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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1309418
審判番号 不服2014-22164  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2016-01-07 
事件の表示 特願2010-138044「立体表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 29161〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年 6月17日に出願した特許出願(優先権主張 平成21年 6月26日)であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成26年 1月30日:拒絶理由通知(同年2月4日発送)
平成26年 4月 2日:意見書
平成26年 4月 2日:手続補正書
平成26年 4月24日:拒絶理由通知(同年5月7日発送)
平成26年 7月 4日:意見書
平成26年 7月 4日:手続補正書(以下、これによりなされた補正を「本件補正前の補正」という。)
平成26年 7月30日:拒絶査定(同年8月5日送達)
平成26年10月31日:手続補正書(以下、これによりなされた補正を「本件補正」という。)
平成26年10月31日:審判請求



第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正前の補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた基板と、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を駆動する回路と、偏光制御板とを備えた立体表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板と偏光制御板との間に設けられ、偏光制御板に向けて光を出射する素子であり、且つ、右目により視認されるべき画像情報を表示する右目用有機エレクトロルミネッセンス素子と、左目により視認されるべき画像情報を表示する左目用有機エレクトロルミネッセンス素子とを含み、
前記偏光制御板は、右目用有機エレクトロルミネッセンス素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向と、左目用有機エレクトロルミネッセンス素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向とが異なるように、入射する光の偏光状態を制御することが可能な偏光制御板であり、
前記偏光制御板は、液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板である立体表示装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。なお、下線は、当審が付したものである(以下同様。)。
「有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた基板と、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を駆動する回路と、偏光制御板とを備えた立体表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板と偏光制御板との間に設けられ、偏光制御板に向けて光を出射する素子であり、且つ、右目により視認されるべき画像情報を表示する右目用有機エレクトロルミネッセンス素子と、左目により視認されるべき画像情報を表示する左目用有機エレクトロルミネッセンス素子とを含み、
前記偏光制御板は、右目用有機エレクトロルミネッセンス素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向と、左目用有機エレクトロルミネッセンス素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向とが異なるように、入射する光の偏光状態を制御することが可能な偏光制御板であり、
前記偏光制御板は、パターン化された液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板である立体表示装置。」


2 補正の目的
本件補正は、(A)願書に最初に添付された明細書の段落【0030】?【0033】の記載に基づいて、本件補正前の補正による特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)における「液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板」という構成を、「パターン化された液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板」という構成に限定して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とするものであり、(B)本願発明と本件補正後発明の産業上の利用分野は、ともに、立体表示装置(段落【0001】参照。)であり、(C)本願発明と本件補正後発明の解決しようとする課題は、ともに、クロストークを小さくすることで、表示特性に優れた立体表示装置を得ること(段落【0006】参照。)であるから、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに、同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで、本件補正後発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下、検討する。

3 独立特許要件の検討
(1)引用例の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開2004-157425号公報(以下「引用例」という。)には、「立体画像表示装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。なお、説明の便宜上、対応する図面を挿入する。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
視差に対応した画像情報を第1の区分と第2の区分とに表示させる画像表示部を有する立体画像表示装置において、
前記画像表示部の前記第1の区分及び前記第2の区分に対向して配され、前記第1の区分からの前記画像情報に対応する偏光の偏光方向を、前記第2の区分からの前記画像情報に対応する偏光の偏光方向とは異なる方向に変換する分割波長板フィルターと、
前記分割波長板フィルターよりも狭い領域において光を円偏光に変換する円偏光手段と
を有することを特徴とする立体画像表示装置。」

イ 「【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、立体画像情報の観察に好適な立体画像表示装置に関するものである。」

ウ 「【0011】
【発明に至る経過】
本出願人は特願2001-247779において下記のような立体画像表示装置(以下、先願装置と称する。)を既に提起した。以下に、その構造例を図面参照下に説明する。
【0012】
図10に示すように、先願装置による立体画像表示装置65においては、液晶パネル部59側の構成部分と分割波長板フィルター64側の構成部分との組み合わせにより立体画像の表示が可能となる。
【図10】

