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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1309368
審判番号 不服2015-7382  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-20 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2011- 82122「車両用駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開、特開2012-214176〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月1日の出願であって、平成26年9月1日付けで拒絶理由が通知され、平成26年10月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年4月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年8月21日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成27年4月20日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)平成27年4月20日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてみれば、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年10月31日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1を、イに示す請求項1に補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
車両の駆動力を発生する電動機と、
前記電動機と車輪との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
前記断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態における前記断接手段の締結力を制御する断接手段制御装置と、
前記電動機と前記伝達経路との少なくとも一方に潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を供給する液状流体供給装置と、を備え、前記電動機と前記伝達経路の回転部の少なくとも一部が貯留した前記液状流体中に位置する車両用駆動装置であって、
前記断接手段制御装置は、前記液状流体の粘性又は粘性相関量に基づいて接続状態における前記断接手段の締結力を制御することを特徴とする車両用駆動装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
車両の駆動力を発生する電動機と、
前記電動機と車輪との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
前記断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態における前記断接手段の締結力を制御する断接手段制御装置と、
前記電動機と前記伝達経路との少なくとも一方に潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を供給する液状流体供給装置と、を備え、前記電動機と前記伝達経路の回転部の少なくとも一部が貯留した前記液状流体中に位置する車両用駆動装置であって、
前記断接手段は液圧駆動式であって、
該液圧は前記液状流体供給装置によって供給され、
前記締結力は、前記液圧に応じて変化し、
前記断接手段制御装置は、前記液状流体の粘性又は粘性相関量に基づいて前記液圧を調整することにより前記締結力を制御することを特徴とする車両用駆動装置。」
なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

(2)本件補正の目的について
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1における「断接手段」という発明特定事項について、本件補正後に「 前記断接手段は液圧駆動式であって、 該液圧は前記液状流体供給装置によって供給され、 前記締結力は、前記液圧に応じて変化し」という事項を付加するとともに、本件補正前の請求項1における「断接手段制御装置」という発明特定事項について、本件補正前の「前記断接手段制御装置は、前記液状流体の粘性又は粘性相関量に基づいて接続状態における前記断接手段の締結力を制御する」という事項を、本件補正後に「前記断接手段制御装置は、前記液状流体の粘性又は粘性相関量に基づいて前記液圧を調整することにより前記締結力を制御する」とすることにより、断接手段及び断接手段制御装置の構造及び作用を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
2-1-1 引用文献1
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-185078号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪駆動用の電動機と、
この電動機の駆動回転を減速する減速機と、
この減速機の出力を車両左右の車輪に分配する差動装置と、
車両左右のいずれか一方の車輪と前記差動装置の間に設けられた、動力の接続と遮断を行う断接手段と、
を備えた車両駆動装置において、
前記電動機によって駆動されるオイルポンプと、
前記オイルポンプから前記断接手段に作動用の油を供給する第1油路と、
前記オイルポンプから前記差動装置に潤滑用の油を供給する第2油路と、
前記油の供給路を前記第1油路または前記第2油路に切り換える第1切換弁と、
前記第1切換弁の動作を制御する第1電磁弁と、
前記第1電磁弁の動作を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする車両駆動装置の油圧回路。
【請求項2】
前記断接手段の断接に対応して前記油の供給路を切り換える第2切換弁と、
前記第2切換弁の動作を制御する第2電磁弁と、を備え、
前記制御部は、前記第1電磁弁に加えて前記第2電磁弁の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両駆動装置の油圧回路。
【請求項3】
前記制御部は、
前記断接手段を遮断状態から接続状態へと切り換える場合には、前記第1電磁弁および前記第2電磁弁の両方を作動させ、
前記断接手段を接続状態から遮断状態へと切り換える場合には、前記第1電磁弁のみを作動させる
ことを特徴とする請求項2に記載の車両駆動装置の油圧回路。
【請求項4】
前記制御部は、前記断接手段を遮断状態から接続状態へと切り換えた後、最初に前記第1電磁弁を停止し、次に前記第2電磁弁を停止することを特徴とする請求項3に記載の車両駆動装置の油圧回路。
【請求項5】
前記電動機、前記減速機および前記差動装置を格納するとともに、前記油が回収される格納室と、
前記格納室から区画され、前記電動機の前進駆動時に前記油を一時貯留する油貯留部と、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両駆動装置の油圧回路。
【請求項6】
前記第2油路は、前記差動装置に加えて前記減速機にも潤滑用の油を供給し、さらに前記油貯留部にも一時貯留用の前記油を供給することを特徴とする請求項5に記載の車両駆動装置の油圧回路。
【請求項7】
前記油貯留部は、前記油の貯留量が所定量以上になった場合に、前記格納室に前記油を供給することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の車両駆動装置の油圧回路。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】)

イ 「【0001】
この発明は、電動機の駆動力を車両左右の車輪に差動装置を介して伝達する車両駆動装置の油圧回路に関するものである。」(段落【0001】)

ウ 「【0002】
車両の駆動装置として、車両左右の車軸を差動装置に連結するとともに、一方の車軸の外周に同軸に配置した電動機によって差動装置に駆動力を伝達するようにしたものが案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この駆動装置は、車軸駆動用の電動機と、その電動機の駆動回転を減速する遊星歯車式減速機と、その減速機の出力を車両左右の車輪に分配する差動装置とが、一体のハウジングに収容されている。電動機のロータには遊星歯車式減速機のサンギヤが連結され、そのサンギヤがプラネタリギヤに噛合されるとともに、プラネタリキャリアが差動装置のディファレンシャルケースに連結されている。プラネタリギヤはさらにリングギヤに噛合され、そのリングギヤは油圧クラッチによって制動制御されるようになっている。
油圧クラッチによるリングギヤの制動が解除されると、電動機から車輪への動力伝達が遮断される。これにより、車輪側回転速度が電動機側回転速度よりも速いとき(減速時)等に、電動機の過剰回転や車軸フリクションの増大を防止することができる。
【0004】
この油圧クラッチを動作させる油圧回路では、オイルポンプから吐出されたオイルを、切換バルブを介して潤滑油路(低圧油路)とクラッチ側油路(高圧油路)に切り換えられるようになっている。クラッチ側油路には、クラッチ操作用の開閉弁とともに、アキュムレータが設けられている。アキュムレータは、油圧クラッチを操作するときの圧力を安定させるために設けられている。なおアキュムレータの圧力をコントローラにフィードバックするため、圧力センサが設けられている。
【0005】
上述した油圧回路において、アキュムレータへの蓄圧時には、切換バルブをクラッチ側油路に切り換え、オイルポンプから油圧クラッチおよびアキュムレータに対して高圧の作動油を供給する。アキュムレータが所定圧力まで上昇したら、切換バルブを潤滑油路に切り換え、オイルポンプから電動機、遊星歯車式減速機および差動装置に対して低圧の潤滑油を供給する。なおハウジング内には、電動機、遊星歯車式減速機および差動装置の下部領域に跨るようにオイル貯留部が設けられている。
【特許文献1】特開2006-264647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術に係る車両駆動装置の油圧回路の場合、高圧にてアキュムレータの調圧を行った後に、減圧して潤滑油を供給するので、オイルポンプの損失が大きくなるという問題がある。
【0007】
また上述した従来技術に係る車両駆動装置では、リングギヤの制動が解除されると、遊星歯車式減速機のリングギヤ、プラネタリギヤおよびプラネタリキャリア、並びに差動装置が、車輪とともに空転することになる。ところが、ハウジング内の下部領域のみにオイルが貯留されているので、減速機や差動装置の空転による焼き付きや異常磨耗が懸念される。なおハウジング内の貯留油量を増加させれば、その油によって減速機や差動装置が冷却および潤滑されるので、焼き付きや異常磨耗を防止することが可能になる。しかしながらこの場合には、各ギヤによるオイル撹拌や電動機のフリクション等により、動力伝達時の損失が増大することになる。
【0008】
そこでこの発明は、オイルポンプの損失を低減することが可能であり、また焼き付きの防止と動力損失の低減とを両立させることが可能な、車両駆動装置の油圧回路を提供しようとするものである。」(段落【0002】ないし【0008】)

