)を測定したところ、1.21であった。
・マロン酸 :25g
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル :10g
(以下、「DEGmEE」と略記する。)
・界面活性剤A(10%) :1g
・イオン交換水 :64g」

セ 「【0175】
上記処理液に用いた界面活性剤Aの構造を下記に示す。
界面活性剤A:
C7H15-CH=CH-C7H14-C(O)-N(CH3)-CH2CH2-SO3Na」

ソ 「【0176】
<実施例1>
[インクジェット記録]
記録媒体(塗工紙)として、特菱アート(坪量104.7g/m^(2))、OKトップコート+(坪量104.7g/m^(2))、およびユーライト(坪量104.7g/m^(2))を用意して、以下に示すようにして画像を記録し、記録された画像について以下の評価を行なった。結果を表1?表2に示す。
【0177】
インク組成物として、上記で得られたシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、およびブラックインクからなるインクセットを用い、処理液1と共に、4色シングルパス記録によりライン画像とベタ画像の形成を実施した。このとき、ライン画像は、1200dpiの1ドット幅のライン、2ドット幅のライン、4ドット幅のラインをシングルパスで主走査方向に吐出することによりライン画像を形成した。またベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面にインク組成物を吐出することによりベタ画像を形成した。なお、記録する際の諸条件は下記の通りである。
【0178】
(1)第2の処理液付与工程
記録媒体の全面に、アニロックスローラー(線数100?300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて付与量が、1.7g/m^(2)となるように処理液1(第2の処理液)を塗布した。
【0179】
(2)処理工程
次いで、下記条件にて処理液が塗布された記録媒体について乾燥処理及び浸透処理を施した。
・風速:10m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱
【0180】
(3)インク付与工程
その後、第2の処理液が塗布された記録媒体の塗布面に、下記条件にてインク組成物をインクジェット方式で吐出し、ライン画像、ベタ画像をそれぞれ形成した。
・ヘッド:1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを4色分配置
・吐出液滴量:2.0pL
・駆動周波数:30kHz
【0181】
(4)インク乾燥工程
次いで、インク組成物が付与された記録媒体を下記条件で乾燥した。
・乾燥方法:送風乾燥
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱した。
【0182】
(5)第1の処理液付与工程
記録媒体の全面に、アニロックスローラー(線数100?300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて付与量が、0.5g/m^(2)となるように処理液1(第1の処理液)を塗布した。
【0183】
(5)固定化工程
次に、下記条件でローラ対を通過させることにより加熱定着処理を実施した。
・シリコンゴムローラ(硬度50°、ニップ幅5mm)
・ローラ温度:70℃
・圧力:0.2MPa」

タ 「【0184】
[評価]
-耐オフセット性-
マゼンタ顔料インクによるベタ画像上にシアン顔料インクをベタ記録したときの均一画像部を目視にて観察し、濃度ムラの程度を下記の評価基準にしたがって評価した。
?評価基準?
A:オフセットは見られなかった。
B:一部に僅かにオフセットが見られたが、実用上問題ないレベルであった。
C:オフセットが発生し、実用上の許容限界レベルであった。
D:オフセットの発生が顕著であり、実用性の極めて低いレベルであった。
【0185】
-画像品質-
記録媒体上に形成された、1ドット幅のライン、2ドット幅のライン、4ドット幅のラインについて、下記の評価基準にしたがって描画性を評価した。
?評価基準?
A:全てのラインが均質なラインであった。
B:1ドット幅のラインは均質であった。2ドット幅及び4ドット幅のラインの一部にライン幅の不均一やラインの切れが認められたが、実用上問題ないレベルであった。
C:1ドット幅のラインは均質であったが、2ドット幅及び4ドット幅のラインの全般にライン幅の不均一やラインの切れが認められた。
D:ライン全体にライン幅の不均一やラインの切れが顕著に認められた。
【0186】
<実施例2?75>
実施例1において、用いる記録媒体およびインクセット、ならびに、第1の処理液および第2の処理液の種類および付与量を表1?表2のように変更した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録を行い、評価を行った。
【0187】
<比較例1?9>
実施例1において、用いる記録媒体およびインクセット、ならびに、第2の処理液の種類および付与量を表2のように変更し、第1の処理液を付与しなかった以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。後処理液を付与しない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録を行い、評価を行った。
【0188】
【表1】

