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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1310622
審判番号 不服2014-24062  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-26 
確定日 2016-02-04 
事件の表示 特願2009-181432「熱伝導シート、及びその熱伝導シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日出願公開、特開2010-114421〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成21年8月4日(優先権主張平成20年10月8日)の出願であって、平成26年8月22日付け(発送日:平成26年8月26日)で拒絶査定され、これに対し、平成26年11月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成27年6月24日付けで当審により拒絶理由が通知され、平成27年8月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成27年8月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
鱗片状、楕球状、板状又は棒状である熱伝導性の無機材料と、有機高分子化合物と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、
前記無機材料が、少なくとも鱗片状の黒鉛を含有し、
前記有機高分子化合物が、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1種を共重合成分として含むポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有し、
前記組成物が、前記無機材料と前記有機高分子化合物とを含有する混錬物であり、
前記無機材料の含有量が、前記組成物の全体積の10?50体積%であり、
前記無機材料の鱗片の面方向、楕球の長軸方向、板の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シートの厚み方向に対して傾いて配向し、
前記無機材料の鱗片の面方向、楕球の長軸方向、板の長軸方向又は棒の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度の平均値が5?55°である熱伝導シート。」

第2 刊行物
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/053843号(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項1ないし9が記載されている。

1 「[0001] 本発明は、熱伝導シート、その製造方法及び熱伝導シートを用いた放熱装置に関する。」

2 「[0010] すなわち、本発明は、(1)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員還面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含熱伝導シートであって、
前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、熱伝導シートの表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%以上80%以下であり、70℃におけるアスカーC硬度が60以下であることを特徴とする熱伝導シートに関する。」

3 「[0023] また、本発明は、(1)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員還面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作成し、前記一次シートを黒鉛粒子(A)の配向方向を軸にして捲回して成形体を得、前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0度?30度の角度でスライスすることを特徴とする熱伝導シートの製造方法に関する。」

4 「[0042] 本発明で用いられる黒鉛粒子(A)としては、例えば、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、炭素繊維フレーク等の鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子を用いることができる。
[0043] 特に、有機高分子化合物(B)と混合した際に鱗片状の黒鉛粒子になりやすいものが好ましい。具体的には、鱗片黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が配向させ易く、粒子間接触も保ち易く、高い熱伝導性を得易いためにより好ましい。」

5 「[0045] 黒鉛粒子(A)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積の10体積%?50体積%であることが好ましく、30体積%?45体積%であることがより好ましい。前記黒鉛粒子(A)の含有量が10体積%未満である場合は、熱伝導性が低下する傾向があり、50体積%を超える場合は、充分な柔軟性や密着性が得難くなる傾向がある。(省略)」

6 「[0047] 本発明で用いられる有機高分子化合物(B)としては、例えば、アクリル酸ブチル、(省略)一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、特にアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルのいずれか又は両方を共重合成分として含み、その共重合組成中の50重量%以上であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性、加工性に優れ、粘着性をコントロールし易く、かつ比較的廉価であるため好ましい。(省略)」

7 「[0054] 本発明の熱伝導シートは、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、この配向がないと、充分な熱伝導性が得られない。(省略)[0055] また、本発明の熱伝導シートは、熱伝導シート表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%以上80%以下、好ましくは35%?75%、より好ましくは40%?70%である。前記熱伝導シート表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%未満である場合は、充分な熱伝導性を得ることが出来ない傾向がある。また、80%を超える場合は、熱伝導シートの柔軟性や密着性が損なわれる傾向がある。」

8 「[0057] 本発明において「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、まず熱伝導シートを正八角形に切った各辺の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、いずれか1辺の断面に関し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度(90度以上の場合には補角を採用する)を測定し、その平均値が60度?90度の範囲になる状態をいう。(省略)
[0059] また、本発明の熱伝導シートは、70℃におけるアスカーC硬度が60以下、好ましくは40以下である。前記70℃におけるアスカーC硬度が60を超える場合は、発熱体である半導体パッケージやディスプレイ等の電子基材に充分に密着できないため、熱をうまく伝達できなくなったり、熱応力の緩和が不充分になったりする傾向がある。」

