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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1310440
審判番号 不服2014-17852  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-08 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2009-27833号「面状発熱体及び面状発熱体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年8月19日出願公開、特開2010-182650号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年2月9日の出願であって、平成26年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされた。
その後、当審において平成27年9月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年10月29日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年10月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものであると認める。
「導電性カーボンチョップドファイバーと当該導電性カーボンチョップドファイバーよりも繊維の平均長が長い和紙原料パルプ材料とを一定配分で液中で混ぜ合わせて混液とする混液ステップと、
混液ステップにて得られた混液をフィルタに通して、目のそろった導電性カーボンチョップドファイバーを均一に含有する薄状部材を得る薄状化ステップと、
薄状化ステップにて得られた薄状部材を乾燥させる乾燥ステップと、
電極部材の基礎として使われる導電物質を含浸させる含浸ステップと、
を有する面状発熱体の製造方法。」

第3 引用文献
1 これに対して、当審において通知した平成27年9月1日付け拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、登録実用新案第3144384号公報(以下「引用文献1」という。)、特開昭62-281293号公報(以下「引用文献2」という。)、特開平11-26140号公報(以下「引用文献3」という。)、特開昭52-57527号公報(以下「引用文献4」という。)及び特開2008-261062号公報(以下「引用文献5」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

1-1 引用文献1
(1)「【0001】
本考案は、電気加熱装置に関する。」
(2)「【0006】
本考案は上記事情に鑑みて成されたものであり、装置全体の電気抵抗値を自由かつ容易に調節することができ、軽量、かつ機械的強度に優れ、少ない消費電力で安定した状態で所望の温度に暖めることができる電気加熱装置を提供することを目的とする。」
(3)「【0011】
また、本考案に係る電気加熱装置は、前記電気加熱装置であって、前記炭素繊維混抄紙に紙目が配され、前記炭素繊維が前記紙目方向に配向され、前記紙目方向又は該紙目方向に直交する方向に対向して前記一対のペースト電極が配されていることを特徴とする。
【0012】
この考案は、炭素繊維が紙目方向に配向されるので、紙目方向と紙目方向に直交する方向とで電気抵抗値を異ならせることができる。そのため、炭素繊維混抄紙への一対のペースト電極の配設位置によって、一対のペースト電極間の電気抵抗値を変化させることができる。この際、発熱体の電気抵抗値が、紙目方向が最も低く、紙目方向と直交する方向が最も高い。そのため、何れかの方向にペースト電極を配する場合には、一対のペースト電極間の電気抵抗値を予め容易に算出しておくことができ、温度制御を容易に行うことができる。」
(4)「【0021】
加熱部2は、図3に示すように、炭素繊維混抄紙10と、導電性の一対のペースト電極11と、を有する複数の発熱体12と、複数の発熱体12を並列に接続する一対の補助電極13と、補助電極13と接続された一対の主電極14と、複数の発熱体12を密封するコーティング層15と、を備えている。
【0022】
炭素繊維混抄紙10は、矩形シート状に形成されている。炭素繊維混抄紙10の炭素繊維は、長さ3mm以上、5mm未満又は長さ5mm以上、10mm以下の長さを有するピッチ系炭素繊維となっている。炭素繊維混抄紙10における炭素繊維の含有率は3?20重量%とされている。一方、植物パルプの含有率は97?80重量%とされている。炭素繊維混抄紙10の坪量は55g/m^(2)以下とされ、矩形状に形成されている。」
(5)「【0025】
この炭素繊維混抄紙10は、炭素繊維と、植物パルプとを、パルパー等の公知の攪拌機により、水に回流させて混合、分散させる方法、又は、炭素繊維と、植物パルプとを別々に水に分散させた後、混合、分散させる方法等を用いて製造された原料溶液を用いて、公知の円網式抄紙機(ヤンキーマシン)、長網抄紙機等により所望の厚さ及び坪量に抄造される。
【0026】
この際、炭素繊維混抄紙10に紙目が形成され、紙目方向Pに沿って炭素繊維が配向されている。そのため、紙目方向Pと、これに直交する方向Nとで電気抵抗値が異なっている。ここで、炭素繊維混抄紙10の各辺は、紙目方向Pと平行又はこれに直交するように矩形状に形成されている。そして、一対のペースト電極11が、炭素繊維混抄紙10の紙目方向Pに直交する両辺に沿って配されている。なお、所望する抵抗値によっては、炭素繊維混抄紙10の紙目方向Pに直交する両辺でなく、炭素繊維混抄紙10の紙目方向Pに平行な両辺に一対のペースト電極11を配してもよい。
【0027】
一対のペースト電極11は、銀ペーストが炭素繊維混抄紙10の表面及び裏面に一定の幅で帯状に印刷されて配されている。一対のペースト電極11間の電気抵抗値R(Ω)は、以下の式によって算出することができる。
R=R1×D/L」