まず、液晶パネル部59側の構造部分においては、上述したと同様に、左肩上がりに図示された偏光角を有する偏光板106と、右肩上がりに図示された偏光角を有する偏光板96との間にある一対の透明支持基板74a及び74b間に、画像表示部75が配設されている。この画像表示部75は、赤色の画素部78R、緑色の画素部78G及び青色の画素部78Bの組み合わせからなり、これら3色からなる画素トリオがマトリクス状に配列される構造を有している。
【0013】
それぞれの画素部78R、78G及び78Bには所要の電気配線が施されて、単純なマトリクス構造若しくはアクティブマトリクス構造をなし、立体画像表示の際には視差に対応した画像情報を表示する。
【0014】
透明支持基板74bの観察者側に配設された偏光板96を通過した直線偏光は、分割波長板フィルター64に到達する。
【0015】
この分割波長板フィルター64においては、ガラス等の材質からなる透明支持基板74cの液晶パネル部59側に、帯状の各分割波長板(1/2波長板)76が形成されている。分割波長板76は例えば、それぞれの長手方向が水平方向となっており、その幅及び間隔は上記の画像表示部75のライン幅と同程度である。また、分割波長板76の数は、画像表示部75の垂直方向での画素部数の1/2である。
【0016】
これらの帯状の各分割波長板76は、画像表示部75の画素部1ライン置きに形成されている。従って、右眼72R用の画像又は左眼72L用の画像のいずれか一方の画像は、分割波長板76を通過することにより、その偏光方向が90度回転することになり、また分割波長板76を通過しない側の画像は、その偏光方向が回転せずにそのまま射出される。
【0017】
立体画像表示を行うためには、分割波長板フィルター64によって画像表示部75からの光が1ライン毎で異なる偏光方向に制御され、分割波長板76を透過した時点では、直交する2種類の直線偏光が分離して得られる必要がある。そして、観察者は、偏光板69(例えば偏光メガネ)を掛けることによって、直交する2種類の直線偏光である右眼72R用の立体画像及び左眼72L用の立体画像を各偏光板部52R及び52Lを通して選択的に各眼72R及び72Lに入射させ、これらを両眼で観察して立体画像を認識することができる。
【0018】
しかし、右肩上がりに図示された偏光角を有する右眼用偏光板57Rと、左肩上がりに図示された偏光角を有する左眼用偏光板57Lとは、観察者が頭部を傾けたときなど、対応する入射直線偏光と角度が合わない場合には、立体画像が見え難くなってしまう。
【0019】
そこで、分割波長板フィルター64の前面側(観察者側)に1/4波長板89を設けることによって、分割波長板フィルター64から出る互いに直交する2種類の直線偏光をそれぞれ円偏光に変換すると共に、偏光板69の表面(1/4波長板89側)にも1/4波長板109をそれぞれ設けることによって、再度円偏光を直線偏光に変換して、偏光板69を透過できるようにしている。
【0020】
このように一対の1/4波長板89及び109を設けることによって、1/4波長板89に入射する偏光の偏光方向が多少ずれている場合であっても、目的の直線偏光成分が確実に含まれるように円偏光により修正し、これを1/4波長板109に通して目的の直線偏光を対応する偏光板部57R、57Lにそれぞれ入射させるので、観察者は立体画像を確実に観察することができるようになる。」

エ 「【0021】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図9に示す公知の装置や図10に示す先願装置においては、次のような問題が生じることが判明した。即ち、観察者が偏光板69を介して右眼72R及び左眼72Lで立体画像情報と文字情報とを上記した立体画像表示方式で観察する場合に、立体画像表示は鮮明に観察できるが、文字情報も立体画像表示用に分離されてしまい、それぞれの眼に対する文字情報の解像度(光入射量)が半分になり、文字情報がぶれて重なったり途切れたりして文字として判別できる程度に鮮明に表示できない。
・・・(中略)・・・
【0035】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、立体画像情報と共に文字情報をも確実かつ鮮明に観察することができる立体画像表示装置を提供することにある。」

