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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1310208 |
審判番号 | 不服2015-1826 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-01-30 |
確定日 | 2016-01-20 |
事件の表示 | 特願2010-252984「透明導電性フィルム、透明導電性フィルム用下地フィルムおよびタッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月31日出願公開、特開2012-103968〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は、平成22年11月11日を出願日とする出願であり、平成26年4月9日付けで拒絶理由が通知され、同年6月10日付けで意見書が提出されたが同年11月7日付けで拒絶査定され、それに対して平成27年1月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正されたものである。 第2 補正却下の決定 平成27年1月30日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年1月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [補正却下の決定の理由] 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の 「【請求項1】 少なくとも基材フィルムと反射調整層とを有する下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層が形成された透明導電性フィルムであって、前記透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、 パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、-2≦(Y_(α)-Y_(β))≦2であり、 更にパターン面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(α)、下地露出面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(β)としたとき、-5.5≦(b^(*)_(α)-b^(*)_(β))≦5.5であることを特徴とする透明導電性フィルム。」から、 「【請求項1】 少なくとも基材フィルムと反射調整層とを有する下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層が形成された透明導電性フィルムであって、前記透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、 パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、-2≦(Y_(α)-Y_(β))≦2であり、 更にパターン面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(α)、下地露出面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(β)としたとき、-5.5≦(b^(*)_(α)-b^(*)_(β))≦5.5であり、 前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下であることを特徴とする透明導電性フィルム。」(下線は補正箇所を示す。)とする補正事項を含むものである。 上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であるb^(*)_(α)とb^(*)_(β)の値について限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2.補正の適否の検討 (1)新規事項追加の有無について 上記補正事項における「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下である」ことは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のいずれにも記載されていない。 本願の出願当初の明細書の段落【0041】には、「実施例1?5の透明導電性フィルムは、△Y値の値が-2?2であり、更に△b^(*)の値が-5.5?5.5であり、視認性に優れるものであった。また反射調整層が中屈折率層と低屈折率層からなる実施例4、5の透明導電性フィルムはパターン面、下地露出面共にY値が低く、光線透過率に優れるものであった。また実施例2、4、5の透明導電性フィルムは、黄色味がなく劣化した印象を与えなかった。」と記載があり、実施例1?5、比較例1?3の透明導電性フィルムについて、パターン面と下地露出面のY値、b^(*)を測定し、更に視認性テストを行った結果を示す【表4】の実施例2に「b^(*)_(α)が-1.9、b^(*)_(β)が-0.5」、実施例4に「b^(*)_(α)が-4.1、b^(*)_(β)が-0.1」、実施例5に「b^(*)_(α)が-3.5、b^(*)_(β)が0.4」のものが記載されており、b^(*)_(α)とb^(*)_(β)が当該実施例の値のときに透明導電性フィルムは、黄色味がなく劣化した印象を与えなかったことを示すことは認められるが、「b^(*)_(α)とb^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下」で特定される範囲に関しては何ら記載されていない、そして、本願の出願当初の特許請求の範囲の請求項3には「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.0以上、1.5以下である」と記載されているが、「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下である」ことは記載されておらず、当初明細書のその他の記載及び各図をみても、「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下である」ことは記載されていない。 また、「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下である」ことは、当業者にとって自明なものとも認められない。 