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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1309414
審判番号 不服2014-17379  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-02 
確定日 2016-01-07 
事件の表示 特願2011- 86165「移植臓器の線維化抑制剤」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 8日出願公開、特開2011-173900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年9月9日(優先権主張 平成17年1月24日 日本国)を国際出願日とする特願2006-553821号の一部を平成23年4月8日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月16日付け拒絶理由通知に対して、同年12月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年6月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月2日に拒絶査定不服審判が請求され、同年10月16日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成25年12月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
肝細胞増殖因子(HGF)を含有し、移植に際してレシピエントとの組織適合抗原が一致しないドナー由来の組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに獲得させるために、レシピエントに投与されるものであることを特徴とする、ドナー組織または臓器に対する免疫寛容獲得剤であって、前記HGFが、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドであってマイトゲン活性、モートゲン活性を有するペプチドであることを特徴とする免疫寛容獲得剤。」

第3 引用例に記載された事項
1.引用例
引用例1:磯部光章ら,安全な移植技術の開発をめざして-厚生労働省ミレニアム・プロジェクト(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)報告-,移植,2003年,Vol.38,No.4,pp.263-277(原審における引用文献4)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用例1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「2.HGFによる免疫抑制
磯部,中村,天野らは組織保護作用が確認されているHGFが急性拒絶反応に及ぼす効果についてラット腎移植,マウス心移植の系を用いて検討した。rhHGFの短期投与によりマウス移植心の著明な生着延長が認められた。コントロールに対して,200μg/kg/日投与群,500μg/kg/日投与群で有意に延長した。40%の移植心は100日以上生着を続けた。長期生着マウスではドナーの皮膚が全例長期生着し免疫寛容の誘導が証明された。
HGFによって免疫寛容が誘導されるという今回の検討結果は新しく注目に値する。」(第268頁左欄第3?14行)
(イ)「ICOSIgとCTLA4Igの併用によりラット肝移植,マウス心移植モデルで免疫寛容が導入できることを確認した。移植心を長期間受け入れたレシピエントはドナーの皮膚を特異的に受け入れた(図5)。」(第267頁左欄第12?16行)
(ウ)「

」(図5)

2.周知技術を示す文献
(2-1)刊行物A
本願の優先日前に頒布された刊行物Aは、移植について示された文献であり、以下の記載がある。
刊行物A:多田富雄監訳,免疫学イラストレイテッド(原著第5版),株式会社南山堂,2000年,第353?365頁
(ア)「移植組織に対する拒絶反応は、レシピエントの免疫機構が移植片上にある非自己組織適合抗原を認識することから起こる。」(第353頁要約の左欄第1?3行)
(イ)「移植を妨げるものはドナーとレシピエント間の遺伝学的違いである。移植片は自家移植片、同系移植片、同種移植片、異種移植片に分けられる(図27.2)。自己の身体のある部位から他の部位への自家移植片は、外来(非自己)のものではないから、拒絶反応を起こさない。同様に、同系(遺伝学的に同一)の移植片、すなわち一卵性双生児や同系の純系マウス間の同系移植片は、外来の抗原(非自己抗原)を持っていないので免疫反応を起こさない。臨床で行われている移植は、ある人の臓器を遺伝学的に異なる他の人に移植するものである。このような移植片は同種移植片と呼ぶ(特定の遺伝子群の対立遺伝子に差のある同じ種間同士での移植)。同種移植片の細胞表面には、レシピエントが自己のものではないと認識する同種抗原がある。」(第353頁右欄第19?30行)
(ウ)「本来的に拒絶反応を引き起こす原因である、遺伝学的に違いのある組織に存在する抗原は、組織適合抗原として知られている。」(第354頁右欄第14?15行)
(エ)「同種臓器移植拒絶反応における基本原則は、レシピエントにはない何らかの抗原を移植片が持っているか否かで決まることである。」(第355頁左欄第8?10行)
(オ)「組織適合抗原が完全に一致したドナーとレシピエントは一卵性双生児である。」(第361頁左欄第4?5行)

(2-2)刊行物B?F
本願の優先日前に頒布された刊行物B?Fは、急性拒絶反応の研究を行う際のマウス心移植モデルについて示す文献であり、以下の記載がある。なお、刊行物C、D、Fは、英語で記載されているため、当審による訳文で示す。

