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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1310252
審判番号 不服2015-8631  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-08 
確定日 2016-01-21 
事件の表示 特願2013-259428「車両用駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月29日出願公開、特開2014- 97789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年10月5日に出願した特願2009-231618号(以下、「原出願」という。)の一部を平成25年12月16日に新たな特許出願としたものであって、平成26年11月4日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年2月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年5月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年9月7日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年5月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成27年5月8日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)平成27年5月8日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてみれば、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年1月9日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1を、イに示す請求項1に補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
内燃機関と電動機とを備える車両用駆動装置であって、
前記内燃機関から動力が出力される内燃機関出力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第1断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸と連結される第1入力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸に連結される第2入力軸と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、被駆動部に動力を出力する出入力軸と、
前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共に噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した遊星歯車機構と、を備え、
前記第1回転要素は、前記第1入力軸に接続されるとともに前記電動機に接続され、
前記第3回転要素は、ロック機構に接続され、
前記第2回転要素は、前記第1入力軸上に配置された前記第1ギヤ群のギヤと連結されて動力を前記出入力軸に伝達可能であり、
前記第2入力軸は前記遊星歯車機構を介することなく動力を前記出入力軸に伝達可能であり、
EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合に、前記第1ギヤ群の高速側変速ギヤから前記第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、前記電動機の回生力の低下を補うように車輪ブレーキに制動力を作用させることを特徴とする車両用駆動装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
内燃機関と電動機とを備える車両用駆動装置であって、
前記内燃機関から動力が出力される内燃機関出力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第1断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸と連結される第1入力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸に連結される第2入力軸と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、被駆動部に動力を出力する出入力軸と、
前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共に噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した遊星歯車機構と、を備え、
前記第1回転要素は、前記第1入力軸に接続されるとともに前記電動機に接続され、
前記第3回転要素は、ロック機構に接続され、
前記第2回転要素は、前記第1入力軸上に配置された前記第1ギヤ群のギヤと連結されて動力を前記出入力軸に伝達可能であり、
前記第2入力軸は前記遊星歯車機構を介することなく動力を前記出入力軸に伝達可能であり、
EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合に、前記第1ギヤ群の高速側変速ギヤから前記第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、前記電動機の回生力を徐々に減らしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に増やこと(審決注:「増やこと」は、「増やすこと」の明らかな誤記と認める。)で前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を徐々に増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を徐々に減らすことを特徴とする車両用駆動装置。」
なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

(2)本件補正の目的について
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1における「前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ」という発明特定事項を、本件補正後に「前記電動機の回生力を徐々に減らしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に増やことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を徐々に増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を徐々に減らす」とすることにより、EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合の制御方法を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-113535号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)

ア 「【0001】
本発明は、原動機として内燃機関とモータジェネレータを備え、駆動輪の回転を変速機構により変速し、ロータに伝達させて、モータジェネレータにより回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両に関し、詳細には、回生制動を伴う車両減速時の制御技術に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0002】
車両用の変速機構においては、近年、変速時における機械的動力の伝達の途切れをなくすために、奇数段の変速段で構成される第1変速機構の入力軸(以下、第1入力軸と記す)と、内燃機関の出力軸(以下、機関出力軸と記す)とを係合可能な第1クラッチと、偶数段の変速段で構成される第2の変速機構の入力軸(以下、第2入力軸と記す)と、機関出力軸とを係合可能な第2クラッチとを備え、これら2つのクラッチを交互につなぎ替えることで変速を行う、いわゆるデュアルクラッチ式変速機を用いたものが知られている。
【0003】
また、車両用の駆動装置には、変速機構として上述のデュアルクラッチ式変速機を、原動機としてモータジェネレータを備え、当該モータジェネレータのロータが第2変速機構の第2入力軸に係合し、モータジェネレータから機械的動力を、第2変速機構により変速して、駆動輪に係合する出力軸に伝達可能なものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、下記の特許文献2には、原動機として内燃機関(エンジン)とモータジェネレータ(以下、モータと記す)とを備え、変速機構としてデュアルクラッチ式の変速機が設けられたハイブリッド車両が開示されている。特許文献2には、モータにより回生制動を行う場合、モータのロータの回転速度(以下、モータ回転速度と記す)が、モータの回生効率が高い所定の回転速度範囲内に収まるように、第2変速機構において変速段を選択することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002-89594号公報
【特許文献2】特開2006-118590号公報」(段落【0002】ないし【0005】)

ウ 「【0006】
上述のようなハイブリッド車両において、モータによる回生制動を行いながら車両を減速させる場合、第2変速機構において、モータ回転速度の低下に応じて、順次、より低速側の変速段に変速することが求められている。低速側の変速段に変速してモータ回転速度の極端な低下を抑制することで、車両減速中に車両を再び加速させる時(以下、再加速時と記す)に、モータから効率良く機械的動力を出力することができると共に、モータからの機械的動力を、低速側の変速段で減速しトルクを増大させて駆動輪に伝達することができる。
【0007】
しかし、上述のようなハイブリッド車両においては、モータによる回生制動を行いながら、第2変速機構の変速段を、より低速側の変速段に変速する変速動作(ダウンシフト)を行うことはできない。第2変速機構において変速動作を行うためには、瞬間的に回生制動を停止しロータを空転させて、モータと駆動輪との間においてトルクが作用しない状態を作り出す必要がある。このように、車両減速中にモータによる回生制動を瞬間的に停止すると、その分、駆動輪に作用する制動力が減少するため、車両の減速度に変動が生じてしまうという問題が生じる。
【0008】
したがって、原動機として内燃機関とモータとを備え、駆動輪の回転を、変速機構により変速してロータに伝達してモータにより回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両においては、回生制動を伴う車両減速中において、第2変速機構の変速動作を行うときに、車両の減速度に変動が生じることを抑制する技術が求められている。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、モータの回生制動を伴う車両減速中に、モータのロータが入力軸に係合する変速機構において変速動作を行うときに、車両の減速度に変動が生じることを抑制可能なハイブリッド車両の制御技術を提供することを目的とする。」(段落【0006】ないし【0009】)

