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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T
管理番号 1309962
審判番号 不服2015-5027  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2016-01-12 
事件の表示 特願2011-276994「スパークプラグ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年6月27日出願公開、特開2013-127911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月19日の出願であって、平成26年7月7日付け(発送日:7月15日)の拒絶理由通知に対して、同年8月22日に意見書が提出されたが、平成27年1月29日付け(発送日:2月4日)で拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年3月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成27年3月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
前記主体金具の先端部に固定され、前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極は、
ニッケルを97質量%以上含有する金属からなる外皮部と、
当該外皮部の内部に設けられ、前記外皮部よりも熱伝導性の高い放熱部とを有し、
前記軸線に沿った、前記主体金具の先端からの前記接地電極の突き出し量をL(mm)としたとき、
前記主体金具の先端から前記軸線に沿ってL/2だけ前記軸線方向先端側に位置し前記軸線に直交する平面と前記接地電極の中心軸との交点とを通る断面であって、前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記外皮部の断面積が前記接地電極の断面積の80%以下であり、
前記外皮部の硬度が、ビッカース硬度で110Hv以上220Hv以下であることを特徴とするスパークプラグ。」
なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりである。

本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「外皮部のニッケル含有量」について、当該含有量を、本件補正前の「93質量%以上」から、「97質量%以上」に限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国内で頒布された特開平5-315050号公報(以下「刊行物1」という。)には、「点火プラグ用電極材料」に関し、図面(特に図1、図2(a)参照)とともに、次の事項が記載されている。
以下、下線は当審で付与するものである。

ア.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、内部に挿入する銅や銀はNi基合金やインコネル系合金と比較して強度が劣り、加えて熱膨張係数も大きいため、エンジン実装中の冷熱サイクルによって、電極が変形し、プラグギャップが変化し、また、エンジンの振動が加わり接地電極が折れるような場合がある。」

イ.「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するため、従来中心電極で実施されていた銅を挿入するかわりに、銅被覆線を挿入することによってプラグ電極の熱伝導性向上と強度低下防止を同時に満足させるものである。」

ウ.「【0006】銅被覆線の使用は、銅による熱伝導性向上が目的であり、被覆銅線断面積に対する銅の断面積比が10%以下、特に5%以下では、その効果がすくなく、90%を越え、特に95%を越えると電極の強度は低下する。従って銅の断面積比は10?90%に限定される。銅の熱伝導率は 800℃で 300W/m・k 未満では電極の熱伝導性向上が少ないため、 300W/m・k 以上に限定する。」

エ.「【0013】図1は本発明が適用された点火プラグを示し、図2(a),(b)はそれぞれ図1A-A',B-B'およびC-C',D-D'における断面を示している。図1において、1は本発明の電極材料を用いた接地電極を示し、2は本発明の電極材料を用いた中心電極を示す。接地電極1、中心電極2は、図2(a),(b)の断面B-B'およびD-D'でみるように、Ni基合金3よりなって、耐熱性の電極表面をなす外層t_(1),t_(2)と、その内側に芯材4を内として、銅5を被覆した銅被覆線とを一体に形成したものである。中心電極2は筒状絶縁体6によって固定され、接地電極1は折曲加工を施し、主体金具7の内側に溶接によって固定される。前記接地電極1の折曲された先端部を中心電極2の先端部と対向させギャップを調整する。図示していないが、中心電極2の先端部、接地電極1の折曲された先端部の対向位置に白金あるいはインジュムの放電エッジが形成され、従って前記ギャップの調整はエッジ間の距離で決められる。銅被覆線は電極の内端面には露出しないが、できるだけシリンダー内端面に近いところまで挿入するのが望ましい。接地電極1と主体金具7との溶接部に銅被覆線は露出した方が望ましいが、溶接強度を維持するために、溶接部より2mmの範囲でかしめ込んでも差し支えない。また、エンジンの特性により接地電極のみ、もしくは中心電極のみに適用してもよい。」

