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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1310422 |
審判番号 | 不服2014-11907 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-06-24 |
確定日 | 2016-01-27 |
事件の表示 | 特願2008-152350「半導体光電子増倍器及び、半導体光電子増倍器を備える検出器モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月25日出願公開、特開2008-311651〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年6月11日(パリ条約による優先権主張2007年6月15日、米国)の出願であって、平成24年12月7日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成25年1月18日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年8月30日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、これに対し、同年11月22日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年2月28日付けで平成25年11月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされた。 本件は、これを不服として、平成26年6月24日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成26年6月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年6月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲及び発明の名称を補正するものであって、そのうち本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を限定的に減縮することを目的として下記のとおりに補正したものである。 「【請求項1】 基本サブストレート(82)と、 前記基本サブストレート(82)上に位置決めされたエピタキシャルダイオード層(84)と、 前記エピタキシャルダイオード層(84)上に製作された複数のアバランシェフォトダイオード(APD)(62)と、 前記複数のAPDの各々を隣接するAPDから分離するために該複数のAPD(62)の各々の有効エリアの周りに位置決めされた、光吸収有機材料(88)をその内部に被着して包含し、隣接するAPDからの拡散電流を低減させる分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)と、 前記光吸収有機材料(88)を包含した前記光学的分離構造(86)と前記複数のAPD(62)の各々の有効エリアの上に被着され、前記複数のAPD(62)を電気絶縁する二酸化ケイ素薄膜(85)と、 を備え、 前記分離トレンチは、前記エピタキシャルダイオード層(84)を貫通し、前記基本サブストレート(82)内に延びる、 半導体光電子増倍器(53)。」 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。 2 本件補正発明 本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された上記のとおりのものである。 3 引用刊行物 (1)引用刊行物1 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前である2010年1月13日に頒布された「欧州特許出願公開第2144287号明細書」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。ただし、日本語訳を記載する。なお、明細書及び図面の記載の翻訳文として、ファミリーである特表2007-536703号公報の記載を採用する。また、原文に付されている下線以外の下線は当審で付した。 ア 明細書の記載 「技術分野 [0001] 本発明は、半導体デバイスの分野に関し、より詳細には、原子核技術、レーザ技術分野や工業用及び医療用の断層撮影等で用いることが可能な、可視光領域を含む光を高効率で検出する検出器に関する。」 