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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B02C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B02C
管理番号 1309356
審判番号 不服2015-823  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-15 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2012-118958「ジェットミルの作動方法及びジェットミル」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日出願公開、特開2012-245516〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年5月24日(パリ条約による優先権主張2011年5月27日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成25年10月17日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月22日に意見書が提出されたが、平成26年9月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年1月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年5月12日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年1月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成27年1月15日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)平成27年1月15日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1ないし15を、イに示す請求項1ないし15に補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「【請求項1】
動的エア分離機を組み込んだジェットミル(1)であって、粉末化チャンバ(5)内で粉末化原料(M)としての粒子を導入し、前記粉末化チャンバ(5)で作動媒体として過熱蒸気又は工業用ガス(He,H_(2))を使用して粉砕することにより微粒子に粉末化する、該ジェットミルの作動方法において、前記粉末化原料(M)に対して、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を導入することを特徴とする、ジェットミルの作動方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を、粉砕前に前記粉末化原料(M)に混合させる、ジェットミルの作動方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を、前記粉末化チャンバ(5)に直接送給する、ジェットミルの作動方法。
【請求項4】
請求項1?3のうちいずれか一項に記載の方法において、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を、前記作動媒体と一緒に前記ジェットミル(1)に導入する、ジェットミルの作動方法。
【請求項5】
請求項1?4のうちいずれか一項に記載の方法において、前記作動媒体は前記工業用ガス(He,H_(2))を含み、流入温度は少なくとも50゜Cとした、ジェットミルの作動方法。
【請求項6】
請求項1?4のうちいずれか一項に記載の方法において、前記作動媒体を過熱蒸気とし、前記過熱蒸気の流入温度は少なくとも、前記ジェットミル(1)を乾燥状態に維持する温度とする、ジェットミルの作動方法。
【請求項7】
請求項1?6のうちいずれか一項に記載の方法において、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤は、
・疎水性の安定化を生ずるため、ステアリン酸、又は
・親水性の安定化を生ずるため、ジオール、ポリオール、若しくは他の長鎖アルコールを含むものとする、ジェットミルの作動方法。
【請求項8】
請求項1?7のうちいずれか一項に記載の方法において、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤は、
・シラン、及び/又は
・ナフタレンスルフォン酸若しくはフェノールスルフォン酸の縮合物
を含むものとする、ジェットミルの作動方法。
【請求項9】
請求項1?8のうちいずれか一項に記載の方法において、添加剤の添加量は、ジェットミル1の粉末化原料粒子投入量の約0.1%?約4%とする、ジェットミルの作動方法。
【請求項10】
請求項1?9のうちいずれか一項に記載の方法を実施する、動的エア分離機を組み込んだジェットミル(1)であって、粉末化チャンバ(5)を設け、この粉末化チャンバ(5)内に粉末化原料導入装置(3)によって、粉末化原料(M)としての粒子を導入するとともに、作動媒体としての過熱蒸気又は工業用ガス(He,H_(2))を作動媒体導入装置(13)によって導入し、前記作動媒体内で前記粉末化原料(M)を粉砕することにより微粒子に粉末化する、該ジェットミルにおいて、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤用の表面活性添加剤導入装置(14a,14b,14c)を設けた、ことを特徴とするジェットミル。
【請求項11】
請求項10記載のジェットミルにおいて、前記表面活性添加剤導入装置(14a,14b,14c)を、前記粉末化原料導入装置(3)、前記粉末化チャンバ(5)、及び前記作動媒体導入装置(13)のうち少なくとも1つに開口させた、ジェットミル。
【請求項12】
請求項10又は11記載のジェットミルにおいて、前記ジェットミルは流動床ジェットミルとした、ジェットミル。
【請求項13】
請求項10又は11記載のジェットミルにおいて、前記ジェットミルは濃密床ジェットミルとした、ジェットミル。
【請求項14】
請求項10?13のうちいずれか一項に記載のジェットミルにおいて、前記作動媒体導入装置(13)は、少なくとも1個の作動媒体噴射ノズル(7)を有し、これら作動媒体噴射ノズルを、少なくとも1種類の表面活性添加剤用の中心流入口(15)の周りに配置した、ジェットミル。
【請求項15】
