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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1310043 |
審判番号 | 不服2014-14701 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-28 |
確定日 | 2016-01-14 |
事件の表示 | 特願2010-539513「線維症性の状態の処置のためのコネキシン43の阻害剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日国際公開、WO2009/085270、平成23年 3月10日国内公表、特表2011-507857〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成20年12月22日(パリ条約による優先権主張 2007年12月21日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年7月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?27に係る発明は、平成26年7月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 対象の組織における線維症の予防または軽減を必要とする対象の組織における線維症を予防するまたは軽減するための組成物であって、前記組成物は、抗コネキシン43ポリヌクレオチドを含み、前記対象は、肺線維症、腎線維症、肝線維症、心線維症、心内膜線維症、心内膜心筋線維症、口腔粘膜下線維症、後腹膜線維症、三角筋線維症、急性線維症、膵炎、結節性筋膜炎、または好酸球性筋膜炎から選択される障害、疾患または状態を有する、組成物。」 3.原査定の理由 一方、原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものである。 「A.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 B.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 [理由A、Bについて] ・請求項 1-35 ・備考 医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分として記載されている物質自体から、それが発明の特定事項である医薬用途に利用できるかどうかを予測することは困難であるから、当業者がその実施をすることができる程度に記載されているというためには、明細書において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付ける必要がある。また、その裏返しとして、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えるものである場合には、その特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 これを本件についてみると、本願の発明の詳細な説明には、コネキシン43ポリヌクレオチドの阻害は線維症の予防や治療等に有効である旨が説明されているが、具体的な薬理試験データは全く開示されていない。このような記載からは、抗コネキシン43ポリヌクレオチドについて当該作用を有する医薬としての有効性を確認することはできない。線維症との関連性を利用する請求項24-35に係る発明についても同様である。 したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-35に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、その裏返しとして、当該請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。(なお、薬理試験データを後から提出しても当該拒絶理由は解消しない。「審査基準第VII部 第3章 医薬発明 1.2.1 実施可能要件」を参照。)」 4.判断 4-1 特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について 本願発明は、上述のとおり、組成物の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明である。また、物の発明における実施には、その物の使用をする行為が含まれる。そして、本願発明におけるその物の使用とは、上記組成物を線維症の予防または軽減を必要とする対象である患者に投与し、かつ、該患者に対して線維症を予防するまたは軽減するという薬理作用をもたらすことにほかならない。