したがって、上記補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 (2)独立特許要件について 本件補正は、上記「(1)」のとおり却下すべきであるが、その点をさておくとしても、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)は、以下のとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 補正発明が、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は、以下のとおりである。 ア.引用文献・引用発明 (ア)原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-76432号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図とともに次の記載がある。 「【背景技術】 【0003】 タッチパネルには、位置検出の方法により光学方式、超音波方式、静電容量方式、抵抗膜方式などがある。抵抗膜方式のタッチパネルは、透明導電性フィルムと透明導電体層付ガラスとがスペーサーを介して対向配置されており、透明導電性フィルムに電流を流し透明導電体層付ガラスに於ける電圧を計測するような構造となっている。一方、静電容量方式のタッチパネルは、基材上に透明導電層を有するものを基本的構成とし、可動部分がないことが特徴であり、高耐久性、高透過率を有するため、車載用途等において適用されている。 【0004】 前記タッチパネルには、例えば、透明なフィルム基材の一方の面に、前記フィルム基材の側から第一アンダーコート層、第二アンダーコート層および透明導電体層がこの順に形成されている透明導電性フィルムが提案されている(特許文献1)。 【特許文献1】特開2002-326301号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 前記透明導電性フィルムは、透明導電体層をパターン化する場合がある。しかし、透明導電体層をパターン化するパターン部と非パターン化部との相違が明確化して、表示素子としての見栄えが悪くなる。特に、静電容量結合方式のタッチパネルにおいては、透明導電体層が入射表面側に用いられるため、透明導電体層をパターン化した場合にも表示素子として見栄えが良好なものが求められる。 【0006】 本発明は、透明導電体層がパターン化されており、かつ、見栄えの良好な透明導電性フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、当該透明導電性フィルムを備えたタッチパネルを提供することを目的とする。」 「【課題を解決するための手段】 【0007】 本願発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。 【0008】 即ち、本発明は、透明なフィルム基材の片面または両面に少なくとも1層のアンダーコート層を介して、透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、前記透明導電体層はパターン化されており、かつ前記透明導電体層を有しない非パターン部には前記少なくとも1層のアンダーコート層を有することを特徴とする透明導電性フィルム、に関する。 【0009】 前記透明導電性フィルムにおいて、アンダーコート層が少なくとも2層ある場合には、少なくとも、透明なフィルム基材から最も離れたアンダーコート層は、透明導電体層と同様にパターン化されているものが好適である。 【0010】 前記透明導電性フィルムにおいて、アンダーコート層が少なくとも2層ある場合には、少なくとも、透明なフィルム基材から最も離れたアンダーコート層は、無機物により形成されていることが好ましい。無機物により形成されたアンダーコート層としては、SiO2膜が好適である。 【0011】 前記透明導電性フィルムにおいて、透明なフィルム基材から第一層目のアンダーコート層は、有機物により形成されていることが好ましい。 【0012】 前記透明導電性フィルムにおいて、透明導電体層の屈折率とアンダーコート層の屈折率の差が、0.1以上であることが好ましい。 【0013】 前記透明導電性フィルムにおいて、 パターン化された透明導電体層が、2層のアンダーコート層を介して設けられている場合には、 透明なフィルム基材から第一層目のアンダーコート層は、屈折率(n)が1.5?1.7、厚み(d)が100?220nmであり、 透明なフィルム基材から第二層目のアンダーコート層は、屈折率(n)が1.4?1.5、厚み(d)が20?80nmであり、 透明導電体層は、屈折率(n)が1.9?2.1、厚み(d)が15?30nmであり、 前記各層の光学厚み(n×d)の合計が、208?554nmであることが好ましい。 【0014】 また、パターン化された透明導電体層と2層のアンダーコート層に係る前記光学厚みの合計と、非パターン部のアンダーコート層の光学厚みの差(Δnd)が、40?130nmであることが好ましい。 【0015】 本発明の透明導電性フィルムとしては、少なくとも片面に前記パターン化された透明導電体層が配置されるように、透明な粘着剤層を介して、前記透明導電性フィルムが少なくとも2枚積層されているものを用いることができる。 【0016】 また本発明の透明導電性フィルムとしては、片面に前記パターン化された透明導電体層が配置されるように、前記透明導電性フィルムの片面に、透明な粘着剤層を介して透明基体が貼り合わされているものを用いることができる。 【0017】 前記透明導電性フィルムは、タッチパネルに好適に用いられる。タッチパネルとしては、静電容量結合方式のタッチパネルに好適である。」 「【0050】 本発明の透明導電性フィルムにおいて、2層のアンダーコート層を介して、パターン化された透明導電体層が設けられている場合、当該パターン部における、各層の屈折率(n)、厚み(d)、及び前記各層の光学厚み(n×d)の合計は、以下の通りであるのが、パターン部と非パターン部の反射率の差が小さく設計できる点から好ましい。 【0051】 透明なフィルム基材から第一層目のアンダーコート層は、屈折率(n)は1.5?1.7が好ましく、さらには1.5?1.65、さらには1.5?1.6であるのが好ましい。厚み(d)は100?220nmが好ましく、さらには120?215nm、さらには130?210nmであるのが好ましい。 【0052】 透明なフィルム基材から第二層目のアンダーコート層は、屈折率(n)は1.4?1.5が好ましく、さらには1.41?1.49、さらには1.42?1.48であるのが好ましい。厚み(d)は20?80nmが好ましく、さらには20?70nm、さらには20?60nmであるのが好ましい。 