• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21K
管理番号 1310042
審判番号 不服2014-13112  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-07 
確定日 2016-01-14 
事件の表示 特願2008-225954「シンチレータプレート」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月18日出願公開、特開2010- 60414〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成20年9月3日の出願であって、平成25年1月30日付けで拒絶理由が通知され、同年3月27日付けで意見書が提出され、同年8月
1日付けで拒絶理由が通知され、同年10月3日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成26年4月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月7日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成27年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月2日付けで意見書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成26年7月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであるところ、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
基材上に蒸着結晶からなるシンチレータ層を有するシンチレータプレートにおいて、
前記蒸着結晶が、ヨウ化セシウムとタリウムを含有する柱状結晶であり、
該基材の該シンチレータ層と接触する接触面の中心線平均粗さ(Ra)が、0.001≦Ra≦0.1μmであり、
該接触面の最大粗さ(Rt)と該Raが、5≦Rt/Ra≦150である関係を有する平板X線検出装置(FPD)に用いられることを特徴とするシンチレータプレート。」


第3 当審の拒絶理由通知
当審の拒絶の理由2の概略は、以下のとおりである。

本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 刊行物の記載及び引用発明の認定
1 当審の拒絶の理由に引用され、この出願前に頒布された刊行物である、特開2008-107279号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

(1)「【0014】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その解決課題は、基板フィルムの熱収縮による変形やシンチレータの柱状結晶性低下及び剥がれの発生がなく、発光効率及び発光取り出し効率の高いシンチレータパネルであって、かつ該シンチレータパネルと平面受光素子面の均一接触が可能で、シンチレータパネル面-平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少ないシンチレータパネルを提供することである。」

(2)「【0027】
(シンチレータパネルの構成)
本発明のシンチレータパネルは、高分子フィルム基板上に反射層及びシンチレータ層を設けて成るシンチレータパネルであるが、該反射層とシンチレータ層の間に下引層を有する態様が好ましい。
【0028】
また、本発明においては、反射層、下引層、及びシンチレータ層の他に後述する保護層を設けることが好ましい。
【0029】
以下、各構成層及び構成要素等について説明する。
【0030】
(シンチレータ層)
シンチレータ層(「蛍光体層」ともいう。)を形成する材料としては、種々の公知の蛍光体材料を使用することができるが、X線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成出来るため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、シンチレータ層の厚さを厚くすることが可能であることから、ヨウ化セシウム(CsI)が好ましい。
【0031】
但し、CsIのみでは発光効率が低いために、各種の賦活剤が添加される。例えば、特公昭54-35060号の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば特開2001-59899号公報に開示されているようなCsIを蒸着で、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)、インジウム(In)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)な
どの賦活物質を含有するCsIが好ましい。本発明においては、特に、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)が好ましい。更に、タリウム(Tl)が好ましい。」

(3)「【0078】
(放射線画像検出器)
以下に、上記放射線用シンチレータパネル10の一適用例として、図4及び図5を参照しながら、当該放射線用シンチレータプレート10を具備した放射線画像検出器100の構成について説明する。なお、図4は放射線画像検出器100の概略構成を示す一部破断斜視図である。また、図5は撮像パネル51の拡大断面図である。」

