ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
---|---|
管理番号 | 1310243 |
審判番号 | 不服2014-23824 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-25 |
確定日 | 2016-01-21 |
事件の表示 | 特願2010-218805「ブレーキ用グリース組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年4月12日出願公開,特開2012-72300〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成22年9月29日の出願であって,その請求項1に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載された,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースであって,鉱油および/または合成油から選ばれる基油と,第三リン酸カルシウム及びベントナイトを含有し,上記第三リン酸カルシウム及びベントナイトの含有量を合わせて組成物全量に対して18?30質量%とし,かつ上記第三リン酸カルシウムとベントナイトの割合を0.25:0.75?0.75:0.25としたブレーキ用グリース組成物。」(以下,「本願発明」という。) 2.引用刊行物及びその記載事項 原査定の理由に引用された,本願出願の日前に頒布されたことが明らかな刊行物Aには,以下の事項が記載されている。 刊行物A:特開2009-298962号公報(原査定の引用文献1) (A-1) 「【請求項1】 (a)基油, (b)第三リン酸カルシウム, (c)フェノール系,アミン系,ジチオリン酸亜鉛,ジチオカルバミン酸塩系,無灰ジチオカーバメート,ベンズイミダゾール系,亜リン酸系及び有機チオ酸系からなる群から選択される少なくとも1種の酸化防止作用を有する添加剤, を含有する潤滑剤組成物。 【請求項2】 (d)ウレア化合物,アルカリ金属石けん,アルカリ金属複合石けん,アルカリ土類金属石けん,アルカリ土類金属複合石けん,アルカリ金属スルフォネート,アルカリ土類金属スルフォネート,アルミニウム石けん,アルミニウム複合石けん,テレフタラメート金属塩,クレイ,シリカ,フッ素樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上を組合せた増ちょう剤をさらに含有する請求項1に記載の潤滑剤組成物。 ・・・ 【請求項4】 全組成物中,(b)第三リン酸カルシウムの含有量が1?70質量%,(c)酸化防止作用を有する添加剤の含有量が0.1?10質量%,(d)増ちょう剤の含有量が0.5?20質量%である請求項2に記載の潤滑剤組成物。」 (A-2) 「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者等は,第三リン酸カルシウムが潤滑グリースの熱安定性を向上させる有効な材料になることに早くから着目し,それを発展させた研究・開発を種々行ってきた。そうした研究・開発の過程において,鉱油や合成油の基油に,第三リン酸カルシウム及び酸化防止作用を有する添加剤を加えることによって,高温においても蒸発が抑制され,熱安定性に優れた潤滑剤組成物が得られることを見出した。また,この組成物に,更に増ちょう剤を含有させたものも,同様に高温下での蒸発量が少なく,熱安定性に優れていることを見出し,本発明を完成するに至った。 【0007】 本発明は, (a)基油と, (b)第三リン酸カルシウムと, (c)フェノール系,アミン系,ジチオリン酸亜鉛,ジチオカルバミン酸塩系,無灰ジチオカーバメート,ベンズイミダゾール系,亜リン酸系及び有機チオ酸系からなる群から選択される少なくとも1種の酸化防止作用を有する添加剤を, 含有させることによって作製した潤滑剤組成物である。 この潤滑剤組成物には,更に, (d)ウレア化合物,アルカリ金属石けん,アルカリ金属複合石けん,アルカリ土類金属石けん,アルカリ土類金属複合石けん,アルカリ金属スルフォネート,アルカリ土類金属スルフォネート,アルミニウム石けん,アルミニウム複合石けん,テレフタラメート金属塩,クレイ,シリカ,フッ素樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上の組合せよりなる増ちょう剤を含有させて潤滑剤組成物とするものである。 【0008】 上記(b)の第三リン酸カルシウムは,潤滑剤組成物の全組成物に対して約1?70質量%程度の割合で使用される。この第三リン酸カルシウムは,上記基油と混合することにより組成物の粘ちょう度が増加していき,グリース化することができる。また,上記(c)の酸化防止作用を有する添加剤の含有量は,同じく約0.1?10質量%程度の割合で使用される。