オ.「【0017】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、電極内に銅被覆線を挿入しているので、電極の先端温度を低下させることができ、これに加え、Ni,Ni合金,Fe,Fe合金の芯材によってエンジンに実装中の電極の変形を抑え、プラグギャップの変化や折損を防ぐことができる。なお、図2のt_(1),t_(2)の厚みによって先端温度の低下の度合を調べたが、t_(1),t_(2)の厚みが断面積比(Ni基合金の断面積(全体の断面積))で27?65%の場合はほぼ同じ効果であった。」

a.記載事項エの「筒状絶縁体6」は、刊行物1の図1からみて、軸方向に貫通する軸孔を有しており、また、中心電極2は、筒状絶縁体の先端側の筒内、すなわち、軸孔の先端側に挿通されていることは明らかである。
b.同じく図1からみて、筒状絶縁体6が主体金具7を貫通しており、主体金具7は、筒状絶縁体の外周に設けられているといえる。
c.記載事項エのとおり、接地電極1は、図2(a)の断面B-B'のように、Ni基合金3からなる耐熱性の電極表面をなす外層t_(1)と、内側の芯材4を銅5で被覆した銅被覆線とを一体に形成したものであり、かつ、折曲加工が施され、主体金具7の内側に溶接によって固定されるものである。
d.記載事項オの「t_(1),t_(2)の厚みが断面積比(Ni基合金の断面積(全体の断面積))で27?65%」は、その「t_(1)」は、記載事項エ及び図1のとおり「接地電極の外層(Ni基合金)」のことであり、また、「断面積比」は断面積に係る2つの数値の比であるところ、刊行物1に記載される断面積は「Ni基合金の断面積」、すなわち「外層t_(1)」の断面積と、「(接地電極)全体の断面積」、すなわち「接地電極の断面積」との2つであるから、外層t_(1)の断面積が接地電極の断面積の27?65%と解される。
e.図2(a)のB-B'断面は、図1に示されるとおりの位置の断面であるところ、その断面は、主体金具7から垂直に立ち上がり、カーブ部分を経て、主体金具に水平に折曲加工された接地電極1のカーブ部分の略中央位置の断面であって、接地電極の中心線と直交する断面と解される。

上記記載事項、図示内容及び認定事項を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「軸方向に貫通する軸孔を有する筒状絶縁体6と、
筒状絶縁体6の軸孔の先端側に挿通される中心電極2と、
筒状絶縁体6の外周に設けられる筒状の主体金具7と、
主体金具7の内側に溶接によって固定され、中心電極2の先端部との間のギャップを有する接地電極1とを備える点火プラグであって、
接地電極1は、
Ni基合金3よりなる外層t_(1)と、
当該外層t_(1)の内側に、芯材4に銅5を被覆した銅被覆線を一体に形成し、
接地電極1のカーブ部分の略中央位置の断面であって、接地電極の中心線と直交する断面において、外層t_(1)の断面積が接地電極の断面積の27?65%である、点火プラグ。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国内で頒布された特開2002-343533号公報(以下「刊行物2」という。)には、「内燃機関用スパークプラグ」に関し、図面(特に図1?3、12参照)とともに、次の事項が記載されている。

カ.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関に使用されるスパークプラグに係り、詳細にはスパークプラグ電極材に要求される基本特性を具備した上で、耐熱性を改善し、従来より更に熱負荷の厳しいエンジンに適合する高性能を付加したスパークプラグを構成する電極材の成分組成及びその寸法に関するものである。」

キ.「【0037】
次に、接地電極において曲げ加工による変形を受けていない部位の硬さHv0.5が210以下、好ましくは190以下とする理由について図7を参照して説明する。ここで、硬さHv0.5とは、JIS規格Z2244に規定された微小ビッカース硬さ試験方法により試験力4.903Nで測定した場合の硬さをいう。また、硬さとして、接地電極において曲げ加工による変形を受けていない部位を規定したのは、この部位は曲げ加工前後で硬さが変化しないので加工性をより正確に反映するためである。
図7は、接地電極の硬度とギャップのばらつきの関係を示す図である。本発明に用いる電極材のうち、最も硬く曲げにくいEH12(S/V=1.76)を評価に用い、この材料を熱処理(焼き鈍し、固溶化処理等)することで、硬さを低下させて上記硬さ範囲になるようにした。この図より、接地電極の硬さが高いほど、ギャップのばらつき量(図の上下の矢印間の幅)が大きくなるとともに、ギャップの中央値(ギャップ=1.05)からのずれ(図の黒丸)が大きくなる。
つまり、ギャップの寸法精度が非常に低くなっている。
一方、接地電極の硬さHv0.5を210以下とした場合は、加工性が向上するので、ギャップのばらつき量及び中央値からのずれがともに小さくなるので、精度よくギャップ成形をすることができる。Hv(0.5)を190以下とすれば上記効果がさらに大となるのでより好ましい。」

