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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J |
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管理番号 | 1310449 |
審判番号 | 不服2014-21031 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-17 |
確定日 | 2016-01-27 |
事件の表示 | 特願2009-196203「流体流れを分割するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日出願公開、特開2010- 51959〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は,2009年8月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年8月27日 ドイツ(DE))を国際出願日とする特許出願であって,平成25年3月29日付けで拒絶理由が通知され,同年9月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成26年6月13日付けで拒絶査定がなされ,同年10月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がなされ,同年12月5日付けで前置審査の結果が報告され,その後,平成27年3月10日に上申書が提出されたものである。 第2 補正却下の決定 1 補正却下の決定の結論 平成26年10月17日付けの手続補正を却下する。 2 理由 (1) 補正の内容 平成26年10月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲を変更する補正であるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。 ア 本件補正前(平成25年9月4日付け手続補正書) 「【請求項1】 化学装置において流体の流れを2つ以上の部分的な流体の流れに分割するための方法において、 a)少なくとも1つの流体の流れを分配装置に通過させ、該分配装置が、(i)2つ以上の開口を有する少なくとも1つのプレートを有しており、前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、 b)形成された部分的な流体の流れを分配装置から流出させるものであって、 該流体の流れは、少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体の流れであることを特徴とする、化学装置において流体の流れを2つ以上の部分的な流体の流れに分割するための方法。」 イ 本件補正後 「【請求項1】 化学装置において流体の流れを部分的な流体の流れに分割するための方法において、 a)少なくとも1つの流体の流れを分配装置に通過させ、該分配装置が、(i)100から5000個の開口を有する少なくとも1つのプレートを有しており、前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、 b)形成された部分的な流体の流れを分配装置から流出させるものであって、 該流体の流れは、少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体の流れであり、前記流体の流れは、前記装置上に堆積物を形成することなく均一に分割されることを特徴とする、化学装置において流体の流れを部分的な流体の流れに分割するための方法。」 (当審注:下線は,補正箇所を示すためのものである。) (2) 本件補正の適否について 本件補正は,審判請求と同時にされた特許請求の範囲についてする補正であるから,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものに限られる。 そこで,本件補正の目的について検討する。 請求項1についての補正は「前記流体の流れは、前記装置上に堆積物を形成することなく均一に分割される」との事項の追加を含むところ,補正前の請求項1には,流体の流れが分割されることが特定されているものの,堆積物の記載はない。そして,流体の流れを流出させる分配装置上に堆積物が形成されないことは,流体の流れが分割されることと概念的に異なる観点であり,このような概念的に異なる観点により特定する補正が,補正前の請求項1の流体の流れを概念的により下位のものとするものであるということはできない。したがって,請求項1についての上記補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものでない。 