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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B
管理番号 1309490
審判番号 不服2013-22530  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-18 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2008-324267号「ガラス板製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年7月1日出願公開、特開2010-143800号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
この出願は、平成20年12月19日の出願であって、平成25年5月9日付けの拒絶理由を通知したところ、同年7月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月18日に審判請求がなされるとともに手続補正書が提出され、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成26年1月22日付けの審尋に対して同年3月24日付けで回答書が提出され、その後、平成27年8月10日付けの補正の却下の決定により平成25年11月18日付けの手続補正を却下するとともに同日付けの当審による拒絶理由を通知したところ、同年10月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

II.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年10月7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
成形体から溶融ガラスを流下させることにより生成されたガラスリボンの幅方向両端部をそれぞれ一対の冷却ローラで表裏両側から挟持すると共に、これらの冷却ローラのローラ軸が、前記ガラスリボンの幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配列されたガラス板製造装置において、
前記一対の冷却ローラの外周面に、前記ガラスリボンの幅方向両端部が幅方向に引っ掛かる凸部がそれぞれ形成されていることを特徴とするガラス板製造装置。」

III.当審による拒絶理由の概要
平成27年8月10日付けの当審による拒絶理由は、「本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された特開昭60-11253号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」旨を理由の一つにするものである。

IV.特開昭60-11253号公報(以下、「引用例」という。)に記載の事項
引用例には、以下の記載がある。
(a)公報第1頁左下欄第15行から同右下欄第1行
「(2)溶融ガラスを、溶解槽の底部に設けたスリットを通過させてスリット下方に設置された流体制御体上部に供給し、流体制御体両側面にそって流下させ、流体制御体下端部において合流させてガラス板を成形する装置において、前記流体制御体が内部に電気抵抗加熱体を有することを特徴とするガラス板の成形装置。」

(b)公報第2頁左下欄第10行?同第3頁左上欄第11行
「本発明をさらに詳細に図によって説明すると、第1図ないし第3図において、ガラス溶解槽1を1350℃に保ちBK-7のガラスカレット90Kgを10時間溶融する。こうして均一化および泡ぬきされた溶融ガラス素地2は1100℃に冷却される。ガラス溶解槽1の底部は、l0mm巾400mm長さの水平スリット3があけられ、かつ白金薄板8aのまかれた耐火レンガで出来ている。スリット3の下には流体制御体4(上部円筒形部直径30mm、上下高さ70mm,500mm長さ)がその上部がスリット3の出口に近接して、かつ流体制御体4の中心線が水平となる様に取りつけられている。ここで流体制御体4は、第3図の様なモリブデン中空円筒発熱体5の外部にアルミナチューブ6を被覆し、その下部に耐火レンガ(材質アルミナ)をくさび状に加工した部材7を取りつけ、アルミナチューブ6および部材7の外周を白金薄板8bで被覆した形状をしている。又、流体制御体4中の発熱体5は、流体制御体4の表面の長手方向の温度分布が一定となる様に、その断面形状を調整されている。発熱体5の両側にはターミナル9が設けられ、定電流電源に接続されており、流体制御体4は1200℃に加熱されている。又、流体制御体4は、ガラス流量及び中心位置調整のため、可動支持装置10により垂直上下方向及びスリットのスリット巾方向に可動状態に固定されている。スリット3および流体制御体4の間を通過したガラス素地は、流体制御体4の周囲を流体制御体4よりの加熱を受けて表面状態の良化を行いながら流下し、その下部で合流し、ガラス板11を形成する。ここで流体制御体4の周囲には、流体制御体4上のガラス素地の表面が過度に冷却されるのを防ぐために保温用ヒーター13が設けられている。こうして形成されたガラス板11は下方よりの引っ張り力により薄板に伸ばされながら冷却部12に導かれる。
同時にガラス板の両端は、表面に凹凸のある1対の回転ロール14(ナールロール)にはさまれてガラス板の巾が狭くなっていく事が防止されている。ガラスス板11は十分に冷却され変形をおこさなくなった部分で引張りロール15により下方へ引っ張られている。」(当審注:下線は合議体が付与した。)

