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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60N
管理番号 1309357
審判番号 不服2015-827  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-15 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2013-115647「作業車」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-177138〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成22年9月29日(以下「遡及出願日」という。)に特許出願した特願2010-218905号の一部を、平成25年5月31日に、特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたもので、平成25年9月18日付け、及び平成26年9月22日付けで手続補正書が提出され、同年10月8日付けで拒絶の査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同月16日)、これに対し、平成27年1月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

第2.平成27年1月15日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の趣旨
本件補正では、請求項1に関して次のとおりの補正がされた。
本件補正前の、
「【請求項1】
運転座席の横側方に位置するアームレストと、前記アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体と、車体側の座席支持台に前後方向に摺動調節自在に支持されて前記運転座席の前後位置調節を可能とする座席取付け部材とを備え、
前記レバー支持構造体には、走行変速操作のための変速レバーと作業部昇降操作のための昇降レバーが前後揺動操作自在に支持されており、
前記アームレストは、前記座席取付け部材に支持されており、
前記運転座席と前記アームレストとが一体的に前記前後方向に動くように構成されている作業車。」は、
本件補正により、
「【請求項1】
運転座席の横側方に位置するアームレストと、前記アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体と、車体側の座席支持台に前後方向に摺動調節自在に支持されて前記運転座席の前後位置調節を可能とする座席取付け部材とを備え、
前記レバー支持構造体には、走行変速操作のための変速レバーと作業部昇降操作のための昇降レバーが前後揺動操作自在に支持されており、
座席取付け部材は、前記運転座席の座部の前端側が機体に対して揺動自在に支持され、
前記アームレストは、前記座席取付け部材に支持されており、前記運転座席と前記アームレストとが一体的に前記前後方向に動き、且つ、一体的に上下揺動するように構成されている作業車。」と補正された。(下線は補正個所を示すために審決で付した。)

2.特許法第17条の2第3項の規定について
(1)特許法第17条の2第3項の規定によれば、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にする補正は、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないとされるところ、以下、本件補正が当該規定に係る要件を満たすものであるか否かについて検討する。
(2) 本件補正により、本件補正後の請求項1にアームレストは、「一体的に上下揺動する」との補正事項が追加された。
上記の補正事項について検討すると、願書に最初に添付した明細書、及び特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。)には、アームレストに関して、「本発明は、運転座席の横側方に位置するアームレストと、前記アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体とを備えた作業車に関する。」(段落【0001】)、「上記した作業車として、従来、たとえば特許文献1に記載された作業車両があった。特許文献1に記載されたものでは、アームレストとしての右アームレストの基部、レバー支持構造体としての右アームレストの延出部及び分岐部を備え、右アームレストの延出部に主変速レバーが設けられ、右アームレストの分岐部に作業部ポジションレバーが設けられる。」(段落【0002】)、「アームレストから延出するレバー支持構造体を備え、このレバー支持構造体に走行変速操作のための変速レバー及び作業部昇降操作のための昇降レバーを設けると、運転座席に着座したままでも変速レバー及び昇降レバーに手が容易に届いて走行速度の変更や作業部の昇降が行いやすくなる。」