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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1310411
審判番号 不服2014-6608  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-09 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2009-540921「発毛を抑える装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日国際公開、WO2008/072151、平成22年 4月22日国内公表、特表2010-512532〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年12月7日(パリ条約による優先権主張 2006年12月12日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月30日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月5日に意見書が提出され、平成25年2月22日付けで再度、拒絶の理由が通知され、同年6月4日に意見書が提出されたが、同年12月2日付けで拒絶査定がなされた。

これに対して、平成26年4月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされた。

その後、平成27年5月21日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年7月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
毛髪の成長を抑えるための装置であって、少なくとも1本の毛髪のうちの少なくとも一部に、前記毛髪の成長に影響を与えるのに十分な量の光学エネルギーを供給するように構成された毛髪の成長を抑える手段を含み、前記毛髪の成長を抑える手段が:
光源;及び、
身体部分の皮膚表面付近にある毛髪をイメージングする装置であり、検出器、及び、毛髪を認識するために該検出器からの信号を処理するため、及び、前記光源を制御するための制御ユニットを含む、装置;
を含み、
前記毛髪をイメージングする装置が:
600から2000nmの波長及び直線の偏光状態を有した光学的放射を放出するように構成されたイメージングのための光源;
前記イメージングのための光源と前記皮膚表面の間で前記光学的放射の光路に置かれ、前記光学的放射を円偏光にする第1の楕円偏光手段;
前記皮膚表面から戻る光学的放射に対する前記毛髪から戻る光学的放射の比を上げるように構成された、前記皮膚表面と前記検出器との間で前記光学的放射の光路内にある比率増加手段;
をさらに含み、
前記比率増加手段が、直線偏光子及び前記第1の楕円偏光手段、又は、直線偏光子及び第2の楕円偏光手段を含み、前記第1の楕円偏光手段又は第2の楕円偏光手段が、前記皮膚表面から戻る光学的放射の偏光状態を前記イメージングのための光源の偏光状態に対して直交にし且つ前記毛髪から戻る光学的放射の一部をその偏光状態を変えないまま通し、前記直線偏光子が、前記イメージングのための光源の偏光状態と等しい偏光状態を有する前記毛髪から戻る光学的放射の一部を前記検出器まで送るように構成されることを特徴とする、毛髪の成長を抑えるための装置。」

第3 当審の拒絶理由

当審で平成27年5月21日付けで通知した拒絶理由の概要は、理由1として、本願請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、理由2として、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものであり、そのうち、本願発明に対する理由1は、本願の優先日前に頒布された国際公開第2005/102153号(以下「引用文献1」という)に記載の発明、並びに、本願の優先日前に頒布されたPELI E、CIRCULAR POLARIZERS ENHANCE VISIBILITY OF ENDOTHELIUM IN SPECULAR REFELCTION BIOMICROSCOPY、ARCHIVES OF OPHTHALMOLOGY、1985.05.発行、Vol.103、pp.670-672(以下「引用文献2」という。)、及び、本願の優先日前に頒布された宮崎大輔、柴田 卓司、池内克史、”ウェーブレットテクスチャ:ドベシィウェーブレットと反射モデルと円偏光板によるBRDF圧縮、3D映像、2006.11.21発行、Vol.20, No.4、pp.21-29(以下「引用文献3」という。)の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたというものである。

第4 引用文献及びその記載事項
1 引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。仮訳には、引用文献1に対応する公表公報である特表2007-533391号公報の対応箇所の記載を採用した。なお、仮訳の下線は当審が参考のために付したものである。