1-2 引用文献2
(1)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、定寸にカットした炭素繊維を植物パルプ中に分散させて含有し安定した温度特性を発揮するようにした炭素繊維混抄発熱シートに関するものである。」(2頁右上欄下から3行?左下欄2行)
(2)「(2)製紙パルプは、靱皮パルプを少なくとも過半量使用すること。
コウゾ、ミツマタ及びマニラ麻は、いわゆる和紙の抄造に用いられるもので、靱皮繊維又は靭皮パルプと総称され得るが、これらは繊維径が太く、また強靱であって、混抄紙中の炭素繊維をよく保持することができ、炭素繊維どうしの接触抵抗を不変に保つのに役立つ。また、紙力の向上にも寄与するので、混抄発熱シートを床暖房材など強度を要求される分野に応用するのにも役立つ。」(3頁左下欄2?11行)
(3)「黒くぬりつぶして示す炭素繊維1は、4本がそれぞれ部分的に示されているが、太さ(径)は約6.8μm、長さは好適に約8mmの定寸にカットされている。炭素繊維1を保持している植物パルプ2は、コウゾ、ミツマタ又はマニラ麻などの靱皮繊維であり、炭素繊維1よりも太くて長い。」(4頁左上欄2?7行)
(4)「参考として、第1図に示しだ炭素繊維混抄シートは一例として次のように製造され得る。
植物パルプ(ミツマタ:NBKP=65:35) 57kg(乾重)
炭素繊維(8mm長、6.8μ径) 8.5kg(〃)
この両成分に水を加えてよく攪拌し、炭素繊維をパルプ中によく分散させる。ついで合成粘剤(ポリアクリルアミド)630ccを添加し、さらに攪拌した上、紙料を幅約1mの抄網上に流し、坪量40g/m^(2)に抄造する。乾燥ドラム通過後の成紙の厚みは120μmと測定された。」(4頁左下欄4?13行)
(5)「電極12は、種々の方法で形成し得るが、好適には混抄シート11の辺沿いに銀ペーストをスクリーン印刷によって付着させるのが実際的である。第3図はこのようにして形成した電極部分を拡大して示す部分断面図(第2図III-III線相当)であり、電極12を構成している銀ペースト15は紙厚T(=120μm)の半分くらいまで浸透している。」

1-3 引用文献3
(1)「【0011】次に導電性シート10の製造方法について説明する。図3に示すように原料であるこうぞ14を選定し、こうぞ14を煮沸する。そして水流で攪拌して不純物を除去し、繊維をほぐし柔らかくするために叩解し、その後に水に分散させ、ここに炭素繊維12を所定配合比で混合する。そして上記水からすくい上げて再び叩解し、これを水に分散させて攪拌する。そこへ、水溶性接着剤となる分散剤を混入し、こうぞ14と炭素繊維12を漉いてシート状とし、プレス等により水分を除去する。そして乾燥させ、所定形状に裁断し導電性シート10が完成する。」

