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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1310481
審判番号 不服2014-24817  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-04 
確定日 2016-01-28 
事件の表示 特願2013- 81「改良された電流拡散構造を有するスケーラブルLED」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日出願公開、特開2013- 62543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、2000年11月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年12月1日、2000年11月21日、いずれも米国)を国際出願日とする特願2001-542395号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年1月4日に新たな特許出願としたものであって、同年1月29日に手続補正がなされ、平成26年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日に手続補正がなされたが、同年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


II.平成26年12月4日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月4日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「電流拡散構造を有する半導体LEDであって、
不純物をドープした2以上の隣接する層と、
前記層のうち1または複数の層を通してエッチングされ、前記層の1つの上または内部に表面を露出する少なくとも1つの溝であって、前記層の第1の端部で始まり、反対の第2の端部に対して延びている前記少なくとも1つの溝と、
前記少なくとも1つの溝の中の前記露出した面の上に少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトであって、前記第1のコンタクトから、前記少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガおよび前記露出した面を有する前記層に電流が流れるようにし、前記第1のコンタクト及び前記少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガが前記第1の端部で始まり、前記第2の端部に対して延びている第1のコンタクトと、
前記隣接する層の表面の上に少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガを有する第2のコンタクトであって、前記第2のコンタクトから、前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガおよび前記隣接する層に電流が流れるようにし、前記第2のコンタクト及び前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガが前記第2の端部で始まり、前記第1の端部に対して延びている第2のコンタクトと、
2以上の前記隣接する層の1つの上に隣接する前記スプレッダ層(18)を備え、前記スプレッダ層(18)上に隣接する前記第2のコンタクト(19)及び前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガ(20a、20b)があり、前記第2のコンタクト(19)に印加された電流が、前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガ(20a、20b)に拡散し、前記スプレッダ層(18)を通じて、前記隣接する層に拡散するようになっており、
前記スプレッダ層(18)は、透過導電体又は金属のいずれかを備えていることを特徴とする半導体LED。」
と補正することを含むものであって、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められるので、以下に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、独立特許要件の検討を行う。
ここで、本願補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、本件補正後の請求項1の「2以上の前記隣接する層の1つの上に隣接する前記スプレッダ層(18)」は、これより前に「スプレッダ層(18)」の記載がないことから、「2以上の前記隣接する層の1つの上に隣接するスプレッダ層(18)」の誤記と認められるので、当該事項により特定されるものとする。

2.引用例
原査定の拒絶理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-224960号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は、当審による。)。

(1)「【0014】図1ないし図3は、本発明の一実施の形態に係る改良されたLED光源を示す。この光源1は、反射ボウル(ハウジング)の一部を構成し得る金属支持体3上に装着されたLEDチップ2を有する。このチップ2は、透明の誘電材のカバー4により覆われている。図3は、図2に示すチップ2の部分40のT-T線に沿う断面図である。