エ 「【0010】
上記の目的を達成するために、本発明に係るハイブリッド車両は、機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、発電機として機能してロータを制動する回生制動を行うことが可能なモータジェネレータと、機関出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪と係合する第1出力軸に伝達可能な第1変速機構と、機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪と係合する第2出力軸に伝達可能な第2変速機構と、機関出力軸と第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、機関出力軸と第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、摩擦力を発生して駆動輪を制動する摩擦制動を行うことが可能な摩擦ブレーキと、第2変速機構における変速動作と、摩擦ブレーキによる摩擦制動と、モータジェネレータによる回生制動とを制御可能な制御手段と、を備え、駆動輪の回転を第2変速機構により変速し、ロータに伝達させてモータジェネレータにより回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両であって、制御手段は、モータジェネレータによる回生制動を伴う車両減速中において、第2変速機構の変速段を、より低速側の変速段に変速する場合、モータジェネレータに回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキに摩擦制動を行わせて、第2変速機構の変速動作を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両において、制御手段は、第2変速機構における変速動作が完了した直後、モータジェネレータに回生制動を再開させると共に摩擦ブレーキに摩擦制動を停止させるものとすることができる。
【0012】
本発明に係るハイブリッド車両において、制御手段は、モータジェネレータによる回生制動と、摩擦ブレーキによる摩擦制動とを切替えるときに、モータジェネレータに回生制動を行わせることにより駆動輪に作用するトルクである回生制動トルクの値と、摩擦ブレーキに摩擦制動を行わせることにより駆動輪に作用するトルクである摩擦制動トルクとの値が連続するように、モータジェネレータと摩擦ブレーキとを協調して制御するものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハイブリッド車両の制御手段は、モータジェネレータによる回生制動を伴う車両減速中において、モータジェネレータのロータと入力軸が係合する第2変速機構の変速段を、より低速側の変速段に変速する場合、モータジェネレータに回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキに摩擦制動を行わせて、第2変速機構の変速動作を行うものとした。第2変速機構の変速動作を行うために、回生制動を停止しても、摩擦制動により駆動輪を制動することで、ハイブリッド車両の減速度に変動が生じることを抑制することができる。」(段落【0010】ないし【0013】)

オ 「【0016】
ハイブリッド車両1は、駆動輪88を回転駆動するための原動機として、内燃機関5とモータジェネレータ50(以下、単に「モータ」と記す)とを備えている。モータ50は、内燃機関5からの機械的動力を変速して車両推進軸66に伝達する駆動装置10に含まれている。内燃機関5は、モータ50を備えた駆動装置10と共に結合されて、ハイブリッド車両1に搭載される。ハイブリッド車両1には、これを構成する原動機や変速機構を制御する制御手段として、ハイブリッド車両用電子制御装置100(以下、ECUと記す)が設けられている。
(中略)
【0018】
また、ハイブリッド車両1には、原動機としての内燃機関5及びモータ50からの機械的動力を駆動輪88に伝達する動力伝達装置として、機関出力軸8及びモータ50からの機械的動力を変速してトルクを変化させて車両推進軸66に伝達可能な駆動装置10と、原動機から車両推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に駆動輪88に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70が設けられている。
【0019】
駆動装置10は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のいずれかを用いて内燃機関5からの機械的動力を後述する変速機構に伝達するデュアルクラッチ機構20と、内燃機関5から第1クラッチ21を介して伝達される機械的動力を、第1入力軸27で受けて、第1群の変速段のうちいずれか1つにより変速して、第1出力軸37から車両推進軸66に伝達可能な第1変速機構30と、内燃機関5から第2クラッチ22を介して伝達される機械的動力を、第2入力軸28で受けて、第2群の変速段のうちいずれか1つにより変速して、第2出力軸48から車両推進軸66に伝達可能な第2変速機構40を有している。
【0020】
第1変速機構30及び第2変速機構40は、前進に第1速ギヤ段31から第6速ギヤ段46までの6つの変速段を有しており、後進に1つの変速段39を有している。前進の変速段である第1速?第6速ギヤ段31?46の減速比は、第1速ギヤ段31、第2速ギヤ段42、第3速ギヤ段33、第4速ギヤ段44、第5速ギヤ段35、第6速ギヤ段46の順に小さくなるよう設定されている。
(中略)
【0027】
ECU100が第5速ギヤ段35を選択する、即ち第5速カップリング機構35eを係合状態にして、第5速カウンタギヤ35cと第1出力軸37とを係合させることで、第1変速機構30は、第1入力軸27から受けた機械的動力を、第5速ギヤ段35により変速し、トルクを変化させて、第1出力軸37に伝達することが可能となっている。」(段落【0016】ないし【0027】)