エ 「【0009】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、車輪駆動用の電動機(例えば、後述の実施形態における電動機2)と、この電動機の駆動回転を減速する減速機(例えば、後述の実施形態における遊星歯車式減速機12)と、この減速機の出力を車両左右の車輪に分配する差動装置(例えば、後述の実施形態における差動装置13)と、車両左右のいずれか一方の車輪と前記差動装置の間に設けられた、動力の接続と遮断を行う断接手段(例えば、後述の実施形態におけるシンクロメッシュ機構37)と、を備えた車両の駆動装置(例えば、後述の実施形態における駆動装置1)において、前記電動機によって駆動されるオイルポンプ(例えば、後述の実施形態におけるオイルポンプ75)と、前記オイルポンプから前記断接手段に作動用の油を供給する第1油路(例えば、後述の実施形態におけるライン通路82)と、前記オイルポンプから前記差動装置に潤滑用の油を供給する第2油路(例えば、後述の実施形態における低圧通路83)と、前記油の供給路を前記第1油路または前記第2油路に切り換える第1切換弁(例えば、後述の実施形態におけるレギュレータバルブ84)と、前記第1切換弁の動作を制御する第1電磁弁(例えば、後述の実施形態におけるH/Lソレノイド86)と、前記第1電磁弁の動作を制御する制御部(例えば、後述の実施形態におけるコントローラ100)と、を備えたことを特徴とする。
これにより、電動機によって駆動されるオイルポンプを採用した場合でも、平常時には第2油路に油を供給して差動装置の潤滑を安定的に行い、断接手段の断接切換時には第1油路に油を供給して、高圧で断接切り換えを行うことが可能になる。したがって、断接切り換えを行うときのみ高圧に調圧し、それ以外では低圧に調圧するため、オイルポンプを高圧で制御する頻度を抑制することにより、オイルポンプの損失を低減することができる。
(中略)
【0016】
この発明によれば、電動機によって駆動されるオイルポンプを採用した場合でも、平常時には第2油路に油を供給して差動装置の潤滑を安定的に行い、断接手段の断接切換時のみに第1油路に油を供給して断接切り換えを行うことが可能になる。したがって、断接切り換えを行うときのみ高圧に調圧し、それ以外では低圧に調圧するため、オイルポンプを高圧で制御する頻度を抑制することにより、損失を低減することができる。
【0017】
また、電動機の前進駆動時には油貯留部に油を一時貯留して格納室の残留油量を減少させることが可能になる。そのため、残留油に起因する動力損失を低減することができる。一方、電動機の停止時には油貯留部から油が流出するので格納室の残留油量を増加させることが可能になる。そのため、断接手段の遮断により空転する差動装置を冷却および潤滑することが可能になり、焼き付きおよび異常磨耗を防止することができる。したがって、動力損失の低減と焼き付きの防止を両立させることができる。」(段落【0009】ないし【0017】)

オ 「【0018】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
この発明にかかる駆動装置1は、電動機2を車輪駆動用の駆動源とするものであり、例えば、図1に示すような駆動システムの車両3に用いられる。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動ユニット6を有するハイブリッド車両であり、この駆動ユニット6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wf側に伝達される一方で、この駆動ユニット6と別に設けられたこの発明にかかる駆動装置1の動力が後輪Wr側に伝達されるようになっている。駆動ユニット6の電動機5と後輪Wr側駆動装置1の電動機2は、PDU8(パワードライブユニット)を介してバッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、各電動機5,2からバッテリ9へのエネルギー回生とが、PDU8を介して行われるようになっている。
【0019】
図2は、駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、図3は図2の部分拡大図である。図2において、10A,10Bは、車両の後輪側の左右の車軸である。駆動装置1のハウジング11は、両車軸10A,10Bのほぼ中間位置から一方の車軸10Bの外周側を覆うように設けられ、車両の後部下方に車軸10Bとともに支持固定されている。また、ハウジング11は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の電動機2と、この電動機2の駆動回転を減速する遊星歯車式減速機(減速機)12と、この遊星歯車式減速機12の出力を左右の車軸10A,10Bに分配する差動装置13とが、車軸10Bと同軸になるように収容配置されている。
(中略)
【0023】
一方、差動装置13は、回転可能なピニオン30が内面側に突設されたディファレンシャルケース31と、このディファレンシャルケース31内においてピニオン30に噛合される一対のサイドギヤ32a,32bとを備え、これらの各サイドギヤ32a,32bが左右の車軸10A,10Bに夫々結合されている。ディファレンシャルケース31の外側面には、遊星歯車式減速機12のプラネタリキャリア23が一体に結合されている。なお、ディファレンシャルケース31はハウジング11内に回転可能に支持されている。
【0024】
ところで、車軸10Bは、一端に差動装置13の前記サイドギヤ32bが設けられる第1軸34と、この第1軸34の他端に一体回転可能に結合された接続ハブ35と、ハウジング11内の差動装置13と逆側の軸方向の端部に回転可能に設けられた第2軸36とを備え、その第2軸36が右側車輪(図示せず)に接続されている。そして、接続ハブ35と第2軸36とが、断接手段であるシンクロメッシュ機構37を介して、接続状態と遮断状態を任意に変更し得るようになっている。なお、図2,図3においては、ハウジング11の中心軸線を挟んで上側ではシンクロメッシュ機構37が接続された状態を示し、下側ではシンクロメッシュ機構37が遮断された状態を示している。
(中略)
【0026】
シンクロメッシュ機構37は、所謂トリプルコーン式のシンクロメッシュ機構であり、接続ハブ35のテーパ面41と第2軸36の円筒壁44との間に介装された3層の摩擦伝達部材であるアウタリング46、シンクロコーン47およびインナリング48を備えている。また、第2軸36のスプラインギヤ45の外周に軸方向にスライド可能にスプライン嵌合されるシンクロスリーブ49と、このシンクロスリーブ49を軸方向に進退作動させる制御ピストン50(ピストン)と、を備えている。
【0027】
このシンクロメッシュ機構37では、シンクロスリーブ49が制御ピストン50によって接続ハブ35方向に操作されたときに、アウタリング46、シンクロコーン47、インナリング48および接続ハブ35が、隣接する各テーパ面を通して摩擦接触する。これにより、接続ハブ35と第2軸36の間に回転速度差がある場合に、その回転速度差が各テーパ面間の摩擦抵抗によって漸減されるようになっている。接続ハブ35と第2軸36の回転速度差が充分に低くなり、さらにシンクロスリーブ49が接続ハブ35方向に操作されると、シンクロスリーブ49の内周面に形成された内スプライン(符号省略)が、第2軸36のスプラインギヤ45および接続ハブ35のスプラインギヤ40に跨って噛合する。それによって、第1軸34と第2軸36とが結合されるようになっている。一方、第1軸34と第2軸36が結合された状態から、制御ピストン50が接続ハブ35から離間する方向に操作されると、シンクロスリーブ49の内スプラインと接続ハブ35のスプラインギヤ40との噛合が解除される。それによって、第1軸34と第2軸36との接続が遮断されるようになっている。
(中略)
【0032】
また、ハウジング11内の電動機2とシンクロメッシュ機構の37の間には、図2に示すように、ハウジング11内の底部から汲み上げた油を制御ピストン50やハウジング11内の冷却通路、潤滑通路、さらにリザーバタンク80への戻し通路に供給するためのオイルポンプ75が固定設置されている。このオイルポンプ75は、電動機2の駆動力を受けて作動するポンプであり、例えばトロコイド型のポンプによって構成されている。冷却や潤滑に提供された油は、ハウジング11内の底部に回収される。なお、図2中81は、オイルポンプ75の吸入部に設けられたオイルストレーナである。
電動機2の停止時にはオイルポンプ75も停止するため、図2に示すようにハウジング11の底部における残留油量99は増加する。これに対して、電動機2の作動時にはオイルポンプ75も作動するため、図5に示すようにハウジング11の底部における残留油量99は減少する。
(中略)
【0041】
なお、上述した電動機2、H/Lソレノイド86およびSYNソレノイド87は、コントローラ100に接続され、コントローラ100からの通電により作動制御されるようになっている。
また、図4中、120は、ライン通路82の圧力を検出してその信号をコントローラ100に出力する圧力センサであり、121は、ライン通路82に設けられたリリーフバルブである。なお圧力センサ120およびリリーフバルブ121を設けない構成としてもよい。」(段落【0018】ないし【0041】)

