ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A23L 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A23L |
---|---|
管理番号 | 1309864 |
審判番号 | 無効2012-800076 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-05-10 |
確定日 | 2015-12-25 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3938968号「渋味のマスキング方法」の特許無効審判事件についてされた平成25年 5月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10172号平成26年 3月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3938968号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 本件特許第3938968号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成9年3月17日に特許出願され、平成19年4月6日にその発明について特許権の設定がされた。 2 これに対し、請求人・株式会社JKスクラロースジャパンは、平成24年5月10日付けの審判請求書を提出し、「特許第3938968号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、甲第1?7号証を提出し、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定された要件を満たしていないため、特許法第123条第1項第2号及び同項第4号に該当し、無効とすべきであると主張した。 3 被請求人・三栄源エフ・エフ・アイ株式会社は、平成24年7月30日付けの訂正請求書(以下、この訂正請求書を「第1訂正請求書」、この訂正請求書による訂正を「第1訂正請求」という。)と答弁書(以下「第1答弁書」という。)を提出し、「本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は理由がない旨主張した。 4 請求人から平成24年9月6日付け弁駁書(以下「第1弁駁書」という。)が提出され、第1訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の要件に適合せず、特許法第134の2第5項で準用する特許法第126条第3項乃至第5項の規定にも適合しないので、認められるものではない旨、及び、仮に認められるとしても、訂正後の特許発明は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていないため、また、当初から無効理由とされている特許法第36条第4項、同条第6項第1号、同法第29条第2項に違反するので、無効とすべきであると主張した。 5 この請求の理由の補正は、平成24年9月13日付けの補正許否の決定により許可され、答弁指令がなされた。それに応答し、被請求人は、平成24年10月18日付けの答弁書(以下「第2答弁書」という。)を提出した。 6 被請求人より平成25年2月15日付け口頭審理陳述要領書が提出され、請求人より平成25年2月15日付け口頭審理陳述要領書が提出された。 7 平成25年3月1日に特許庁において口頭審理が行われ、本件審理は、以後書面審理とすることが通知された。その後、平成25年4月18日付けで審理終結が通知され、請求人より、平成25年5月10日付けの上申書が提出された。 8 そして、平成25年5月16日付けで、「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)がなされたところ、請求人は、平成25年6月21日に審決取消訴訟を提起し、知的財産高等裁判所において平成25年(行ケ)第10172号として審理された結果、平成26年3月26日付けで審決を取り消す旨の判決(以下「取消判決」という。)が言い渡された。 9 その後、被請求人は、平成26年4月7日に、審決を取り消す旨の判決(知財高裁平成25年(行ケ)第10172号)に対して、上告受理申立を行ったが、平成26年7月11日に上告受理申立不受理の決定がなされた。 10 被請求人より平成26年7月17日に、訂正請求申立がなされ、平成26年7月31日付けで訂正請求のための期間指定通知がなされ、被請求人より平成26年8月14日付けの訂正請求書(以下、この訂正請求書を「第2訂正請求書」、この訂正請求書による訂正請求を「第2訂正請求」という。)の提出がなされた。 11 請求人より平成26年10月6日付けの弁駁書(以下「第2弁駁書」という。)の提出がなされた。 12 平成26年11月20日付けで「訂正を認める。特許第3938968号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決の予告がなされた。 13 被請求人より平成27年1月26日付けの訂正請求書(以下、この訂正請求書を「本件訂正請求書」、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出がなされた。 14 これに対して、請求人より平成27年3月5日付けの弁駁書(以下「第3弁駁書」という。)の提出がなされたものである。 なお、上記5の補正許否の決定では、第1訂正請求により「スクラロースを、該飲料の0.0012?0.003重量%の範囲であって、甘味を呈さない量用いる」とする訂正により生じた新たな無効理由として、特許法第36条第6項第2号を追加することが許可されている。 また、第2訂正請求がなされることにより第1訂正請求が、本件訂正請求がなされることにより第2訂正請求が、それぞれ特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正請求の内容 1 訂正事項 本件訂正請求は、本件特許明細書(以下「訂正前明細書」という。)を平成27年1月26日付けで提出した訂正請求書に添付した訂正明細書(以下「訂正後明細書」という。)のとおりに訂正するものであり、次の訂正事項1ないし6をその内容とするものである。 (1-1)訂正事項1 訂正前明細書中の特許請求の範囲の 「【請求項1】 茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、該飲料の0.0012?0.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。」を、 「【請求項1】 ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。」と訂正する。 (1-2)訂正事項2 訂正前明細書の段落【0008】における「その結果、高甘味度甘味剤が、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な渋味を減少又は緩和させ、さらに総合的な味を何ら損なうことがないことを見い出し」の記載を下記のように訂正する。 「その結果、スクラロースが、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な渋味を減少又は緩和させ、さらに総合的な味を何ら損なうことがないことを見い出し」 (1-3)訂正事項3 訂正前明細書の段落【0009】における「この発明によれば、渋味を呈する製品に、スクラロースを甘味の閾値以下の量であって、該甘味の閾値の1/100以上の量で用いることを特徴とする渋味のマスキング方法が提供される。」の記載の後ろに、下記の記載を挿入する。 「具体的には、本発明は、ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法である。」 (1-4)訂正事項4 訂正前明細書の段落【0019】における「スクラロース0.0014部又はアスパルテーム0.0035部を水にて合計100部とする。」の記載中、「又はアスパルテーム0.0035部」の記載を削除する。 (1-5)訂正事項5 訂正前明細書の段落【0020】における「スクラロース0.003部又はSKスイートZ-3)(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.01部を水にて合計100部とする。」の記載中、「又はSKスイートZ-3)(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.01部」の記載を削除する。 (1-6)訂正事項6 訂正前明細書の段落【0021】における「スクラロース0.0016部又はSKスイートZ-3(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部を水にて合計100部とする。」の記載中、「又はSKスイートZ-3(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部」の記載を削除する。 なお、本件訂正請求書の請求の理由の「3.訂正事項(3-6)訂正事項6」において、「スクラロース0.0016部又はSKスイートZ-3)(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部を水にて合計100部とする。」とあるのは、「スクラロース0.0016部又はSKスイートZ-3(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部を水にて合計100部とする。」の誤記、「又はSKスイートZ-3)(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部」とあるのは、「又はSKスイートZ-3(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)0.005部」の誤記としてそれぞれ認めた。 第3 訂正の適否 1 訂正事項1について この訂正事項1は、「茶」について、その種類を「ウーロン茶、緑茶」に限定するともに、飲料に入れるスクラロースの量を、「該飲料の0.0012?0.003重量%」から、「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%」に訂正するものであり、成分割合の範囲を更に減縮するものである。 この訂正後の「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ」は、訂正前明細書(特許公報)の段落【0008】の「高甘味度甘味剤が、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な渋味を減少又は緩和させ」との記載、段落【0009】の「この発明によれば、渋味を呈する製品に、スクラロースを甘味の閾値以下の量であって、該甘味の閾値の1/100以上の量で用いることを特徴とする渋味のマスキング方法が提供される。」との記載、段落【0013】における「本願における甘味の閾値以下の量とは、甘味を呈さない範囲の量であればよい。」との記載、段落【0014】の「渋味を呈する製品に1又は2種以上の高甘味度甘味剤を用いる方法としては、上述の甘味の閾値以下の量の高甘味度甘味剤(2種以上の混合物の場合には、合計の量で甘味閾値以下となる量)を、渋味を呈する製品に均一に添加できる方法である限り、特に限定されない。」との記載及び段落【0017】の「各種甘味量を閾値以下で」との記載に基づくものであるといえる。 そして、単に「該飲料の0.0012?0.003重量%」との特定では、その甘味を呈さない範囲を外れる場合があり得るところ、前述のとおり出願当初から渋味のマスキングに際し配合するスクラロースの量は甘味の閾値以下、すなわち、甘味を呈さない範囲の量で用いることが意図されていたことに鑑み、その「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ」と特定することにより、「該飲料の0.0012?0.003重量%」の範囲を減縮したものである。 そうすると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、この訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもないことは明らかである。 2 訂正事項2について 訂正事項2は、「高甘味度甘味剤」を、その具体例である「スクラロース」に限定するものであり、特許請求の範囲に特定されたスクラロースを用いた発明に必ずしも一致しない不明瞭な記載について、明確にし釈明するものと認められ、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもないことは明らかである。 3 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるためのものであり、特許請求の範囲に特定される発明の説明を追加したものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもないことは明らかである。 4 訂正事項4?6について 訂正事項4?6は、実施例2、3、4において、訂正前明細書においてスクラロースとの選択肢であった本件特許発明に関係しない「アスパルテーム」と「SKスイートZ-3(酵素処理ステビア、日本製紙株式会社製)」についての記載を、その配合量の記載とともに削除するものであって、明瞭でない記載の釈明に相当する。 してみると、これら訂正事項4?6は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもないことは明らかである。 