カ 「【0030】
第1変速機構30における各カップリング機構31e,33e,35e,39eの係合状態と非係合状態(解放状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つの変速段を選択して、選択した変速段に対応するカップリング機構を係合状態にする。これにより、第1変速機構30は、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第1入力軸27が受けて、各変速段(奇数段)31,33,35,39のうちいずれか1つにより変速しトルクを変化させて、第1出力軸37から、駆動輪88と係合する車両推進軸66に伝達することが可能となっている。
【0031】
第1変速機構30の第1出力軸37には、第1推進軸駆動ギヤ37cが結合されており、当該第1推進軸駆動ギヤ37cは、車両推進軸66に結合された動力統合ギヤ58と噛み合っている。車両推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動軸80及び駆動輪88と係合している。つまり、第1変速機構30の第1出力軸37と駆動輪88は、係合している。駆動輪88の回転は、終減速装置70及び車両推進軸66を介して、第1変速機構30の第1出力軸37に伝達される。駆動輪88から第1出力軸37に伝達された機械的動力は、第1変速機構30の各変速段(奇数段)31,33,35,39のうち
いずれか1つにより変速されて、第1入力軸27に伝達されることとなる。
【0032】
一方、第2変速機構40は、第1変速機構30と同様に、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第2群の変速段は、偶数段、すなわち第2速ギヤ段42と、第4速ギヤ段44と、第6速ギヤ段46で構成されている。第2変速機構40の変速段42,44,46のうち、第2速ギヤ段42が最も低速側の変速段となっている。
(中略)
【0039】
第2変速機構40における各カップリング機構42e,44e,46eの係合状態と非係合状態(解放状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第2変速機構40の第2群の変速段42,44,46のうちいずれか1つの変速段を選択して、選択した変速段に対応するカップリング機構42e,44e,46eを係合状態にする。これにより、第2変速機構40は、内燃機関5の機関出力軸8及びモータ50のロータ52からの機械的動力を、第2入力軸28で受けて、各変速段(偶数段)42,44,46のうちいずれか1つにより変速しトルクを変化させて、第2出力軸48から、駆動輪88と係合する車両推進軸66に伝達することが可能となっている。
【0040】
第2変速機構40の第2出力軸48には、第2推進軸駆動ギヤ48cが結合されており、当該第2推進軸駆動ギヤ48cは、車両推進軸66に結合された動力統合ギヤ58と噛み合っている。車両推進軸66は、上述のように、終減速装置70を介して駆動輪88と係合している。つまり、第2変速機構40の第2出力軸48と駆動輪88は、係合している。駆動輪88の回転は、終減速装置70及び車両推進軸66を介して、第2変速機構40の第2出力軸48に伝達される。駆動輪88から第2出力軸48に伝達された機械的動力は、第2変速機構40の各変速段(偶数段)42,44,46のうちいずれか1つにより変速されて、モータ50のロータ52が係合する第2入力軸28に伝達されることとなる。
【0041】
また、ハイブリッド車両1の駆動装置10には、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方に伝達させる動力伝達手段として、デュアルクラッチ機構20が設けられている。デュアルクラッチ機構20は、機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22とを有している。
【0042】
第1クラッチ21は、円板状の摩擦板を有し、摩擦板の摩擦力により機械的動力を伝達する摩擦式ディスククラッチ等で構成されている。第1クラッチ21は、内燃機関5の機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能に構成されている。第1クラッチ21を係合状態にすることで、機関出力軸8と第1入力軸27が係合して一体に回転することが可能となる。
【0043】
第2クラッチ22は、第1クラッチ21と同様に、摩擦式ディスククラッチ等で構成されており、内燃機関5の機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能に構成されている。第2クラッチ22を係合状態にすることで、機関出力軸8と第2入力軸28が係合して一体に回転することが可能となる。なお、第1クラッチ21及び第2クラッチ22には、湿式多板クラッチや、乾式単板クラッチを用いることができる。
【0044】
第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合状態と非係合状態(解放状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、デュアルクラッチ機構20において、第1クラッチ21又は第2クラッチ22のうちいずれか一方を係合状態にして、他方を解放状態にすることで、内燃機関5からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方を介して車両推進軸66に伝達させることが可能となっている。」(段落【0030】ないし【0044】)

