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審決分類 審判 査定不服 1項2号公然実施 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1309113
審判番号 不服2014-25402  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-11 
確定日 2015-12-21 
事件の表示 特願2013-142998「水処理方法、および、水処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年1月29日出願公開、特開2015-16392〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成25年7月8日の出願であって、平成26年5月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月19日付けで拒絶査定されたので、同年12月11日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年12月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正と補正発明
(1)本件補正は、明細書及び特許請求の範囲についてするものであって、請求項1の補正は、水処理において行う濃縮工程について、本件補正前は、「嫌気処理工程の前に被処理水の濃縮を行う濃縮工程」であったものを、本件補正により、「嫌気処理工程の前に被処理水を濃縮して被処理水のBODを調整する濃縮工程」と補正して、濃縮の目的を被処理水のBODを調整することに限定するとともに、「濃縮工程では、前記被処理水のBODの調整を濃縮工程後の被処理水に対して測定されるTDS、導電率、又は、TOCの少なくとも何れか一つの測定値に基づいて行う」と限定して、濃縮工程の具体的内容を特定するものである。
したがって、本件補正は、請求項1に係る発明の特定事項を限定する補正事項を含むものである。また、補正前後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許法第17条の2第3項の規定に反する新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかを、請求項1に係る発明について検討する。
請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
「有機物を含有する被処理水の嫌気処理を行う嫌気処理工程を備える水処理方法であって、 半透膜を介して被処理水から水分が浸透して浸透圧を生じるように構成されたドロー液とBODが1000mg/L未満である被処理水とを半透膜を介して接触させることで嫌気処理工程の前に被処理水を濃縮して被処理水のBODを調整する濃縮工程を更に備え、該濃縮工程後の被処理水を嫌気処理工程へ供給して嫌気処理を行うと共に、濃縮工程では、前記被処理水のBODの調整を濃縮工程後の被処理水に対して測定されるTDS、導電率、又は、TOCの少なくとも何れか一つの測定値に基づいて行うことを特徴とする水処理方法。」

2 刊行物に記載された発明
(1)引用例及び引用例の記載事項
・引用例:Kerusha Lutchmiah et al、Water recovery from sewage using forward osmosis、Water Science & Technology、英国、2011年、Vol.64、No.7、pp1443-1449
本願出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された上記引用例には、次の事項が記載されている。(以下では、記載事項を当審の訳に代えて摘示する。)

(ア)「この研究は、正浸透(forward osmosis)を用いることにより下水から水を抽出することからなる新たな技術を開発することを目的とする、下水処理計画を構成するものである。」(1443頁 ABSTRACTの欄1?2行)
(イ)「浸透又は正浸透(Forward Osmosis)は、2種の溶液である供給溶液と浸透溶液(ドロー溶液)、及び半透膜を必要とする方法である。半透膜を通過してドロー溶液側へ正味の水の流れを誘起するために、ドロー溶液は、浸透圧濃度が供給溶液よりも高いことが必要である。これにより、供給溶液から溶媒が効率的に分離される。他の従来技術と異なり、駆動力は水圧ではなく、半透膜をこえた浸透圧の勾配である。」(1443頁右下欄下から5行?1444頁左欄5行)
(ウ)「第1図は、下水処理の概要を示すもので、異なる技術を革新的に組み合わせることにより、不適切と思われる水源からの水の修復と、これに伴うエネルギー生産という1つの目標を達成するものである。すなわち、下水は本来的に有機物を含有するが、これは更新可能なエネルギー(RE)に変換することができる。しかし、下水は相当量の水を含む結果、有機物は薄められ、これにより効率的に消化することを一層困難にしている。正浸透の適用による水の抽出をした後には、下水はより濃縮され、かなり小さな生物反応槽により容易にエネルギーに変換することができる。濃縮された下水中の化学結合エネルギーは、嫌気性消化によりエネルギーリッチなバイオガスに変換することができ、これは再濃縮プロセスで使用することのできる更新可能なエネルギー源である。」(1444頁右欄、SEWER MINING conceptの欄の1?最下行)
(エ)「第1図