【0015】前記チップ2は、上にn導電型の半導体層6が形成された透明ベース(基板)5を有する。このn導電型の半導体層6の上にはp導電型の半導体層7が形成されている。これら半導体層6,7は、夫々5ミクロン以下の厚さを有し得る。また、これら半導体層6,7は、半導体8として一緒に称されている。これら基礎のn導電型並びにp導電型の半導体層6,7は、チップの機能を高めるか、製造を容易にするような、図示しない補助層を含み得る。例えば、p導電型の半導体層7は、この半導体層の導電性を良くするように、この層の上面に薄く光を通す金層を有し得る。また、n導電型層は、チップ2のn導電型領域内の電気的接続を高めるための低抵抗半導体層を有し得る。活性領域10は、光発生を高めるか、発生される光の色を決定する薄い層の活性領域を含み得る。側面25までのチップ2の上面全体は、チップ2の2つの主面の1つを構成している。また、基板5の下面80は、チップ2の他の主面を構成している。反射体9が基板5の下面80に設けられている。この反射体9は、銀もしくはアルミニウムのミラーコーティングで良い。
【0016】前記透明なカバー4の材料は、1.25よりも、好ましくは、1.4よりも大きい屈折率n_(c)を有する。さらに、この屈折率n_(c)は、半導体8の屈折率n_(s)よりも小さい。また、この屈折率n_(c)は、n_(s)がn_(c)よりも20%以上、好ましくは30%以上大きく、好ましくは設定されている。
【0017】前記透明の基板5は、半導体8の屈折率n_(s)よりも少くとも20%、好ましくは30%以上小さい屈折率n_(b)を有する材料で形成されている。かくして、基板5並びにカバー4と共に半導体8が、平坦(plane)な光ガイドとして機能し、光がコアとしての半導体8内を案内されるように、構成されている。
【0018】前記n導電型層6には、この層の下面のコンタクトにより、ボンデングパッドのターミナル11が電気的に接続されている。また、前記p導電型層7には、この層の下面のコンタクトにより、ボンデングパッドのターミナル12が電気的に接続されている。チップ2の上面13には、例えば、エッチングにより、細長いキャビティ、即ち、溝(トレンチ)14が形成されている。この溝14の断面T-Tは、図3に示されている。この溝14は、n導電型層6内に位置し、チップの上面13に平行な底部15を有する。この底部15に接続されるように、かくして、n導電型層6に電気的に接続されるように、金もしくは他の低抵抗金属で形成された導電性のトラック16が設けられている。緑色もしくは青色の光を発生するチップのためには、トラック16の上面は、緑色もしくは青色の光に対して反射性の優れた金属、例えば、アルミニウム、で形成されることが好ましい。
【0019】前記溝14内には、半導体の屈折率よりも80%以下の屈折率n_(t)を有する透明な誘電体材17が充填されている。この誘電材料17は、好ましくは、エポキシ樹脂のような合成樹脂である。また、この誘電体材17は、前記透明のカバー4の材料と同じでも、また別でも良い。溝14は、n導電型層6内に位置し、チップの上面13に平行な底部15を有する。この底部15に接続されるように、かくして、n導電型層6に電気的に接続されるように、金もしくは他の低抵抗金属で形成された導電性のトラック16が設けられている
【0020】前記導電トラック16によって、ボンデングパッドのターミナル11と符号18で示すようなn導電型層の如何なる点との間の電圧降下は減じられる。これは、チップのルーメン/ワット効率を高める。さらに、電流の分布、かくしてチップの上面からの発生される光はより均一となる。
【0021】前記導電トラック16は、曲がりくねったトラックを含む。かくして、例えば、導電性トラック16a,16bは、一緒になって曲がりくねったトラック、即ち、その方向が変わるトラックを構成している。これら導電トラック16は、複数のトラックを一緒に結合するノード点50を有する。各トラック16の幅は、5?20μmで良く、また、厚さは0.5μm以上で良い。また、これらトラック16は、パッド11を形成するために使用されるのと同じ製造工程によるか、類似した製造工程により形成され得る。
【0022】図2にのみ示すように、導電性のトラック19が、前記p導電型層7に結合、かくしてp導電型層7に電気的に接続されている。これらトラック19は、金もしくは他の金属で形成され得る。全てのトラック19は、互いに、また、ボンデングパッドターミナル12に、金属接続されている。かくして、ボンデングパッドターミナル12に供給された電流は、p導電型層のみを通る代わりに、トラック19を主に通って、ターミナル12から離れたp導電型層7内の点21に達する。これら導電性のトラック19は、複数のトラックを一緒に接続するノード点22を有する。また、これらトラック19は、パッド12を形成するために使用されるのと同じ製造工程によるか、類似した製造工程により形成され得る。これらトラック19のネットワークは、曲がりくねったトラックを含む。
【0023】導電性のトラック19により、ボンデングパッドターミナル12と符号21で示すようなp導電型層上の如何なる点との間の電圧降下は減じられる。これは、チップのルーメン/ワット効率を高める。さらに、電流の分布、かくしてチップの上面からの発生される光はより均一となる。これらトラック16は、1?50μm、もしくはこれ以上の幅で良く、また、0.2?2μmk厚さで良い。このような狭い幅により、光源2のイメージが収束レンズ2により投影されたときに、トラック19により生じるダークラインは消える。p導電型層は、これが全面に薄く光を通す金層を有するようになっていれば、p導電型層にトラック19を設けることにより、前記金層の厚さは、減じられ、この金層をより多くの光が透過することができ、かくして、p導電型層への低抵抗接続を維持しながら、チップの上面からの射出光を増すことができる。」
