• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1310407
審判番号 不服2014-4335  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-05 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2009-541622「(R)-プラミペキソール組成物およびその使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日国際公開、WO2008/074033、平成22年 4月30日国内公表、特表2010-513316〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成19年12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年12月14日(US)アメリカ合衆国、2007年3月14日(US)アメリカ合衆国(3件)、2007年4月10日(US)アメリカ合衆国、2007年5月16日(US)アメリカ合衆国、2007年10月10日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年12月14日受付けの手続補正書が提出され、平成25年1月11日付け拒絶理由通知に対して平成25年5月16日受付けの意見書及び手続補正書が提出され、平成25年5月20日受付けの手続補足書が提出された後、平成25年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年3月5日に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年3月7日受付けの手続補足書が提出された後、平成27年7月6日に審判官と請求人復代理人との面接が行われ、その際の質問事項に対する回答が平成27年7月24日受付けの上申書により提出されたものである。

2 本願発明及び原査定の拒絶の理由
本願の請求項1?33に係る発明は、平成25年5月16日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「 【請求項19】
少なくとも150ミリグラムの(R)-プラミペキソールを含む、神経変性疾患を治療するための医薬組成物。」

3 原査定の拒絶の理由及び引用刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、(2)に示す引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2005-516911号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(ア)
「【請求項1】
ALS患者の処置方法であって、該患者に
一般構造式:

[R_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)は、独立して、HおよびC_(1)-C_(3)アルキルからなる群から選択される]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物を投与する過程を含む方法。
【請求項2】
R_(1)、R_(2)およびR_(4)はHであり、R_(3)はC_(1)-C_(3)アルキルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該テトラヒドロベンゾチアゾールがプラミペキソールである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該組成物においてプラミペキソールの90%以上が、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項3記載の該方法。」(請求項1?4)

(イ)
「【0003】
本発明の分野
本発明は、神経変性疾患を処置するためのプラミペキソール(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)の使用に関する。より具体的には、本発明は、神経変性疾患を処置するために、神経保護剤として、実質的に純粋なステレオアイソマーであるR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩の使用を目的とするものである。」(段落0003)

(ウ)
「【0004】
本発明の背景
神経変性疾患(NDD)、例えばアルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)は、脳内のある種のニューロン群の急速な損失から生じる。」(段落0004)

(エ)
「【0005】
証拠を重ねると、散発性成人NDDの一次的な病因成分が、ミトコンドリアの機能不全およびその結果起こる増加した細胞性酸化ストレスに関連があるという強い支持を提供する。」(段落0005)

(オ)
「組織研究および散発性PDおよびADのcybridモデルからの証拠を組合せた評価により、酸素フリーラジカルを除去し、かつミトコンドリアで生じる細胞死からの細胞を保護し得る薬剤による酸化ストレスの除去が、これら疾患のための神経保護剤として開発される化合物の重要な特徴として考えられると示唆される(Beal, Exp Neurol 153: 135-42,2000)。
【0006】
酸化ストレスは、致命的な神経変性疾患筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも関連する。また、ルー・ゲーリック(Lou Gehrig)病として知られるALSは、皮質、脳幹および脊髄のモーターニューロンに関連する進行性かつ重篤な神経変性疾患である。ALSは、随意筋に関する進行的な衰弱化を生じる上位および下位モーターニューロンの変性疾患であり、結果として死を伴う。」(段落0005?段落0006)

(カ)
「【0013】
S(-)PPXを用いる投与量は、その強いドーパミンアゴニスト特性により、ヒトにおいて限定され、達成し得る脳の薬物レベルを制限する。PPXのR(+)エナンチオマーは、ドーパミンアゴニスト活性(Schneider and Mierau, J Med Chem 30: 494-498,1987)をほとんど持たないが、S(-)PPXの望ましい分子的/抗酸化剤特性を保持することができるので、この化合物は、本明細書中で細胞死カスケードの活性化および神経変性疾患により生じる活力消失の有効な阻害剤としての有用性を持つものとして示唆される。」(段落0013)

(キ)
「【0037】
(発明の要旨)
本発明は、ALSを含む神経変性疾患を処置するためにテトラヒドロベンゾチアゾールの使用を指向する。より具体的には、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、一般構造式:

(式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)は、独立して、H、C_(l)-C_(3)アルキルおよびC_(l)-C_(3)アルケンからなる群から選択される)を持つ。」(段落0037)

(ク)
「【0038】
ある実施態様に従って、本発明は、ALSを処置する方法を指向する。該方法は、患者に、一般構造式:

(式中、R_(1)およびR_(2)はHであり、R_(3)およびR_(4)はHまたはC_(1)-C_(3)アルキルである)を持つ化合物を投与することを含む。ある好ましい実施態様において、R_(1)、R_(2)およびR_(4)はHであり、R_(3)はプロピルである。別の態様において、該組成物は、プラミペキソールを含み、プラミペキソール成分は、主に、プラミペキソールの2つのステレオアイソマー(R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(-)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールのいずれか)のうちの1つからなる。ある実施態様において、該組成物の活性な薬剤は、プラミペキソールのステレオアイソマー、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリド、または他の薬理学的に許容し得る塩(実質的にそのS(-)エナンチオマーを含まない)からなる。ある実施態様において、組成物を提供するが、組成物中、プラミペキソール化合物の80%以上が、R(+)立体配座で存在し、より好ましくはプラミペキソール化合物の90%以上または95%以上が、R(+)立体配座で存在する。ある実施態様において、プラミペキソールを含む組成物を提供するが、組成物中、プラミペキソール化合物の99%以上は、R(+)立体配座で存在する。
【0039】
ある実施態様において、組成物を提供するが、組成物には、主に、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリドまたは薬理学的に許容し得るそれらの塩、および医薬的に許容し得る担体からなる活性な薬剤を含む。この組成物は、NDDにおける神経細胞損失を防止(より具体的には、ALS患者の酸化ストレスを低下する)するために長期的に経口投与し得るか、急性脳損傷における神経細胞損失の防止のために処方され、静脈投与され得る。」(段落0038?段落0039)

(ケ)
「【0044】
また、本発明はヒトに投与するのに安全である。PD症候の処置に対して是認された強いドーパミンアゴニストであるS(-)プラミペキソールは、R(+)プラミペキソールのエナンチオマーである。しかし、R(+)プラミペキソールは、薬理学的ドーパミン活性を欠いている。従って、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩は、S(-)プラミペキソールよりもより大量の用量を投与でき、神経保護を提供し得る脳のレベルを達成しうる。ある実施態様に従って、ALSは、R(+)またはR(-)プラミペキソールのいずれかを投与することによって処置されるが、しかしながら、より高い用量を与えることが可能であるため、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールの投与が好ましい。実施例1に記載したように、S(-)およびR(+)アイソマーは、酸化ストレスの低下においてはほぼ等力である。しかし、R(+)アイソマーの使用により、ヒトへの高用量を与えることが可能となり、そのため、毒性酸素フリーラジカルの大きな低下を達成する。従って、ある実施態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹った患者での神経細胞死を低下する方法を提供し、その方法において、該患者は、一般構造式:

の化合物を含む医薬組成物を投与される。」(段落0044)

(コ)
「【0047】
NDDを処置するためのR(+)プラミペキソールの使用は、ドーパミンアゴニストのS(-)プラミペキソール(Mirapex,Pharmacia and Upjohn)に関する比較的不活性なステレオアイソマーであるために、ドーパミンアゴニストとしてS(-)プラミペキソールの使用に関連する重要な問題を解決する。Mirapexの用量は、血圧および精神作用に対するドーパミン作用性の副作用により制限される。R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、S(-)プラミペキソールの使用から起こる副作用を生じる効力が1%以下である。そのため、本発明は、一般的に、少量のドーパミンアゴニスト薬物療法でさえ不耐容であるAD患者に対して、より安全に投与され得る。また、本発明は、S(-)プラミペキソールより大量の用量で静脈投与され得る。すなわち、血圧の低下が有害であり得る卒中のような症状において安全に用いることができる。
【0048】
ある実施態様において、神経変性疾患を持つ患者を処置するための方法が提供さる、と同時にドーパミン作用性の副作用のリスクを低下させる。該方法は、プラミペキソール活性化剤および医薬的に許容し得る担体を含む組成物を投与する過程を含み、このなかのプラミペキソール活性化剤は、主にR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩からなる。ある実施態様において、処置される神経(組織)変性疾患は、ALS、アルツハイマー病およびパーキンソン病からなる群から選択され、該組成物は、1日あたり10mgから約500mgの用量で、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたは薬理学的に許容し得るそれらの塩を投与される。
【0049】
使用される用量は、もちろん処置されるべき特定の異常によるが、加えて年齢、体重、健康の一般的状態、重症度、処置頻度、そして追加の医薬が該処置に加わるかどうかを含む追加的ファクターによる。個々の活性な化合物の量は、当業者には既知の定法によって容易に決定される。例えば、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、10mg?500mgの1日全用量で、NDDに罹ったヒトに経口的に投与され得る。一方、テトラヒドロベンゾチアゾールは、10mgから100mgの単回注射用量で、および/または10mg/日?500mg/日の連続静脈点滴によって、急性脳損傷に罹ったヒトに非経腸投与され得る。」(段落0047?段落0049)

(サ)
「【0052】
さらに、図7に示したように、追加の研究を、マウスに対して行い、イン・ビボでの酸化ストレスの低下におけるプラミペキソールの効果を証明している。この研究において、マウスは、8週間、3つの異なる1日用量で、マウス飲料水中のR(+)PPXを投与され、次いで、脳中の酸化ストレスを増加させる神経毒(N-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)が投与された。次いで、脳組織は、酸素フリーラジカル産生について分析した。該データは、30mg/kg/日および100mg/kg/日用量が、脳中のフリーラジカルレベルの顕著な低下を生じることを示す。
【0053】
また、毒性学的研究がなされ、有害な作用の証拠は検出されなかった。特に、8週間の毒性学研究を、マウスの飲料水中にR(+)PPXを与えたマウスで行った。マウスの主な臓器の全ては、病理学的に試験され、病変はみられなかった。これは、神経保護剤としてR(+)PPXの有効性の問題を提示しないが、一方で、その薬物を、非常に高用量で長期的にヒトに投与する際の強い安全性(すなわち、実用性)を示している。」(段落0052?段落0053)