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、上記組成物を上記患者に投与する際に必要な投与量、投与方法、製剤化方法に加え、上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされている必要がある。 そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、上記組成物を上記患者に投与し、かつ、上記患者に対して線維症を予防するまたは軽減するという薬理作用をもたらすことに関して、以下の(ア)?(オ)の記載がある。 (ア)「一態様によれば、本発明は、対象の組織における線維症を軽減する方法であって、線維症の軽減を必要とする対象を同定する工程と、抗コネキシンポリヌクレオチド、例えば抗コネキシン43ポリヌクレオチドを対象に投与し、それによって、対象の組織における線維症を軽減する工程とを含む方法に関する。」(【0012】) (イ)「適した抗コネキシン43オリゴヌクレオチドは、GTA ATT GCG GCA AGA AGA ATT GTT TCT GTC(配列番号1)、GTA ATT GCG GGA GGA ATT GTT TCT GTC(配列番号2)、およびGGC AAG AGA CAC CAA AGA CAC TAC CAG CAT(配列番号3)からなる群から選択されうる。」(【0029】) (ウ)「本発明で用いられるポリヌクレオチドは、非改変のホスホジエステルオリゴマーでありうるのが好都合である。このようなオリゴデオキシヌクレオチドは、長さが変わりうる。30マーのポリヌクレオチドが特に適することが分かっている。 ・・・ アンチセンスポリヌクレオチドは、化学修飾することができる。これにより、ヌクレアーゼに対するこれらの耐性を増強することができ、これらが細胞内に入る能力を増強することができる。例えば、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドを用いることができる。・・・改変骨格オリゴヌクレオチドおよび混合骨格オリゴヌクレオチドを調製する方法は、当技術分野において公知である。」(【0073】?【0075】) (エ)「投薬形態および製剤および投与 本発明の薬剤は、本明細書で言及される疾患、障害または状態のいずれかを有するか、またはそれらの危険性がある対象など、治療を必要とする対象に投与することができる。こうして、対象の状態を改善することができる。・・・ ・・・ 意図される投与の経路に応じて、本発明の医薬品、医薬組成物、組合せ調製物、および薬剤は、例えば、溶液、懸濁液、点滴、スプレー、軟膏(salve)、クリーム、ゲル、泡沫、軟膏(ointment)、エマルジョン、ローション、ペイント、持続放出製剤、または粉末の形態をとることができ、(1または複数の)有効成分の約0.01%?約1%、・・・までを含有することが典型的である。・・・ ・・・ 適した用量は、約0.01?約0.4mg/Kg体重などの、約0.001?約1mg/Kg体重でありうる。しかしながら、適した用量は、約0.01?約0.050mg/Kg体重などの、約0.001?約0.1mg/Kg体重でありうる。・・・ ・・・」(【0098】?【0115】) (オ)「【実施例】 (実施例1) この実施例は、抗コネキシン剤およびそれらの線維症を阻害する能力の定性的ならびに定量的評価、のための方法を示す。ラットに、糸球体腎炎を誘発するための抗胸腺細胞血清(ATS)(S. Okudaら、J. Clin. Invest.、86巻、(1990年、453?462頁)を参照されたい)または対照として役立てるためのリン酸塩緩衝化食塩水(PBS)のいずれかを注入する。6日後、腎臓を取り出し、糸球体を単離して72時間培養下に置く。培養条件は、2ml容量の無血清RPMI1640(インスリン添加)(Gibco;Gaithersburg、Md.)中2000糸球体/ウェルからなる。試験抗コネキシンポリヌクレオチドを培養時に加える。培養物から上清を回収し、線維症の活性のマーカーとしてI型コラーゲン、トランスフォーミング増殖因子β-1(TGFβ-1)、エキストラドメインA含有フィブロネクチン(フィブロネクチンEDA+)、およびプラスミノゲンアクチベーターインヒビターI(PAI-I)の濃度を決定するためにアッセイするまで-70℃で保存する。加えて、個々の糸球体を免疫蛍光染色によって検査し、相当するマトリックスタンパク質に関してスコアを付ける。線維症の過程が抗コネキシンポリヌクレオチドによって阻害される程度を決定するために、PBS処置した、陰性線維症の対照糸球体;ATS処置し、薬剤処置していない、陽性線維症の対照糸球体;およびATS処置し、薬剤処置した、線維症の糸球体間で値を比較する。 (実施例2) この実施例は、抗コネキシン剤およびこれらの線維症を阻害する能力を試験するための方法を示す。ラットに、糸球体腎炎を誘発するための抗胸腺細胞血清(ATS)または対照としてのリン酸塩緩衝化食塩水(PBS)のいずれかを注入する。1時間後、抗コネキシンポリヌクレオチドを用いて処置を開始する。抗コネキシンポリヌクレオチドを、皮下に1日2回、5日間、逐次投与する。5日目にラットを代謝ケージに入れ、24時間尿を採取してタンパク質含量を測定する。6日目に、腎臓を取り出し、組織学的評価のために、組織試料をホルマリン中に置くかまたは凍結する。残りの組織から糸球体を単離し、72時間培養下に置く。培養条件は、1ml容量の無血清RPMI1640(インスリン添加)中2000糸球体/ウェルからなる。培養物から上清を回収し、線維症の活性のマーカーとしてI型コラーゲン、トランスフォーミング増殖因子β-1(TGFβ-1)、エキストラドメインA含有フィブロネクチン(フィブロネクチンEDA+)、およびプラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI1)の濃度を決定するためにアッセイするまで-70℃で保存する。マトリックスタンパク質の存在は、フィブロネクチンEDA+、I型コラーゲン、PAI1、およびテネイシン(tenasin)などのTGFβ-1により誘導されるマトリックスタンパク質に対する抗体を用いて凍結腎臓切片の免疫蛍光染色によって測定する。培養して単離した糸球体から、培養上清中に分泌されたTGFβ-1、PAI1、およびフィブロネクチンの直接測定を、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)によって決定することができる。各群における試料からの糸球体を使用してmRNAを抽出し、TGFβ-1、GADPH、I型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、およびPAI1のメッセージレベルをノーザン解析によって決定することができる。肉眼的な組織学的変化の指標として、PAS(過ヨウ素酸シッフ)染色パラフィン切片を、これらのマトリックス病理スコアに基づいて等級付けする。線維症の過程が抗コネキシンポリヌクレオチドの逐次投与によって阻害される程度を決定するために、PBS処置した、陰性線維症の対照動物;ATS処置し、薬剤処置していない動物、ATS処置し、薬剤処置した動物間で値を比較する。 (実施例3) C57BL6/KsJ db/dbマウスに、4mm生検パンチによって創傷を作製する。マウスはJackson Laboratoriesより入手され得、それらは創傷プロトコールの開始前、代表的に3?7カ月齢である。創傷作製前にすべてのマウスに麻酔をかける。下層構造から皮膚を引き離し、分離させた皮膚をパンチで打ち抜くことによって、各動物の上背部に2つの創傷を導入する。典型的には、1.3?2.2mmの範囲で平均1.7mmの深さまで創傷を作製する。創傷作製中、いかなる筋肉の巻き込みも生じなかった。創傷作製後ただちに、創傷を生理食塩水(非処置対照群として役立てるため)で、または適当な試験抗コネキシンポリヌクレオチドで処置する。 毎日、創傷をデジタル撮影し、写真のコンピュータ積分によって創傷面積を決定する。すべての創傷処置およびその後のデータ解析は、ブラインド方式で行う。創傷作製時(0日目)の創傷面積はすべての創傷について相対値1に設定し、その後の創傷面積を、「n」日目の創傷面積を0日目の創傷面積で割ることによって相対損傷面積に変換する。 マウスモデルにおける完全な創傷閉鎖までの時間によって決定される、抗コネキシンポリヌクレオチドの単一用量の適用(損傷時、0日目)に基づく抗線維症の有効性を決定する。 線維症、創傷閉鎖、創傷収縮、および炎症などのエンドポイントを、損傷後の1日目から開始して評価し、所定の期間、継続する(例えば数時間、数日間、数週間、数カ月間、または数年間)。 (実施例4) 抗コネキシンポリヌクレオチドの抗線維症効果を、線維症処置のマウスモデルにおいて評価する。適当数の成体マウスを、統計的に意味のある試料サイズの群(例えば、8匹ずつ6つの群):4匹は処置および4匹は対照、に分ける。AvertineのIP注入を使用してマウスに麻酔をかけ、背中の毛を剃り、皮膚に2箇所、特定の解剖学的位置で皮筋まで含めて1cmの切開を行う。創傷を縫合しないまま、動物を個々のケージに戻す。動物群を、創傷作製後1日(d)、3日、5日、7日、14日および70日後に屠殺し、創傷を採取する。各採取した創傷の半分をホルマリン食塩水(formal saline)中で固定し、残り半分をOCT培地に包埋し液体窒素で凍結する。顕微鏡および肉眼の結果を比較できるように、各時点での創傷の写真記録を続ける。 