カ 「【0048】
次に、車両の様々な走行モードにおける車両駆動装置の油圧回路の動作について説明する。
(車両発進、加速)
図11は、本実施形態に係る車両駆動装置の油圧回路の第1タイミングチャートである。まず車両の発進・加速時について説明する。車両の発進時に電動機2が始動されると、
電動機2の駆動力が遊星歯車式減速機12によって設定減速比に減速され、さらに差動装置13を介して左右の車軸10A,10Bに伝達される。このとき、電動機2から車輪に動力を伝達するため、シンクロメッシュ機構37は接続状態とされている。そのため、差動装置13で分配された駆動力は左右の車軸10A,10Bを通して車輪に伝達される。ここでは、電動機2の冷却および動力伝達機構(遊星歯車式減速機12や差動装置13等)の潤滑を行うため、車両駆動装置の油圧回路を冷却および潤滑モードに設定する。
図7は、油圧回路のモードとソレノイドの動作との対応表である。なお図7では、ソレノイドをオン制御する場合を○で、オフ制御する場合を×で示している。図7(3)に示すように、冷却および潤滑モードでは、SYNソレノイド87およびH/Lソレノイド86を共にオフにする。
【0049】
図8は、冷却および潤滑モードにおける油圧回路の動作説明図である。電動機2の始動とともにオイルポンプ75の回転速度が上昇して、図4に示すライン通路82の圧力が上昇すると、レギュレータバルブ84のライン圧導入ポート93の圧力が高まり、レギュレータバルブ84の制御スプール88が図中右側に移動する。これにより、供給ポート90と排出ポート91が接続され、オイルポンプ75から吐出された油は低圧通路83に供給される。
【0050】
低圧通路83に供給された油は、図5に示すように冷却油として電動機2に供給され、また潤滑油として動力伝達機構に供給される。さらに、リザーバタンク80にも供給されて一時貯留されるので、ハウジング11の底部の残留油99の量は減少する(低油面の冷却・潤滑モード)。そのため、動力伝達機構の各ギヤによる残留油99の撹拌作用を最小限に抑制することが可能になり、動力損失を低減することができる。また残留油に起因する電動機2のフリクションを低減することが可能になり、動力損失を低減することができる。」(段落【0048】ないし【0050】)

キ 「【0051】
(クルーズ走行)
図11に戻り、加速を終了して、車速一定でクルーズ走行する場合について説明する。この場合には、電動機2から車輪に動力を伝達する必要性が小さくなる。そこで、シンクロメッシュ機構37を接続状態(オン状態)から遮断状態(オフ状態)に切り換える。図7(2)に示すように、シンクロOFF切換モードでは、H/Lソレノイド86のみをオンにして、SYNソレノイド87はオフのままに維持する。具体的には、図11に示すように、コントローラ100によりクルーズ走行状態と判定された時点で、コントローラ100がH/Lソレノイド86をオンにする。
【0052】
図9は、シンクロOFF切換モードにおける油圧回路の動作説明図である。コントローラ100がH/Lソレノイド86をオンにして、同ソレノイド86のライン側ポート95をバルブ制御ポート96側に接続する。こうして、バルブ制御ポート96に高圧のライン圧が導入されると、レギュレータバルブが図4中の左側に移動し、オイルポンプ75から吐出された油のほぼ全流量がライン通路82に供給されるとともに、ライン通路82の油がバルブ制御ポート96を通して給排切換えバルブ85の第2給排ポート110に供給される。このとき、SYNソレノイド87はオフ状態とされているため、給排切換えバルブ85は第2給排ポート110を解除側ポート112に接続し、接続側ポート111を第1ドレンポート107に接続している。したがって、解除側作動室56に高圧の作動油が供給される一方で接続側作動室57から作動油が排出され、その結果、制御ピストン50がシンクロ解除方向に作動してシンクロメッシュ機構37を解除状態にする。なお、このとき制御ピストン50はディテント機構62によって確実にシンクロ解除位置に維持される。
(中略)
【0056】
(急加速)
図11に戻り、クルーズ走行状態を終了して、急加速を行う場合について説明する。この場合には、電動機2から車輪に動力を伝達する必要があり、シンクロメッシュ機構37を遮断状態(オフ状態)から接続状態(オン状態)に切り換える。図7(1)に示すように、シンクロON切換モードでは、H/Lソレノイド86およびSYNソレノイド87を共にオンにする。具体的には、図11に示すように、コントローラ100により急加速状態が判定されると、コントローラ100が電動機2を再始動させて、現在の車速に合致するように電動機2の回転速度を制御する。これと同時に、コントローラ100はH/Lソレノイド86をオンにする。さらに電動機の回転数合わせの終了後、コントローラ100はSYNソレノイド87をオンにする。
【0057】
図10は、シンクロON切換モードにおける油圧回路の動作説明図である。H/Lソレノイド86をオンにし、同ソレノイド86のライン側ポート95をバルブ制御ポート96側に接続して、オイルポンプ75からの油の供給をレギュレータバルブ84によってライン通路82側に切換える。この後、コントローラ100がSYNソレノイド87をオンにして、同ソレノイド87のライン側ポート116を制御ポート117に接続し、給排切換えバルブ85を図4中の右側に移動させる。これにより、給排切換えバルブ85は第1給排ポート109を接続側ポート111に接続するとともに、解除側ポート112を第2ドレンポート106に接続するようになる。したがって、このとき接続側作動室57に高圧の作動油がライン通路82から供給される一方で解除側作動室56から作動油が排出され、その結果,制御ピストン50がシンクロ接続方向に作動してシンクロメッシュ機構37を接続状態にする。なお、このときも制御ピストン50はディテント機構62によって確実にシンクロ接続位置に維持される。
【0058】
図11に戻り、シンクロメッシュ機構37が接続され、そのことが状態検出スイッチ68によって検出されると、コントローラ100がH/Lソレノイド86をオフにし、その後にSYNソレノイド87をつづけてオフにする。これは、H/Lソレノイド86をオンにしたままSYNソレノイド87を先にオフにすると、シンクロOFF切換モードになってメッシュ機構37が遮断されてしまうからである。こうして、図10に示すH/Lソレノイド86とSYNソレノイド87がともにオフにされると、接続側作動室57と解除側作動室56の作動油がドレンされるが、シンクロメッシュ機構37は一度噛み合い状態にされると、その状態が維持されるため、接続側作動室57には高圧を作用させ続ける必要はない。このときも、オイルポンプ75から吐出された油は再び低圧通路83に供給されるようになる。
【0059】
H/Lソレノイド86およびSYNソレノイド87が共にオフになると、図7(3)に示す冷却・潤滑モードに移行する。ここでは電動機2が再始動しているので、低油面の冷却・潤滑モードになり、電動機2に冷却油が供給されて電動機2が冷却され、また動力伝達機構に潤滑油が供給されて各ギヤが潤滑される。」(段落【0051】ないし【0059】)