(シ)
「【0056】
実施例1:R(+)およびS(-)PPXは、細胞死カスケードの活性化に関する有効な阻害剤である。
材料および方法
細胞培養
SH-SY5Yヒト神経芽(細胞)腫細胞を、American Tissue Culture Collection (www. atcc. org)から得、複製状態の培養物中で維持した。カスパーゼアッセイおよびシトクロームC放出研究のために、細胞を10%胎児ウシ血清、抗生物質/抗真菌剤(micotic)[ペニシリン(100 IU/ml)、ストレプトマイシン硫酸塩(100μg/ml)、アンフォテリシンB(0.25μg/ml)]およびウリジン(50μg/ml)およびピルビン酸塩(100μg/ml)]を含有するDMEM/高グルコースを用いて、5%CO_(2)雰囲気、37℃で、T75フラスコ内でほぼ最大集団(2×10^(7)細胞/フラスコ)まで増殖させた。次いで、5mM メチルピリジニウムヨウ化物(MPP+;Sigma;www.sigma-aldrich.com)または100μM 25-35または35-25βアミロイドペプチド(Bachem;www.bachem.com)を用いて、時間を変えて、インキュベートし、その後回収した。細胞死の研究のために、該細胞を、96ウェルの黒底プレートに播種し、24時間、DMEM培地で増殖させ、次いで毒素に暴露した。
……(中略)……。
【0061】
結果
MPP+およびBA25-35によるカスパーゼ活性化
図1Bは、SHSY5Y細胞と5mMMPP+とのインキュベーション中の、カスパーゼ3活性に関するタイムコースを示す。活性の増加が4時間まで検出でき、24時間までに約2倍増加していた。図1Aは、細胞質中に放出されたシトクロームCタンパク質に対するウェスタンブロッドの結果を示す。生物化学的活性曲線に類似して、細胞質シトクロームCは、4時間まで少量でも検出可能で、12時間まで実質的に増加した。
【0062】
図2は、R(+)およびS(-)PPXエナンチオマーの両方が、MPP+暴露中、カスパーゼ3活性化を抑制することを示す。MPP+誘導によるカスパーゼ3活性の増加は、アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーターの内部膜部位上のATP結合部位の特異的アンタゴニストであるボンクレキン酸により遮断した。アリストロキア酸、ホスホリパーゼA2阻害剤は、以前、SH-SY5Y細胞のMPP+誘導されたアポトーシスを遮断することが示され(Fall and Bennett, 1998)、カスパーゼ3活性の増加を阻害することも示された。MPP+およびBA25-35ペプチドによるカスパーゼの活性化は、PPXエナンチオマーとミトコンドリアの遷移孔で活性化する薬物により遮断された。S(-)PPXは、カスパーゼ3活性の約70%の増加に続くBA25-35ペプチドとのインキュベーションにより低下し、それ自身による抑制効果を示さなかった。また、MPP+暴露は、カスパーゼ3の活性化と類似のタイムコースとともにカスパーゼ9の活性を増加させた(図3参照)。カスパーゼ9の活性の増加は、S(-)およびR(+)PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸によっても遮断された。
【0063】
図4は、24時間、5mM MPP+に暴露する前にR(+)またはS(-)PPXの濃度を変化させてSHSY5Y細胞をインキュベートする細胞性カルセイン保持に対する効果を示す。カルセインは、血漿膜の電位を維持する能力の機能として細胞内側に保持される蛍光染料である。MPP+単独は、約60%までカルセインの取込みを低下した。両方のPPXエナンチオマーは、実質的に30nMレベルでカルセインの取込みが回復し、この保護効果は30μMPPXまで保持された。
【0064】
検討
この研究は、パーキンソン病およびアルツハイマー病の各々に有用な可能性のある神経保護作用の化合物を研究するための細胞培養モデルとして自己複製SH-SY5Y神経芽(細胞)腫細胞に添加した細胞毒のMPP+および25-35βアミロイドペプチドの使用を対象としている。SH-SY5Y細胞は、新生物の神経外胚葉起源の分裂中の細胞で、一次ニューロンではない。それらは、Ras変異の結果としての有糸分裂であり、MAPK/ERKシグナリングの活性化を導く。SH-SY5Y細胞は、一次ニューロンと比較すると、MPP+との短時間のインキュベーションでは、比較的非感受性である。我々は、1mMではなく、2.5および5mMのMPP+が、18-24時間以内でアポトーシス形態およびDNA核濃縮フラグメントが生成するのを見出した。しかし、MPP+低濃度での長時間のインキュベーションは、動物でのPDのイン・ビボ MPTPモデルとより密接に近似しており、比較的低いMPP+レベルへの長時間の暴露は、ミトコンドリア細胞死カスケードを依然活性化し得ると報告されてきた。
【0065】
SH-SY5Y細胞はβアミロイドペプチドに感受性である。……(中略)……。従って、カスパーゼ3活性(DEVDアーゼ)は、100μM βアミロイド25-35に暴露したSH(-)SY5Yで観察されるが、リバース35-25配列に暴露した後にはカスパーゼ活性化が観察されなかったことは、驚くべきことではない。
【0066】
本実験の焦点は、PPXエナンチオマーが、カスパーゼの活性化を阻止できるのか、また急性の毒素暴露したADおよびPDの細胞培養モデルにおいて、細胞生存に関するマーカーとして、カルセイン保持を促進することが可能かどうかを決定することであった。「イニシエーター(開始者)」である「カスパーゼ9」および「エグゼクチオナー(執行者)」である「カスパーゼ3」の両方の活性化は、PDのためのMPP+モデルにおいて両方のPPXエナンチオマーによって遮断され、カスパーゼ3の活性化は、ADのためのBA25-3SモデルにおいてS(-)PPXによって遮断された。ナノモルレベルでの両PPXエナンチオマーは、PDのためのMPP+モデルにおいて細胞生存性を促進することができた。すなわち、本発明の発見は、PPXの神経保護作用を説明する増大しつつある研究成果に加え、神経変性疾患におけるこのファミリー化合物の強い臨床的有用性を示唆するものであった。
【0067】
この試験は、PPXの最も近い作用部位を試験しなかったが、いくつかの知見には、これらの細胞モデルにおけるミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体(MTPC)を含んでいた。……(中略)……、S(-)PPXは、イン・ビトロおよびイン・ビボでのMPP+で誘導される酸化ストレスを低下することを示した。」(段落0056?段落0067)