組織学的評価:ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色ならびにMasson’s Trichrome染色を使用して創傷の細胞充実性およびコラーゲン含量をそれぞれ決定する。 線維症のスコアリング:創傷作製後70日目に、0が正常な皮膚を表し、10が極端な場合の線維症を表す10cmの線からなるVisual Analogue Scale(VAS)を使用して、組織学スライドをスコア付けする。0が正常な皮膚を表し、5が極端な線維症の皮膚を表す等級付け尺度もまた使用される。3の等級付けは対照線維症のスコアに使用される。 免疫組織化学:1、3、5および7日目の創傷の試料を、1)抗マウスフィブロネクチンまたは2)TRITC標識ファロイジンを含むいくつかの抗体を使用して染色する。ファロイジンは、キノコのamanita phalloidesから抽出され、繊維状アクチン(F-アクチン)に結合するため、細胞外F-アクチンおよび細胞内F-アクチンの位置を特定およびこれらを区別するのに有用である。 画像解析:PCベース画像キャプチャーシステム(「PC Image」)を使用して画像解析を行い、試験創傷および対照創傷間の試験薬剤の抗線維症の効力の差異を定量するために以下のパラメータを測定する:1)創傷幅(創傷縁間の直線および実際の周囲長の両方);2)皮筋の収縮;3)中間創傷幅;4)再上皮化;5)底部、中部、および上部3点の線維症の幅;および6)新生上皮の厚さ。 すべての創傷を創傷幅および皮筋の収縮について測定し、適切な時点で他の測定値をとる。周知の、当技術分野において広く利用できる適当な統計ソフトウェアを使用して測定値の統計分析を行う。例示的な統計的検定は、対照動物および試験動物の結果を比較するためのMann-Whitney U検定およびKolgomorov-Smirnov検定を含みうる。 組織学:線維症の組織学的評価およびエンドポイントは、例えば、創傷部における新新脈管形成およびコラーゲン形成の証拠;炎症、コラーゲン新形成のレベル;線維症組織に直接隣接するおよびその周囲の毛包の局所的蓄積;線維症の質の改善、を含みうる。 (実施例5) この実施例は、エチレンビニルアセテートフィルムおよびポリカプロラクトンペースト中の抗コネキシンポリヌクレオチドのカプセル化を含む、内用創傷治癒包帯材/フィルムの調製を記載する。 適当量の例示的な抗コネキシンポリヌクレオチド、ならびに45mgのエチレンビニルアセテート(EVA、分子量約50k、Polysciences)を、1mlのジクロロメタン中に溶解/懸濁する。200μlの溶液を1cm径のテフロン(登録商標)ディスク上にピペットで取り、一晩乾燥(溶媒蒸発)させて弾性薄膜を形成させ、約100μmの厚さの約10mgのフィルムを得る。 これらのフィルムからの薬剤放出速度は、フィルムの5mg切片を、10mlのリン酸塩緩衝化食塩水(PBS)pH7.4が入った20ml蓋付きガラス管中に置くことによって測定する。管に蓋をし、37℃でオービタルシェーカー中に置く。所定の時間で管を取り出し、放出された薬剤量を吸光度分光法によって分析する。抗コネキシンポリヌクレオチドのこのおよび/または別の例示的な剤形は、制御された形で薬剤を放出する薬剤の生体適合性の、生物分解性の注射製剤を表す。 PCLペースト:例示的な抗コネキシンポリヌクレオチドを、60℃でポリカプロラクトン(PCL、Birmingham polymers、分子量54K)中にスパーテルで粉砕して10%w/wの濃度で混合する。次いでこの混合物を、1mlプラスチック製シリンジ中にピペットで移し、冷却させる。この製剤は、56℃で18ゲージ針によって注入可能であった。 PCLペーストからの薬剤放出を測定するために、溶けたペーストの10mgアリコートを15mlガラス管の底面に注入し、冷却しそして凝固させる。15mlのPBSを各管に加え、管に蓋をして、37℃のオーブン中で回転させて混転する。所定の時間で管を取り出し、放出された薬剤量を吸光度分光法によって分析する。抗コネキシンポリヌクレオチドの放出プロファイルを得る。抗コネキシンポリヌクレオチドのこのおよび/または別の例示的な剤形は、制御された形で薬剤を放出する薬剤の生体適合性の、生物分解性の注射製剤を表す。 (実施例6) この実施例は、抗コネキシンポリヌクレオチドを導入した膜を記載する。 医薬グレードのヒアルロン酸ナトリウムはLifecore Scientificから入手する。すべての溶媒はHPLCグレードであり、Fisherから入手する。プラスチック製ペトリ皿はFisher Scientificから入手する。エチル-3-(ジメチルアミノ)カルボジイミド(EDAC)および抗コネキシンポリヌクレオチドは、本開示全体の他の部分に記載されている通り調製する。 フィルムの調製。