「[0007] シリコン光電子増倍管及び光電子増倍管用セル構造体の2つの実施形態が検討される。 [0008] 第1の実施形態では、以下のようなシリコン光電子増倍管によって、技術効果が得られる。すなわち、シリコン光電子増倍管は、10^(18)?10^(20)cm^(-3)のドーピング濃度を有するp++導電型基板を有し、前記増倍管は互いに独立した複数のセルからなり、各セルは、10^(18)?10^(14)cm^(-3)で傾斜して変化するドーピング濃度を有し、基板上に成長させたp導電型エピタキシャル層と、10^(15)?10^(17)cm^(-3)のドーピング濃度を有するp導電型層と、p-n境界部分のドナー部分を形成し、10^(18)?10^(20)cm^(-3)のドーピング濃度を有するn+導電型層とを有し、前記各セルの酸化ケイ素層上にはポリシリコン抵抗部が設けられ、このポリシリコン抵抗部は前記n+導電型層と電圧分配バスとを接続し、セル間には分離部分が配置される。 [0009] 第2の実施形態では、以下のようなシリコン光電子増倍管によって、技術効果が得られる。すなわち、シリコン光電子増倍管は、n導電型基板と、10^(18)?10^(20)cm^(-3)のドーピング濃度を有し、前記n導電型基板上に形成されたp++導電型層とを備え、前記増倍管は互いに独立した同一の複数のセルからなり、各セルは、10^(18)?10^(14)cm^(-3)で傾斜して変化するドーピング濃度を有し、前記p++導電型層上に成長させたp導電型エピタキシャル層と、10^(15)?10^(17)cm^(-3)のドーピング濃度を有するp導電型層と、10^(18)?10^(20)cm^(-3)のドーピング濃度を有するn+導電型層とを備え、ポリシリコン抵抗部は、前記各セルの酸化ケイ素層上に配置され、前記n+導電型層と電圧分配バスとを接続し、分離部分は、前記各セルの間に配置される。 [0010] この第2の実施形態では、(第1の実施形態で用いられた基板1の代わりに)n導電型基板が用いられ、このn導電型基板はセルのp-層に沿って、逆であるn-p境界部分を形成する。」 「[0011] 第1実施形態に係るシリコン光電子増倍管は、p++導電型基板1と、基板1に成長したエピタキシャル層2(EPI)と、p導電型層3と、n+導電型層4と、層4と電圧分配バス6とを接続するポリシリコン抵抗部5と、酸化ケイ素層7と、分離部分10とを備える。 [0012] 第2実施形態に係るシリコン光電子増倍管は、上述の構成要素及び接続部分以外に、p++導電型層8と、p++導電型基板1の代わりのn導電型基板9とを有する。 [0013] シリコン光電子増倍管用セルは、ドーピング濃度が10^(18)?10^(14)cm^(-3)で徐々に変化するp導電型エピタキシャル層2と、ドーピング濃度が10^(15)?10^(17)cm^(-3)を有するp導電型層3と、p-n境界部分のドナー部分を形成し、ドーピング濃度が10^(18)?10^(20)cm^(-3)を有するn+層と、エピタキシャル層の光電面上に形成された酸化ケイ素層7の各セルに配置されたポリシリコン抵抗部5を備える。抵抗部5は、n+層4と電圧分配バス6とを接続する。 [0014] 上述の構造体において、エピタキシャル層に特別に形成された濃度勾配のあるドーピングプロファイルによって生じる内部電場を生成することによって、動作電圧を低く抑え、電場を一様にし、広い波長領域(300nm?900nm)において高い光検出効率が実現される。 [0015] エピタキシャル層のドーピング濃度は、光電子増倍管の基板から光電面に向かって減少する。ここで、光電面は、基板から遠い側のエピタキシャル層表面(エピタキシャル層の光電面)である。酸化ケイ素層7は、シリコン光電子増倍管の光電面、すなわちエピタキシャル層の光電面上に形成される。n+層4と電圧分配バス6とを接続するポリシリコン抵抗部5は、酸化ケイ素層7の各セルに配置される。特に光学バリアとして機能する分離部分10は、セル間に配置される。 [0016] シリコン光電子増倍管の第2実施形態におけるエピタキシャル層は、n導電型基板9(ドーピング濃度10^(15)?10^(17)cm^(-3))に配置されたp++導電型層8に成長される。 [0017] p導電型層3と基板9の間に第2の(逆方向)n-p境界部分が形成される。この境界部分によって、ガイガー放電における2次光子によって生じる光電子が近傍のセルの感度領域に侵入することを防ぐ。さらに、<100>方向を有するシリコンの異方性エッチングによってセル間に分離部分(光学的なバリア)(例えば、三角形状(V溝))を形成することで、ガイガー放電の2次光子が近傍のセルに侵入することを防ぐ。 このシリコン光電子増倍管は、20?100マイクロメートルのサイズの独立した複数のセルを備える。