よって,請求項1についての補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。 そして,請求項1についての補正は,特許法第17条の2第5項に掲げる請求項の削除,誤記の訂正,明りようでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものでもない。 (3) むすび よって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?12に係る発明は,平成25年9月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,以下のとおりのもの(以下,「本願発明」という。)である。 「【請求項1】 化学装置において流体の流れを2つ以上の部分的な流体の流れに分割するための方法において、 a)少なくとも1つの流体の流れを分配装置に通過させ、該分配装置が、(i)2つ以上の開口を有する少なくとも1つのプレートを有しており、前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、 b)形成された部分的な流体の流れを分配装置から流出させるものであって、 該流体の流れは、少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体の流れであることを特徴とする、化学装置において流体の流れを2つ以上の部分的な流体の流れに分割するための方法。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 これに対して,原査定の拒絶の理由である理由1は,要するに, 「請求項1?8に係る発明は、特開昭59-16502号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」 というものである。 3 引用例の記載事項及び引用例に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である上記「特開昭59-16502号公報」(原査定の引用文献2。以下、「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。 A1)「(1).多孔板の厚み方向に沿つた断面積が異なる部分を有し、少なくとも一方の端面において最大面積を有する形状の孔を有してなることを特徴とする充填塔の流体整流或は分集用多孔板。 (2).最大面積端面の開孔率が、0.6以上である特許請求の範囲第1項記載の多孔板。」(特許請求の範囲の(1),(2)) A2)「本発明は、充填塔における塔内流体の整流或は分集用多孔板に関する。 充填塔においては、流体入口、出口に多孔板を設け、その多孔板の間に充填物を充填し、この多孔板に被処理流体の整流或は分集を行なわせている。多孔板は又塔の中間に設けられる場合もある。これらの多孔板のうち塔の中間又は下部に設けられる多孔板は充填物を支持する役割も兼ねている。従つて、これら多孔板は塔内充填物を支えるに足る強度を有し、かつ分散又は集合する流体の流れの不均一を起こさない構造のものでなければならない。」(第1頁左下欄第14行?同頁右下欄第5行) A3)「本発明者らは、多孔板の強度を殆んど減少することなく、流体の流れの不均一を極端に減少せしめ得る多孔板を見いだし、本発明をなすに至つたものである。 即ち、本発明は、多孔板の厚み方向に沿つた断面積が異なる部分を有し、かつ少なくとも一方の端面において最大面積を有する形状の孔を有してなることを特徴とする多孔板に関するものである。 本発明の多孔板は、厚み方向に沿つて異なる断面積を有する孔からなつている為、充填物支持の為の強度は、ほぼ孔面積最小部の開孔率によつて維持されるから丈夫である。又、孔の断面積が最大となつている端面を充填物側に向けて設置することにより充填物側に流出し、又は充填物側から流入する流体の流れは、スムースな流れを享受できる為流れの不均一は最小限に止められる結果となる。」(第1頁右下欄第18行?第2頁左上欄第14行) A4)「本発明の多孔板の好ましい態様は、多孔板の孔の形状がその孔の回転対称軸が流体の流れと一致するような円錐台形或は円錐台形を組み合わせたもの、或は円錐台形と円柱形とを組み合わせたものであり、多孔板面の少なくとも一端面に円錐台形の円形断面のうち面積が最大の面が位置するようにした多孔板である。・・・(中略)・・・多孔板の孔の形状を上記のようにすることにより多孔板近傍の充填層における流体の乱れを非常に小さくすることができ、しかも安価に製作できることか分つた。」(第2頁右上欄第2行?同頁左下欄第1行) A5)「本発明の好ましい多孔板は、孔の断面積が最大となつている端面の開孔率(該端面における充填塔内面積に対する全開孔面積の比)が0.6以上である多孔板である。