オ 「【0049】
第1の実施の形態
本実施の形態は、図1に示す構造からなる立体画像表示装置15に関するものである。
【図1】

【0050】
この立体画像表示装置15は、左肩上がりに図示された偏光角を有する偏光板1と、右肩上がりに図示された偏光角を有する偏光板11との間において、一対の透明支持基板3a及び3bの間に液晶画像表示部4が配設され、液晶パネル部5を構成している。画像表示部4は、赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2Bの組み合わせからなり、これら3色からなる画素トリオがマトリクス状に配列された構造を有している。
【0051】
それぞれの画素部2R、2G及び2Bには所要の電気配線が施されて、単純なマトリクス構造若しくはアクティブマトリクス構造を成し、立体画像表示の際には視差に対応した右眼用又は左眼用の画像情報を表示する。
【0052】
偏光板11を通過した直線偏光が入射する分割波長板フィルター8は、支持体として機能しかつガラス等の堅牢な材質からなる透明支持基板3cの液晶パネル部5側に、帯状の1/2波長板6を形成したものである。ここで、1/2波長板6はそれぞれ長手方向を水平方向としており、その帯状の1/2波長板6の幅は上述の画像表示部4の画素のライン幅に対応し、また、1/2波長板6の数は画像表示部4の垂直方向への画素部数の1/2である。
【0053】
これらの帯状の各1/2波長板6は、画像表示部4の画素列に対し垂直方向に1ライン置きに形成されている。従って、右眼9R用の画像又は左眼9L用の画像のいずれか一方の画像が、各1/2波長板6を通過することによりその偏光方向が90度回転し、1/2波長板6を通過しない側の画像光はその偏光方向が回転せずにそのまま射出される。
【0054】
ここで、立体画像表示を行うためには、分割波長板フィルター8によって光が1ライン毎で異なる偏光方向に変換され、1/2波長板6を通過した時点において、直交する互いに偏光方向の異なる2種類の直線偏光が出射され、観察者は偏光板12(例えば偏光メガネ)を掛けることによって、直交する2種類の直線偏光である右眼9R用の画像及び左眼9L用の画像を選択的に両眼で観察する必要がある。
【0055】
しかし、右肩上がりに図示された偏光角を有する右眼用偏光板部10Rと、左肩上がりに図示された偏光角を有する左眼用偏光板部10Lとが、いずれも偏光フィルターの役割を果たすために、分割波長板フィルター8から来る各直線偏光との角度が合致しない場合には立体画像の表示が難しくなってしまう。
【0056】
そこで、上述した先願装置と同様に、分割波長板フィルター8の観察者側に1/4波長板17を設けることによって、分割波長板フィルター8から出る互いに直交する2種類の直線偏光を円偏光に変換すると共に、偏光板12の表面にも1/4波長板7を設けることによって、再度円偏光を直線偏光に変換した後に偏光板12を透過できるようにする。
【0057】
このようにして、一対の1/4波長板7及び17をそれぞれ設けることによって、1/4波長板7に到達する2種類の直線偏光の偏光方向が多少ずれているような場合であってもそれを円偏光に変換して修正し、この円偏光を偏光板12によって再び直線偏光に変換することによって、観察者が立体画像を確実に観察することができるようになる。
【0058】
ここで注目すべきことは、分割波長板フィルター8側の1/4波長板7の面積を分割波長板フィルター8の面積よりも小さくしていることである。これによって、1/4波長板7のない領域においては、文字情報が左眼用及び右眼用に分離されずに十分に入射するので、文字情報を鮮明に判別できると共に、1/4波長板7のある領域においては、左眼用及び右眼用の画像情報が分離されるために、立体画像情報を鮮明に観察することができる。」(当審注:段落【0056】における「1/4波長板17」及び「1/4波長板」が、それぞれ「1/4波長板7」及び「1/4波長板17」の誤記であることは、段落【0058】の記載及び図面から明らかである。)

カ 「【0086】
以上に説明した実施の形態は、本発明の技術的思想に基づいて更に変形が可能である。
・・・(中略)・・・
【0091】
また、画像表示部として液晶パネル部5を採用した例について説明したが、この他にも画像表示部としては、発光素子アレイ表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、陰極線管及びプラズマ表示装置等の各種画像表示装置によって構成することができ、分割波長板フィルター8はこれらの各種画像表示装置と組み合わせて用いることができる。」

キ 引用例には、請求項1に係る発明の「第1の実施の形態」として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、請求項及び段落の番号は、引用発明の認定の際に活用した引用例の記載箇所を示すために併記したものである。また、用語及び符号を「第1の実施の形態」のものに統一してある。例えば、引用例において、段落【0091】の「画像表示部として液晶パネル部5を採用した」との記載等から、請求項1の「画像表示部」を「液晶パネル部5」と統一して表記した。

「【請求項1】視差に対応した画像情報を第1の区分と第2の区分とに表示させる液晶パネル部5を有する立体画像表示装置15において、
前記液晶パネル部5の前記第1の区分及び前記第2の区分に対向して配され、前記第1の区分からの前記画像情報に対応する偏光の偏光方向を、前記第2の区分からの前記画像情報に対応する偏光の偏光方向とは異なる方向に変換する分割波長板フィルター8と、
【0056】前記分割波長板フィルター8の観察者側に設けられ、【請求項1】前記分割波長板フィルター8よりも狭い領域において、【0056】分割波長板フィルター8から出る互いに直交する2種類の直線偏光を円偏光に変換する1/4波長板7と
【請求項1】を有する立体画像表示装置15であって、
【0050】前記液晶パネル部5は、偏光板1と偏光板11との間において、一対の透明支持基板3a及び透明支持基板3bの間に液晶画像表示部4が配設されて構成されたものであり、前記液晶画像表示部4は、【0051】アクティブマトリクス構造を成し立体画像表示の際には視差に対応した右眼用又は左眼用の前記画像情報を表示する【0050】赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2Bの組み合わせからなる画素トリオが、マトリクス状に配列された構造を有しており、
【0052】前記分割波長板フィルター8は、透明支持基板3cの前記液晶パネル部5側に、帯状の1/2波長板6を形成したものである、
立体画像表示装置15。」

(2)周知技術
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-207641号公報(以下「周知例1」という。)には、「位相差層積層体およびその製造方法」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

(ア)「【0040】また、さらに本発明においては、図3に示すように配向膜4上に形成された位相差層がパターン状に形成されたものであってもよい。
【図3】

例えば、右目用と左目用で偏光状態を異ならせることにより3次元表示を可能とした3次元表示装置等においては、位相差層がパターン状に形成された位相差層積層体が必要となり、図3に示すような位相差層積層体はこのような3次元表示装置等において用いられるものである。」