【0189】
【表2】


【0190】
前記表1?表2に示すように、実施例では、いずれの塗工紙を用いた場合にも、均質な幅長のライン画像が得られ、ベタ記録した場合には濃度ムラの発生が抑えられ、均一で高い濃度の画像を得ることができた。また、耐オフセット性も良好であった。
これに対し、第1の処理液を付与しなかった比較例では、耐オフセット性が1?2ランク劣っていた。」

(2) 先願発明
これら記載内容からみて,先願明細書には,「インクジェット記録方法」(【0001】)として,以下の発明が記載されている(以下「先願発明」という。)。なお,先願発明の認定に際して参考にした引用例1の記載箇所を,段落番号で付記する。
「【0176】記録媒体(塗工紙)として,特菱アート(坪量104.7g/m^(2))を用意し,
【0178】記録媒体の全面に,アニロックスローラ(線数100?300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて,付与量が1.7g/m^(2)となるように処理液1を塗布し,
【0179】記録媒体に風速10m/sで送風するとともに,記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように,記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱することで,処理液1が塗布された記録媒体について乾燥し,
【0180】処理液1が塗布された記録媒体の塗布面に,1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを用い,吐出液滴量2.0pL及び駆動周波数30kHzという条件で,インク組成物をインクジェット方式で吐出して,画像を形成し,
【0181】記録媒体に風速15m/sで送風するとともに,インク組成物が付与された記録媒体を,記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように,記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱することで,インク組成物が付与された記録媒体を乾燥し,
【0182】記録媒体の全面に,アニロックスローラ(線数100?300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて,付与量が0.5g/m^(2)となるように処理液1を塗布し,
【0183】シリコンゴムローラ(硬度50°,ニップ幅5mm),ローラ温度70℃,圧力0.2MPaという条件で,ローラ対を通過させることにより加熱定着処理を実施するインクジェット記録方法であって,
【0157】前記インク組成物のうちシアンインク(C-1)は,その組成が,シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3)4%,ポリマー分散剤P-1(固形分)2%,自己分散性ポリマー粒子B-20(樹脂粒子,固形分)6%,POP(3)グリセリルエーテル(水溶性有機溶媒)8%,トリプロプレングリコールモノメチルエーテル(水溶性有機溶媒)8%,オルフィンE1010(日信化学(株)製;界面活性剤)1%,及び全体で100%となる量のイオン交換水であり,
【0158】,【0149】前記インク組成物のうちマゼンタインク(M-1)は,前記シアンインク(C-1)の成分中,シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3)の代わりにマゼンタ顔料(ピグメント・レッド122)を含有するものであり,
【0159】,【0150】前記インク組成物のうちイエローインク(Y-1)は,前記シアンインク(C-1)の成分中,シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3)の代わりにイエロー顔料(ピグメント・イエロー74)を含有するものであり,
【0160】前記インク組成物のうちブラックインク(K-1)は,前記シアンインク(C-1)の成分中,シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3)の代わりにカーボンブラックを含有するものであり,
【0163】前記処理液1は,マロン酸を25g,ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)を10g,界面活性剤A(10%)を1g,イオン交換水64gを混合したものであり,
【0184】,【0185】,【0188】マゼンタ顔料インクによるベタ画像上にシアン顔料インクをベタ記録したベタ画像は,その均一画像部を目視にて観察すると,オフセットは見られないと評価され,1ドット幅,2ドット幅,及び4ドット幅のライン画像は,ライン幅の不均一やラインの切れは認められず,全てのラインが均質なラインであると評価される,
インクジェット記録方法。
(ただし,
【0147】ポリマー分散剤P-1は,メチルエチルケトン88gを窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下し,滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱し,得られた反応溶液を大過剰量のヘキサンに2回再沈殿することで析出した,重量平均分子量が44,600で酸価が65.2mgKOH/gの樹脂であり,
【0151】自己分散性ポリマー粒子B-20は,メチルエチルケトン540.0gを窒素雰囲気下で75℃まで昇温し,温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート108g、イソボルニルメタクリレート388.8g、メタクリル酸43.2g、メチルエチルケトン108g、及び「V-601」(和光純薬(株)製)2.16gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下し,滴下完了後、「V-601」1.08g、メチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V-601」0.54g、メチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けることで得られた,重量平均分子量が61,000で酸価が52.1mgKOH/gの共重合体であり,
【0057】ないし【0060】POP(3)グリセリルエーテルは,次の構造式(1)で表される化合物であり,