5 小括 したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第4 訂正後の特許発明 以上のとおり、本件訂正が認められることから、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に特定される特許発明(以下「訂正特許発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。」 第5 当事者の主張及び提出した証拠 1 請求人の主張 「特許第3938968号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、訂正特許発明について、下記2に示した証拠方法を提出するとともに、次に示す無効理由を主張している。無効理由について、これまでの主張を整理すると次のとおりである。 1-1 無効理由1(特許法第123条第1項第4号) 訂正特許発明の「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%」は、第1訂正請求の訂正事項のうち「該飲料の0.0012?0.003重量%の範囲であって、甘味を呈さない量」と同様であり、前者の「甘味を呈さない範囲の量」は、後者の「甘味を呈さない量」と同義である。 したがって、「甘味を呈さない範囲の量」に関して、その範囲が一義的に決定されるような定義や具体的な測定方法が訂正後明細書中に記載されておらず、また、実施例においてもスクラロースの濃度が甘味を呈さない範囲の量であることは一切記載されていないことから、訂正特許発明の「甘味を呈さない範囲の量」という記載は不明確である。 そして、「甘味を呈さない量」については、上記取消判決において、特許法第36条第6項第2号の明確性の要件を満たさないと判示されていて、上記取消判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件特許無効審判事件について、審判合議体を拘束するものである。 したがって、訂正特許発明が、「甘味を呈さない範囲の量」という発明特定事項を有する点で明確でないことは明らかである。 よって、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。 1-2 無効理由2(特許法第123条第1項第4号) 上記訂正事項1によっても、抽出条件などについて、なんら特定のない茶、紅茶及びコーヒーの各飲料において、どの程度の量のスクラロースを添加すれば渋味がマスキングされるのかということは不明であり、スクラロースをウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーの各飲料の0.0012?0.003重量%用いた全ての範囲で渋味がマスキングされているということはできない。 訂正後明細書において、各飲料(ウーロン茶、緑茶、コーヒー、紅茶)毎に1種の実施例が記載されているだけであり、各飲料において他の種類や抽出条件においても、同様にスクラロースを0.0012?0.003重量%用いた範囲で渋味がマスキングされていることまでは記載されていない。 よって、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。 1-3 無効理由3(特許法第123条第1項第4号) 訂正後明細書の実施例に記載された条件以外の各種条件により得られた全ての飲料について、「飲料に対して0.0012?0.003重量%のスクラロース」により製品の物性に影響を及ぼさずに、過剰な渋味がマスキングできることは明らかでなく、どの程度の量のスクラロースを添加すれば、そのような作用効果を奏するのか、当業者が訂正後明細書の記載内容及び出願時の技術常識を考慮しても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。さらに、上記無効理由1-1で述べたことも根拠として、訂正後明細書が訂正特許発明を当業者が容易になし得る程度に記載されてものではない。 よって、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。 なお、無効理由1及び3に関して、被請求人は、これまで「甘味を呈さない量」であるか否かを判断する測定法は「極限法」である旨主張してきたが、本件訂正請求に際して、「2点試験法」によって明確に行うことができる旨を、乙第25号証及び乙第26号証の提出とともに主張することは、時機に後れた提出に関して、故意又は少なくとも重大な過失があり、審理の著しい遅延につながるものであるから、かかる主張及び証拠の提出は却下されるべきである。 1-4 無効理由4(特許法第123条第1項第2号) 訂正特許発明は、甲第1?7号証に記載の発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 そして、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第17号証が提出されている。 なお、甲第1号証?甲第7号証は、無効審判請求書に、甲第8号証と甲第9号証は平成24年9月6日付け弁駁書に、甲第10号証と甲第11号証は、平成25年2月15日付け口頭審理陳述要領書に、甲第12号証?甲第16号証は、平成26年10月6日付け弁駁書に、甲第17号証は、平成27年3月5日付け弁駁書にそれぞれ添付されたものである。 記 甲第1号証 「月刊 フードケミカル 10」、(株)食品化学新聞社、 昭和60年10月1日発行、表紙、40?47頁、127頁 甲第2号証 特開平7-274829号公報 甲第3号証 特開平4-23965号公報 甲第4号証 特開平3-251160号公報 甲第5号証 特開昭58-162260号公報 甲第6号証 米国特許4,915,969号明細書、及びその抄訳 甲第7号証 特開平2-177870公報 甲第8号証 ビバリッジ ジャパン,No.215,43-45頁(1 999年第11号) 甲第9号証 CAN.J.PHYSIOL.PHARMACOL.,VO L.72,p.435-439,(1994年発行)、及び その抄訳 甲第10号証 日本食品化学学会誌,Vol 2(2),1995,p1 10-114 甲第11号証 日本食品分析センターによる官能評価の試験報告書 20 12年12月20日 甲第12号証 特開平8-214847号公報 甲第13号証 特開平3-127960号公報 甲第14号証 「食品と化学」、(株)食品と科学社、昭和59年4月10 日発行、表紙、背表紙、97?101頁 甲第15号証 小磯博昭ら、「スクラロースの味覚特性と他の高甘味度甘味 料との比較」、日本食品化学学会誌、Vol.2(2)、1 995、110-114頁 甲第16号証 知財高裁平成24年(行ケ)第10057号審決取消請求事 件判決 甲第17号証 特開2008-72983号公報 3 被請求人の主張 「本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、訂正特許発明について、下記4に示した証拠方法を提出し、無効理由は有しないと主張している。