更に,(d)の増ちょう剤は,約0.5?20質量%程度の含有量で使用するようにする。 【発明の効果】 【0009】 本発明は,上記したように高温下での潤滑剤組成物の蒸発を抑制し,高温において流れたり,逆に固化したりすることのない熱安定性に優れたグリース状の潤滑剤組成物を得ることができ,高温状態下において優れた作用が得られる。 本発明の潤滑剤組成物は,用途として,一般に使用される機械,軸受,歯車等に使用可能であることは勿論,より苛酷な荷重条件下で優れた性能を発揮することができる。 例えば,自動車では,スターター,オルターネーター及び各種アクチュエーター部のエンジン周辺,プロペラシャフト,等速ジョイント(CVJ),ホイールベアリング及びクラッチ等のパワートレイン,電動パワーステアリング(EPS),制動装置,ボールジョイント,ドアヒンジ,ハンドル部,冷却ファンモーター,ブレーキのエキスパンダー等の各種部品などの潤滑に好適に用いることができる。」 (A-3) 「【0017】 本発明に使用する(b)成分の第三リン酸カルシウムとしては,Ca_(3)(PO_(4))_(2)を使用することができるが,一般的には〔Ca_(3)(PO_(4))_(2)〕_(3)・Ca(OH)_(2)で表わされるヒドロキシアパタイト組成の化学構造を有しているものを用いると良い。粒径サイズについては,通常,平均粒径が約100μm以下であれば使用でき,好ましくは20μm以下,特に好ましくは10μm以下である。本発明において含有量を表示する場合には〔Ca_(3)(PO_(4))_(2)〕_(3)・Ca(OH)_(2)に基づいた質量で表示するものとする。 【0018】 この第三リン酸カルシウムは,上記基油中に加えられるが,潤滑剤組成物の全組成物に対して約1?70質量%,好ましくは約4?65質量%,更に好ましくは約8?60質量%を配合すると良い。第三リン酸カルシウムの配合量が1質量%未満の場合には,潤滑剤組成物が軟化状態にある場合があり,その際には適度な半固体状の硬さを維持することができない。また,配合量が70質量%を越える場合には,潤滑剤組成物が固化して滑らかな半固体状とならないことがあり,製造も困難なことが多い。} (A-4) 「【0023】 上記した第三リン酸カルシウムは,増ちょう作用を有するので増ちょう剤と考えることができるが,これと共に他の増ちょう剤を併用することができる。こうした他の増ちょう剤としては,ウレア化合物,アルカリ金属(複合)石けん,アルカリ土類金属(複合)石けん,アルカリ金属スルフォネート,アルカリ土類金属スルフォネート,アルミニウム(複合)石けん,テレフタラメート金属塩,クレイ,シリカエアロゲルなどのシリカ(酸化ケイ素),ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂などを挙げることができ,これらの1種または2種以上を併せて使用することができる。また,これら以外にも液状物質に粘ちょう効果を付与できるものはいずれも使用することができる。 ・・・ 【0026】 上記した他の増ちょう剤は,全組成物に対して約0.5?20質量%の量で使用するようにすると好ましく,第三リン酸カルシウムとこの他の増ちょう剤は適宜の配合割合で使用することができるが,両者の総量が全組成物に対して約3?70質量%になるように使用するのが好ましい。 こうした他の増ちょう剤は,基油に第三リン酸カルシウムと酸化防止作用を有する添加剤を混合した粘ちょう物に加えることができるし,また,基油に上記他の増ちょう剤を混合した粘ちょう物に第三リン酸カルシウムと酸化防止作用を有する添加剤を加えることによって,本潤滑剤組成物を得るようにすることができる。 この場合,基油に第三リン酸カルシウムと酸化防止作用を有する添加剤を含む潤滑剤組成物と,基油に他の増ちょう剤を主として含む潤滑剤組成物とを,適当な割合に混ぜ合せて本発明の潤滑剤組成物とすることもできる。 そして,上記したいずれの方法によっても,本発明の高温時に蒸発量が少なく,熱安定性の高い潤滑剤組成物を得ることができる。」 (A-5) 「【0034】 (実施例19及び比較例6) 実施例14の精製鉱油(4560g)中でベントン34を(400g)およびプロピレンカーボネート(40g)を均一に分散・処理することによりクレイグリースを得た。クレイの含有量は約8質量%である。 このクレイグリースに第三リン酸カルシウム及び添加剤(8)を,表4に示す配合割合に加え,よく混練して均一に仕上げた潤滑剤組成物を実施例19とした。また,このクレイグリースに表4に示す配合割合により,第三リン酸カルシウムを使用せず添加剤(8)を加えたものを比較例6とした。」 (A-6) 「【0041】 【表4】 」 3.刊行物Aに記載された発明 ア 刊行物Aの【請求項1】(摘示(A-1))の記載に,同項を引用する【請求項2】(摘示(A-1))の記載を組み入れると,次の発明が記載されているといえる。 