刊行物B:鈴木淳一ら,心臓移植における急性拒絶反応と冠動脈病変の病態解析および遺伝子治療,今日の移植,2004年,Vol.17,No.2,pp.214-218
(カ)「筆者らが急性拒絶の解析と新しい治療法開発のために用いているのは、フルアロミスマッチのマウス間で異所性にマイクロサージェリーの手法により移植するモデルである。」(第214頁左欄最下行?右欄第3行)

刊行物C:山浦一宏ら,Hepatocyte Growth Factor Prevents the Acute Rejection and Induces Tolerance in Murine Cardiac Allografts,日本外科学会雑誌,2003年,第104巻臨時増刊号,p.272,SF4053-1
(キ)「肝細胞増殖因子はマウス心同種移植において急性拒絶反応を防ぎ、寛容を誘導する」(標題)
(ク)「方法:BALB/cの心臓を、完全に組織不適合性の組合せを有するC3H/Heに移植した。」(刊行物Bの本文第5?6行)

刊行物D:Noritaka Koga et al.,The Interaction between Programmed-Death-1 (PD-1) and its Ligands (PD-L1) Regulates Acute Rejection and Graft Arterial Disease (GAD) in Cardiac Allografts,Circulation Journal,2004年,Vol.68 Suppl.I,p.406,PE-179
(ケ)「方法:我々は、マウス心移植モデルを用いた。急性拒絶反応及びGADを試験するため、それぞれC57BL/6の心臓がBalb/cマウス又はBm12マウスに移植された。」(刊行物Cの本文第3?5行)

刊行物E:特表2003-512436号公表
(コ)「急性拒絶反応モデル:
急性拒絶反応モデル用に、雄の近交系マウスC57BL/6(H2^(b))及びBALB/c(H2^(d))を、それぞれ供与体及び受容体として用いた。この系統の組合わせは、非主要及び主要MHCの双方において不適性であった。」(段落【0076】)

刊行物F:国際公開第2004/091654号
(サ)「B.1 急性拒絶
例えば、Balb/c(H-2d)マウスをドナー動物として、そして例えばCBA(H-2k)マウスをレシピエントとして使用する。」(第18頁下から第9?7行)

(2-3)刊行物G?I
本願の優先日前に頒布された刊行物G?Iは、ヒト肝細胞増殖因子(以下、「hHGF」という。)のアミノ酸配列に関する文献であり、以下の記載がある。なお、刊行物G、Hは、英語で記載されているため、当審による訳文で示す。

刊行物G:Keiji Miyazawa et al.,MOLECULAR CLONING AND SEQUENCE ANALYSIS OF cDNA FOR HUMAN HEPATOCYTE GROWTH FACTOR,BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,1989年,Vol.163,No.2,pp.967-973
(シ)「劇症肝炎患者血漿から得られたhHGFの4個のペプチドフラグメントのアミノ酸配列が決定された。」(第967頁第1?2行)
(ス)「

図1 hHGFのcDNA配列及び推定されるアミノ酸配列・・・」(図1)

刊行物H:Tatsuya Seki et al.,ISOLATION AND EXPRESSION OF cDNA FOR DIFFERENT FORMS OF HEPATOCYTE GROWTH FACTOR FROM HUMAN LEUKOCYTE,BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,1990年,Vol.172,No.1,pp.321-327
(セ)「ヒト白血球由来HGFの異なる形態のためのcDNAの単離と発現」(標題)
(ソ)「肝増殖因子をコードするcDNAを単離するために、ヒト肝臓由来cDNAをプローブとして用いて、ヒト白血球cDNAライブラリーがスクリーニングされた。得られた4個のクローンのうちの2個の核酸及び推定されるアミノ酸配列が分析された。一つは、ヒト肝臓由来cDNAクローンと同様の728アミノ酸残基のポリペプチド鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む。もう一方のクローンは、コーディング配列内に15塩基の自然欠失が見られた。COS-1細胞を用いて一過性に発現させると、両クローンともインビトロでラット肝細胞に対する同様の生物学的活性を有する蛋白質を産生した。」(要約)
(タ)「ノーザンブロット分析:・・・以前に報告されたヒト肝臓HGFcDNA(8)の・・・」(第322頁第5?8行)
(チ)「それらのうちの2個の核酸配列、HLC2とHLC3が決定された(図2)HLC3 cDNAでは、肝臓由来クローンと同様に、728個のアミノ酸のオープンリーディングフレームが見られたが、異なる由来から単離されたcDNA間では、コード領域内に39個の核酸のミスマッチが見られ、その結果、図2に見られるように、14個のアミノ酸残基が置換した。白血球cDNAの配列は、ヒト胎盤から単離されたHGF cDNAと完全に一致した。他のクローンであるHLC2の核酸配列は、図2に示されるように、15塩基(483から497番目の塩基)欠失した点を除いて、HLC3と完全に一致した。」(第323頁第3?11行)
(ツ)「