(1) 明細書第1頁第20行?27行
「According to the present invention, said object is achieved with a hair- detection device of the kind mentioned in the opening paragraph, that is characterized in that said predetermined wavelength range is comprised in the range from 700 nm to 2000 nm, and that the hair-detection device further comprises radiation selection means for increasing the ratio of the intensity of radiation within said wavelength range that is receiveable by said imaging sensor after having traveled through said skin, to the intensity of radiation within said wavelength range that is receiveable by said imaging sensor without having traveled through said skin.」
(仮訳:本発明によれば、前出の目的は、冒頭で説明された種類の体毛検出装置を有して達成される。該装置は、所定の波長範囲が700nm乃至2000nmにおいて有されること、及び、体毛検出装置が放射線選択手段を更に有すること、を特徴とする。該放射線選択手段は、皮膚を介して移動した後に画像センサによって受けられ得る波長範囲内の放射線の強度の、皮膚を介して移動することなく画像センサによって受けられ得る波長範囲内の放射線の強度に対する比を増大させる。)

(2) 明細書第3頁第25?32行
「The absorption coefficient as a function of wavelength decreases rather sharply when going from the short wavelength end of the visible region to the long wavelength end, both for the skin tissue, and the melanosome (representative of melanin), blood and the epidermis. A minimum is encountered between about 800 and 1100, and a second, local minimum between about 1500 and 1850 nm. Combining the effects of scattering and absorption, it may be seen that radiation with a wavelength between about 700 nm and 1100 nm, and most preferably around 800 nm, may be used in the device of the present invention, since at these values the absorption is very low. 」
(仮訳:波長の関数としての吸収係数は、皮膚の組織、及び、メラノソーム(メラニンの代表的なもの)、血液、及び表皮のいずれに対しても、可視領域の短波長端部から、長波長端部まで行く際に多少急に減少する。最小値は、約800乃至1100、第2の極小値は、約1500乃至1850nmにある。散乱及び吸収の効果を併せて、約700nm及び1100nm、最も望ましくは約800nmの波長を有する放射線は、これらの値において吸収が非常に低いため、本発明の装置において使用され得る、ことが分かり得る。)

(3) 明細書第6頁第32行?第7頁第12行
「Advantageously, the source is able to emit linearly polarized radiation or comprises a first radiation selection means comprising a first linear polarizer, and the imaging sensor comprises a second radiation selection means comprising a second linear polarizer. The first linear polarizer or the radiation emitted by the source that is able to emit linearly polarized radiation has a first direction of polarization, and the second linear polarizer preferably has a second direction of polarization, which is substantially perpendicular to the first direction. In this way, it is possible to prevent unwanted radiation from reaching the imaging sensor, or at least to improve the ratio between desired and undesired radiation. Radiation emitted by the source passes the first linear polarization, and obtains a first direction of polarization. If this polarized radiation is either rectilinearly transmitted to the imaging sensor, or is specularly reflected by the skin or some other object, the polarization does not change substantially, and will hence be stopped by the second linear polarizer in front of the imaging sensor. Contrarily, radiation that has been coupled into the skin, and is scattered a number of times, loses its polarization, and will be transmitted partly by the second polarizer. Note that other types of complementary polarizers may also be used. 」
(仮訳:有利には、源は、直線的に偏光された放射線を放出することができるか、あるいは、第1の直線偏光器を有する第1の放射線選択手段を有する。また、画像センサは、第2の直線偏光器を有する第2の放射線選択手段を有する。直線的に偏光された放射線を放出することができる源によって放出された第1の直線偏光器又は放射線は、第1の偏光の方向を有し、第2の直線偏光器は、望ましくは第1の方向に対して実質的に垂直である第2の偏光の方向を有する。このようにして、望まれない放射線が画像センサに到達することを防ぐこと、あるいは所望の放射線と所望されない放射線との間の比を少なくとも改善することが可能である。源によって放出された放射線は、第1の直接偏光器を通過し、第1の偏光の方向を得る。この偏光された放射線が、画像センサに対して直線的に伝達されるか、あるいは皮膚又は他の何らかの対象によって正反射的に反射されるかのいずれかである場合、偏光は、実質的には変わらず、それ故に画像センサの前方で第2の直線偏光器によって停止される。これに反して、皮膚へと結合され、複数回散乱される放射線は、その偏光を失い、第2の偏光器によって部分的に伝達される。他の種類の補足的偏光器もまた、使用され得る。)