(l,m,及びnはいずれも1であり,AOはプロピレンオキシ基)
【0175】界面活性剤Aは,C_(7)H_(15)-CH=CH-C_(7)H_(14)-C(O)-N(CH_(3))-CH_(2)CH_(2)-SO_(3)Naである。)」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と先願発明とを対比すると,以下のとおりとなる。
ア インクジェットインク
先願発明のインク組成物は,その組成が,顔料(ピグメント・ブルー15:3,ピグメント・レッド122,ピグメント・イエロー74,またはカーボンブラック)4%,ポリマー分散剤P-1(固形分)2%,自己分散性ポリマー粒子B-20(樹脂粒子,固形分)6%,POP(3)グリセリルエーテル(水溶性有機溶媒)8%,トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(水溶性有機溶媒)8%,オルフィンE1010(日信化学(株)製;界面活性剤)1%,及び全体で100%となる量のイオン交換水であるところ,ポリマー分散剤P-1」及び「自己分散性ポリマー粒子B-20」が本願発明の「樹脂」に相当し,「イオン交換水」が本願発明の「水」に相当する。
さらに,イオン交換水は,全体として100%になるように添加されるのであるから,その量は,100-(4+2+6+8+8+1)=71%程度である。
(なお,先願明細書の段落【0146】の「特に断りのない限り,『部』,『%』は質量基準である。」という記載から,段落【0157】に記載された「%」が「質量%」であることは明らかである。)

したがって,先願発明における,インクジェット記録方法に用いられ,その組成が,顔料4%,ポリマー分散剤P-1(固形分)2%,自己分散性ポリマー粒子B-20(樹脂粒子,固形分)6%,POP(3)グリセリルエーテル(水溶性有機溶媒)8%,トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(水溶性有機溶媒)8%,オルフィンE1010(日信化学(株)製;界面活性剤)1%,及び全体で100%となる量のイオン交換水であるインク組成物と,本願発明における「少なくとも20質量%以上,90質量%以下の水,樹脂及び顔料を含有し,中空糸膜による脱気を行ったインクジェットインク」は,「少なくとも20質量%以上,90質量%以下の水,樹脂及び顔料を含有」する「インクジェットインク」であるとの点で一致する。

イ 水性処理液
先願発明は,マロン酸を25g,ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)を10g,界面活性剤A(10%)を1g,イオン交換水を64g混合したものである処理液1を用いているところ,先願明細書には,「本発明においてインク付与工程後に付与される処理液(以下,「第1の処理液」ということがある)は,インク組成物中の成分を凝集させる第1の凝集剤の少なくとも1種を含有」し(【0021】),前記凝集剤としてマロン酸(【0023】)を使用できることが記載されているから,マロン酸を有する処理液1がインクジェットインクを凝集させる機能を有していることは明らかである。
さらに,処理液1は64gのイオン交換水を含有しており,当該イオン交換水が溶媒として機能していることは明らかであるから,処理液1は「溶媒として水を含む水性処理液」といえる。
したがって,先願発明の「マロン酸を25g,ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)を10g,界面活性剤A(10%)を1g,イオン交換水を64g混合したもの」である「処理液1」は,本願発明の「インクジェットインクを凝集又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液」に相当する。

