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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1310619
審判番号 不服2014-23760  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-21 
確定日 2016-02-04 
事件の表示 特願2009-147320「電動モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日出願公開,特開2011- 4560〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成21年 6月22日の特許出願であって,平成26年 9月10日付けで拒絶査定(発送日:平成26年 9月16日)がなされ,この査定を不服として,平成26年11月21日に本件審判が請求されると同時に,手続補正がなされた。
そして,平成27年 9月 9日付けで当審において拒絶理由が通知(発送日:平成27年 9月15日)され,その応答期間内である平成27年11月 5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところである。
この出願の請求項1?5に係る発明は,平成27年11月 5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
ロータがステータの内側で回転する電動モータであって,
前記ロータの整流子に摺接する複数のブラシと,
前記整流子及び前記ブラシを収容するブラシ室と,
前記ステータに連結され前記ブラシ室を画成するエンドカバーと,を備え,
前記エンドカバーは前記ブラシのまわりを包囲して複数の通風口を有する筒状のブラシ包囲壁部を有し,
前記通風口は,前記ブラシの延長方向にそれぞれ位置して形成され,外気である走行風を前記通風口を通じて前記ブラシ室に流入させて前記ブラシに走行風を当てるとともに,前記ブラシ室の空気を前記通風口を通じて外部へと流出させることを特徴とする電動モータ。」

2.刊行物とその記載事項
(1)平成27年 9月 9日付けの当審における拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-159426号公報(以下,「引用例1」という。)には,「モータ及びモータの冷却方法」に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
外部と連通する複数の開口部を有するモータケースを備えたモータであって,前記開口部のうち所定の開口部には,被水しない第1の部位まで配管された第1の連通路が接続され,前記所定の開口部以外の開口部には,前記第1の部位の静圧よりも負圧となる静圧を有する第2の部位まで配管された第2の連通路が接続されたことを特徴とするモータ。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はモータ及びモータの冷却方法に係り,特に防水性を有すると共に,外部空気をモータ内部へ導入することによりモータ内部の冷却を行う構造を備えたモータ及び該モータの冷却方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
モータ作動中,モータケース内に配設された構成部品は,通電や機械的な摺動等によって熱を発生する。この熱によって構成部品が高温となった状態での作動は,モータの部品の寿命短縮や誤作動の原因となるので,特に連続運転されるモータでは作動中に高温とならないように冷却が行われている。
【0003】
冷却方法として,モータケースの複数箇所に開放孔を形成し,該開放孔を通して外気をモータケース内に循環させることにより,モータケース内の構成部品を冷却する技術がある(例えば,特許文献1参照)。」