(4) 明細書第10頁第14?23行
「The hair-detection device according to the present invention offers an image with improved contrast for many situations, such as hairs and skin of about the same visible color, e.g. white hairs on a white skin. This improved contrast may be used when assessing the skin with the human eye. Any desired measure may thereupon be taken, such as removal of the hair by mechanical means etc. Preferably, the hair-detection device further comprises an image processing unit for determining the position and/or orientation of a hair from said image. This offers data or a signal that relates to the position and/or orientation of a hair on the skin. These data or this signal may be used by the device or any other apparatus for carrying out any desired after-treatment, be it as simple as counting the hairs, or e.g. shaving or depilating the skin. 」
(仮訳:本発明に従った体毛検出装置は、略同一の可視色の体毛及び皮膚、例えば白色の皮膚上の白色の体毛等の多くの状況に対して向上されたコントラストを有する画像を提供する。この向上されたコントラストは、人間の目を有して皮膚を判断する際に使用され得る。その後、機械的手段等による体毛の除去等の所望の措置が取られ得る。望ましくは、体毛検出装置は、前出の画像から体毛の位置及び/又は向きを確定する画像処理ユニットを更に有する。これは、皮膚上の体毛の位置及び/又は向きに関連するデータ又は信号を提供する。これらのデータ又はこの信号は、単純に体毛を数える、又は例えば皮膚を剃る又は脱毛する所望の後処置を実行するよう装置又は他の器具によって使用され得る。)

(5) 明細書第10頁第24?32行
「The invention further relates to a hair-removing device comprising a hair-detection device according to the invention. The hair-removing device may be operated on the basis of visual information obtained by an operating person. Preferably, however, the hair-removing device is coupled to an image processing unit, such that the hair-removing device is operated by the image processing unit or a control unit that is fed by input from the image processing unit. This is particularly useful when the hair-removing device comprises an adjustable laser beam source that is controllable by said image processing device, e.g. a laser source and a laser beam manipulator that is controllable by the control unit coupled to the image processing device. 」
(仮訳:本発明は更に、本発明に従った体毛検出装置を有する体毛除去装置に係る。体毛除去装置は、操作者によってされる視覚的情報に基づいて操作され得る。しかしながら望ましくは、体毛除去装置は、画像処理ユニットに結合されるため、体毛除去装置は、画像処理ユニット又は、画像処理ユニットからの入力によって与えられる制御ユニットによって作動される。これは、例えばレーザ源及び画像処理装置に結合された制御ユニットによって制御可能であるレーザビームマニピュレータである体毛除去装置が前出の画像処理装置によって制御可能である調整可能なレーザビーム源を有する際に有用である。)

(6) 明細書第10頁第33行?第11頁第2行
「A useful operating method would then be to determine a hair position with the hair-detection device according to the invention, adjust a laser beam by means of the laser beam manipulator, such that it is directed to the hair or root thereof, and provide sufficient laser energy to burn the hair or root thereof, such that the hair may be removed.」
(仮訳:続いて有用な操作方法は、本発明に従った体毛検出装置を有して体毛の位置を確定し、体毛又は毛根に方向付けられるようレーザビームマニピュレータを用いてレーザビームを調整し、体毛が除去され得るよう体毛又は毛根を焼くよう十分なレーザエネルギを与えることである。)

上記摘記(1)?(6)を含む引用文献1全体の記載を総合すると、引用文献1には、
「波長範囲が700nm乃至2000nmの直線的に偏光された第1の偏光の方向を有する放射線を放出することができる源、
第1の偏光の方向に対して実質的に垂直である第2の偏光の方向を有する第2の直線偏光器である第2の放射線変更手段を有する画像センサ、
画像から体毛の位置及び/又は向きを確定する画像処理ユニットを備えた体毛検出装置を有する体毛除去装置であって、
体毛除去装置は、画像処理ユニットによって作動されるものであり、
体毛が除去され得るよう体毛又は毛根を焼くよう十分なレーザエネルギを与えるレーザービーム源を有し、
前記第2の直線偏光器は、望まれない放射線が画像センサに到達することを防ぐこと、あるいは所望の放射線と所望されない放射線との間の比を少なくとも改善するものであり、前記源によって放出された第1の偏光の方向を有する放射線は、この偏光された放射線が、画像センサに対して直線的に伝達されるか、あるいは皮膚又は他の何らかの対象によって正反射的に反射されるかのいずれかである場合、偏光は、実質的には変わらず、それ故に画像センサの前方で第2の直線偏光器によって停止され、これに反して、皮膚へと結合され、複数回散乱される放射線は、その偏光を失い、第2の直線偏光器によって部分的に伝達されるものである体毛除去装置。」
の発明が記載されていると認められる。