ウ 水性処理液の塗布
先願発明において,記録媒体として,塗工紙である「特菱アート(坪量104.7g/m^(2))を用意」し,「記録媒体の全面に,アニロックスローラ(線数100?300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて,付与量が1.7g/m^(2)となるように処理液1を塗布」することは,本願発明において「該インクジェットインクを凝集し又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液を該印刷用塗工紙上に塗布」することに相当する。

エ 水性処理液の乾燥
先願発明において,インク組成物をインクジェット方式で吐出する前に行う,「記録媒体に風速10m/sで送風するとともに,記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように,記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱することで,処理液1が塗布された記録媒体について乾燥」するという処理は,本願発明において「該インクジェットインクを凝集又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液を乾燥させる乾燥工程」に相当する。

オ インクジェットインクの吐出
先願発明において,「処理液1が塗布された記録媒体の塗布面に,1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを用いて,吐出液滴量2.0pL及び駆動周波数30kHzという条件で,インク組成物をインクジェット方式で吐出して,画像を形成」することは,本願発明において「該印刷用塗工紙」に「該インクジェットインクを吐出して画像を形成」することに相当する。

カ 先願発明によって形成された1ドット幅,2ドット幅,及び4ドット幅のライン画像は,ライン幅の不均一やラインの切れは認められず,全てのラインが均質なラインであると評価されるところ,ライン幅が均一に形成されるということは吐出したインク組成物が目視で確認できる程度には記録媒体上で滲んでいないということであり,インク組成物をインクジェット方式で吐出する前に行う,処理液が塗布された記録媒体について乾燥する処理が,均質なラインの形成に貢献していることは明らかである。
したがって,先願発明では,「乾燥工程における乾燥によって、印刷用塗工紙にインクジェットインクを吐出して該インクジェットインクのインク液滴を着弾させた際に該着弾したインク液滴が目視で確認して滲まない」といえる。

(2) 一致点及び相違点
ア 本願発明と先願発明とは,以下の構成において一致する。
「 少なくとも20質量%以上,90質量%以下の水,樹脂及び顔料を含有したインクジェットインクを印刷用塗工紙に吐出して画像を形成する画像形成方法において,該インクジェットインクを凝集又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液を該印刷用塗工紙に塗布し,該インクジェットインクを凝集又は増粘させる機能を有して溶媒として水を含む水性処理液を乾燥させる乾燥工程を経た後,該インクジェットインクを吐出して画像を形成し,
該乾燥工程における乾燥によって、該印刷用塗工紙に該インクジェットインクを吐出して該インクジェットインクのインク液滴を着弾させた際に該着弾したインク液滴が目視で確認して滲まない画像形成方法。」

イ 本願発明と先願発明とは,以下の点において,一応相違する。
(相違点1)
本願発明は,「中空糸膜による脱気を行ったインクジェットインク」を用いるのに対して,先願発明はこれが明らかでない点。