これまでの主張を整理すると次のとおりである。 3-1 無効理由1(特許法第123条第1項第4号)に対して スクラロースが甘味を呈するか呈さないかは、官能試験により分析評価して決定できる。スクラロースが甘味の呈さない量とは、飲料においてスクラロースの量が甘味の閾値以下の量であることを意味する。スクラロースの甘味の閾値は「極限法」等により決定できる。「極限法」等の閾値測定方法は、これ以下の濃度では感じないが、これ以上の濃度では感じるといった、甘味等の刺激を感じる境界値を決定する方法であり、訂正後明細書の試験例1に記載する各種甘味料を閾値以下で使用する場合に、その使用量を決定するうえでは必要な方法であるものの、単に甘味を呈するか呈さないかといった甘味の有無を評価するうえでは、必要な方法ではない。また、甘味を呈するか呈さないかの判断は、官能試験である2点試験法により、複数の専門パネラーに、所定量のスクラロースを添加した飲料と添加していない飲料の二つの試料を示し、どちらがより甘味が強いかを選び評価を行う。 また官能試験は、製品の官能特性を、理化学的方法によらず、人間の感覚器官を用いて感覚心理学的方法によって評価する試験であり、本件特許明細書には明記していないものの、出願当時より汎用されている試験方法であるから、当業者であれば、出願当時の技術常識に基づいて容易に理解することができる。 よって、訂正特許発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を充足しており、無効理由1を有しない。 3-2 無効理由2(特許法第123条第1項第4号)に対して 渋味のマスキングにスクラロースを「甘味を呈さない範囲の量」用いることについては、訂正後明細書の段落【0008】、【0009】、【0014】、【0015】及び【0017】に記載されており、訂正特許発明は、スクラロースをその甘味の閾値以下の量、「甘味を呈さない範囲の量」で用いることで、ウーロン茶などの過剰な渋味を減少又は緩和させ、さらに総合的な味を損なわないとした発明である。 試験例1において、スクラロースが甘味を呈さない量で、タンニンに由来する渋味、つまり茶、紅茶及びコーヒーの渋味を、減少又は緩和することが明記されている。 実施例1には、スクラロースを0.0012重量%濃度になるように配合することで「茶の渋味がマスキングされたウーロン茶」が得られること、実施例2には、スクラロースを0.0014重量%濃度になるように配合することで「強すぎる渋味がマスキングされた緑茶」が得られること、実施例3には、スクラロースを0.003重量%濃度に配合することで「渋味がマスキングされた紅茶」が得られること、及び実施例4には、スクラロースを0.0016重量%濃度になるように配合することで「コーヒー特有の不快な渋味がマスキングされたコーヒー」が得られることが記載されている。 これらの実施例1?4には、いずれも上記スクラロースの配合量が、各飲料において甘味を呈さない量であることの明記はないものの、訂正後明細書の段落【0008】には、「スクラロースが、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な渋味を減少又は緩和させ、さらに総合的な味を何ら損なうことがないことを見い出し、本発明を完成するに至った」と記載され、同様に段落【0014】には、「渋味を呈する製品に1又は2種以上の高甘味度甘味剤を用いる方法としては、上述の甘味の閾値以下の量の高甘味度甘味剤(2種以上の混合物の場合には、合計の量で甘味閾値以下となる量)を、渋味を呈する製品に均一に添加できる方法である限り、特に限定されない。」と記載されていることなどから、訂正後明細書全体を参酌するに、訂正特許発明は、スクラロースをその甘味を呈さない量用いて、飲料の渋味を減少又は緩和(マスキング)することを大前提とした発明であると理解されるから、ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーに対してそれぞれスクラロースの渋味マスキング効果を確認している実施例1-4も、当然にスクラロースを甘味を呈さない量で用いられた実施例であると理解できる。これらの実施例を追試した乙第14号証の追試でも確認されている。 そして、スクラロースを甘味を呈さない範囲の量であって、且つ0.0012?0.003重量%の量用いることによって、スクラロースを甘味を呈する量で使用されることにより、製品の物性などに影響を及ぼしている場合が除外され、訂正特許発明は、「製品の物性などに影響を及ぼさずに過剰な渋味を減少又は緩和させる」という課題を解決するための効果を奏している。 したがって、訂正特許発明は、訂正後明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足するものである。 また、審決の予告において、「スクラロースを茶、紅茶及びコーヒーの各飲料の0.0012?0.003重量用いた全ての範囲で渋味がマスキングされているということはできない。」との指摘に対して、特許請求の範囲が、発明の詳細な説明に記載する範囲と対比して、前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要且つ合目的な解釈手法によって判断すれば足りるのであって、訂正後明細書の発明の詳細な説明に、スクラロースを各飲料の0.0012?0.003重量用いた全ての範囲で渋味がマスキングされていることまでが裏付けを持って記載されている必要はない。具体例として、実施例1-4の記載に基づけば、当業者であれば、渋味を呈する飲料(ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒー)に対して、スクラロースを「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ0.0012?0.003重量%」用いることで、上記飲料の渋味が減少又は緩和(マスキング)されることは形式的に理解することができる。 よって、本件訂正特許発明は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足していて、無効理由2を有しない。 3-3 無効理由3(特許法第123条第1項第4号)に対して 訂正特許発明は、「ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料」に、「スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量」且つ「0.0012?0.003重量%」の条件を満たすスクラロースを添加すればよいのであって、発明を実施する態様は極めて明白簡明である。 