全てのセルがアルミニウムバスで接続され、降伏電圧より大きい同一のバイアス電圧がセルに印加され、ガイガーモードで動作する。光子がセルの活性領域に達すると当該活性領域にクエンチされたガイガー放電が発生する。クエンチとは放電を停止させることであり、各セルにおけるポリシリコン抵抗部5(電流制限抵抗)の存在によりp-n境界部分の電圧が低下すると電荷担体の数が0に変動することによってクエンチが起こる。動作したセルからの電流信号は、共通の負荷上に集約される。各セルの増幅度は10^(7)程度である。増幅値のばらつきはセルの容量のばらつき及びセルの降伏電圧のばらつきで決まり、5%未満である。全てのセルは同一なので、強くない閃光に対する検出器の応答は、動作したセルの数、すなわち、光強度に比例する。 [0018] ガイガーモードにおける動作の特徴の一つとして、バイアス電圧からのセル増幅度の線形依存性が挙げられる。これにより、電源電圧の安定性及び熱安定性に対する要件が緩和される。共通バス6(陽極)には、正の電圧が供給される。供給する電圧としては、ガイガーモードになり(一般には+20V?60V)、また、1?2マイクロメートルの必要となる空乏層の深さを与える値にする。光量子の吸収においては、生成される電荷担体は、空乏領域だけではなく、空乏になっていない通過する領域からも集まる。この空乏になっていない領域では、ドーピングの濃度勾配によって生じた内部電場が存在し、この電場によって、電子は陽極へと移動させられる。このように、電荷が、空乏領域の深さを大きく超えるような深さにまで達して集まるため、動作電圧が低くなる。固定のセル配置及び固定の動作電圧において最大の光検出効率を与える。 [0019] ポリシリコン抵抗部5の値は、アバランシェ放電を停止させるために十分な条件の中から選択される。この抵抗部は、技術的に簡単に作製される。重要な特徴としては、活性領域をふさがずに、すなわち、光検出効率を低下させずに、抵抗部をセル周辺に形成することである。 [0020] セル間の結合を防ぐために、シリコン光電子増倍管の構造体では、セル間に分離部分が配置される。例えば、この分離部分は三角形状(例えば、<100>方向のシリコンをKOH溶液で異方性エッチングすることで形成される)を有している。」 イ 図面の記載 「Fig.1 」 「Fig.2 」 ウ 上記ア及びイの記載事項の考察 上記イの記載事項のFig.2から、分離部分10がエピタキシャル層の最下部まで形成されていることが読み取れる。 エ 引用例記載の発明 上記ア及びイの記載事項並びに上記ウの考察によると、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「p++導電型基板1を有し、 互いに独立した複数のセルからなり、 各セルは、p++導電型基板1上に成長させたp導電型エピタキシャル層2と、p導電型層3と、p-n境界部分のドナー部分を形成するn+導電型層4と、シリコン光電子増倍管の光電面、すなわちエピタキシャル層の光電面上に形成される酸化ケイ素層7とを有し、 前記各セルの酸化ケイ素層7上にはポリシリコン抵抗部5が設けられ、 エピタキシャル層の最下部まで異方性エッチングすることで形成される三角形状(V溝)であって、光学バリアとして機能する分離部分10がセル間に配置され、 光電面は、p++導電型基板1から遠い側のエピタキシャル層表面(エピタキシャル層の光電面)であり、 降伏電圧より大きい同一のバイアス電圧がセルに印加され、ガイガーモードで動作する、 シリコン光電子増倍管。」 (2)引用刊行物2 また、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前である平成15年3月20日に頒布された「特開2003-86826号公報」(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 発明の詳細な説明の記載 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ホトダイオードアレイと、これを備えた固体撮像装置および放射線検出器に関する。」 「【0015】図1は、本発明によるホトダイオードアレイの第1実施形態を示す断面図である。図2は、図1のホトダイオードアレイを光入射側から見た平面図であり、電極及び表面絶縁膜は省略してある。これらの図面に示すホトダイオードアレイ1は、光入射面側から電極や配線を排した、いわゆる裏面入射型のホトダイオードアレイであり、n-型(第1導電型)Si等からなる半導体基板2を有する。半導体基板2は、例えば、1.0×10^(12)/cm^(3)程度の不純物濃度を有し、その厚さは、例えば、約270μmとされる。