ク 「【0067】
以上に述べたように、図2に示す車両駆動装置1においては、右側車輪と差動装置13を接続する一方の車軸10B中にシンクロメッシュ機構37が設けられ、このシンクロメッシュ機構37によって右側車輪と差動装置13の接続を遮断することにより、左右の車輪の回転がディファレンシャルケース31に伝達されるのを阻止できるようになっている。そのため、車輪を電動機2から切り離して運転する場合に、電動機2だけでなく重量物であるディファレンシャルケース31や遊星歯車式減速機12の連れ回りを防止することができる。したがって、この駆動装置1を採用することにより、車輪を電動機2側から切り離して運転する場合における車軸フリクションを大幅に低減し、車両の動力損失を確実に減少させることができる。
(中略)
【0072】
また、一方の車輪と差動装置の間で動力接続と遮断を行う断接手段は、シンクロメッシュ機構37に限らず摩擦クラッチ等の他の機構を採用することも可能であるが、この実施形態のシンクロメッシュ機構37のような噛み合い式断接手段を用いた場合には、動力接続時や遮断時に付与する押圧力は短時間の間一時的に付与するのみで済み、その分エネルギーの損失を低減するうえで有利となる。また、シンクロメッシュ機構37のような噛み合い式断接手段においては、多板クラッチ等に比較して遮断状態での摺動抵抗が少なく、その分動力損失を低減することができる。
(中略)
【0076】
一方、図4に示す車両駆動装置1の油圧回路においては、電動機2によって駆動されるオイルポンプ75と、オイルポンプ75からシンクロメッシュ機構37に作動油を供給するライン通路82と、オイルポンプ75から差動装置13へ潤滑油を供給する低圧通路83と、油の供給路をライン通路82または低圧通路83に切り換えるレギュレータバルブ84と、レギュレータバルブ84の動作を制御するH/Lソレノイド86と、H/Lソレノイド86の動作を制御するコントローラ100とを備える構成とした。
これにより、電動機2によって駆動されるオイルポンプ75を採用した場合でも、平常時には低圧通路83に冷却油および潤滑油を供給して安定的に冷却および潤滑を行い、シンクロメッシュ機構37の断接切換時にはライン通路82に作動油を供給して、高圧で断接切り換えを行うことが可能になる。したがって、断接切り換えを行うときのみ高圧に調圧し、それ以外では低圧に調圧するため、オイルポンプ75を高圧で制御する頻度を抑制することにより、オイルポンプ75の損失を低減することができる。
(中略)
【0080】
また、電動機2、遊星歯車式減速機12および差動装置13を格納するとともに、前記油が回収されるハウジング11と、ハウジング11から区画され、電動機2の前進駆動時に油を一時貯留するリザーバタンク80とを備える構成とした。
これにより、電動機2の前進駆動時には、リザーバタンク80に油を一時貯留してハウジング11の残留油量を減少させることが可能になる。これに伴って、動力伝達機構のギヤによる残留油の撹拌作用を最小限に抑制することが可能になり、また残留油に起因する電動機2のフリクションを低減することが可能になる。したがって、動力損失を低減することができる。一方、電動機2の停止時には、リザーバタンク80からハウジング11に油が流出するので、ハウジング11の残留油量を増加させることが可能になる。これに伴って、シンクロメッシュ機構37の遮断によりハウジング11内で空転する差動装置13のサイドギヤ32を十分に冷却および潤滑することが可能になる。したがって、サイドギヤ32の焼き付きや異常磨耗を防止することができる。以上により、動力損失の低減と焼き付きの防止を両立することができる。
【0081】
また低圧通路83は、差動装置13に加えて遊星歯車式減速機12へ潤滑油を供給し、リザーバタンク80へ油を供給する構成とした。
これにより、差動装置13および減速機12の潤滑用に必要な油を供給した後に、余剰の油をリザーバタンク80に供給することが可能になる。したがって、差動装置13および減速機12の潤滑を確保することができる。
またリザーバタンク80は、油の貯留量が所定量以上になった場合に、ハウジング11に油を流出させる構成とした。これにより、電動機2の前進駆動時におけるハウジング11の残留油量を調整することができる。
【0082】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態においては、この発明にかかる駆動装置を後輪側に採用したが、同様に前輪側に採用することも可能である。また、上記の実施形態における油圧回路の構成は一例であり、同様の機能を発揮する他の構成を採用することも可能である。」(段落【0067】ないし【0082】)

(2)上記(1)アないしク及び図1ないし12の記載から、以下のことが分かる。

サ 上記(1)アないしク及び図1ないし12の記載から、引用文献1には、車両の駆動力を発生する電動機2と、電動機2と車輪との動力伝達経路上(車輪と差動装置の間)に設けられる断接手段(例えば、シンクロメッシュ機構37)と、断接手段を制御するコントローラ100と、オイルポンプ75と、を備える車両用駆動装置が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)カ及びキの記載から、引用文献1に記載された車両用駆動装置の断接手段であるシンクロメッシュ機構37は、遮断状態(オフ状態)又は接続状態(オン状態)にされることにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段であることが分かる。

ス 上記(1)オ(特に段落【0041】)、カ及びキの記載から、引用文献1に記載された車両用駆動装置のコントローラ100は、断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御するコントローラ100であることが分かる。

セ 上記(1)エ(特に段落【0009】)、オ(特に段落【0032】)、カ(特に段落【0048】ないし【0050】、キ(特に段落【0059】)、ク(特に段落【0076】)等の記載から、引用文献1に記載された車両用駆動装置において、オイルポンプ75は、低圧回路83に油を供給し、低圧通路83に供給された油は、図5に示すように冷却油として電動機2に供給され、また潤滑油として動力伝達機構(遊星歯車式減速機12や差動装置13等)に供給され、電動機と動力伝達機構の少なくとも一部(例えば動力伝達機構のギヤ)が潤滑油中に位置するものであることが分かる。

ソ 上記(1)オ(特に段落【0026】及び【0027】)、キ(特に段落【0057】)等の記載から、引用文献1に記載された車両用駆動装置の断接手段であるシンクロメッシュ機構37は、作動油の圧力により制御ピストン50が作動して接続されることから、液圧駆動式であることが分かる。

タ 上記(1)ク(特に段落【0072】)等の記載から、引用文献1に記載された車両用駆動装置の断接手段として、シンクロメッシュ機構37に代えて摩擦クラッチ等の他の機構を採用することも可能であることが分かる。

(3)上記(1)、(2)並びに図1ないし12の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「車両の駆動力を発生する電動機2と、
電動機2と車輪との動力伝達経路上に設けられ、遮断状態又は接続状態にされることにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御するコントローラ100と、
電動機2と動力伝達機構との少なくとも一方に潤滑及び/又は冷却に供される油を供給するオイルポンプ75と、を備え、電動機2と動力伝達機構のギヤの少なくとも一部が油中に位置する車両用駆動装置であって、
断接手段は液圧駆動式であって、
油圧はオイルポンプ75によって供給される、
車両用駆動装置。」