(イ)「【0103】図5は、このような本発明の位相差層の製造方法の一例を示すものである。
【図5】

この例では、まず図5(a)に示すように透明基板3上に配向膜4が形成された基材1を準備する(基材準備工程)。次いで、この基材1上に重合性液晶材料からなる屈折率異方性材料層6を形成する(塗布工程)。そして、所定の温度条件下で放置することにより、配向膜の配向方向に沿うように重合性液晶材料を配向させる(配向処理工程)。次いで、フォトマスク7を介して紫外光等の活性放射線8を照射することにより、重合性液晶材料をエネルギー照射部分のみパターン状に硬化させ(図5(c)、配向固定化工程)、最後に溶媒を用いて現像することによりパターン状の位相差層2を形成することにより、位相差層2が基材1上にパターン状に形成された位相差層積層体を得ることができる。」

イ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-227998号公報(以下「周知例2」という。)には、「光学素子、偏光素子およびそれらの製造方法、並びに映像表示装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

(ア)「【0120】(実施形態5)図9は、実施形態5の光学素子を示す断面図である。
【図9】


【0121】この光学素子は、基板1上に、配向層2aと液晶ポリマー層2bとがストライプ状にパターニングされ、液晶ポリマー層2b部分がパターニングされた1/2波長板2となっている。1/2波長板2の表面は平坦化層4で平坦化され、その上に1/2波長板2の形成部および非形成部にわたって配向層3aと液晶ポリマー層3bとが積層されて第2位相差部材としての1/4波長板3となっている。
【0122】この光学素子の製造方法について、図10に従って説明する。
【図10】


【0123】まず、図10(a)に示すように、基板1上に配向層形成用膜12aを形成してラビング処理を行った。ここでは7059ガラス(コーニング社製)基板1上に、配向層形成用膜12aとしてAL4552(日本合成ゴム社製)をスピンコート法で塗布し、180℃の恒温槽内で2時間焼成した。次に、ナイロン布を用いて配向層形成用膜12aを一軸方向にラビング処理して配向層22aとした。
【0124】次に、配向層22a上に、下記化学式(1)および下記化学式(2)に示す重合性液晶材料を50重量%ずつ混合した混合物(Δn=0.142)に光重合開始剤としてイルガキュア651(チバガイギー社製)を0.5重量%加えたものをスピンコート法(1200rpm、15秒間)で塗布し、紫外線(照射量:120mJ/cm^(2)、光源:高圧水銀ランプ)を照射して重合性液晶材料を重合させることにより、図10(b)に示すような厚み2μmの液晶ポリマー層12bを得た。
【0125】
【化1】

【0126】
【化2】

【0127】続いて、図10(c)に示すように、配向層22aおよび液晶ポリマー層12bの表面にエキシマレーザーを照射することにより、図10(d)に示すようなパターニングされた配向層2aおよび液晶ポリマー層2bを得た。このときのエキシマレーザーとしてはLPX200(ラムダフィジックス社製)を用い、照射ビームサイズはスリットとレンズとにより20mm×300μmとなるように調節した。照射エネルギーは200mJ/cm^(2)とし、X-Yステージ上で配向層12aおよび液晶ポリマー層12bを600μmずつずらしながらレーザー光を照射することによりストライプ状のパターンを形成した。以上によりパターニングされた1/2波長板2が得られた。
【0128】その後、図10(e)に示すように平坦化層4を形成した。この工程は、実施形態1と同様にして行った。
【0129】次に、図10(f)に示すように、配向層3aを形成した。ここでは、配向層3aとしてAL4552(日本合成ゴム社製)を塗布して焼成後、配向層2aと直交する方向に一軸方向にラビング処理した。
【0130】その後、配向層3a上に、上記化学式(1)および上記化学式(2)に示した重合性液晶材料を50重量%ずつ混合した混合物(Δn=0.142)に光重合開始剤としてイルガキュア651(チバガイギー社製)を0.5重量%混合したものをスピンコート法(2000rpm、10秒間)で塗布し、紫外線(照射量:120mJ/cm^(2)、光源:高圧水銀ランプ)を照射して重合性液晶材料を重合させることにより、図10(g)に示すような厚み1μmの液晶ポリマー層3bを得た。
【0131】このようにして作製された実施形態5の光学素子は、液晶ポリマー層2bの設けられている領域と設けられていない領域とに直線偏光を入射させると、各領域から出射される円偏光の極性を異ならせることができた。」