【0053】 透明導電体層は、屈折率(n)は1.9?2.1が好ましく、さらには1.9?2.05、さらには1.9?2.0であるのが好ましい。厚み(d)は15?30nmが好ましく、さらには15?28nm、さらには15?25nmであるのが好ましい。 【0054】 前記各層(第一層目のアンダーコート層、第二層目のアンダーコート層、透明導電体層)の光学厚み(n×d)の合計は208?554nmが好ましく、さらには230?500nm、さらには250?450nmであるのが好ましい。 【0055】 また、前記パターン部の光学厚みの合計と、非パターン部のアンダーコート層の光学厚みの差(Δnd)が、40?130nmであることが好ましい。前記光学厚みの差(Δnd)はさらには40?120nm、さらには40?110nmであるのが好ましい。」 「【実施例】 【0080】 以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、各例中、部、%はいずれも重量基準である。 【0081】 <屈折率> 各層の屈折率は、アタゴ社製のアッベ屈折率計を用い、各種測定面に対して測定光を入射させるようにして、該屈折計に示される規定の測定方法により測定を行った。 【0082】 <各層の厚さ> フィルム基材、透明基体、ハードコート層、粘着剤層等の1μm以上の厚みを有するものに関しては、ミツトヨ製マイクロゲージ式厚み計にて測定を行った。ハードコート層、粘着剤層等の直接厚みを計測することが困難な層の場合は、各層を設けた基材の総厚みを測定し、基材の厚みを差し引くことで各層の膜厚を算出した。 【0083】 第一層目のアンダーコート層、第二層目のアンダーコート層、ITO膜等の厚みは、大塚電子(株)製の瞬間マルチ測光システムであるMCPD2000(商品名)を用い、干渉スペクトルよりの波形を基礎に算出した。 【0084】 <アンダーコート層の表面抵抗> JIS K 6911(1995)に準拠する二重リング法に従って、三菱化学(株)製の表面高抵抗計を用いて、アンダーコート層の表面電気抵抗(Ω/□)を測定した。 【0085】 (実施例1) (アンダーコート層の形成) 厚さが25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)からなるフィルム基材の一方の面に、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂(光の屈折率n=1.54)により、厚さが185nmの第一層目のアンダーコート層を形成した。次いで、シリカゾル(コルコート(株)製,コルコートP)を、固形分濃度2%になるようにエタノールで希釈し、第一層目のアンダーコート層上に、シリカコート法により塗布し、その後、150℃で2分間乾燥、硬化させて、厚さが33nmの第二層目のアンダーコート層(SiO2膜,光の屈折率1.46)を形成した。第一層目、第二層目のアンダーコート層を形成した後の表面抵抗は、いずれも1×1012Ω/□以上であった。 【0086】 (透明導電体層の形成) 次に、第二層目のアンダーコート層上に、アルゴンガス98%と酸素ガス2%とからなる0.4Paの雰囲気中で、酸化インジウム97重量%、酸化スズ3重量%の焼結体材料を用いた反応性スパッタリング法により、厚さ22nmのITO膜(光の屈折率2.00)を形成して、透明導電性フィルムを得た。 【0087】 (ハードコート層の形成) ハードコート層の形成材料として、アクリル・ウレタン系樹脂(大日本インキ化学(株)製のユニディック17-806)100部に、光重合開始剤としてのヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア184)5部を加えて、30重量%の濃度に希釈してなるトルエン溶液を調製した。 【0088】 このハードコート層の形成材料を、厚さが125μmのPETフィルムからなる透明基体の一方の面に塗布し、100℃で3分間乾燥した。その後、直ちにオゾンタイプ高圧水銀灯(エネルギー密度80W/cm2、15cm集光型)2灯で紫外線照射を行ない、厚さ5μmのハードコート層を形成した。 【0089】 (積層透明導電性フィルムの作製) 次いで、前記透明基体のハードコート層形成面とは反対側の面に、厚さ約20μm、弾性係数10N/cm2の透明なアクリル系の粘着剤層を形成した。粘着剤層組成物としては、アクリル酸ブチルとアクリル酸と酢酸ビニルとの重量比が100:2:5のアクリル系共重合体100部に、イソシアネート系架橋剤を1部配合してなるものを用いた。上記粘着剤層側に、上記透明導電性フィルム(透明導電体層を形成していない側の面)を貼り合せて、積層透明導電性フィルムを作製した。 【0090】 (ITO膜のエッチングによるパターン化) 積層透明導電性フィルムの透明導電体層に、ストライプ状にパターン化されているフォトレジストを塗布し、乾燥硬化した後、25℃、5%の塩酸(塩化水素水溶液)に、1分間浸漬して、ITO膜のエッチングを行った。 【0091】 (第二層目のアンダーコート層のエッチングによるパターン化) 上記ITO膜のエッチングを行った後、引き続きフォトレジストを積層したまま、45℃、2%の水酸化ナトリウム水溶液に、3分間浸漬して、第二層目のアンダーコート層のエッチングを行い、その後、フォトレジストを除去した。 【0092】 (透明導電体層の結晶化) 上記第二層目のアンダーコート層のエッチングを行った後、140℃で90分間の加熱処理を行って、ITO膜を結晶化した。 【0093】 実施例2 実施例1において、第二層目のアンダーコート層のエッチングによるパターン化をしなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ITO膜をパターン化した積層透明導電性フィルムを作製した。 【0094】 実施例3 実施例1において、第一層目のアンダーコート層の厚さを35nmに変えたこと、第二層目のアンダーコート層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ITO膜をパターン化した積層透明導電性フィルムを作製した。 【0095】 実施例4 実施例1において、第一層目のアンダーコート層の厚さを150nmに変えたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ITO膜をパターン化した積層透明導電性フィルムを作製した。 【0096】 実施例5 実施例1において、第一層目のアンダーコート層の厚さを150nmに変えたこと、第二層目のアンダーコート層のエッチングによるパターン化しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ITO膜をパターン化した積層透明導電性フィルムを作製した。 