キ 「【0052】
また、ハイブリッド車両1の駆動装置10には、原動機としてモータ50が設けられている。モータ50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換して回収する発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆる「モータジェネレータ」である。モータ50は、永久磁石式交流同期電動機で構成されており、後述するインバータ110から三相の交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するステータ54と、回転磁界に引き付けられて回転するロータ52とを有している。モータ50には、ロータ52の回転角位置を検出するレゾルバ(図示せず)が設けられており、ロータ52の回転角位置に係る信号をECU100に送出している。
【0053】
モータ50のロータ52は、第2入力軸28に結合されており、モータ50がロータ52から出力するトルク(以下、出力トルクと記す)は、第2変速機構40の第2入力軸28に伝達される。また、モータ50は、第2出力軸48からロータ52に伝達された機械的動力(トルク)を交流電力に変換して二次電池120に回収することも可能となっている。
【0054】
なお、以下の説明において、モータ50を電動機として機能させて、モータ50のロータ52から機械的動力を出力することを「力行」と記す。これに対して、モータ50を発電機として機能させて、駆動輪88からモータ50のロータ52に伝達された機械的動力を電力に変換して回収すると共に、このときロータ52に生じる回転抵抗により、ロータ52及びこれに係合する部材(例えば、駆動輪88)の回転を制動することを「回生制動」と記す。加えて、モータ50に回生制動を行わせることにより、モータ50のロータ52に係合する駆動軸80及び駆動輪88に作用するトルクを「回生制動トルク」と記す。モータ50による回生制動、すなわちモータ50の電動機/発電機としての機能の切替えと、駆動輪88に作用する回生制動トルクは、ECU100により制御される。
【0055】
また、ハイブリッド車両1には、モータ50に交流電力を供給する電力供給装置として、インバータ110が設けられている。インバータ110は、二次電池120から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ50に供給することが可能に構成されている。また、インバータ110は、モータ50からの交流電力を直流電力に変換して二次電池120に回収することも可能に構成されている。このようなインバータ110からモータ50への電力供給、及びモータ50からの電力回収は、ECU100により制御される。
【0056】
また、ハイブリッド車両1には、原動機から車両推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に、駆動輪88に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70が設けられている。終減速装置70は、車両推進軸66に結合された駆動ピニオン68と、駆動ピニオン68と直交して噛み合うリングギヤ72と、リングギヤ72に固定された差動機構74とを有している。終減速装置70は、原動機すなわち内燃機関5及びモータ50のうち少なくとも一方から車両推進軸66に伝達された機械的動力を、駆動ピニオン68及びリングギヤ72により減速し、差動機構74により左右の駆動軸80に分配して、駆動軸80に結合されている駆動輪88を回転駆動することが可能となっている。
【0057】
また、ハイブリッド車両1において、駆動輪88の近傍には、摩擦力を発生して駆動輪88を制動することが可能な摩擦ブレーキ90が設けられている。摩擦ブレーキ90は、いわゆるディスク式ブレーキであり、駆動輪88すなわち駆動軸80と共に回転するロータディスク92と、ハイブリッド車両1に固定され、図示しないアクチュエータに連動して作動するブレーキキャリパ94と、ブレーキキャリパ94に装着され、ロータディスク92と摺接可能なブレーキパッド95とを有している。ブレーキペダルを操作すると、摩擦ブレーキ90は、ブレーキキャリパ94を作動させてブレーキパッド95がロータディスク92を挟み込み、ブレーキパッド95とロータディスク92との間に摩擦力を発生させる。この摩擦力により、摩擦ブレーキ90は、ハイブリッド車両1の推進エネルギ、すなわち駆動輪88の回転運動エネルギを熱エネルギに変換して、駆動輪88の回転を制動することが可能となっている。
(中略)
【0059】
なお、以下の説明において、摩擦ブレーキ90を作動状態にして、摩擦力により駆動軸80及びこれに係合する駆動輪88の回転を制動することを「摩擦制動」と記す。加えて、摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせることにより、摩擦ブレーキ90のロータディスクに係合する駆動軸80及び駆動輪88に作用するトルクを「摩擦制動トルク」と記す。摩擦ブレーキ90による摩擦制動、すなわち摩擦ブレーキ90の作動/非作動状態の切替えと、駆動輪88に作用する摩擦制動トルクは、ECU100により制御される。
【0060】
また、ハイブリッド車両1には、内燃機関5及びモータ50と、第1及び第2変速機構30,40と、デュアルクラッチ機構20と、摩擦ブレーキ90とを協調して制御する制御手段として、ECU100が設けられている。ECU100は、機関出力軸8の回転角位置(以下、クランク角と記す)に係る信号と、二次電池120の蓄電状態(SOC)に係る信号と、モータ50のロータ52の回転角位置に係る信号等を検出している。また、ECU100は、第1変速機構30及び第2変速機構40において選択されている変速段、すなわちカップリング機構31e?46eの係合/解放状態と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態と、摩擦ブレーキ90の作動/非作動状態とを検出している。また、ECU100は、運転者により操作される、アクセルペダル(図示せず)の操作量に係る信号と、ブレーキペダル(図示せず)の操作量に係る信号とを検出している。
【0061】
これら信号に基づいて、ECU100は、各種制御変数を算出している。制御変数には、内燃機関5の機関出力軸8の回転速度(以下、機関回転速度と記す)と、モータ50のロータ52の回転速度(以下、モータ回転速度と記す)と、モータ50の出力トルクと、駆動軸80及び駆動輪88に作用している回生制動トルクと、駆動軸80及び駆動輪88に作用している摩擦制動トルクと、モータ50のハイブリッド車両1の走行速度(以下、車速と記す)、二次電池120の蓄電状態等が含まれている。
【0062】
これら制御変数に基づいて、ECU100は、内燃機関5及びモータ50の運転状態、及び駆動軸80及び駆動輪88に作用している、摩擦制動トルクと回生制動トルクの合計の制動トルクを把握している。ECU100は、第1及び第2変速機構30,40における変速段の選択、すなわち各カップリング機構31e?46eの係合/解放状態の切替えと、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態の切替えと、モータ50の出力トルク及びロータ回転速度を制御することが可能となっている。また、ECU100は、駆動軸80及び駆動輪88に作用する摩擦制動トルク及び回生制動トルクを制御することが可能となっている。」(段落【0052】ないし【0062】)

ク 「【0068】
また、ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5とモータ50とを併用又は選択使用することで、様々な車両走行(走行モード)を実現することができる。例えば、原動機として内燃機関5のみを選択使用する「エンジン走行」、原動機として内燃機関5及びモータ50を併用する「HV走行」、原動機としてモータ50のみを選択使用する「モータ走行」等がある。
(中略)
【0075】
このとき、ECU100がモータ50を力行させて、ロータ52から第2入力軸28に出力トルクを伝達することで、駆動装置10は、内燃機関5からの機械的動力とモータ50からの機械的動力とを、第2入力軸28で統合し、第2変速機構40により変速して、動力統合ギヤ58を介して車両推進軸66に伝達することができ、ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5とモータ50とを併用する「HV走行」を実現することができる。
【0076】
一方、ハイブリッド車両1にモータ走行を行わせる場合、上述のエンジン走行及びHV走行の制御とは異なり、ECU100は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22をいずれも解放状態に制御すると共に、モータ50を力行させる。ECU100は、第2変速機構40の変速段42,44,46のうち、いずれか1つの変速段を選択して、当該変速段に対応するカップリング機構を係合状態にする。駆動装置10は、モータ50からの機械的動力を、第2入力軸28で受け、第2変速機構40の変速段42,44,46のうち選択した変速段で変速して、第2出力軸48から車両推進軸66に伝達する。
【0077】
このようなハイブリッド車両1のモータ走行中においては、ECU100が第1及び第2クラッチ21,22の双方を解放状態にしているため、モータ50の力行により、非作動状態にある内燃機関5の機関出力軸8が回転駆動されて、内燃機関5のポンピングロス等の動力損失が生じてしまうことを防止している。」(段落【0068】ないし【0077】)