(4)「【0104】
(反射層を有する基板1の作製)
厚さ25,50,75,125μmのポリイミドフィルム(ガラス転移温度は285℃)(宇部興産製ユーピレックス)にアルミをスパッタして反射層を形成した。
【0105】
また,上記ポリイミドフィルムを積層化した厚さ250、500、750μmのポリイミドボード(宇部興産製ユーピレックスボード)に同様にアルミをスパッタして反射層を形成した。
【0106】
(反射層を有する基板2の作製)
厚さ25,50,75,125,250,500、750μmのポリエチレンナフタレートフィルム(ガラス転移温度は113℃)に上記と同様にしてアルミをスパッタして反射層を形成した。
【0107】
(下引層の作製)
バイロン630(東洋紡社製:高分子ポリエステル樹脂) 100質量部
メチルエチルケトン(MEK) 100質量部
トルエン 100質量部
上記処方を混合し、ビーズミルにて15時間分散し、下引き塗設用の塗布液を得た。この塗布液を上記基板1、及び2のアルミをスパッタ面に乾燥膜厚が1.0μmになるようにバーコーターで塗布したのち100℃で8時間乾燥することで下引層を作製した。
【0108】
(シンチレータ層の形成)
基板の光吸収層側にシンチレータ蛍光体(CsI:0.003Tl)を、図3に示した蒸着装置を使用して蒸着させシンチレータ層(蛍光体層)を形成した。
【0109】
すなわち、まず、上記蛍光体原料を蒸着材料として抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する支持体ホルダに基板を設置し、基板と蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0110】
続いて蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を100℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱して蛍光体を蒸着しシンチレータ層の膜厚が450μmとなったところで蒸着を終了させシンチレータパネルを得た。
【0111】
(熱処理)
上記で作製したシンチレータパネルに表1及び表2に示した温度と時間の熱処理をした。(尚熱処理は、N_(2)ガス雰囲気下で実施した。)
(評価)
得られた各試料を封止した後、CMOSフラットパネル(ラドアイコン社製X線CMOSカメラシステムShad-o-Box4KEV)にセットし、12bitの出力データより鮮鋭性を、以下に示す方法で測定し、以下に示す方法により評価した結果を表1及び2に示す。
【0112】
尚、放射線入射窓のカーボン板とシンチレータパネルの放射線入射側(蛍光体のない側)にスポンジシートを配置し、平面受光素子面とシンチレータパネルを軽く押し付けることで両者を固定化した。」

(5)図1


図1より、基板1上に反射層3、下引層4、シンチレータ層2を設けて成るシンチレータパネル10が、看取できる。

(6)図2



上記(1)ないし(6)と、放射線画像検出器100が平面受光素子面を有することは自明であることにより、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「高分子フィルム基板1上に反射層3及び蒸着により形成された結晶構造のシンチレータ層2を設けて成るシンチレータパネル10であって、
前記蒸着により形成された結晶構造が、CsI:0.003Tlからなる柱状結晶であり、
前記反射層3と前記シンチレータ層2の間に下引層4を有し、
平面受光素子面を有する放射線画像検出器100に用いられるシンチレータパネル10。」

2 当審の拒絶の理由に引用され、この出願前に頒布された刊行物である、特開2005-292130号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

(1)「【0010】
本発明者の研究により、蒸着法などの気相堆積法により金属シート(基板)の表面に柱状結晶構造の蛍光体層を堆積形成する際に、用いる金属シートの表面が滑らかでなく、小さなものであっても凹凸が存在すると、即ち、粗面であると、その基板表面の凹凸が起点となって蛍光体結晶の異常成長が現われ、この異常成長した結晶のサイズが蓄積画像の読み取り時の画素サイズや画像再生時の画素サイズを越えてしまうと、再生された放射線画像上で、周囲と極端に濃度の異なる点欠陥として視認されるようになり、各種の診断や検査に支障を来すことが分かった。また、気相堆積法により形成される蛍光体層の透明性が高いために、表面が粗面の金属シート表面に気相堆積法により蛍光体層を形成して得た放射線像変換パネルを用いて放射線画像を再生すると、金属シート表面の凹凸が直接、再生される放射線画像上に現れて、構造モトル(画素間の粒子ゆらぎ)を増大させ、再生放射線画像の粒状性の低下を招くことが判明した。
【0011】
従って、本発明は、高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の問題点について検討を重ねた結果、金属シート(金属製基板)の表面に気相堆積法により蛍光体層を形成して放射線像変換パネルを得る場合に、金属シートの表面粗さ(Ra)を一定値以下とすることによって、再生放射線画像の粒状性に影響を及ぼす構造モトルを低減し、再生放射線画像に現われる点欠陥を減少させることができることを見い出し、本発明に到達したものである。」

(2)「【0027】
支持体(金属シート)11の蛍光体層側表面11aは、表面粗さRaが0.1μm以下である。金属シート11の蛍光体層側表面11aの表面粗さRaは、0.005μm以上であることが好ましい。表面粗さRaを0.005μm未満にするには超精密研磨が必要で、そのような超精密研磨は、コストがかかる割には効果が大きくない。特に好ましいのは、表面粗さRaは0.005μm以上で、0.06μm以下である。」