(ス)
「【0068】
実施例2
ALSを処置するためのプラミペキソールの使用
酸化的異常性が、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)と、より一般的な散発性ALS(SALS)との両方で同定された。2,3-DHBAは、ヒドロキシル化サリチレートの副産物であり、フリーラジカル活性増加の信頼性のあるイン・ビボマーカーであり、かつHPLCにより確実にアッセイされた。サリチレート負荷を経口投与後、2,3-ジヒドロキシ安息香酸(2,3-DHBA)およびDHBA/サリチレートの高い血清レベルを、SALS患者で観察した。本明細書中に記載のように、12人のSALS患者を試験し、プラミペキソール処置前および後の両方の2,3-DHBAレベルを測定した。
【0069】
方法
試験者の準備
本試験は2フェーズで行った。第1フェーズにおいて、Airlie House基準を満たす11人の明確なSALS患者と、7人の対照を試験した。これら試験者は、アスピリン負荷を受け、続く2,3-DHBA分析を行った。アスピリン (1.3g)を経口的に与えた後、血液を、2、3および4時間後に採血した。血清を、分離し、氷結させ、-80℃で貯蔵した。血清のアリコートをコード表示し、2,3-DHBAおよびサリチレートアッセイに対してブラインドとした。
【0070】
第2フェーズにおいて、SALSに確実に罹患した17人の患者を、臨床集団からランダムに選択した。その患者に、アスピリン(1.3g)を経口的に与え、血液を3時間後に採取した。これらのベースライン用の試料を取得後、SALS試験者は、プラミペキソール治療を開始した。用量漸増(増加)は、最終用量として1.5mg t.i.d.-q.i.d.に達するようにしたPD患者と同様に行い、その後7週間の用量検定を行った。各被験者が、各被験者の最も高いプラミペキソール用量で3週間続けた後、アスピリン負荷試験をもう一度行った。元々の17人のSALS患者のうち12人は、プラミペキソール漸増フェーズを完了できた。2人を除くこれらすべての者は、6mg/日のプラミペキソール用量を達することができ、全ての患者は少なくとも3mg/日の用量を得た。次いで、各試験者に、プラミペキソール処置を続ける機会を与えた。
……(中略)……
【0074】
結果
図5Aは、11人のSALS(59.2±12.3yr)および第1フェーズで試験した年齢をマッチさせた7人の対照患者(56.7±10.7yr)において、2,3-DHBA血清レベルでの増加に関するタイムコースを示す。SALS患者は、この疾患の急性および慢性的段階の両方を示す症候開始の10?156ヶ月の範囲で投薬した。2,3DHBAの最高レベルを、アスピリン投与3時間後のSALS患者で見いだし、この時点を試験の第2フェーズとして選択した。さらに、SALSおよび対照群を時間に対して比較した場合、2ウェイANOVAは2,3-DHBAの産生における差違を明らかにした。この差違は、2集団に対してp=0.033レベルで有意であった;post-hoc試験(Tukey test)は、各時点で全く有意差はなかった。
【0075】
追加比較として、2,3-DHBA/サリチレートの割合を、2群について時間に対して比較した。ALS群は、アスピリン投与後3時間で2,3-DHBA産生のこの標準的マーカーにおいて、約1.5倍の増加を示した。2ウェイANOVAは、p=0.06レベルで有意差を示した(図5B)。血清サリチレートレベルを、ALSとCTL集団との間に時間に対して有意差はなかった(図5C)。……(中略)……。プラミペキソール治療は、これらALS患者に十分耐えられた。これら試験者は、臨床的痴呆の症候を全く示さないか、もしくは明白な心血症状の不安定性を持たなかった。
……(中略)……
【0077】