2-1-2 引用文献2
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-220847号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 主駆動軸及びディファレンシャルを介して駆動される主駆動輪とからなる主駆動系と、
副駆動軸及びディファレンシャルを介して駆動される副駆動輪とからなる副駆動系と、
前記主駆動軸と副駆動軸との間に介装され、クラッチ締結により副駆動軸を駆動するトランスファクラッチと、
を備えた四輪駆動装置において、
前記副駆動軸と副駆動輪との間を断続可能な断続機構と、
前記断続機構の切り離しと接続の制御を行う断続機構切換制御手段と、
前記副駆動軸の回転数を検出する副駆動軸回転数検出手段と、
車速に同期して回転する副駆動系もしくは主駆動系の回転数を検出する同期回転数検出手段と、を設け、
前記断続機構切換制御手段は、前記断続機構を切り離し状態から接続状態へ切り換える際、前記副駆動軸が回転を開始する予め定めた必要トルクで前記トランスファクラッチを締結し、その後、前記副駆動軸回転数検出手段で検出した副駆動軸回転数と前記同期回転数検出手段で検出した回転数とが同期した時に切り換えることを特徴とする四輪駆動装置。
【請求項2】 請求項1に記載された四輪駆動装置において、
前記副駆動系のディファレンシャル内の油温を測定もしくは推定する油温検出手段を設け、
前記断続機構切換制御手段は、ディファレンシャル油温が低いほど、前記トランスファクラッチを締結する必要トルクを大きな値に設定したことを特徴とする四輪駆動装置。
【請求項3】 請求項1または請求項2に記載された四輪駆動装置において、
主駆動輪のみ駆動する二輪駆動モードと、主駆動輪及び副駆動輪で駆動する四輪駆動モードを選択可能なモード選択手段を設け、
前記断続機構切換制御手段は、前記モード選択手段を二輪駆動モードから四輪駆動モードに切り換えた際に、前記断続機構を切り離し状態から接続状態へ切り換えることを特徴とする四輪駆動装置。
【請求項4】 請求項3に記載された四輪駆動装置において、
前記モード選択手段による四輪駆動モードの選択時には、主駆動輪と副駆動輪の回転速度差に応じて前記トランスファクラッチの締結トルクを制御する駆動配分トルク制御手段を設けたことを特徴とする四輪駆動装置。
【請求項5】 請求項1ないし請求項4の何れかに記載された四輪駆動装置において、
前記断続機構は、副駆動系のディファレンシャルと左右副駆動輪のうち一方との間に設けられたことを特徴とする四輪駆動装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、前後輪への駆動トルク配分を可変に制御する電子制御トルクスプリット四輪駆動車の副駆動系にADD(Automatic Disconnecting Differential)機構付きのディファレンシャルが採用された四輪駆動装置の技術分野に属する。」(段落【0001】)

ウ 「【0002】
【従来の技術】従来、四輪駆動装置としては、例えば、米国特許第5411110号公報に記載のものが知られている。
【0003】この従来公報には、2WDモードと、トルク配分制御4WDモードと、前後輪ロック4WDモードを切換可能な4WDシステムと、副駆動系であるフロントディファレンシャルと右前輪との間に設けられたADD機構とを有し、2WD走行時には、フロントディファレンシャルと前輪を切り離してフロントプロペラシャフトが回転しないようにし、走行抵抗を低減して燃費低減を図るようにし、2WDモードからトルク配分制御4WDモードを選択すると、公報のFig-18のフローチャートに示しているように、後輪駆動系と前輪駆動系との間に介装されたトランスファクラッチを締結し、その後、リヤプロペラシャフトの回転数とフロントプロペラシャフトの回転数が一致するとADD機構をロックする技術が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の四輪駆動装置のにあっては、ADD機構をロックするにあたって、フロントプロペラシャフトとフロントディファレンシャルとの間のトランスファクラッチを完全締結した後に、ADD機構をロックしているため、加速走行等で前輪と後輪とに回転差が生じるような場合、ADD機構の入出力回転数に差が出てしまい、この時にADD機構をロックすると、入出力回転数落差によりショックが生じる。
【0005】また、このショックは、上記従来技術のように、トランスファクラッチを強く締結してロック状態にする場合には、トランスファクラッチの締結トルクがそのまま入力され、大きなロックショックを発生してしまう。
【0006】本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、断続機構を切り離し状態から接続状態へ切り換える際、ロックショックの発生を抑制することができる四輪駆動装置を提供することにある。」(段落【0002】ないし【0006】)

エ 「【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、主駆動軸及びディファレンシャルを介して駆動される主駆動輪とからなる主駆動系と、副駆動軸及びディファレンシャルを介して駆動される副駆動輪とからなる副駆動系と、前記主駆動軸と副駆動軸との間に介装され、クラッチ締結により副駆動軸を駆動するトランスファクラッチと、を備えた四輪駆動装置において、前記副駆動軸と副駆動輪との間を断続可能な断続機構と、前記断続機構を切り離しと接続の制御を行う断続機構切換制御手段と、前記副駆動軸の回転数を検出する副駆動軸回転数検出手段と、車速に同期して回転する副駆動系もしくは主駆動系の回転数を検出する同期回転数検出手段と、を設け、前記断続機構切換制御手段は、前記断続機構を切り離し状態から接続状態へ切り換える際、前記副駆動軸が回転を開始する予め定めた必要トルクで前記トランスファクラッチを締結し、その後、前記副駆動軸回転数検出手段で検出した副駆動軸回転数と前記同期回転数検出手段で検出した回転数とが同期した時に切り換えることを特徴とする。
【0008】請求項2に係る発明では、請求項1に記載された四輪駆動装置において、前記副駆動系のディファレンシャル内の油温を測定もしくは推定する油温検出手段を設け、前記断続機構切換制御手段は、ディファレンシャル油温が低いほど、前記トランスファクラッチを締結する必要トルクを大きな値に設定したことを特徴とする。
【0009】請求項3に係る発明では、請求項1または請求項2に記載された四輪駆動装置において、主駆動輪のみ駆動する二輪駆動モードと、主駆動輪及び副駆動輪で駆動する四輪駆動モードを選択可能なモード選択手段を設け、前記断続機構切換制御手段は、前記モード選択手段を二輪駆動モードから四輪駆動モードに切り換えた際に、前記断続機構を切り離し状態から接続状態へ切り換えることを特徴とする。
【0010】請求項4に係る発明では、請求項3に記載された四輪駆動装置において、前記モード選択手段による四輪駆動モードの選択時には、主駆動輪と副駆動輪の回転速度差に応じて前記トランスファクラッチの締結トルクを制御する駆動配分トルク制御手段を設けたことを特徴とする。
【0011】請求項5に係る発明では、請求項1ないし請求項4の何れかに記載された四輪駆動装置において、前記断続機構は、副駆動系のディファレンシャルと左右副駆動輪のうち一方との間に設けられたことを特徴とする。」(段落【0007】ないし【0011】)

