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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1310415
審判番号 不服2014-9333  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-20 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2011-535997「家禽における孵化率向上のためのカンタキサンチン及び/又は25-OHD3の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月27日国際公開、WO2010/057811、平成24年 4月19日国内公表、特表2012-509253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年11月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月19日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年 6月25日付け拒絶理由通知に対して平成25年11月21日付けで意見書及び手続補正書が提出された後、平成26年 1月 9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年 5月20日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月1日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年11月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「 【請求項3】
家禽における孵化率を向上させるための、飼料又は動物用組成物の製造における、カンタキサンチン及び25-ヒドロキシビタミンD3の使用。」

3 原査定の拒絶の理由及び引用刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、(2)に示す引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることが出来たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、「ベアードウォース, P.M. 他、鶏の研究、2004年、Vol.79, No.2、p.54-55 」(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「養鶏飼料へのカンタキサンチン使用の現状」(p.54表題)

(イ)「またヤングおよびチャン(一九八二)がアヒルを用いた試験では、カンタキサンチンを五ミリグラム/キログラム添加したところ、無添加区と比べて一日当りの増体重向上(六・一グラム/日:四三・九グラム/日)、受精率向上(九〇・五%:七九・一%)、受精卵の孵化率の増加(五二・二%:三四・五%)、卵黄中のビタミンA量増加(四・三IU/グラム:二・一IU/グラム)となったと報告している。」(p.54第3段第17行?第4段第11行)
(ウ)「孵化の初期の段階において、鶏卵中の卵黄からカロチノイドが移送され、胚子発育に使用され、酸化によるダメージから胚子を守る役目を担っている。
リローラドら(一九九七)の試験によれば、ブロイラーの孵化においてカンタキサンチンが孵化率の向上(受精卵一〇〇個当りの孵化数)が認められたとしている。それによれば二六?三九週齢の間、ブロイラーの雌に異なるレベルのカンタキサンチンを給与し(〇、二、四、六ミリグラム/キログラム)した。その結果、カンタキサンチンのレベルが高まるほど、孵化率が向上した。三四?三九週齢での卵の孵化率は、カンタキサンチン無添加区八五・五%であったのに対し、二ミリグラム/キログラム区八八・五%、四ミリグラム/キログラム区八八・五%、六ミリグラム/キログラム区九一・一%であった。」(p.55第1段第5?26行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、「ATENCIO,A. et al、Poultry science、2005年、Vol.84, No.8、p.1277-85 」(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例3は英語で記載されているので、図表及びその説明を除き、訳文で示す。)

(エ)「ブロイラー種雌鶏の食餌におけるコレカルシフェロール代替物としての25-ヒドロキシコレカルシフェロールと、子孫のパフォーマンスと全般的な健康に対するその効果」(p.1277タイトル)

(オ)「実験は、鶏の日産卵、孵化率、胚の死亡率(初期、孵化後1?10日、後期、孵化後11?21日)及び子孫の身体灰について、25-ヒドロキシコレカルシフェロール(25-OHD_(3))のコレカルシフェロール(ビタミンD_(3))と比較しての相対的生物価を決定するために、ブロイラー種雌鶏で実行された。研究は、紫外光を除いた環境下での73?90週齢の羽毛の抜けかわったロス・ブロイラーで行われた。基礎的ビタミンD_(3)の不足した食餌に、4つの異なるレベル(食餌の、0、3125、12500及び50000ng/kg)のビタミンD_(3)及び2つの異なるレベル(食餌の、3125及び12500ng/kg)の25-OHD_(3)が補充されて与えられた。25-OHD_(3)のビタミンD_(3)と比較しての相対的生物価は、勾配比法を使い、鶏の日産卵、孵化率、胚の死亡率、子孫の身体灰それぞれについて、138、133、128及び111%(平均=128%)であった。」(p.1277ABSTRACT欄)

(カ)「



(3)引用例1に記載された発明
引用例1の記載事項(イ)にはアヒルに飼料1kgあたりカンタキサンチンを5mg添加した飼料を与えることで(引用例1の記載事項(ア)に示されるとおり、引用例1は養鶏飼料へのカンタキサンチンの使用の現状と題するものであるから、引用例1におけるカンタキサンチン量の単位「ミリグラム/キログラム」は、飼料1kgあたりのカンタキサンチン量を表すと認める。)受精卵の孵化率が34.5%から52.2%に向上したことが示されており、引用例1の記載事項(ウ)には雌ブロイラーに餌1kgあたりカンタキサンチンを0mg、2mg、4mg、6mg添加した餌を与えたところ卵の孵化率はそれぞれ85.5%、88.5%、88.5%、91.1%となりカンタキサンチン含有割合の高いほど孵化率の向上が見られたことが示されていることから、これら引用例1の記載を総合すれば、引用例1には「アヒルまたは雌ブロイラーにおける孵化率を向上させるための、飼料の製造における、カンタキサンチンの使用。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明にいう「アヒルまたは雌ブロイラー」は本願発明にいう「家禽」に相当し、また引用発明にいう「飼料」が本願発明にいう「飼料又は動物用組成物」と同義であることは明らかである。
したがって、両者は、
「家禽における孵化率を向上させるための、飼料又は動物用組成物の製造における、カンタキサンチンの使用。」
である点で一致し、本願発明ではさらに「25-ヒドロキシビタミンD3」を使用することが定められているのに対し、引用発明では「25-ヒドロキシビタミンD3」を使用することが明記されていない点で、相違する。