請求項14記載のジェットミルにおいて、前記少なくとも1個の作動媒体噴射ノズル(7)は、I型ノズルとした、ジェットミル。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「【請求項1】
動的エア分離機を組み込んだジェットミル(1)であって、粉末化チャンバ(5)内で粉末化原料(M)としての粒子を導入し、前記粉末化チャンバ(5)で作動媒体として過熱蒸気又は工業用ガス(He,H_(2))を使用して前記作動媒体により加速された前記粒子同士が衝突し前記粒子を粉砕することにより微粒子に粉末化する、該ジェットミルの作動方法において、前記粉末化原料(M)に対して、生ずる有効粒径d_(50)が2μmより小さい微粒子の再凝集を回避するため前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を導入することを特徴とする、ジェットミルの作動方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を、粉砕前に前記粉末化原料(M)に混合させる、ジェットミルの作動方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を、前記粉末化チャンバ(5)に直接送給する、ジェットミルの作動方法。
【請求項4】
請求項1?3のうちいずれか一項に記載の方法において、前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を、前記作動媒体と一緒に前記ジェットミル(1)に導入する、ジェットミルの作動方法。
【請求項5】
請求項1?4のうちいずれか一項に記載の方法において、前記作動媒体は前記工業用ガス(He,H_(2))を含み、流入温度は少なくとも50゜Cとした、ジェットミルの作動方法。
【請求項6】
請求項1?4のうちいずれか一項に記載の方法において、前記作動媒体を過熱蒸気とし、前記過熱蒸気の流入温度は少なくとも、前記ジェットミル(1)を乾燥状態に維持する温度とする、ジェットミルの作動方法。
【請求項7】
請求項1?6のうちいずれか一項に記載の方法において、前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤は、
・疎水性の安定化を生ずるため、ステアリン酸、又は
・親水性の安定化を生ずるため、ジオール、ポリオール、若しくは他の長鎖アルコール
を含むものとする、ジェットミルの作動方法。
【請求項8】
請求項1?7のうちいずれか一項に記載の方法において、前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤は、
・シラン、及び/又は
・ナフタレンスルフォン酸若しくはフェノールスルフォン酸の縮合物
を含むものとする、ジェットミルの作動方法。
【請求項9】
請求項1?8のうちいずれか一項に記載の方法において、添加剤の添加量は、ジェットミル(1)の粉末化原料粒子投入量の約0.1%?約4%とする、ジェットミルの作動方法。
【請求項10】
請求項1?9のうちいずれか一項に記載の方法を実施する、動的エア分離機を組み込んだジェットミル(1)であって、粉末化チャンバ(5)を設け、この粉末化チャンバ(5)内に粉末化原料導入装置(3)によって、粉末化原料(M)としての粒子を導入するとともに、作動媒体としての過熱蒸気又は工業用ガス(He,H_(2))を作動媒体導入装置(13)によって導入し、前記作動媒体内で前記粉末化原料(M)を粉砕することにより微粒子に粉末化する、該ジェットミルにおいて、生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤用の表面活性添加剤導入装置(14a,14b,14c)を設けた、ことを特徴とするジェットミル。
【請求項11】
請求項10記載のジェットミルにおいて、前記表面活性添加剤導入装置(14a,14b,14c)を、前記粉末化原料導入装置(3)、前記粉末化チャンバ(5)、及び前記作動媒体導入装置(13)のうち少なくとも1つに開口させた、ジェットミル。
【請求項12】
請求項10又は11記載のジェットミルにおいて、前記ジェットミルは流動床ジェットミルとした、ジェットミル。
【請求項13】
請求項10又は11記載のジェットミルにおいて、前記ジェットミルは濃密床ジェットミルとした、ジェットミル。
【請求項14】
請求項10?13のうちいずれか一項に記載のジェットミルにおいて、前記作動媒体導入装置(13)は、少なくとも1個の作動媒体噴射ノズル(7)を有し、これら作動媒体噴射ノズルを、少なくとも1種類の表面活性添加剤用の中心流入口(15)の周りに配置した、ジェットミル。
【請求項15】
請求項14記載のジェットミルにおいて、前記少なくとも1個の作動媒体噴射ノズル(7)は、I型ノズルとした、ジェットミル。」
(なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的について
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1における「生ずる微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤」という発明特定事項を、本件補正後に「生ずる有効粒径d_(50)が2μmより小さい微粒子の再凝集を回避するため前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤」とすることにより、「表面活性添加剤」の機能を限定する内容を含むものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
2-1-1 引用文献1
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2010-506708号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕システム(粉砕装置)、有利にはジェットミルを含む粉砕システムを用いる非晶質固体の粉砕法において、ミルを粉砕段階で気体及び/又は蒸気、有利には水蒸気、及び/又は水蒸気を含有する気体から成る群から選択した作業媒体を用いて作動させ、粉砕室を加熱段階で、即ち作業媒体を用いる本来の作業前に、粉砕室及び/又はミル出口の温度が蒸気及び/又は作業媒体の露点より高いように加熱することを特徴とする、非晶質固体の粉砕法。
【請求項2】
ジェットミルが、流動床対向ジェットミル又は固定床ジェットミル又はスパイラルジェットミルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粉砕システム又はミルが加熱段階で熱い気体及び/又は気体混合物、有利には熱い空気及び/又は燃料ガス及び/又は不活性ガス及び/又はその混合物を用いて作動させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