オ 「【0012】
【発明の作用および効果】請求項1に係る発明にあっては、副駆動軸と副駆動輪との間を断続可能な断続機構を切り離し状態から接続状態へ切り換える際、断続機構切換制御手段において、副駆動軸が回転を開始する予め定めた必要トルクでトランスファクラッチが締結され、その後、副駆動軸回転数検出手段で検出した副駆動軸回転数と、同期回転数検出手段で検出した回転数(車速に同期した副駆動系もしくは主駆動系の回転数)とが同期した時に切り離し状態から接続状態へ切り換えられる。
【0013】よって、断続機構の入出力回転数が同期していることを確認して断続機構が接続されるため、断続機構の入出力回転数落差によるロックショックの発生を抑制することができる。しかも、断続機構の入出力回転数に僅かな落差があっても、トランスファクラッチは副駆動軸が回転を開始する予め定めた必要トルク、言い換えると、副駆動軸を回転させる最小限のトルクで締結されているため、ロックショックの発生を小さく抑えることができる。
【0014】請求項2に係る発明にあっては、油温検出手段において、副駆動系のディファレンシャル内の油温が測定もしくは推定され、断続機構切換制御手段において、ディファレンシャル油温が低いほど、トランスファクラッチを締結する必要トルクが大きな値に設定される。
【0015】すなわち、ディファレンシャル油温が低い時は、オイル粘度が増大し、副駆動系のディファレンシャルのフリクショントルクが大きくなり、小さなトルク配分では副駆動系のプロペラシャフトが回転しない、もしくは、必要回転数まで上昇するのに時間を要する。これを防止するため、予め低油温まで見込んだ配分トルクに設定すると、通常温度域で不要に大きなトルクが配分されるため、断接機構がロックした後、本来の駆動トルク配分制御に復帰する際、トルク段差が大きくてショックや異音が発生する。
【0016】これに対し、ディファレンシャル油温が低いほど、トランスファクラッチを締結する必要トルクを大きな値に設定することで、油温が高いときには必要トルクが小さな値に設定され、油温が低いときでも確実に副駆動軸が回転を開始する必要トルクを付与することができる。
【0017】よって、低油温時において断接機構のロックによる四輪駆動走行を可能としながら、通常の油温域において断接機構のロックに伴うショックや異音の発生を回避することができる。」(段落【0012】ないし【0017】)

カ 「【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明の四輪駆動装置を実現する実施の形態を、請求項1乃至請求項5に係る発明に対応する第1実施例に基づいて説明する。
【0022】(第1実施例)まず、構成を説明する。図1は第1実施例の四輪駆動装置が適用された後輪駆動ベースの四輪駆動車を示す全体システム図であり、図1において、1はエンジン、2は変速機、3は変速機出力軸、4はトランスファクラッチ、5はリヤプロペラシャフト(主駆動軸)、6はリヤディファレンシャル、7は右リヤドライブシャフト、8は左リヤドライブシャフト、9は右後輪(主駆動輪)、10は左後輪(主駆動輪)、11はフロントプロペラシャフト(副駆動軸)、12はフロントディファレンシャル、13は右フロントドライブシャフト、14は左フロントドライブシャフト、15は右前輪(副駆動輪)、16は左前輪(副駆動輪)、17はADD機構(断接機構)、18はADDアクチュエータ、19は油圧供給装置、20はトランスファユニットである。
【0023】前記トランスファクラッチ4のクラッチ解放時、エンジン1,変速機2及び変速機出力軸3からの駆動力が、リヤプロペラシャフト5とリヤディファレンシャル6と左右のリヤドライブシャフト7,8を介して、右後輪9及び左後輪10へと伝達される(主駆動系)。
【0024】前記トランスファクラッチ4のクラッチ締結時、エンジン1,変速機2及び変速機出力軸3からの駆動力の一部が、トランスファクラッチ4からフロントプロペラシャフト11とフロントディファレンシャル12と左右のフロントドライブシャフト13,14を介して、右前輪15及び左前輪16へと伝達される(副駆動系)。
【0025】前記トランスファクラッチ4は、リヤプロペラシャフト5とフロントプロペラシャフト11との間に介装され、油圧供給装置19からの制御圧により締結される油圧クラッチで、トランスファクラッチ4と油圧供給装置19によりトランスファユニット20を構成している。
【0026】前記ADD機構17は、フロントディファレンシャル12の右出力部と右フロントドライブシャフト13との間に介装され、ADDアクチュエータ18により駆動されるシフトフォークの移動により、フロントディファレンシャル12の右出力部と右フロントドライブシャフト13とを接続するロック状態と、フロントディファレンシャル12の右出力部と右フロントドライブシャフト13とを切り離すフリー状態とが切り換えられる。ここで、ADDアクチュエータ18としては、バキューム式やモータ式が採用される。
【0027】前記トランスファクラッチ4とADD機構17の電子制御系を説明すると、図1において、21は4WDコントローラ、22はモードスイッチ(モード選択手段)、23は右後輪速センサ、24は左後輪速センサ、25は右前輪速センサ(同期回転数検出手段)、26は左前輪速センサ、27はリヤプロペラシャフト回転センサ、28はフロントプロペラシャフト回転センサ(副駆動軸回転数検出手段)、29はトランスファ油温センサ、30はフロントデフ油温センサ(油温検出手段)、31はADD位置検出スイッチである。
【0028】前記4WDコントローラ21は、モードスイッチ22によりトルク配分制御四輪駆動モードを選択している時、後輪9,10と前輪15,16の回転速度差に応じてトランスファクラッチ4の締結トルクを制御する駆動配分トルク制御部21a(駆動配分トルク制御手段)と、モードスイッチ22により二輪駆動モードからトルク配分制御四輪駆動モードへの切り換え時、フロントプロペラシャフト11が回転を開始する必要トルク(フロントデフ油温に応じて設定)でトランスファクラッチ4を締結し、その後、フロントプロペラシャフト回転センサ28で検出した回転数に基づいて算出したADD入力回転数と、右前輪速センサ25で検出したADD出力回転数と、が同期した時にADD機構17を切り離し状態から接続状態へ切り換えるADD制御部21b(断続機構切換制御手段)とを有する。なお、ADD入力回転数は、フロントプロペラシャフト回転数にフロントディファレンシャル12の終減速ギヤ比を掛け合わせることで算出される。
【0029】前記モードスイッチ22は、ドライバーによるスイッチ操作により、後輪9,10のみを駆動する二輪駆動モードと、回転速度差に応じて前後輪への駆動力配分を制御するトルク配分制御四輪駆動モードと、後輪9,10と前輪15,16をロック状態にする前後輪ロック四輪駆動モードと、のいずれかを選択することができる。そして、ADD制御部21bにおいて、モードスイッチ22を二輪駆動モードからトルク配分制御四輪駆動モードに切り換えた際に、ADD機構17を切り離し状態から接続状態へ切り換える。
【0030】前記各車輪速センサ23,24,25,26は、右後輪速と左後輪速と右前輪速と左前輪速をそれぞれ検出し、その信号を4WDコントローラ21に送る。
【0031】前記リヤプロペラシャフト回転センサ27(車速センサ)は、リヤプロペラシャフト5の回転数を検出し、その信号を4WDコントローラ21に送る。
【0032】前記フロントプロペラシャフト回転センサ28は、フロントプロペラシャフト11の回転数を検出し、その信号を4WDコントローラ21に送る。
【0033】前記トランスファ油温センサ29は、トランスファクラッチ4内の油温を検出し、その信号を4WDコントローラ21に送る。
【0034】前記フロントデフ油温センサ30は、フロントディファレンシャル12内の油温を測定し、その信号を4WDコントローラ21に送る。そして、ADD制御部21bにおいて、フロントデフ油温が低いほど、トランスファクラッチ4を締結する必要トルクを大きな値に設定する。
【0035】前記ADD位置検出スイッチ31は、ADDアクチュエータ18に設けられ、ADD機構17の接続動作(ロック動作)が完了する位置までストロークすると切り換わるスイッチ信号を4WDコントローラ21に送る。」(段落【0021】ないし【0035】)