ケ 「【0078】
このようなハイブリッド車両1において、モータ走行を行っている状態から、運転者によるアクセルペダルの操作量がゼロとなり、モータ50の力行を止めた場合、モータ50による回生制動を行いながら、ハイブリッド車両1を減速させるコーストダウン走行を行うこととなる。このようなモータ50の回生制動を伴う車両減速中においては、再びハイブリッド車両1を加速させる場合に備えて、第2変速機構40において、モータ回転速度の低下に応じて、順次、より低速側の変速段に変速することが求められている。
【0079】
しかし、第2変速機構40において、より低速側の変速段に変速する変速動作(以下、ダウンシフトと記す)を行うためには、瞬間的に回生制動を停止しロータを空転させて、モータと駆動輪との間においてトルクが作用しない状態を作り出す必要がある。このように、ハイブリッド車両1の車両減速中に、モータ50による回生制動を瞬間的に停止してしまうと、その分、駆動輪88に作用する回生制動トルクが減少して、ハイブリッド車両1の減速度に変動が生じてしまうという問題が生じる。
【0080】
そこで、本実施例に係るハイブリッド車両1において、制御手段としてのECUは、モータによる回生制動を伴う車両減速中において、第2変速機構のダウンシフトを行う場合、モータに回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキに摩擦制動を行わせて、変速動作を行うことを特徴としており、以下に、コーストダウンを行う場合の車両減速に係る制御処理(以下、単に「減速制御」と記す)について、図1、図4及び図5を用いて説明する。
【0081】
図4は、ECUが実行する減速制御を示すフローチャートである。図5は、減速制御を行っている場合のハイブリッド車両の動作を説明するタイミングチャートである。なお、本実施例では、一例として、第6速ギヤ段を用いてのモータ走行を行っていた状態から、ハイブリッド車両1を減速させる場合について説明する。
【0082】
図1に示すように、ハイブリッド車両1のモータ走行中において、内燃機関5は非作動状態にあり、第1クラッチ21及び第2クラッチ22は、ECU100により、いずれも解放状態に制御されている。そして、アクセルペダルの操作量がゼロとなったときに、以下の減速制御が繰り返し実行される。
【0083】
図4に示すように、まず、ステップS102において、ECU100は、回生制動を行う要求があるか否かを判定する。具体的には、ECU100は、ブレーキペダルが操作されており、且つ二次電池120の蓄電状態(SOC)が所定値以下であるなど、回生制動を行う必要があるか否かを判定する。
【0084】
回生制動を行う要求がない(No)と判定された場合、ステップS104において、ECU100は、モータ50による回生制動を行うことなく、摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせて、ハイブリッド車両1を減速させる。ECU100は、ブレーキペダルの操作量に応じて摩擦ブレーキ90を制御して摩擦制動トルクを調整することとなる。
【0085】
一方、回生制動を行う要求があると判定された場合、ステップS106において、ECU100は、モータ50に回生制動を行わせて、ハイブリッド車両1を減速させる。図1及び図5に示すように、ハイブリッド車両1は、駆動輪88からの機械的動力を、第2変速機構40の第6速ギヤ段46を介してモータ50のロータ52に伝達させており、ECU100は、モータ50を発電機として機能させる共に、駆動輪88に作用する回生制動トルクを調整する。このとき、駆動輪88に作用する制動トルクは、全て、回生制動トルク(図5にハッチングMで示す)となっている。モータ50に回生制動を行わせることで、ハイブリッド車両1の車速が低下し、当該車速の低下に比例して、駆動輪88に係合しているモータ50のロータ52の回転速度、すなわちモータ回転速度Nmも低下する。
【0086】
そして、ステップS108において、ECU100は、現在、第2変速機構40において選択している第6速ギヤ段46に対応する変速回転速度(Nm_chg6→4)を取得する。変速回転速度(Nm_chg6→4)は、第2変速機構40において、現在、選択している変速段すなわち第6速ギヤ段46から、より低速側の変速段すなわち第4速ギヤ段44への変速を決定するモータ回転速度Nmである。
【0087】
変速回転速度には、第6速ギヤ段46から第4速ギヤ段44への変速を決定する変速回転速度(Nm_chg6→4)と、第4速ギヤ段44から第2速ギヤ段42への変速を決定する変速回転速度(Nm_chg4→2)があり、これら変速回転速度は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROM(図示せず)に記憶されている。なお、本実施例では、変速回転速度(Nm_chg6→4)は、変速回転速度(Nm_chg4→2)に比べて高いモータ回転速度に設定されているが、これら変速回転速度は、同一の値に設定されていても良い。
【0088】
そして、ステップS110において、ECU100は、モータ回転速度Nmが、第6速ギヤ段46から第4速ギヤ段44への変速を決定する変速回転速度(Nm_chg6→4)に達したか否かを判定する。モータ回転速度Nmが変速回転速度(Nm_chg6→4)に達していない(No)と判定された場合、ECU100は、第6速ギヤ段46を介しての回生制動を継続する。
【0089】
一方、モータ回転速度Nmが変速回転速度(Nm_chg6→4)に達したと判定された場合、ステップS112において、ECU100は、モータに回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせる(時点T1)。詳細には、モータ50の発電機としての機能を停止し、回生制動トルクをゼロにして、ロータ52が空転する状態にする。つまり、ECU100は、時点T1において、モータ50による回生制動から摩擦ブレーキ90による摩擦制動に切替える。これにより、ハイブリッド車両1は、第2変速機構40において第6速ギヤ段46から第4速ギヤ段44への変速動作が可能となる。
【0090】
この時点T1において、ECU100は、モータ50による回生制動トルクをゼロにすると共に、摩擦ブレーキ90を作動状態にして摩擦制動を行わせ、駆動輪88に摩擦制動トルク(図5にハッチングBで示す)を発生させる。ECU100は、回生制動から摩擦制動に切替える時点T1において、回生制動トルクの値と、摩擦制動トルクの値が連続するように、モータ50の回生制動と摩擦ブレーキ90の摩擦制動とを協調して制御する。これにより、回生制動から摩擦制動に切替えるときに、駆動輪88に作用する合計の制動トルクに変動が生じないようにしている。
【0091】
そして、時点T1の直後において、ECU100は、第2変速機構40において、第6速ギヤ段46から第4速ギヤ段44への変速動作を実行する(S116)。具体的には、ECU100は、第6速カップリング機構46eを係合状態から解放状態にすると共に、第4速カップリング機構44eを解放状態から係合状態にする変速動作を行う。
【0092】
そして、ステップS120において、ECU100は、上述の変速動作、すなわち第2変速機構40における第6速ギヤ段から第4速ギヤ段へのダウンシフトが完了したか否かを判定する。変速動作が完了していない(No)と判定された場合、ECU100は、モータ50の回生制動の停止と、摩擦ブレーキ90による摩擦制動の実行を継続する。