1-4 引用文献4
(1)「第1図および第2図は本発明に係る短繊維複合発熱体の一例を示すもので、発熱板1は、炭素繊維等の短繊維状導電性充填素材2が、その各繊維が単繊維状に解繊分離した状態で合成樹脂等からなるマトリックス3内に充填されている。なお、発熱板10両側端には電流を流すための導線4を必要に応じて埋設することができる。
短繊維状の導電性充填素材2は、無配向とすることもできるが、一定の方向に配向させることによって発熱板の平面内における電気的特性に方向性をもたせることもできる。」(3頁左上欄13行?右上欄5行)
(2)「第3図は本発明の方法を実施する装置の概要を示すもので、飛動装置11の導入口13に供給された導電性の繊維12は、誘導ローラ14により分繊飛動ローラ15との接触点まで誘導され、ここで高速回転する分繊飛動ローラ15により切断と同時に分繊されて、単繊維状に解繊分離した状態で連続的に空気流中に飛動せしめられ、飛動通路16を通してその先端の放出口17からベルト状の捕集帯18上に供給され、該捕集帯18に捕集される。上記放出口17を飛動する短繊維の長さよりも充分に小さい間隙を有するスリット状に形成すれば、それを通過した短繊維をスリットの長手方向に配向して集積させることができる。」(3頁右上欄下から3行?左下欄10行)

1-5 引用文献5
(1)「【0012】
本発明では、パルプシートの繊維配向に着目し、繊維を一定方向に揃えて配向した状態のパルプシートを用いることにより、不定方向に絡み合ったパルプシートに比べて解砕が容易となり、解砕前の繊維形態をほぼ維持しながら、均一にばらけた綿状の解砕物(パルプ綿)が得られる。
パルプを水に分散したパルプ分散溶液(以下、パルプスラリーという)を一定方向に流すことにより、流れ方向に繊維を揃えることができ、繊維の配向したパルプシートを得ることができる。さらに、整流板を平行に多数設けることにより、配向性を向上させることができる。整流板は、板状あるいは線材でも良い。
また、パルプスラリーを漉き網の上に流し出す際に、流れ方向に多数のスリットを設けることにより、繊維をスリット長手方向に沿わせた状態で整列させることができる。
さらには、パルプシートの製造条件のうち、抄紙機の選択、ジェットワイヤー比(パルプスラリーの供給スピードと抄紙スピードの比率)の変更等により、パルプシートの配向性を向上させることができる。」

2 引用発明
引用文献1についての上記1-1(1)?(5)の記載事項を総合すると、引用文献1には、
「炭素繊維混抄紙10と導電性の一対のペースト電極11とを有する発熱体12を製造する方法であって、
この炭素繊維混抄紙10は、炭素繊維と、植物パルプとを、パルパー等の公知の攪拌機により、水に回流させて混合、分散させる方法、又は、炭素繊維と、植物パルプとを別々に水に分散させた後、混合、分散させる方法等を用いて製造された原料溶液を用いて、公知の円網式抄紙機(ヤンキーマシン)、長網抄紙機等により所望の厚さ及び坪量に抄造されるものであり、
炭素繊維混抄紙10に紙目が形成され、紙目方向Pに沿って炭素繊維が配向され、
一対のペースト電極11は、銀ペーストが炭素繊維混抄紙10の両辺の表面及び裏面に一定の幅で帯状に印刷されて配される、
発熱体12を製造する方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