(3)「【0059】
[実施例1]
(1)蒸発源
蒸発源として、純度4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末、および純度3N以上の臭化ユーロピウム(EuBr_(2))溶融物を用意した。EuBr_(2)溶融物は、酸化を防ぐために、EuBr_(2)粉末を白金製坩堝に入れ、これを十分なハロゲン雰囲気としたチューブ炉中にて800℃に加熱して溶融した後、冷却し、炉から取り出して得た。各蒸発源中の微量元素をICP-MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)は各々10ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)など他の元素は2ppm以下であった。また、EuBr_(2)中のEu以外の希土類元素は各々20ppm以下であり、他の元素は10ppm以下であった。これらの蒸発源は、吸湿性が高いので露点20℃以下の乾燥雰囲気を保ったデシケータ内で保管し、使用直前に取り出すようにした。
【0060】
(2)支持体の調製
支持体として、1mm厚のアルミニウムシート(圧延成型品、圧延記号:SL(圧延による表面粗さの特に良好なもの)、住友金属工業(株)製)を用意した。アルミニウム基板の表面を、界面活性剤を含む弱アルカリ性洗浄液を用いて脱脂洗浄し、脱イオン水で水洗し、そして乾燥した。
【0061】
(3)蛍光体層の形成
上記のアルミニウム基板を蒸着装置内の基板ホルダーに設置した。上記CsBr蒸発源およびEuBr_(2)蒸発源を装置内の抵抗加熱用坩堝容器に充填した。基板と各蒸発源との距離は150mmとした。次に、メイン排気バルブを開いて装置内を排気して1×10^(-3)Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースタおよびディフュージョンポンプの組合せを用いた。さらに、水分除去のために水分排気用クライオポンプを使用した。その後、排気をメイン排気バルブからバイパス排気バルブに切り換え、装置内にArガスを導入して0.5Paの真空度とした後、プラズマ発生装置(イオン銃)によりArプラズマを発生させ、基板表面の洗浄を行った。その後、排気をメイン排気バルブに切り換えて1×10^(-3)Paの真空度まで排気し、そして再度排気をバイパス排気バルブに切り換え、Arガスを導入して1Paの真空度(Arガス圧)とした。基板と各蒸発源の間に設けられたシャッタを閉じた状態で、蒸発源それぞれを抵抗加熱器で加熱溶融した後、まずCsBr蒸発源側のシャッタだけを開き、基板の表面にCsBr蛍光体母体を堆積させて被覆層を形成した。その3分後に、EuBr_(2)蒸発源側のシャッタも開き、被覆層上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。堆積は8μm/分の速度で行った。また、各加熱器の抵抗電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.003/1となるように制御した。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。基板の被覆層上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蓄積性蛍光体層(層厚:500μm、面積10cm×10cm)が形成されていた。
このようにして、共蒸着により金属シート(支持体)と蓄積性蛍光体層とからなる本発明の放射線像変換パネルを製造した(図1参照)。」

(4)「【0071】
(1)支持体表面の表面粗さRaと表面粗さの最大高さRz
アルミニウム基板の表面(表面処理した面)の形状を、超深度形状測定顕微鏡(VK-8550、キーエンス社製)を用いて、高さ測定ピッチ(測定分解能)0.01μmで100μm×100μmの領域に渡って測定し、得られた測定データから画像計測・解析ソフト(VK-H1A7)を用いて、JIS B 0601-2001に準じた計算式により表面粗さ(算術平均粗さ)Raと表面粗さの最大高さRzとを求めた。」