抗コネキシンポリヌクレオチドを導入したフィルムを、水中0.6%w/v抗コネキシンポリヌクレオチド、0.4%w/vヒアルロン酸ナトリウムおよび0.15%w/vグリセロールの例示的な溶液を調製することによって作製する。対照フィルム(抗コネキシンポリヌクレオチドを含まない)を、水中0.4%w/vヒアルロン酸ナトリウムおよび0.15%w/vグリセロールの溶液または混合物を調製することによって作製する。抗コネキシンポリヌクレオチドを導入したフィルムおよび対照フィルムを、4gの各溶液を別個の2.5cm径プラスチック製ペトリ皿中にピペットで移し、60℃で24時間乾燥させることによって、これらの溶液から成形する。架橋剤EDACは、4mM(最終濃度)含む。次いで各乾燥したフィルムを、外科用メスを使用してペトリ皿から慎重に取り出す。 滅菌。フィルムを5cm×5cm薬包紙(weighing paper)(Fisher scientific)の間にパッキングし、プラスチック製袋中にヒートシールする。次いでフィルムを、コバルト60線源からのガンマ線照射を使用し、シールした管を氷上で冷却しながら2.5Mradの放射線に曝露させて一定時間滅菌する。 (実施例7) この実施例は、抗コネキシンポリヌクレオチドを含む外創傷用包帯材を記載する。脂肪酸(例えば、魚油)中への薬物の導入によって包帯材用の膜が得られた。純粋な魚油を200°Fで加熱して、24℃で15000?20000cpsの粘度を得、予備処理したかまたは予備糊稠化した魚油を形成させる。次いで3.1gの予備処理をしたかまたは予備糊稠化した魚油を、適切な量の例示的な抗コネキシンポリヌクレオチドと混合する。次いで混合物を穏やかに加熱して抗コネキシンポリヌクレオチドを魚油に溶解させる。この結果、重量による抗コネキシンポリヌクレオチドを含む魚油製剤をもたらした。加熱後、混合物をキャスティングナイフでテフロン(登録商標)マット上に成型して薄膜を形成させる。次いで薄膜を、15分間UVランプ下に置く。UV光への曝露後、薄膜をオーブンにおいて加熱して熱硬化させた後、薄膜をオーブンから取り出して1時間冷却させる。薄膜を冷却後、テフロン(登録商標)マットから剥ぎ取って独立型フィルム(stand-alone film)を形成する。得られたフィルムは、約0.005”の厚さを有していた。薬剤抽出および溶解は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によってフィルム上で行う。抽出結果は、フィルム試料長当たりの薬剤導入量を示すことができる。一般に、抗コネキシンポリヌクレオチドの溶解は、時間の関数としてほぼ直線的様式で薬剤を放出するべきである。 (実施例8) この実施例は、線維症の治療または予防において使用するための、薬剤導入魚油の独立型フィルム上への重層を記載する。純粋な魚油を加熱して、24℃で100000cpsを超える粘度を得、予備硬化魚油フィルムを形成させる。3.33gの予備硬化魚油を適切な量の抗コネキシンポリヌクレオチドと混合して、混合物を形成させる。これにより魚油製剤をもたらした。抗コネキシンポリヌクレオチドを予備硬化魚油に可溶化した後、混合物を、1”×1.5片の独立型フィルム上に塗る。次いで薬剤コーティングしたフィルムを加熱する。薬剤抽出および溶解は、HPLCによってフィルム上で行う。抽出結果は、フィルム試料長当たりの薬剤導入量を示すことができる。一般に、抗コネキシンポリヌクレオチドの溶解は、時間の関数としてほぼ直線的様式で薬剤を放出するべきである。 (実施例9) この実施例は、独立した創傷被覆フィルムを、治療的抗コネキシン剤を含む溶液で膨張させることによる薬剤コーティングを記載する。適当量の抗コネキシンポリヌクレオチドを、適当量のEtOHと混合する。これにより重量%製剤をもたらした。1”×1.5”の独立型フィルムを、抗コネキシンポリヌクレオチド/抗コネキシンポリペプチド製剤に浸して膨張させる。次いで独立型フィルムを風乾させる。得られたフィルムは、厚さ約0.005”である。薬剤抽出および溶解は、HPLCによってフィルム上で行う。抽出結果は、フィルム試料長当たりの薬剤導入量を示すことができる。一般に、抗コネキシンポリヌクレオチドの溶解は、時間の関数としてほぼ直線的様式で薬剤を放出するべきである。 (実施例10) 抗コネキシン剤は、好都合には、本発明の方法による投与に適する形態に調合される。 適当な製剤は、以下の調合剤の混合物を含む。1つまたは複数の個々の抗コネキシン剤および調合剤の量は、予定される特定の用途に依存するはずである。 【表2】 ![]() (実施例11) 本発明の方法による使用のための製剤を、下記の割合で化合物を混合することによって調製する。好ましい一実施形態において、抗コネキシン剤は、抗コネキシンポリヌクレオチドである。