(段落【0004】)、「本第1発明は、運転座席の横側方に位置するアームレストと、前記アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体とを備えた作業車において・・・」(段落【0006】)、「本第1発明の構成によると、変速レバー及び昇降レバーがアームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体に支持されるものだから、運転座席に着座したままでも変速レバー及び昇降レバーに手が届きやすい。」(段落【0007】)、「本第2発明では、前記変速レバーガイド面部を前記アームレストの上面より低い配置高さに配置してある。」(段落【0009】)、「変速レバーガイド面部がアームレストの上面より高い配置高さにある場合、変速レバー及び昇降レバーを操作する際、ひじをアームレストに載せたままであると、手先が上向きになる側に手首が曲がって手に負担がかかりやすい。本第2発明の構成によると、変速レバーガイド面部をアームレストの上面より低い配置高さに配置してあるから、手先が上向きなる側に手首が曲がっても、曲がりを少なく済ませるか、あるいは手先が上向きにならなくて手首が曲がらないで済ませるか、あるいは手先が下向きになる側に手首が曲がり、手に負担がかかりにくく、変速レバーを殊に前方側に揺動操作しやすい。」(段落【0010】)、「従って、ひじをアームレストに載せたままでも変速レバーを前方側に操作しやすくて、アームレストを使用しやすくできる。」(段落【0011】)、「図7は、アームレスト20及びレバー支持構造体30の構造を示す右側面図である。図8は、アームレスト20及びレバー支持構造体30の構造を示す平面図である。図9は、レバー支持構造体30の構造を示す左側面図である。これらの図及び図3,4,5に示すように、アームレスト20は、運転座席3の座部の下面側に設けられた座席取付け部材3aから延出する支柱部材21の上部に支持されてアームレスト20のベース部22を構成する板金部材と、ベース部22に支持されてアームレスト20の外装部23を構成する樹脂部材と、外装部23の上面側に装着されて肘載せ面24を形成する樹脂製の板状部材とによって構成してある。外装部23は、アームレスト20の外観形状を形成している。座席取付け部材3aは、車体側の座席支持台3Aに前後方向に摺動調節自在に支持されて運転座席3の前後位置調節を可能にしている。座席取付け部材3aは、座部の前端側を枢支部3bで回動自在に支持して運転座席3の上下揺動開閉を可能にしている。」(段落【0023】)、「レバー支持構造体30は、車体平面視においてアームレスト20に対して車体前方側に至るほど車体横外側に位置する状態に傾斜している。外装部32における下側部分32bは、下端側ほど車体横方向での大きさが小となる下細り形状になり、さらに、レバー支持構造体30の前端部30Fの平面視形状が先細りになっており、レバー支持構造体30のアームレスト20に対する傾斜にかかわらず、レバー支持構造体30が運転座席3の座部と後輪フェンダー2Fとの間に入り込みやすくなっている。」(段落【0025】)、「変速レバーガイド溝35及び昇降レバーガイド溝37は、アームレスト20に対して前方側に至るほど車体横外側に位置する状態で傾斜している。」(段落【0032】)、「変速レバーガイド面部33を、アームレスト20の肘載せ面24で成る上面より少し低い配置高さに配置してある。レバー支持構造体30の変速レバーガイド面部33とアームレスト20の間に位置する部位に、車体上方向きに開口し、底部がアームレスト20の肘載せ面24で成る上面及び変速レバーガイド面部33より低い配置高さに位置する凹入部30aを設けてある。」(段落【0038】)、「別の実施構造を備えた操作装置Sでは、変速レバーガイド面部33及び昇降レバーガイド面部34を、アームレスト20の上面24より高い配置高さにしている。」(段落【0045】)、及び「2)上記した実施例では、アームレスト20及びレバー支持構造体30を運転座席3の右横側方に配置した例を示したが、運転座席3の左横側方に配置してもよい。」(段落【0047】)と記載されている。また、願書に最初に添付した図面(以下「当初図面」という。)の図1?5、12、及び13には、アームレスト20が開示されている。しかしながら、アームレストが運転座席と「一体的に上下揺動する」との事項は、当初明細書等や当初図面に記載されておらず、また、当初明細書や当初図面の記載から導き出せる自明の事項であるともいえない。
したがって、上記補正事項は、当初明細書等または当初図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。

3.むすび
以上のとおりであって、上記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等または当初図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願の発明について