(c)公報第3頁





(d)公報第3頁





V.当審の判断
(V-1)引用例に記載された発明
(A)上記(a)の記載からして、引用例には、「溶融ガラスを、溶解槽の底部に設けたスリットを通過させてスリット下方に設置された流体制御体上部に供給し、流体制御体両側面にそって流下させ、流体制御体の下端部において合流させてガラス板を成形する、ガラス板の成形装置」が記載されているということができる。

(B)上記(b)の記載(特に下線部参照)からして、引用例には、「1200℃に加熱された流体制御体4の下端部で合流して形成されたガラス板11の両端を1対の回転ロール14(ナールロール)ではさむ」こと、「回転ロール14(ナールロール)の表面に凹凸がある」こと、及び「ガラス板の巾が狭くなっていく事が防止される」ことが記載されているということができる。

(C)上記(c)の第1図からして、引用例には、「流体制御体4の下端部の下流側の領域が冷却部12」であることが記載されているということができる。

(D)上記(d)の第2図からして、引用例には、「回転ロール14(ナールロール)が、ガラス板の幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配置されている」こと、及び「回転ロール14(ナールロール)が、流体制御体4の下端部の下流側近傍に配置されている」ことが記載されているということができる。

(E)上記(c)(d)の第1、2図からして、引用例には、「引っ張りロール15の上流側に回転ロール14(ナールロール)が配置されている」ことが記載されているということができる。

上記(a)(b)の記載事項及び上記(A)ないし(E)の検討事項より、引用例には、「溶融ガラスを、溶解槽の底部に設けたスリットを通過させてスリット下方に設置された流体制御体上部に供給し、1200℃に加熱された流体制御体両側面にそって流下させ、流体制御体の下端部で合流して形成されたガラス板の両端を1対の回転ロール14(ナールロール)ではさむと共に、回転ロール14(ナールロール)がガラス板の幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配置されたガラス板の成形装置において、1対の回転ロール14(ナールロール)の表面に凹凸があり、ガラス板の巾が狭くなっていく事が防止されている、ガラス板の成形装置。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(V-2)対比・判断
○引用例記載発明の「溶融槽」、「形成」、「ガラス板」、「両端」、「はさむ」、「配置」、「表面」、「凹凸があり」及び「ガラス板の成形装置」は、本願発明の「成形体」、「生成」、「ガラスリボン」、「幅方向両端部」、「挟持する」、「配列」、「外周面」、「凸部がそれぞれ形成され」及び「ガラス板製造装置」それぞれに相当する。

○引用例記載の発明の「1対の回転ロール14(ナールロール)」と本願発明の「一対の冷却ローラ」とは、「一対のローラ」という点で一致する。

○引用例記載の発明の「溶融ガラスを、溶解槽の底部に設けたスリットを通過させてスリット下方に設置された流体制御体上部に供給し、1200℃に加熱された流体制御体両側面にそって流下させ、流体制御体の下端部で合流して形成されたガラス板の両端を1対の回転ロール14(ナールロール)ではさむと共に、回転ロール14(ナールロール)がガラス板の幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配置された」と、本願発明の「成形体から溶融ガラスを流下させることにより生成されたガラスリボンの幅方向両端部をそれぞれ一対の冷却ローラで表裏両側から挟持すると共に、これらの冷却ローラのローラ軸が、ガラスリボンの幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配列された」とは、「成形体から溶融ガラスを流下させることにより生成されたガラスリボンの幅方向両端部をそれぞれ一対のローラで表裏両側から挟持すると共に、これらのローラのローラ軸が、ガラスリボンの幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配列された」という点で一致する。

○引用例記載の発明の「1対の回転ロール14(ナールロール)の表面に凹凸があり、ガラス板の巾が狭くなっていく事が防止されている」と、本願発明の「一対の冷却ローラの外周面に、ガラスリボンの幅方向両端部が幅方向に引っ掛かる凸部がそれぞれ形成されている」とは、「一対のローラの外周面に凸部がそれぞれ形成されている」という点で一致する。

上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「成形体から溶融ガラスを流下させることにより生成されたガラスリボンの幅方向両端部をそれぞれ一対のローラで表裏両側から挟持すると共に、これらのローラのローラ軸が、前記ガラスリボンの幅方向中央側から両端側に向かう方向に沿って延びるように配列されたガラス板製造装置において、前記一対のローラの外周面に凸部がそれぞれ形成されているガラス板製造装置。」 という点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明では、「冷却ローラ」であるのに対して、引用例記載の発明では、「回転ロール14(ナールロール)」である点。