(オ)「脱イオン化水(Milli-Q,Millipore)又は原水流(スクリーンされたが、処理はされていないもの)が供給溶液として使われた。原水流は、アムステルダム西の市立の排水処理プラント(Waternet,The Netherlands)からサンプリングされたもので、424mg/LのCOD、1101mg/LのNaCl、1300mg/L の総浮遊固形物(TSS)からなり、浸透圧力は、0.26bar(デュポン法により測定)であった。異なったドロー溶液の効果をみるために、NaCl(J.T. Baker, the Netherlands)とMgCl_(2)・6H_(2)O(Merck, Germany)が使用された。」(第1445頁のFeed and draw solutionsの欄の1?11行)

(2)引用例に記載された発明
記載事項(ア)によれば、引用例には正浸透を用いた下水処理に関する技術が記載されている。
そして、同(イ)によれば、正浸透は、半透膜を介して浸透圧の異なる供給溶液とドロー溶液を接触させ、両者の浸透圧の勾配により供給溶液の水をドロー溶液へ移行させる技術である。同(ウ)(エ)によれば、上記下水処理技術では、下水の嫌気性消化に正浸透技術を組み合わせることにより、下水中に含まれる相当量の水を正浸透処理によりドロー溶液に移行させて下水中の有機物を濃縮し、その後に該濃縮液から嫌気性消化により効率的にエネルギーリッチなバイオエネルギーを得ている。
同(オ)には、上記下水処理技術において、供給溶液としてある排水処理プラントからサンプリングした原水流を使用することが記載されており、該原水流のCODは424mg/Lであった。
したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「有機物を含有する原水流の嫌気性消化を行う下水処理方法であって、
半透膜を介して浸透圧の異なるドロー溶液とCODが424mg/Lである原水流を接触させ、正浸透により原水流中の有機物を濃縮する濃縮工程を有し、濃縮された原水流を嫌気性消化することからなる下水処理方法。」

3 対比と判断
(1)対比
補正発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「原水流」、「嫌気性消化」及び「下水処理方法」は、補正発明の「被処理水」、「嫌気処理工程」及び「水処理方法」に相当する。
また、引用発明の「半透膜を介して浸透圧の異なるドロー溶液と」「原水流を接触させ、正浸透により原水流中の有機物を濃縮」は、補正発明の「半透膜を介して被処理水から水分が浸透して浸透圧を生じるように構成されたドロー液と」「被処理水とを半透膜を介して接触させることで嫌気処理工程の前に被処理水を濃縮」するに相当する。
とすると、補正発明と引用発明とは、「有機物を含有する被処理水の嫌気処理を行う嫌気処理工程を備える水処理方法であって、半透膜を介して被処理水から水分が浸透して浸透圧を生じるように構成されたドロー液と被処理水とを半透膜を介して接触させることで嫌気処理工程の前に被処理水を濃縮する濃縮工程を更に備え、該濃縮工程後の被処理水を嫌気処理工程へ供給して嫌気処理を行うことからなる水処理方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
a 補正発明の濃縮工程が、被処理水として「BODが1000mg/L未満」であるものを用い、被処理水のBODを調整するのに対し、引用発明では、被処理水として「CODが424mg/L」の原水流を使用しており、BODを調整しているか明らかではない点(以下、「相違点a」という。)。
b 補正発明が、「濃縮工程では、前記被処理水のBODの調整を濃縮工程後の被処理水に対して測定されるTDS、導電率、又は、TOCの少なくとも何れか一つの測定値に基づいて行う」のに対し、引用発明では、濃縮工程の詳細が明らかではない点(以下、「相違点b」という。)。

