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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1309481
審判番号 不服2013-8465  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-08 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2008-530506「リポソーム中にカプセル化されたオクテニジン二塩酸塩を含有する抗菌製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月22日国際公開、WO2007/031519、平成21年 2月26日国内公表、特表2009-507891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年9月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年9月15日,ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月26日付けの拒絶査定に対し、平成25年5月8日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審から平成26年11月19日付けで拒絶理由通知がなされ、平成27年5月20日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?5に係る発明は、平成25年5月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
リポソーム中にカプセル化されたオクテニジン二塩酸塩を含む、抗菌製剤であって:
製剤に対して、オクテニジン二塩酸塩を0.005?0.1重量%含み、リポソーム形成物質が、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリンを含み、全製剤に対して、前記1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリンの量が、0.5?20重量%であることを特徴とする、製剤。」

3.引用例
当審の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開平7-145081号公報(以下、「引用例1」という。)、特表2005-517030号公報(公表日:2005年6月9日。以下、「引用例2」という。)、特開昭61-97215号公報(以下、「引用例3」という。)、特表2003-500436号公報(以下、「引用例4」という。)、及び、「Medical Immunology,1989年、Vol.17、No.3、pp287?292」(技術常識を示す文献:以下、「文献A」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

[引用例1]
(1-i)「【請求項1】 消毒剤及び/又は創傷治癒促進剤の外用医薬製剤であって、該薬剤の少なくとも1種をリポソーム調製物として含有することを特徴とする製剤。
【請求項2】該薬剤の少なくとも大部分がリポソームの内部に封入されている請求項1記載の製剤。
・・・
【請求項7】 リポソームが直径約20?約20,000nm、好ましくは約50?約4,000nm、更に好ましくは500?2,500nm、特に好ましくは約1,000nmの実質的に均一なサイズを有することを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の製剤。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】,【請求項2】,【請求項7】)
(1-ii)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、独立クレイムに定義されるように、製剤が少なくとも1種の消毒剤及び/又は創傷治癒促進剤をリポソーム調製物として含む本技術的目的が達成される。従属クレイムは、本発明の更に有利な実施態様を定義するものである。本発明は、リポソームが消毒剤、特にポビドンヨウ素及び創傷治癒促進剤のキャリヤとして非常に適しているという驚くべき事実を前提とするものである。本発明のリポソーム調製物は、薬剤の持続した放出が可能であり、細胞面との相互作用によって所望の作用位置に延長した局所活性を与えるものである。・・・略・・・