具体的には、対象とする飲料に、スクラロースを「0.0012?0.003重量%」の範囲で添加し、当該スクラロースの添加により「甘味が生じたか否か」(すなわち「甘味を呈さないか否か」)及び「渋味が減少したか否か」を判断すれば足りる。 「甘味が生じたか否か」(すなわち「甘味を呈さないか否か」)及び「渋味が減少したか否か」の判断は、本出願前に既に当業界で確立されている官能評価方法の識別試験法である、2点試験法により行うことができる。2点試験法については、「スクラロース添加区」と「無添加区」に甘味の差を識別できるとはいえない時、「刺激の存在又は二つの刺激の差異を識別できるかできないかの境界となるような刺激の大きさ」を「閾値」ということから(乙第7号証)、この時のスクラロースの添加量は、少なくとも閾値以下、つまり「甘味を呈さない量」と結論づけることができる。 このように、ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを0.0012?0.003重量%添加することにより「甘味が生じたか否か」(すなわち「甘味を呈さないか否か」)及び「渋味が減少したか否か」は、当業界で確立されている官能評価方法によって明確に行うことができる。 よって、訂正後明細書の発明の詳細な説明の記載は、特段の試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とすることなく、当業者が訂正特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しており、無効理由3を有しない。 3-4 無効理由4(特許法第123条第1項第2号)に対して 甲第1号証には、分子量22000の蛋白質である高甘味度甘味料「ソーマチン」に不快な渋味を緩和する作用があること、特に紅茶に由来するタンニン酸の渋味をマスクして軽減すると共に、紅茶の香りを強調する効果があることが記載されている(甲第1号証第43ページ左欄最下行?右欄第9行)。 さらに、甲第1号証には、甘味閾値以下の濃度(0.0001%)のソーマチン溶液を飲んだ後に、渋味物質として紅茶由来のタンニン酸(0.02%)の溶液を飲むと、渋味が1/2に感じられ、軟らかくなることが記載されている(甲第1号証第43ページ右欄「5.苦味、塩味、酸味、渋味のマスキング」の項)。しかし、ここで示されている効果は、ソーマチンを渋味物質と水溶液中で共存させていない場合の効果であって、ソーマチンを紅茶飲料に甘味の閾値以下の量で共存させた状態、つまり甘味を呈さない量配合した場合に、紅茶の渋味がマスキングできることは記載されていない。 このように、甲第1号証には、甘味を呈する量のソーマチンに、タンニンに由来する紅茶の渋味をマスキングする効果があることは記載されているものの、ソーマチンを紅茶飲料に甘味の閾値以下の割合で共存させた状態、つまり甘味を呈さない範囲の量配合した場合に、紅茶の渋味がマスキングできることまで示されていない。 さらに、甲第1号証には、ソーマチンについて、ウーロン茶に由来する渋味やコーヒーに由来する渋味に対するマスキング効果は示されていない。 そして、甲第2号証?甲第5号証は、それぞれ「糖アルコール」、「グリチルレチンモノグルクロナイド」、「ステビア抽出物」及び「アスパルテームの分解生成物」に渋味を抑制する効果があることを開示するものの、「スクラロース」に、ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーの渋味をマスキングする効果があることを記載乃至示唆するものではない。 甲第2号証は、糖アルコールによる渋味の抑制であって、スクラロースやソーマチンといった高甘味度甘味料による渋味の抑制ではない。甲第3号証には、渋味のマスキングに関して、「グリチルレチンモノグルクロナイド」を甘味を呈する量用いることで柑橘類の渋味がマスキングできることが記載されているにすぎない。甲第4号証は、無機電解質陽イオンに基づく苦み、あく味及び渋味の悪い後味を抑制するものであり、訂正特許発明とマスキングする対象の渋味が全く相違する。甲第5号証の「アスパルテームの分解生成物」は、本質的に甘味がなく、甘味剤として使用されるものではない。 また、甲第6号証は、「スクラロース」により、コーヒーや紅茶に甘味を付与する方法が記載されているに留まり、「スクラロース」に、茶、紅茶及びコーヒーの渋味をマスキングする効果があることを記載乃至示唆するものではない。 さらに、甲第7号証には、「スクラロース」にフレーバー剤の有する渋味や不快なオフノートをマスキングする効果があることが記載されているが、マスキングする対象が、本件特許発明が対象とする茶、紅茶及びコーヒーとは無関係なフレーバー剤の「苦味」である点において、「スクラロース」の効果とは異なる効果を開示するものである。 したがって、甲第2号証?甲第7号証を考慮したとしても、「ウーロン茶、緑茶、紅茶、及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料」について、「渋味」をマスキングする目的で、甲第1号証に開示される「ソーマチン」に代えて、「スクラロース」を「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%」用いようとする動機付けはない。 また、甘味の閾値以下の微量の甘味剤でウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーの渋味をマスキングすることは、本願特許出願時の技術常識ではないから、「ウーロン茶、緑茶、紅茶、及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料」について、「渋味」をマスキングする目的で、甲第2号証?甲第7号証を考慮し、またこれらを組み合わせても甲第1号証に開示される「ソーマチン」に代えて、「スクラロース」を「甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%」で用いようとする動機付けはない。 4 そして、証拠方法として、乙第1号証?乙第4号証、乙第6号証?乙第24号証が提出されている。 なお、乙第5号証は、削除されている(口頭審理調書参照)。そして、乙第1号証?乙第4号証と乙第6号証は、第1答弁書に、乙第7号証?乙第13号証(乙第12号証には、別紙1?9が添付)は、第2答弁書に、乙第14号証?乙第21号証は、平成25年2月15日付け口頭審理陳述要領書に、乙第22号証?乙第24号証は、平成25年3月21日付け上申書に、乙第25号証?乙第26号証は、平成27年1月26日付け訂正請求書にそれぞれ添付されたものである。 