熱い気体及び/又は気体混合物を加熱段階の間に、入口、有利にはノズルを通して、粉砕段階の間に作業媒体が開放される場所とは異なる粉砕室中に導入することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
熱い気体及び/又は気体混合物を加熱段階の間に、入口、有利にはノズルを通して、粉砕段階の間に作業媒体が開放されもする粉砕室中に導入することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
加熱ガス用の入口、有利には加熱ノズル及び/又は作業媒体(粉砕ガス)用の入口、有利には粉砕ノズルが一つの平面で粉砕室下三分の一に、加熱噴射及び/又は粉砕噴射が全て粉砕容器の内面で一点に集まるように配置されていることを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
冷却するために乾燥気体及び/又は乾燥気体混合物、有利には乾燥空気及び/又は燃料ガス及び/又は不活性ガス及び/又はその混合物をミルを通して送ることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
粉砕システム又はミルの構成部品及び/又は装置部品への水蒸気の凝縮が阻止されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
作業媒体の温度が、粉砕段階で200?800℃の範囲であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
作業媒体の圧力が、粉砕段階で15?250バールの範囲であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
粉砕物の分級を有利には一体化された及び/又は動的分級機を用いて行うことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
分級を一体化された動的羽根車分級機及び/又は空気分級機を用いて行うことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
一体化された動的空気分級機(7)を有するジェットミル(1)を使用するが、その際、空気分級機(7)の分級ローター又は分級車輪(8)の回転数及び内部増強比V(=Di/DF)を、作業媒体(B)の周縁速度が分級車輪に取り付けられた浸漬管又は排出口ノズル(20)で、作業媒体(B)の音速の0.8倍までになるように選択又は調節することを特徴とする、請求項11又は12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
分級車輪と分級機ケーシングの間の間隙(分級機間隙)及び/又は分級車軸と分級機ケーシングの間の軸貫通部のフラッシングが可能であり及び/又はそれが行われる、粉砕システムを使用することを特徴とする、請求項11から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
分級車輪(8)及び分級車軸(35)並びに分級機ケーシング(21)を含み、その際、分級車輪(8)と分級機ケーシング(21)の間には分級機間隙(8a)があり、分級車軸(35)と分級機ケーシング(21)の間には軸貫通部(35b)が形成されている、一体化された動的空気分級機(7)を有するジェットミル(1)を使用しかつ分級機間隙(8a)及び/又は軸貫通部(35b)のフラッシングを低エネルギー含量の圧縮ガスを用いて行うことを特徴とする、請求項11から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
分級機中に達する粉砕ガス量を、得られる粉砕物の平均粒度(TEM)d_(50)が1.5μmより小さく及び/又はd_(90)-値が<2μm及び/又はd_(99)-値が<2μmであるように調節することを特徴とする、請求項10から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
非晶質固体が、ゲル又は凝集体及び/又は集塊物を含有する粒子、有利には少なくとも1種の金属及び/又は少なくとも1種の金属酸化物を含有するか又はそれらから成る非晶質固体、特に有利には元素の周期系の第3及び4主族の金属の非晶質酸化物であることを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
既に乾燥工程を施した非晶質粒子を粉砕することを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
非晶質粒子のフィルターケーキ又はヒドロゲルを粉砕又は同時に粉砕し、乾燥させることを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
平均粒度d_(50)(TEM)<1.5μm及び/又はd_(90)-値(TEM)<2μm及び/又はd_(99)-値(TEM)<2μmを有する非晶質粉末状固体。
【請求項21】
ゲル又は凝集体及び/又は集塊物を含有する粒状固体であり、有利には少なくとも1種の金属及び/又は金属酸化物を含有するか又はそれらから成る固体であり、特に有利には元素の周期系の第3及び4主族の金属の非晶質酸化物であることを特徴とする、請求項20に記載の非晶質固体。
【請求項22】
付加的に0.2?0.7ml/gの細孔容量を有するシリカゲルであることを特徴とする、請求項21に記載の非晶質固体。
【請求項23】
付加的に0.8?1.5ml/gの細孔容量を有するシリカゲルであることを特徴とする、請求項21に記載の非晶質固体。
【請求項24】
付加的に1.5?2.1ml/gの細孔容量を有するシリカゲルであることを特徴とする、請求項21に記載の非晶質固体。
【請求項25】
凝集体及び/又は集塊物を含有する粒状固体であり、有利には少なくとも1種の金属及び/又は金属酸化物を含有するか又はそれらから成る固体であり、特に有利には元素の周期系の第3及び4主族の金属の非晶質酸化物であることを特徴とする、請求項20に記載の非晶質固体。
【請求項26】
請求項20から25のいずれか1項に記載の非晶質固体の塗料系における使用。
【請求項27】
請求項20から26のいずれか1項に記載の非晶質固体少なくとも1種を含有する塗料。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項27】)

