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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21B |
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管理番号 | 1309412 |
審判番号 | 不服2014-15987 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-12 |
確定日 | 2016-01-07 |
事件の表示 | 特願2013-229915「常温核融合反応方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月11日出願公開、特開2015- 90312〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成25年11月6日の出願であって、平成25年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月21日付けで意見書が提出され、同年5月2日付けで上申書が提出され、同年5月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がされ、平成27年6月11日付けで、当審から拒絶理由が通知され、同年8月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年8月17日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「反応容器内の電解液中に加速用正電極及び加速用負電極を設置するとともに、前記加速用正電極及び前記加速用負電極の近傍に電解液の電圧を検知するための参照用正電極及び参照用負電極を配置し、前記参照用正電極及び前記参照用負電極を集電用正電極及び集電用負電極としても機能させ、前記加速用正電極及び前記加速用負電極に反応電圧を印加して前記加速用正電極及び前記加速用負電極間に常温核融合を発生させ、この常温核融合状態における電解液の電圧を前記参照用正電極及び前記参照用負電極を利用して検知し、前記参照用正電極及び前記参照用負電極間の参照電圧に基づいて反応電圧を制御して常温核融合状態を維持するとともに、常温核融合反応状態における電気エネルギーを前記集電用正電極及び前記集電用負電極を通して取り出すことを特徴とする常温核融合反応方法。」 3.原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶理由は、本願発明において、どの元素の原子核とどの元素の原子核とが融合し、どのような原子核が生成され、どのような形態でエネルギーが放出されているのか、等の常温核融合発生の詳細な原理が、依然として把握できず、本願発明は、明細書に記載されたものではなく、かつ、明細書が、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないものであって、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。 4.当審の判断 (1)本願明細書の記載 本願発明は、「常温核融合反応状態における電気エネルギーを前記集電用正電極及び前記集電用負電極を通して取り出すこと」を発明特定事項とするところ、本願明細書には、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。 「【実施例】 【0066】 常温核融合反応が発生しているかを確認するために、次の実験を行った。実験として図7に示す形態の常温核融合反応装置を用いて行い、電解液として蒸留水(95%)と重水(5%)を混合した水に、電解物質として炭酸ソーダ:Na_(2)CO_(3))0.1モル溶解させたものを用いた。反応容器として直径7cm、長さ30cmのもの円筒状のものを用い、この反応容器内に電解液を1リットル充填した。正電極(加速用正電極)と負電極(加速用負電極)との間隔は15cm、電解用正電極と正電極(電解用負電極)との間隔は0.5cmであった。 【0067】 まず、電解反応を行うために、電解用正電極と正電極(電解用負電極)との間に2V、1Aの電圧(電解電圧)を5秒間にわたって加えた。その後、常温核融合反応に移行させるために、正電極(加速用正電極)及び負電極(加速用負電極)との間に250V、1Aの電圧(反応電圧)を印加した。この反応電圧を印加すると、負電極の近傍の電解液がミルク状になり、このミルク状の状態が拡がって正電極及び負電極間の全域において微小の火花が無数に生じてグロウ放電発光状態となり、電流が0.1Aまで低下した。このグロウ放電発光状態が数秒間続くと、反応容器内の電解液が沸騰してその沸騰状態が激しくなり、この激しい沸騰状態が5?6秒続くと蒸発により液面レベルが急激に下がり、正電極及び負電極が電解液の液面より露出した。そこで、反応電圧を50Vまで下げると、グロウ放電発光状態が沈静化し、反応容器内は元の状態に戻った。 【0068】 この実験後に電解液の液蒸発量を計測すると約150ccであった。この液蒸発量は、電力に換算すると60kW・hに相当し、またこの実験で参照用正電極及び参照用負電極から取り出した電力は、電圧200V、電流10Aであり、2kW・hの電力出力が得られた。このような状態、また発生したエネルギー量を考慮すると、常温核融合反応が起こったと考えられる。」 図7 (2)これらの記載によれば、図7の常温核融合反応装置では、反応容器内に電解液を1リットル充填し、正電極(加速用正電極)と負電極(加速用負電極)との間隔を15cm、電解用正電極と正電極(電解用負電極)との間隔を0.5cmとし、まず、電解反応を行うために、電解用正電極と正電極(電解用負電極)との間に2V、1Aの電圧(電解電圧)を5秒間にわたって加え、その後、常温核融合反応に移行させるために、正電極(加速用正電極)及び負電極(加速用負電極)との間に250V、1Aの電圧(反応電圧)を印加することで、参照用正電極及び参照用負電極から、2kW・hの電力出力が得られたというものである。 (3)ここで、図7の常温核融合反応装置では、反応容器内の電解液は、電解物質として炭酸ソーダを有する水であって、該電解液に「電極(加速用正電極)及び負電極(加速用負電極)」によって、「250V、1A」の電力が印加されていて、その他には、反応用容器の外からのエネルギーの流入はないことから、該「電解液」に、電力を取り出せるようなエネルギーを生じるような化学反応が生じているとは認めることができない。 そうすると、明細書に記載された実施例の「常温核融合反応」においては、反応容器内の電解液に、「電極(加速用正電極)及び負電極(加速用負電極)との間」に「250V、1A」の電力が印加されると、該電解液から、「参照用正電極及び参照用負電極」によって、それを大きく上回る「2kW・h」の電力が得られたと記載されているところ、技術常識に照らせば、このようなことはあり得るものではない。 また、明細書の他の記載を参酌しても、「常温核融合反応状態における電気エネルギーを前記集電用正電極及び前記集電用負電極を通して取り出すこと」について、その機序を理解することはできない。 (4)したがって、本願発明の「常温核融合反応状態における電気エネルギーを前記集電用正電極及び前記集電用負電極を通して取り出すこと」について、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (5)また、平成26年2月21日付けの意見書、同年5月2日付けの上申書、拒絶査定不服審判の請求書及び平成27年8月17日付けの意見書における請求人の主張は、いずれも上記判断を左右するものではない。 5.平成27年6月11日付けの当審の拒絶理由の意義 平成27年8月17日付けの手続補正書によって、本願発明は、「常温核融合反応状態における電気エネルギーを前記集電用正電極及び前記集電用負電極を通して取り出すこと」が特定されたところ、平成27年6月11日付けの当審の拒絶理由は、明細書に記載された「常温核融合反応」は、単に、電解液の電気分解反応であると解釈して、特許法第29条第2項(進歩性)の拒絶理由を通知したものである。 これに対して、平成27年8月17日付けで提出された意見書及び補正書により、上記「常温核融合反応」が単なる「電解液の電気分解反応」ではなく、「電気エネルギー」を「取り出す」反応であることが明確になったことにより、上記「4」の判断をするに至った。 6.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-11-05 |
結審通知日 | 2015-11-10 |
審決日 | 2015-11-24 |
出願番号 | 特願2013-229915(P2013-229915) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(G21B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤本 加代子 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 川端 修 |
発明の名称 | 常温核融合反応方法及び装置 |
代理人 | 岸本 忠昭 |