「(a)基油, (b)第三リン酸カルシウム, (c)フェノール系,アミン系,ジチオリン酸亜鉛,ジチオカルバミン酸塩系,無灰ジチオカーバメート,ベンズイミダゾール系,亜リン酸系及び有機チオ酸系からなる群から選択される少なくとも1種の酸化防止作用を有する添加剤, (d)ウレア化合物,アルカリ金属石けん,アルカリ金属複合石けん,アルカリ土類金属石けん,アルカリ土類金属複合石けん,アルカリ金属スルフォネート,アルカリ土類金属スルフォネート,アルミニウム石けん,アルミニウム複合石けん,テレフタラメート金属塩,クレイ,シリカ,フッ素樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上を組合せた増ちょう剤, を含有する潤滑剤組成物。」 イ ここで,(d)成分は「増ちょう剤」とされていることに加えて,(b)成分についても,刊行物Aの【0008】(摘示(A-2))に, 「(b)の第三リン酸カルシウムは,・・・基油と混合することにより組成物の粘ちょう度が増加していき,グリース化することができる。」 と記載されていることから,上記の「潤滑剤組成物」の形態はグリースとなっているものと解される。 ウ また,刊行物Aの【0034】(摘示(A-5))と【0041】(摘示(A-6))に記載の実施例19における各成分を,【請求項1】及び【請求項2】(摘示(A-1))における上記(a),(c)及び(d)の各成分と対比すると,次のような対応関係となる。 ・実施例19の「精製鉱油」は,請求項1の(a)成分に対応する基油。 ・実施例19の「添加剤(8):メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)」は,請求項1の(c)成分の「無灰ジチオカーバメート」に対応する酸化防止作用を有する添加剤。 ・実施例19「ベントン34」は,請求項2の(d)成分の「クレイ」に対応する増ちょう剤。 エ 次にこれら各成分の実施例19における含有量について検討する。 第三リン酸カルシウムの含有量は,【表4】(摘示(A-6))の記載から10%(なお,「質量%」を単に「%」と記載する。以下も同様。)である。 添加剤(8)のメチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)の含有量は,同様に【表4】(摘示(A-6))の記載から1%である。 刊行物Aの【0034】(摘示(A-5))の記載によれば,「クレイグリース」中のベントナイト(ベントン34)の含有量は8%である。そして,【表4】(摘示(A-6))によれば,実施例19では,これが89%含まれていることから,組成物中のベントナイト(ベントン34)の含有量は,(8×89/100=)7.12%となる。 なお,これら各成分の含有量は,刊行物Aの【請求項4】(摘示(A-1))で特定されている(b)?(d)のそれぞれの含有量の範囲内のものである。 オ 以上のことから,刊行物Aには,以下の発明が記載されているものといえる。 「(a)基油である精製鉱油, (b)第三リン酸カルシウム10%, (c)メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)である酸化防止作用を有する添加剤1%,及び, (d)ベントン34である増ちょう剤7.12%, を含有するグリース組成物。」(以下,「引用発明」という。) なお,クレイグリース中に含有されているプロピレンカーボネートについては,ベントナイト系増ちょう剤を使用する場合に汎用される補助剤(*)と解せられるが,刊行物Aの各請求項(摘示(A-1))の何れにも特定されていない成分なので引用発明の認定に際して省略した。同様に精製鉱油の含有量についても省略した。 (*):この点に関し,例えば以下の文献参照。 a.特開昭61-27291号公報(公報第3頁右下欄?第4頁右上欄) 「この基油は適当なゲル化補助剤の存在下でベントナイト系増稠剤と配合するとき,放射線照射に対して安定なゲル構造を形成し,適正な稠度を持ち,かつそれを維持し,また高い滴点と高度の耐酸化性を有するグリースが得られることが明らかになった。・・・ベントナイト系増稠剤として,例えばベントン(Bentone:商標名)27,同33,同34,・・・。 本発明において,・・・安定なゲル構造を形成するのを助けるゲル化補助剤は・・・脂肪族基の炭素原子数が2-5個の脂肪族炭酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物である。 ・・・使用できる脂肪族炭酸エステルの例として・・・プロピレンカーボネートなどの・・・エステルがある。」 b.特表2004-536169号公報 「【0038】 特に,増粘剤が有機基によってグラフト結合されたベントナイトに基づいて構成されるときは,そのベントナイトの表面にグラフト結合された有機鎖(organic chains)を展開(deploy)させることによりベントナイトの膨潤を促進させる極性型(polar type)の膨潤剤を使用することが知られている。これを目的として,例えば,・・・ プロピレンカーボネートなど様々な成分が使用され得る。