第4 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「炭素繊維」は、本願発明の「導電性カーボンチョップドファイバー」に相当し、「炭素繊維混抄紙10と導電性の一対のペースト電極11とを有する発熱体12」は、その形状及び機能から、本願発明の「面状発熱体」に相当する。
また、引用発明の「植物パルプ」は、本願発明の「和紙原料パルプ材料」を含むものである。
また、引用発明の「紙目方向Pに沿って炭素繊維が配向され」ている「炭素繊維混抄紙10」は、本願発明の「目のそろった導電性カーボンチョップドファイバーを」「含有する薄状部材」に相当する。
また、引用発明の「炭素繊維と、植物パルプとを、パルパー等の公知の攪拌機により、水に回流させて混合、分散させる方法、又は、炭素繊維と、植物パルプとを別々に水に分散させた後、混合、分散させる方法」は、本願発明の「混液ステップ」に相当し、引用発明の「製造された原料溶液を用いて、公知の円網式抄紙機(ヤンキーマシン)、長網抄紙機等により所望の厚さ及び坪量に抄造」することは、本願発明の「混液」から「薄状部材を得る薄状化ステップ」に相当する。
また、引用発明において、原料溶液の製造に際し、炭素繊維と植物パルプとを一定配分で混ぜ合わせること、及び、炭素繊維混抄紙10に炭素繊維を均一に含有させることは、当該炭素繊維混抄紙の製造にあたって当然配慮される設計的事項であり、引用文献1に記載されているに等しい事項といえるものである。
そして、引用発明の「一対のペースト電極11」及び「銀ペースト」は、本願発明の「電極部材」及び「電極部材の基礎として使われる導電物質」に相当し、引用発明の「一対のペースト電極11は、銀ペーストが炭素繊維混抄紙10の両辺の表面及び裏面に一定の幅で帯状に印刷されて配される」ことと本願発明の「電極部材の基礎として使われる導電物質を含浸させる含浸ステップ」は、電極部材の基礎として使われる導電物質を形成する工程という点で共通する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「導電性カーボンチョップドファイバーと植物パルプとを一定配分で液中で混ぜ合わせて混液とする混液ステップと、
混液ステップにて得られた混液から、目のそろった導電性カーボンチョップドファイバーを均一に含有する薄状部材を得る薄状化ステップと、
を有する面状発熱体の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。

(相違点1)
植物パルプについて、本願発明は、和紙原料パルプ材料であって、導電性カーボンチョップドファイバーよりも繊維の平均長が長いものであるのに対し、引用発明は、植物パルプがどのようなものであるかは明らかでない点。
(相違点2)
本願発明は、薄状化ステップにて得られた薄状部材を乾燥させる乾燥ステップを有するのに対し、引用発明は、そのような工程を有しているか明らかでない点。
(相違点3)
薄状化ステップにおいて、本願発明は、混液をフィルタに通しているのに対し、引用発明は、そのような工程を行っているかは明らかでない点。
(相違点4)
電極部材の基礎として使われる導電物質を形成する工程について、本願発明は、電極部材の基礎として使われる導電物質を含浸させる含浸ステップであるのに対して、引用発明は、銀ペーストが炭素繊維混抄紙10の両辺の表面及び裏面に一定の幅で帯状に印刷されて配される工程である点。

第5 判断
1 上記各相違点について検討する。
まず、相違点1について検討する。
炭素繊維と植物パルプとを混抄した炭素繊維混抄紙を用いる面状発熱体について、和紙特有の耐久性等の点から、植物パルプとして和紙原料パルプ材料を用いることは、例えば引用文献2(「第3 1-2(1)?(4)」参照)、特開平9-274984号公報(【0003】)、特開平7-288172号公報(【0003】、【0012】)、実願平3-56026号(実開平5-70509号)のCD-ROM(4頁5?6行)にみられるように本願出願前周知の技術であるところ、引用文献2には、和紙原料パルプ材料であるコウゾ、ミツマタ又はマニラ麻が炭素繊維混抄発熱シートに用いられ、かつ、炭素繊維よりも長いものであることが記載され、当該和紙原料パルプ材料は靱皮繊維又は靭皮パルプと総称され、紙力の向上にも寄与し、強度を要求される分野に応用するのにも役立つことが具体的に記載されている(「第3 1-2(2)及び(3)」参照)。
そして、引用発明は、機械的強度を課題のひとつとして挙げているから(「第3 1-1(2)」参照)、引用発明の植物パルプについて、強度を要求される分野に応用するのにも役立つ、炭素繊維よりも繊維の平均長が長い和紙原料パルプ材料のものを用いようとする動機付けはあるといえる。
よって、引用発明の植物パルプについて、周知の和紙原料パルプ材料を用いたものである引用文献2に記載された上記技術的事項を適用して、炭素繊維よりも繊維の平均長が長い和紙原料パルプ材料のものを用いること、すなわち、上記相違点1における本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