イ 「【0001】
本発明は、非常に小さい平均粒度並びに狭い粒度分布を有する粉末状非晶質固体、その製法並びにその使用に関する。
【0002】
背景技術
微細な非晶質珪酸及び珪酸塩はここ数十年来工業的に製造されている。通常、微粉砕はスパイラル-又は対向ジェットミルで粉砕ガスとして圧縮空気を用いて行われる(例えばEP0139279)。
【0003】
到達可能な粒径は粒子の衝撃速度の逆数値の平方根に比例することは公知である。衝撃速度はまた、使用されるノズルからの各粉砕媒体の膨張する気体噴射の噴射速度により前もって決められる。この理由から、非常に小さな粒度を生じさせるために有利には過熱蒸気を使用することができる。それは、蒸気の加速能力が空気より約50%大きいからである。しかし水蒸気の使用は、特にミルの運転開始の間に全粉砕システムで凝集を引き起こす恐れがあり、その結果、通常粉砕工程の間に集塊物及びクラストを生じることになるという欠点を有する。」(段落【0001】ないし【0003】)

ウ 「【0014】
本発明による方法を用いて初めて、平均粒度d_(50)<1.5μm並びにd_(90)-値<2μm及び/又はd_(99)-値<2μmによって表される狭い粒度分布を有する粉末状非晶質固体を製造することができる。
【0015】
このような小さな平均粒度を得るための非晶質固体、特に金属及び/又は金属酸化物を含有するようなもの、例えば元素の周期系の第3及び4主族の金属、例えば沈降珪酸、熱分解珪酸、珪酸塩及びシリカゲルの粉砕は、これまで湿式粉砕を用いてのみ可能であった。しかしそれによっては分散液を得ることしかできなかった。この分散液の乾燥により、非晶質粒子の再凝集が起こり、従って粉砕の効果が部分的に後戻りし、乾燥した粉末状固体で平均粒度d_(50)<1.5μm並びに粒度分布d_(90)-値<2μmを得ることができなかった。更に、ゲルの乾燥の場合には多孔率にマイナスの影響があった。
【0016】
本発明による方法は、公知技術の方法、特に湿式粉砕に対して、特に有利には更に高い多孔率も有しうる、非常に小さな平均粒度を有する粉末状生成物が直接得られる、乾燥粉砕であるという利点を有する。粉砕に引き続いて乾燥工程が必要でないので、乾燥の際の再凝集問題も回避される。」(段落【0014】ないし【0016】)