【0093】
変速動作が完了した(Yes)と判定された場合、ステップS122において、ECU100は、モータ50に回生制動を再開させると共に、摩擦ブレーキ90に摩擦制動を停止させる(時点T2)。詳細には、ECU100は、モータ50に発電機として機能させて、回生制動トルクを発生させる。これと共に、ECU100は、摩擦ブレーキ90を非作動状態に制御して、摩擦制動トルクをゼロにする。つまり、ECU100は、時点T2において、摩擦ブレーキ90による摩擦制動からモータ50による回生制動に切替えている。駆動輪88の回転動力は、第2変速機構40の第4速ギヤ段44により増速されてロータ52に伝達されて、モータ50により電力に変換されて二次電池120に回収される。
【0094】
この時点T2において、ECU100は、摩擦制動トルクをゼロにすると共に、モータを発電機として機能させて、駆動輪88に回生制動トルク(図5にハッチングMで示す)を作用させる。ECU100は、摩擦制動から回生制動に切替える時点T2においても、時点T1と同様に、回生制動トルクの値と、摩擦制動トルクの値が連続するように、モータ50と摩擦ブレーキ90とを協調して制御する。これにより、モータ50による回生制動から摩擦ブレーキ90による摩擦制動に切替えるときに、駆動輪88に作用する合計の制動トルクに変動が生じないようにしている。
【0095】
そして、ECU100は、ステップS102に戻り、第4速ギヤ段から第2速ギヤ段に変速する場合についても、この減速制御を実行する。回生制動の要求があり、且つモータ回転速度が変速回転速度(Nm_chg4→2)に達した場合、ECU100は、モータ50に回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせて、第2変速機構40において第4速ギヤ段から第2速ギヤ段42への変速動作(ダウンシフト)を開始する(時点T3)。そして、第2速ギヤ段42への変速動作が完了した直後、ECU100は、モータ50に回生制動を再開させると共に、摩擦ブレーキ90に摩擦制動を停止させる(時点T4)。
【0096】
このように、第2変速機構40の変速動作(ダウンシフト)は、第6速ギヤ段46から第4速ギヤ段44に変速する場合には、回生制動から摩擦制動に切替えた時点T1と、摩擦制動から回生制動に切替えた時点T2との間において、第4速ギヤ段44から第2速ギヤ段42に変速する場合にも、回生制動から摩擦制動に切替えた時点T3と、摩擦制動から回生制動に切替えた時点T4との間において、ECU100により実行される。すなわち、ECU100は、モータ50に回生制動を停止させて摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせているときに、第2変速機構40において、より低速側の変速段への変速動作(ダウンシフト)を行っている。
【0097】
モータ50のロータ52が第2入力軸28に係合する第2変速機構40において変速動作(ダウンシフト)を行うため、モータ50による回生制動を停止して、駆動輪88に回生制動トルクを作用させることができなくても、摩擦ブレーキ90による摩擦制動を行わせて駆動輪88に摩擦制動トルクを作用させることで、駆動輪88に作用する合計の制動トルクが減少することを抑制することができ、第2変速機構40の変速動作によりハイブリッド車両1の減速度に変動が生じてしまうことを抑制することができる。
【0098】
以上に説明したように本実施例において、ハイブリッド車両1は、機関出力軸8から機械的動力を出力する内燃機関5と、発電機として機能してロータ52を制動する回生制動を行うことが可能なモータ50と、機関出力軸8からの機械的動力を第1入力軸27で受け、複数の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪88と係合する第1出力軸37に伝達可能な第1変速機構30と、機関出力軸8及びロータ52からの機械的動力を、当該ロータ52と係合する第2入力軸28で受け、複数の変速段42,44,46のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪88と係合する第2出力軸48に伝達可能な第2変速機構40と、機関出力軸8と第1入力軸27とを係合可能な第1クラッチ20と、機関出力軸8と第2入力軸28とを係合可能な第2クラッチ22と、摩擦力を発生して駆動輪88を制動する摩擦制動を行うことが可能な摩擦ブレーキ90と、第2変速機構40における変速動作と、摩擦ブレーキ90による摩擦制動と、モータ50による回生制動とを制御可能な制御手段としてのECU100と、を備え、駆動輪88の回転を第2変速機構40により変速し、ロータ52に伝達させてモータ50により回生制動を行うことが可能となっている。
【0099】
ECU100は、モータ50による回生制動を伴う車両減速中において、第2変速機構40の変速段を、より低速側の変速段に変速する場合、モータ50に回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせて、第2変速機構40の変速動作を行うものとした。変速動作を行うために、回生制動を停止しても、摩擦制動により駆動輪88を制動することで、駆動輪88に作用する制動トルクが減少することを抑制することができ、第2変速機構40の変速動作により、ハイブリッド車両1の減速度に変動が生じることを抑制することができる。
【0100】
また、本実施例において、ECU100は、第2変速機構40における変速動作が完了した直後、モータ50に回生制動を再開させると共に摩擦ブレーキ90に摩擦制動を停止させるものとした。変速動作が完了した後は、回生制動の再開と共に摩擦制動を停止するので、減速度に変動が生じることを抑制しつつ、変速動作を行う期間以外は、極力、モータ50に回生制動を行わせて、ハイブリッド車両1を減速させることができる。
【0101】
また、本実施例において、ECU100は、モータ50による回生制動と、摩擦ブレーキ90による摩擦制動とを切替えるときに、モータ50に回生制動を行わせることにより駆動輪88に作用するトルクである回生制動トルクと、摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせることにより駆動輪88に作用するトルクである摩擦制動トルクとの値が連続するように、モータ50と摩擦ブレーキ90とを協調して制御するものとしたので、回生制動と摩擦制動を切替える時に、駆動輪88に作用する合計の制動トルクに変動が生じることを確実に防止することができる。
【0102】
なお、本実施例において、ハイブリッド車両1の駆動装置10は、内燃機関5及びモータ50からの機械的動力を統合して、車両推進軸66に出力し、車両推進軸66に伝達された機械的動力は、終減速装置70及び駆動軸80を介して駆動輪88に伝達されるものとしたが、駆動装置10から駆動輪88への動力伝達の態様は、これに限定されるものではない。例えば、駆動装置が、内燃機関及びモータからの機械的動力を統合して、駆動輪と一体に回転する駆動軸(ドライブシャフト)に直接、出力するものとしても良い。」(段落【0078】ないし【0102】)