【0006】即ち、本発明のリポソーム調製物は液剤、軟膏剤等の慣用の製剤によって示されるはずのない効果を得ることを可能にするものである。好ましい消毒剤は、効果が速く、活性範囲が広く、全身性毒性が低く、組織適合性が良好である周知の医薬物質を含み、例えば、金属化合物、フェノール化合物、清拭剤、ヨウ素及びヨウ素複合体を含む群より選ばれる。特に好ましい消毒剤はポビドンヨウ素である。・・・略・・・」(段落【0005】?【0006】)
(1-iii)「【0007】リポソーム膜を形成する従来技術において一般に知られる両親媒性物質は、企図される適用に薬学的に許容しうるものである限り本発明に使用することができる。レシチンを含むリポソーム形成系が好ましい。この系はコレステロール及びコハク酸二ナトリウム6水和物の他に水素化大豆レシチンを含むことができ、単一膜形成剤として水素化大豆レシチンを用いることが特に好ましい。リポソーム構造を形成する従来技術の既知の方法は、一般的には本発明に用いることができる。一般に、これらの方法は被膜形成物質及び水を含有する適切な混合液又は水溶液を機械的に攪拌することを含んでいる。実質的に均一なリポソームサイズを形成する際には、適切な膜によるろ過が好ましい。リポソームサイズは広範囲にわたって、通常約20?約20,000nmに変動させることができる。直径50?4,000nmを有するリポソームが好ましく、直径約1,000nmのリポソームが最も好ましい。1つの好ましい適用分野は、眼科、例えば細菌性及びウイルス性角結膜炎の治療及び手術前の消毒的予防である。」(段落【0007】)
(1-iv)「【0009】一般に、本発明のリポソーム調製物における活性剤の溶液又は分散液は、薬剤の有効性の下限と各溶媒又は分散媒中薬剤の溶解性又は分散性限度との間の範囲にあるはずである。同様の考慮により、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤もしくはゲル剤又はそのような他の製剤における薬剤量が一般に限定される。更に詳細には、ポビドンヨウ素のような消毒剤の場合、本発明のリポソーム調製物における溶液又は分散液は、製剤100g中薬剤0.1?10gを含有することができる。更にその製剤は、典型的には、製剤100g当たりリポソーム膜形成剤、特にレシチン1?5gを含有する。・・・略・・・」(段落【0009】)
(1-v)「【0013】
【実施例1】表面増加用ガラスビーズの入った1000mlのガラスフラスコで、51.9mgのコレステロールと213mgの水素化大豆レシチンをメタノールとクロロホルムの2:1混合液の十分量に溶解した。次いで、被膜がフラスコの内面とガラスビーズ上に形成されるまで溶媒を減圧下で蒸発した。2.4gのPVPヨウ素(約10%の有効ヨウ素を含有する)を12mlの水に別々に溶解した。また、別の容器で、8.77gの塩化ナトリウムと1.78gのNa_(2)HPO_(4)・2H_(2)Oを400mlの水に溶解した。更に水を全量980mlまで加え、次に約12mlの1N 塩酸を加えてpH7.4に調整した。次いで、この溶液に水を正確に1000mlまで加えた。4つ目の容器で、900mgのサッカロースと57mgのコハク酸二ナトリウムを12mlの水に溶解した。
【0014】次いで、PVPヨウ素液をフラスコ中の脂質膜に加え、被膜が溶解するまで混合液を振盪した。これによりフラスコ中で水和脂質からリポソームが形成された。この生成物を遠心し、上清を捨てた。サッカロース溶液を12mlまで加え、生成物を再び遠心した。その後、上清を再び捨てた。この段階で、サッカロース溶液又は塩化ナトリウム緩衝液を用いて更に洗浄することができる。最後の遠心工程及び上清を捨てた後、塩化ナトリウム緩衝液を12mlまで加え、リポソームを均等に分配した。次いで、生成物をバイアルに分配することにより各々が2mlのリポソーム分散液を含有し、次いでバイアルを凍結乾燥工程に供した。・・・略・・・」(段落【0013】?【0014】)
(1-vi)「【0023】試験1
これは、本発明のポビドンヨウ素リポソーム調製物によって得られた殺菌作用の試験管内試験である。本試験は、『Richtlinien der Deutschen Gesellschaftfuer Hygiene und Mikrobiologie 』,1989 に記載されている懸濁液定量試験に基づいたものである。本試験においては、病院衛生上の主な課題であるスタフィロコッカスアウレウス(ATCC 29213)を死滅させるために殺菌剤を用いる。使用したリポソーム調製物は、実施例1のものとした。1?120分の種々の接触時間において、スタフィロコッカスを死滅することができる水中製剤の最小濃度を求めた。結果を表1に示す。
【0024】 【表1】
表1
接触時間(分) 殺菌濃度
1、2、3、4 ≧ 0.060 %
5、30、60 ≧ 0.015 %
120 ≧ 0.007 %
【0025】結果は、短い接触時間(1?4分)において殺菌濃度0.06%のように低く、長い接触時間(120分)において殺菌濃度0.007%のように低くすることができることを示している。」(段落【0023】?【0024】)