エ 「【0023】
概念粉末及び粉末状固体は、本発明では同義的に使用し、各々小さな乾燥粒子から成る微細に粉砕した固体物質を表し、その際、乾燥粒子は外から乾燥させた粒子であることを意味する。この粒子は通常確かに水分含量を有するが、この水分は粒子又はその毛管中に強固に結合しているので、室温及び大気圧で遊離しない。換言すれば、光学的方法で検出可能な粒状物質であり、懸濁液又は分散液ではない。更に、表面変性されている固体であっても表面変性されてない固体であってもよい。表面変性は有利には炭素を含有する塗料を用いて行うが、これは粉砕前又は後に行うことができる。
【0024】
本発明による固体は、ゲルとして又は集塊物及び/又は凝集体を含有する粒子として存在することができる。ゲルは、固体が一次粒子の安定な三次元の、有利には均質な網状物から成ることを意味する。この例はシリカゲルである。
【0025】
本発明で凝集体及び/又は集塊物を含有する粒子は、三次元網状構造を有さないか又は少なくとも全粒子に及ぶ一次粒子の網状構造は有さない。その代わりに、一次粒子の凝集体及び集塊物を有する。この例は、沈降珪酸及び熱分解珪酸である。
【0026】
沈降SiO_(2)と比較したシリカゲルの構造相違は、Iler R.K.、"The Chemistry of Silica"、1979、ISBN 0-471-02404-X、第5章、462頁並びに図3.25に記載されている。この刊行物の内容は本発明の説明に組み込む。
【0027】
本発明の方法は、粉砕システム(粉砕装置)中で、有利にはジェットミルを含む、特に有利には対向ジェットミルを含む粉砕システム中で行う。このために粉砕すべき供給物を高速度の膨張する気体噴射中で加速させ、粒子-粒子-衝突により粉砕する。ジェットミルとしては極めて特に有利には流動床対向ジェットミル又は固定床ジェットミル又はスパイラルジェットミルを使用する。極めて特別に有利な流動床対向ジェットミルの場合には、粉砕室下三分の一に、有利には粉砕ノズルの形の、2個以上の粉砕噴射入口があり、これは有利には水平平面に存在する。特に有利には粉砕噴射入口は、有利には丸い粉砕容器の周縁に、粉砕噴射が全て粉砕容器の内面で一点に集まるように配置されている。特に粉砕噴射ノズルが同時に粉砕容器周縁にわたり均一に分配されているのが有利である。従って3個の粉砕噴射ノズルの場合には、間隔は各々120°である。
【0028】
本発明による方法の特別な態様では、粉砕システム(粉砕装置)は分級機、有利には動的分級機、特に有利には動的羽根車分級機、特別有利には図2及び3による分級機を有する。
【0029】
特に有利な態様では、図2a及び3aによる動的空気分級機を使用する。この動的空気分級機は、分級車輪及び分級車軸並びに分級機ケーシングを有し、その際、分級車輪と分級機ケーシングの間には分級機間隙が形成されており、分級車輪と分級機ケーシングの間には軸貫通部が形成されており、分級機間隙及び/又は軸貫通部を低エネルギーの圧縮ガスでフラッシングすることを特徴とする。
【0030】
分級機を本発明による条件下で作動するジェットミルと組み合わせて使用することによって、粗大粒子を制限するが、その際、膨張した気体噴射と一緒に上昇する生成物粒子は粉砕容器中央から分級機を通って導入され、次いで十分な粉末度を有する生成物は分級機及びミルから排出される。粗すぎる粒子は粉砕帯域に戻し、更に粉砕する。
【0031】
粉砕システムで分級機は別の単位としてミルの下流に接続することができるが、しかし有利には一体化された分級機を使用する。
【0032】
本発明による方法の本質的な特徴は、本来の粉砕工程の前に加熱段階を設けており、その加熱段階で、粉砕室、特に有利にはミル及び/又は粉砕システムの主構成部分全て(そこで水及び/又は水蒸気が凝縮されうる)をその温度が蒸気の露点より上であるように確実に加熱する。加熱は通常どの加熱方法によって行ってもよい。しかし有利には加熱は、熱気体をミル及び/又は全粉砕システムを通すことによって行い、ミル出口の気体の温度が蒸気の露点より高いようにする。その際、特に有利には、熱気体が、水蒸気と接触するミル及び/又は全粉砕システムの主要構成部分全てを十分に加熱するように留意する。
【0033】
加熱気体としては原則として全ての任意の気体及び/又は気体混合物を使用することができるが、しかし有利には熱空気及び/又は燃料ガス及び/又は不活性ガスを使用する。熱気体の温度は水蒸気の露点より上である。
【0034】
熱気体は原則として任意に粉砕室に導入することができる。有利にはこのために粉砕室中に入口又はノズルが存在する。この入口又はノズルは、粉砕段階の間に粉砕噴射も導入する(粉砕ノズル)ような入口又はノズルであってよい。しかし、粉砕室に別個の入口又はノズル(加熱ノズル)が存在していて、そこから熱気体及び/又は気体混合物を導入することもできる。有利な態様では、加熱気体又は加熱気体混合物を少なくとも2個、有利には3個以上の平面に配置した入口又はノズルにより導入するが、これは有利には丸いミル容器の周縁に噴射が粉砕容器の内部の一点に当たるように配置されている。入口又はノズルが粉砕容器の周縁に均質に分散しているのが特に有利である。
【0035】
粉砕の間に、有利には粉砕ノズルの形の粉砕噴射入口を通して、作業媒体として気体及び/又は蒸気、有利には水蒸気及び/又は気体/水蒸気混合物を送る。この作業媒体は、通常空気より著しく高い音速(343m/s)、有利には少なくとも450m/sを有する。有利には作業媒体には水蒸気及び/又は水素ガス及び/又はアルゴン及び/又はヘリウムが含まれる。過熱した水蒸気が特に有利である。非常に微細な粉砕を達成するために、作業媒体が圧力15?250バール、特に有利には20?150バール、極めて特に有利には30?70バール及び特別に有利には40?65バールでミル中へ送られるのが特に有利であると実証された。同じく特に有利には作業媒体は、温度200?800℃、特に有利には250?600℃、特に300?400℃を有する。
【0036】
作業媒体が水蒸気である場合には、特に蒸気供給管が水蒸気源と接続されている場合には、粉砕-又は入口ノズルが、伸縮ベンドを具備している蒸気供給管に接続されているのが特に有利であると実証された。
【0037】
更に、ジェットミルの表面ができる限り小さな値を有し及び/又は流路が少なくとも十分に突出不含であり及び/又はジェットミルの構成部品が材料堆積を阻止するように設計されているのが、有利であると実証された。この手段によって、ミル中の粉砕物の堆積を付加的に阻止することができる。
【0038】
次に記載の本発明による方法の有利かつ特別な態様形並びにジェットミルの有利かつ特別好適な態様並びに図面及び図面の説明につき、例として本発明を詳説する、即ち本発明はこれらの実施-及び使用例又は個々の実施例内の特徴組み合わせに制限されるものではない。
【0039】
具体的な実施例に関連して記載し及び/又は図示してある個々の特徴は、これらの態様又はこれらの態様の残りの特徴に制限するものではなく、技術的可能な範囲で、本明細書で別に検討されてなくとも、その他の全ての修正法と組み合わせることができる。
【0040】
個々の図及び図面の図解中の同じ照合番号は、同一又は類似の構成部品又は同一又は類似作用を有する構成部品を表す。図面の表示により照合番号がないような特徴も、このような特徴が下記で詳説されているか否かに関係なく、明らかにされる。他方、本明細書に含まれるが、図面で明らかでないか又は記載されていない特徴も、当業者にとって直ちに理解される。
【0041】
既に前記したように、本発明による方法で、一体化された分級機、有利には一体化された動的空気分級機を有する、ジェットミル、有利には対向ジェットミルを微細粒子を製造するために使用することができる。特に有利には、空気分級機は、分級車輪及び分級車軸並びに分級機ケーシングを包含し、その際、分級車輪と分級機ケーシングの間には分級機間隙が形成されており、分級車輪と分級機ケーシングの間には軸貫通部が形成されており、分級機間隙及び/又は軸貫通部を低エネルギーの圧縮ガスでフラッシングするように機能する。
【0042】
その際有利にはフラッシングガスは、ミル内部圧力より少なくとも約0.4バール以上でない、特に有利には少なくとも約0.3バール以上でない、特には約0.2バール以上でない圧力で使用する。その際、ミル内部圧力は少なくともほぼ0.1?0.5バールの範囲であってよい。
【0043】
更に、温度約80?約120℃、特に約100℃を有するフラッシングガスを使用し及び/又はフラッシングガスとして、特に約0.3?約0.4バールを有する、低エネルギーの圧縮空気を使用するのが有利である。」(段落【0023】ないし【0043】)