1.本願の発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年9月22日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
運転座席の横側方に位置するアームレストと、前記アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体と、車体側の座席支持台に前後方向に摺動調節自在に支持されて前記運転座席の前後位置調節を可能とする座席取付け部材とを備え、
前記レバー支持構造体には、走行変速操作のための変速レバーと作業部昇降操作のための昇降レバーが前後揺動操作自在に支持されており、
前記アームレストは、前記座席取付け部材に支持されており、
前記運転座席と前記アームレストとが一体的に前記前後方向に動くように構成されている作業車。」

2.引用例
(1)原査定に係る拒絶理由通知で引用された、本願の遡及出願日前である平成20年10月23日に頒布された刊行物である特開2008-254536号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
本発明は、農作業用のトラクタ又は土木作業用のホイルローダ等のような作業車両に関するものである。」
イ.「【0008】
この技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を、油圧式無段変速機にて変速して走行部や作業部に伝達するように構成されている作業車両であって、前記走行機体における操縦座席の少なくとも左右いずれか一方には、オペレータの腕や手を載せるためのアームレストが配置されており、前記アームレストの上面には走行系操作手段及び作業系操作手段が配置されており、前記アームレストは後端側を支点として上下方向に回動可能であり、且つ、その回動姿勢が複数段階又は無段階に調節可能に構成されているというものである。」
ウ.「【0094】
(5).操縦座席及びその周辺の構造
次に、図7?図9を参照しながら、操縦座席8とその周辺の構造について説明する。
【0095】
図7及び図8に示すように、キャビン7内における操縦座席8の前方には、エンジン5の後部側を囲うステアリングコラム245が配置されている。・・・
【0096】
キャビン7内にある操縦座席8の下部には枠部材260が取り付けられている。枠部材260は、ミッションケース17の上方を覆うリヤカウル261上に、左右一対の移動案内レール手段262を介して、走行機体2の進行方向に沿って位置調節可能(前後スライド可能)に取り付けられている。
【0097】
左右の移動案内レール手段262は、リヤカウル261上に固定された固定側レール263と、枠部材260の下面に固定された可動側レール264とからなるものである。この場合、固定側レール263に可動側レール264を前後スライド可能に嵌め合わせることによって、枠部材260ひいては操縦座席8が、座席最後位置(図7及び図8の実線状態参照)から座席最前位置(図7及び図8の二点鎖線状態参照)までの摺動ストロークSSの範囲内で前後スライド可能になっている。」
エ.「【0099】
操縦座席8の左右両側には、操縦座席8に着座したオペレータの腕や肘を載せるための肘掛け装置265,266が設けられている。これら肘掛け装置265,266は、オペレータの腕や肘を支持するアームレスト271,272の形状が若干異なる以外は基本的に同じ構造なので、ここでは、操縦座席の右側にある右肘掛け装置265の構造を代表として説明する。
【0100】
右肘掛け装置265は、枠部材260の右側部に立設された厚肉のブラケット部材270と、ブラケット部材270の上部に装着された前後長手で中空状の右アームレスト271とを備えている。ブラケット部材270は、操縦座席8の前後スライドとは別個独立して、走行機体2の進行方向(前後方向)に沿って位置調節可能(前後スライド可能)に構成されている。
【0101】
実施形態では、枠部材260の左右側部に、前後方向に沿って延びる調節溝孔269が2つずつ形成されている。そして、各調節溝孔269に差し込んだボルト273及びナット274にて、ブラケット部材270を枠部材260の右側部に外側から重ねて締結することにより、ブラケット部材270ひいては右肘掛け装置265は、調節溝孔269の可動ストロークSAの範囲内で、操縦座席8に対して前後スライド可能になっている。換言すると、右肘掛け装置265は、最後位置(図9の実線状態参照)から最前位置(図9の二点鎖線状態参照)までの可動ストロークSAの範囲内で、操縦座席8に対して前後スライド可能になっている。
【0102】
このように肘掛け装置265,266を前後可動式に構成すると、操縦座席8に着座するオペレータの体格や作業姿勢に応じて肘掛け装置265,266の前後位置を調節できるので、オペレータの腕を的確に支持できる。」
オ.「【0111】
(6).右アームレストの詳細構造
次に、図7?図12を参照しながら、右アームレスト271の詳細構造について説明する。
【0112】