[引用例2]
(2-i)「【請求項1】
アルコールフリー、アリールオキシアルコールフリーの防腐薬であって、
a)ビスピリジニウムアルカン、特にオクテニジンジヒドロクロライド0.01?10重量%、及び
b)アルコールポリアルコキシレート、ポリソルベート及びアルキルグリコシドから選択される非イオン性界面活性剤0.01?20重量%
を含有し、並びに1以上の賦形剤を任意に含有することを特徴とする防腐薬。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(2-ii)「【0039】
A:活性試験
試験した防腐薬の組成は、以下のとおりである(項目は重量%)。
【表1】

* 水中での重量パーセント
【0040】
上述した界面活性剤を含有し、オクテニジンジヒドロクロライドを含有した水性防腐薬を、その殺菌活性について、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、緑膿菌(P.aeruginosa)、及び鵞口瘡カンジダ(C.albicans)を用いて調べ、作用の測定は、12.7.1991付のGerman Society for Hygiene and Microbiology(DGHM)のガイドラインに従って行った。防腐薬1、A及びBは、フェノキシエタノールの存在又は不存在の他には、界面活性剤の種類のみが異なり、純粋な界面活性剤含有量は同じであった。防腐薬1から調製された溶液の作用時間を、30秒、1分、2分及び5分とした。試験した防腐薬の適用濃度は、標準化された硬度の水中で、0.25、0.5、0.75、1.5、3.125、6.25、12.5、25、50及び100重量%であった。」(段落【0039】?【0040】)

[引用例3]
(3-i)「1. a)式

(式中R_(1)及びR_(2)はそれぞれ他とは無関係に偶数の炭素原子をもつC_(10)?C_(20)アルケノイル基であり、nは1?3の整数であり、そしてY(+)は医薬として許容される塩基の陽イオンである)
で表わされる合成の実質的に純粋なリン脂質、
b)式

(式中、R_(1)は偶数の炭素原子をもつC_(10)?C_(20)アルカノイル基であり、R_(2)は偶数の炭素原子をもつC_(10)?C_(20)アルケノイル基であり、R_(a)、R_(b)及びR_(c)は水素原子又はC_(1)?C_(4)アルキル基であり、そしてnは2?4の整数である)
で表わされる合成の実質的に純粋なリン脂質、及び
c)生物学的活性をもつ物質又は物質混合物、及び場合によっては存在していてもよい担体液体及び(又は)追加の固体担体、
を含有する医薬組成物。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(3-ii)「4.a)合成の、実質的に純粋なナトリウム1,2-ジ-(9-シス-オクタデセノイル)-3-sn-ホスファチジル-(S)-セリン、
b)合成の、実質的に純粋な1-n-ヘキサデカノイル-2-(9-シス-オクタデセノイル)-3-sn-ホスファチジルコリン、
c)消炎薬、抗生物質、抗リーシュマニア物質、抗真菌物質、抗腫瘍物質及び免疫モジュレーターを含む群からの医薬的に活性な物質又は物質混合物、及び場合によっては存在してもよい、pH7.2?7.4に緩衝化された担体液体、
を含有する特許請求の範囲第3項記載の医薬組成物。」(【特許請求の範囲】の【請求項4】)
(3-iii)「リポソームに基いた医薬投与システムはグレゴリアディス(G.Gregoriadis)(編集者)の総観著作物、リポソーム チクノロジイ、第II巻、・・・略・・・に基いた医薬投与形態の利益が次のように要約されている:
1. リポソームは生物学的膜に浸透し、それで普通には不浸透性であるバリヤーを通しての活性物質の移送を容易にする。特に、リポソームは包封された化合物による細胞内浸透を容易にする。
2. リポソームはあるタイプの細胞組織との特定の相互作用の観点から、増加した選択性及び低下した毒性を目的として使用することができる。
3. 活性物質の薬物動態はリポソームによって、例えば解放、分布及び体循環からの除去をいくぶん変えることによって有益に影響され得る。
4. 化学的影響及び代謝によって引起される変化に対して敏感な活性物質はリポソームによシ失活に対して保護される。
5. リポソームに包封された抗原の免疫反応を刺激することによって免疫調節効果を得ることができる。
これらはその上の利益、例えば治療効果を達成するのに、遊離の活性物質を用いる時に比べて、リポソームを用いた時に必要とされる活性物質の量を減少させること、又は活性物質の投与回数を減少させることをもたらす。
リポソームに基いた投与システムは物質をエンドサイテイシング細胞(endocytising cell)中に、特に細網内皮系統のエンドサイテイシング細胞中に導入する時に特別の有益をもつ。例えば、エンドサイテイシング細胞中への抗生物質の移送の促進及びこれらの細胞中に存在する原因として働く生体との改良された戦いが観察されている。エンドサイテイシング細胞は又炎症過程に伴なわれる。リポソームに包封された抗リウマチ性活性物質が周囲の組織中へよりも上記のような細胞中へ一層迅速に導入されることが観察されている。リポソームの形態で内包された細胞増殖抑制物質は細胞内皮系統の特定の器官(肝臓、膵臓、骨髄)中に導入することができ、又は、肺において、肺の毛細管中での濾過及びそれに続く遊走血液単核細胞による移送の結果として、活性物質は肺胞マクロファージ中に富化することができ、それ故に肺又は肝臓の腫瘍に対する作用の改良を達成することが可能であり、一方同時に毒性を低下させる。」(4頁右上欄8行?5頁左上欄4行)
(3-iv)「実施例1
無菌の第三ブタノール・・・略・・・及び1-n-ヘキサデカノイル-2-(9-シス-オクタデセノイル)-3-sn-ホスファチジルコリン(アバンティ、極性脂質)(純度95%)175mgを丸底フラスコ中で溶解させる。・・・略・・・
その生成するリポソーム分散液は4℃で貯蔵可能であり、そして非経口(i.v.)投与に適している。」(16頁左上欄9行?同頁右上欄19行)