【0097】 実施例2乃至5において、第一層目、第二層目のアンダーコート層を形成した後の表面抵抗は、いずれも1×1012Ω/□以上であった。 【0098】 比較例1 実施例1において、第一層目のアンダーコート層、第二層目のアンダーコート層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ITO膜をパターン化した積層透明導電性フィルムを作製した。 【0099】 比較例2 実施例1において、第一層目のアンダーコート層の変わりに厚さ33nmのITO膜を設けたこと、第二層目のアンダーコート層の厚さを60nmに変えたこと、第二層目のアンダーコート層のエッチングによるパターン化をしなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ITO膜(表面の透明導電体層)をパターン化した積層透明導電性フィルムを作製した。第一層目のアンダーコート層(ITO膜)を形成した後の表面抵抗は、2×102Ω/□であった、第二層目のアンダーコート層を形成した後の表面抵抗は、4×102Ω/□であった。 【0100】 実施例および比較例の積層透明導電性フィルム(サンプル)について、下記評価を行った。結果を表1、表2に示す。 【0101】 <ITO膜の表面抵抗値> 二端子法を用いて、ITO膜の表面電気抵抗(Ω/□)を測定した。 【0102】 <ITO膜のパターン間の抵抗値> 独立して存在するITO膜のパターン部について、テスタにより、電気抵抗(Ω)を測定し、絶縁されているか否かを評価した。1×106Ω以上であれば絶縁していると判断できる。テスタは、カスタム社製のデジタルテスタ「CDM‐2000D」を用いた。 【0103】 <光の透過率> 島津製作所製の分光分析装置UV-240を用いて、光波長550nmに於ける可視光線透過率を測定した。 【0104】 <450?650nmの平均反射率,反射のY値> (株)日立製作所製の分光光度計U4100の積分球測定モードを用いて、反射入射角は10度にて、反射スペクトルを測定し、450?650nm領域における平均反射率及びY値を算出した。なお、前記測定は、積層透明導電性フィルム(サンプル)の裏面側(ハードコート層側)を黒色スプレーを用いて遮光層を形成し、サンプルの裏面反射や裏面側からの光の入射が殆どない状態で測定を行った。反射色彩の計算は、JIS Z 8720に規定される標準の光D65を採用し、2度視野の条件で測定を行った。平均反射率及びY値の測定は、パターン部(ITO膜)と非パターン部(エッチング部)についてそれぞれ行った。また、パターン部と非パターン部の反射率の差(Δ反射率)、Y値の差(ΔY値)を表2に併せて示す。 【0105】 <見栄え評価> 黒い板の上に、サンプルを透明導電体層側が上になるように置き、目視によりパターン部と非パターン部の判別ができるか否かを下記基準で評価した。 ◎:パターン部と非パターン部の判別が困難。 ○:パターン部と非パターン部とをわずかに判別できる。 ×:パターン部と非パターン部とをはっきりと判別できる。」 【表2】には、実施例1として「パターン部Y値が6.8、非パターン部Y値が7.3、ΔY値が0.5」、実施例2として「パターン部Y値が6.8、非パターン部Y値が6.2、ΔY値が0.6」のものが記載され、その「見栄え評価」が◎であること、実施例3として「パターン部Y値が7.4、非パターン部Y値が5.9、ΔY値が1.5」、実施例4として「パターン部Y値が8.3、非パターン部Y値が6.4、ΔY値が1.8」、実施例5として「パターン部Y値が8.3、非パターン部Y値が6.1、ΔY値が2.1」のものが記載され、その「見栄え評価」が○であることが記載されている。 上記記載と技術常識に照らせば、引用文献1の透明導電性積層フィルムについて次のことがいえる。 a.「本発明は、透明なフィルム基材の片面または両面に少なくとも1層のアンダーコート層を介して、透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、前記透明導電体層はパターン化されており、かつ前記透明導電体層を有しない非パターン部には前記少なくとも1層のアンダーコート層を有することを特徴とする透明導電性フィルム、に関する。」(【0008】)の記載から、上記引用文献1の透明導電性積層フィルムは、少なくとも透明なフィルム基材と少なくとも1層のアンダーコート層とを有するフィルム上にパターン化された透明導電体層を有する透明導電性フィルムである。 b.「【0012】前記透明導電性フィルムにおいて、透明導電体層の屈折率とアンダーコート層の屈折率の差が、0.1以上であることが好ましい。【0013】前記透明導電性フィルムにおいて、パターン化された透明導電体層が、2層のアンダーコート層を介して設けられている場合には、透明なフィルム基材から第一層目のアンダーコート層は、屈折率(n)が1.5?1.7、厚み(d)が100?220nmであり、透明なフィルム基材から第二層目のアンダーコート層は、屈折率(n)が1.4?1.5、厚み(d)が20?80nmであり、透明導電体層は、屈折率(n)が1.9?2.1、厚み(d)が15?30nmであり」及び「【0050】本発明の透明導電性フィルムにおいて、2層のアンダーコート層を介して、パターン化された透明導電体層が設けられている場合、当該パターン部における、各層の屈折率(n)、厚み(d)、及び前記各層の光学厚み(n×d)の合計は、以下の通りであるのが、パターン部と非パターン部の反射率の差が小さく設計できる点から好ましい。【0051】透明なフィルム基材から第一層目のアンダーコート層は、屈折率(n)は1.5?1.7が好ましく、さらには1.5?1.65、さらには1.5?1.6であるのが好ましい。厚み(d)は100?220nmが好ましく、さらには120?215nm、さらには130?210nmであるのが好ましい。【0052】透明なフィルム基材から第二層目のアンダーコート層は、屈折率(n)は1.4?1.5が好ましく、さらには1.41?1.49、さらには1.42?1.48であるのが好ましい。厚み(d)は20?80nmが好ましく、さらには20?70nm、さらには20?60nmであるのが好ましい。【0053】透明導電体層は、屈折率(n)は1.9?2.1が好ましく、さらには1.9?2.05、さらには1.9?2.0であるのが好ましい。」の記載から、上記引用文献1の透明導電性積層フィルムは、透明導電体層の屈折率が透明なフィルム基材の表面の少なくとも1層のアンダーコート層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムである。 c.「前記透明導電性フィルムは、透明導電体層をパターン化する場合がある。