(2)上記(1)アないしケ及び図1ないし5の記載から、以下のことが分かる。

サ 上記(1)アないしケ及び図1ないし5の記載から、引用文献には、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両の駆動装置10が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)エないしケ及び図1の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の駆動装置10は、内燃機関5から動力が出力される機関出力軸8と、機関出力軸8に平行に配置され、第1クラッチ21によって選択的に機関出力軸8と連結される第1入力軸27と、機関出力軸8に平行に配置され、第2クラッチ22によって選択的に機関出力軸8に連結される第2入力軸28と、機関出力軸8と平行に配置され、被駆動部に動力を出力する第1,第2出力軸37,48を有するものであることが分かる。

ス 上記(1)エないしケ及び図1の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の駆動装置10は、第1入力軸27上に配置され、第1入力軸27に選択的に連結される複数のギヤ31a,33a,35aよりなる第1ギヤ群と、第2入力軸28上に配置され、第2入力軸28に選択的に連結される複数のギヤ42a,44a,46aよりなる第2ギヤ群と、第1,第2出力軸37,48上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤ31a,33a,35aと前記第2ギヤ群のギヤ42a,44a,46aとが共に噛合する複数のギヤ31c,33c,35c,42c,44c,46cよりなる第3ギヤ群と、を備えるものであることが分かる。

セ 上記(1)エないしケ及び図1の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の駆動装置10において、第2入力軸28は遊星歯車機構を介することなく動力を第2出力軸48に伝達可能であることが分かる。

ソ 上記(1)エないしケ及び図1ないし5の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の駆動装置10は、EV走行中に第1ギヤ群のギヤを選択して電動機で回生しつつ車両を減速する場合に、第1ギヤ群の高速側変速ギヤから第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、電動機の回生力を減らしながら車輪ブレーキによる制動力を増やことで電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、電動機の回生力を増やしながら車輪ブレーキによる制動力を減らすものであることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)並びに図1ないし5の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関5とモータ50とを備えるハイブリッド車両の駆動装置10であって、
前記内燃機関5から動力が出力される機関出力軸8と、
前記機関出力軸8に平行に配置され、第1クラッチ21によって選択的に前記機関出力軸8と連結される第1入力軸27と、
前記機関出力軸8に平行に配置され、第2クラッチ22によって選択的に前記機関出力軸8に連結される第2入力軸28と、
前記機関出力軸8と平行に配置され、被駆動部に動力を出力する第1,第2出力軸37,48と、
前記第1入力軸27上に配置され、前記第1入力軸27に選択的に連結される複数のギヤ31a,33a,35aよりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸28上に配置され、前記第2入力軸28に選択的に連結される複数のギヤ42a,44a,46aよりなる第2ギヤ群と、
前記第1,第2出力軸37,48上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤ31a,33a,35aと前記第2ギヤ群のギヤ42a,44a,46aとが共に噛合する複数のギヤ31c,33c,35c,42c,44c,46cよりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第2入力軸28は遊星歯車機構を介することなく動力を前記第1,第2出力軸37,48に伝達可能であり、
EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合に、前記第1ギヤ群の高速側変速ギヤから前記第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、前記電動機の回生力を減らしながら車輪ブレーキによる制動力を増やすことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を減らす、ハイブリッド車両の駆動装置10。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「内燃機関5」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「モータ50」は「電動機」に、「ハイブリッド車両の駆動装置10」は「車両用駆動装置」に、「機関出力軸8」は「内燃機関出力軸」に、「第1クラッチ21」は「第1断接手段」に、「第1入力軸27」は「第1入力軸」に、「第2クラッチ22」は「第2断接手段」に、「第2入力軸28」は「第2入力軸」に、「第1,第2出力軸37,48」は「出入力軸」に、「複数のギヤ31a,33a,35aよりなる第1ギヤ群」は「複数のギヤよりなる第1ギヤ群」に、「複数のギヤ42a,44a,46aよりなる第2ギヤ群」は「複数のギヤよりなる第2ギヤ群」に、「複数のギヤ31c,33c,35c,42c,44c,46cよりなる第3ギヤ群」は「複数のギヤよりなる第3ギヤ群」に、それぞれ相当する。

また、引用発明における「前記電動機の回生力を減らしながら車輪ブレーキによる制動力を増やすことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を減らす」は、「前記電動機の回生力を減らしながら車輪ブレーキによる制動力を増や(す)ことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を減らす」という限りにおいて、本願補正発明における「前記電動機の回生力を徐々に減らしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に増や(す)ことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を徐々に増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を徐々に減らす」に相当する。

したがって、両者は、
「内燃機関と電動機とを備える車両用駆動装置であって、
前記内燃機関から動力が出力される内燃機関出力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第1断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸と連結される第1入力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸に連結される第2入力軸と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、被駆動部に動力を出力する出入力軸と、
前記第1入力軸上に配置され、前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共に噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備え、
第2入力軸は前記遊星歯車機構を介することなく動力を前記出入力軸に伝達可能であり、
EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合に、前記第1ギヤ群の高速側変速ギヤから前記第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、前記電動機の回生力を減らしながら車輪ブレーキによる制動力を増や(す)ことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を減らす、車両用駆動装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)ギヤ群及び遊星歯車機構の配置に関して、本願補正発明においては、「前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共に噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した遊星歯車機構と、を備え、前記第1回転要素は、前記第1入力軸に接続されるとともに前記電動機に接続され、前記第3回転要素は、ロック機構に接続され、前記第2回転要素は、前記第1入力軸上に配置された前記第1ギヤ群のギヤと連結されて動力を前記出入力軸に伝達可能であり、前記第2入力軸は前記遊星歯車機構を介することなく動力を前記出入力軸に伝達可能」であるのに対し、引用発明においては、「前記第1入力軸上に配置され、前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され、前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、前記第1,第2出力軸上に配置され、前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共に噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備え、第2入力軸は前記遊星歯車機構を介することなく動力を前記出入力軸に伝達可能」であるが、本願補正発明のように特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)制動力の制御に関して、本願補正発明においては、「EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合に、前記第1ギヤ群の高速側変速ギヤから前記第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、前記電動機の回生力を徐々に減らしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に増や(す)ことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を徐々に増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を徐々に減らす」のに対し、引用発明においては、「EV走行中に前記第1ギヤ群のギヤを選択して前記電動機で回生しつつ前記車両を減速する場合に、前記第1ギヤ群の高速側変速ギヤから前記第1ギヤ群の低速側変速ギヤにシフトダウンする間、前記電動機の回生力を減らしながら車輪ブレーキによる制動力を増やすことで前記電動機の回生力の低下を補うように前記車輪ブレーキに制動力を作用させ、その後、前記電動機の回生力を増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を減らす」ものであるが、「前記電動機の回生力を徐々に減らしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に増や」し、「前記電動機の回生力を徐々に増やしながら前記車輪ブレーキによる制動力を徐々に減らす」のかどうか、明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