[引用例4]
(4-i)「【請求項1】 ヒトまたは動物の身体の内部に、抗炎症剤、特に防腐剤および/または創傷の治癒を促進する物質を適用するための医薬製剤を製造するプロセスであって、製剤が、前記薬剤のうちの少なくとも1種を粒状担体と組み合わせて含有することを特徴とするプロセス。
【請求項2】 前記粒状担体が、リポソーム製剤、ミクロスフェア製剤、ナノパーティクル製剤、多孔質大型粒子製剤またはレーザーパルスポリマーコート分子製剤のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】 前記物質の少なくとも大部分が、担体、特にリポソームまたはミクロスフェア担体内に被包されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】 防腐剤が、酸素およびハロゲン遊離化合物;銀および水銀化合物などの金属化合物;特に、ホルムアルデヒド遊離化合物、アルコール類、アルキルおよびアリルフェノールに加えてハロゲン化フェノールを含めたフェノール類、キノリンおよびアクリジン、ヘキサヒドロピリミジン、第四級アンモニウム化合物およびイミニウム塩、ならびにグアニジンを含めた有機消毒剤から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のプロセス。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項4】)
(4-ii)「【0021】
防腐または創傷治癒製剤は、一般に、侵襲的方法、特に、粒状担体製剤を注入するか、または治療位置へのアクセスを提供する手術ステップ後に個々の製剤を適用することにより、治療すべき身体内部に投与される。例えば、リポソーム製剤は、慣用手順でリポソームにPVPヨードを装填して製造し得る。リポソームの性質または組成は重要ではない。例えば、EP 0 639 373に記載されているようなリポソーム製剤は注入により投与し得る。EP 0 639 373の開示は本明細書に文献援用される。」(段落【0021】)
(4-iii)「【0038】
より具体的に言えば、ポビドンヨードなどの防腐剤に関して、本発明の担体製剤中の溶液または分散液は、特に担体がリポソーム製剤である場合、製剤100g中0.1?10gの活性薬剤を含有し得る。その場合、そのような製剤は、通常、製剤100g当たり、1?5gのリポソーム膜形成物質、特にレシチンを含んでいるであろう。」(段落【0038】)
(4-iv)「【0059】
試験1
これは、本発明のポビドンヨードリポソーム製剤が提供する殺菌効果についての試験管内試験であった。この試験は、“・・・略・・・”,1989年に記載されているような定量的懸濁液試験(・・・略・・・)に基づくものであった。この試験では、殺菌剤を、病院衛生における重要問題である黄色ぶどう球菌〔staphylococcus aureus(ATCC 29213)〕を死滅させるために用いる。
【0060】
用いたリポソーム製剤は実施例1のものであった。1?120分間の異なる接触時間で、ぶどう球菌を死滅させ得る水中の最低製剤濃度を測定した。
結果を表1に示す。
表1
接触時間(分) 殺菌剤濃度
1、2、3、4 ≧0.060%
5、30、60 ≧0.015%
120 ≧0.007%
この結果は、短い接触時間(1?4分)では、殺菌剤濃度は0.06%程度の低さであり、長い接触時間(120分)では、殺菌剤濃度は0.007%程度の低さであってよいことを示している。
【0061】
試験2
Wutzlerら,9th European Congress for Clinic Microbiology and Infection Diseases,Berlin,1999年3月、により、培養細胞におけるリポソームPVPヨードの殺ウイルスおよび殺クラミジア活性が検討された。培養細胞において、リポソームPVPヨードは、単純ヘルペスウイルス1型およびアデノウイルス8型に対しては極めて有効であるにもかかわらず、長期細胞毒性実験により、試験した細胞系の大部分で、水性PVPヨードよりリポソーム形態の方が許容度が高いことが示された。リポソーム形態のPVPヨードは遺伝子毒性ではない。」(段落【0059】?【0061】)