記 乙第1号証 「飲料用語事典」、社団法人全国清涼飲料工業会外1名監修、 株式会社ビバリッジジャパン社、平成11年6月25日発 行、表紙、資11頁、奥付 乙第2号証 「新版 食品化学用語辞典」、岡本奨編、株式会社建帛社 、平成8年3月1日、新版第3刷発行)、表紙、第48-51 、76-77、102-103、152-153及び230- 231頁、奥付 乙第3号証 「食材図典」、小学館、1996年3月1日、初版第10刷発 行、表紙、目次の一部、第252-257頁、奥付 乙第4号証 「JIS 官能評価分析-用語 JIS Z 8144:20 04」、日本工業標準調査会 審議、財団法人日本規格協会、 平成16年3月20日 改正、表紙、第20-21頁、奥付 乙第6号証 「精糖技術研究会誌」、精糖技術研究会 精糖工業会技術研究 所編、第26号、昭和51年7月1日、表紙、第7?17頁 、奥付 乙第7号証 「JIS 官能検査用語 JIS Z 8144-1990」 、日本工業標準調査会 審議、財団法人日本規格協会、平成2 年3月1日制定、表紙、2-4頁、6頁、13-15頁、19 頁、奥付 乙第8号証 中川致之、「渋味物質のいき値とたんぱく質に対する反応性」 、日本食品工業学会誌、第19巻、第11号、1972年1 1月、531-537頁 乙第9号証 大橋司郎ら、「天然甘味料ソーマチンの風味向上効果」、Ne w Food Industry,Vol.27,No.3( 1985)、表紙、33-39頁、奥付 乙第10号証 「化学総説No.14 味とにおいの化学」、社団法人日 本化学会編、株式会社学会出版センター、昭和60年2月 10日、第5刷、表紙、第100-101頁、奥付 乙第11号証 被請求人の従業者芳仲幸治作成による、2012年10月 11日付けの「実験報告書」 乙第12号証 被請求人の従業者芳仲幸治作成による、2012年10月1 5日付け報告書、「1997年当時に知られていた甘味物質 について」 別紙1 1997年当時に知られていた甘味物質の調査結果の表 別紙2 化学総説、No.14,「味とにおいの化学」、社団法人日本化 学会編、株式会社学会出版センター、昭和60年2月10日、第 5刷、表紙、85-95頁、100-119頁、122-125 頁、奥付 別紙3 月刊「フードケミカル」1985年5月号、Vol.1,No. 1、(株)食品化学新聞社、表紙、50-53頁、115頁 別紙4 月刊「フードケミカル」1985年10月号、Vol.1,No .6、(株)食品化学新聞社、表紙、10-13頁、22-23 頁、26-27頁、32-39頁、76-79頁、92-93頁 、127頁 別紙5 「甘味の系譜とその科学」、株式会社光琳、昭和61年6月20 日、表紙、84-85頁、92-93頁、100-101頁、2 90-291頁、296-297頁、302-303頁、奥付 別紙6 別冊「フードケミカル-4 甘味料総覧」、(株)食品化学新聞 社、平成2年12月20日、表紙、4-5頁、14-15頁、8 8-89頁、106-107頁、130-131頁、138-1 39頁、142-143頁、150-151頁、212-215 頁、218-219頁、253-257頁、280-281頁、 296頁 別紙7 季刊化学総説、No.40 1999 「味とにおいの分子認 識」、日本化学会編、学会出版センター、1999年2月25日 初版発行、22-25頁、30-57頁、60-63頁、68- 69頁、奥付 別紙8 Official Journal of the Europ ean Communities,19.2.97 「DIRE CTIVE 96/83/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL 」 No L 48/16?48/19 別紙9 特表平8-503206号公報 乙第13号証 2012年3月19日付けのTate&Lyle社 日本駐 在事務所 長谷川朗による、三栄源エフ・エフ・アイ株式会 社に対する、「1997年当時のスクラロースの世界的な使 用状況について」の問合せ回答(報告書) 乙第14号証 被請求人の従業者芳仲幸治作成による、2013年2月14 日付けの「実験報告書3」 乙第15号証 「新版官能検査ハンドブック」、日科技連官能検査委員会編 、株式会社日科技連出版社、1995年3月7日発行、表紙 、398-403頁、奥付 乙第16号証 小林紀子ら、「新甘味料アスパルテームについて」、精糖技 術研究会誌第26号、1997年、7-17頁 乙第17号証 「利(注:口偏に利)酒の統計的手法(XII) 精神物理学 的測定法(1)」、佐藤信、日本醸造協會雑誌、Vol.5 2(1957),No.5,p.361-357、発行年を 説明する資料(web) 乙第18号証 「官能評価分析-方法 JIS Z 9080:2004」 、日本標準調査会 審議、財団法人日本規格協会、平成16 年3月20日、表紙、6頁、11-12頁、22頁、奥付 乙第19号証 被請求人の従業者芳仲幸治作成による、2013年2月14 日付けの「実験報告書4」 乙第20号証 「新版官能検査ハンドブック」、日科技連官能検査委員会編 、株式会社日科技連出版社、1995年3月7日発行、表 紙 、301-306頁、845頁、奥付 乙第21号証 欧州議会のオフィシャルジャーナル(Official J ournal of the European Comm unities),Volume 40(1997年2月1 9日発行)の表紙 乙第22号証 実施例1?4で使用した原料エキスと実験報告書3(乙14 )で使用した原料エキスの対比表 乙第23号証 「カラーイメージで学ぶ 統計学の基礎」、株式会社日本教 育研究センター、2006年10月16日初版第1刷発行、 表紙、第6-8頁、奥付 乙第24号証 「ファーストブック 統計学がわかる」、株式会社技術評論 社、2012年7月1日初版第9刷発行、表紙、第54-6 1頁、奥付 乙第25号証 「新版官能検査ハンドブック」、日科技連官能検査委員会編 、株式会社日科技連出版社、1995年3月7日発行、表紙 、第249-252頁、829頁、奥付 乙第26号証 二宮恒彦、「総説 食品の官能検査」、日本食品工業学会誌 第16巻 第8号、1969年8月発行、第372-379 頁 第6 当審の無効理由に対する判断 <無効理由1について> 1 訂正特許発明の「スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いる」との特定事項は、第1訂正請求で訂正された特許請求の範囲の請求項1の「スクラロースを、該飲料の0.0012?0.003重量%の範囲であって、甘味を呈さない量用いる」との特定事項と実質的に同じ内容を意味していることは明らかである。 2 そして、第1訂正請求を認容した第1次審決に対して訴えた知財高裁平成25年(行ケ)第10172号(平成26年3月26日判決言渡)の上記取消判決において、前記第5 1 1-1に示した無効理由1につき、以下のとおり判示した。 「人の感覚による官能検査であるから,測定方法等により閾値が異なる蓋然性が高いことを考慮するならば,特許請求の範囲に記載されたスクラロース量の範囲である0.0012?0.003重量%は,上下限値が2.5倍であって,甘味閾値の変動範囲(ばらつき)は無視できないほど大きく,「甘味の閾値以下の量」すなわち「甘味を呈さない量」とは,0.0012?0.