(2)判断
ア 相違点aについて
まず相違点aについて検討するに、BODは生物化学的酸素要求量で、CODは化学的酸素要求量であり、CODが有機物と無機物の酸化分解のための酸素要求量であるのに対し、BODは有機物の微生物分解のための酸素要求量で、CODはBODとほぼ相関を示す指標で、その比はほぼ1程度であるといわれている。
この点について必要なら、「永井里央 他、事業場排水のCODとBODの関係性について、鹿児島県環境保健センター所報、第12号、2011年、第100?104頁」を参照されたい。特に、「3 結果及び考察」「3.1 事業場排水の水質の概要」(第100?101頁)には、「BOD/CODに着目すると、検体のBOD/COD=1と仮定した場合、BODとCODの関係は原点を通る傾き1の直線で表される。実際の近似式の傾きは1.03と1に近いが、・・・検体の多くがBOD/CODが1以下の領域に分布している。このことから、CODよりBODが低くなる傾向があることがわかる。」(第101頁左欄2?7行)と記載されている。
したがって、引用発明では被処理水としてCODが424mg/Lの原水流を使用していることからすれば、該処理水のBODは1000mg/L未満であるといえる。
また、引用発明の濃縮工程は、記載事項(ウ)より、生物反応による嫌気性消化を目的として有機物を濃縮しているので、補正発明と同様にBODを調整しているといえる。
このため、相違点aは実質的な相違点とならない。
また、仮に引用発明で使用する被処理水のBODが1000mg/L以上であるとした場合でも、引用発明では下水流を被処理水としており、下水流のBODは一般に低いことが知られているので、引用発明の下水処理技術をBODが1000mg/L未満の下水流の処理に適用することは、当業者が容易になし得るところである。
イ 相違点bについて
有機性排水中のBODの指標としてTOCや導電率の測定値を用いることは、当業者が一般的に行うことである(必要なら、特開2007-7494号公報の段落【0023】、特開2007-268468号公報の【請求項4】を参照)。
このため、引用発明の濃縮工程において、必要な濃度に有機物が濃縮されたことを、濃縮された原水流のTOCや導電率等の測定値に基づいて確認することは、当業者が容易になし得るところであり、その効果も格別のものとすることはできない。
したがって、補正発明は、引用例の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 本件補正についての結び
以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年8月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものであると認められる(以下「本願発明」という。)。
「有機物を含有する被処理水の嫌気処理を行う嫌気処理工程を備える水処理方法であって、
半透膜を介して被処理水から水分が浸透して浸透圧を生じるように構成されたドロー液とBODが1000mg/L未満である被処理水とを半透膜を介して接触させることで嫌気処理工程の前に被処理水の濃縮を行う濃縮工程を更に備え、該濃縮工程後の被処理水を嫌気処理工程へ供給して嫌気処理を行うことを特徴とする水処理方法。」

2 進歩性の判断
本願発明は、上記第2[理由]で検討した補正発明の「濃縮工程」について、「嫌気処理工程の前に被処理水を濃縮して被処理水のBODを調整する濃縮工程」「濃縮工程では、前記被処理水のBODの調整を濃縮工程後の被処理水に対して測定されるTDS、導電率、又は、TOCの少なくとも何れか一つの測定値に基づいて行う」との限定を解除したものに相当する。
そうすると、補正発明と引用発明の相違点a及びbのうち、相違点bは、本願発明と引用発明との相違点ではなくなり、また、相違点aについては、本願発明と引用発明とは、本願発明の濃縮工程が、被処理水として「BODが1000mg/L未満」の被処理水を濃縮するのに対し、引用発明では、「CODが424mg/L」の原水流を濃縮しており、BODを調整しているか明らかではない点(以下、「相違点a’」という。)でのみ相違し、その他の点では一致する。
そして、相違点a’について検討するに、前記「第2の[理由]3」に記載したとおり、相違点aは実質的な相違点でないか、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をなし得たものであるから、本願発明の相違点a’についても、同様の理由により、実質的な相違点でないか、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-28 
結審通知日 2015-10-30 
審決日 2015-11-10 
出願番号 特願2013-142998(P2013-142998)
審決分類 P 1 8・ 112- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 三恵  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 萩原 周治
真々田 忠博
発明の名称 水処理方法、および、水処理装置  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  

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