2,3-DHBAの血清レベルを、プラミペキソール処置前および後で比較した。例外なく、2,3-DHBAの個々の血清レベルが低下した(図6A)。図6Bは、ALS患者において、安定なプラミペキソール用量を達成する前および後の血清2,3-DHBA濃度に対する平均+/-SEMを示す。平均の低下は、約45%であって、p=0.015レベルで有意であった。血清サリチレートレベル(μM)は、プラミペキソール処置前(18.8+/-7.2,S.D.)および処置中(20.2+/-5.5, S.D.)の両方で変化しなかった。図6Cは、各患者についてのサリチレートレベルを標準化した2,3-DHBAの血清レベルが、プラミペキソール処置により平均59%低下することを示した;t-試験により、この差違はp=0.010レベルで有意であることを示した。
【0078】
検討
この試験は、2,3-DHBA産生の増加に基づいた、経口アスピリン負荷後のALS患者で、イン・ビボでの酸化ストレスの約2倍の増加が観察されることを明らかにした。2,3-DHBAの増加が臨床的疾患進行に関する様々な段階で観察され、この代謝物は、この疾患過程にわたって、特に初期ステージでの診断が不確実である場合に、高酸化ストレスの信頼性のあるマーカーとして役立つことを示唆するものである。小さな集団サイズのため、疾患段階と2,3-DHBA産生のレベルとの相関関係を算定する試験は行わなかった。
【0079】
本試験は、パーキンソン病において一般的に耐性のある用量でのプラミペキソール治療は、ALS患者におけるイン・ビボ酸化ストレスを低下させることが明らかとなった。プラミペキソールの最高耐性用量を達成する前および数週間後の12人の患者からの血清は、2,3-DHBAベースラインの約45%およびサリチレートレベルに対して正常化した2,3-DHBAベースラインの約59%の低下を明らかにした。プラミペキソールは、そのフリーラジカルの除去/抗酸化剤特性の結果としてROS産生におけるこの低下をもたらす傾向がある。プラミペキソールは、メチルピリジニウムによる複合体I阻害に急性的に暴露させた、イン・ビトロでのSY5Y神経芽(細胞)腫細胞およびイン・ビボでのラット線上体の両方において、ROS産生を低下し得ることを示した(Cassarino et al., J. Neurochem 1998; 71:295-301)。また、プラミペキソールは、神経毒6-ヒドロキシドーパミンの点滴後のイン・ビボでの脳ROS産生を低下させ(Ferger et al., Brain Res 2000;883:216-23)、シトクロームC放出を阻害し、前-神経毒のMPTP[16]による処理後のイン・ビボでの脳脂質酸化を低下させた。
【0080】
プラミペキソールとほぼ等しい神経保護作用が、R(+)およびR(-)エナンチオンマーにおいて観察されることから、ドーパミンアゴニスト作用が主に(S)エナンチオマーに存在するので、ROSスカベンジャー作用は、ドーパミンアゴニスト特性には関係がない。これが事実であれば、プラミペキソールのR(+)エナンチオマーは、イン・ビボでの抗酸化活性に対する可能性を持ち、本試験で用いられるS(-)エナンチオマーよりも高い用量で耐性があるはずである。
……(中略)……
【0086】
要するに、2,3-DHBAの血清レベルベースライン、酸化ストレスのマーカーは、SALS患者のコホートでは増加することが明らかとなり、このレベルはプラミペキソールによる処理後に低下した。図6に示したように、2,3DHBAの個々の血清レベルは、S(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールによる処置後のALS患者で低下した。特に、患者に、1日用量のS(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(3.6mg)を、7週間、経口投与した。7週間の最後に血清試料を採取し、2,3DHBA濃度を測定し、処置前に採取した血清試料における2,3DHBAレベルと比較した。これらのデータは、プラミペキソールによる処理が、ALS患者におけるイン・ビボでの酸化ストレスを低下させることを示した。」(段落0068?段落0086)