・「【0007】
【特許文献1】
実開平6-66266号公報(第2頁,第1図)」

・「【0024】
モータMは,固定子11と,巻線12aを備えたアーマチャ12と,アーマチャ12の出力軸13と,出力軸13を軸支する軸受14,15と,出力軸13の一端側に配設される整流子16と,整流子16と摺接するブラシを有するブラシホルダ20を備えており,これらは,モータケースとしてのハウジング30及びエンドフレーム40内に収容されている。
【0025】
円筒形状のハウジング30のエンドフレーム40側端部には,係合部30aが径方向外側に向けて延出するように周設されている。また,浅い蓋状のエンドフレーム40には,ハウジング30の係合部30aと係合するための立設部42が形成されている。エンドフレーム40は立設部42の先端部をかしめて,ハウジング30の係合部30aに係合させることにより,ハウジング30に取付けられている。
【0026】
また,ハウジング30の外周部には,径方向外側に張出すフランジ31が3箇所に形成されている。各フランジ31は,ネジ孔32を有する。モータMは,ネジ孔32にネジが挿通されシュラウド1にネジ留めされることにより固定される。
【0027】
ブラシホルダ20は,ハウジング30の内周形状に合わせた円形状に形成されており,ブラシホルダ20の一方の側,即ちアーマチャ12のコア側には,ブラシ装置21が形成されている。ブラシ装置21は,ブラシボックス22と,ピグテール23と,不図示のブラシと,スプリングと,電極板等を主要構成要素として構成されている。
【0028】
ブラシホルダ20の外縁部には,当接部25がハウジング30の係合部30aの延出幅と略同じ幅に形成されている。係合部30aと当接した状態で当接部25が立設部42の先端部によってかしめられることにより,ハウジング30とブラシホルダ20とエンドフレーム40は,該かしめ部分で気密性を有するように一体に固定されている。
【0029】
また,ハウジング30の上下側壁の2箇所に,呼吸用の開口孔34が形成されている。開口孔34には,樹脂製のパイプ取付部35が嵌め込まれており,パイプ取付部35には連通路としての呼吸用パイプ44,45が取着されている。
【0030】
図1に示すように,第2の連通路としてのパイプ44の一端側はハウジング30の下側の開口孔34に取付けられたパイプ取付部35に連結されており,パイプ44は固定部1a,支持部1b,枠部1cに固定された後,パイプ44の他端側はシュラウド1に配設された第2の部位としての排出管3まで配管されている。
【0031】
図3に示すように,排出管3は中間部の内径が狭められた円筒形状をしている。流入部3aは入口部分から徐々に内径が小さくなるように形成されており,中間部3bは略同径の円筒形状に形成されており,流出部3cは出口部分に向かうほど内径が大きくなるように形成されている。また,中間部3bには,パイプ取付部3dが形成されている。そして,排出管3は,ファン2による冷却風が支持部1bや枠部1cによって遮られない箇所であって,開口部である流入部3aに対して冷却風がスムーズに流入するような位置に取付けられている。
【0032】
また,図4に示すように,第1の連通路としてのパイプ45の一端側はハウジング30の上側の開口孔34に取付けられたパイプ取付部35に連結されており,パイプ45は固定部1a,支持部1b,枠部1cに固定された後,被水しない箇所まで配管されている。図4に示すように,パイプ45の他端側は,キャビン内やエンジンルーム内の被水しない箇所にある固定物に配設された円筒形状の第1の部位としての吸入部5に,先端部が下向きになるように固定されている。
【0033】
次に,本例のモータMの動作について説明する。所定条件でモータMへ給電されると出力軸13が回転し,それに伴ないファンボス2aと一体に形成されたファン2が回転する。ファン2の回転によって後方へ向けての冷却風の流れが生成され,これによりラジエターの冷却が行われる。
【0034】
後方への冷却風の流れが生起されると,排出管3内を冷却風が通過する。排出管3内を冷却風が通過するとき,流入部3a内では流入した冷却風は徐々に流速を速められ,中間部3bでは流速が最大となる。このとき,ベンチュリ効果により中間部3b内の静圧がパイプ44内の静圧よりも小さく(負圧に)なり,パイプ44内の空気が排出管3内へ吸引される。これにより,パイプ44内の空気には排出管3へ向かう流れが生起される。このとき,パイプ44内の静圧は,ハウジング30内,パイプ45内及び吸入部5における静圧と略同一となっている。
【0035】
一方,ハウジング30内の空気は,排出管3へ向かう空気の流れによってパイプ44内へ吸引される。これに伴ない,パイプ45内の空気がハウジング30内へ吸入され,被水しない箇所にある固定物に配設された吸入部5からパイプ45内へ空気が吸入される。
【0036】
このように,モータMが作動することにより,吸入部5付近の大気と排出管3付近の大気に差圧が生じ,吸入部5からパイプ45,ハウジング30内及びパイプ44を通って排出管3への空気の流れが生起される。これにより,吸入部5からパイプ45を介してモータM内へ外気が導入され,モータM内で熱せられた空気は,パイプ44を介して排出管3外へ排気される。したがって,このような空気の循環によってモータMの構成部品の冷却が可能となる。また,モータMは気密性を有するように構成されているので,モータMに被水することがあっても,内部への水の浸入を防ぐことが可能となっている。」

・「【0040】
なお,本発明の実施の形態は,以下のように変更してもよい。
○上記実施の形態では,自動車のラジエター用電動ファンモータを例にとって説明したが,これに限らず,本発明は他のモータにも適用可能である。」

・「【0042】
○また,上記実施の形態では,2箇所の開口孔34が軸を挟んで反対側に位置するようにハウジング30に形成され,開口孔34が上下に位置するようにモータMがシュラウド1に取付けられている。この場合,2つの開口孔34は,ブラシ装置21に対向する軸方向位置に形成されているが,これに限らず,図5に示すように,軸方向に離れた位置に開口孔34を形成するようにしても良い。このようにすると,モータM内の空間全体に空気の流れが生起されるので,冷却効果が向上されるので好適である。」