(2)上記(1)アないしエ及び図面の記載から、以下のことが分かる。

カ 上記(1)ア及びエ並びに図1及び2の記載から、引用文献1には、動的空気分級機7を組み合わせたジェットミル1の作動方法が記載されていることが分かる。

キ 上記(1)エ(特に段落【0027】、【0030】、【0035】及び【0041】)及び図1の記載から、引用文献1に記載されたジェットミル1の作動方法において、ジェットミル1は、粉砕室3内で粉砕すべき供給物としての粒子を供給し、粉砕室3内で作動媒体として水蒸気及び/又は水素ガス及び/又はアルゴン及び/又はヘリウム等を使用して、前記作動媒体により加速された粒子同士が衝突により粉砕されて十分な粉末度を有する微細粒子に粉末化することが分かる。

ク 上記(1)ウの記載から、引用文献1に記載されたジェットミル1の作動方法により、平均粒度d_(50)<1.5μmの粉末状非晶質固体(微細粒子)を製造することができることが分かる。

ケ 上記(1)イの記載から、ジェットミルで水蒸気を使用すると、特にミルの運転開始の間に全粉砕システムで凝集を引き起こす恐れがあり、その結果、通常粉砕工程の間に集塊物及びクラストを生じることになるという欠点を有することが分かる。

コ 上記(1)ウの記載から、公知技術の湿式粉砕の際には、分散液の乾燥により、非晶質粒子の再凝集が起こるという、乾燥の際の再凝集問題があったことが分かる。

サ 上記(1)エ(特に段落【0023】)の記載から、粉砕前又は粉砕後に、炭素を含有する塗料を用いることにより表面変性を行うことができることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図1ないし10の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「動的空気分級機7を組み合わせたジェットミル1であって、粉砕室3内で粉砕すべき供給物としての粒子を供給し、粉砕室3で作動媒体として水蒸気及び/又は水素ガス及び/又はアルゴン及び/又はヘリウム等を使用して、前記作動媒体により加速された粒子同士が衝突し粒子を粉砕することにより微細粒子に粉末化する、ジェットミル1の作動方法において、生ずる平均粒度d_(50)<1.5μmの微細粒子の再凝集問題を回避する、ジェットミルの作動方法。」

また、上記(1)エ(特に段落【0023】)及び(2)サから、引用文献1には次の技術(以下、「引用文献1記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「粉砕前又は粉砕後に、炭素を含有する塗料を用いることにより粒子の表面変性を行う技術。」

2-1-2 引用文献2
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-91252号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

ア 「本発明は乾式粉砕としても知られている実質上乾燥状態での物質の微粉砕に関する。」(第4ページ左下欄第2ないし3行)

イ 「一方、ある場合には、物質粒子の互の衝突および摩耗により、実質上乾燥物質を自発的に粉砕できる。
本発明の方法は石灰石、大理石、白亜、か焼および未か焼カオリン、雲母、タルク、ウォラストナイト、マグネサイト、アルミナ、セッコーなどのような鉱物および無機物質に特に適しているが、有機物の微粉砕にも使用できる。石灰石、大理石、硬質、白亜は、本発明に従う方法を使い自発粉砕により効果的に微粉砕できる。」(第5ページ左上欄第9ないし18行)