キ 「【0037】[ADD機構の切換制御処理]図2は4WDコントローラ21のADD制御部21bで実行されるADD機構17の切り離し状態から接続状態への切換制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この処理は、例えば、10msecという一定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0038】ADD機構17を切り離している二輪駆動モードの選択時に処理が開始され、ステップS1では、必要入力情報として、モードスイッチ22からのスイッチ信号、右前輪速センサ25からの右前輪速信号、フロントプロペラシャフト回転センサ28からの軸回転信号、フロントデフ油温センサ30からのフロントデフ油温信号、ADD位置検出スイッチ31からのスィツチ信号が読み込まれる。
【0039】ステップS2では、モードスイッチ22からのスイッチ信号が二輪駆動モードを示す信号からトルク配分制御四輪駆動モードを示す信号に切り換わったことにより、ADD機構17のロックを許可するか否かが判断される。
【0040】ステップS3では、ADD位置検出スイッチ31からADD機構17のロック動作が完了する位置までストロークすることで出力されるロック完了信号が入力されたか否かが判断され、ロック完了信号が入力されるまではステップS4へ移行し、ロック完了信号が入力されるとステップS9へ移行する。
【0041】ステップS4では、フロントデフ油温センサ30からの電圧信号(アナログ信号)をデジタル値に変換する。
【0042】ステップS5では、ステップS4で得られたフロントデフ油温のデジタル変換値と、図3に示す必要トルクマップとにより、必要トルクが算出される。ここで、必要トルクとは、フロントプロペラシャフト11が回転を開始するために必要なトランスファクラッチ4の締結トルクをいう。そして、図3に示すように、フロントデフ油温が最低温度Tminのときに最も大きな値、フロントデフ油温が最低温度から油温T1までは急勾配により低下する値、フロントデフ油温が油温T1から油温T2までは緩勾配により低下する値、フロントデフ油温が油温T2以上の領域では一定値、により与えられる。
【0043】ステップS6では、ステップS5で算出された必要トルクを得る制御要求が駆動配分トルク制御部21aに出力される。駆動配分トルク制御部21aは、この要求を受けてトランスファクラッチ4を必要トルクにて締結する油圧制御指令を油圧供給装置19に対して出力する。」(段落【0037】ないし【0043】)

ク 「【0053】[ADD機構の切換制御の対比作用]ADD機構17をロック側に切り換える際、フロントプロペラシャフト11へ必要トルクを配分する場合と、フロントプロペラシャフト11へ予め定めた一定トルクを配分する場合との対比作用について説明する。
【0054】まず、フロントディファレンシャル12内の油温が低い時は、オイル粘度が増大し、前輪駆動系(副駆動系)のフロントディファレンシャル12のフリクショントルクが大きくなり、トランスファクラッチ4からの小さなトルク配分ではフロントプロペラシャフト11が回転しない、もしくは、必要回転数まで上昇するのに時間を要する。
【0055】これを防止するため、予め低油温まで見込んだ大きな値による一定トルクに設定すると、図6に示すように、通常温度域では、不要に大きなトルクが配分されるため、ADD機構がロックした後、本来の駆動トルク配分制御に復帰する際、トルク段差が大きくてショックや異音が発生する。
【0056】そこで、常温時にトルク段差によるショック等を防止するため、図5に示すように、常温以上の油温域を想定し、小さな値による一定トルクに設定し、低油温域ではADD機構が切り換わらないようにする案がある。
【0057】しかし、この場合、低油温時には四輪駆動モードによる走行ができなくなり、低油温であるか否かにかかわらず、四輪駆動走行が重視されるオフロード走行を想定した車両では、寒冷地悪路走行等においてドライバの要求する四輪駆動走行が行えなくなる。
【0058】これに対し、第1実施例では、図4に示すように、フロントディファレンシャル12内の油温が低いほど、トランスファクラッチ4を締結する必要トルクを大きな値に設定することで、低油温時にはトルク落差によるショックが発生し得るが、低油温時のみに限定されることで、その頻度は小さく、実質上、問題とはならない。しかも、油温が高くなればなるほどトルク段差は小さくなりショックを小さくすることができる。そして、常温域においては、トルク段差が小さく抑えられ、ショックはほとんど発生しない。
【0059】よって、第1実施例にあっては、フロントディファレンシャル12内の油温が低温域では確実にフロントプロペラシャフト11が回転を開始する必要トルクを付与し、フロントディファレンシャル12内の油温が常温から高温域では必要トルクを小さな値に設定するようにしたため、低油温時においてADD機構17のロックによる四輪駆動走行を可能としながら、通常の油温域において断接機構のロックに伴うショックや異音の発生を回避することができる。すなわち、オフロード走行を想定した車両への適用に好適である。」(段落【0053】ないし【0059】)

ケ 「【0061】(1) フロントプロペラシャフト11と右前輪15との間を断続可能なADD機構17を切り離し状態から接続状態へ切り換える際、ステップS6において、フロントプロペラシャフト11が回転を開始する予め定めた必要トルクでトランスファクラッチ4を締結し、その後、ステップS7において、ADD機構17の入力回転数と出力回転数とが同期したと判断された時、ステップS8において、ADD機構17を切り離し状態からロック状態へ切り換えるようにしたため、ADD機構17の入出力回転数落差によるロックショックの発生を抑制することができる。
【0062】(2) フロントデフ油温センサ30において、フロントディファレンシャル12内の油温を測定し、ステップS5において、フロントデフ油温が低いほど、トランスファクラッチ4を締結する必要トルクを大きな値に設定するようにしたため、低油温時における四輪駆動走行と、通常の油温域におけるショックや異音の発生回避との両立を図ることができる。
【0063】(3) ステップS2において、モードスイッチ22を二輪駆動モードからトルク配分制御四輪駆動モードに切り換えた際に、ADD機構17を切り離し状態からロック状態へ切り換えるロック許可を出すようにしたため、二輪駆動モードの選択時には、フロントプロペラシャフト11等による前輪駆動系を切り離すことで、走行抵抗が減り燃費が向上するし、二輪駆動モードからトルク配分制御四輪駆動モードへの選択時には、切り離された前輪駆動系を即座に接続するため、高い切り換え応答性により四輪駆動走行を確保することができる。
【0064】(4) モードスイッチ22によるトルク配分制御四輪駆動モードの選択時には、駆動配分トルク制御部21aにおいて、左右後輪9,10と左右前輪15,16の前後輪回転速度差に応じてトランスファクラッチ4の締結トルクを制御するようにしたため、トルク配分制御四輪駆動モードの選択時に左右後輪9,10の駆動スリップが抑えられた高い駆動性能による四輪駆動走行を達成することができる。
【0065】(5) ADD機構17を、フロントディファレンシャル12の右出力部と右前輪15との間に設けらたため、1つのADD機構17のみによりフロントプロペラシャフト11と左右前輪15,16の切り離しと接続を行うことができる。
【0066】(他の実施例)以上、本発明の四輪駆動装置を第1実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この第1実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0067】例えば、第1実施例では、トランスファクラッチとして油圧締結による油圧クラッチの例を示したが、締結トルクを可変に制御できるものであれば電磁クラッチ等であっても良い。」(段落【0061】ないし【0067】)