[文献A]
(a-i)「感染症におけるターゲティング療法の意義」(287頁1?2行の表題)
(a-ii)「3.抗菌剤の副作用を軽減せしめること
その毒性が強い抗菌剤をリポソームに封入して運搬すれば,正常の組織へは抗菌剤の影響を与えることなく,直接病巣へ抗菌剤を持ち込むことができるので,副作用を軽減せしめることができる。
・・・略・・・。私たちも同様の実験を行ったが,アンホテリシンBをリポソーム封入することによって,毒性を著しく減少せしめることができ,通常の5倍以上の量を用いることによって,マウスのカンジダ全身感染症および肺感染のモデルにおいて,これを著しく改善せしめることができた。」(290頁左欄5行?同頁右欄1行)

4.対比、判断
引用例1には、上記「3.」の[引用例1]の摘示事項からみて、消毒剤をリポソームに調製物として含有する外用剤の発明(摘示(1-i),(1-ii)参照)が記載され、リポソームとしてレシチンを含む系が用いられ(摘示(1-iii),(1-v)参照)、典型的には製剤100g当たりリポソーム形成剤特にレシチン1?5gを含有すること(摘示(1-iv)参照)が説明されているから、次の発明(以下、「引用例1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<引用例1発明>
「消毒剤をリポソームに調製物として含有する外用剤であって、リポソーム形成物質がレシチンを含み、全製剤100gに対して前記レシチンの量が1?5gである、外用剤。」