ウ 「物質の性質および粉砕後の物質に望まれる性質に依存して、凝集体の形成を最小にするために、種々の界面活性剤を粉砕しようとする物質に添加するのが適当である。
たとえば、粉砕しようとする物質がアルカリ土類金属炭酸塩であり、粉砕された物質が疎水性表面をもつことが要求されるときは、適当な界面活性剤はアルキル基が12以上で20以下の炭素原子を有する脂肪酸である。ステアリン酸が特に適していることがわかった。脂肪酸の塩、特にステアリン酸カルシウムも使用できる。
(中略)
分散剤使用量は一般に粉砕しようとする乾燥物質の重量基準で0.01重量%以上で2重量%以下である。」(第5ページ右下欄第17行ないし第6ページ右下欄第2行)

エ 「第1図に示した装置において、粉砕しようとする物質を供給ホッパー1に入れ、ホッパーの底は電動機械35により駆動されるスクリューコンベア2に排出する。スクリューコンベア2は物質が粉砕容器4の供給入口3を通し重力により落下できるように当該物質を上昇させる。粉砕容器への物質の流れは回転弁5により制御される。界面活性剤用の供給装置6がスクリューコンベア2に排出する。
(中略)
ソレノイド作動弁51が導管49に設けられ、パルスのタイミングと時間とを制御する。」(第7ページ右下欄第5行ないし第8ページ右下欄第12行)

オ 「実施例2
21重量%が10ミクロンより大きい相当球径をもつ粒子からなり、38重量%が2ミクロンより小さい相当球径をもつ粒子からなるような粒度分布を有する白亜を、実施例1に記載のものと同1条件下に実施例1で使ったものと同一乾式粉砕ミルで粉砕したが、ただし入口15を通るパルスで注入された空気圧を白亜の異なる試料で変化させた。
白亜の各試料に対し、微粉砕白亜生産速度を測定し、微粉白亜をバグフィルタ-で分離し、波長457nmおよび570nmの光に対する反射率およびB.E.T.法により比表面を試験した。
ついで実験をくり返したが、各々の場合界面活性剤としてステアリン酸を白亜の重量基準で1重量%白亜に添加した。各々の場合、生産速度、可視光に対する反射率、比表面積を上記のように測定した。結果を第2表に示す。
(中略)
これらの結果から、サンドおよび白亜粒子床内への空気のパルスの注入は微粉白亜の生産速度を増加し、この生産速度はパルス空気の圧力が増すと増すが、粉砕生成物の明るさと粉末度のわずかの降下の犠牲があることがわかる。乾燥白亜の重量基準でステアリン酸1重量%の添加は、なおさらに生産速度の増加を生じるが、明るさのなおわずかの減少の犠牲がある。」(第9ページ右下欄第6行ないし第10ページ左下欄第8行)

カ 「実施例4
10重量%が10ミクロンより大きい相当球径をもつ粒子からなり、45重量%が2ミクロンより小さい相当球径をもつ粒子からなるような粒度分布を有する白亜を実施例1で使ったものと同一の乾式粉砕ミルに100g/時間の速度で供給し、粉砕容器には0.5?1.0mmの間の寸法の粒子からなるシリカサンド5kgを仕込んだ。空気を42L(審決注:原文はLの小文字の筆記体)/分の体積流量でプレナム室9に供給したが、追加の空気のパルスを使わなかった。
3種の異なる界面活性剤A、B、Cを白亜の重量基準で夫々0.03重量%、0.2重量%、0.5重量%の割合で使って9個の試験を行った。界面活性剤の化学的性質は次の通りであった。
A.次の一般構造式のアルキルプロピレンジアミン
RNHCH_(2)CH_(2)CH_(2)NH_(2)
ただしRは牛脂から誘導されるアルキル基である。
B.酢酸でAを処理して形成した二酢酸塩
C.ステアリン酸
各々の場合、微粉砕白亜の生産速度(g/時間)、波長457nmおよび570nmの光に対する反射率%、2μmより小さい相当球径をもつ粒子の重量%を測定し、結果を第3表に示す。
第3表(審決注:「2μmより小さいものの重量%」は、64%、68%、53%、52%、48%、52%、61%、67%、65%となっている。)」(第10ページ右下欄第8行ないし第11ページ右上欄の「第3表」)

(2)上記(1)アないしカ及び図面の記載から、以下のことが分かる。

サ 上記(1)アないしカ及び図面の記載から、引用文献2には、乾燥状態での物質の微粉砕において、ステアリン酸等の界面活性剤を添加する微粉砕方法が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)イの記載から、引用文献2に記載された微粉砕方法において、石灰石、大理石、白亜等を粉砕する場合には、物質粒子の互の衝突および摩耗を利用する自発粉砕により効果的に微粉砕できることが分かる。