しかし、透明導電体層をパターン化するパターン部と非パターン化部との相違が明確化して、表示素子としての見栄えが悪くなる。特に、静電容量結合方式のタッチパネルにおいては、透明導電体層が入射表面側に用いられるため、透明導電体層をパターン化した場合にも表示素子として見栄えが良好なものが求められる。【0006】本発明は、透明導電体層がパターン化されており、かつ、見栄えの良好な透明導電性フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。」及び「【0050】本発明の透明導電性フィルムにおいて、2層のアンダーコート層を介して、パターン化された透明導電体層が設けられている場合、当該パターン部における、各層の屈折率(n)、厚み(d)、及び前記各層の光学厚み(n×d)の合計は、以下の通りであるのが、パターン部と非パターン部の反射率の差が小さく設計できる点から好ましい。」及び「【0105】<見栄え評価>黒い板の上に、サンプルを透明導電体層側が上になるように置き、目視によりパターン部と非パターン部の判別ができるか否かを下記基準で評価した。◎:パターン部と非パターン部の判別が困難。○:パターン部と非パターン部とをわずかに判別できる。×:パターン部と非パターン部とをはっきりと判別できる。」の記載から、上記引用文献1の透明導電性積層フィルムは、透明導電体層をパターン化するパターン部と非パターン化部との相違が明確化し表示素子としての見栄えが悪くならないように、透明導電体層をパターン化した場合にも表示素子として見栄えが良好なもの提供することを課題として作られたものである。 d.【表2】には、実施例1として「パターン部Y値が6.8、非パターン部Y値が7.3、ΔY値が0.5」、実施例2として「パターン部Y値が6.8、非パターン部Y値が6.2、ΔY値が0.6」のものが記載され、その「見栄え評価」が◎であること、実施例3として「パターン部Y値が7.4、非パターン部Y値が5.9、ΔY値が1.5」、実施例4として「パターン部Y値が8.3、非パターン部Y値が6.4、ΔY値が1.8」、実施例5として「パターン部Y値が8.3、非パターン部Y値が6.1、ΔY値が2.1」のものが記載され、その「見栄え評価」が○であることが記載されているから、引用文献1記載の発明の透明導電性フィルムは、パターン部のY値と非パターン部のY値の差の絶対値が、0.5、0.6、1.5、1.8、2.1であるものを含んでいる。 したがって、引用文献1には、以下のような発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「透明導電体層をパターン化するパターン部と非パターン化部との相違が明確化し表示素子としての見栄えが悪くならないように、表示素子として見栄えが良好なもの提供することを課題として作られ、 少なくとも透明なフィルム基材と少なくとも1層のアンダーコート層とを有するフィルム上にパターン化された透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、透明導電体層の屈折率が透明なフィルム基材の表面の少なくとも1層のアンダーコート層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、 パターン部のY値と非パターン部のY値の差の絶対値が、0.5、0.6、1.5、1.8、2.1であるものを含む透明導電性フィルム。」 (イ)原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-182528号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図とともに次の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、静電容量結合方式のタッチパネルの透明導電性フィルムにおいては、透明導電層をパターニングするため、導電面と絶縁面との間の光学特性が異なるから、視認性の差が生じるという問題がある。 【0006】 本発明の目的は、透明導電層をパターニングしても、導電面と絶縁面とで視認性の差を抑制することができる透明導電性フィルムを提供することにある。」 「【0015】 図1に示すように、本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム1は、透明基材2、絶縁色差調整層3及び透明導電層4を具備している。絶縁色差調整層3は、透明基材2の一面に形成されている。透明導電層4は、絶縁色差調整層3の表面に形成されている。なお、絶縁色差調整層3及び透明導電層4は、透明基材2の両面に形成されてもよい。 【0016】 図2に示すように、本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム1は、透明導電層4をパターニングすることにより形成されている透明導電層4の上面の導電面5と絶縁色差調整層3の上面の絶縁面6と、を具備している。 【0017】 本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム1は、絶縁色差調整層3の表面に透明導電層4を具備することにより、透明導電層4をパターニングしたときの導電面5と絶縁面6の視認性の差を抑制することができる。 【0018】 透明基材2の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド;ポリイミド;ポリアリレート;ポリカーボネート;ポリアクリレート;ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、又は、これらの共重合体の無延伸あるいは延伸されたプラスチックフィルムを用いることができる。 【0019】 また、透明基材2の材料としては、透明性の高い他のプラスチックフィルムを用いることもでき,ポリエチレンテレフタレートなどを用いることが好ましい。透明基材2の厚さは、可撓性を考慮し、10?200μm程度である。 ・・・中略・・・ 【0022】 絶縁色差調整層3の材料としては、金属またはその酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物等の無機化合物、又は、これらの微粒子を分散させたポリマーを用いることができる。絶縁色差調整層3の材料としては、実用上、酸化珪素、酸化アルミニウムなどが特に好適に用いられる。 【0023】 この場合に、透明導電層4の屈折率をN1とし、透明基材2の屈折率をN2とし、絶縁色差調整層の屈折率をN3とする場合に、N1>N2>N3の条件を満たしていることが望ましい。または、N1≒N3>N2の条件を満たしていることが望ましい。