(イ)「【0175】(実施形態10)図19は実施形態10の映像表示装置を示す斜視図である。
【図19】

【0176】この映像表示装置は、液晶パネル111を構成するガラス基板102bの外側(液晶層112とは反対側)に光学素子106を備えている。光学素子106は、基板106aとパターニングされた1/2波長板106bと第2位相差部材としての1/4波長板106cとからなり、1/4波長板106c側を液晶パネル111側に配して設けられている。なお、この基板106aは、映像表示装置の重量増加防止や表示の明るさ低下防止の観点から、省略するのが好ましい。
【0177】以下に、液晶パネル111の構成および製造方法について説明する。
・・・(中略)・・・
【0185】このようにして得られた液晶パネル111の対向側ガラス基板102bの外側面に隣接するように、その偏光透過軸が全フィルム面内で同一である偏光フィルム101bを配置する。
【0186】次に、偏光フィルム101bの液晶パネル111とは反対側面に、基板106a、パターニングされた1/2波長板106bおよび位相差部材106cが積層された光学素子106を配置する。本実施形態では、実施形態1?8において作製した光学素子106を、1/4波長板106c側を偏光フィルム101b側に配して配置した。また、光学素子106を構成する1/2波長板106bは、幅がほぼ画素の幅に一致するようなストライプ状に、かつ、1走査線毎に1/2波長板106bの形成部と非形成部106dとが交互に配置されるように形成した。さらに、1/2波長板106bの遅相軸方向または進相軸方向は、偏光フィルム101bの偏光透過軸方向に対して45゜ずらして配置した。また、1/2波長板106bが積層構造の広帯域波長板である場合には、偏光フィルム101bの偏光透過軸と1/2波長板106bの偏光入射軸が一致するように配置した。このようにして配置した光学素子106は、粘着剤または接着剤等を用いて偏光フィルム101b上に貼り付ける。接着剤等は必要に応じて光を照射したり加熱したりして硬化させてもよい。
【0187】その後、液晶パネル111のTFT側ガラス基板102aの外側面に隣接するように、その偏光透過軸が全フィルム面内で同一である偏光フィルム101aを、その偏光透過軸が偏光フィルム101bの偏光透過軸と直交するように配置する。以上により本実施形態10の映像表示装置が完成する。
【0188】このようにして作製された実施形態10の映像表示装置は、液晶パネル111から出射されて偏光フィルム101bおよび光学素子106を通過する光が、画素1列毎に交互に極性の異なる円偏光となる。従って、右目用画素グループ103aから出射した光と左目用画素グループ103bから出射した光とは、極性の異なる円偏光に変換される。観察者は、各々の極性に対応した円偏光板110a、110bを右目と左目とに有する偏光眼鏡110を装着することにより、多人数で3次元の画像を観察することができる。また、観察者が顔を傾けた場合でも3次元の画像を観察することができる。さらに、観察者が偏光眼鏡を装着しない場合には、2次元の画像を観察することができる。」

ウ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-123461号公報(以下「周知例3」という。)には、「パララックスバリヤ、ディスプレイ、パッシブ型偏光変調光学素子および該素子を作成するための方法」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

(ア)「【0114】図10は、機械的移動を必要とすることなしに3Dモードと2Dモードとの間を切り替え可能な、前部パララックスバリヤ自動立体ディスプレイの一例を示している。
【図10】

偏光変調層20はLCD1の出力面の近傍に設けられており、出射偏光シート21が、ディスプレイの出力側に位置している。切り替え可能な1/4波長回転器41が、シート偏光子21および偏光変調層20の間に設けられている。回転器41は、透過される偏光に影響をおよぼさない第1の状態と、各偏光状態が偏光シート21中を均一に透過される第2の状態との間を、切り替え可能である。第2の状態において、回転器41は、偏光シート21の偏光学軸に対して45°の角度の光学軸を有する1/4波長板として機能するように、切り替え得る。この状態において、領域22および24からの直線偏光は両方とも反対周りの円偏光に変換され、そのうち50%が偏光シート21によって透過される。
【0115】このタイプの構成の利点は、2つのモードが異なる領域において共存するように、制御素子41を空間的に制御することが可能である点である。このことにより、ディスプレイのある部分が2Dモードで動作し、他の部分が3Dモードで動作することが可能になる。」

(イ)「【0130】図15は、偏光変調層20を形成する方法を説明する図である。
【図15】

図15aにおいて、配向層60が基板61に塗布される。配向層60は、例えば、ラビング処理を施したポリイミドや、ポリアミド、または酸化シリコンを含むものであってもよい。図15bは、配向層60によって配向方向が決定される、光学的遅延層62の塗布を示している。遅延層62は、配向可能であり最終的に所定の方向に固定が可能な、任意の適切な複屈折性材料であり得る。適切な材料としては、液晶性ポリマーまたは反応性メソゲンがある。適切な反応性メソゲンの例としては、英国メルク社から入手可能である、高複屈折性を有するため比較的薄い層の使用を可能にする、RM257(前記)などがある。図15cに示すように、遅延層62の領域63は、マスク64を介して紫外線照射されることにより、光重合される。図15dに示すように、未重合の領域は、例えばエッチング処理などによって除去され、所望のパターン化光学的リターダ構成が現れるようにする。
【0131】パターン化リターダは次に、平面化層65によって平面化される。層65は、図15eに示されるように、未重合のリターダ材料が除去されたあとのギャップを埋める。平面化層65の材料は、好ましくは等方性、透明、かつリターダ63と実質的に同様な厚さを有する。適切な材料としては、アクリルおよびエポキシ樹脂がある。」

エ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-163722号公報(以下「周知例4」という。)には、「液晶装置とその製造方法、位相差板、及び電子機器」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

「【0024】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態である位相差板とその製造方法について、図1を参照して説明する。
【図1】