図2 ヒト白血球HGFcDNAの核酸及び推定されるアミノ酸配列
HLC2で見られた欠失は四角で囲んでいる。・・・最下段の残基は、ヒト肝臓から単離されたクローンとの相違を示す。」(図2)
(テ)「・・・
8.Nakamura,T.・・・(1989) Nature 342,440-443
・・・」(第326頁文献の項)

刊行物I:特開平5-111383号公報
(ト)「3)ヒト白血球由来HGF遺伝子cDNAの単離と塩基配列の決定
・・・ヒト白血球由来HGF遺伝子のクローニングを行った。・・・陽性クローンHLC2及びHLC3を得た。・・・図1にHLC3の制限酵素地図、配列表・配列番号1に塩基配列の一部及び演繹されるアミノ酸配列を示す。ヒト白血球由来HGFクローン、HLC3は以前に決定されたヒト肝臓由来HGF(Nature, 342, 440, 1989) と同様の特徴を有しているが、コード領域内の塩基配列に38ヶ所差異があり、その結果演繹されるアミノ酸配列に14ヶ所の差異を生じた。また、HLC2cDNAはHLC3cDNAとほぼ同一の塩基配列を有しているが、HLC3cDNAの484番目から498番目までの塩基が欠失していた(配列表・配列番号2)。」(段落【0022】)
(ナ)「【配列表】配列番号:1
・・・

」(段落【0044】)
(ニ)「【配列表】配列番号:2
・・・

」(段落【0045】)

刊行物J:坪内博仁ら,肝細胞増殖因子の基礎と臨床,蛋白質核酸酵素,1992年,Vol.37,No.12,pp.2135-2143
(ヌ)「2.hHGFの構造解析
・・・
筆者らは、精製hHGFのアミノ酸配列を部分的に決定し、それに基づいてプローブとなるオリゴヌクレオチドを合成した。そのプローブを用いてヒト胎盤cDNAライブラリーをスクリーニングして、hHGFのcDNAクローンを得、最終的にhHGFの全一次構造を解明した^(9))。・・・
一方、Nakamura^(12))らは、ラット血小板由来の精製HGFの部分アミノ酸配列を決定し、それをプローブに用いてヒト肝臓のcDNAライブラリーよりhHGFのクローニングを行った。その結果を筆者らのものと比較すると、728個という総アミノ酸残基数は同じであるものの、このうち14個のアミノ酸に相違が認められる。この相違の理由は明らかではないが、その後、東洋紡グループが、ヒト白血球ライブラリーよりクローニングしたhHGFのクローンでは、筆者らと同じ塩基配列をもつものと、そのうちの483?497番目の15塩基配列が欠如している2種類のクローンを得ている^(14))。さらに最近、Rubinら^(15))がヒト胎児肺線維芽細胞の培養上清から精製し、M426 cDNAライブラリーよりクローニングしたHGFも筆者らのものと一致しており、Weidnerら^(16))がMRC-5細胞からクローン化したhHGF/SF cDNAの配列も筆者らのものと完全に一致している。」(第2136頁左欄第23行?右欄第20行)
(ネ)「・・・
9)Miyazawa,K.・・・Biochem.Biophys.Res.Commun.,163,967-973(1989)
・・・
12)Nakamura,T.・・・Nature,342,440-443(1989)」(第2142頁文献の項)