半導体基板2の一面側、すなわち、半導体基板2の表面2sには、p型(第2導電型)Si等からなる第2導電型半導体層(p型不純物拡散層)3がマトリックス状に複数(本実施形態では2×2=4個)配設されることで、ホトダイオードアレイが構成される。各第2導電型半導体層3は、1.0×10^(19)/cm^(3)程度の不純物濃度を有し、表面2sからの深さ(厚さ)は、例えば、約0.5μmとされる。 【0016】また、半導体基板2の表面2s側(一面側)には、各第2導電型半導体層3それぞれの近傍に位置するように、半導体基板2よりも高い不純物濃度を有するn+型(第1導電型)Si等からなるチャンネルストッパ層4が設けられている。図2に示すように、本実施形態では、チャンネルストッパ層4は、各第2導電型半導体層3の周囲を取り囲むように、格子状に形成されている。チャンネルストッパ層4は、1.0×10^(18)/cm^(3)程度の不純物濃度を有し、表面2sからの深さ(厚さ)は、例えば、約1.5μmとされる。 【0017】更に、半導体基板2の表面2sには、絶縁層5が積層され、ポリシリコン、Au、Al等からなるパターン配線が施されている。そして、各第2導電型半導体層3は、パターン配線のうち、アノードとなる電極Eaと接続され、各チャンネルストッパ層4は、パターン配線のうち、カソードとなる電極Ec(図2参照)と接続される。これにより、半導体基板2に対しては、図示しない電極パッドおよび電極Ecから、n+型のチャンネルストッパ層4を介して電圧が加えられることになる。なお、絶縁層5を形成する素材としては、SiO_(2)やSiN_(x)を用いることができる。 【0018】一方、光入射面となる半導体基板2の裏面2uには、半導体基板2内で発生するキャリアが裏面2uで再結合することを防止するためのアキュムレーション層6が形成されている。アキュムレーション層6は、n型Si等からなり、例えば、5.0×10^(18)/cm^(3)程度の不純物濃度を有する。また、アキュムレーション層6の厚さは、例えば、約0.2μmとされる。アキュムレーション層6上には、更に、保護層7が積層され、保護層7上には、PD接合領域に対応する開口部8aを複数備えた遮光膜8が積層されている。これにより、PD間におけるクロストークを改善することができる。遮光膜8を形成する素材としては、例えば、ホトレジスト内に、黒色の染料や絶縁処理したカーボンブラック等の顔料を混入させた黒色ホトレジストや、遮光性金属等を用いることができる。 【0019】上述したように、ホトダイオードアレイ1は、いわゆる裏面入射型として構成されるが、この場合、何ら対策を施さなければ、ホトダイオード間においてクロストークが発生しやすくなってしまう。この点に鑑みて、ホトダイオードアレイ1の半導体基板2の表面2s側(一面側)には、図1および図2に示すように、トレンチ部10が形成されている。 【0020】トレンチ部10は、図1および図2に示すように、格子状に形成されたチャンネルストッパ層4の中央部を貫通するように形成された格子状の溝(凹部)11、溝11の表面に積層された絶縁層12、および、溝11内に埋設された絶縁体14とからなる。そして、図1に示すように、トレンチ部10は、チャンネルストッパ層4よりも裏面2u側に延びている。つまり、トレンチ部10の表面2sからの深さは、各チャンネルストッパ層4の表面2sからの深さよりも大きい。 【0021】なお、絶縁層12を形成する素材としては、SiO_(2)やSiN_(x)を用いることができる。また、絶縁体14としては、遮光膜8と同様に、例えば、ホトレジスト内に、黒色の染料や絶縁処理したカーボンブラック等の顔料を混入させた黒色ホトレジストを用いることができる。更に、絶縁体14としては、ポリイミド等の樹脂やノンドープの絶縁性シリカ溶液等を用いることも可能である。この場合、ポリイミド等の樹脂やノンドープの絶縁性シリカ溶液をスピンコートにより溝11内に導入し、ベーキングすることによって、溝11内に絶縁体14を埋設すればよい。また、パターン配線をトレンチ部10(絶縁体14)上に沿うように配置しても(這わせても)よい。 【0022】ここで、図2に示すように、トレンチ部10は、各第2導電型半導体層3、及び、チャンネルストッパ層4の各第2導電型半導体層3を取り囲む部位4cの周囲のほぼ全体を囲んでいるが、各第2導電型半導体層3および部位4cの周囲を完全には囲んでいない。すなわち、図2に示すように、各第2導電型半導体層3の互いに対向し合う2つの縁部に対しては、各1箇所ずつトレンチ部10が存在しないトレンチ非存在部9が形成されている。そして、これら各トレンチ非存在部9を介して、チャンネルストッパ層4の互いに隣り合う第2導電型半導体層3に対応する部位4c同士は電気的に連続している。 