(5)「【0075】
表1
──────────────────────────────────
支持体/表面処理 Ra/Rz 粒状性 点欠陥数 総合判定
──────────────────────────────────
実施例1 SL(なし) 0.074/1.20μm A 8 A
実施例2 SL(電解研磨) 0.048/0.46μm AA 2 AA
実施例3 SL(Niめっき)0.054/0.45μm AA 3 AA
実施例4 SL(Crめっき)0.052/0.43μm AA 3 AA
実施例5 SL(電解研磨+SiO_(2)被膜)
0.040/0.25μm AA 1 AA
実施例6 YH-75(ラッピング研磨)
0.044/0.52μm AA 3 AA
実施例7 YH-75(ラッピング研磨+SiO_(2)被膜)
0.038/0.21μm AA 1 AA
──────────────────────────────────
比較例1 MF(なし) 0.196/5.05μm C 20 C
比較例2 LF(なし) 0.130/1.84μm B 12 B
──────────────────────────────────


(6)上記(5)の支持体表面の表面粗さRaと表面粗さの最大高さRzとの値により、実施例1ないし7の比Rz/Raは、それぞれ16、9.6、8.3、8.3、6.25、11.8、5.5である。

上記(1)ないし(6)より、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。

「支持体表面の粗さによって現れる異常結晶によって生じる構造モトルを低減するために、
支持体の表面に蒸着により柱状結晶構造を堆積形成した蓄積性蛍光体層であって、
該支持体表面の表面粗さRaが、一定値以下である、0.074、0.048、0.054、0.052、0.040、0.044、0.038μmであり、表面粗さの最大高さRzと該Raの比Rz/Raが、16、9.6、8.3、8.3、6.25、11.8、5.5である、放射線像変換パネル。」

第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「高分子フィルム基板1」、「蒸着により形成された結晶」、「シンチレータ層2」、「シンチレータパネル10」、「CsI:0.003Tlからなる柱状結晶」、及び「平面受光素子面を有する放射線画像検出器100」は、本願発明の「基材」、「蒸着結晶」、「シンチレータ層」、「シンチレータプレート」、「ヨウ化セシウムとタリウムを含有する柱状結晶」及び「平板X線検出装置(FPD)」に、それぞれ相当する.
(2)引用発明の「高分子フィルム基板1上に反射層3及び蒸着により形成された結晶構造のシンチレータ層2を設けて成るシンチレータパネル10」は、本願発明の「基材上に蒸着結晶からなるシンチレータ層を有するシンチレータプレート」に相当する。

上記(1)及び(2)より、本願発明と引用発明とは、
「基材上に蒸着結晶からなるシンチレータ層を有するシンチレータプレートにおいて、
前記蒸着結晶が、ヨウ化セシウムとタリウムを含有する柱状結晶であり、
平板X線検出装置(FPD)に用いられることを特徴とするシンチレータプレート。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明では、「基材のシンチレータ層と接触する接触面の中心線平均粗さ(Ra)が、0.001≦Ra≦0.1μmであり、該接触面の最大粗さ(Rt)と該Raが、5≦Rt/Ra≦150である関係を有する」のに対して、引用発明では「シンチレータ層2」と接触する「下引層4」の中心線平均粗さ(Ra)、最大粗さ(Rt)と該Raとの関係が不明な点。