・・・(中略)・・・このような開孔率とすることによつて充填物粒子の充填の空隙率よりかなり上回つた開孔率を得ることができる結果、多孔板の孔を流出入する流体の流れの乱れは一層消去されることになる。開孔率を0.8以上にすることによりこの傾向は特に顕著になる。 本発明の多孔板は流体の乱れが分離効率に特に大きく影響するクロマトグラフイーによる分離装置に用いた場合に有効である。特に内径10cm以上の分離装置を用いる場合には、強度の点から従来は開孔率を0.2前後より大きくすることができず、その為流体の乱れが起こり、分離効率が低かつたが、本発明の多孔板は強度を維持したまま開孔率を上げることができる為好ましい。」(第2頁右下欄第6行?第3頁左上欄第6行) A6)「第1図は、本発明の多孔板の1例を示す縦断面図である。この場合充填物は上側となるように設置する。 第2図は、本発明の多孔板の他の例を示す縦断面図である。最大面積端面は上下両端面となつているので、この多孔板は、充填層の上部にも下部にも中間部にも用いることができる。 第3図は、第1、2図の多孔板を上から見た時の平面図を示す。2重円の外側円が最大面積、内側円が最小面積部を示す。又、第3図のような孔の配置はいわゆる千鳥型で最も開孔率を大きくでき、非開孔部の形状を均一化できる配置である。第3図のA-A’線における断面が第1、2図の断面である。 第4図は、充填塔の1例を示す切欠断面図である。1は流体入口をもつた流体分集装置、2は多孔板、3はフイルター、4はフイルター、5は多孔板、6は流体出口をもつた流体分集装置である。」(第3頁左上欄第15行?同頁右上欄第12行) A7)「充填塔内に1N塩酸を一定流量で流しながら、塔入口直前に設けた液注入口より、10%食塩水を一定微少量注入し、排出する液を分取した後、Na濃度を原子吸光分析装置を用いて測定し、横軸に10%食塩水を注入してからの排出液量を、縦軸に排出液のNa濃度をプロツトしてパルス波形を得、その形状を調べる。多孔板近傍の充填層内において、流体の乱れが大きく生じる場合には、部分的に流れの遅い部分が生じる為に、出口でのパルス波形は、より大きなテーリングを生じる傾向を示す。従つて、このテーリングの差を表わす尺度としてパルスの非対称係数を用いた。 パルスの非対称係数F_(T)とは、パルスのピーク高さの1/10におけるピーク位置より前のパルスの幅W_(F)に対する、ピーク位置から後のパルスの幅(W_(R))の比である。 F_(T)=W_(R)/W_(F) このF_(T)値が1より大きければ大きい程テーリングの度合が激しいこと、即ち、流れの不均一性の大きいことを示す。」(第3頁左下欄第2行?同頁右下欄第1行) A8)「実施例1 第4図に示すような内径100mmφ、長さ300mmで塔の液入口、出口に液分集装置を設けた充填塔を用意し、液入口の液分集装置の直下と液出口の液分集装置の直上に以下のような多孔板を設置し、更に多孔板の充填物に接する側の面にフイルターを設置した。ここで設置した多孔板は、第1図の多孔板でL=10mm、フイルターに接する側の面のr_(1)=10mmφ、l_(p)=11mm、開孔率0.61、その反対側の面のr_(2)=r_(3)=64mmφ(当審注:「6.4mmφ」の誤記と認定する。)、開孔率0.25でフイルター側の孔の形状を円錐台形とした構造を有する。充填物はスチレンジビニルベンゼン共重合物をクロロメチル化した後にトリメチルアミンで四級アンモニウム化した陰イオン交換樹脂のCl型であつて0.25g乾燥樹脂/CC湿潤樹脂、架橋度6%、粒径100?200メッシュの樹脂であつて、高さ26.2cmまで均一に充填した後、1N塩酸水溶液を800ml/mmの速度で流し、コンデイシヨニングした。つづいて同じ速度で1N塩酸水溶液を流しながら、塔人口直前に設けた液注入口より10%NaCl液0.2mlを瞬間的に注入し、塔出口から流出する液を5mlのフラクシヨンに分取した。 次に、各フラクシヨンNa濃度を原子吸光分析装置を用いて測定し、横軸に流出液量、縦軸にNa濃度をプロツトしパルス波形を得た。この時のパルスの非対称係数はF_(T)=1.273であった。」(第3頁右下欄第3行?第4頁左上欄第8行) A9)「実施例3 実施例1と同様の装置で塔内径500mmφ、高さ1mの塔を用い、以下のような多孔板を液入口及び出口に実施例1と同様な配置に設置する。 多孔板は第2図(当審注:「第1図」の誤記と認定する。)における多孔板と孔の形状が同様なものでL=10mm、フィルター側の面のr_(1)=11mmφ、l_(p)=11mm、開孔率0.9、その反対側の面のr_(2)=r_(1)=64mmφ(当審注:「r_(2)=r_(3)=6.4mmφ」の誤記と認定する。)、開孔率0.25でフィルター側の孔の形状を円錐台形とした構造を有するものである。 実施例1の場合と同じ樹脂を高さ96.2cmまで充填し、実施例1と同様の方法でパルス波形を得た。この時のパルスの非対称係数はF_(T)=1.203であつた。」(第4頁右上欄第1?13行) A10)「実施例 4 実施例1と同様の装置を用い、以下のような多孔板を液入口及び出口に実施例1と同様な配置に設置する。