<相違点2>
ガラスリボンの幅方向両端部を挟持する一対のローラの外周面に形成された凸部について、本願発明では、「一対のローラの外周面に、ガラスリボンの幅方向両端部が幅方向に引っ掛かる凸部が形成されている」と特定されているのに対して、引用例記載の発明では、「1対の回転ロール14(ナールロール)の表面に凹凸があり、ガラス板の幅が狭くなっていくことが防止されている」とされている点。

以下、両相違点について検討する。
<相違点1>について
引用例には、「流体制御体下端部において合流させてガラス板を成形する」(上記(a))こと、「流体制御体4は1200℃に加熱されている。・・・ガラス素地は、流体制御体4の周囲を流体制御体4よりの加熱を受けて表面状態の良化を行いながら流下し、その下部で合流し、ガラス板11を形成する。ここで流体制御体4の周囲には、流体制御体4上のガラス素地の表面が過度に冷却されるのを防ぐために保温用ヒーター13が設けられている。こうして形成されたガラス板11は下方よりの引っ張り力により薄板に伸ばされながら冷却部12に導かれる。同時にガラス板の両端は、表面に凹凸のある1対の回転ロール14(ナールロール)にはさまれてガラス板の巾が狭くなっていく事が防止されている。ガラス板11は十分に冷却され変形をおこさなくなった部分で引張りロール15により下方へ引っ張られている」(上記(b))こと、「流体制御体4の下方の領域が冷却部12」(第1図)(上記(C))であること、「回転ロール14(ナールロール)が、流体制御体4の下端部の下流側近傍に配置されている」(第2図)(上記(D))こと、及び「引っ張りロール15の上流側に回転ロール14(ナールロール)が配置されている」(上記(E))ことが記載されていることから、流体制御体に接触しているガラスの温度は1200℃近くの高温であり、その後、引張りロール15に至るまでの間に徐々に冷却されるところ、流体制御体の下端部の下流側近傍に配置されている回転ロール14(ナールロール)に接触しているガラス板の温度は、回転ロール14(ナールロール)の温度よりも相対的に十分に高い温度になっている、換言すると、回転ロール14(ナールロール)の温度は、これに接触しているガラス板の温度よりも十分に低い温度になっているものというべきである。
そうすると、回転ロール14(ナールロール)は、実質的に冷却ロール(ローラ)としての作用を有するものであると解すべきであるから、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。

<相違点2>について
引用例には、「同時にガラス板の両端は、表面に凹凸のある1対の回転ロール14(ナールロール)にはさまれてガラス板の巾が狭くなっていく事が防止されている」(上記(b))ことが記載されており、ここで「ガラス板の巾が狭くなっていく」とは、ガラス板の幅方向中央に向かう力により生起するものであり、そして、これに抗する(これを減殺する)ものが「表面に凹凸のある1対の回転ロール」であるということできることから、上記「同時にガラス板の両端は・・・防止されている」(上記(b))との記載は、「同時にガラス板の両端は、表面に凹凸のある1対の回転ロール14(ナールロール)の凸がガラス板の幅方向中央に向かう力を減殺することでガラス板の巾が狭くなっていく事が防止されている」と理解されるものであり、そうである以上、引用例記載の発明の回転ロール14(ナールロール)の「凸」、つまり回転ローラの「凸部」は当然に「ガラス板の幅方向に引っ掛かる」状態になっているというべきである。
そうすると、引用例記載の発明で「1対の回転ロール14(ナールロール)の表面に凹凸があり、ガラス板の幅が狭くなっていくことが防止されている」とされていることは、本願発明で「一対の冷却ローラの外周面に、ガラスリボンの幅方向両端部が幅方向に引っ掛かる凸部が形成されている」と特定されていることと実質的に同義であると解すべきであるから、上記相違点2は実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願発明は、引用例記載の発明と相違するところはなく、引用例に記載された発明である。

VI.むすび
上記のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-06 
結審通知日 2015-11-09 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2008-324267(P2008-324267)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 則充  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 日比野 隆治
豊永 茂弘
発明の名称 ガラス板製造装置  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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