2 引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、当審仮訳中の下線は参考のために当審が付したものである。

(1) 第670頁中欄第14行?第671頁左欄第22行
「 A circular polarizer commonly consists of two layers: a linear polarizer and a retarder. A retarder is an optical element that, without altering the intensity and polarization of a polarized beam, resolves the beam into two orthogonal components, retards the phase of one relative to the other, and reunites the two components. If the retarder's axis is at 45°to the axis of the linearly polarized light, the two components will be equal in magnitude. If, in addition, the retardance (ie, the relative phase difference between the two components) is 90°, or quarter wavelength, the resulting beam is said to be circularly polarized. Circularly polarized light can be likened to light that will emerge from a linear polarizer rotating at a very high rate in an incident beam of unpolarized light. The circularly polarized light can be right-handed or left-handed polarized, depending on the angle that the axis of the retarder makes with the axis of the linear polarizer. A light that emerges from a right circular polarizer is blocked by a left circular polarizer. If right circularly polarized light is perpendicularly incident on a smooth surface, the reflected beam is left circularly polarized because the direction of propagation has been reversed. Therefore, the polarizer that produces the right circularly polarized light, when inserted in an unpolarized incident beam, blocks the reflected light in that beam. 」
(当審仮訳:円偏光板は、一般に、2つの層:直線偏光子と波長板で構成されている。波長板は、偏光ビームの強度と偏光を変化させることなく、ビームを2つの直交成分に分解する光学素子であり、1つの位相を他の一つの位相より遅らせ、2つの成分を再結合する。波長板の軸が直線偏光軸に対して45°である場合、2つの成分は大きさが等しくなる。加えて、位相差(すなわち、2つの構成成分の相対位相差)が90°、または1/4波長である場合、得られた光は、円偏光であると言われている。円偏光は、非偏光の入射ビームで非常に高速で回転する直線偏光子から出てくる光に例えることができる。円偏光は、波長板の軸が直線偏光子の軸となす角度に応じて、右回りまたは左回り偏光とすることができる。右円偏光板から出た光は左円偏光板によって遮断される。右円偏光は、滑らかな表面に入射する場合は、伝播の方向が反転されるので、反射光は左円偏光である。したがって、非偏光入射ビームに挿入されたときに、右円偏光を生成する偏光子は、そのビームの反射光をブロックする。

(2) Fig 1.-Schematic presentation of specular reflection biomicroscopy of corneal endothelium, using circular polarizer to eliminate glare from epithelium.(第670頁)

(当審仮訳: 図1-角膜内皮の鏡面反射生体顕微鏡の概略図であり、上皮からのグレアを排除するために円偏光板を用いた。)

3 引用文献3
引用文献3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は参考のために当審が付したものである。

(1) 第24頁左欄第25?39行
「円偏光板の代わりに直線偏光板を用いても、反射成分の分離は可能である。しかし、視点方向と法線方向のなす角が90°に近づくにつれ、拡散反射成分も部分的に直線偏光となることが知られており、その分が鏡面反射成分として計算されることになるので誤差を含むことになる。円偏光板は、逆方向の円偏光のみを遮断するので、部分的に直線偏光された拡散反射成分は完全に透過し、この問題を回避することができる。
円偏光板は直線偏光板よりも波長に依存するという欠点もある。しかし、上に挙げた通り、円偏光板による分離方法には、偏光板の透過軸に影響されないこと、視点方向と法線方向のなす角が90° に近い時に起こる拡散反射成分の部分的な直線偏光化の影響を受けないことの二つの利点がある。」