図7及び図11に示すように、右アームレスト271は、前後に長い基部281と、基部281から前向きに延びた延出部282と、基部281の前部(延出部282の後部でもある)から操縦座席8と離れる方向(実施形態では右方向)に分岐した分岐部283とを備えている。右アームレストの前部を構成する延出部282と分岐部283とは平面視で二股状の形態になっており、右アームレスト271全体としては平面視略Y字状の形態になっている。」
カ.「【0116】
右アームレスト271における延出部282の上面左側には、側面視において上向き凸湾曲状(かまぼこ形)の突出部分287が一体的に形成されている。また、突出部分287には、走行系操作手段を構成する主変速操作体としての主変速レバー290が前後傾動操作可能に設けられている。」
キ.「【0121】
右アームレスト271における分岐部283の上面には、側面視において上向き凸湾曲状(かまぼこ形)の突出部分297が一体的に形成されている。突出部分297のうち延出部282に臨む側面部には、突出部分297の上面(湾曲稜線)よりも上方に突き出た側面視略円弧状のつば部299が形成されている。また、突出部分297には、作業系操作手段を構成する作業部昇降操作体としての作業部ポジションレバー300が前後傾動操作可能に設けられている。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「走行機体における操縦座席の少なくとも左右いずれか一方には、オペレータの腕や手を載せるためのアームレストが配置されており、前記アームレストの上面には走行系操作手段及び作業系操作手段が配置されている農作業用のトラクタや土木作業用のホイルローダ等の作業車両であって、
操縦座席8の下部には枠部材260が取り付けられて、枠部材260は、ミッションケース17の上方を覆うリヤカウル261上に、左右一対の移動案内レール手段262を介して、走行機体2の進行方向に沿って位置調節可能に取り付けられていて、枠部材260ひいては操縦座席8が前後スライド可能になっており、
操縦座席8の左右両側に、操縦座席8に着座したオペレータの腕や肘を載せるための肘掛け装置265,266が設けられ、右肘掛け装置265は、枠部材260の右側部に立設された厚肉のブラケット部材270と、ブラケット部材270の上部に装着された前後長手で中空状の右アームレスト271とを備えていて、枠部材260の前後方向に沿って延びるように形成された調節溝孔269に差し込んだボルト273及びナット274にて、ブラケット部材270を枠部材260の右側部に外側から重ねて締結することにより、ブラケット部材270ひいては右アームレスト271を備える右肘掛け装置265は、操縦座席8の前後スライドとは別個独立して、走行機体2の進行方向(前後方向)に沿って位置調節可能(前後スライド可能)に構成されており、
右アームレスト271は、前後に長い基部281と、基部281から前向きに延びた延出部282と、基部281の前部(延出部282の後部でもある)から操縦座席8と離れる方向に分岐した分岐部283とを備えていて、右アームレスト271における延出部282の上面左側には、走行系操作手段を構成する主変速操作体としての主変速レバー290が前後傾動操作可能に設けられ、右アームレスト271における分岐部283の上面には、作業系操作手段を構成する作業部昇降操作体としての作業部ポジションレバー300が前後傾動操作可能に設けられている作業車両。」

(2)原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の遡及出願日前である平成22年9月10日に頒布された刊行物である国際公開第2010/101085号(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「[0001] 本発明は、例えばホイールローダ等の建設機械のオペレータ用シート構造体に関する。」
イ.「[0016][第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るシート構造体10を示す正面図、図2は、シート構造体10を背面側から見た斜視図、図3は、シート構造体10の分解斜視図である。シート構造体10は、ホイールローダ等の建設機械に設けられた図示略のキャブ内に配置されるものであり、キャブのフロアフレーム11上に固定されたサスペンション装置20と、サスペンション装置20の上部にそれぞれ配置されたオペレータ用のシート30および作業機コンソール40とを備えて構成されている。なお、建設機械としては、ホイールローダに限定されず、ブルドーザ、油圧ショベルなどであってもよい。
[0017] サスペンション装置20は、フロアフレーム11にボルト止め等される鋼板製のベースフレーム21と、ベースフレーム21上に取り付けられた装置本体22とを備えている。このうち、装置本体22は、全体が合成ゴム製のベローズ22Aで覆われた構造であり、ベローズ22Aの内部には、図示を省略するが、ベースフレーム21を基端として上下に伸縮自在に構成されたリンク機構、リンク機構の上部に取り付けられた取付盤23、取付盤23を上方側に付勢支持し、かつ上下の振動を吸収減衰させる油圧ダンパが設けられている。取付盤23には、リンク機構の伸縮動作を規制・解除してシート30の高さ位置を調整する高さ位置調整レバー24が設けられている。」