9 「[0070] 前記黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物は、両者を混合することにより得られるが、混合方法は特に制限されない。例えば、前記有機高分子化合物(B)を溶剤に溶かしておいて、そこに前記黒鉛粒子(A)及び他の成分を加え、攪拌した後に乾燥する方法又はロール混練、ニーダーによる混合、ブラベンダによる混合、押出機による混合等を用いることができる。」

上記1ないし9の記載事項を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「鱗片状の黒鉛粒子と、有機高分子化合物と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、
前記有機高分子化合物が、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルのいずれか又は両方を共重合成分として含むポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有し、
前記組成物が、前記黒鉛粒子と前記有機高分子化合物とを含有する混錬物であり、
前記黒鉛粒子の含有量が、前記組成物の全体積の10?50体積%であり、
前記黒鉛粒子の鱗片の面方向が、熱伝導シートの面に対して60度?90度に配向している熱伝導シート。」


本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-88171号公報 (以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、以下の事項10ないし14が記載されている

10 「【0009】本発明で使用する熱伝導性繊維としては、繊維長さ方向の熱伝導率が50W/m・K以上であることが好ましく、黒鉛化炭素繊維、金属繊維、ポリベンザゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維より選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0010】黒鉛化炭素繊維としては、PAN系よりもピッチ系やメソフェーズピッチ系を主原料として溶融紡糸、不融化、炭化などの処理工程後に2000?3000℃あるいは3000℃を越える高温で熱処理した黒鉛構造の発達したピッチ系炭素繊維の方が繊維長さ方向の熱伝導率が大きいので好ましい。(省略)」

11 「【0014】これらの熱伝導性繊維の繊維長さ、繊維直径については特定するものではない。熱伝導性繊維の長さが短い短繊維の場合、繊維の平均直径は、5?20μm、平均長さは5?800μmの範囲が高分子へ容易に充填することができ、得られる熱伝導性シートの熱伝導率が大きくなるので好ましい。(省略)」

12 「【0016】本発明の熱伝導性シートは、シートの厚み方向に対して熱伝導性繊維が傾斜配向されてなることを特徴とする。シートの厚み方向に対して傾斜配向されているということは、実質的にシートを圧縮した際に傾斜配向されている熱伝導性繊維が応力によってさらに斜めに傾斜するので発熱する素子や伝熱部材の凹凸面に追従可能となり実際の熱抵抗を低減することができる。
【0017】傾斜させる角度については限定するものではないけれども、たとえば、数値で表現すれば、シートの厚み方向を90度とした際に、熱伝導性繊維が45?89度あるいは91?135度、好ましくは60?85度あるいは95?120度の傾斜角度で配向されていることを意味し、圧縮しやすく、かつ発熱する素子の凹凸面にも追従できる。」

13 「【0028】
【発明の実施の形態】本発明の熱伝導性シートは、熱伝導方向であるシートの厚み方向に対して熱伝導性繊維が傾斜配向されてなることが重要である。熱伝導性繊維がシートの厚み方向に傾斜して配向されることによって、熱伝導させる発熱体と放熱体の厚み方向にシートを挟んだ時に、圧縮応力を加えるとシートが厚み方向に圧縮し、密着性が良好になるとともに、傾斜配向された熱伝導性繊維が接触し合って熱の伝導に効果的に働き、熱抵抗値が小さく熱伝導性が良好になる。」

14 「【0055】本発明の実施例1?5の熱伝導性シートは、熱伝導性繊維として黒鉛化炭素長繊維、銅線、黒鉛化炭素短繊維、ポリベンザゾール短繊維、ニッケルを被覆した黒鉛化炭素短繊維などがシートの厚み方向に対して傾斜配向されてなる熱伝導性シートであり、柔軟性があり熱伝導率が大きい。また、比較例と異なり、実際に発熱する素子と伝熱部材の間隙に介在させてみると、熱伝導性繊維が厚み方向に対して傾斜配向されているために、発熱素子と伝熱部材間に介在させて加圧すると凹凸面に非常に良く追従できるので熱抵抗値が小さくなることがわかる。」

上記10ないし14の記載事項を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物2には、以下の事項(以下、「刊行物2に記載された事項」という。)が記載されている。