(2) 図4(第23頁右上)


第5 対比・判断
1 対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。

ア 本願発明の「毛髪の成長を抑える手段」について、本願の発明の詳細な説明には、実施例として、「毛髪を切るための光源15」が記載されており、明細書の段落【0026】には、「いかなる発毛を抑える手段も、毛髪の成長を抑えるための装置に使用することができる。特に、皮下の毛髪に影響を与える発毛を抑える手段は、本発明による毛髪の成長を抑えるための装置に含まれる。特に、発毛を抑える手段は、その毛髪に損傷を与えるか、又は、その毛髪を切るのに十分な光学エネルギーを提供する手段を含む。」と記載されている。実施例及びこの摘記した記載を含めた発明の詳細な説明全体を参酌すると、本願発明の「毛髪の成長を抑える手段」には、光学エネルギーにより毛髪を切断又は損傷を与えるものが含まれると解される。
そうすると、引用発明は、「体毛又は毛根を焼くよう十分なレーザエネルギを与える」ことによって「体毛」を「除去」するものであるから、引用発明の「体毛が除去され得るよう体毛又は毛根を焼くよう十分なレーザエネルギを与えるレーザービーム源」を有することが、「少なくとも1本の毛髪のうちの少なくとも一部に、前記毛髪の成長に影響を与えるのに十分な量の光学エネルギーを供給するように構成された毛髪の成長を抑える手段」を含むことに相当し、また、引用発明の「体毛除去装置」は、「毛髪の成長を抑えるための装置」に相当する。

イ 引用発明の「体毛が除去され得るよう体毛又は毛根を焼くよう十分なレーザエネルギを与えるレーザービーム源」が、本願発明の「光源」に相当する。

ウ 引用発明の「体毛検出装置」及び「画像センサ」が、「身体部分の皮膚表面付近にある毛髪をイメージングする装置」及び「検出器」にそれぞれ相当する。

エ 引用発明の「画像から体毛の位置及び/又は向きを確定する画像処理ユニット」は、「体毛除去装置」を作動させるものであるから、「体毛除去装置」の「レーザービーム源」を制御する機能も有していることは明らかである。そうすると、引用発明の「体毛検出装置」の「画像センサ」が、本願発明の「毛髪を認識するために該検出器からの信号を処理するため、及び、前記光源を制御するための制御ユニット」に相当する。

オ 引用発明の「波長範囲が700nm乃至2000nmの直線的に偏光された第1の偏光の方向を有する放射線を放出することができる源」は、本願発明の「600から2000nmの波長及び直線の偏光状態を有した光学的放射を放出するように構成されたイメージングのための光源」に相当する。

カ 引用発明の「第2の直線偏光器」は、「望まれない放射線が画像センサに到達することを防ぐこと、あるいは所望の放射線と所望されない放射線との間の比を少なくとも改善するもの」であるから、皮膚表面と画像センサの受光部との間に設けられることは明らかである。引用発明の「所望されない放射線」は、「皮膚を介して移動することなく画像センサによって受けられ得る」(上記第4の1(1)の摘記を参照)ものであり、これは、本願発明の「皮膚表面から戻る光学的放射」に相当する。そして、引用発明は、「所望されない放射線」を「第2の直線偏光器によって停止」するものであるから、毛髪から戻る放射線と「所望されない放射線」の比も上げるものである。そうすると、引用発明の「第2の直線偏光器である」「第2の放射線変更手段」は、本願発明の「前記皮膚表面から戻る光学的放射に対する前記毛髪から戻る光学的放射の比を上げるように構成された、前記皮膚表面と前記検出器との間で前記光学的放射の光路内にある比率増加手段」に相当する。