ここで設置した多孔板は第2図における多孔板であり、L=10mm、両端面の孔径r_(1)=r_(3)=10mmφ、l_(p)=11mm、開孔率0.61で円錐台形の形状の孔とし、r_(2)=4mmφ、l_(p)=11mm、開孔率9.8(当審注:「開孔率0.10」の誤記と認定する。)とした構造を有する多孔板である。 実施例1の場合と同じ樹脂を高さ26.2cmまで充填し実施例1と同様の方法でパルス波形を得た。この時のパルスの非対称係数はF_(T)=1.186であつた。」 A11)「比較例 実施例1と同様の装置を用い、以下のような多孔板を液入口及び出口に実施例1と同様な配置に設置する。 多孔板は、従来使われている円柱形の孔を有するもので第2図の記号でL=10mm、r_(l)=r_(2)=r_(3)=6.4mmφ、開孔率0.25の構造を有する。 実施例1の場合と同じ樹脂を、高さ26.2cmまで充填し、実施例1と同様の方法でパルス波形を得た。この時のパルスの非対称係数はF_(T)=1.458であつた。」(第4頁左下欄第6?16行) A12)「 」 (1) 上記摘示A1,A2,A5からみて,引用例には,充填塔において被処理流体の流れの不均一を極端に減少せしめ得るように分散するための方法について,被処理流体を多孔板の孔に流出入させることが記載されており,また,上記摘示A7,A8,A9からみて,引用例には,上記被処理流体が,1N塩酸(水溶液)あるいは10%食塩水が一定微少量注入された1N塩酸(水溶液)であることも記載されている。 (2) また,上記摘示A6によれば,「多孔板」は「充填層の上部に」「用いることができる」旨記載されていることから,上記摘示A12の第4図の「2」が付されている多孔板に対して「第2図」の多孔板を適用してみると,下記「第4図’」のような配置に設置されていると認められる。(当審注:「第4図’」は,当審において作成したものである。) 「 」 そうすると,上記摘示A3,A4,A6,A10,A12の第2図,第3図,第4図,及び当審作成の第4図’の記載からみて,引用例には,充填塔の液入口には複数個の円錐台形の孔を有する多孔板2が設置されていることが記載されており,ここで,被処理流体が上記多孔板2の複数個の孔を流出入,すなわち通過することにより,当該被処理流体の流れが分散されることは明らかである。 (3) してみると,引用例には, 「充填塔において被処理流体の流れを分散するための方法において、 被処理流体の流れを多孔板2に通過させ、該多孔板2が、複数個の孔を有しており、前記孔が、分散された被処理流体の流れが形成されるように、充填塔の液入口側に向けて、その断面積が最大となる円錐台形であり、 分散された被処理流体の流れを多孔板2から流出させるものであって、 該被処理流体の流れは、1N塩酸(水溶液)あるいは10%食塩水が一定微少量注入された1N塩酸(水溶液)の流れであり、前記被処理流体の流れの不均一を極端に減少せしめ得るように分散される、充填塔において被処理流体の流れを分散するための方法。」(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 4 対比・判断 そこで,本願発明と引用発明とを対比する。 (1) 引用発明の「充填塔」は,上記摘示A5によれば,充填塔内の多孔板が「クロマトグラフイーによる分離装置」に用いられる旨記載されていることから,本願発明の「化学装置」に相当することは,当業者に自明の事項である。 (2) また,引用発明の「分散する」,「被処理流体」,「多孔板2」,「複数個」,「孔」は,本願発明の「2つ以上の部分的な流体の流れに分割する」,「少なくとも1つの流体」,「分配装置」,「2つ以上の」,「開口」に相当する。 (3) また,引用発明の「多孔板2」は,「板」を有しているといえ,該「板」は,本願発明の「プレート」と同意である。 (4) また,引用発明の「孔」は,「分散された被処理流体の流れが形成されるように、充填塔の液入口側に向けて、その断面積が最大となる円錐台形であ」り,「板」の液入口側(部分的な流体の流れの入口側)において面取りされていることは当業者に自明であるから,引用発明の「前記孔が、分散された被処理流体の流れが形成されるように、充填塔の液入口側に向けて、その断面積が最大となる円錐台形であり、」は,本願発明の「前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、」に相当するといえる。 (5) さらに,引用発明の「1N塩酸(水溶液)」とは,溶質としての塩酸を水に溶解して濃度を1mol/Lとした水溶液を意味し,また,引用発明の「10%食塩水」とは,溶質としての食塩(塩化ナトリウム)を水に溶解して濃度を10%とした水溶液を意味したものと解されるところ,上記塩酸の水への溶解度が71.9g/100ml(20℃)[長倉三郎,外5名,「岩波 理化学辞典」,第5版第2刷,株式会社岩波書店,1998年4月,第163頁]であり,上記食塩の水への溶解度が26.38g/100g(20℃)[社団法人日本化学会,「化学便覧基礎編」,改訂2版,丸善株式会社,1975年6月,第786頁]であることに照らせば,引用発明の「1N塩酸水溶液」及び「10%食塩水」は,それぞれ溶質である塩酸及び食塩が十分に溶解した形で存在する液体ということできる。