そこで、引用例1発明と本願発明を対比する。
(a)「消毒」とは、生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法であることに加え、本願明細書段落【0002】?【0004】に記載されるように、オクテニジン二塩酸塩は、本願優先日前に、非常に多くの微生物に対する良好な抗菌活性が、数々の研究で実証されており、市販の消毒薬組成物の活性成分として用いられていることから、本願発明における「オクテニジン二塩酸塩」は、「消毒剤」の一種であるといえる。また、消毒剤を活性剤として含有する外用剤である引用例1発明は、「抗菌製剤」といい得る。
(b)「該薬剤の少なくとも大部分がリポソームの内部に封入されている」(摘示(1-i)参照)との記載から、引用例1発明では、リポソーム内部に消毒剤が封入されている、すなわち、リポソーム中にがカプセル化された消毒剤が存在しているものといえる。
(c)リポソームを形成するレシチンは、ホスファチジルコリンの別名があり、そして、ホスファチジルコリンは、グリセリンのC1,C2位に脂肪酸が、そしてC3位にリン酸がそれぞれエステル結合したホスファチジン酸がコリンと結合したものであるので、1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスファチジルコリンに他ならないということができる。
(d)製剤100g当たり1?5gとは、製剤に対して1?5重量%と言い換えられる。

そうすると、両発明は、
「リポソーム中にカプセル化された消毒剤を含む、抗菌製剤であって、リポソーム形成物質が1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスファチジルコリンを含み、全製剤に対して、前記1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスファチジルコリンの量が1?5重量%である、製剤」
で一致し、次の相違点A,Bで相違する。
<相違点>
A.消毒剤について、本願1発明では、「オクテニジン二塩酸塩を0.005?0.1重量%含み」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点
B.ホスファジルコリンについて、本願1発明では、「-sn-」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点

(1)まず、相違点Aについて検討する。
消毒剤について、引用例1では、実施例においては、ポビドンヨウ素が用いられているものの、摘示(1-i)に記載されるように、他の消毒薬も用い得るものであり、引用例1の消毒剤をポビドンヨウ素に限定解釈すべき理由はない。
そうすると、本願優先日前に消毒剤として周知であったオクテニジン二塩酸塩を、引用例1発明における消毒剤として選択することに困難性は認められない。
なお、引用例1には、用い得る消毒剤の選択肢にオクテニジン二塩酸塩の記載はないが、引用例1と同様、薬剤がリポソーム内に被包された医薬製剤を開示する引用例4には、被包される薬剤として、イミニウム塩等の有機消毒剤も挙げられており(摘示(4-i)参照)、本願優先日当時、リポソーム内に被包可能な薬剤として、イミニウム塩系消毒剤も当業者に選択可能であったものといえるから、イミニウム塩系消毒剤の代表的なものの一つといえるオクテニジン二塩酸塩を、引用例1発明における消毒剤として選択することに阻害事由も見当たらない。

また、オクテニジン二塩酸塩の使用量については、例えば、上記引用例2に記載(摘示(2-i),(2-ii)参照)の如く、オクテニジン二塩酸塩を0.01?10%程度(実施例で0.1%など)用いることは適宜なされている量と認められることに鑑み、引用例1に用いる消毒剤として、「オクテニジン二塩酸塩」を本願発明で特定する程度の量で用いることに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。

(2)次に、相違点Bについて検討する。
本願明細書を検討しても、「-sn-」について何らの説明も無いが、常識的にみて、「sn」がグリセリン誘導体をフィッシャー投影して特定される立体配置の一種と理解されるものであり、上記引用例3に記載(摘示(3-ii),(3-iv)の実施例で用いられている、リポソームを形成するホスファジルコリン参照)されている如く、「sn」はリン脂質の通常の配置であると認められるので、相違点Bは実質的な相違点であるとはいえない。
仮に、相違点であるとしたところで、既に知られている立体配置であり、そのような配置を特定したところで、格別の利点があることは何ら本願明細書に説明がないことも勘案すると、「sn」と特定することは、当業者が容易になし得た程度のことである。