ウ.「[0019] 作業機コンソール40は、シート30に対して右側(本実施形態において、前後左右とは、着座したオペレータを基準にした場合をいう。)に配置されており、複数の作業機レバー41およびスイッチ群42を備えている。・・・作業機レバー41の後方側には他方のアームレスト43が設けられ、アームレスト43に肘をかけた状態で作業機レバー41を操作可能である。
[0020] スイッチ群42は、作業機レバー41およびアームレスト43のさらに外側に配置されている。スイッチ群42としては、エンジンのスタートキースイッチ、運転モードの切換を行うシフトモードスイッチ、T/Mカットオフスイッチ、その他作業機系のスイッチ、走行系のスイッチ、メンテナンス系のスイッチ等で構成される。作業機コンソール40の内部には、作業機レバー41の操作量に応じた指令信号を出力するポテンショや、各種スイッチに接続された電子回路部品が収容されている。このような作業機コンソール40は、平板状の取付ブラケット50を介してサスペンション装置20の取付盤23上に取り付けられている。」
エ.「[0029][第2実施形態]
図5には、本発明の第2実施形態に係るシート構造体10が示されている。本実施形態では、取付ブラケット50全体が四角形状とされ、取付ブラケット50上にはシート30がスライドレール34を介すことなく直接固定されている。すなわち、スライドレール34は、取付ブラケット50とサスペンション装置20の取付盤23との間に介装され、取付ブラケット50ごとシート30および作業機コンソール40が前後にスライドするようになっている。
[0030] このような本実施形態では、取付ブラケット50をスライドさせることで、シート30および作業機コンソール40が同時にスライドするため、オペレータの体格に合わせてそれらを個別にスライドさせる手間を省くことができ、また、作業機コンソール40をスライドレール44を用いてスライドさせることにより、作業機コンソール40の前後位置を微調整できるという効果もある。」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「ホイールローダ等の建設機械のオペレータ用シート構造体であって、
シート構造体10は、ホイールローダ等の建設機械に設けられたキャブ内に配置されるものであり、キャブのフロアフレーム11上に固定されたサスペンション装置20と、サスペンション装置20の上部にそれぞれ配置されたオペレータ用のシート30および作業機コンソール40とを備えて構成され、
作業機コンソール40は、シート30に対して右側に配置されており、複数の作業機レバー41およびスイッチ群42を備えていて、作業機レバー41の後方側には他方のアームレスト43が設けられ、アームレスト43に肘をかけた状態で作業機レバー41を操作可能とされており、
作業機コンソール40は、平板状の取付ブラケット50を介してサスペンション装置20の取付盤23上に取り付けられ、
取付ブラケット50上にはシート30がスライドレール34を介すことなく直接固定されており、スライドレール34は、取付ブラケット50とサスペンション装置20の取付盤23との間に介装され、取付ブラケット50をスライドさせることで、シート30および作業機コンソール40が同時にスライドするため、オペレータの体格に合わせてそれらを個別にスライドさせる手間を省くことができ、また、作業機コンソール40をスライドレール44を用いてスライドさせることにより、作業機コンソール40の前後位置を微調整できるシート構造体。」

3.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者の「操縦座席」は、その機能、作用等からみて、前者の「運転座席」に相当するものであり、以下同様に、「操縦座席の少なくとも左右いずれか一方に配置されるアームレストの基部」は「運転座席の横側方に位置するアームレスト」に、「基部から前向きに延びた延出部、及び基部の前部から分岐した分岐部」は「アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体」に、「ミッションケースの上方を覆うリヤカウル」は「車体側の座席支持台」に、「枠部材」は「座席取付け部材」に、「走行系操作手段を構成する主変速操作体としての主変速レバー」は「走行変速操作のための変速レバー」に、「作業系操作手段を構成する作業部昇降操作体としての作業部ポジションレバー」は「作業部昇降操作のための昇降レバー」に、「前後傾動操作可能」は「前後揺動操作自在」に、「作業車両」は「作業車」に、それぞれ相当する。
また、後者において、「枠部材260は、走行機体2の進行方向に沿って位置調節可能に取り付けられていて、枠部材260ひいては操縦座席8が前後スライド可能になって」いるが、「枠部材260(座席取付け部材)が前後方向に摺動調節自在に支持されて操縦座席(運転座席)の前後位置調節を可能とする」といえる。