(相違点2)
本願発明は,「該印刷用塗工紙の表面温度を40℃以上,60℃以下の状態にして該インクジェットインクを吐出して画像を形成」するのに対して,先願発明はこれが明らかではない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
インクジェット記録方式においては,インク中に溶存する空気がドット抜けや印字不良の原因となってしまうことから,脱気したインクを用いる必要があることが技術常識であって,当該脱気の方法として中空糸膜によって脱気するという方法は,先願の出願前に当業者に広く知られた方法であったと認められる(例えば,特開2007-145889号公報,特開平05-17712号公報,特開平11-209670号公報を参照されたい。いずれも原査定の拒絶の理由において引用された文献である)。
しかるに,先願発明はインクジェット記録方法の発明であるところ,前述した技術常識に鑑みれば,当該インクジェット記録方法に用いるインクとして適宜の方法によって脱気したものを用いることは,例え先願明細書に明記がなくとも先願発明において当然に予定されていることといえるから,先願発明において中空糸膜による脱気という周知の方法を用いて脱気したインクを用いることは,先願明細書に記載されたも同然の事項というほかない。
したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
先願発明は,記録媒体に風速10m/sで送風するとともに,記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように,記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱することで,処理液1が塗布された記録媒体について乾燥してから,処理液1が塗布された記録媒体の塗布面に,1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを用い,吐出液適量2.0pL及び駆動周波数30kHzという条件で,インク組成物をインクジェット方式で吐出して,画像を形成しているところ,技術常識(国際公開第2004/094150号の5頁14行ないし21行や特開平2008-221468号公報の段落【0063】には,インクを吐出する際の記録媒体の表面温度を,先願発明における乾燥時の記録媒体の表面温度と同程度にすることが記載されている。)からみて,インク組成物の吐出時に記録媒体の表面温度を低下させなければならないような事情は見当たらず,必要もないのに各処理の間に待機時間を設けたりして印刷に必要な時間を長くするはずもないから,先願発明が,処理液1の乾燥後,速やかにフルラインヘッドによるインク組成物の吐出を実行するものであることは明らかである。
ここで,60℃であった記録媒体の表面温度が40℃を下回るような温度に低下するには,相当の時間を要することが自明であるところ,前述したとおり,処理液1の乾燥後,速やかにフルラインヘッドによるインク組成物の吐出を実行する先願発明において,処理液1の乾燥時に60℃であった記録媒体の表面温度が,フルラインヘッドによるインク組成物の吐出時に40℃を下回っているとは,到底考え難い。
したがって,先願発明においては,インク組成物を吐出する工程は,記録媒体の表面温度が40℃以上,60℃以下の状態で行われるものと認められる。
よって,相違点2は実質的な相違点ではない。

3 請求人の主張に対して
(1) 請求人の主張
請求人は,審判請求書の3.(3)「本願発明と引用発明との対比」において,以下のとおり主張している。

「(3)本願発明と引用発明との対比
上記したように、先願明細書1?4のいずれにも、インクジェットインクを中空糸膜で脱気することは記載も示唆もされていない。
本願発明は、(i)インクジェットインクを中空糸膜で脱気することにより、ブリーディング耐性、モットリング耐性および良好な光沢を実現するという新たな効果を奏するものであり、(ii)審査官殿が挙げた引用出願および文献のいずれにも、インクジェットインクを中空糸膜で脱気することについて、本願発明と共通する課題は存在しない。
(i)インクジェットインクを中空糸膜で脱気することにより、ブリーディング耐性、モットリング耐性および良好な光沢を実現するという新たな効果を奏することについて
インク内に気体が溶存している場合、インクジェットヘッドからインクを吐出する時に気泡が発生することにより、吐出曲がりが発生することがある。本発明のように水性処理液を乾燥させる場合、処理液中の「インクの固形分を凝集または増粘させる機能を有する化合物」が、水性処理液が乾燥していない状態よりも自由に移動しにくいため、上記化合物とインクの固形分との反応が生じにくい傾向がある。そのため、吐出曲がりによってインクの着弾位置がずれた場合、水性処理液が乾燥していると、インクが固定されにくく、ブリーディング(色相の異なる画像の境界部での滲みの発生)、モットリング(近傍のインク液滴との合一)や光沢の悪化が生じやすくなる傾向がある。これに対し、水性処理液を乾燥させる場合に、インクジェットインクを中空糸膜で脱気することで、ブリーディング耐性、モットリング耐性および良好な光沢を実現することができる。
この点をより詳細に説明するため、出願人は、以下の追加実験を行った。
------------------
(実験成績証明書)
中空糸膜による脱気を行わなかった以外は本願明細書の段落[0117]、[0118]、[0123]と同じ方法により、インクセットA’を調整した。インクセットA’を用い、[表1]の画像番号1?4および7?9と同じ方法により、画像1’?4’および7’?9’を形成した。各画像を形成する際の具体的な条件を以下に示す。