(セ)
「【0087】
実施例3
イン・ビボでのMptp誘導された酸化ストレスを低下させるプラミペキソールの効果
方法
オスC57BL/6マウスに、8週間、毎日0、10、30または100mg/kg/dayを与えるために計算した用量で飲料水中R(+)プラミペキソールジヒドロクロリドを与えた。試験日に、マウスを神経毒N-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)の30mg/kg s.c.を用いて注射し、脳中の酸化ストレスを増加させた。1時間後、マウスにサリチル酸ナトリウム(100mg/kg i.p.)を注射した。サリチレート注射1時間後、マウスを屠殺し、前脳を2,3-ジヒドロキシ安息香酸 (2,3-DHBA)含量について分析した。
【0088】
図7に示したように、該結果は、R(+)プラミペキソールによる30および100mg/kg/day処置が、MPTPによって生成した前脳の酸化ストレスを有意に低下させた。毒性学試験も行い、悪影響の症候を検出しなかった。特に、8週間の毒性学試験を、その飲料水中のR(+)PPXを与えたマウスで行った。彼らの全主要臓器を病理学的に試験し、病変は見られなかった。」(段落0087?段落0088)

(3)引用例1に記載された発明
引用例1の記載事項(ア)?記載事項(オ)及び記載事項(キ)?記載事項(コ)にはプラミペキソールの実質的に純粋なステレオアイソマーであるR(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリドまたは薬理学的に許容し得る塩(実質的にそのS(-)エナンチオマーを含まない)を有効成分として含むALSなどの神経変性疾患を治療するための医薬組成物についての記載がなされている。「R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリド」は「(R)-プラミペキソール」と同義であるから、これら引用例1の記載から見て、引用例1には
「(R)-プラミペキソールを含む、ALSなどの神経変性疾患を治療するための医薬組成物。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ALSなどの神経変性疾患」は、本願発明の「神経変性疾患」に相当する。(「ALS」は「筋萎縮性側索硬化症」の略称であり(例えば引用例1の記載事項オ、記載事項ケ及び記載事項スを参照)、一方、本願請求項22に「請求項19記載の医薬組成物において、前記神経変性疾患は、……(中略)……、筋萎縮性側索硬化症、……(中略)……から選択されるものである、医薬組成物。」と記載されることに示されるように、「筋萎縮性側索硬化症」は本願発明の「神経変性疾患」に包含される。)
したがって、両発明は、
「(R)-プラミペキソールを含む、神経変性疾患を治療するための医薬組成物」
である点で一致し、
(R)-プラミペキソールの含有量について、本願発明では「少なくとも150ミリグラムの(R)-プラミペキソールを含む」と特定しているのに対し、引用発明ではその特定がされていない点で、相違する。

5 当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例1の記載事項(コ)には、上述のとおり「該組成物は、1日あたり10mgから約500mgの用量で、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたは薬理学的に許容し得るそれらの塩を投与される。」(段落0048)及び「本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、10mg?500mgの1日全用量で、NDDに罹ったヒトに経口的に投与され得る。」(段落0049)との記載があって、R(+)プラミペキソールを1日当たり10mgから500mgまでの用量で投与するとされている。
また、引用例1の記載事項(コ)には「R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、S(-)プラミペキソールの使用から起こる副作用を生じる効力が1%以下である。」として、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールすなわちR(+)プラミペキソールの副作用を生じる効力がS(-)プラミペキソールの1%以下であることが明記されている。
また、引用例1の記載事項(サ)及び記載事項(セ)には、マウスに対して飲料水とともにR(+)プラミペキソールを100mg/kg/日の量で投与した場合にも、脳中の酸化ストレスを低下させる結果が得られるとともに、悪影響の症候は認められず、非常に高用量で長期的にヒトに投与する際の強い安全性が示されたことが記載されている。
引用例1の記載事項(コ)、引用例1の記載事項(サ)及び記載事項(セ)の内容は、いずれも、引用例1の記載事項(コ)の内容と矛盾せず、引用例1の記載事項(コ)に示されたR(+)プラミペキソールの用量の範囲に実施できない部分が含まれている等、当業者が採用し得ない用量が含まれているとすべき根拠も見出せないから、引用発明1において「少なくとも150ミリグラムの(R)-プラミペキソールを含む」ものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
なお、本願発明における「少なくとも150ミリグラムの(R)-プラミペキソール」が、(R)-プラミペキソールの総量であるのか、1日用量であるのか、単回用量であるのかは、平成25年5月16日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項19には規定されていないものの、引用例1の記載事項(コ)には「例えば、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、10mg?500mgの1日全用量で、NDDに罹ったヒトに経口的に投与され得る。」及び「テトラヒドロベンゾチアゾールは、……(中略)……、および/または10mg/日?500mg/日の連続静脈点滴によって、急性脳損傷に罹ったヒトに非経腸投与され得る。」と記載されていることから、いずれにしても、引用発明1において「少なくとも150ミリグラムの(R)-プラミペキソールを含む」ものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、本願発明の効果について検討するに、引用例1の記載事項(シ)?記載事項(ス)には引用発明の効果が具体的に記載されており、引用例1の記載事項(コ)に示されたR(+)プラミペキソールの用量の範囲内の多めの用量を採用すればR(+)プラミペキソールの血漿における濃度が高めとなってより良い効果の得られることは当業者が予想し得たことであると認められるところ、本願明細書の発明の詳細な説明に示された本願発明の効果は当業者の予想し得たものを超えた顕著なものとは認められないので、本願発明が、引用例1の記載から当業者の予想し得ない優れた効果を奏したものとはいえない。