第4 対比・判断
1.引用発明
第3 1.(ア)によれば、rhHGFは急性拒絶反応を示すマウス心移植の系において投与されているものであるから、何らかの形状の剤とされているといえ、また、マウス移植心の長期生着マウスではドナーの皮膚が長期生着し免疫寛容を誘導するものである。そうすると、引用例1には、「rhHGFを含有し、急性拒絶反応を示すマウス心移植の系で投与され、移植心の長期生着マウスにおいてドナーの皮膚を長期生着させる免疫寛容を誘導する剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2.対比
本願発明1と引用発明を対比する。第3 1.(ア)によれば、引用発明は、HGFの心移植における急性拒絶反応に及ぼす効果について検討したものであるから、引用発明のrhHGFを含有する剤は移植に際してレシピエントに投与されているものである。また、引用発明における「長期生着マウスにおいてドナーの皮膚を長期生着させる免疫寛容を誘導する」ことは、レシピエントがドナーの皮膚に対する免疫寛容を獲得することであり、また、本願発明1では、ドナー皮膚はドナー組織の一種である(段落【0035】)から、引用発明における「マウス心移植の系で投与され、移植心の長期生着マウスにおいてドナーの皮膚を長期生着させる免疫寛容を誘導する剤」は、本願発明1における「移植に際して免疫寛容をレシピエントに獲得させるために、レシピエントに投与されるものである、ドナー皮膚に対する免疫寛容獲得剤」に該当する。
そうすると、本願発明1と引用発明は、「肝細胞増殖因子(HGF)を含有し、移植に際して免疫寛容をレシピエントに獲得させるために、レシピエントに投与されるものであることを特徴とする、ドナー皮膚に対する免疫寛容獲得剤」である点で一致し、以下の点で一応相違している。

・本願発明1では、レシピエントとドナーの組織適合抗原が一致しないのに対し、引用発明ではレシピエントとドナーの組織適合抗原についての特定がなされていない点(以下、「相違点1」という。)。

・HGFが、本願発明1では「配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドであってマイトゲン活性、モートゲン活性を有するペプチド」であるのに対し、引用発明ではアミノ酸配列及び活性についての特定がなされていない点(以下、「相違点2」という。)。

3.判断
(3-1)相違点1について
引用発明は、急性拒絶反応を示すマウス心移植の系を用いている。
ここで、移植組織に対する拒絶反応は、レシピエントの免疫機構が移植片上にある非自己の組織適合抗原、すなわち、ドナー由来であって、レシピエントにはない組織適合抗原を認識することから起こるものであること(第3 2.(2-1)(ア)?(エ))、組織適合抗原が完全に一致している一卵性双生児をドナーとレシピエントとする同系移植では拒絶反応が起きないこと(第3 2.(2-1)(イ)、(オ))が、本願の優先日前に周知であったといえる。そして、一般に、急性拒絶反応の有無を確認するマウス心移植モデルの実験系においても、組織適合抗原の一致しないドナーとレシピエントが用いられていたものである(必要であれば、第3 2.(2-2)(カ)?(サ))。
そうすると、引用発明における急性拒絶を示すマウス心移植の系でも、レシピエントとドナーの組織適合抗原が一致していないものが用いられていると認められ、この点において、本願発明1と引用発明が相違しているとはいえない。