本発明に係る位相差板150は、図1に示すように、ガラスやプラスチック等の透光性の基板本体150Aと、基板本体150A上に形成された平面ベタ状の第1配向膜151と、第1配向膜151上に積層形成された平面視略ストライプ状の第2配向膜152と、第1配向膜151及び第2配向膜152を覆って形成された位相差層155とを備えて構成されている。本実施形態の場合、下層側の第1配向膜151は液晶を膜面に対して略垂直方向に配向させる垂直配向膜であり、上層側の第2配向膜152は液晶を膜面に対して略水平方向に配向させる水平配向膜である。
なお、位相差層155を保護するために、アクリル樹脂等からなる保護層を位相差層155の表面にさらに形成してもよい。
【0025】
位相差層155は、例えば液晶性高分子からなるものとされ、図1に示すように、基板本体150A上にストライプ状にパターン配置された第1配向膜151及び第2配向膜152の配向規制力によって、部位により異なる位相差を有する位相差層を構成している。すなわち、垂直配向膜である第1配向膜151が露出された領域に配された第1配向領域155aにおいては、位相差層を構成する液晶性高分子の配向方向156aは基板本体150Aの法線方向に平行であり、水平配向膜である第2配向膜152が露出された領域に配された第2配向領域155bにおいては、位相差層を構成する液晶性高分子の配向方向156bは第2配向膜152のラビング方向に沿った面内方向である。
【0026】
上記構成を備えた本実施形態の位相差板150は、液晶性高分子が垂直配向してなる第1配向領域155aでは透過光に対してほとんど位相差を付与しない。その一方で、液晶性高分子が水平配向している第2配向領域155bでは、透過光の偏光状態に応じて所望の位相差を付与することができるものとなっている。本実施形態の位相差板150は、液晶装置を構成する基板として、あるいは3D表示や2画面表示が可能な液晶装置の位相差板として好適に用いることができるものである。
【0027】
図2は、図1に示す位相差板150の製造方法を説明するための概略工程図である。
【図2】

・・・(中略)・・・
【0031】
あるいは、位相差層155は、液晶性モノマーであるUVキュアラブル液晶UCL-008-K1(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)の溶液を、スピンコート法(例えば回転数700rpmで30秒)により塗布する方法で形成することもできる。ここで用いる液晶性モノマー溶液は、例えば、Nメチル-2ピロリジノンとγ-ブチロラクトンの混合溶媒に25%に希釈したものであり、アイソトロピック転移温度が69℃、屈折率異方性Δnが0.20である。配向膜上に塗布した液晶性モノマーは、60℃で5分間乾燥させ、アイソトロピック転移温度(69℃)以上となる90℃で5分間加熱した後、徐々に冷却することで配向させることができる。その後、露光処理(例えば露光強度が3000mJ/cm^(2))を施すことで液晶性モノマーを光重合させることで、液晶性モノマー重合体からなる位相差層155を形成することができる。」

オ 上記ア?エから、「3次元表示装置に用いられる位相差層積層体として、重合性液晶材料を硬化させることにより形成したパターン状の位相差層を有するものを用いること」は、本願の優先日前に周知技術(以下「周知技術1」という。)であったと認められる。