別の実施形態において、抗コネキシンポリヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えば、配列番号1のアンチセンスオリゴヌクレオチドである。 製剤A 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中抗のコネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);HPMC(1.5%);および10mMリン酸緩衝液(96.33%)。製剤は、pH約6.74および浸透圧モル濃度244の透明なゲルである。 製剤B 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中の抗コネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);HPMC(1.5%);0.5%BAC(0.1%);および10mMリン酸緩衝液(96.23%)。製剤は、pH約6.65および浸透圧モル濃度230の透明なゲルである。 製剤C 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中の抗コネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);HPMC(1.5%);ポリクオタニウム10(0.5%);ポロキサマー188(0.1%);および10mMリン酸緩衝液(95.73%)。製剤は、pH約6.59および浸透圧モル濃度233のやや濁ったゲルである。 製剤D 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中の抗コネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);HPMC(1.5%);SLES(0.5%);および10mMリン酸緩衝液(95.83%)。製剤は、pH約6.8および浸透圧モル濃度246の透明なゲルである。 製剤E 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中の抗コネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);HPMC(1.5%);ポロキサマー188(0.1%);25Kポリエチレンイミン(0.075%);および10mMリン酸緩衝液(96.155%)。製剤は、pH約7.8および浸透圧モル濃度249の濁ったゲルである。 製剤F 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中の抗コネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);HPMC(1.5%);ヒアルロン酸ナトリウム(0.1%);および10mMリン酸緩衝液(96.23%)。製剤は、pH約6.88および浸透圧モル濃度289の透明なゲルである。 製剤G 以下の材料で構成されている(%w/w)-リン酸塩緩衝化食塩水中の抗コネキシン剤(0.47%);メチルパラベン(0.17%);プロピルパラベン(0.03%);プロピレングリコール(1.5%);ヒアルロン酸ナトリウム(1.0%);および10mMリン酸緩衝液(96.83%)。製剤は、pH約6.81および浸透圧モル濃度248の透明なゲルである。」(【0199】?【0233】) 本願明細書の発明の詳細な説明には、上記(ア)の記載によれば、抗コネキシン43ポリヌクレオチドを対象に投与し、それによって、対象の組織における線維症を軽減する、という本願発明の発明者の見解が記載され、上記(イ)及び(ウ)の記載によれば、上記抗コネキシン43ポリヌクレオチドの化学構造や改変骨格オリゴヌクレオチドを調製する方法が公知であることが記載され、上記(エ)の記載によれば、上記組成物を上記患者に投与する際に必要な投与量、投与方法や製剤化方法が記載され、また、上記(オ)の実施例1?4の記載によれば、特定の薬理試験方法の説明が記載され、同じく、実施例5?11の記載によれば、種々の製剤例が記載されているといえるものの、上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る薬理試験結果の記載は見いだせない。 また、上記組成物が上記薬理作用を示すことは本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、薬理試験結果の記載がなされていなくても上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見いだせない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえない。 