【0023】このように、各第2導電型半導体層3の周囲の少なくとも一個所にトレンチ非存在部9を設ければ、チャンネルストッパ層4の互いに隣り合う第2導電型半導体層3に対応する部位4c同士を連続させることができる。従って、各第2導電型半導体層3ごとに電極(カソード)Ecを設ける必要はなくなり、図2に示すように、電極Ecの個数を低減可能となる(本実施形態では、1体)。この結果、カソード用の配線を半導体基板2上で引き回す必要がなくなるので、開口率を高めることが可能となると共に、組立効率を向上させることができる。 【0024】このように構成されたホトダイオードアレイ1において、半導体基板2の裏面2u側から光が入射すると、入射光に感応してキャリア(電子・正孔)が発生する。そして、発生したキャリアは、半導体基板2内の電界に従って移動し、その一方は、n+型のチャンネルストッパ層4を介してカソードとなる電極Ecから、他方は、第2導電型半導体層3と接続されたアノードとなる電極Eaから取り出され、電極パッドを介して外部に出力される。 【0025】ここで、上述したように、このホトダイオードアレイ1では、トレンチ部10が、チャンネルストッパ層4よりも他面側に延びており、各ホトダイオードの周囲は、トレンチ非存在部9を除いて、トレンチ部10によって概略取り囲まれている。従って、トレンチ部10によって、半導体基板2の裏面2uから入射した光によって発生したキャリアの互いに隣り合うホトダイオード間における移動が規制される。この結果、ホトダイオードアレイ1では、アノードとなる電極Eaやカソードとなる電極Ecを含むパターン配線を表面2s側に集めても、クロストークの発生を良好に抑制することが可能となる。」 イ 図面の記載 「【図1】 」 「【図2】 」 ウ 上記記載事項アの考察 一般に、クロストークには、光学的なものと電気的なものとが存在するが、引用例2の「アキュムレーション層6上には、更に、保護層7が積層され、保護層7上には、PD接合領域に対応する開口部8aを複数備えた遮光膜8が積層されている。これにより、PD間におけるクロストークを改善することができる」(【0018】)との記載、「このホトダイオードアレイ1では、トレンチ部10が、チャンネルストッパ層4よりも他面側に延びており、各ホトダイオードの周囲は、トレンチ非存在部9を除いて、トレンチ部10によって概略取り囲まれている。従って、トレンチ部10によって、半導体基板2の裏面2uから入射した光によって発生したキャリアの互いに隣り合うホトダイオード間における移動が規制される。この結果、ホトダイオードアレイ1では、アノードとなる電極Eaやカソードとなる電極Ecを含むパターン配線を表面2s側に集めても、クロストークの発生を良好に抑制することが可能となる」(【0025】との記載等からみて、引用例2に記載された「クロストーク」は、所謂光クロストークであると認められる。 (3)引用刊行物3 さらに、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前である平成18年7月6日に頒布された「特開2006-179828号公報」(以下「引用例3」という。)の発明の詳細な説明の記載には、次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ガイガーモードで動作させてフォトンカウンティングに利用されるホトダイオードアレイに関する。 【背景技術】 【0002】 例えば化学や医療などの分野において、アバランシェ(電子なだれ)増倍を利用したホトダイオードアレイをシンチレータに装着してフォトンカウンティングを行う技術がある。このようなホトダイオードアレイでは、同時に入射する複数のフォトンを弁別するため、複数に分割された受光チャンネルが共通基板上に形成されており、この受光チャンネルごとに増倍部が配置されている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、ホトダイオードアレイをフォトンカウンティングに用いる場合には、良好な検出結果を得る上で、被検出光に対する開口率を高めて量子効率を大きくすることや、ガイガーモードでの動作によって発生する受光チャンネル間のクロストークを抑制することが重要となっている。 【0005】 しかしながら、上述した従来のホトダイオードアレイでは、ガイガーモード動作時に発生する受光チャンネル間のクロストークを抑えるために各増倍部間をある程度離間させる必要が生じていた。その結果、被検出光に対する開口率の低下を招き、検出感度特性を向上させることが困難であった。 