2 次に、上記相違点2について検討する。
炭素繊維と和紙原料パルプ材料を混抄する面状発熱体の製造方法において、薄状化ステップにて得られた薄状部材を乾燥させる乾燥ステップを有することは、例えば引用文献2(「第3 1-2(4)」参照)、引用文献3(「第3 1-3(1)」参照)にみられるように、本願出願前周知の技術である。
引用発明で用いられる公知の円網式抄紙機(ヤンキーマシン)、長網抄紙機等における抄造においても、抄造後に炭素繊維混抄紙10として完成させるためには、当然に乾燥工程が求められるところ、上記周知の技術に照らせば、引用発明について薄状部材を乾燥させる乾燥ステップを有するものとする程度のこと、すなわち、上記相違点2における本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

3 次に、上記相違点3について検討する。
引用文献4には、炭素繊維を用いた面状発熱体の製造方法において、炭素繊維を一定の方向に配向させるために、炭素繊維の長さよりも十分に小さい間隙を有するスリット状に形成した放出口(本願発明の「フィルタ」に相当。)を用いることが記載されており(「第3 1-4(1)及び(2)」参照)、引用文献5には、パルプシートの製造方法において、パルプシートにおける繊維の配向性を向上させるために、パルプ分散溶液の流れ方向に多数のスリットを用いることが記載されている(「第3 1-5(1)」参照)。
引用発明は、炭素繊維を一定方向に配向させたものであるところ、その具体的方法として、技術分野を同じくする引用文献4に記載された「スリット状に形成した放出口」を適用することに格別な困難性はなく、そのようなスリットが、パルプ材料の繊維を配向し得るものであることも引用文献5に記載されていることを踏まえれば、引用発明において、上記相違点3における本願発明のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

4 次に、上記相違点4について検討する。
炭素繊維と和紙原料パルプ材料とを混抄した炭素繊維混抄紙を用いる面状発熱体に対して電極部材の基礎として使われる銀ペーストを適用すると、当該銀ペーストは炭素繊維混抄紙の内部へと浸透し含浸されることは、例えば引用文献2(「第3 1-2(5)参照)、特開平9-274984号公報(【0005】、【0018】)、特開平7-288172号公報(【0016】)、実願平3-56026号(実開平5-70509号)のCD-ROM(3頁13?15行)にみられるように本願出願前周知の事項であって、引用文献2には、和紙原料パルプ材料を用いた炭素繊維混抄発熱シートの辺沿いに銀ペーストをスクリーン印刷によって付着させて電極を形成する方法が記載されており、当該方法により、銀ペーストは紙厚の半分くらいまで浸透することが具体的に記載されている(「第3 1-2(5)」参照)。
引用発明の電極形成方法は、引用文献2に記載された電極形成方法と同様、銀ペーストを炭素繊維混抄紙の辺に印刷する方法であるところ、引用発明に引用文献2記載の和紙原料パルプ材料を用いた炭素繊維混抄発熱シートを適用すると、当該シートに印刷される銀ペーストは印刷された面からシートの紙厚の半分くらいまで浸透するから、辺の表面及び裏面に銀ペーストを印刷する引用発明の方法によれば、銀ペーストはシートの厚みのほぼ全体に亘って浸透し、そのことによって銀ペーストはシート内部まで含浸されることが理解される。
そうすると、上記周知の事項を参酌すれば、引用発明の電極形成方法は、銀ペーストを炭素繊維混抄紙の内部に含浸させる方法であるということができるから、上記相違点4は、実質的な相違点とはならないといえる。あるいは、引用発明において、上記相違点4における本願発明のようにすることは、上記周知の事項に基いて当業者が容易になし得ることであるといえる。

5 そして、本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項並びに周知の技術ないしは周知の事項から当業者の予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものということはできない。

6 よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項並びに周知の技術ないしは周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2?5に記載された技術的事項並びに周知の技術ないしは周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-02 
結審通知日 2015-12-03 
審決日 2015-12-15 
出願番号 特願2009-27833(P2009-27833)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 千壽 哲郎
永石 哲也
発明の名称 面状発熱体及び面状発熱体の製造方法  
代理人 工藤 一郎  

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