こ関係を満たすことにより、透明基材2と絶縁色差調整層3の界面からの反射光、絶縁色差調整層3と透明導電層4の界面からの反射光及び透明導電層4からの反射光は、相殺的に干渉し、反射率が低減される。」 「【0026】 本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム1において、導電面5と絶縁面6のL^(*)a^(*)b^(*)表色系における反射色差ΔE^(*)a^(*)b^(*)_(R)は0?10であることが望ましい。反射色差ΔE^(*)a^(*)b^(*)_(R)がこの範囲を外れると、パターニングの面が見え易くなる。また、本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム1において、導電面5と絶縁面6とのL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過明度の差の絶対値ΔL^(*)_(T)が0?2.5であり、反射明度の差の絶対値ΔL^(*)_(R)が0?2.5であり、かつ、透過色差ΔE^(*)ab^(*)_(T)が0?10の範囲であることが好ましい。この範囲を外れると、パターニングの面が見え易くなる。また、ΔL*_(R)が0?1.5であり、ΔE*a*b_(R)が0?5の範囲であることがより望ましい。」 「【0028】 以下、本発明の実施例について具体的に説明する。 (実施例1) 図1に示すような層構成の透明導電膜性フィルム1が実施例1として製作された。実施例1の透明導電膜性フィルム1の透明基材2は、PETフィルムで188μmの厚さに形成されている。透明基材2の一面には、ハードコート層が塗布されている。絶縁色差調整層3は、透明基材2の他の面にDCマグネトロンスパッタリング法により成膜された。この場合に、絶縁色差調整層3は、酸化珪素で膜厚が30nmであるように形成された。 【0029】 透明導電層4は、絶縁色差調整層3の表面に直流マグネトロンスパッタリング法により成膜された。この場合に、スパッタリングターゲットとして、10重量%の酸化スズを含有するITOが使用された。また、透明導電層4は、膜厚が16nmであるように形成された。 【0030】 (実施例2) 絶縁色差調整層3の膜厚が20nmであり、かつ、透明導電層4の膜厚が19nmであること以外は、実施例1と同様にして透明導電膜性フィルム1が製作された。 【0031】 (比較例1) 図3に示すように、比較例1の透明導電性フィルム11は、片面にハードコート層が塗布された透明基材12の他の面に非晶質のITO層(透明導電層)14を具備するものである。比較例1の透明導電膜性フィルム11の透明基材12は、PETフィルムで188μmの厚さに形成されている。 【0032】 ITO層(透明導電層)14は、透明基材12の表面に直流マグネトロンスパッタリング法により成膜された。この場合に、スパッタリングターゲットとして、10重量%の酸化スズを含有するITOが使用された。また、ITO層(透明導電層)14は、膜厚が16nmであるように形成された。 【0033】 (比較例2) ITO層(透明導電層)14の膜厚が25nmであること以外は、比較例1と同様にし て透明導電膜性フィルム11が製作された。 【0034】 (比較例3) 絶縁色差調整層3として、酸化ニオブ層と酸化珪素層が順次に成膜され、前記酸化ニオブ層の膜厚が15nmであり、前記酸化珪素層の膜厚が50nmであること以外は、実施例1と同様にして透明導電膜性フィルムが製作された。 【0035】 以上の実施例1、2及び比較例1、2、3について、塩酸系溶剤により透明導電層を部分的に溶解してパターンが形成された。これらの透明導電膜性フィルムの導電面と絶縁面のそれぞれについて、光学特性の測定及び目視による検査が行なわれた。その結果、実施例1、2は、目視によるパターンが見え難くいことが確認された。光学特性と併せて、その評価結果が図3に示されている。光学特性は、日立U-4000分光光度計でD65光源2度視野にて測定を行い、JISZ8701に準じて色彩計算が行なわれた。 【0036】 光学特性の評価にはL^(*)a^(*)b^(*)表色系が用いられた。それぞれの数値は、次に示す式により求められる。 ΔL^(*)_(T)=|透過L^(*)(絶縁面)-透過L^(*)(導電面)| Δa^(*)_(T)=|透過a^(*)(絶縁面)-透過a^(*)(導電面)| Δb^(*)_(T)=|透過b^(*)(絶縁面)-透過b^(*)(導電面)| ΔL^(*)_(R)=|反射L^(*)(絶縁面)-反射L^(*)(導電面)| Δa^(*)_(R)=|反射a^(*)(絶縁面)-反射a^(*)(導電面)| Δb^(*)_(R)=|反射b^(*)(絶縁面)-反射b^(*)(導電面)| ΔE^(*)a^(*)b^(*)_(T)=[(ΔL^(*)_(T))^(2)+(Δa^(*)_(T))^(2)+(Δb^(*)_(T))^(2)]^(1/2) ΔE^(*)a^(*)b^(*)_(R)=[(ΔL^(*)_(R))^(2)+(Δa^(*)_(R))^(2)+(Δb^(*)_(R))^(2)]^(1/2) 【0037】 図3に示す評価結果から、本発明の実施例1、2の透明導電性フィルムは、比較例1、2、3より、導電面と絶縁面とで視認性の差を抑制することができることが分かる。」 イ.対比 補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「透明なフィルム基材」、「アンダーコート層」、「透明導電体層」は、それぞれ、補正発明の「基材フィルム」、「反射調整層」、「透明導電層」に相当する。 よって、引用発明の「少なくとも透明なフィルム基材と少なくとも1層のアンダーコート層とを有するフィルム上にパターン化された透明導電体層を有する透明導電性フィルム」は、補正発明の「少なくとも基材フィルムと反射調整層とを有する下地フィルム上にパターン化された透明導電体層を有する透明導電性フィルム」に相当する。 (イ)引用発明の「透明導電体層の屈折率が透明なフィルム基材の表面の少なくとも1層のアンダーコート層の屈折率よりも高い透明導電性フィルム」は、補正発明の「前記透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルム」に相当するといえる。 (ウ)引用発明の「パターン部のY値」、「非パターン部のY値」は、補正発明の「パターン面の反射光のY値」、「下地露出面の反射光のY値」に相当する。 よって、引用発明の「パターン部のY値と非パターン部のY値の差の絶対値が、0.5、0.6、1.5、1.8、2.1であるものを含む」ことは、補正発明の「パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、-2≦(Y_(α)-Y_(β))≦2」であることと、「パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、Y_(α)とY_(β)の差の絶対値が0.5、0.6、1.5、1.8であるものを含む」点では一致する。 