そうすると,引用発明の「1N塩酸(水溶液)あるいは10%食塩水が一定微少量注入された1N塩酸(水溶液)」は,本願発明の「少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体」に相当するといえる。 (6) してみれば,本願発明と引用発明との間においては,発明特定事項において差異がない。 5 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,特許を受けることができない。 第4 付言 1 本件補正(平成26年10月17日付けの手続補正)について 本件補正が,特許法第17条の2第5項の規定に違反するから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであることは,上記「第2」で述べたとおりであるが,仮に,本件補正における請求項1についての補正が,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「流体の流れ」を限定するものである結果,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものに該当するとしたとしても,以下に示すとおり,本件補正は,同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に違反すると判断されるから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるので,この点について以下に述べる。 (1) 本件補正発明について 本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)は,上記「第2 2(1)イ」のとおりであるが,再掲すると以下のとおりである。 「化学装置において流体の流れを部分的な流体の流れに分割するための方法において、 a)少なくとも1つの流体の流れを分配装置に通過させ、該分配装置が、(i)100から5000個の開口を有する少なくとも1つのプレートを有しており、前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、 b)形成された部分的な流体の流れを分配装置から流出させるものであって、 該流体の流れは、少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体の流れであり、前記流体の流れは、前記装置上に堆積物を形成することなく均一に分割されることを特徴とする、化学装置において流体の流れを部分的な流体の流れに分割するための方法。」 (2) 特許法第29条第2項(進歩性)について ア 引用例の記載事項及び引用例に記載された発明 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2は,上記「第3 3」における引用例であり,その記載事項についても,上記「第3 3」のA1)?A12)に摘示したとおりである。 そして,上記「第3 3(3)」のとおりの引用発明が記載されていると認められるが,再掲すると以下のとおりである。 「充填塔において被処理流体の流れを分散するための方法において、 被処理流体の流れを多孔板2に通過させ、該多孔板2が、複数個の孔を有しており、前記孔が、分散された被処理流体の流れが形成されるように、充填塔の液入口側に向けて、その断面積が最大となる円錐台形であり、 分散された被処理流体の流れを多孔板2から流出させるものであって、 該被処理流体の流れは、1N塩酸(水溶液)あるいは10%食塩水が一定微少量注入された1N塩酸(水溶液)の流れであり、前記被処理流体の流れの不均一を極端に減少せしめ得るように分散される、充填塔において被処理流体の流れを分散するための方法。」 イ 対比・判断 そこで,本件補正発明と引用発明とを対比する。 (イ1) 引用発明の「充填塔」は,上記「第3 4(1)」で検討したとおり,本件補正発明の「化学装置」に相当することは,当業者に自明の事項である。 (イ2) また,引用発明の「分散する」,「被処理流体」,「多孔板2」,「孔」は,本件補正発明の「部分的な流体の流れに分割する」,「少なくとも1つの流体」,「分配装置」,「開口」に相当する。 (イ3) また,引用発明の「多孔板2」は,上記「第3 4(3)」で検討したとおり,「板」を有しているといえ,該「板」は,本件補正発明の「プレート」と同意である。 (イ4) また,上記「第3 4(4)」で検討したとおり,引用発明の「前記孔が、分散された被処理流体の流れが形成されるように、充填塔の液入口側に向けて、その断面積が最大となる円錐台形であり、」は,本件補正発明の「前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、」に相当するといえる。 (イ5) また,上記「第3 4(5)」で検討したとおり,引用発明の「1N塩酸(水溶液)あるいは10%食塩水が一定微少量注入された1N塩酸(水溶液)」は,本件補正発明の「少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体」に相当するといえる。 (イ6) また,引用発明の「複数個」と,本件補正発明の「100から5000個」とは,両者ともに「複数個」という点で一致する。 (イ7) さらに,引用発明の「前記被処理流体の流れの不均一を極端に減少せしめ得るように分散される、」における「不均一を極端に減少せしめ得るように」は,本件補正発明の「均一に」と同意であることは,当業者に自明である。 以上をまとめると,両者は,以下の点で一致ないし相違している。 [一致点] 「化学装置において流体の流れを部分的な流体の流れに分割するための方法において、少なくとも1つの流体の流れを分配装置に通過させ、該分配装置が、複数個の開口を有する少なくとも1つのプレートを有しており、前記開口が、部分的な流体の流れが形成されるように、プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされており、 b)形成された部分的な流体の流れを分配装置から流出させるものであって、 該流体の流れは、少なくとも1つの物質が溶解及び/又は懸濁した形で存在する液体の流れであり、前記流体の流れは、均一に分割されることを特徴とする、化学装置において流体の流れを部分的な流体の流れに分割するための方法。」 <相違点1> 「開口」の個数について,本件補正発明は,「100から5000個」であるのに対して,引用発明は,「複数個」である点。 <相違点2> 本件補正発明が,「前記装置上に堆積物を形成することなく」としているのに対して,引用発明では,かかる特定がされていない点。 上記各相違点について検討する。 <相違点1>について 引用例の上記摘示A5によれば,多孔板の「孔の断面積が最大となつている端面の開孔率(該端面における充填塔内面積に対する全開孔面積の比)」を「0.6以上」とすることによって,「多孔板の孔を流出入する流体の流れの乱れは一層消去され」,さらに,「開孔率を0.8以上にすることによりこの傾向は特に顕著になる」旨記載されているから,孔(開口)の開孔率が大きいほど,すなわち,孔(開口)の個数が多くなればなるほど,「多孔板の孔を流出入する流体の流れの乱れ」が,「消去され」る効果が顕著になる旨示唆されているといえる。 ここで,上記摘示A10の「実施例4」の多孔板における孔の個数を計算すると,多孔板の内径が100mmであり、該多孔板の面積〔(100mmφ)^(2)×π/4=2500πmmφ^(2)〕と開孔率(0.61)との積(=1525πmmφ^(2))を1個の孔の面積〔(10mmφ)^(2)×π/4=25πmmφ^(2)〕で除して算出すると,上記摘示A12の第3図に示されるように61個(=1525÷25)であり,また,上記摘示A9の「実施例3」の多孔板における孔の個数を計算すると,多孔板の内径が500mmであり、該多孔板の面積〔(500mmφ)^(2)×π/4=62500πmmφ^(2)〕と開孔率(0.9)との積(=56250πmmφ^(2))を1個の孔の面積〔(11mmφ)^(2)×π/4=30.25πmmφ^(2)〕で除して算出すると,約1860個(=56250÷30.25)と算出することができる。 そうすると,引用発明について,孔の個数をどのようにするかは,多孔板の大きさを考慮しつつ,開孔率を適宜調整することにより決定すべきものであるところ,孔を流入出する流体の流れの乱れをより消去するために開孔率を高くすることを想起した当業者が,引用例の「実施例3」の多孔板で算出される1860個を考慮して,本件補正発明のように「100から5000個」の数値範囲内と規定することは,当業者が適宜なし得る範囲にとどまる。 なお,本件補正発明の「100から5000個」という開口の個数について,本願明細書の発明の詳細な説明における【0033】によれば,「プレートにおける開口の数は好適には10?10000、最も好適には100?5000である。」との事項が記載されているに過ぎず,上記「100から5000個」という開口の個数とすることにより得られる作用効果は記載されていない。 また,流体の流れの均一化は,プレートの開口の個数のみならずプレート自体の大きさや孔自体の大きさにもよるから,本件補正発明において,「100から5000個」という開口の個数とすることのみにより,当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されるとはいえない。 