3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その構造、機能等からみて、引用発明の「軸方向に貫通する軸孔を有する筒状絶縁体6」は本願補正発明の「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体」に、以下、同様に、
「筒状絶縁体6の軸孔の先端側に挿通される中心電極2」は「前記軸孔の先端側に挿設された中心電極」に、
「筒状絶縁体6の外周に設けられる筒状の主体金具7」は「前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具」に、
「主体金具7の内側に溶接によって固定され、中心電極2の先端部との間のギャップを有する接地電極1」は「前記主体金具の先端部に固定され、前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極」に、
「点火プラグ」は「スパークプラグ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「芯材4に銅5を被覆した銅被覆線」は、記載事項イのとおり、「銅被覆線を挿入することによってプラグ電極の熱伝導性向上と強度低下防止を同時に満足させるものである」から、本願補正発明の「外皮部よりも熱伝導性の高い放熱部」に相当し、引用発明の「当該外層t_(1)の内側に、芯材4に銅5を被覆した銅被覆線を一体に形成」することは、本願補正発明の「当該外皮部の内部に設けられ、前記外皮部よりも熱伝導性の高い放熱部とを有」することに相当する。
そして、引用発明の「Ni基合金3よりなる外層t_(1)」は本願補正発明の「ニッケルを97質量%以上含有する金属からなる外皮部」と、「ニッケルを含有する金属からなる外皮部」で共通する。
また、引用発明の「接地電極のカーブ部分の略中央位置の断面」は、本願補正発明の「前記軸線に沿った、前記主体金具の先端からの前記接地電極の突き出し量をL(mm)としたとき、前記主体金具の先端から前記軸線に沿ってL/2だけ前記軸線方向先端側に位置し前記軸線に直交する平面と前記接地電極の中心軸との交点とを通る断面」と、「接地電極の所定位置の断面」で共通し、引用発明の「外層t_(1)の断面積が接地電極の断面積の27?65%である」ことは本願補正発明の「外皮部の断面積が前記接地電極の断面積の80%以下である」ことと重複する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
前記主体金具の先端部に固定され、前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極は、
ニッケルを含有する金属からなる外皮部と、
当該外皮部の内部に設けられ、前記外皮部よりも熱伝導性の高い放熱部を有し、
接地電極の所定位置の断面であって、接地電極の中心線に直交する断面において、前記外皮部の断面積が前記接地電極の断面積の80%以下であるスパークプラグ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
外皮部のニッケルの含有量が、本願補正発明では「97質量%以上」であるのに対して、引用発明では明らかでない点。
[相違点2]
接地電極の所定位置の断面が、本願補正発明では、「前記軸線に沿った、前記主体金具の先端からの前記接地電極の突き出し量をL(mm)としたとき、前記主体金具の先端から前記軸線に沿ってL/2だけ前記軸線方向先端側に位置し前記軸線に直交する平面と前記接地電極の中心軸との交点とを通る断面」であるのに対して、引用発明では、「接地電極1のカーブ部分の略中央位置の断面」である点。
[相違点3]
外皮部の硬度が、本願補正発明では「ビッカース硬度で110Hv以上220Hv以下である」のに対して、引用発明では明らかでない点。