(3)対比及び判断
ア 対比
本件補正後発明と、引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)引用発明の「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2B」は、それぞれの画素部が「立体画像表示装置15」の表示素子として機能し、本件補正後発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」も「立体表示装置」における表示素子として機能しているから、引用発明の「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2B」と、本件補正後発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」とは、「表示素子」である点で共通する。
(イ)引用発明の「『透明支持基板3a』又は『透明支持基板3b』」は、本件補正後発明の「基板」に相当する。また、引用発明は、「一対の透明支持基板3a及び透明支持基板3bの間に液晶画像表示部4が配設」されたものであり、「前記液晶画像表示部4は」「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2Bの組み合わせからなる画素トリオが、マトリクス状に配列された構造を有」するものであるから、「一対の透明支持基板3a及び透明支持基板3b」の一方又は両方が「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2B」を備えていることは明らかである。よって、引用発明の「『透明支持基板3a』又は『透明支持基板3b』」と、本件補正後発明の「基板」とは、「表示素子を備えた」という共通の特定事項を有している。
(ウ)引用発明の「『分割波長板フィルター8』及び『1/4波長板7』」は、本件補正後発明の「偏光制御板」に相当する。
(エ)引用発明の「立体画像表示装置15」は、本件補正後発明の「立体表示装置」に相当する。引用発明では、「液晶パネル部5を有する立体画像表示装置15において」、「前記液晶パネル部5」が、「アクティブマトリクス構造を成」す「画素トリオが、マトリクス状に配列された」「液晶画像表示部4」を有するものであり、アクティブマトリクス構造では、通常TFTなどのアクティブ素子が形成されることで各画素部を駆動するための回路が構成されることから、引用発明の「立体画像表示装置15」と、本件補正後発明の「立体表示装置」とは、「表示素子を駆動する回路」を備えているという共通の特定事項を有している。また、引用発明の「立体画像表示装置15」は、「液晶パネル部5」と「分割波長板フィルター8」と「1/4波長板7」を有し、「液晶パネル部5」は、「一対の透明支持基板3a及び透明支持基板3b」を有するものであるから、上記(ア)?(ウ)も踏まえると、引用発明の「立体画像表示装置15」と、本件補正後発明の「立体表示装置」は、表示「素子を備えた基板と、」表示「素子を駆動する回路と、偏光制御板とを備えた」点で一致する。
(オ)引用発明において、「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2Bの組み合わせからなる画素トリオ」は「立体画像表示の際には視差に対応した右眼用又は左眼用の前記画像情報を表示する」ものであるから、上記(ア)も踏まえると、引用発明の「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2B」と、本件補正後発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」とは、「右目により視認されるべき画像情報を表示する右目用」表示「素子と、左目により視認されるべき画像情報を表示する左目用」表示「素子とを含」むという共通の特定事項を有している。
(カ)引用発明において、「分割波長板フィルター8」は、「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2Bの組み合わせからなる画素トリオ」を有する「液晶画像表示部4が配設」された「前記液晶パネル部5の前記第1の区分及び前記第2の区分に対向して配され、前記第1の区分からの前記画像情報に対応する偏光の偏光方向を、前記第2の区分からの前記画像情報に対応する偏光の偏光方向とは異なる方向に変換する」ものであり、「1/4波長板7」は、「分割波長板フィルター8から出る互いに直交する2種類の直線偏光を円偏光に変換する」ものであり、互いに直交する2種類の直線偏光を1/4波長板で円偏光に変換した場合、互いに回転方向が異なる2種類の円偏光となるから、上記(オ)も踏まえると、引用発明の「『分割波長板フィルター8』及び『1/4波長板7』」と、本件補正後発明の「偏光制御板」とは、「右目用」表示「素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向と、左目用」表示「素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向とが異なるように、入射する光の偏光状態を制御することが可能」であるという共通の特定事項を有している。

イ 一致点及び相違点
上記アからみて、本件補正後発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「表示素子を備えた基板と、前記表示素子を駆動する回路と、偏光制御板とを備えた立体表示装置であって、
前記表示素子は、右目により視認されるべき画像情報を表示する右目用表示素子と、左目により視認されるべき画像情報を表示する左目用表示素子とを含み、
前記偏光制御板は、右目用表示素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向と、左目用表示素子から入射して透過する光の円偏光の回転方向とが異なるように、入射する光の偏光状態を制御することが可能な偏光制御板である立体表示装置。」

(相違点1)
「表示素子」が、本件補正後発明では「偏光制御板に向けて光を出射する」「有機エレクトロルミネッセンス素子」であるのに対し、引用発明では、「液晶パネル部5」の「液晶画像表示部4」における「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2B」、すなわち、「偏光制御板に向かう光の透過率を制御する」「赤色の画素部2R、緑色の画素部2G及び青色の画素部2B」である点。

(相違点2)
本件補正後発明では、表示素子が「基板と偏光制御板との間に設けられ」るのに対し、引用発明では、「表示素子を備えた基板」が「透明支持基板3a」であるとは特定されていないため、表示素子が「基板と偏光制御板との間に設けられ」との要件を満たすとは限らない点。

(相違点3)
「偏光制御板」が、本件補正後発明では、「パターン化された液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板」であるのに対し、引用発明では、「透明支持基板3c」に「帯状の1/2波長板6を形成した」「分割波長板フィルター8」を含むものである点。

ウ 判断
(ア)相違点1及び2について
a 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-184251号公報(以下「周知例5」という。)の段落【0014】?【0019】及び図1?2に記載されるとおり、基板上に複数の有機電界発光素子を設けて、前記有機電界発光素子における発光層からの発光光を前記基板と反対側から取り出す上面発光型として構成したアクティブマトリックス方式の表示装置は、本願の優先日前に周知技術(以下「周知技術2」という。)であったと認められる。
b 引用例の段落【0091】(上記(1)カ参照。)には、「また、画像表示部として液晶パネル部5を採用した例について説明したが、この他にも画像表示部としては、・・・(中略)・・・有機エレクトロルミネッセンス表示装置・・・(中略)・・・等の各種画像表示装置によって構成することができ、分割波長板フィルター8はこれらの各種画像表示装置と組み合わせて用いることができる。」と記載されており、引用例には、引用発明の「液晶パネル部5」に代えて「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」を用いることが示唆されている。
c よって、引用発明において、有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する上記周知技術2を適用し、「偏光板1と偏光板11との間において、一対の透明支持基板3a及び透明支持基板3bの間に液晶画像表示部4が配設されて構成された」「液晶パネル部5」に代えて、基板上に複数の有機電界発光素子(本件補正後発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当。)を設けて、前記有機電界発光素子における発光層からの発光光を前記基板と反対側から取り出す上面発光型として構成したアクティブマトリックス方式の表示装置を採用するとともに、偏光制御板(分割波長板フィルター8及び1/4波長板7)のための偏光板を設けることで、上記相違点1及び2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(イ)相違点3について
上記(2)オにおいて周知技術1として認定したとおり、本願の優先日前に「3次元表示装置に用いられる位相差層積層体として、重合性液晶材料を硬化させることにより形成したパターン状の位相差層を有するものを用いること」は周知技術であり、「重合性液晶材料を硬化させることにより形成したパターン状の位相差層」は、本件補正後発明の「パターン化された液晶性化合物の硬化膜」に相当する。
引用発明は、「透明支持基板3c」に「帯状の1/2波長板6を形成した」「分割波長板フィルター8」を備えるものであり、これはパターン状に位相差を発生させる部材である。そして、引用発明において、「透明支持基板3c」に「帯状の1/2波長板6を形成した」「分割波長板フィルター8」として特定の構造のものを用いなければならない事情もない。
よって、引用発明において、立体画像表示装置に用いられる光学部材という点で技術分野が関連し、パターン状の位相差を発生させるという共通の作用・機能を有する特定事項を備えた前記周知技術1を適用し、引用発明における「分割波長板フィルター8」として、「重合性液晶材料を硬化させることにより形成したパターン状の位相差層を有する」「位相差層積層体」を採用することで、上記相違点3に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