・「【0044】
○また,上記実施の形態では,負圧を生起させるためにラジエターファンによる冷却風を利用しているが,これに限らず,他の気流を利用しても良い。例えば,自動車の走行風を利用してもよい。また,走行風とラジエターファンによる冷却風を併用しても良い。」

・段落【0024】,【0033】の記載事項及び図2の内容から,モータMへ給電されるとアーマチュア12の出力軸13が回転し,巻線12aを備えたアーマチュア12が固定子11の内側で回転するモータMであることが理解できる。

・図2の内容から,ブラシホルダ20やブラシ装置21にはブラシが存在し,ブラシホルダ20及びブラシ装置21が複数あることから,ブラシが複数あること,及び,整流子16とブラシを収容するブラシ室と,固定子11に連結され前記ブラシ室を画成するハウジング30及びエンドフレーム40を備えることが理解できる。

・段落【0029】,【0042】の記載事項と図2の内容から,ハウジング30及びエンドフレーム40は前記ブラシのまわりを包囲して2つの開口孔34を有する筒状のブラシ包囲壁部を有することが理解できる。

・段落【0029】,【0035】,【0036】の記載事項と図2の内容から,吸入部5から開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ45を介してブラシ装置21に外気を当てるとともに,モータM内で熱せられた空気は開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ44を介して排出管3外へ排気されることが理解できる。

これらの事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「巻線12aを備えたアーマチュア12が固定子11の内側で回転するモータMであって,アーマチュア12の出力軸13の一端側に配設される整流子16に摺接する複数のブラシと,前記整流子16及び前記ブラシを収容するブラシ室と,固定子11に連結され前記ブラシ室を画成するハウジング30及びエンドフレーム40とを備え,前記ハウジング30及びエンドフレーム40は前記ブラシのまわりを包囲して2つの開口孔34を有する筒状のブラシ包囲壁部を有し,2つの開口孔34は前記ブラシ装置21に対向する軸方向に形成され,吸入部5から開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ45を介してブラシ装置21に外気を当てるとともに,モータM内で熱せられた空気は開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ44を介して排出管3外へ排気される,モータM。」

(2)同じく当審における拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された刊行物である実願昭55-140642号(実開昭57-63477号)のマイクロフィルム(以下,「引用例2」という。)には,「全閉外扇形回転電機」に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

・「2.実用新案登録請求の範囲
1)集電装置を内蔵し,これを包囲する本体ケ-スの外側を軸方向に送風して冷却する外扇を備えてなる全閉外扇形回転電機において,前記本体ケースの外周部のほぼ対称位置に径方向に中空パイプを貫通して取付けて内部と外部を連通する通気路を設け,一方の中空パイプの先端を外部の送風路に直交して開口させるとともに,他方の中空パイプの先端を大気中に開口させたことを特徴とする全閉外扇形回転電機。」

・「集電装置を内蔵する全閉外扇形回転電機の従来例を第1図をもとづいて説明する。この図において,固定子外枠1の端面に回転軸2を回転可能に支持する全閉構造のブラケット3が固定され,回転軸2に嵌着された集電環4およびブラケット3の内側面に固定支持され,前記集電環4の外周と圧接するブラシ5等からなる集電装置6を前記ブラケット3が包囲している。このブラケット3の外周には軸方向のリブ3aが複数放射状に一体形成され,前記リブ3aの外周にはブラケット3との間に軸方向の送風路7を形成する円筒状のエアガイド8が取付けられている。前記回転軸2の機外突出部には遠心形の外扇9が固着され,この外扇9を覆う外扇カバー10が前記エアガイド8の端部でブラケット3に取付けられている。回転軸2の回転に伴い前記外扇9によって生じた冷却風は送風路7を通って固定子外枠1の外側を軸方向に送られるようになっている。」

・「従来は前記絶縁物の絶縁性能を保持するために定期的に内気を入れ替え,摩耗粉を除去し,さらにコイル11等の乾燥を行っていたが,このような構造ではその都度外扇カバー10,外扇9,ブラケット3等を取外して行う必要があるので,取外し作業に多くの手数を要するという欠点があった。
この考案は前記の欠点を除去するために,運転に伴ってブラシの摩耗粉等を簡易な構造で自動的に除去することができるようにした集電装置を内蔵する全閉外扇形回転電機を提供することを目的とする。」