(2)上記(1)に照らして図2をみると、導電性のトラック16もボンデングパッドのターミナル11も点線で示される溝14内に設けられていると認められる。

上記によれば、引用例1には、
「n導電型の半導体層6の上にp導電型の半導体層7が形成されたLEDチップ2であって、
前記n導電型の半導体層6には、ボンデングパッドのターミナル11が電気的に接続され、前記p導電型の半導体層7には、ボンデングパッドのターミナル12が電気的に接続されており、
LEDチップ2の上面13には、エッチングにより、細長い溝14が形成されており、
この溝14は、n導電型の半導体層6内に位置し、LEDチップ2の上面13に平行な底部15を有し、この底部15にn導電型の半導体層6に電気的に接続されるように、金もしくは他の低抵抗金属で形成された導電性のトラック16が設けられており、
導電性のトラック16もボンデングパッドのターミナル11も溝14内に設けられており、
前記導電性のトラック16によって、ボンデングパッドのターミナル11とn導電型の半導体層6との間の電圧降下が減じられ、
これら導電性のトラック16は、ボンデングパッドのターミナル11を形成するために使用されるのと同じ製造工程により形成されるものであり、
導電性のトラック19が、前記p導電型の半導体層7に結合されて電気的に接続されており、全ての導電性のトラック19は、ボンデングパッドのターミナル12に金属接続されており、ボンデングパッドのターミナル12に供給された電流は、p導電型の半導体層のみを通る代わりに、導電性のトラック19を主に通って、ボンデングパッドのターミナル12から離れたp導電型の半導体層7内の点21に達し、
これら導電性のトラック19は、ボンデングパッドのターミナル12を形成するために使用されるのと同じ製造工程により形成されるものであり、
導電性のトラック19により、ボンデングパッドのターミナル12とp導電型の半導体層7上の点との間の電圧降下が減じられるLEDチップ2。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
3.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明における「(ターミナル11、12と半導体層6、7を電気的に接続する)導電性のトラック16、19」が、本願補正発明の「電流拡散構造」に相当するところであり、引用発明の「LEDチップ2」は、本願補正発明と同様に「電流拡散構造を有する半導体LED」といえる。
(2)引用発明の「『n導電型の半導体層6』と『p導電型の半導体層7』」は、本願補正発明の「不純物をドープした2以上の隣接する層」に相当する。
(3)引用発明の「溝14」は、「n導電型の半導体層6」の上に「p導電型の半導体層7」が形成された「LEDチップ2の上面13」にエッチングにより形成されたものであり、その底部15がn導電型の半導体層6内に位置するものであるから、本願補正発明の「前記層のうち1または複数の層を通してエッチングされ、前記層の1つの上または内部に表面を露出する少なくとも1つの溝」に相当する。
(4)引用発明の「(細長い溝14の底部15に設けられた)『n導電型の半導体層6に電気的に接続されるように、金もしくは他の低抵抗金属で形成された導電性のトラック16』」及び「(n導電型の半導体層6に電気的に接続される)ボンデングパッドのターミナル11」が、それぞれ、本願補正発明の「第1の導電性フィンガ」及び「第1のコンタクト」に相当するところであり、また、引用発明において、「導電性のトラック16は、ボンデングパッドのターミナル11を形成するために使用されるのと同じ製造工程により形成される」ものであり、「導電性のトラック16もボンデングパッドのターミナル11も溝14内に設けられており」、さらに、引用発明は、「前記導電トラック16によって、ボンデングパッドのターミナル11とn導電型の半導体層との間の電圧降下が減じられ」るものであるから、引用発明の「(n導電型の半導体層6に電気的に接続される)ボンデングパッドのターミナル11」は、本願補正発明の「第1のコンタクト」と、「前記少なくとも1つの溝の中の前記露出した面の上に少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトであって、前記第1のコンタクトから、前記少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガおよび前記露出した面を有する前記層に電流が流れるようにする第1のコンタクト」の点で一致する。
(5)引用発明の「導電性のトラック19」及び「(p導電型の半導体層7に電気的に接続されている)ボンデングパッドのターミナル12」が、それぞれ、本願補正発明の「第2の導電性フィンガ」及び「第2のコンタクト」に相当するところであり、引用発明において、「全ての導電性のトラック19は、ボンデングパッドのターミナル12に、金属接続されており」、「ボンデングパッドのターミナル12に供給された電流は、p導電型の半導体層のみを通る代わりに、導電性のトラック19を主に通って、ボンデングパッドのターミナル12から離れたp導電型の半導体層7内の点21に達し」、「これら導電性のトラック19は、ボンデングパッドのターミナル12を形成するために使用されるのと同じ製造工程により形成されるもので」あることに鑑みれば、引用発明の「ボンデングパッドのターミナル12」は、本願補正発明の「第2のコンタクト」と、「前記隣接する層の表面の上に少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガを有する第2のコンタクトであって、前記第2のコンタクトから、前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガおよび前記隣接する層に電流が流れるようにする第2のコンタクト」の点で一致する。