なお、審判請求人は平成25年5月16日受付けの意見書及び審判請求書において、
(a-1)「引例1は、単回投与としては最大で100mgのR(+)プラミペキソール、或いは1日の総用量としては最大で500mgのR(+)プラミペキソールが使用できることしか開示しておりません。そして、この引例1では、100mgのR(+)プラミペキソールの単回投与および500mgのR(+)プラミペキソール1日用量は、100%の、或いは純粋なR(+)プラミペキソールである必要があります。」(平成25年5月16日受付けの意見書)及び
(a-2)「引例1には最大で100mgのR(+)プラミペキソールの単回投与、または1日の最大用量が500mgのR(+)プラミペキソールしか開示されておりません。そして、この引例1では、100mgのR(+)プラミペキソールの単回投与および500mgのR(+)プラミペキソール1日用量は、100%の、或いは純粋なR(+)プラミペキソールである必要があります。」(審判請求書)と主張し、
(b-1)「ここでR(+)プラミペキソールのドーパミン活性について検討すると、R(+)プラミペキソールの内在的なドーパミン活性については当業者であれば把握しているものであり、引例1の発明者であるBennett博士を含む本願出願時の当業者は、R(+)プラミペキソールが臨床的に重要なドーパミン活性を有すると認識していました。具体的に、R(+)プラミペキソールはS(-)プラミペキソールのドーパミンアゴニスト活性の約1%の活性を有すると考えられ、最大でS(-)プラミペキソールのドーパミン活性の10%程度の活性を有すると考えられていました(例えば、引例1の段落0013、および本意見書と併せて提出する手続補足書に添付した参考資料1を参照)。……。そのため、キラル純度100%の150mgのR(+)プラミペキソールを含む組成物は、1.5?15mgのS(-)プラミペキソールの活性と同等なものとなり、このS(-)プラミペキソールの活性はS(-)プラミペキソールの最大耐性用量を超えるものとなります(本意見書と併せて提出する手続補足書に添付した参考資料2を参照)。当業者であればこのような量のS(-)プラミペキソールは許容できないことは十分に認識し得るものであります。」(平成25年5月16日受付けの意見書)及び
(b-2)「確かに引例1には「R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、S(-)プラミペキソールの使用から起こる副作用を生じる効力が1%以下である」と記載されていますが、当業者であれば当該箇所のみを抜き出して引例1を理解することはなく、引例1全体としてその意義を理解します。具体的に引例1は、R(+)プラミペキソールが有意に大きなドーパミン作用を有することを示す複数の文献を引用しています(例えば引例1の段落0013では参考資料1を引用しています)。また、引例1の発明者であるBennett博士は、本願に対応する米国出願の審査において提出された宣誓書(本審判請求書と併せて提出する手続補足書に添付する参考資料3)において、Bennett PCT(引例1)が最大で500mg/日のR(+)プラミペキソールの継続的な静脈内注射での投与用量しか記載せず、この最大500mgのR(+)プラミペキソールの静脈内注射は24時間にわたって継続的に投与され、一方で最大で100mgのR(+)プラミペキソールの用量は単回投与で投与されることから、100mg以上(且つ最大で500mg)のR(+)プラミペキソールの用量は24時間にわたって投与されなければならない旨を述べています。
またR(+)プラミペキソールのドーパミンアゴニスト活性については……。すなわち、Bennett博士が理解されるように、当業者はR(+)プラミペキソールが臨床的に意味のあるドーパミン活性を有すると考えていました。」(審判請求書)と主張し、
(c-1)「本願の出願前においては、高単回投与量のR(+)プラミペキソールは安全なものとは認識されておらず、望ましくないドーパミンアゴニスト活性から生じると考えられている薬物毒性が予想されていました(……)。引例1はさらに、24時間にわたる最大500mg/日の継続的な静脈内注射を開示していますが、この引例1では、R(+)プラミペキソールの最大の単回投与量は100mgであります。引例1は、10?500mgのR(+)プラミペキソールの1日の総用量を教示していますが、単回投与については、急性脳損傷患者に対する非経口投与での単回投与量10?100mgしか開示しておりません(……)。」(平成25年5月16日受付けの意見書)及び
(c-2)「様々な文献や本出願人によるデータに基いて作成されたR(+)プラミペキソールの比較結合親和力を示す本願明細書における表10にも示されるように、Wong et al.(本審判請求書と併せて提出する手続補足書に添付する参考資料4)では、R(+)プラミペキソールの結合親和力がS(-)プラミペキソールのものと比べて約20?50倍低いことが示されており、これはR(+)プラミペキソールの結合親和力がS(-)プラミペキソールの2?5%であるという参考資料3の内容と一致します。さらに、Wang et al.による2008年の文献(本審判請求書と併せて提出する手続補足書に添付する参考資料5)は、ALS患者におけるR(+)プラミペキソールの効果について調査しています。この研究では、R(+)プラミペキソールの患者への最大の単回投与用量は100mgとしており、100mg以上の単回投与がR(+)プラミペキソールのドーパミン作用とみられるものにより、望ましくない毒性をもたらすという理解と一致します。……、Mirapex(S(-)プラミペキソール)の処方情報である参考資料2からも明らかなように、S(-)プラミペキソールの投与はそのドーパミンアゴニスト活性のため制限されています。具体的にはインビトロにおいてR(+)プラミペキソールのドーパミン受容体に対する親和力はS(-)プラミペキソールと比較して約10?約100倍低く、このドーパミン受容体親和力がS(-)プラミペキソールの用量制限をもたらします。これは、R(+)プラミペキソールの単回投与では最大で100mg、およびR(+)プラミペキソールの1日の最大用量は500mgというBennett博士が示した実例とも一致します。そしてこれは当業者であればキラル純度100%のR(+)プラミペキソールであることがわかります。」(審判請求書)と主張し、