2-3 判断
(1)相違点1について
本願補正発明においては、変速機を構成する部分に「第1同期装置」(実施例における第1変速用シフター51、51A、第3変速用シフター51B)及び「第2同期装置」(実施例における第2変速用シフター52、52A、第4変速用シフター52B)を備えているが、引用発明がこのような同期装置を備えているのかどうか明らかでない。
しかしながら、自動車の変速機において同期装置を備えることは、本願の原出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開2009-35168号公報[例えば、段落【0024】ないし【0028】及び図1ないし6を参照。]及び特表2007-534899号[例えば段落【0017】及び図1を参照。]を参照。)であり、引用発明においても、スムーズに変速を行うために、何らかの同期装置を備えているとみるのが自然である。
また、引用発明は、「第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した遊星歯車機構」を備えていないが、車両用駆動装置の技術分野において、内燃機関及び電動機の動力を伝達するために、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成した遊星歯車機構を設け、3つの回転要素をそれぞれ電動機、ロック機構及び出入力軸に接続する技術は、本願の原出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2005-333713号公報[例えば、段落【0020】並びに図1及び2を参照。]、特開2005-329926号公報[例えば、段落【0023】並びに図1及び2を参照。]及び特開2004-17890号公報[例えば、段落【0007】及び図1を参照。]を参照。)であって、動力伝達経路に周知技術2のような遊星歯車機構を備えるようにすることは、当該技術分野における設計事項にすぎない。
してみれば、引用発明において、周知技術1及び2を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
制動力の制御に関して、引用文献には、次のように記載されている。
「【0089】
一方、モータ回転速度Nmが変速回転速度(Nm_chg6→4)に達したと判定された場合、ステップS112において、ECU100は、モータに回生制動を停止させると共に摩擦ブレーキ90に摩擦制動を行わせる(時点T1)。詳細には、モータ50の発電機としての機能を停止し、回生制動トルクをゼロにして、ロータ52が空転する状態にする。つまり、ECU100は、時点T1において、モータ50による回生制動から摩擦ブレーキ90による摩擦制動に切替える。これにより、ハイブリッド車両1は、第2変速機構40において第6速ギヤ段46から第4速ギヤ段44への変速動作が可能となる。
【0090】
この時点T1において、ECU100は、モータ50による回生制動トルクをゼロにすると共に、摩擦ブレーキ90を作動状態にして摩擦制動を行わせ、駆動輪88に摩擦制動トルク(図5にハッチングBで示す)を発生させる。ECU100は、回生制動から摩擦制動に切替える時点T1において、回生制動トルクの値と、摩擦制動トルクの値が連続するように、モータ50の回生制動と摩擦ブレーキ90の摩擦制動とを協調して制御する。これにより、回生制動から摩擦制動に切替えるときに、駆動輪88に作用する合計の制動トルクに変動が生じないようにしている。」(段落【0089】及び【0090】)
上記のように、「ECU100は、回生制動から摩擦制動に切替える時点T1において、回生制動トルクの値と、摩擦制動トルクの値が連続するように、モータ50の回生制動と摩擦ブレーキ90の摩擦制動とを協調して制御する。これにより、回生制動から摩擦制動に切替えるときに、駆動輪88に作用する合計の制動トルクに変動が生じないようにしている。」ことは、本願補正発明における「電動機の回生力の低下を補うように車輪ブレーキに制動力を作用させ」ることと軌を一にするものである。
そして、モータの回生制動と摩擦ブレーキの摩擦制動とを協調して制御するにあたり、回生制動と摩擦制動とを一瞬で切り替えることは現実には困難であるから、実際には、ある程度の時間をかけて両者を切り替えることが自然である。
また、「モータの回生制動と摩擦ブレーキの摩擦制動とを協調して制御」する際に、「電動機の回生力を徐々に減らしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に増やす」こと及び「電動機の回生力を徐々に増やしながら車輪ブレーキによる制動力を徐々に減らす」ことは、本願の原出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術3」という。例えば、特開2009-6735号公報[例えば、段落【0070】ないし【0075】及び図7を参照。]、特開2008-295266号公報[例えば、段落【0030】及び図3を参照。]及び特開2008-301564号公報[例えば、段落【0040】及び図2を参照。]等を参照。)である。

してみれば、引用発明において、周知技術3を適用することにより、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

なお、請求人が平成27年9月7日に提出した上申書の内容についても検討したが、上記判断を変更するには至らなかった。

(3)効果について
そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別に顕著な効果を奏するものではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成27年5月8日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年1月9日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の〔理由〕1(1)アの請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の〔理由〕2 2-1に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の〔理由〕2の2-2及び2-3において検討した本願補正発明における限定の一部を省いて上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものに相当する本願補正発明が、前記第2の〔理由〕2の2-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術1ないし3記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から上記事項を省いた本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別に顕著な効果を奏するものではない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-17 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-07 
出願番号 特願2013-259428(P2013-259428)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 車両用駆動装置  
代理人 本山 慎也  

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