(6)以上によれば、両者は、
「電流拡散構造を有する半導体LEDであって、
不純物をドープした2以上の隣接する層と、
前記層のうち1または複数の層を通してエッチングされ、前記層の1つの上または内部に表面を露出する少なくとも1つの溝と、
前記少なくとも1つの溝の中の前記露出した面の上に少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトであって、前記第1のコンタクトから、前記少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガおよび前記露出した面を有する前記層に電流が流れるようにする第1のコンタクトと、
前記隣接する層の表面の上に少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガを有する第2のコンタクトであって、前記第2のコンタクトから、前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガおよび前記隣接する層に電流が流れるようにする前記第2のコンタクトを備えている半導体LED。」の点で一致する。
(7)一方、両者は、次の点で相違する。
a 本願補正発明では、「前記少なくとも1つの溝」が「前記層の第1の端部で始まり、反対の第2の端部に対して延びて」おり、「前記第1のコンタクト及び前記少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガが前記第1の端部で始まり、前記第2の端部に対して延びて」おり、「前記第2のコンタクト及び前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガが前記第2の端部で始まり、前記第1の端部に対して延びている」のに対し、引用発明では、「溝14」、「ボンデングパッドのターミナル11」、「導電性のトラック16」、「ボンデングパッドのターミナル12」及び「導電性のトラック19」がこのようなものでない点(以下「相違点a」という。)。
b 本願補正発明は、「2以上の前記隣接する層の1つの上に隣接する前記スプレッダ層(18)を備え、前記スプレッダ層(18)上に隣接する前記第2のコンタクト(19)及び前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガ(20a、20b)があり、前記第2のコンタクト(19)に印加された電流が、前記少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガ(20a、20b)に拡散し、前記スプレッダ層(18)を通じて、前記隣接する層に拡散するようになっており、前記スプレッダ層(18)は、透過導電体又は金属のいずれか」であるのに対し、引用発明は、このようなスプレッダ層(18)を備えるか不明な点(以下「相違点b」という。)。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)上記相違点aについて検討するに、引用例1の図2には、引用発明の「溝14」、「導電性のトラック16」及び「導電性のトラック19」が曲がりくねったものが示されているが、引用例1の図2における素子E2、E4、E7、E6、E9(引用例1の【0048】の「図2を参照して、素子E2,E4,E5,E6,E7,E9の各々は、素子を励起するp導電型層用の個々の導電性トラック19を有する。」の記載参照。)においては、「導電性のトラック16」と「導電性のトラック19」が平行で互いに逆の方向に伸びた構造とされており、また、原査定の拒絶理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平3-268360号公報(以下「引用例2」という。)には、例えば、第1図(a)にみられるように(ただし、同図中に「下部(N形)電極8」とあるのは、「下部(N形)電極10」の誤記と認められる。)、素子の第1の端部で始まり、第2の端部に対して伸びる溝内のn型半導体層上の櫛歯状の下部電極10と、第2の端部で始まり、第1の端部に対して延びているp型半導体層上の櫛歯状の上部電極9という構造が記載されていることに鑑みれば、引用発明において、「溝14」、「導電性のトラック16」及び「導電性のトラック19」を曲がりくねったものとせずに、引用例2に示されるようなものとなし、上記相違点aに係る本願補正発明の発明特定事項とすることに、格別の困難性は認められない。
(2)上記相違点bについて検討するに、半導体層に電流を供給する手段として、原査定の拒絶理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-256602号公報(以下「引用例3という。」)には、低抵抗であるが光透過性でない線状の電極(図2におけるAl層203)と半導体層(p型GaN層105)の間に光透過性の薄い金属膜(Ni層201とAu層202の層)を設けた構造が記載されている(特に、【0034】?【0040】参照。)から、引用発明において、「導電性のトラック19」から「p導電型の半導体層7」への電流がより拡散するように、「導電性のトラック19」と「p導電型の半導体層7」との間に光透過性の薄い金属の薄膜層を設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、引用例3においても、図1(C)にみられるように、ボンディングパッド110は、SiO_(2)保護膜109に設けられた開口部を通じて、Ni層201とAu層202の層の上に隣接して設けられていると認められるところであり、また、原査定の拒絶理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-97922号公報(以下「引用例4」という。)