(d-1)「R(+)プラミペキソールまたはS(-)プラミペキソールの研究者は、長期に渡る滴定または用量を漸増する投薬計画を使用し、これにより患者に対しては、1日目には非常に低用量であり、徐々に時間をかけて用量が増加して投薬されることになります。しかし、このような滴定投与であっても、R(+)プラミペキソールの最大単回投与量は100mgであります。一方、本出願人らは、100mg以上のR(+)プラミペキソールを単回投与しても安全であることを明らかにし、少なくとも150mgの単回投与を達成しています(実施例3を参照)。」(平成25年5月16日受付けの意見書)及び
(d-2)「引例1は、固体及び/又は経口のいずれにしても、150mgのR(+)プラミペキソールの単位用量については何ら開示も示唆もしておりません。仮にS(-)プラミペキソールがコンタミネーション程度でも混入したとすれば、全体のドーパミンアゴニスト活性の許容制限を超えることになり、望ましくない結果となります。」(審判請求書)と主張し、
(e-1)「本出願人らがこのような量の単回投与であっても安全であることを明らかにするまでは、上述の通り大量のR(+)プラミペキソールは有害であると考えられていました。そのため、当業者は、少なくとも150mgのR(+)プラミペキソールを有する単回投与の製剤を製造することについて容易に想到できるものではないと思量いたします。……本出願人によってはじめて、R(+)プラミペキソールのドーパミンアゴニスト活性は無視できるものであるということがわかり、これにより本出願人は150mgまたはそれ以上のR(+)プラミペキソールを有する単回投与組成物であっても安全であるという知見を得たものであります。」(平成25年5月16日受付けの意見書)及び
(e-2)「本出願人らがこのような量の単回投与であっても安全であることを明らかにするまでは、上述の通り大量のR(+)プラミペキソールは有害であると考えられていました。……。R(+)プラミペキソールのドーパミンアゴニスト活性についてのより正確な理解がない状況においては、150mgまたはそれ以上のR(+)プラミペキソールを有する単回投与組成物は不確かな、且つ許容できないドーパミンアゴニスト活性のリスクを伴うものであり、このようなリスクは当業者にとって望ましいものではなく、有害なものであります。……、本出願人によってはじめて、R(+)プラミペキソールのドーパミンアゴニスト活性は無視できるものであるということがわかり、これにより本出願人は150mgまたはそれ以上のR(+)プラミペキソールを有する単回投与組成物であっても安全であるという知見を得たものであります。
審査官殿は原査定において「引用文献1に具体的に記載されているR(+)プラミペキソールの最大の単回投与量は100mgであるが、かかる用量は例示であって、それを超える用量を設定することを制限する具体的な事情はうかがえない」とご判断されています。しかし、引例1を含む本分野における文献全体を考慮すると、当業者であれば100mg以上のR(+)プラミペキソールを単回投与することはあり得ないと思量いたします。」(審判請求書)と主張し、
(f-1)「本出願人はさらに、(+)プラミペキソールの治療有効量を達成するため、血漿中でのマイクロモル濃度の(+)プラミペキソールを得ています。このような濃度の(+)プラミペキソールを得るためには、100mg以上の(+)プラミペキソールの単回投与量が必要となります。すなわち、本出願人は、マイクロモル濃度の(+)プラミペキソールが治療的に有効であるという知見を得て、また(+)プラミペキソールのドーパミン活性が実質的に無視できるものであるという知見をもって、本願発明を成し得たものであります。」(平成25年5月16日受付けの意見書)及び
(f-2)「本願発明ではR(+)プラミペキソールを治療上有効な濃度にするため、R(+)プラミペキソールの血漿における濃度をマイクロモルにすることに達成しています。このようなR(+)の濃度を達成するためには、100mgを超える単回投与量のR(+)プラミペキソールが必要とされます(本審判請求書と併せて提出する手続補足書に添付する参考資料6を参照)。マイクロモル量のR(+)プラミペキソールが有用な治療のためには必要であるという本出願人らの発見と、R(+)プラミペキソールのドーパミン活性が本質的に無視できるものであるという本出願人らの発見とが合わせられることにより、本願発明は初めてなされうるものであります。」(審判請求書)と主張するとともに、
平成25年5月20日受付けの手続補足書により参考資料1?2を提出し、平成26年3月7日受付けの手続補足書により参考資料3?6を提出し、平成27年7月24日受付けの上申書により参考資料4-2を提出し、さらに各参考資料の記載箇所の指摘及び補足説明を行う。(参考資料4-2は、平成27年7月24日受付けの上申書の1.(4)において「参考資料4の全文」とされているが、論文名などが異なることから、参考資料4とは異なる資料として扱う。)
しかし、参考資料1?6及び参考資料4-2の記載内容を検討しても、引用例1の記載事項(コ)に示されたR(+)プラミペキソールの用量の範囲に実施できない部分が含まれている等、当業者が採用し得ない用量が含まれているとすべき根拠は見出せないので、引用発明1において「少なくとも150ミリグラムの(R)-プラミペキソールを含む」ものとした本願発明を想到することは当業者が容易になし得たこととした当審の判断が覆るものではない。
また、引用例1の記載事項(シ)?記載事項(ス)には引用発明の効果が具体的に記載されており、引用例1の記載事項(コ)に示されたR(+)プラミペキソールの用量の範囲内の多めの用量を採用すればR(+)プラミペキソールの血漿における濃度が高めとなってより良い効果の得られることは当業者が予想し得たことであると認められるところ、参考資料1?6及び参考資料4-2の記載内容を検討しても、本願明細書の発明の詳細な説明に示された本願発明の効果は当業者の予想し得たものを超えた顕著なものとすべき根拠は見出せないので、本願発明が、引用例1の記載から当業者の予想し得ない優れた効果を奏したものとはいえないとした当審の判断が覆るものではない。
したがって、審判請求人の主張はいずれも受け入れられない。

6 むすび
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-21 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2009-541622(P2009-541622)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 横山 敏志
前田 佳与子
発明の名称 (R)-プラミペキソール組成物およびその使用法  
代理人 矢口 太郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