2 上記相違点について検討する。
(1)引用文献2には、「支持体表面の粗さによって現れる異常結晶によって生じる構造モトルを低減するために」、「蒸着により柱状結晶構造を堆積形成」する「該支持体表面の表面粗さRa」が0.001以上、0.1μm以下の範囲内にあり、「表面粗さの最大高さRzと該Raの比」が、5以上、150以下の範囲内にあることが記載されている(上記「第4」「2」)。
(2)引用文献1の【0014】には、「その解決課題は、基板フィルムの熱収縮による変形やシンチレータの柱状結晶性低下」であると示されている(上記「第4」「1」「(1)」)。これについて、審判請求人は、意見書で、「引用文献1の『柱状結晶性の低下』とは、『下引層の厚さが2μmより大きくなると熱処理より柱状結晶性の乱れが発生する。』([0044])と記載されているように、蒸着後の熱処理によって基板の収縮等によって生じる『柱状結晶性の低下』を意味します([0039])。」と主張する。しかし、下引層の厚さや熱処理と柱状結晶性の乱れの因果関係が明らかでないことから、引用文献1の記載において、柱状結晶性の低下という課題が必ずしも、下引層の厚さや熱処理にのみ起因するとは認められず、かつ、蒸着結晶層の接触面の粗さが大きいことによって蒸着結晶の異常成長が生じることも周知(特開平5-150100号公報の【0017】?【0022】、特開平6-340873号公報の【0022】?【0026】、特開2006-64383号公報の【0025】、【0027】参照。)であることを勘案すれば、引用文献1の柱状結晶性の低下という課題には、周知の蒸着結晶層の接触面の粗さが大きいことに起因するものも含まれると解するのが相当である。
そして、引用文献2の【0010】には、支持体表面の粗さによって、異常結晶が生じることが記載されている(上記「第4」「2」「(1)」)から、引用文献1及び引用文献2には、柱状結晶性低下という共通する課題を有しているといえる。
(3)また、蒸着結晶層と基板との接着性をよくするためには蒸着結晶層の接触面が平滑面より粗面の方がよいことは周知(特開2005-148060号公報の【0014】、特開2006-52982号公報の【0007】、特開2008-185571号公報の【0022】参照。)である。
すると、蒸着結晶層と基板との接着性や蒸着結晶の異常成長を考慮して、蒸着結晶層の接触面の粗さを設計することは周知の技術事項であるといえる。
(4)してみると、蒸着結晶層と基板との接着性や蒸着結晶の異常成長を考慮して、引用発明の「蒸着により形成された結晶構造が」「柱状結晶であ」る「シンチレータ層2」と接触する「下引層4」に、引用文献2に記載された事項を適用して、上記相違点にかかる構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明が奏する作用効果も、当業者が予測できる域を超えるものではない。

3 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成27年10月2日付けで提出された意見書において、「引用文献1および2のいずれにも、蒸着時の基板または反射層の表面粗さ(Ra、Rt)を制御することで、シンチレーター層と基材との接着性を向上させるとともに、柱状結晶の結晶性を向上させ、それによりMTF値を向上させ、鮮鋭性に優れたシンチレータープレートとすることは、記載も示唆もありませんので、引用文献1および2の記載から本願発明を想到することは、いかに当業者といえども困難であります。」と主張している。
しかしながら、上述したように、まず、引用文献2には、異常結晶を低減するために、支持体表面の表面粗さRaを一定値以下とすることが記載されており、さらに、蒸着結晶層と基板との接着性や蒸着結晶の異常成長を考慮して、蒸着結晶層の接触面の粗さを設計することは周知の技術事項であることから、引用文献1および2のいずれにも、蒸着時の基板または反射層の表面粗さ(Ra、Rt)を制御することで、シンチレーター層と基材との接着性を向上させるとともに、柱状結晶の結晶性を向上させ、それによりMTF値を向上させ、鮮鋭性に優れたシンチレータープレートとすることの記載がないとしても、引用文献1、2の記載、及び周知の技術事項から本願発明を想到することが困難であるとはいえない。
また、審判請求人は、平成27年10月2日付けで提出された意見書において、「引用文献2の課題には、『(柱状結晶)の剥がれの発生がないこと』は、記載も示唆もされていないため、異常結晶による点欠陥および粒状性の低下を抑制するために採用された引用文献2の表面粗さの値を、『柱状結晶性低下がないこと』と『(柱状結晶)の剥がれの発生がないこと』とを両立することを課題とする引用文献1の発明に当てはめることはできません。・・・中略・・・引用文献2の開示からは、表面粗さの調整が蒸着結晶と基板との膜付にどのような影響を与えるのか不明でありますので、当業者が引用文献1の発明において、引用文献2の表面粗さの値を下引層に採用することを試みることはないのであり、『発明の特徴点に到達するためにしたはずである』ということはできないのであります」と主張している。
しかしながら、上述したように、引用文献2には、柱状結晶性低下という課題が記載されており、また、蒸着結晶層と基板との接着性をよくするという課題は周知である。
したがって、審判請求人の上記主張は、採用されない。


4 結論
以上から、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-16 
結審通知日 2015-11-17 
審決日 2015-11-30 
出願番号 特願2008-225954(P2008-225954)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G21K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 加代子  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 井口 猶二
今浦 陽恵
発明の名称 シンチレータプレート  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