・「第2図はこの考案による全閉外扇形回転電機を示すもので,第1図と同一符合で示すものは同一部品である。この図における回転電機は,外扇9の回転に伴って生じた冷却風が集電装置6を包囲する全閉構造のブラケット(本体ケース)23の外側に形成された軸方向の送風路7を通り固定子外枠1の外周部に向って送風されるようになっている。前記ブラケット23の外周部にはほぼ周上対称の位置に中空パイプ21,22を径方向に貫通取付けすることにより本体の内部と外部を連通する通気路21a,22aが設けられている。前記中空パイプ21の先端はブラケット23の外側に形成された軸方向の送風路7に直交して開口し,中空パイプ22の先端は送風路7を形成するエアガイド28を貫通して大気中に開口している。
前記実施例によれば送風路7に直交して開口する中空パイプ21の先端部の空気圧は外扇9の回転に伴う冷却風の静圧により大気圧より負圧となるので,運転に伴って本体内部の空気が通気路21aを通って外部に吸出され,またこれにより同時に中空パイプ22の通気路22aを通って外部の空気を吸入して,ブラシ5等の浮遊摩耗粉,オゾン,水分等を含む内気の入れ替えを自動的に行うことができる。」

・「以上述べたように,この考案によれば集電装置を包囲する本体ケースの外周部のほぼ対称位置に径方向の中空パイプを貫通取付けして内部と外部を連通する通気路を設け,一方の中空パイプの先端を前記本体ケ-スの外側を軸方向に送風する外扇の送風路で開口させるとともに,他方の中空パイプの先端を大気中に開口させることにより全閉外扇形回転電機を構成し,外扇の回転に伴う冷却風の静圧または動圧により中空パイプの通気路から本体内部の空気を吸出するか,または冷却風の一部を本体内部に送り込むことにより内気の入れ替えを行うようにしたので,運転に伴って内気に含まれるブラシ等の浮遊摩耗粉,オゾン,水分等を自動的に除去して絶縁物の絶縁性能を保持し,またブラシ等の摩耗を減らすことができるという効果が得られる。」

・これらの記載事項と図2の内容からみて,引用例2には,以下の事項が記載されている。
「ブラシ室を画成するブラケット23を備え,前記ブラケット23はブラシのまわりを包囲して複数の通気路21a,22aを有する円筒状のブラケット23の外周部を有した回転電機。」

(3)同じく当審における拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-104878号公報(以下,「引用例3」という。)には,「直流モータ」に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,車両用の各種駆動モータとして使用される直流モータに関するものである。」

・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,上記のような防水性や防塵性等の観点から,内部を完全に密閉状態として直流モータを使用し続けると,電機子コイル等で生じた熱が内部にこもり,内部温度の上昇をもたらす。そして内部温度が高くなり過ぎると,直流モータの効率低下に加え,ブラシ摩耗の急速な進行等を誘起する。勿論,単に放熱用の通気孔等を設けただけでは,前述の防水性や防塵性等が確保されず,直流モータの作動不良等を生じる恐れがある。
本発明は,このような事情に鑑みて為されたものであり,ブラシ点検窓を利用して,防水性や防塵性等を確保しつつ,内部の放熱性を向上させることができる直流モータを提供することを目的とする。」

・「【0009】
本発明の直流モータでは,ブラシ点検窓は少なくとも1つあれば足るが,2以上あっても良い。同様に,カバーに設けられる通気口も1つでも2つ以上でも良い。放熱性の点から言えば複数ある方が好ましい。
この通気口は,直流モータ内部から高温内気を放出するために利用されても良いが,逆に,外部から低温外気を直流モータの内部へ導入するために利用されても良い。その場合,前記通気口は風上に向いていると,低温外気を直流モータの内部へスムーズに導入できて,好ましい(請求項2)。
この場合,通気口が2つ以上あれば,一方を低温外気の取入口とし他方を高温内気の排出口ともできる。」