したがって、補正発明と引用発明とは、 「少なくとも基材フィルムと反射調整層とを有する下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層が形成された透明導電性フィルムであって、前記透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、 パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、Y_(α)とY_(β)の差の絶対値が0.5、0.6、1.5、1.8であるものを含む、 ことを特徴とする透明導電性フィルム。」 で一致するものであり、次の点で相違する。 <相違点1> 補正発明は、「パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、-2≦(Y_(α)-Y_(β))≦2」としているのに対し、引用発明は、パターン部のY値と非パターン部のY値の差の絶対値が、「0.5、0.6、1.5、1.8」以外に「2.1」であるものを含むものである点。 <相違点2> 補正発明は、「更にパターン面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(α)、下地露出面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(β)としたとき、-5.5≦(b^(*)_(α)-b^(*)_(β))≦5.5」としているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 <相違点3> 補正発明は、「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下」としているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 ウ.判断 上記相違点について検討する。 ・相違点1について 以下の事情を総合すると、引用発明において、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。(ア)引用発明は、「透明導電体層をパターン化するパターン部と非パターン化部との相違が明確化し表示素子としての見栄えが悪くならないもの提供することを課題」とし、各層を構成したものである。 そして、引用文献1には、「透明導電性フィルムにおいて、透明導電体層がパターン化して設けられた場合には、パターン部と非パターン部の反射率差によってパターン間が明確化になって見栄えが損なわれていた。」(段落【0022】)、「本発明の透明導電性フィルムにおいて、2層のアンダーコート層を介して、パターン化された透明導電体層が設けられている場合、当該パターン部における、各層の屈折率(n)、厚み(d)、及び前記各層の光学厚み(n×d)の合計は、以下の通りであるのが、パターン部と非パターン部の反射率の差が小さく設計できる点から好ましい。」(段落【0050】)と記載されており、引用発明の「パターン部のY値と非パターン部のY値の差」は、反射のY値を用いていることから、引用発明の上記課題を達成するために、「パターン部のY値と非パターン部のY値の差」を小さくするのが望ましいことは、当業者に明らかである。 (イ)そして、上記「パターン部のY値と非パターン部のY値の差」をどの程度まで小さくするかは、当業者が必要に応じて適宜決定し得ることであって、引用発明の「パターン部のY値と非パターン部のY値の差の絶対値が、0.5、0.6、1.5、1.8、2.1である」ものの中から、その絶対値が2以下のものを採用することは当業者が適宜決定し得ることである。 (ウ)上記パターン部のY値と非パターン部のY値の差が「-2?2」という数値範囲を満たすものと満たさない物との間に効果上顕著な差異があるといった、いわゆる臨界的意義が認められる場合には、その数値範囲を定めた点に進歩性が認められる余地はあるが、本願明細書の記載からは、そのような臨界的意義は認められない。 (エ)以上のことは、引用発明において、補正発明でいう「-2≦(Y_(α)-Y_(β))≦2」が満たされるようにすることが、当業者にとって容易であったことを意味する。 ・相違点2について 以下の事情を総合すると、引用発明において、相違点2に係る補正発明の構成を採用することも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 (ア)引用文献2の段落【0026】には、「また、本発明の実施の形態に係る透明導電性フィルム1において、導電面5と絶縁面6とのL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過明度の差の絶対値ΔL^(*)_(T)が0?2.5であり、反射明度の差の絶対値ΔL^(*)_(R)が0?2.5であり、かつ、透過色差ΔE^(*)ab^(*)_(T)が0?10の範囲であることが好ましい。この範囲を外れると、パターニングの面が見え易くなる。また、ΔL*_(R)が0?1.5であり、ΔE*a*b_(R)が0?5の範囲であることがより望ましい。」と記載されており、導電面5と絶縁面6とのL^(*)a^(*)b^(*)表色系における、反射明度の差の絶対値ΔL^(*)_(R)が0?1.5であり、反射色差ΔE^(*)a^(*)b^(*)_(R)が0?5の範囲であることがより望ましいことが記載されている。そして、そのことは、「ΔE^(*)a^(*)b^(*)_(R)=[(ΔL^(*)_(R))^(2)+(Δa^(*)_(R))^(2)+(Δb^(*)_(R))^(2)]^(1/2)」であるから、[(Δa^(*)_(R))^(2)+(Δb^(*)_(R))^(2)]が0?22.75すなわちΔb^(*)_(R)(反射b^(*)(絶縁面)-反射b^(*)(導電面))が0?4.77であることがパターンニングの面を見えにくくする上で有効であることを意味している。 ここで、引用発明は,パターン部と非パターン化部との相違が明確化しないようにしたものであるが、そうすることは上記「パターンニングの面を見えにくくする」ことと同じことであるから、引用発明には、上記引用文献2に示されるΔb^(*)_(R)の範囲のものを採用することについての十分な動機付けがあったといえる。