エ 効果
上記相違点1?3に係る本件補正後発明の発明特定事項により奏される効果について、格別顕著な点は見いだせない。
なお、審判請求書の【請求の理由】では、樹脂性の位相差フィルムは、通常、数十μm程度の膜厚を有するが、「液晶性化合物の硬化膜」からなる位相差フィルムの膜厚はそれよりも薄いことが知られており、本願実施例において具体的に製造された、パターン化された液晶性化合物の硬化膜からなる位相差板の膜厚は1.0?2.7μmであり、前記樹脂性の位相差フィルムの10分の1にも満たない厚さであるから、立体表示装置に、薄い、パターン化された液晶性化合物の硬化膜を用いることによって、より一層クロストークを小さくすることができるという効果を奏する旨が主張されている。
しかしながら、本件補正後の請求項1には、液晶化合物の硬化膜の具体的な厚さが特定されていないことから、請求人の主張する効果は、本件補正後発明が奏する効果とは認められない。
また、仮にそのような効果を認めたとしても、周知例2の段落【0124】(上記(2)イ(ア)参照。)には「厚み2μmの液晶ポリマー層12bを得た」との記載があり、また請求人自身が審判請求書において「『液晶性化合物の硬化膜』からなる位相差フィルムの膜厚はそれよりも薄いことが知られており」と認めているとおり、液晶性化合物の硬化膜からなる位相差フィルムを用いた場合に膜厚を薄くできることは当業者に周知であり、立体表示装置に膜厚の薄い液晶性化合物の硬化膜を用いた場合に、クロストークを低減できることは当業者が予測できた効果であり、格別顕著なものではない。

オ 小括
したがって、本件補正後発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用例に記載された引用発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。


(4)独立特許要件違反についてのまとめ
本件補正後発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件補正後発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。


4 補正却下の決定についてのまとめ
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、理由2:この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献4:上記第2[理由]3(1)の引用例と同じ

3 引用例の記載事項、引用発明及び周知技術
引用例の記載事項、引用発明、及び周知技術1?2は、前記第2[理由]3(1)?(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
(1)本願発明は、本件補正後発明において、「パターン化された液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板」という構成から、「パターン化された」との限定を削除することにより、「液晶性化合物の硬化膜を含む偏光制御板」という構成にしたものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含む本件補正後発明が、前記第2[理由]3(3)?(4)で述べたとおり、引用例に記載された発明及び周知技術1?2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることを考慮すると、本願発明も、同様に、引用例に記載された発明及び周知技術1?2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)あるいは、前記第2[理由]3(3)ウ(イ)の判断において、「表示装置に用いられる位相差積層体として、重合性液晶材料を硬化させることにより形成した位相差層を有するものを用いること」は、原査定で引用された特開2009-108152号公報の段落【0001】、【0076】?【0078】及び【0101】?【0103】の記載並びに原査定で引用された特開2006-72298号公報の段落【0001】、【0121】及び【0124】の記載等から、本願の優先日前に周知技術であった(以下「周知技術3」という。)と認められる。なお、周知技術3は、上記第2[理由]3(2)における前記周知例1?4の記載からも把握可能である。
引用発明において、表示装置に用いられる光学部材という点で技術分野が関連し、位相差を発生させるという共通の作用・機能を有する特定事項を備えた前記周知技術3を適用し、引用発明における「1/4波長板7」として、「重合性液晶材料を硬化させることにより形成した位相差層を有する」「位相差層積層体」を採用することで、本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。よって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術2?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本願発明が奏する効果は、引用発明、引用例及び各周知技術から予測できる範囲内のものであり、顕著なものであるとはいえない。


第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-29 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2010-138044(P2010-138044)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
佐竹 政彦
発明の名称 立体表示装置  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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