(3-2)相違点2について
本願の段落【0015】には、本願発明1の配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の161?165番目の5個のアミノ酸残基が欠失したものであり、ヒト由来の天然HGFであることが記載されている。
これに対し、引用発明に含有されるrhHGFは、ヒト組換えHGFであるが、本願優先日前には、ヒト組換えHGFとしては上記刊行物G?Jに示されるようなcDNAによりコードされるアミノ酸配列の複数種のヒト組換えHGFが既知であり(第3 2.(2-3)(シ)?(ネ))、当業者であればこれら既知の複数種のヒト組換えHGFの中のいずれかが引用発明のrhHGFとして採用されたものと理解するものである。なお、刊行物Gは、本願の段落【0014】において、本願発明1で使用される組換えHGFとして例示されているものである。
ここで、刊行物Gに記載されるhHGFのアミノ酸配列(第3 2.(2-3)(ス))は、本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列に該当する。
また、刊行物Hには3種のアミノ酸配列(第3 2.(2-3)(ツ))、すなわち、(i)ヒト肝臓由来cDNAによりコードされるアミノ酸配列、(ii)ヒト白血球由来HCL2cDNAによりコードされるアミノ酸配列、(iii)同HLC3cDNAによりコードされるアミノ酸配列が記載されており、刊行物Iには、上記(ii)(第3 2.(2-3)(ニ))又は(iii)((第3 2.(2-3)(ナ))のアミノ酸配列が記載されている。さらに、刊行物Iには、上記(iii)とはアミノ酸配列に14箇所の差異があるヒト肝臓由来HGFについても記載されているところ、第3 2.(2-3)(タ)、(テ)、(ト)によれば、刊行物Hと刊行物Iにおいてヒト肝臓由来HGFの記載はいずれも同じ文献を参照していることから、刊行物Iにおけるヒト肝臓由来HGFのアミノ酸配列は上記(i)であると認められる。そして、上記(i)?(iii)のうち、(ii)が本願発明1の配列番号2で表されるアミノ酸配列に該当し、(iii)が本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列に該当し、(i)が本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列と14箇所のアミノ酸においてのみ異なるものであることは、各々のアミノ酸配列同士の対比から明らかである。
さらに、刊行物Jにおいて引用されている文献9が刊行物Gであり(第3 2.(2-3)(タ)、(テ)、(ヌ)、(ネ))、該アミノ酸配列と14個のアミノ酸に相違が見られるhHGFについての記載で引用されている文献12が、刊行物Hにおけるヒト肝臓由来HGFの記載で参照されている文献と同じであること(第3 2.(2-3)(ト)、(ヌ)、(ネ))や、クローンcDNAの由来やアミノ酸数、配列中のアミノ酸残基の異同に関する記載等をみると、刊行物Jにおいて解明したとされているhHGFは本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列であり、その他に記載されているhHGFのアミノ酸配列も上記(i)?(iii)のいずれかに該当するものと認められる。そして、上記(i)?(iii)のうち、(ii)が本願発明1の配列番号2で表されるアミノ酸配列に該当し、(iii)が本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列に該当し、(i)が本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列と14箇所のアミノ酸においてのみ異なるものであることは、上述のとおりである。
そして、本願明細書の配列番号1で表されるアミノ酸配列、又は、該アミノ酸配列と14箇所のアミノ酸においてのみ異なるものである上記(i)のアミノ酸配列は、いずれも本願発明1の配列番号2で表されるアミノ酸配列と一致はしないものの、そのアミノ酸配列をみると、いずれも本願発明1の配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものといえる。
そうすると、引用発明のrhHGFとして、刊行物G?Jに示される、既知のどのアミノ酸配列のrhHGFを用いたとしても、それらrhHGFはいずれも「配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチド」に該当するものである。
また、引用発明のrhHGFは、HGFの作用を確認するために用いられているものであるから、HGFとしての活性も有するもの、すなわちマイトゲン活性、モートゲン活性を有するものといえる。
そうすると、引用発明に記載のrhHGFは、配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドであるか、配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドであってマイトゲン活性、モートゲン活性を有するペプチドである蓋然性が高く、そうすると、相違点2についても、本願発明1と引用発明が相違しているとはいえない。

(3-3)小括
したがって、本願発明1と引用発明の発明特定事項に差異はなく、本願発明1は引用例1に記載された発明である。

第5 請求人の主張
1.請求人は、審判請求書の請求の理由を補正した平成26年10月16日付け手続補正書(方式)において、以下の主張をしている。なお、請求人の主張における引用文献4は、この審決における引用例1である。
「引用文献4には、『4.HGFによる免疫抑制』の項目において、『長期生着マウスではドナーの皮膚が全例長期生着し、免疫寛容の誘導が証明された』との記載がありますが(268頁左欄10-12行)、この実験の条件は明らかではありません。
まず、本項の実験は、HGFが急性拒絶反応に及ぼす効果を検討した実験です(268頁左欄4-6行)。本実験では、コントロ-ル群、HGF 200μg/kg/日群、HGF 500μg/kg/日群の3群によって心移植の実験が行われたと理解されます。ここで、『コントロールに対して、200μg/kg群、500μg/kg群で(移植心の生着が)有意に延長した。40%の移植心は100日以上生着を続けた』との記載があります(268頁左欄8-10行)。
しかしながら、40%の移植心とはどの40%なのか不明です。
また、コントロールに対してHGF群で生着延長が見られたとしても、コントロールでは全例で生着しなかったと記載されているわけではないので、コントロールでも長期生着した例はあったと理解されます。
さらに、『長期生着マウスでは、ドナーの皮膚が全例長期生着し、免疫寛容の誘導が証明された』と記載されていますが(268頁左欄10-12行)、この長期生着マウスとは、HGFによって長期生着が達成されたマウスなのか、コントロールでも一部見られた長期生着マウスも含むのか不明です。
また、ここで記載されている免疫寛容の誘導とは、ドナー組織のみを特異的に受け入れる免疫寛容なのか、非特異的な免疫抑制による免疫寛容なのか不明です。このように、引用文献4は、実験条件が明らかでなく、本願の免疫寛容を示唆するものではありません。」