好適には,膨潤剤の量はグラフト化されたベントナイトの重量に対して約10重量%である。」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 両者は「グリース組成物」である点で一致する。 イ 基油については,本願発明は「鉱油および/または合成油から選ばれる基油」とされているのに対して,引用発明は「精製鉱油」であり,両発明に差異はない。 ウ 第三リン酸カルシウムは,両発明とも含有している。 エ 本願発明の「ベントナイト」に関し,本願明細書の【0026】には, 「このブレーキ用グリース組成物には,更にベントナイトを配合することができる。このベントナイトはグリースの増ちょう剤として作用するものである。こうしたベントナイトとして有効なものは有機処理したものであって,例えば,Elementis社がベントンの商標で販売している製品がある。好ましいベントン製品としてベントン34がある。」 と記載されていることから,引用発明の「ベントン34」は,本願発明のベントナイトに相当するものといえる。 オ 第三リン酸カルシウム及びベントナイトの含有量を合わせた量について対比すると,引用発明における第三リン酸カルシウムとベントン34(ベントナイト)を合わせた含有量は17.12%となるのに対して,本願発明ではこれが18?30%と特定されているものである。 なお,「第三リン酸カルシウムの含有量」に関する本願明細書の記載をみると,その【0020】に, 「上記基油には,第三リン酸カルシウムが配合される。この第三リン酸カルシウムを配合することによって,基油のちょう度を上昇させることができるものであり,一般的には〔Ca_(3)(PO_(4))_(2)〕_(3)・Ca(OH)_(2)で表わされるヒドロキシアパタイト組成の化学構造を有しているものであるが,Ca_(3)(PO_(4))_(2)で表されるものを使用することもできる。 本発明において下記する実施例などにおいては,〔Ca_(3)(PO_(4))_(2)〕_(3)・Ca(OH)_(2)を用いており,含有量もこれに基づく質量で表示している。」 との記載があることから,本願発明の記載も含めて本願明細書の記載は全て,正味の第三リン酸カルシウム〔Ca_(3)(PO_(4))_(2)〕_(3)の量ではないものと解される。 しかしながら,この点に関しては,刊行物Aも,その【0017】(摘示(A-3))に, 「本発明において含有量を表示する場合には〔Ca_(3)(PO_(4))_(2)〕_(3)・Ca(OH)_(2)に基づいた質量で表示するものとする。」 との記載があり,本願発明と同様な表記の仕方をしていると解されるから,第三リン酸カルシウムの含有量に関しては,本願発明の数値と,引用発明における数値を含む刊行物Aに記載の数値とは,そのまま対比しても特段の齟齬は生じないものと解される。以下の検討においても,このことを前提とする。 カ 次に,引用発明における第三リン酸カルシウムとベントナイトの割合を計算すると,(10:7.12=)約0.584:約0.416となって,この値は,本願発明で特定されている「0.25:0.75?0.75:0.25」の範囲に対応するものであって,この点に関しては両者に差異はない。 キ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点を,本願発明の表現に則して記載すると次のようになる。 [一致点] 「鉱油および/または合成油から選ばれる基油と,第三リン酸カルシウム及びベントナイトを含有し,上記第三リン酸カルシウムとベントナイトの割合を0.25:0.75?0.75:0.25としたブレーキ用グリース組成物。」 これに対して,相違点は次のとおりである。 [相違点1] 本願発明が「ブレーキ装置の摩擦部位に用いられるブレーキ用」のグリース組成物であるのに対して,引用発明がそのような特定がないグリース組成物である点。 [相違点2] 本願発明が,「第三リン酸カルシウム及びベントナイトの含有量を合わせて組成物全量に対して18?30%」と特定されているのに対して,引用発明では「第三リン酸カルシウム及びベントナイトの含有量を合わせて組成物全量に対して17.12%」である点。 5.当審の判断 以下,上記相違点について検討する。 5-1.[相違点1]について 刊行物Aには,その【0009】(摘示(A-2))に, 「本発明の潤滑剤組成物は,用途として,一般に使用される機械,軸受,歯車等に使用可能であることは勿論,より苛酷な荷重条件下で優れた性能を発揮することができる。 例えば,自動車では,・・・,ブレーキのエキスパンダー等の各種部品などの潤滑に好適に用いることができる。」 と記載されており,「ブレーキのエキスパンダー」に使用されることが示唆されているといえる。したがって,引用発明に係るグリース組成物を「ブレーキのエキスパンダー」といった「ブレーキ装置の摩擦部位」に用いることは当業者が容易になし得ることである。 5-2.