以上から、本願発明と引用発明とは、次の(2)に記載する点で一致し、続く(3)に記載する点で相違する。

(2)一致点
「毛髪の成長を抑えるための装置であって、少なくとも1本の毛髪のうちの少なくとも一部に、前記毛髪の成長に影響を与えるのに十分な量の光学エネルギーを供給するように構成された毛髪の成長を抑える手段を含み、前記毛髪の成長を抑える手段が:
光源;及び、
身体部分の皮膚表面付近にある毛髪をイメージングする装置であり、検出器、及び、毛髪を認識するために該検出器からの信号を処理するため、及び、前記光源を制御するための制御ユニットを含む、装置;
を含み、
前記毛髪をイメージングする装置が:
600から2000nmの波長及び直線の偏光状態を有した光学的放射を放出するように構成されたイメージングのための光源;
前記皮膚表面から戻る光学的放射に対する前記毛髪から戻る光学的放射の比を上げるように構成された、前記皮膚表面と前記検出器との間で前記光学的放射の光路内にある比率増加手段;
をさらに含む毛髪の成長を抑えるための装置。」

(3)相違点
比率増加手段について、本願発明は、「直線偏光子及び前記第1の楕円偏光手段、又は、直線偏光子及び第2の楕円偏光手段を含み、前記第1の楕円偏光手段又は第2の楕円偏光手段が、前記皮膚表面から戻る光学的放射の偏光状態を前記イメージングのための光源の偏光状態に対して直交にし且つ前記毛髪から戻る光学的放射の一部をその偏光状態を変えないまま通し、前記直線偏光子が、前記イメージングのための光源の偏光状態と等しい偏光状態を有する前記毛髪から戻る光学的放射の一部を前記検出器まで送るように構成され」るもので、その「第1の楕円偏光手段」は「イメージングのための光源と前記皮膚表面の間で前記光学的放射の光路に置かれ、前記光学的放射を円偏光にする」ものであるのに対し、引用発明では、比率増加手段に相当する「第2の放射線変更手段」が、そのようなものではない点。

2 当審の判断
(1)相違点について
上記第4の2で摘記したように、引用文献2には、照射する光を直線偏光子と1/4波長板により右回転の円偏光とし、表面からの反射光である左回転の円偏光を、前記直線偏光子と前記1/4波長板によってカットする技術が記載されている。また、上記第4の3で摘記したように引用文献3には、反射成分を分離するために、直線偏光子及び1/4波長板を用いて円偏光の光源を得て、撮像装置手前に、光源部に用いた直線偏光子及び1/4波長板と同様の直線偏光子及び1/4波長板を設けることによって、反射成分を分離する技術が記載されており、円偏光を用いることの利点として、「円偏光板の代わりに直線偏光板を用いても、反射成分の分離は可能である。しかし、「円偏光板による分離方法には、偏光板の透過軸に影響されないこと、視点方向と法線方向のなす角が90° に近い時に起こる拡散反射成分の部分的な直線偏光化の影響を受けないことの二つの利点がある。」と記載されている。
引用発明では、皮膚からの反射光を停止し体毛からの光を検出するために、直線偏光を用いているが、上記直線偏光と比したときの円偏光の利点に鑑みるに、引用発明において、皮膚からの反射光を停止し体毛からの光を検出するために、円偏光を用いることは十分に動機付けのあることであるから、引用発明において、皮膚に照射する「放射線」を直線偏光から円偏光に変更して、皮膚表面の反射成分の円偏光をカットできるように、「第2の放射線変更手段」として、第4の3(2)で摘記した引用文献3の図4を参考にして、「源」と皮膚表面との光路上に「源」からの直線偏光を円偏光に変えるための1/4波長板(本願発明の「第1の楕円偏光手段」に相当する。)を設けるとともに、皮膚表面と「画像センサ」との光路上に、皮膚表面から戻る反射光の偏光状態を、「源」から放出される直線偏光の向きに対して直交にする1/4波長板(本願発明の「第2の楕円偏光手段」に相当する。)と、「源」から放出される直線偏光の向きと直交する方向の偏光を遮る直線偏光子(本願発明の「直線偏光子」に相当する)を設けることは当業者が容易になし得ることである。
そして、そのように構成されたものは、「イメージングのための光源と前記皮膚表面の間で前記光学的放射の光路に置かれ、前記光学的放射を円偏光にする」「第1の楕円偏光手段」と「直線偏光子及び前記第1の楕円偏光手段、又は、直線偏光子及び第2の楕円偏光手段」を設けたものであり、皮膚で複数散乱された放射線のうち、1/4波長板を通して得られた円偏光と同じ偏光状態を有する放射線の偏光状態を、1/4波長板で「源」の直線偏光と同じ偏光状態に変換し、直線偏光子を通過させて、「画像センサ」に到達させるものであるから、「前記第1の楕円偏光手段又は前記第2の楕円偏光手段が、前記皮膚表面から戻る光学的放射の偏光状態を前記イメージングのための光源の偏光状態に対して直交にし且つ前記毛髪から戻る光学的放射の一部をその偏光状態を変えないまま通し、前記直線偏光子が、前記イメージングのための光源の偏光状態と等しい偏光状態を有する前記毛髪から戻る光学的放射の一部を前記検出器まで送るように構成され」るものである。