「熱伝導性シートにおいて、黒鉛化炭素短繊維が、シートの厚み方向を90度とした際に、45?89度の傾斜角度で傾斜配向されると、圧縮しやすく、かつ発熱する素子の凹凸面にも追従できること。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「黒鉛粒子」は、その技術的意義及び機能からみて本願発明における「無機材料」に相当する。
したがって、両者は、
「鱗片状である熱伝導性の無機材料と、有機高分子化合物と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、
前記無機材料が、鱗片状の黒鉛を含有し、
前記有機高分子化合物が、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選択される少なくとも1種を共重合成分として含むポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有し、
前記組成物が、前記無機材料と前記有機高分子化合物とを含有する混錬物であり、
前記無機材料の含有量が、前記組成物の全体積の10?50体積%である熱伝導シート。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明では、「前記無機材料の鱗片の面方向、楕球の長軸方向、板の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シートの厚み方向に対して傾いて配向」し、「熱伝導シート表面に対する角度の平均値が5?55°である」のに対して、
引用発明では、「前記黒鉛粒子の鱗片の面方向が、熱伝導シートの面に対して60度?90度に配向している」点で相違する。

第4 判断
以下、[相違点]について検討する。

引用発明の「前記黒鉛粒子の鱗片の面方向が、熱伝導シートの面に対して60度?90度に配向している」ことは、充分な熱伝導性を得るため(段落[0054])である。また、刊行物2に記載された事項は、「圧縮応力を加えるとシートが厚み方向に圧縮し、密着性が良好になるとともに、傾斜配向された熱伝導性繊維が接触し合って熱の伝導に効果的に働き、熱抵抗値が小さく熱伝導性が良好になる。」(段落【0028】)の記載からみて、熱伝導性と密着性を共に良好に保つものといえる。

そして、刊行物2に記載された事項の「熱伝導性シート」は、引用発明の「熱伝導シート」に相当するから、両者に求められる特性は共通するし、刊行物1の「熱伝導シートの柔軟性や密着性が損なわれる傾向がある。」([0055])との記載及び「電子基材に充分に密着できないため、熱をうまく伝達できなくなったり、熱応力の緩和が不充分になったりする傾向がある。」([0059])との記載からみて、引用発明においても密着性は求められる特性である。

また、刊行物2に記載された事項の「黒鉛化炭素短繊維」は、刊行物1の段落[0042]に黒鉛粒子(A)として例示された「炭素繊維フレーク」との記載からみて、引用発明の「黒鉛粒子」に相当する。

そして、黒鉛粒子の長手方向が熱伝導シートの面に対する角度と、熱伝導シートの密着性及び熱伝導性の関係を整理すると、当該角度が、90度に近い(0度から遠い)ほど、密着性には不利であるが熱伝導性には有利であり、0度に近い(90度から遠い)ほど、密着性には有利であるが熱伝導性には不利であるといえる。

また、刊行物2に記載された事項の「シートの厚み方向を90度とした際に、45?89度の傾斜角度」という数値範囲は、本願発明の「熱伝導シート表面に対する角度の平均値が5?55°」という数値範囲と一部重複する数値範囲である。

そして、本願発明の「熱伝導シート表面に対する角度の平均値が5?55°」という数値範囲について、補正後の本願明細書の段落【0046】に「無機材料の鱗片の面方向、楕球の長軸方向、板の長軸方向又は棒の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度の平均値が5?60°の範囲で傾いて配向していることが好ましく、より好ましくは10?55°、更に好ましくは20?40°の範囲がよい。」と記載されているものの、その臨界的意義は、本願明細書及び図面から確認できない。

そうすると、引用発明の鱗粉状の黒鉛粒子の熱伝導シートの面に対する角度を、何度にするかは、密着性と熱伝導性とのバランスをどのようにとるかによって決まることであるから、「熱伝導シート表面に対する角度の平均値」の「5?55°」という数値範囲を選択することは、当業者における通常の創作能力の発揮にすぎず、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の効果は、引用発明及び刊行物2に記載された事項から予測できるものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-19 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-08 
出願番号 特願2009-181432(P2009-181432)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 中川 隆司
内田 博之
発明の名称 熱伝導シート、及びその熱伝導シートの製造方法  
代理人 三好 秀和  

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