4.判断
(1)相違点1について
本願補正発明の課題は、接地電極の「耐変形性を確保する」ことであるところ(本願明細書の段落【0005】及び【0006】)、引用発明の課題もプラグ電極の「強度低下防止」であるから(刊行物1の段落【0003】及び【0004】)、両者の課題は共通する。そこで、本願補正発明に係る数値限定の臨界的意義について検討する。
本願明細書の【表1】には、接地電極断面積、断面積割合、外皮部硬度、K/Sを種々異なるものとした接地電極を有するスパークプラグのサンプルの試験結果がサンプルNo.1?36として記載されており、また、表1の説明として、段落【0081】には、「サンプル3?18における外皮部は、Niを97質量%、希土類元素を合計で0.1質量%、Si、Cr、Al、Mn、C、Ti、Mg、Fe、Cu、P、Sを合計で2.9質量%含有する金属により形成した。また、サンプル21?36における外皮部は、Niを93質量%、希土類元素を合計で0.1質量%、Si、Cr、Al、Mn、C、Ti、Mg、Fe、Cu、P、Sを合計で6.9質量%含有する金属により形成した。」(3?8行)と記載されている。
さらに、段落【0079】には、「サンプル1,2の接地電極は、サンプル3?18において外皮部を構成する金属と同一の金属により形成し、サンプル19,20の接地電極は、サンプル21?36において外皮部を構成する金属と同一の金属により形成した。」(4?6行)と記載されているから、サンプル1?18の外皮部はNiを97質量%含有し、19?36のものはNiを93質量%含有するものである。
結局、本願補正発明は、ニッケルの含有量が、97質量%と93質量%の2種類のみについて、接地電極断面積、断面積割合、外皮部硬度、K/Sを変えて、サンプル試験が行われたものである。
【表1】の、各サンプルの試験結果をみると、Ni含有量が97質量%のサンプル1と同93質量%のサンプル19、同97質量%のサンプル2と同93質量%のサンプル20、同様に、サンプル3とサンプル21、サンプル4とサンプル22、…(略)…、サンプル18とサンプル36は、接地電極断面積、断面積割合、外皮部硬度、K/Sをそれぞれ同じ条件に設定して試験が行われているところ、その耐変形性評価、耐消耗性評価をみると、評価の基準となる「不良率」、「ギャップ増加量」の数値が、Ni含有量が97質量%のものとNi含有量が93質量%のものにおいて全く同じである。
すなわち、接地電極断面積、断面積割合、外皮部硬度、K/Sを同じ条件に設定した、Ni含有量が「97%」の外皮部を有する接地電極とNi含有量が「93%」の外皮部を有する接地電極とは、各評価が一致している。
以上の点からみて、Ni含有量が「97%」のものと「93%」のものとは、接地電極を形成する金属として、耐変形性評価、耐消耗性評価に関し、その効果に全く差異がないから、Ni含有量を「93%以上」から「97%以上」と限定することに技術的意義を確認できず、「97%」という数値に、臨界的意義を認めることはできない。
そして、スパークプラグの接地電極の外部層を形成する金属として、Ni含有量が97%以上のものは、例えば、国際公開第2011/077619号の[表1]及び[表2](段落[0045]、[0050]、[図2]等参照)に、実施例、比較例として多々記載されるように周知であって、特別なものではない。
したがって、上記相違点1に係る「ニッケルの含有量を97%以上」とすることは、当業者が適宜設定し得る事項にすぎず、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
記載事項ウのとおり、引用発明は熱伝導性向上をも目的とするものであって、銅被覆線を介して、熱を主体金具に伝導させるものである。
そうすると、引用発明において、銅被覆線は、カーブ部分の略中央位置から主体金具まで、ほぼ同じ太さで構成されていると解することが合理的である。
また、刊行物1の【図1】及び【図2】(a)に照らせば、引用発明の銅被覆線の断面積及び接地電極の断面積は、カーブ部分の略中央位置から主体金具までほぼ同じであると解されるから、本願補正発明にいう「L/2」の位置から主体金具までの外層t_(1)の断面積及び接地電極の断面積はほぼ同じと解するのが自然である。
そうすると、引用発明において、本願補正発明にいう「L/2」の位置を含むカーブ部分の略中央位置から主体金具までは、どの断面をとっても、断面積の割合が大きく変化することはないと解することができる。
してみると、引用発明において、断面積の割合を特定する断面として、相違点2に係る本願補正発明の特定事項とすることに格別の困難性があるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
本願補正発明の課題は、放熱部(銅により構成)を構成する金属の硬度は、外皮部を構成する金属の硬度よりも低いため、接地電極の機械的強度が低下してしまう(本願明細書の段落【0005】参照)ことである。
他方、引用発明の課題は、記載事項アのとおり、内部に挿入される銅が外層であるNi基合金と比較して強度が劣り、電極が変形することである。
すなわち、本願補正発明と引用発明とは、接地電極が変形してしまうという同じ課題を有するものである。
そして、その解決手段は、本願補正発明では、「外皮部硬度」を「ビッカース硬度で110Hv以上220Hv以下」とすることであり、引用発明では、Ni基合金を芯材とする銅被覆線を挿入することである。
上記のとおり、引用発明において、変形を抑えるための解決手段は、Ni基合金を芯材とする銅被覆線を挿入することであるところ、引用発明の外層t_(1)もNi基合金で構成されている(記載事項エ参照)から、当該外層t_(1)も接地電極の変形を抑えるもの、すなわち、接地電極の強度に寄与するものであることが理解できる。
ところで、スパークプラグの接地電極の硬度は、それぞれの目的に応じて様々に設定されるものである。
例えば、上記刊行物2の記載事項キには、Ni基合金からなる外皮部の硬度を、接地電極の加工性のために「Hv0.5を210以下」にすることが、特開2011-181523号公報の段落【0023】には、先行技術として、スパークプラグの外層部を内層部より硬くするために、外層部である第1金属のニッケル基合金の硬度を「Hvが100?230程度」にすることが、更に、拒絶の理由に引用された特開平10-251786号公報の段落【0006】と【表2】には、耐酸化性と高熱伝導性を両立するための点火プラグ用電極材料として本発明合金或いは比較合金のNi基合金の硬さとして「HVが144?181」にすることが記載されている。
そうすると、スパークプラグの外皮部を構成するNi基合金の硬度として、ビッカース硬度で100Hv以上230Hv以下は普通に用いられている硬度の範囲であるといえる。
また、接地電極の変形防止は、当該技術分野における自明の課題であるから、変形を防止するための適切な硬度を設定することは、当業者にとって、格別に困難なことではない。
してみると、数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえるから、外皮部の硬度を「ビッカース硬度で110Hv以上220Hv以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、相違点3に係る「硬度」に関して、審判請求人は「外皮部を構成するNiも、含有量が高まれば高まるほどに硬度が低下する」(審判請求書4頁17行)と主張するが、そもそも、Ni含有量が高まれば高まるほど硬度が低下することは、本願明細書には何ら記載がなく、また、そのことを証する資料も提出されていない。
それどころか、上記(1)で検討したとおり、本願明細書の表1には、Ni含有量が93%及び97%であっても、同じ硬度のものが多々記載されており、Ni含有量の多少に応じて硬度が上昇したり低下したりするものとはいえないから、審判請求人の主張には根拠がない。
さらに、本願明細書の段落【0059】の「軟化工程において、前記中間部材40に熱処理(アニール処理)を施すことで、中間部材40の硬度を低下させる。尚、熱処理は、中間部材の硬度を十分に低下させる(外皮部対応部38の硬度を110Hv未満とする)ことを目的として行われ」、同じく段落【0060】の「軟化工程の後、硬化工程において、…(略)…中間部材40に冷間鍛造加工(塑性加工)を施し、…(略)…塑性加工により、中間部材40の硬度は上昇し、接地電極用金属部材37のうち、外皮部28に対応する部位の硬度が110Hv以上220Hv以下とされる。」との記載によれば、接地電極(特に外皮部)は、軟化工程において、熱処理により硬度を110Hv未満まで低下させ、硬化工程において、軟化した中間部材(図5(d)参照)に塑性加工を施すことにより硬度を上昇させ、硬度を110Hv以上220Hv以下とするように鍛造されるものであることからみて、本願明細書には、外皮部の硬度は、Ni含有量ではなく、硬化工程における塑性加工によることが記載されており、審判請求人の主張は採用できない。