には、その図4及び図5にみられるように、p型GaN層103上に形成された透光性のp型側電極105上にボンデイング用パッド106が形成されている様子が示されていること、さらに、引用例1の【0023】には、「p導電型層は、これが全面に薄く光を通す金層を有するようになっていれば、p導電型層にトラック19を設けることにより、前記金層の厚さは、減じられ、この金層をより多くの光が透過することができ、かくして、p導電型層への低抵抗接続を維持しながら、チップの上面からの射出光を増すことができる。」と、薄い金属層を設ける場合には、p導電型層の全面に設ける旨の記載があることに鑑みれば、引用発明において、「導電性のトラック19」と「p導電型の半導体層7」との間に金属の薄膜層を設ける際に、導電性のトラック19の形成と同じ製造工程で形成されるボンデングパッドのターミナル12を、前記金属の薄膜層の上に、当該金属の薄膜層に隣接するように形成することは、当業者が普通に採用し得ることである。
したがって、引用発明において、「導電性のトラック19」と「p導電型の半導体層7」との間に金属の薄膜層を設け、上記相違点bに係る本願補正発明の発明特定事項とすることに格別の困難性は、認められない。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び引用例1ないし4に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものである。

5.むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例1ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成26年6月23日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載される事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項によって特定されるものである。
「電流拡散構造を有する半導体LEDであって、
不純物をドープした2以上の隣接する層と、
前記層のうち1または複数の層を通してエッチングされ、前記層の1つの上または内部に表面を露出する少なくとも1つの溝であって、前記層の第1の端部で始まり、反対の第2の端部に対して延びている前記少なくとも1つの溝と、
前記少なくとも1つの溝の中の前記露出した面の上に少なくとも1つの細長い第1の導電性フィンガを有する第1のコンタクトであって、前記コンタクトから、前記少なくとも1つの第1の導電性フィンガおよび前記露出した面を有する前記層に電流が流れるようにし、前記第1のコンタクト及び前記少なくとも1つのフィンガが前記第1の端部で始まり、前記第2の端部に対して延びている第1のコンタクトと、
前記隣接する層の表面の上に少なくとも1つの細長い第2の導電性フィンガを有する第2のコンタクトであって、前記第2のコンタクトから、前記少なくとも1つの第2の導電性フィンガおよび前記隣接する層に電流が流れるようにし、前記第2のコンタクト及び前記少なくとも1つの第2の導電性フィンガが前記第2の端部で始まり、前記第1の端部に対して延びている第2のコンタクトと、
LEDコア(13)上の前記スプレッダ層(18)を備え、前記スプレッダ層(18)上に前記第2のコンタクト(19)及び前記少なくとも1つの導電性フィンガ(20a、20b)があり、前記コンタクト(19)に印加された電流が、前記少なくとも1つの導電性フィンガ(20a、20b)に拡散し、前記スプレッダ層(18)を通じて、前記LEDコア(13)に拡散するようになっており、
前記スプレッダ層(18)は、透過導電体又は金属のいずれかを備えていることを特徴とする半導体LED。」

2.判断
本願発明の「LEDコア(13)」は、本願明細書の記載を参照すると、本願補正発明における「2以上の前記隣接する層」のことであると認められるから、本願発明は、実質的に、本願補正発明の「スプレッダ層(18)上に隣接する前記第2のコンタクト(19)」から「隣接する」との事項を省いたものと認められる(なお、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1の記載には、前記の点以外の相違もあるが、これらは、記載を明瞭にするためのものであって、その意味するところを変更するものではない。)。
してみると、本願発明は、本願補正発明に関する上記II.[理由]2.ないし4.における検討からみて、本願補正発明と同様に、引用発明及び引用例1ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められる。

3.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例1ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-01 
結審通知日 2015-09-02 
審決日 2015-09-15 
出願番号 特願2013-81(P2013-81)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 星野 浩一
▲高▼ 芳徳
発明の名称 改良された電流拡散構造を有するスケーラブルLED  
代理人 大塚 文昭  
代理人 辻居 幸一  
代理人 西島 孝喜  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 上杉 浩  
代理人 須田 洋之  
代理人 近藤 直樹  
代理人 熊倉 禎男  

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