なお,審判請求人は,プレートに100から5000個の数の開口を高い精度で同じに形成することの困難性に係る指摘もしているが,開口に対して要求される技術的な精度は,該開口が設けられるプレートの大きさ,面積,及び,開口の大きさ等にもよることは明らかであるから,「100から5000個の開口」に技術的に特に高い精度が要求される旨の指摘は失当と言わざるをえず,採用することはできない。(たとえば,極端に大きいプレートに対して,適度な大きさの開口を形成する場合,該開口の個数が100個であろうが,5000個であろうが,各開口を精度よく形成することは技術的に可能である。) <相違点2>について 本願明細書の発明の詳細な説明における【0053】によれば,「耐久性試験において、様々な開口における付着物が調査された。」との事項が記載されていることから,本件補正発明の「前記装置上に堆積物を形成することなく」は,「前記開口の付近に堆積物を形成することなく」といいかえることができる。そして,同じく【0057】によれば,「試験は、明らかに、面取りされたジオメトリを備えた分配装置孔が、鋭い角を有する孔よりも、定常作動の間に、より優れた流出挙動を示すことを示した。」との事項が記載されていることから,開口を「面取り」することによって「優れた流出挙動を示す」こととなり,その結果,「堆積物を形成することなく」という効果を奏するものと認められる。 ここで,引用例においては,孔(開口)の付近に堆積物が形成されるかどうかの直接的な記載はないが,引用発明の孔が,本件補正発明と同様に「プレートの部分的な流体の流れの入口側において丸み付け又は面取りされて」いることから,引用発明においても本件補正発明と同様に「優れた流出挙動を示す」こととなり,その結果,本件補正発明と同様に「堆積物を形成することなく」という効果を奏するものといわざるを得ず,上記<相違点2>は実質的なものとはいえない。 ウ 審判請求人の主張について 審判請求人は,『引用文献2に係る発明では、溶解や懸濁した物質の形成を回避すること目的とするものでないことは明らかです。なぜなら、引用文献2は、第6頁左下欄第8行目-第14行目において「この問題の解決策として、多孔板の孔内に塔内の充填物を通過させない細かな物質を充填固定化することによりフィルター等を使用しても多孔板孔内へのフィルター等の押出しもなく、更にはフィルター等を使用しなくても充填物の保持が可能となり、本発明の特徴を更に生かすことができる。」と開示しており、充填材の投入により、堆積物の形成の危険を高めてしまうことは明らかであるからです。』旨述べているが,これはフィルターを使用した場合やフィルターを使用しない場合におけるフィルターに関する問題についてのものであり,例えば,フィルターを使用した場合,該フィルターが多孔板孔内へ押し出されるという問題に対処するためのものであり,当該充填剤が必須であるとまでは開示するものではないと認められる(仮に,充填剤を多孔板孔内に投入しない場合,フィルターが多孔板孔内へ押し出されるだけであって,その際,流体の流れがスムースにならない,とまでは開示していない。)から,審判請求人の上記主張は妥当でない。 エ まとめ 以上のとおり,本件補正発明は引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 むすび 以上のとおり,仮に,本件補正における請求項1についての補正が限定的減縮を目的とするものに該当するとしたとしても,本件補正発明は,特許法第29条第2項により特許を受けることができるものではないから,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 したがって,本件補正は,同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に違反するから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである,ということになる。 第5 結語 以上のとおりであるから,本願は,他の理由を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-01 |
結審通知日 | 2015-09-04 |
審決日 | 2015-09-15 |
出願番号 | 特願2009-196203(P2009-196203) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近野 光知 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 國島 明弘 |
発明の名称 | 流体流れを分割するための方法 |
代理人 | 反町 洋 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 村田 卓久 |