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であると認められるから,結局,「甘味を呈さない量」とは,特許法36条6項2号の明確性の要件を満たさないものといえる。」 上記判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件特許無効審判事件について、当合議体を拘束する。 3 よって、訂正特許発明の「スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いる」との特定事項において、「甘味を呈さない範囲の量」とは、0.0012?0.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であると認められるから、「甘味を呈さない範囲の量」は、特許法36条6項2号の明確性の要件を満たさないものといえる。 第7 むすび 以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、他の無効理由を検討するまでもなく無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 渋味のマスキング方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は、食品、医薬品及び医薬部外品などの経口摂取又は口内利用可能な製品の渋味のマスキング方法に関する。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 味は、主として甘味、塩味、酸味、旨味、苦味の5種のほかに、渋味、えぐ味、辛味等がある。 なかでも、渋味は、例えば、渋柿等で代表されるように、未熟な果物を味わった場合に口をすぼめてひきしめられるような感覚であり、舌粘膜の収斂によるものとされている。強い渋味は不快であり、加工食品等を開発する場合には極力抑えることが好ましい。一方、淡い渋味は他の味と混ざり合って独特の風味を与え、緑茶等のように珍重されている。従って、渋味を緩和な程度に抑制して、この味覚の示す欠点部分を是正し、長所の部分のみを引き立てることが重要な課題となる。 【0003】 渋味を呈する代表的な成分は、タンニン、茶カテキン、茶タンニン、クロロゲン酸、シブオール等種々のものが知られており、これら成分は、主に渋柿、緑茶、コーヒー、紅茶、梅、豆腐、卵等の食品や、歯磨粉等の医薬部外品、さらにはたばこにまで広く含有されている。 【0004】 例えば、渋柿に含有されているタンニンやシブオールは、酵素処理、アルコール液噴霧によりタンニン自体を不溶性にして、渋味を呈しないように処理されることがある。また、茶に含有されているカテキン類は、茶葉にアルコール系水溶液を噴霧したり、デキストリンやサイクロデキストリン等の澱粉を添加した後酵素処理を行うことによって渋味を抑制することが知られている。さらに、豆腐の渋味には酵素エキスを添加したり、卵、特に加工卵白液にはプロテアーゼ処理を施したり、たばこに対してはアンモニア加湿空気混合ガスで処理したり、テルペンカルボン酸又はその低級脂肪酸エステルを添加する方法等により渋味の抑制を行うことが提案されている。 【0005】 しかし、上記のように、原料自体の渋味を抑制する方法は、一般に工程が複雑であり、設備や装置を変更することが必要で、製造/加工コストの増大を招くという問題があった。 【0006】 また、上記の渋味の抑制方法とは別に、渋味を呈する食品等に、キキョウ科植物の抽出物、クルクチン又は糖アルコールを添加することにより渋味をマスキングする方法が提案されている(特公平4-76659号、特開平2-284158号又は特開平7-274829号等)。 【0007】 しかし、キキョウ科植物抽出物やクルクチンは天然物であるために供給量や供給質が不安定であり、高品質で得ることが困難であるという問題があった。また、添加の際にはこれら物質は大量に必要となるため、渋味のマスキングという点では有効であっても、これら添加物の味を呈することにより他の味とのバランスを崩すという問題があった。さらに、上記と同様に製造/加工コストの問題も有している。 【0008】 【課題を解決するための手段】 上記問題点を鑑み、本願の発明者らは、製品の物性などに影響を及ぼさないで、かつ渋味自体を改善することができる方法について種々の検討を行った。その結果、スクラロースが、甘味の閾値以下の量で意外にも過剰な渋味を減少又は緩和させ、さらに総合的な味を何ら損なうことがないことを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。 【0009】 この発明によれば、渋味を呈する製品に、スクラロースを甘味の閾値以下の量であって、該甘味の閾値の1/100以上の量で用いることを特徴とする渋味のマスキング方法が提供される。具体的には、本発明は、ウーロン茶、緑茶、紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に、スクラロースを、甘味を呈さない範囲の量であって、且つ該飲料の0.0012?0.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法である。 【0010】 【発明の実施の形態】 本発明における渋味を呈する製品とは、経口摂取又は口内利用時に渋味を呈する製品を意味し、このなかには本来渋味は必要でないが、他の目的等で添加したために結果的に渋味を呈することとなった製品を含む。また、摂取又は利用時は液体、固体又は半固体のいずれの形態のものであってもよい。 【0011】 このような製品として、茶(緑茶、抹茶、ほうじ茶等)、紅茶、コーヒー等の飲料;柿、栗、ぶどう、銀杏等の果実;これら果実の果汁又は果肉を含む製品;ワイン、ぶどう酒等のアルコール類;が挙げられる。また、これら以外にも、タンニン、カテキン類、クロロゲン酸、シブオール、AlCl_(3)、Al(NO_(3))_(3)、ZnSO_(4)、トリクロロ酢酸等の渋味を呈する成分を含有する食品、医薬品及び医薬部外品などの経口摂取又は口内利用可能な製品、さらに、渋味としては現れていないが、上記成分を含有する製品、例えば山芋、カカオ豆、ごぼう、ふき、さつまいも、ジャガイモ、なす、リンゴ、なし等又はこれらの加工品等をも含む。なお、これら渋味を呈する製品においては、塩味など他の味覚成分、又は賦形剤や保存剤など他の添加剤が用いられたものであってもよい。 【0012】 本発明において高甘味度甘味剤とは、微量で甘味を呈する天然又は合成の甘味剤を意味し、砂糖を基準として甘味倍率が50倍以上のものをいう。具体的には、天然のものとしてソーマチン、ステビア又は甘草等の植物からの抽出物、合成の高甘味度甘味剤としてスクラロース、アスパルテーム、サッカリンナトリウム又はアセスルファームK等が挙げられる。本発明においては、これらのうちステビア、スクラロース、アスパルテームの単独又は2種以上の混合物の使用が好ましい。