[相違点2]について 刊行物Aには,第三リン酸カルシウム及び増ちょう剤の含有量について以下の記載がなされている。 (i)【請求項4】(摘示(A-1)) 「全組成物中,(b)第三リン酸カルシウムの含有量が1?70質量%,・・・,(d)増ちょう剤の含有量が0.5?20質量%である・・・潤滑剤組成物。」 (ii)【0008】(摘示(A-2)) 「【0008】 上記(b)の第三リン酸カルシウムは,潤滑剤組成物の全組成物に対して約1?70質量%程度の割合で使用される。この第三リン酸カルシウムは,上記基油と混合することにより組成物の粘ちょう度が増加していき,グリース化することができる。・・・更に,(d)の増ちょう剤は,約0.5?20質量%程度の含有量で使用するようにする。」 (iii)【0023】?【0026】(摘示(A-4)) 「【0023】 上記した第三リン酸カルシウムは,増ちょう作用を有するので増ちょう剤と考えることができるが,これと共に他の増ちょう剤を併用することができる。こうした他の増ちょう剤としては,・・・クレイ・・・などを挙げることができ,これらの1種または2種以上を併せて使用することができる。また,これら以外にも液状物質に粘ちょう効果を付与できるものはいずれも使用することができる。 ・・・・ 【0026】 上記した他の増ちょう剤は,全組成物に対して約0.5?20質量%の量で使用するようにすると好ましく,第三リン酸カルシウムとこの他の増ちょう剤は適宜の配合割合で使用することができるが,両者の総量が全組成物に対して約3?70質量%になるように使用するのが好ましい。」 すなわち,第三リン酸カルシウムについては1?70%の範囲で,また,増ちょう剤であるベントナイトについては0.5?20%の範囲で,そして,両者の合計量については3?70%の範囲で,それぞれ使用可能であることが記載されているといえる。 ところで,引用発明に係る実施例19においては,確かに,第三リン酸カルシウムが10%,ベントナイトであるベントン34が7.12%であって,両者合計は17.12%となるものではあるが,刊行物Aにおいて示された,それぞれの使用範囲に関する上記記載をも考慮すれば,例えば,第三リン酸カルシウムについて,その近傍範囲において数%程度での変更ならば,刊行物Aの【0006】(摘示(A-2))などに記載されている,「高温下での蒸発量」や「熱安定性」に関する刊行物Aにおける発明の目的や効果に対して大きな影響を与えることはなく同様なグリース組成物が得られるであろうと,当業者ならば理解するものといえる。 そうすると,例えば,第三リン酸カルシウムを2?3%程度増量して,ベントナイトとの合計量を20%程度とすることも刊行物Aにおいて教示される事項と解すべきものといえる。 これに対して,本願発明において,「第三リン酸カルシウム及びベントナイトの含有量を合わせて組成物全量に対して18?30%」とすること,特に下限値を「18%」とすることにより,格別予想外の効果を奏するものとすることもできない。 したがって,引用発明において,例えば第三リン酸カルシウムの添加量を増量させて,ベントナイトとの合計量を20%程度とすることにより,その結果として,第三リン酸カルシウムとベントナイトとの割合を「0.25:0.75?0.75:0.25」の範囲内に維持しつつ,その合計量を「18?30%」の範囲内の量とすることは当業者が容易になし得ることといわざるを得ない。 6.むすび 以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえ,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 7.審理再開申立書について 請求人は,平成27年11月27日付けで,審理再開申立書を提出している。該申立書の内容を検討しても,審判請求書における主張の繰り返しの域を出るものではなく,当合議体は,審理を再開すべき事情があるとは判断しない。 なお,上記「5.当審の判断」で記載したように,本願発明における第三リン酸カルシウムとベントナイトとの合計量の下限値は「18%」であるのに対して,引用発明のそれは17%強であって極めて近いものであり,しかも刊行物Aには,この値をさらに多くしようとする示唆もあるといえる。このような状況において,本願明細書の参考例1?6と実施例1?9との対比によっては,本願発明と引用発明との効果上の明確な差異が示されているものといえない。 |
審理終結日 | 2015-11-11 |
結審通知日 | 2015-11-17 |
審決日 | 2015-12-04 |
出願番号 | 特願2010-218805(P2010-218805) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内藤 康彰 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 星野 紹英 |
発明の名称 | ブレーキ用グリース組成物 |
代理人 | 亀川 義示 |