【0006】 本発明は上記課題の解決のためになされたもので、ガイガーモードで動作させる場合であっても、受光チャンネル間のクロストークの発生を抑制しつつ被検出光に対する開口率を十分に確保できるホトダイオードアレイを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記課題の解決のため、本発明に係るホトダイオードアレイは、被検出光を入射させる複数の受光チャンネルが半導体基板に形成されてなるホトダイオードアレイであって、半導体基板における被検出光の入射面側には、半導体基板よりも高い不純物濃度を有するアキュムレーション層が形成され、半導体基板における入射面の反対面側には、被検出光の入射によって生じたキャリアをアバランシェ増倍させる増倍部と、増倍部と電気的に接続されると共に、互いに並列接続される抵抗と、が受光チャンネルごとに形成され、受光チャンネル同士は、各増倍部の周囲に形成される分離部によって互いに分離されていることを特徴としている。」 「【0011】 また、低屈折率物質は、SiO_(2)により形成されていることが好ましい。この場合、低屈折率物質と半導体基板との間に十分な屈折率差を持たせることができる。したがって、プラズマ発光を低屈折率物質でより確実に反射させることができ、光クロストークの発生をより効果的に抑制することが可能となる。さらに、SiO_(2)は高い絶縁性を有しているため、電気的クロストークの発生を効果的に抑制することも可能となる。 【0012】 また、トレンチ溝及び低屈折率物質は、半導体基板の入射面側から反対面側まで貫通して形成されていることが好ましい。これにより、隣接する受光チャンネル同士の分離がより確実化されるため、光クロストーク及び電気的クロストークの発生をより効果的に抑制することができる。」 4 対比 ここで、本件補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「p++導電型基板1」、「エピタキシャル層」、「三角形状(V溝)であって、光学バリアとして機能する分離部分10」、「酸化ケイ素層7」及び「シリコン光電子増倍管」は、本件補正発明の「基本サブストレート(82)」、「エピタキシャルダイオード層(84)」、「分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)」、「二酸化ケイ素薄膜(85)」及び「半導体光電子増倍器(53)」にそれぞれ相当する。 (2)引用発明の「シリコン光電子増倍管」は、「各セルは、」「p導電型層3と、p-n境界部分のドナー部分を形成するn+導電型層4と」「を有し、」「降伏電圧より大きい同一のバイアス電圧がセルに印加され、ガイガーモードで動作する」ものであるから、技術常識に照らせば、引用発明の「p導電型層3と、p-n境界部分のドナー部分を形成するn+導電型層4」は、本件補正発明の「アバランシェフォトダイオード(APD)」に相当するものであるといえる。 そうすると、引用発明の「各セルは、p++導電型基板1上に成長させたp導電型エピタキシャル層2と、p導電型層3と、p-n境界部分のドナー部分を形成するn+導電型層4と」「を有し、」「光電面は、基板から遠い側のエピタキシャル層表面(エピタキシャル層の光電面)であり、降伏電圧より大きい同一のバイアス電圧がセルに印加され、ガイガーモードで動作する」構成は、本件補正発明の「基本サブストレート(82)上に位置決めされたエピタキシャルダイオード層(84)と、前記エピタキシャルダイオード層(84)上に製作された複数のアバランシェフォトダイオード(APD)(62)」「を備え」る構成に相当する。 (3)引用発明は、「光電面は、p++導電型基板1から遠い側のエピタキシャル層表面(エピタキシャル層の光電面)であ」って、引用発明の「セル間に配置され」る「分離部分10」は、「エピタキシャル層の最下部まで異方性エッチングすることで形成される三角形状(V溝)であ」るから、引用発明の「分離部分10がセル間に配置され」る構成は、本件補正発明の「複数のAPDの各々を隣接するAPDから分離するために該複数のAPD(62)の各々の有効エリアの周りに位置決めされ」、「隣接するAPDからの拡散電流を低減させる分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)」「を備え」る構成に相当する。 そうすると、引用発明の「エピタキシャル層の最下部まで異方性エッチングすることで形成される三角形状(V溝)であって、光学バリアとして機能する分離部分10がセル間に配置され」る構成と、本件補正発明の「複数のAPDの各々を隣接するAPDから分離するために該複数のAPD(62)の各々の有効エリアの周りに位置決めされた、光吸収有機材料(88)をその内部に被着して包含し、隣接するAPDからの拡散電流を低減させる分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)」「を備え」る構成とは、「複数のAPDの各々を隣接するAPDから分離するために該複数のAPD(62)の各々の有効エリアの周りに位置決めされ、隣接するAPDからの拡散電流を低減させる分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)を備える」構成で共通する。 (4)引用発明の「シリコン光電子増倍管の光電面、すなわちエピタキシャル層の光電面上に形成される酸化ケイ素層7」「を有」する構成と、本件補正発明の「光吸収有機材料(88)を包含した前記光学的分離構造(86)と前記複数のAPD(62)の各々の有効エリアの上に被着され、前記複数のAPD(62)を電気絶縁する二酸化ケイ素薄膜(85)」「を備え」る構成とは、「複数のAPD(62)の各々の有効エリアの上に被着された二酸化ケイ素薄膜(85)」「を備え」る構成で共通する。 上記(1)ないし(4)の点から、本件補正発明と引用発明は、 「基本サブストレート(82)と、 前記基本サブストレート(82)上に位置決めされたエピタキシャルダイオード層(84)と、 前記エピタキシャルダイオード層(84)上に製作された複数のアバランシェフォトダイオード(APD)(62)と、 前記複数のAPDの各々を隣接するAPDから分離するために該複数のAPD(62)の各々の有効エリアの周りに位置決めされ、隣接するAPDからの拡散電流を低減させる分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)と、 前記複数のAPD(62)の各々の有効エリアの上に被着された二酸化ケイ素薄膜(85)と、 を備えた、 半導体光電子増倍器(53)。」 で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本件補正発明は、「光学的分離構造(86)」が「光吸収有機材料(88)をその内部に被着して包含」するものであって、「光学的分離構造(86)」の「分離トレンチは、前記エピタキシャルダイオード層(84)を貫通し、前記基本サブストレート(82)内に延び」、「二酸化ケイ素薄膜(85)」が「光吸収有機材料(88)を包含した前記光学的分離構造(86)」「上に被着され、前記複数のAPD(62)を電気絶縁する」ものであるのに対し、引用発明は、「光学バリアとして機能する分離部分10」が「エピタキシャル層の最下部まで異方性エッチングすることで形成される三角形状であ」り、「酸化ケイ素層7」は、単に「エピタキシャル層2の光電面上に形成される」だけである点。 5 当審の判断 以下、上記相違点について検討する。 ホトダイオードアレイの光クロストーク(「第2」[理由]「3」「(2)」「ウ」の考察参照。)を防ぐために、溝11(本件補正発明の「分離トレンチ」がこれに相当。)内に絶縁体14である黒色ホトレジスト(本件補正発明の「光吸収有機材料」がこれに相当。)を埋設したトレンチ部10(本件補正発明の「光学的分離構造」に相当。)を形成すること、及び、SiO_(2)の絶縁体5(本件補正発明の「二酸化ケイ素薄膜(85)」に相当。)を絶縁体14である黒色ホトレジストを埋設したトレンチ部10上、及び、ホトダイオード上に形成することが、いずれも引用例2(【0020】、【0021】、【0025】、図1参照。)に記載されている。 そして、引用例2に記載されたトレンチ部10は、溝11内に絶縁体14を埋設したものであるから、電気的に分離することが可能なものであるといえる。 また、アバランシェフォトダイオードアレイにおいて、光クロストーク及び電気クロストークの発生が抑制すべき課題であることは、引用例3に記載されているように既知の課題であって、引用発明においても同様の課題を内包することは自明といえる。 そうすると、光クロストーク及び電気クロストークの発生を抑制するために、引用発明の「降伏電圧より大きい逆のバイアス電圧がセルに印加され、ガイガーモードで動作する、シリコン光電子増倍管」において、「p導電型エピタキシャル層2の最下部まで異方性エッチングすることで形成される三角形状であって、光学バリアとして機能する分離部分10」に換えて、引用例2に記載された、溝11内に絶縁体14である黒色ホトレジストを埋設したトレンチ部10を採用することは、当業者が容易になし得たことであり、その際に、引用発明の「エピタキシャル層2の光電面上に形成される酸化ケイ素層7」を、引用例2に記載されている如く、トレンチ部10上にも形成することにより、各セルの「p導電型層3と、p-n境界部分のドナー部分を形成するn+導電型層4」を電気絶縁することに、格別の困難性はない。 