・「(第1実施形態)
本発明の一実施形態として,蓄電池式フォークリフトの走行駆動用の直流モータMを図1に示す。
この直流モータMは,ステータ10と,ロータ20と,整流子(コンミテータ)30と,ブラシ部40と,これらを囲繞するハウジング50とから主になる。
【0015】
ステータ10は,詳細を図示していないが,後述するセンタハウジング51の内周壁面に圧入固定されたポールコアとその周囲に巻回されたフィールドコイルとからなる。そして,このフィールドコイルへ蓄電池(バッテリ)から直流が供給されて界磁(フィールド)が形成される。
【0016】
ロータ20は,電磁鋼板を積層してなる,モータ主軸23にスプライン結合された電機子コア21と,この電機子コア21の外周側のスロットに巻回収納された電機子コイル22とからなる。モータ主軸23の両端はボール軸受24,25によって軸支されており,ロータ20は,その外周側を囲繞するステータ10との間に僅かな隙間(エアギャップ)を形成しつつ回転可能となっている。そして蓄電池(バッテリ)から電機子コイル22へ直流が供給されると,ステータ10によって形成された界磁中でロータ20が回転する。
【0017】
整流子30は,放射状に均等配置した整流子片31と,これらの整流子片31をモールド樹脂によって一体成形して各整流子片31を絶縁保持した略環状の樹脂絶縁体(絶縁保持部材)32とからなる。この整流子30は,樹脂絶縁体32がモータ主軸23の後端側(図1右側)から圧入固定されて,ロータ20と一体的に回転する。そして,この整流子30と前述のロータ20とによって電機子(アーマチャ)が形成される。
【0018】
ブラシ部40は,金属黒鉛からなり整流子30の整流子片31に摺接するブラシ41と,このブラシを保持収納するブラシホルダー42とからなる。本実施形態の直流モータMでは,1対つまり2極のブラシ部40が,直角に設けられている。そして,+側のブラシはバッテリ側に接続され,-側のブラシはアース側に接続されている。」

・「【0022】
(第2実施形態)
次に,上記第1突起71および第2突起72のラップ形態を変更したカバー170の要部を示す半断面図を図5に示す。なお,実質的に同じ部材には同じ符号を付して示した(以下,同様)。
本実施形態は,第1突起171と第2突起172とによって形成される通気口179の向きをフォークリフトの進行方向の前方(風上)に向けたものである。これにより,通気口179からフォークリフト走行による走行風が取込まれ易くなる。
【0023】
(第3実施形態)
本実施形態では,上記第2実施形態の第1突起171に傾斜をつけて第1突起271としたものである。このカバー270の要部半断面図を図6に示す。
こうして,通気口279が拡幅し,ブラシ点検窓60の開口側が縮幅した通気路278が形成される。この場合,走行風が一層取込まれ易くなると共に取込まれた外気は流速を増して内部に流れ込むため,直流モータM内が効率的に冷却される。」

・段落【0022】?【0023】の記載事項及び図5,図6の内容からみて,ブラシ点検窓60及び通気口179,279は,ブラシ40の近傍に存在すると共に,その通気口179,279は,それを通る走行風によりブラシ40を冷却するものであることが理解できる。