さらに、後者のおいて、「右肘掛け装置265は、枠部材260の右側部に立設された厚肉のブラケット部材270と、ブラケット部材270の上部に装着された前後長手で中空状の右アームレスト271とを備えていて」としているのは、前者で、「アームレストの基部(アームレスト)は、枠部材(座席取付け部材)に支持されている」といえる。

したがって、両者は、
「運転座席の横側方に位置するアームレストと、前記アームレストの前端部から車体前方向きに延出するレバー支持構造体と、車体側の座席支持台に前後方向に摺動調節自在に支持されて前記運転座席の前後位置調節を可能とする座席取付け部材とを備え、
前記レバー支持構造体には、走行変速操作のための変速レバーと作業部昇降操作のための昇降レバーが前後揺動操作自在に支持されており、
前記アームレストは、前記座席取付け部材に支持されている作業車。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明は、「運転座席とアームレストとが一体的に前後方向に動くように構成されている」のに対し、引用発明1は、「右アームレスト271を備える右肘掛け装置265は、操縦座席8の前後スライドとは別個独立して、走行機体2の進行方向(前後方向)に沿って位置調節可能(前後スライド可能)に構成されて」いるが、操縦座席(運転座席)とアームレストの基部(アームレスト)とが「一体的に」前後方向に動くか否かは明確ではない点。

4.判断
上記の相違点について検討すると、引用発明1では「枠部材260の調節溝孔269に差し込んだボルト273及びナット274にて、ブラケット部材270を枠部材260の右側部に外側から重ねて締結することにより、右肘掛け装置265は、操縦座席8の前後スライドとは別個独立して、走行機体2の進行方向(前後方向)に沿って位置調節可能(前後スライド可能)」としているが、ここでいう右肘掛け装置265が「走行機体2の進行方向(前後方向)に沿って位置調節可能(前後スライド可能)」というのは、技術常識に照らせば、右肘掛け装置を操縦座席に対して常に前後スライド可能な状態のままにしておくというのではなく、右肘掛け装置の操縦座席に対する位置を調節するために、右肘掛け装置を前後にスライドさせて、位置調節した後、ボルト及びナットを締め付けて、ブラケット部材を枠部材に対して固定することと解するのが技術的に合理的であり、その結果として、操縦座席(運転座席)とアームレストの基部(アームレスト)とは「一体的に」前後方向に動くことになるものと推認される。
また、引用発明2は、上記「2.(2)」のとおりであって、引用発明2の「(作業機コンソール40が備える)アームレスト43」及び「シート30」は、本願発明の「アームレスト」及び「運転座席」に相当し、引用発明2は、取付ブラケット50をスライドさせることで、「シート30および作業機コンソール40が同時にスライドする」から、シート30(運転座席)とアームレスト43(アームレスト)とが一体的に前後方向に動くように構成されているといえる。
してみると、引用発明2には、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項が示されている。
なお、引用発明2において、「作業機コンソール40をスライドレール44を用いてスライドさせることにより、作業機コンソール40の前後位置を微調整できる」としているのは、上記で引用発明1に関して指摘したのと同様に、作業機コンソール(アームレスト)をシート(運転座席)に対して前後にスライドさせて、「前後位置を微調整」(位置調節)することが可能であることを示している。
そして、引用発明1と引用発明2とは、作業車という共通の技術分野に属し、運転座席、及びアームレストの前後位置調整という共通の作用・機能を有するものであるから、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者であれば容易に想到し得るところである。
してみれば、引用発明1において、上記引用発明2を適用して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る程度の事項といえる。
そして、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1、及び引用発明2から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-30 
結審通知日 2015-11-04 
審決日 2015-11-18 
出願番号 特願2013-115647(P2013-115647)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 黒瀬 雅一
山本 一
発明の名称 作業車  
代理人 特許業務法人R&C  

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