5 当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例3の記載事項(エ)?(カ)には、ビタミンD3の不足した食餌に25-ヒドロキシコレカルシフェロール(25-OHD3)すなわち25-ヒドロキシビタミンD3を補充してブロイラー種雌鶏に摂取させることにより、ビタミンD3を補充して摂取させた場合よりも、孵化率が向上することが示されている。特に、引用例3の記載事項(カ)からは、食餌1kgあたり25-ヒドロキシビタミンD3を0ng、3125ng、12500ng添加した食餌を摂取させたところ、孵化率(HAT)の実測平均値はそれぞれ28.3%、88.2%、95.9%と、25-ヒドロキシビタミンD3の用量依存的に増大したことが読み取れる。
してみると、引用例3には、25-ヒドロキシビタミンD3を飼料の添加物に使用することで雌ブロイラーにおける孵化率を向上させることができることが示されているといえる。
引用発明の解決しようとする課題は「家禽における孵化率の向上」であると認められ、引用発明に対して、孵化率を向上させる重畳的な作用を期待して、孵化率を向上させる作用を有する25-ヒドロキシビタミンD3をさらに使用することで、本願発明を想到することは当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の効果について検討するに、カンタキサンチン及び25-ヒドロキシビタミンD3を併用することにより家禽における孵化率の向上を図れることは、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0017、段落0019及び段落0020に記載されており、ブロイラー雌種鶏の飼料におけるカンタキサンチン及び25-ヒドロキシビタミンD3添加による孵化率の向上の程度は本願明細書の発明の詳細な説明の段落0046?0048(特に、段落0048の表11)に示されている。