(4)作用効果について
そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び周知の事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
前記主体金具の先端部に固定され、前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極は、
ニッケルを93質量%以上含有する金属からなる外皮部と、
当該外皮部の内部に設けられ、前記外皮部よりも熱伝導性の高い放熱部とを有し、
前記軸線に沿った、前記主体金具の先端からの前記接地電極の突き出し量をL(mm)としたとき、
前記主体金具の先端から前記軸線に沿ってL/2だけ前記軸線方向先端側に位置し前記軸線に直交する平面と前記接地電極の中心軸との交点とを通る断面であって、前記接地電極の中心軸と直交する断面において、前記外皮部の断面積が前記接地電極の断面積の80%以下であり、
前記外皮部の硬度が、ビッカース硬度で110Hv以上220Hv以下であることを特徴とするスパークプラグ。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項は、上記第2、2に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明に係る「外皮部のニッケル含有量」について「97質量%以上」を、「93質量%以上」と数値範囲を広げたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2、3及び4に記載したとおり、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、Ni含有量が93%以上のNi基合金は、例えば、刊行物2の【表1】、前記特開平10-251786号公報の【表1】及び前記国際公開第2011/077619号の[表1]及び[表2]に記載のように周知である。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知の事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-06 
結審通知日 2015-11-12 
審決日 2015-11-25 
出願番号 特願2011-276994(P2011-276994)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01T)
P 1 8・ 121- Z (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 吉信  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 中川 隆司
森川 元嗣
発明の名称 スパークプラグ及びその製造方法  
代理人 青木 昇  

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