(2)上記(1)アないしケ及び図1ないし6の記載から、以下のことが分かる。

サ 上記(1)アないしケ及び図1ないし6の記載から、引用文献2には、車両の駆動力を発生するエンジンと、エンジンと車輪との動力伝達経路上に設けられるトランスファクラッチと、トランスファクラッチを制御する4WDコントローラ21と、油圧供給装置19と、車両駆動装置が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)アないしケ(特に、請求項2及び段落【0008】、【0014】、【0028】、【0034】、【0042】等を参照。)及び図1ないし6の記載から、引用文献2に記載された車両駆動装置は、副駆動系のディファレンシャル内の油温を測定もしくは推定する油温検出手段を設け、断続機構切換制御手段は、ディファレンシャル油温が低いほど、トランスファクラッチを締結する必要トルクを大きな値に設定するものであることが分かる。

ス 上記(1)オ(特に段落【0014】ないし【0016】)及び図1ないし6の記載から、引用文献2に記載された車両駆動装置は、ディファレンシャル油温が低い時は、オイル粘度が増大し、副駆動系のディファレンシャルのフリクショントルクが大きくなるため、ディファレンシャル油温が低いほど、トランスファクラッチを締結する必要トルクを大きな値に設定することで、油温が高いときには必要トルクが小さな値に設定され、油温が低いときでも確実に副駆動軸が回転を開始する必要トルクを付与することができるものであることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図1ないし6の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「車両用駆動装置において、
トランスファクラッチの遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態におけるトランスファクラッチの締結力を制御する4WDコントローラ21を備え、
トランスファクラッチは油圧駆動式であって、
油圧は油圧供給装置によって供給され、
締結力は、前記油圧に応じて変化し、
4WDコントローラ21は、前記油のオイル粘度に関連するディファレンシャル油温に基づいて前記油圧を調整することにより前記締結力を制御する、車両用駆動装置のトランスファクラッチの技術。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「電動機2」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「電動機」に相当し、以下同様に、「遮断状態にする」は「解放する」及び「遮断状態にする」に、「接続状態にする」は「締結する」及び「接続状態にする」に、「動力伝達機構」は「伝達経路」に、「油」は「液状流体」に、「オイルポンプ75」は「液状流体供給装置」に、「ギヤ」は「回転部」に、「油中」は「貯留した液状流体中」に、「油圧」は「液圧」に、それぞれ相当する。

また、引用発明における「断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御するコントローラ100」は、「断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御する断接手段制御装置」という限りにおいて、本願補正発明における「断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態における断接手段の締結力を制御する断接手段制御装置」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「車両の駆動力を発生する電動機と、
電動機と車輪との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御する断接手段制御装置と、
電動機と伝達経路との少なくとも一方に潤滑及び/又は冷却に供される液状流体を供給する液状流体供給装置と、を備え、電動機と伝達経路の回転部の少なくとも一部が貯留した液状流体中に位置する車両用駆動装置であって、
断接手段は液圧駆動式であって、
液圧は液状流体供給装置によって供給される、
車両用駆動装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御する断接手段制御装置」に関して、本願補正発明においては、「断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態における断接手段の締結力を制御する断接手段制御装置」であるのに対し、引用発明においては、「断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御するコントローラ100」である点(以下、「相違点1」という。)

(2)本願補正発明においては、「締結力は、液圧に応じて変化し、断接手段制御装置は、液状流体の粘性又は粘性相関量に基づいて液圧を調整することにより締結力を制御する」のに対し、引用発明においては、そのように制御していない点(以下、「相違点2」という。)。

2-3 判断
相違点1及び2について検討する。
引用文献2には、上記のように、
「車両用駆動装置において、
トランスファクラッチの遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態におけるトランスファクラッチの締結力を制御する4WDコントローラ21を備え、
トランスファクラッチは油圧駆動式であって、
油圧は油圧供給装置によって供給され、
締結力は、前記油圧に応じて変化し、
4WDコントローラ21は、前記油のオイル粘度に関連するディファレンシャル油温に基づいて前記油圧を調整することにより締結力を制御する、車両用駆動装置のトランスファクラッチの技術。」(上記引用文献2記載の技術)が記載されている。
ここで、引用文献2記載の技術における「トランスファクラッチ」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「断接手段」に相当し、以下同様に、「4WDコントローラ21」は「断接手段制御装置」に、「油圧駆動式」は「液圧駆動式」に、「油圧」は「液圧」に、「油圧供給装置」は「液状流体供給装置」に、「油」は「液状流体」に、「オイル粘度に関連するディファレンシャル油温」は「粘性又は粘性相関量」に、それぞれ、相当する。
したがって、引用文献2記載の技術は、本願補正発明の用語を用いて、
「車両用駆動装置において、
断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えと、接続状態における断接手段の締結力を制御する断接手段制御装置を備え、
断接手段は液圧駆動式であって、
液圧は油圧供給装置によって供給され、
締結力は、前記液圧に応じて変化し、
断接手段制御装置は、前記液状流体の粘性又は粘性相関量に基づいて前記液圧を調整することにより締結力を制御する、車両用駆動装置の断接手段の技術。」
と言い換えることができる。
また、引用発明と、引用文献2記載の技術は、どちらも、車両用駆動装置の技術分野において、動力の接続と遮断を行う断接手段に関するものである。
してみれば、上記相違点1及び2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明における車両用駆動装置の断接手段に代えて、引用文献2記載の技術を採用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

なお、請求人は、平成27年4月20日付け審判請求書及び平成27年8月21日付け上申書において、引用文献1の実施形態に記載された断接手段は「シンクロメッシュ」であるから、締結力を制御することができない旨主張している。
確かに、引用発明における「断接手段」は、一実施形態においては「シンクロメッシュ機構」であって、本願補正発明のように「接続状態における断接手段の締結力を制御する」ものではないと考えられる。
しかし、引用文献1の特許請求の範囲には「・・・動力の接続と遮断とを行う断接手段と、を備えた車両駆動装置において、・・・」(特許請求の範囲の請求項1)と記載されており、引用発明における「断接手段」が「シンクロメッシュ機構」に限定されているわけではない。
また、引用文献1の【背景技術】の欄(段落【0002】ないし【0005】)には、「断接手段」として、「油圧クラッチ」を使用した技術が記載されている。また、段落【0072】には、「一方の車輪と差動装置の間で動力接続と遮断を行う断接手段は、シンクロメッシュ機構37に限らず摩擦クラッチ等の他の機構を採用することも可能である…」と記載され、「断接手段」としてシンクロメッシュ機構以外の機構を採用することも可能であることが分かる。
また、「電動機と車輪との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段」として、シンクロメッシュ機構ではなく「締結力が液圧によって変化する」断接手段を設けることは、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2006-258279号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1ないし6、段落【0039】ないし【0041】及び図面を参照。]、特開2005-140323号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1ないし9、段落【0012】、【0025】、【0034】ないし【0040】及び図面を参照。]等の記載を参照。)である。
してみると、引用発明における「断接手段」は、「シンクロメッシュ機構」に限定されているのではなく、「締結力が液圧によって変化する」断接手段(例えば「油圧クラッチ」)を含むものと認められる。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2記載の技術から予測される以上の格別に顕著な効果を奏するものではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成27年4月20日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし7に係る発明は、平成26年10月31日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)アの請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、前記第2の〔理由〕2 2-1 2-1-1及び2-1-2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の〔理由〕2の2-2及び2-3において検討した本願補正発明における限定の一部を省いて上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものに相当する本願補正発明が、前記第2の〔理由〕2の2-3に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から上記事項を省いた本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び引用文献2記載の技術から予測される以上の格別に顕著な効果を奏するものではない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-28 
結審通知日 2015-11-04 
審決日 2015-11-17 
出願番号 特願2011-82122(P2011-82122)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 車両用駆動装置  
代理人 本山 慎也  

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