(3)作用効果について検討する。
本願明細書には、本願発明の製剤が細胞に対し低毒性であることがデータを提示して主張されているのに対し、引用例1では細胞毒性について言及がされていない。
しかし、上述のとおり、引用例4は、引用例1と同様、薬剤がリポソーム内に被包された医薬製剤を開示するリポソーム製剤を開示する(摘示(4-i)参照)が、引用例4には、薬剤として防腐剤(消毒剤に相当)がリポソーム内に被包された製剤の殺菌効果の試験において、長期細胞毒性実験によって、細胞系の大部分で、水性PVPヨード(ポビドンヨード)よりもリポソーム形態(リポソームPVPヨード)の方が許容度が高いと説明されている(摘示(4-iv)の段落【0061】参照)。
また、文献Aによると、抗菌剤をリポソームに封入する技術は、「抗菌剤の副作用を軽減せしめ得る」技術と捉えられており、アンホテシリンBをリポソームに封入することによって、毒性を著しく減少できたことが記載されている(摘示(a-ii))。
そうすると、本願発明の製剤が細胞に対し低毒性であることが示されたとしても、それは、当業者にとって予測の範囲内のものと認められる。

なお、消毒剤をリポソームに内包させても殺菌(抗菌)効果があることは、引用例1,3,4、文献Aの記載(摘示(1-i),(1-ii),(1-vi),(3-i)?(3-iii),(4-i),(4-iv),(a-ii)参照)からみても、既に知られていたことが明らかである。

ところで、審判請求人は、平成27年5月20日付けの意見書において、「本件明細書の例1では、製剤1(ホスホリポン(登録商標)90H中にカプセル化されたオクテニジン二塩酸塩)の細菌及び真菌活性が、オクテニジン モノプロダクト(リポソーム中にカプセル化されておらず、より高濃度)と同じ効果があることが示されています。 これは、カプセル化は生物学的活性に有害ではないことを意味します。 さらに、例3は、製剤1が、オクテニジン モノプロダクトより細胞毒性が低いことを示しています。 したがって、リン脂質中でのオクテニジン二塩酸塩のより少ない量が、オクテニジン二塩酸塩のより多い量(2倍より多い量)を含むオクテニジン モノプロダクトと同じ効果のある活性を生み出すのです。 当業者は、同じ活性化合物をより少ない濃度で使用する場合には、より低い生物学的効果を予想することから、この結果は、当業者が予期することができないことであります。」と主張している。
しかし、本願明細書に記載の例1では、オクテニジンモノプロダクト(水溶液)と本願発明の製剤1を用いて、大腸菌とスタフィロコッカス アウレウスについての活性保持率が測定されているものの、それらの結果(表1)は、オクテニジン二塩酸塩濃度が0.05%,0.025%,0.0125%のいずれの場合でも、全て同じ結果が示されており、本願明細書段落【0007】の「本発明は、変わることのない病原菌の減少が、(オクテニジン二塩酸塩水曜性溶液に比べて)クテニジン二塩酸塩と例えばリン脂質との相互作用により達成される」との説明のとおりの結果が示されているにすぎない。なるほど、例1の直前の記載(段落【0034】)として、オクテニジンモノプロダクトの製剤としてオクテニジン二塩酸塩0.10%、本発明の製剤としてオクテニジン二塩酸塩0.05%が記載されているが、それらを希釈して濃度調整をし、表1の結果が得られているのであり、前述のとおり全ての濃度(オクテニジン二塩酸塩の濃度)で全く同じ結果しか記載されていないのであるから、両製剤に抗菌活性の差があることは示されていない。
したがって、前記請求人の主張(「リン脂質中でのオクテニジン二塩酸塩のより少ない量が、オクテニジン二塩酸塩のより多い量(2倍より多い量)を含むオクテニジン モノプロダクトと同じ効果のある活性を生み出す」)は、その根拠を欠いていることが明白であるから、失当であり、採用できない。

よって、本願発明は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-30 
結審通知日 2015-08-04 
審決日 2015-08-19 
出願番号 特願2008-530506(P2008-530506)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
辰己 雅夫
発明の名称 リポソーム中にカプセル化されたオクテニジン二塩酸塩を含有する抗菌製剤  
代理人 白根 俊郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中村 誠  
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