ス 上記(1)カの第3表の記載から、「2μmより小さい相当球径をもつ粒子の重量%」は48?68%であるから、この場合に生産された粒子の相当球径はほぼ2μm以下であることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図1及び2の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「石灰石、大理石、白亜等の物質を自発粉砕により微粉砕する場合に、凝集体の形成を最小にするために、ステアリン酸等の界面活性剤を粉砕しようとする物質に添加する微粉砕方法。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「動的空気分級機7」は、その機能、作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「動的エア分離機」に相当し、以下同様に、「組み合わせた」は「組み込んだ」に、「ジェットミル1」は「ジェットミル」に、「粉砕室3」は「粉末化チャンバ」に、「粉砕すべき供給物」は「粉末化原料」に、「粒子」は「粒子」に、「供給し」は「導入し」に、「水蒸気及び/又は水素ガス及び/又はアルゴン及び/又はヘリウム等」は「過熱蒸気又は工業用ガス(He,H_(2))」に、「衝突」は「衝突」に、「微細粒子」は「微粒子」に、「微細粒子の再凝集問題を回避する」は「微粒子の再凝集を回避する」に、それぞれ相当する。
また、本願補正発明における「d_(50)」と引用発明における「d_(50)」は、ともに「平均粒子径」を意味していると認められ、引用発明における「平均粒度d_(50)<1.5μmの微細粒子」は、本願補正発明における「有効粒径d_(50)が2μmより小さい微粒子」に含まれるものである。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「動的エア分離機を組み込んだジェットミルであって、粉末化チャンバ内で粉末化原料としての粒子を導入し、前記粉末化チャンバで作動媒体として過熱蒸気又は工業用ガスを使用して前記作動媒体により加速された前記粒子同士が衝突し前記粒子を粉砕することにより微粒子に粉末化する、該ジェットミルの作動方法において、生ずる平均粒径d_(50)が2μmより小さい微粒子の再凝集を回避する、ジェットミルの作動方法。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明においては、「粉末化原料(M)に対して、生ずる有効粒径d_(50)が2μmより小さい微粒子の再凝集を回避するため前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を導入する」のに対し、引用発明においては、そのような表面活性添加剤を導入するかどうか明らかでない点(以下、「相違点」という)。

2-3 判断
(1)相違点について
引用文献1には、上記2-1-1(3)のように、
「粉砕前又は粉砕後に、炭素を含有する塗料を用いることにより粒子の表面変性を行う技術。」(引用文献1記載の技術)が記載されていることから、引用発明においても、粒子の表面に炭素を含有する塗料を用いることが認識されていることが分かる。
一方、引用文献2には、上記2-1-2(3)のように、
「石灰石、大理石、白亜等の物質を自発粉砕により微粉砕する場合に、凝集体の形成を最小にするために、ステアリン酸等の界面活性剤を粉砕しようとする物質に添加する微粉砕方法。」(引用文献2記載の技術)
が記載されている。
また、ジェットミルを使用する微粉砕方法においても、再凝集を防止するためにステアリン酸等の界面活性剤を添加する技術は周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、平成25年10月17日付け拒絶理由通知において引用された特開2011-72993号公報[例えば、段落【0078】及び【0079】の記載を参照。]、特開昭62-51609号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1、第2ページ左上欄第16行ないし第3ページ左上欄第17行等の記載を参照。]、特開2001-106939号公報[例えば、【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項12】、段落【0008】、【0012】及び【0013】等の記載を参照。]、特開2006-90020号公報[例えば、段落【0019】及び【0020】等の記載を参照。])である。
そして、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術は、ともに、物質の微粉砕という共通の技術分野において、鉱物の粒子を対象として、粒子同士を衝突させることにより粒子を微細化するという共通の技術に関するものである。
してみると、引用発明において、周知技術を参酌して、引用文献2記載の技術を適用することにより、粉末化原料に対して、微粒子の再凝集を回避するため前記微粒子を安定化させる少なくとも1種類の表面活性添加剤を導入することとして、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)本願補正発明の効果について
本願補正発明を全体としてみても、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術から当業者が予測される以上の格別の効果を奏するとは認められない。

(3)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成27年1月25日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし15に係る発明は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)アの請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、前記第2の〔理由〕2 2-1 2-1-1及び2-1-2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の〔理由〕2の2-2及び2-3において検討した本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものに相当する本願補正発明が、前記第2の〔理由〕2の2-3に記載したとおり、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から発明特定事項の一部を省いた本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果とはいえない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-28 
結審通知日 2015-08-04 
審決日 2015-08-17 
出願番号 特願2012-118958(P2012-118958)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B02C)
P 1 8・ 575- Z (B02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日下部 由泰村上 勝見  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 ジェットミルの作動方法及びジェットミル  
代理人 片山 修平  
代理人 片山 修平  

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