この点について審判請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。 「なお、本願発明の代表的な抗コネキシン43ポリヌクレオチド組成物の毒性学研究の間に本願請求人が得たデータによれば、本願発明の抗コネキシン43ポリヌクレオチドが、繰り返し全皮膚厚切開を行った創傷の部位に適用した際、皮膚の線維症の治療に有用であることが実証されています。1、22、43、64および85日目に、ウサギの胸背部の領域に全皮膚厚切開創傷を設けました。これらの動物を、週1回、コントロール、ビヒクル単独、ならびに、低用量、中用量および高用量の抗コネキシン43ポリヌクレオチドで処置しました。最後の切開から1週間後、研究の終了後の組織病理学的検査を実施しました。コントロールおよびビヒクルで処置した動物の大部分において、創傷部位に、中程度?重症の上皮潰瘍および/または線維症が認められました。線維症は、表面を覆う潰瘍の下にある真皮、皮下組織および皮膚の筋肉におけるコラーゲンの密集した束と線維細胞から構成されました。これに対し、抗コネキシン43ポリヌクレオチドで処置した創傷部位においては、軽度?重症の線維症を伴う最低限?著しい上皮潰瘍が、時折観察されるだけでした。これらの結果は、抗コネキシン43ポリヌクレオチドが、根底にある真皮、皮下組織および皮膚の筋肉における線維症をあまり伴わずに、用量に関連した様式で、反復創傷部位の上皮の再上皮化を増強したことを示しています。」 しかしながら、上記データなるものは、本願明細書に何らの記載もないものであり、そのようなものが本願出願後に提出されることによって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす、とすることは、いわゆる先願主義を採用する我が国の特許制度の趣旨に照らし、許されないというべきである。してみれば、上記データなるものを参酌することはできない。 しかも、上記データなるものは、いかなる抗コネキシン43ポリヌクレオチドを用いたのか、また、低用量、中用量および高用量とはいかなる量なのか、など、具体的な情報に乏しいものであり、仮に上記データなるものを参酌したとしても、本願発明の医薬組成物の有効性を認めることはできない。さらには、上記データなるものは、創傷における線維症についてのものとされており、かかる線維症が、本願発明の治療対象である肺線維症などに対する治療効果を明らかにするものといえる根拠を見いだせないから、なおのこと、本願発明の医薬組成物の有効性を認めることはできない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 4-2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。 ここで、本願発明は、上述のとおりの、線維症を予防するまたは軽減するための組成物の発明であるから、その課題は、線維症の患者に対して線維症を予防するまたは軽減するという薬理作用をもたらすことにほかならない。 しかしながら、4-1で説示したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえないし、上記組成物が上記薬理作用を示すことは本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、薬理試験結果の記載がなされていなくても上記組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見いだせない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在しないものとするほかはないが、それにもかかわらず、本願明細書の特許請求の範囲には本願発明が記載されているから、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。 5.むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-08-17 |
結審通知日 | 2015-08-18 |
審決日 | 2015-09-04 |
出願番号 | 特願2010-539513(P2010-539513) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 関 景輔、吉田 佳代子 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
内藤 伸一 川口 裕美子 |
発明の名称 | 線維症性の状態の処置のためのコネキシン43の阻害剤の使用 |
代理人 | 山本 健策 |
代理人 | 飯田 貴敏 |
代理人 | 石川 大輔 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 秀策 |