上記請求人の主張を検討するに、請求人が指摘した「4.HGFによる免疫抑制」(当審注:「2.HGFによる免疫抑制」の誤記と認められる。以下、「2.HGFによる免疫抑制」に統一して記載する。)の項の記載内容は、その見出しのとおり、HGFによる免疫抑制について述べていると理解できるので、「40%の移植心」も、HGF投与群のうちの40%と解するのが自然である。
また、「長期生着マウスでは、ドナーの皮膚が全例長期生着し、免疫寛容の誘導が証明された」との記載についても、「2.HGFによる免疫抑制」の項に実験結果として記載されていること、上記に次いで、「HGFによって免疫寛容が誘導されるという今回の結果は新しく注目に値する。」(第3 1.(ア))との記載があることから、HFG投与群で免疫寛容の誘導が証明されたことを記載したものと解するのが自然であり、すなわち、免疫寛容の誘導が証明された長期生着マウスは、HGF投与群で、移植心が長期生着したマウスと解するのが自然である。
そして、本願の請求項1には、「ドナー由来の組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに獲得させる」、「ドナー組織または臓器に対する免疫寛容獲得剤」と記載されているが、該記載では、少なくともドナー組織又は臓器に対して免疫寛容を獲得することを特定しているに過ぎず、非特異的な免疫抑制による免疫寛容の獲得も含むと解されるから、この点において、本願発明1と引用発明が異なるとすることはできない。

なお、仮に、本願発明1が、ドナー組織又は臓器に特異的な免疫寛容獲得を意味するものであったとしても、次の理由から、引用発明における免疫寛容もドナー組織又は臓器特異的な免疫寛容である蓋然性が高い点も付言する。
上記「2.HGFによる免疫抑制」は、「IV.急性拒絶反応の病態解明と寛容誘導」の一項目であるところ、「IV.急性拒絶反応の病態解明と寛容誘導」の中の「1.副刺激分子阻害による寛容誘導」には、「マウス心移植モデルで免疫寛容が導入できることを確認した。移植心を長期間受け入れたレシピエントはドナーの皮膚を特異的に受け入れた(図5)」(第3 1.(イ))と記載され、図5の説明には、「移植心が長期生着したマウスに移植したドナー皮膚片は生着し、他の皮膚片は正常に拒絶される」(第3 1.(ウ))との記載がある。そして、これら記載に次いで、上記「2.HGFによる免疫抑制」の項があること、いずれも移植心の長期生着マウスに対し、ドナーの皮膚を用いて免疫寛容の誘導を確認していることを考慮すると、「2.HGFによる免疫抑制」における「長期生着マウスではドナーの皮膚が全例長期生着し、免疫寛容の誘導が証明された」との記載も、ドナーの皮膚を特異的に受け入れたことに基づく記載であると解するのが自然である。

2.請求人は、平成25年12月17日付け意見書において、以下の主張をしている。
「本願発明1および2のHGFは、本意見書同日付の手続補正書により、配列番号2で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドであってマイトゲン活性、モートゲン活性を有するペプチド、または、配列番号4で表される塩基配列又は配列番号4で表される塩基配列からなるDNAと95%以上の同一性を有する塩基配列を有するDNAによって、限定されるものとなりました。
しかし、引用発明4?9には、上記アミノ配列、および、上記塩基配列のいずれの記載もありません。」

しかしながら、引用発明のrhHGFが、配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドであるか、本願配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドであってマイトゲン活性、モートゲン活性を有するペプチドである蓋然性が高いことは、第4 3.(3-2)で説示したとおりである。

3.小括
以上のとおりであるから、請求人の主張を検討しても、上記の判断に変わりはない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は本願優先日前に頒布された引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-04 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2011-86165(P2011-86165)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 公祐  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 新留 素子
大久保 元浩
発明の名称 移植臓器の線維化抑制剤  
代理人 岩谷 龍  

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