したがって、引用発明において、引用文献2に示されるΔb^(*)_(R)の範囲のものを採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 (イ)さらにいえば、引用発明が目指した「パターン部と非パターン化部との相違が明確化しないようにする」という目標を達成するために「パターン部の反射光のb^(*)値と非パターン部の反射光のb^(*)値の差」を小さくすべきことは当業者に明らかなことであり、「パターン部の反射光のb^(*)値と非パターン部の反射光のb^(*)値の差」をどの程度まで小さくするかは、当業者が必要に応じて適宜決定し得ることである。そして、そのことと、引用文献2に「Δb^(*)_(R)(反射b^(*)(絶縁面)-反射b^(*)(導電面))が0?4.77である」ことが示されていることを併せ考慮しても、上記相違点2に係る「-5.5?5.5」という数値範囲内のものを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (ウ)上記パターン部の反射光のb^(*)値と非パターン部の反射光のb^(*)値の差が「-5.5?5.5」という数値範囲を満たすものと満たさない物との間に効果上顕著な差異があるといった、いわゆる臨界的意義が認められる場合には、その数値範囲を定めた点に進歩性が認められる余地はあるが、本願明細書の記載からは、そのような臨界的意義は認められない。 (オ)以上のことは、引用発明において、補正発明でいう「-5.5≦(b^(*)_(α)-b^(*)_(β))≦5.5」が満たされるようにすることが、当業者にとって容易であったことを意味する。 ・相違点3について 以下の事情を総合すると、引用発明において、相違点3に係る補正発明の構成を採用することも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 (ア)タッチパネル等に用いられる多層構造の透明フィルムにおいて、ニュートラル(無色透明)な反射色調を良好にするために、反射光の色味が、CIE1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間のb^(*)値を-10≦b^(*)≦0程度の範囲内にすることは、例えば、特開2008-262187号公報段落【0021】、特開2007-188100号公報段落【0015】、特開2003-80624号公報段落【0012】に記載されているように、本願出願日前に周知の技術であり、また、b^(*)<-7では青味が強く、b^(*)>0では黄味が強いことも当業者において技術常識であり、その範囲を避けるようなことも設計的事項である。 (イ)引用発明の透明導電フィルムにおいてもニュートラル(無色透明)な反射色調を良好にすることはタッチパネルの表示品質を良好にすることになるから、引用発明において上記周知技術を採用したり、上記技術常識に従った数値範囲のものを採用したりすることは当業者が容易に想到し得ることである。 (ウ)b^(*)_(α)とb^(*)_(β)が、共に「-4.1以上、-0.1以下」という数値範囲を満たすものと満たさない物との間に効果上顕著な差異があるといった、いわゆる臨界的意義が認められる場合には、その数値範囲を定めた点に進歩性が認められる余地はあるが、本願明細書の記載からは、そのような臨界的意義は認められない。 (エ)以上のことは、引用発明において、補正発明でいう「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下」が満たされるようにすることが、当業者にとって容易であったことを意味する。 ・引用発明において、相違点1?3に係る補正発明の構成を共に採用することについて 相違点1?3に係る補正発明の構成は、そのいずれもが、「見栄えの良好な透明導電性フィルムを提供する」という引用発明が解決しようとした課題の解決につながるものであり、また、それらを共に採用することが困難であるという性質のものではないから、それらを共に採用することも当業者が容易に推考することができたものである。 そして、補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び周知技術から、当業者であれば予想できる範囲内のものである。 そうすると、補正発明は、引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.結論 本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 また、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明 上記のとおり、本件補正は却下された。 したがって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも基材フィルムと反射調整層とを有する下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層が形成された透明導電性フィルムであって、前記透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、 パターン面の反射光のY値をY_(α)、下地露出面の反射光のY値をY_(β)としたとき、-2≦(Y_(α)-Y_(β))≦2であり、 更にパターン面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(α)、下地露出面の反射光のb^(*)値をb^(*)_(β)としたとき、-5.5≦(b^(*)_(α)-b^(*)_(β))≦5.5であることを特徴とする透明導電性フィルム。」 第4 引用文献 原査定の拒絶理由に引用された引用文献及びその記載事項、引用発明は、前記「第2 2.(2)ア.」に記載したとおりである。 第5 対比・判断 本願発明は、前記「第2 2.(2)」で検討した補正発明の「前記b^(*)_(α)と前記b^(*)_(β)が、共に-4.1以上、-0.1以下である」の限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定したものに相当する補正発明が前記「第2 2.(2)」に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-11-18 |
結審通知日 | 2015-11-24 |
審決日 | 2015-12-07 |
出願番号 | 特願2010-252984(P2010-252984) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F) P 1 8・ 561- Z (G06F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤原 拓也 |
特許庁審判長 |
小曳 満昭 |
特許庁審判官 |
和田 志郎 玉木 宏治 |
発明の名称 | 透明導電性フィルム、透明導電性フィルム用下地フィルムおよびタッチパネル |