(2)効果について
直線偏光を用いたものよりも円偏光を用いることによって検出精度が向上するという効果は、上記引用文献3にも記載されているように、自明なものといえることから、本願発明が奏するとされる効果が顕著なものといえない。
なお、上記当審の拒絶理由で、
「発明の詳細な説明の段落【0009】に「毛髪と周囲の組織とのコントラストは優れている。さらに、より重要なことには、前記コントラストは、入ってくる偏光に対する前記毛髪の向きには実質的に依存していない。」という記載があり、また、従来技術とされる直線偏光を用いる技術に関連して段落【0010】には、「毛髪との直線偏光の相互作用は偏光方向に対する毛髪の向き次第であると発見した。」という記載がある。しかし、毛髪と直線偏光との相互作用が偏光に対する毛髪の向き次第であることの原理を説明する記載はなく、その現象を裏付けるデータも開示されていない。(なお、この点に関して、願書に最初に添付された明細書の翻訳文の段落【0032】には「毛髪は、偏光ベクターに対する毛髪の向きに依拠する方法で偏光と相互作用する特性を有している。」という毛髪の特性に依る旨の記載が存在したが、この記載を裏付けるデータの開示も存在せず、さらに、この記載は、平成21年7月1日に提出された手続補正書による手続補正により削除されている。)そうすると、本願発明が奏するとされる効果は、明細書によって具体的に裏付けれておらず、当業者にとって明細書の記載から明らかといえるものでもない。」
と指摘したが、請求人は、これに対して、意見書等でデータの開示あるいは釈明等しておらず、結局のところ、本願発明が奏する効果は、上記のとおり、円偏光を用いたことによる検出精度の向上という域を出るものとは判断できない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成27年7月30日付け意見書において、「引用文献2に記載されたRetarder及びLinear Polarizerを通過する反射光は、組織により散乱された光がその回転の方向を保ち入射光と同じ偏光状態を有したために通過したわけではなく、組織内部からの反射光が(その回転の方向を保ったわけではなく)楕円偏波光に変わったため通過しています。」及び、引用例3について「物体内部から戻る光がその偏光状態を変えない構成は開示も示唆もされておりません。」と主張している。
しかし、第4の2及び3で摘記したように、引用文献2及び3には、入射させる円偏光と反対の円偏光を有する円偏光(反射光)を遮るために、直線偏光子と1/4波長板を組み合わせて用いることが記載されており、この構成が、皮膚に入射した偏光状態と同じ偏光状態の光を、波長板と直線偏光子で遮らないことは、光学的特性から当業者にとって明らかであるので出願人の主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、並びに、引用文献2及び3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-25 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-15 
出願番号 特願2009-540921(P2009-540921)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G01N)
P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松本 隆彦
藤田 年彦
発明の名称 発毛を抑える装置  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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