そして、一般に、分離トレンチを深く形成すれば光学的分離がより確実となることは自明であるし、ホトダイオードアレイの分離トレンチを基板内に延びるように形成することは、周知技術(特開2004-47732号公報の図2、特開2001-352094号公報の図2,7?9、特開2003-7993号公報の図1、2参照。)であるから、上記「トレンチ部10を採用する」に際し、トレンチ部を引用発明の「p++導電型基板1」内に延びるまで形成し、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。 上記相違点については以上のとおりであり、本件補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2,3記載の事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものと認められる。 よって、本件補正発明は、引用発明、引用例2,3記載の事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 6 本件補正についての補正の却下の決定のむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成26年6月24日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成25年11月22日付けの手続補正は、平成26年2月28日付けで補正の却下の決定がなされたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年1月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 基本サブストレート(82)と、 前記基本サブストレート(82)上に位置決めされたエピタキシャルダイオード層(84)と、 前記エピタキシャルダイオード層(84)上に製作された複数のアバランシェフォトダイオード(APD)(62)と、 前記複数のAPDの各々を隣接するAPDから分離するために該複数のAPD(62)の各々の有効エリアの周りに位置決めされた、光吸収材料(88)と光反射材料(88)の少なくとも一方をその内部に被着して包含する分離トレンチとして構成された光学的分離構造(86)と、 前記光学的分離構造(86)と前記複数のAPD(62)の各々の有効エリアの上に被着された二酸化ケイ素薄膜(85)と、 を備え、 前記分離トレンチは、前記エピタキシャルダイオード層(84)を貫通し、前記基本サブストレート(82)内に延びる、 半導体光電子増倍器(53)。」 2 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用刊行物1ないし3及びその記載事項、並びに引用発明は、上記「第2」[理由]「3」に記載したとおりである。 3 対比及び当審の判断 本願発明は、本件補正発明の発明特定事項である「光吸収有機材料(88)」を「光吸収材料(88)と光反射材料(88)の少なくとも一方」とし、同じく「分離トレンチ」に関し、「隣接するAPDからの拡散電流を低減させる」事項を省き、同じく「二酸化ケイ素薄膜(85)」に関し、「複数のAPD(62)を電気絶縁する」事項を省いたものである。 ここで、本願発明の発明特定事項を全て含み、上記構成を限定した本件補正発明が、上記「第2」[理由]「4」及び「5」に記載したとおり、引用発明、引用例2,3記載の事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用例2,3記載の事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2,3記載の事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-08-19 |
結審通知日 | 2015-08-25 |
審決日 | 2015-09-08 |
出願番号 | 特願2008-152350(P2008-152350) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 元彦 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
伊藤 昌哉 土屋 知久 |
発明の名称 | 半導体光電子増倍器及び、半導体光電子増倍器を備える検出器モジュール |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 田中 拓人 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 黒川 俊久 |