しかし、引用発明により家禽における孵化率について、引用例1の記載事項(ウ)には雌ブロイラーに餌1kgあたりカンタキサンチンを0mg、2mg、4mg、6mg添加した餌を与えたところ卵の孵化率はそれぞれ85.5%、88.5%、88.5%、91.1%となったことが示されており、これは本願明細書の発明の詳細な説明の段落0046?0048(特に、段落0048の表11)に示される10週間後の平均孵化率が、T1-対照餌で85.26、T2-対照餌+カロフィルレッド60ppmで87.22であることとも概ね一致する。
そして、25-ヒドロキシビタミンD3を含む飼料が雌ブロイラーにおける孵化率を向上させることは引用例3の記載事項(エ)?(カ)に示されており、引用例3の記載事項(オ)及び記載事項(カ)から、基礎的ビタミンD3の不足した食餌1kgあたり25-ヒドロキシビタミンD3を0ng、3125ng、12500ng添加した食餌を摂取させたところ、孵化率(HAT)の実測平均値はそれぞれ28.3%、88.2%、95.9%と、25-ヒドロキシビタミンD3の用量依存的に増大したことが読み取れるところである。
ここで、25-ヒドロキシビタミンD3を添加した食餌が基礎的ビタミンD3の不足したものであることによる影響を検討する。引用例3の記載事項(オ)に25-ヒドロキシビタミンD3のビタミンD3と比較しての相対的生物価が示されていることから25-ヒドロキシビタミンD3はビタミンD3を代替する作用を奏するとみなされること、及び基礎的ビタミンD3の不足した食餌1kgあたり25-ヒドロキシビタミンD3を3125ng添加した食餌を摂取させた場合の孵化率の実測平均値が88.2%となり、引用例1の記載事項(ウ)におけるカンタキサンチン0mg添加の場合(孵化率85.5%)と本願明細書の発明の詳細な説明の段落0048の表11に示されるT1-対照餌の場合(85.26%)を約3ポイントだけ上回ることを考慮すると、基礎的ビタミンD3の不足した食餌1kgあたり25-ヒドロキシビタミンD3を3125ng添加した食餌は概ね、基礎的ビタミンD3の不足していない食餌と同等と評価できる。
そして、引用例3の記載事項(オ)及び記載事項(カ)からは、孵化率が25-ヒドロキシビタミンD3の用量依存的に増大したことが読み取れる上に、孵化率(HAT)の実測平均値は、上述の検討により基礎的ビタミンD3の不足していない食餌と同等と評価できる食餌1kgあたりの25-ヒドロキシビタミンD3添加量3125ngの場合に88.2%であるのに対し、食餌1kgあたりの25-ヒドロキシビタミンD3添加量をそれより9375ng増加させた12500ngの場合に95.9%であって、25-ヒドロキシビタミンD3の添加により孵化率(HAT)の実測平均値が7ポイント以上増大したことも読み取れるところである。
さらに、カンタキサンチンと25-ヒドロキシビタミンD3とが、お互いの孵化率向上作用を相殺するという技術常識はないと認められるから、引用発明に対して25-ヒドロキシビタミンD3をさらに使用することで、孵化率は引用発明よりも7ポイント程度向上することが当業者には期待されると認められる。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0046?0048(特に、段落0048の表11)に示される10週間後の平均孵化率は、引用発明に対応するT2-対照餌+カロフィルレッド60ppmでは87.22であるのに対し、本願発明に対応するT4-対照餌+カロフィルレッド60ppm+ロビミックス(登録商標)Hy-D(登録商標)69ppbでは88.07であって、25-ヒドロキシビタミンD3をさらに使用することによる孵化率の向上は、7ポイントを大きく下回るわずか0.85ポイントにとどまる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたカンタキサンチン及び25-ヒドロキシビタミンD3添加による孵化率の向上の程度は、当業者が引用例1及び引用例3の記載事項(イ)?(カ)から予想し得る程度を超える顕著なものとは認められない。
(なお、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0024には「カンタキサンチン化合物は、商標ロビミックス(ROVIMIX)(登録商標)Hy-D(登録商標)1.25%として入手可能であり、」との記載があるが、段落0046?0047に記載される「ロビミックス(登録商標)Hy-D(登録商標)」及び段落0048の表11に記載されるロビミックス(R)Hy-D(R)」(「(R)」は○中にRの字が記されたもの)は、25-ヒドロキシビタミンD3含有製剤であると認める。)
したがって、本願発明が、引用例1及び引用例3の記載から当業者の予想し得ない優れた効果を奏し得たものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成26年7月1日付け手続補正書による補正後の審判請求書において、
「(c-1)引用文献1?3には、「カンタキサンチン及び少なくとも1つのビタミンD代謝物」を共に用いることについて、記載も示唆もありません。当然ながら、共に用いるための「ビタミンD代謝物」が「25-ヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD3及び24,25-ジヒドロキシビタミンD3からなる群から選ばれる」ことについても、引用文献1?3には記載も示唆もありません。少なくともこれらの点において、本願発明1は引用発明1?3と相違します。そして引用発明1?3は、「カンタキサンチン及び少なくとも1つのビタミンD代謝物」を共に用いることを想定しておらず、引用文献1?3にはこのような構成を試みたはずであると言える具体的根拠等、動機付けとなる記載も示唆もありません。」、
「(c-2)本願発明1は、「カンタキサンチン及び少なくとも1つのビタミンD代謝物」を共に用いることによって、「孵化率、受精率を向上させ、胚発生の第一段階(first phase)での胚死亡率を低下させる」(0017段落)という優れた利点(効果)を有するものです。このような優れた利点は本願明細書に示されています。」、
「(c-3)例えば、ブロイラー雌種鶏に、ロビミックスHy-D(ビタミンD代謝物)及びカロフィルレッド(カンタキサンチン)を共に添加したところ、それぞれを単独で添加したときよりも、10週間後の平均孵化率が向上したことが示されています(実施例2、表11等)。本願出願当時、平均孵化率を88%程度まで向上させることは困難であると考えられていたところ、本発明者らは、ビタミンD代謝物という第2の活性成分によってカンタキサンチンの効果を向上させることによって、平均孵化率を85.26%(対照)から88.07%にまで向上させることに成功しています。このような優れた利点は、「カンタキサンチン及び少なくとも1つのビタミンD代謝物」を共に用いることについて記載も示唆もない引用文献1?3を当業者が仮に参照したとしても予測できません。」及び
「(c-4)したがって、本願発明1は、引用発明1?3に対して進歩性を有すると思料します。同様に本願発明1と同一の又は対応する技術的特徴を有する請求項2?8に係る発明も、引用発明1?3に対して進歩性を有すると思料します。」などと主張する。
しかし、本願発明(請求項3に係る発明)についての進歩性の判断は上述のとおりであり、請求項1に係る発明により請求人の主張するような受精率向上、胚発生の第一段階での胚死亡率低下の効果が得られたとしても、本願発明(請求項3に係る発明)が引用例1及び引用例3の記載から当業者の予想し得ない優れた効果を奏し得たものとはいえないとした当審の判断が覆るものではない。

よって、審判請求人の主張は受け入れられない。

6 むすび
したがって、本願発明は、引用例1及び引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-18 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2011-535997(P2011-535997)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒巻 真介  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 村上 騎見高
渕野 留香
発明の名称 家禽における孵化率向上のためのカンタキサンチン及び/又は25-OHD3の使用  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 清水 義憲  
代理人 野田 雅一  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 成人  
代理人 山口 和弘  
代理人 池田 正人  

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