形成された画像1’?4’および7’?9’を、本願明細書の段落[0147]?[0158]と同じ方法で評価した。結果を以下に示す。


追加実験の結果に示すように、水性処理液を乾燥させる場合、インクの脱気をしないと、ブリーディング耐性、モットリング耐性および光沢が劣化した。
一方で本願明細書に記載の[表2]における画像番号1?4および7?9に示すように、水性処理液を乾燥させる場合、インクの脱気をすると、ブリーディング耐性、モットリング耐性および光沢はいずれも良好なものとなった。
また、本願明細書に記載の[表2]における画像番号33および34に示すように、水性処理液を乾燥させない場合、インクの脱気をしても、ブリーディング耐性およびモットリング耐性は劣化した。なお、これはインクの吐出曲がりによるものではなく、インクの滲みが生じたためと思われる。
------------------
上記の実験成績証明書に示すように、中空糸膜による脱気を行うことで、ブリーディング耐性、モットリング耐性および良好な光沢が実現できるという新たな効果が奏される。
(ii)審査官殿が挙げた引用出願および文献のいずれにも、インクジェットインクを中空糸膜で脱気することについて、本願発明と共通する課題は存在しないことについて
上記(i)のように、インクジェットインクを中空糸膜で脱気すると、インク吐出の際の気泡発生によるインクの吐出曲がりが発生しにくいため、水性処理液を乾燥させても、ブリーディングおよびモットリングの発生を抑制し、かつ光沢にも優れた画像を形成することができる。つまり、本発明で中空糸膜で脱気することにより解決される課題は、「インクジェットインク吐出前に塗布する水性処理液を乾燥させた際に、特にインクの吐出曲りの影響を受けやすく、インクジェットインクを中空糸膜で脱気することの効果が顕著に奏され、ブリーディングおよびモットリングの発生をより抑制し、かつ光沢にも優れた画像を形成すること」であるといえる。
しかし、上記先願明細書1?4には、水性処理液を乾燥させた際に発生するブリーディング、モットリングまたは光沢の劣化を抑制するという課題は記載も示唆もされていない。また、審査官殿が拒絶査定で挙げた文献(特開平5-17712号公報、特開平11-209670号公報、特開2007-145889号公報)には、インク吐出前に水性処理液を付与することすら記載されていないため、当然に上記課題も、記載も示唆もされていない。以上のように、本願発明においてインクジェットインクを中空糸膜で脱気することと、審査官殿が挙げた引用出願および文献に記載の事項とは、解決しようとする課題すら異なるものである。
(4)小結
上記のように、本願発明では、処理液を乾燥させる場合に、インクジェットインクを中空糸膜で脱気させることによってはじめてブリーディング耐性、モットリング耐性および良好な光沢という効果が得られるのであり、また、処理液を乾燥させる場合に、インクジェットインクを中空糸膜で脱気させるための課題はいずれの引用出願または文献にも記載も示唆もされていない。そのため、インクジェットインクを中空糸膜で脱気することが、課題解決の具体化手段における微差であるといえるものではない。」

(2) 請求人の主張に対する判断
ア 本願発明の効果について
請求人は,本願発明の特徴として,インクジェットインクを中空糸膜で脱気させることによってはじめてブリーディング耐性,モットリング耐性および良好な光沢という効果が得られる旨主張しているものと認められる。
しかし,本件出願の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)を参照するに,中空糸膜による脱気を行うことの技術的意義について何ら記載されていない。また,明細書等に記載された具体例においては,比較例をも含め,全てのインクジェットインクに対して中空糸膜による脱気処理が行われており(なお,インクジェットインクだけでなく,水性処理液についても,中空糸膜によって脱気することが記載されている),実験結果からも,中空糸膜による脱気を行ったことによる技術的意義は何ら推認することはできない。
すなわち,請求人の主張は,本件出願の明細書等の記載に基づかない主張であり,採用することができない。

イ 実験成績証明書について
請求人は,上記主張に併せて,請求書において実験成績証明書も記載している。しかし,上記「ア」において検討したように,請求人が主張する本願発明の効果は,本件出願の明細書等において一切開示されていない。そして,本件出願の後に実験成績証明書等を提出しても,このような本件出願の明細書等に開示のない発明の効果については,これを参酌することができない。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,先願発明と同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-19 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-10 
出願番号 特願2010-54173(P2010-54173)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 道祖土 新吾
清水 康司
発明の名称 画像形成方法  
代理人 鷲田 公一  
代理人 木曽 孝  

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