ここで、ステビアとは、天然のステビアから抽出した抽出物及びこの抽出物を適当に酵素処理したものを含む。 【0013】 甘味の閾値とは、甘味物質の甘味を呈する最小値であるが、必ずしも絶対値としては表わされない。つまり、本発明者らの試験によれば、例えば、紅茶3gを100℃の熱水150gで3分間又は10分間抽出した液を試料としたとき、スクラロースの甘味の閾値は前者では0.0009重量%、後者では0.004重量%となることが確認されている。このため、甘味の閾値は、同一の高甘味度甘味剤でも製品中の渋味の種類あるいは強弱、塩味あるいは苦味などの他の味覚又は製品の保存あるいは使用温度などの条件により変動すると考えられるが、一般に甘味剤として使用する場合の量よりも小さい値である。したがって、本願における甘味の閾値以下の量とは、甘味を呈さない範囲の量であればよい。また、高甘味度甘味剤の種類に拘わらず、最少量は甘味の閾値の1/100以上の量で用いることが好ましい。 【0014】 渋味を呈する製品に1又は2種以上の高甘味度甘味剤を用いる方法としては、上述の甘味の閾値以下の量の高甘味度甘味剤(2種以上の混合物の場合には、合計の量で甘味閾値以下となる量)を、渋味を呈する製品に均一に添加できる方法である限り、特に限定されない。例えば、渋味を呈する最終製品が固体の場合は、成型されるまでの液体、半固体の形状の時に、所定量の高甘味度甘味剤をそのまま、又は希釈溶液の状態で均一に添加し、その後に固体形状に成型する方法、固体形状の製品に希釈溶液状の高甘味度甘味剤を塗付又は噴霧等により均一に添加する方法等が挙げられる。また、渋味を呈する製品の最終形態が液体、半固体の場合は、その製造工程中又は最終製品にそのまま又は溶液の状態で均一に添加する方法等が挙げられる。 【0015】 以上のような方法で通常より少ない量の高甘味度甘味剤を用いて、本発明は簡便に過剰な渋味を減少又は緩和し、味覚の改善を図ることができる。 【0016】 【実施例】 本発明の渋味のマスキング方法を以下の実施例によって説明する。しかしながら、この発明はこれらに限定されるものではない。 【0017】 試験例1 渋味成分としてタンニン酸アルミニウムを0.04(重量)%含有する水溶液に、各種甘味料を閾値以下で、すなわちスクラロース0.0006%、アスパルテーム0.003%、ステビア0.005%、サッカリンナトリウム0.002%またはソーマチン0.00008%で添加したものと添加しないもの(ブランク)により、渋味のマスキング効果を、29人のパネラーにより順位づけして比較した。 この結果、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウムに渋味のマスキング効果があり、他の甘味料では効果がなかった(フリードマン検定とウィルコキソン検定により検定)。 【0018】 実施例1:ウーロン茶飲料 ウーロン茶エキストラクトNo.14266(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)2.5重量部(以下「部」と記す)、L-アルコルビン酸ナトリウム0.025部、スクラロース0.0012部を水にて100部とする。 得られたウーロン茶飲料は、茶の渋味がマスキングされたウーロン茶飲料であった。 【0019】 実施例2:緑茶飲料 マッチャエキストラクトNo.13115(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)7部、グルタミン酸ナトリウム0.0075部、マッチャフレーバーNo.59252(N)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.1部、L-アスコルビン酸ナトリウム0.0025部、スクラロース0.0014部を水にて合計100部とする。 得られた緑茶は、強すぎる渋味がマスキングされた緑茶であった。 【0020】 実施例3:紅茶飲料(ピーチ風味) 紅茶エキス(アッサムタイプ10倍抽出)10部、クエン酸(結晶)0.06部、L-アスコルビン酸ナトリウム0.05部、カラメル色素0.025部、1/5白桃濃縮果汁(透明)1部、ピーチフレーバーNo.66266(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.15部、スクラロース0.003部を水にて合計100部とする。93℃まで加熱し、瓶に充填する。 得られた紅茶は、渋味がマスキングされ、ピーチ風味の良好な紅茶であった。 【0021】 実施例4:ブラックコーヒー コーヒーエキスH(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)7.5部、ローストコーヒーエッセンス(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)0.1部、スクラロース0.0016部を水にて合計100部とする。このコーヒー液を缶に充填し、120℃、5分間レトルト殺菌する。 得られたコーヒーは、コーヒー特有の不快な渋味がマスキングされた缶コーヒーであった。 【0022】 【発明の効果】 本発明によれば、渋味を呈する各種の最終製品における過剰な渋味を、特別な工程/処理を追加することなく減少又は緩和することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2015-04-16 |
結審通知日 | 2015-04-20 |
審決日 | 2015-05-08 |
出願番号 | 特願平9-63312 |
審決分類 |
P
1
113・
537-
ZA
(A23L)
P 1 113・ 851- ZA (A23L) P 1 113・ 853- ZA (A23L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 良子、中島 庸子 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
山崎 勝司 佐々木 正章 |
登録日 | 2007-04-06 |
登録番号 | 特許第3938968号(P3938968) |
発明の名称 | 渋味のマスキング方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 坂田 洋一 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
復代理人 | 田中 智典 |
代理人 | 片倉 秀次 |
復代理人 | 田村 有加吏 |
代理人 | 赤堀 龍吾 |
代理人 | 溝内 伸治郎 |
代理人 | 小笠原 耕司 |
代理人 | 小林 幸夫 |
復代理人 | 山崎 臨在 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 斉藤 直彦 |
代理人 | 田中 千博 |
代理人 | 小林 綾子 |
代理人 | 松野 英 |