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「巻線12aを備えたアーマチュア12」及び「アーマチュア12」は前者の「ロータ」に相当し,以下同様に,「固定子11」は「ステータ」に,「モータM」は「電動モータ」に,「整流子16」は「整流子」に,「2つの開口孔34」は「複数の通風口」に,それぞれ相当する。
後者の「アーマチュア12の出力軸13の一端側に配設される整流子16」は前者の「ロータの整流子」に相当する。
後者の「ハウジング30及びエンドフレーム40」と前者の「エンドカバー」とは「外殻部材」という概念で共通する。
後者の「ブラシ装置21」には「ブラシ」が存在するから,後者の「2つの開口孔34は前記ブラシ装置21に対向する軸方向に形成され」る態様は前者の「前記通風口は,前記ブラシの延長方向にそれぞれ位置して形成され」る態様に相当する。
後者の「ブラシ装置21」には「ブラシ」が存在するとともに,「ブラシ装置21」は「ブラシ室」に存在し,「モータM内」は「ブラシ室」を含むから,後者の「吸入部5から開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ45を介してブラシ装置21に外気を当てるとともに,モータM内で熱せられた空気は開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ44を介して排出管3外へ排気される」態様と,前者の「外気である走行風を前記通風口を通じて前記ブラシ室に流入させて前記ブラシに走行風を当てるとともに,前記ブラシ室の空気を前記通風口を通じて外部へと流出させる」態様とは,「外気を前記通風口を介して前記ブラシ室に流入させて前記ブラシに当てるとともに前記ブラシ室の空気を前記通風口を介して外部へと流出させる」概念において共通する。
そうすると,両者は,
「ロータがステータの内側で回転する電動モータであって,
前記ロータの整流子に摺接する複数のブラシと,
前記整流子及び前記ブラシを収容するブラシ室と,
前記ステータに連結され前記ブラシ室を画成する外殻部材とを備え,
前記外殻部材は前記ブラシのまわりを包囲して複数の通風口を有する筒状のブラシ包囲壁部を有し,
前記通風口は前記ブラシの延長方向にそれぞれ位置して形成され,外気を前記通風口を介して前記ブラシ室に流入させて前記ブラシに当てるとともに前記ブラシ室の空気を前記通風口を介して外部へと流出させる,電動モータ。」
<相違点1>
外殻部材が,本願発明では「エンドカバー」であるのに対して,引用発明では,ハウジング30及びエンドフレーム40である点。
<相違点2>
外気を前記通風口を介して前記ブラシ室に流入させて前記ブラシに当てるとともに前記ブラシ室の空気を前記通風口を介して外部へと流出させることに関して,本願発明では,外気である「走行風」を「前記通風口を通じて」前記ブラシ室に流入させて前記ブラシに「走行風」を当てるとともに,前記ブラシ室の空気を「前記通風口を通じて」外部へと流出させるのに対して,引用発明では,吸入部5から「開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ45を介して」ブラシ装置21に「外気」を当てるとともに,モータM内で熱せられた空気は「開口部34に嵌め込んだパイプ取付部35に取着したパイプ44を介して」排出管3外へ排気されるものである点。

4.相違点についての判断
<相違点1について>
引用例2には,「ブラシ室を画成するブラケット23(エンドカバー)を備え,前記ブラケット23(エンドカバー)はブラシのまわりを包囲して複数の通気路21a,22a(通風口)を有する円筒状のブラケット23の外周部(ブラシ包囲壁部)を有した回転電機(電動モータ)。」が記載されている。
そして,引用発明と引用例2に記載された事項とは,電動モータの冷却に関するものであることで共通しているから,引用発明の開口孔34のあるハウジング30とエンドフレーム40に替えて,引用例2のブラケット23とすることにより,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2について>
(1)本願発明の「走行風」について
本願発明は,「電動モータ」という物自体に係る発明であり,その構造に特徴を有するものと理解される。
しかるに,請求項1の記載によれば,「走行風」をブラシ室に流入させてブラシに当てることも発明特定事項とされているが,「電動モータ」自体の構造としてそのように「走行風」が作用することは明確に特定し得ず,結局,「走行風」という語が請求項1に存在していても”空気”が電動モータの外部からブラシ室に流入してブラシに当たるような構造となっている意としか解せない。
(2)上記(1)で述べたことを踏まえて,相違点2について検討すると,本願発明も引用発明も,結局,「電動モータ」の外部から空気がブラシ室に流入してブラシにあたり,ブラシ室の空気が外部に流出するものである点で変わりはない。
そうすると,相違点2は,実質的なものでないといえる。
また,あくまで「走行風」を利用することについて検討するとなれば,引用例3には,走行風を用いて通気口179,279(通風口)を通じて直流モータ(電動モータ)のブラシを冷却する技術が記載されており,引用発明を開示する引用例1の段落【0044】の記載からは,引用発明について「走行風」を利用できる状況にあることが示されていることから,引用発明において「走行風」を用いること自体は,当業者が格別の創作能力を要することなくなし得た範囲内の事項といえる。
(3)以上を踏まえれば,上記相違点2によって,本願発明の進歩性が肯定し得るものではない。

そして,本願発明の効果について検討しても,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された事項から当業者が予測し得たものであって,格別なものとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,引用例2及び引用例3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-30 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-14 
出願番号 特願2009-147320(P2009-147320)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山尾 宗弘河端 賢  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松永 謙一
藤井 昇
発明の名称 電動モータ  
代理人 須藤 淳  
代理人 後藤 政喜  
代理人 飯田 雅昭  

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