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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1310632
審判番号 不服2015-3971  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2016-02-04 
事件の表示 特願2013- 79451「ホルムアルデヒドの無害化方法、イオン発生素子、電気機器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-176569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月16日(優先権主張 平成15年5月15日)に出願された特願2004-74600号(以下、「原出願」という。)の一部を平成19年8月27日に新たな特許出願とした特願2007-219586号の一部をさらに平成20年9月30日に新たな特許出願とした特願2008-252049号の一部をさらに平成23年8月10日に新たな特許出願とした特願2011-174438号の一部をさらに平成24年1月16日に新たな特許出願とした特願2012-5730号の一部をさらに平成25年4月5日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年3月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月27日に拒絶査定がされ、これに対して平成27年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明は、平成26年3月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
円柱状の誘電体と、前記誘電体の外周表面に設けられた放電電極と、前記誘電体を挟んで前記放電電極と一定の距離を保って対向するように配置された誘導電極とを備えるイオン発生素子を用いて、正イオンと、負イオンとを放出し、
前記正イオン及び前記負イオンを空気中に浮遊するホルムアルデヒドに付着させ、
前記正イオン及び前記負イオンが反応して生成する活性種により前記ホルムアルデヒドを無害化することを特徴とするホルムアルデヒドの無害化方法。」(以下、「本願発明1」という。)

3.引用例に記載された発明
(1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願優先日前に頒布された特開2002-085544号公報(以下、「引用例1」という。)には、「イオン発生装置及びそれを備えた空気清浄機並びに空気調和機」(発明の名称)につき、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 円筒状の絶縁体を挟んで対向する電極を設け、これらの電極間に交流電圧を印加することにより正イオンと負イオンを発生させるイオン発生装置において、
前記交流電圧の実効値を0.44?2.0kVで、かつ、周波数を人間の可聴周波数帯域の範囲外としたことを特徴とするイオン発生装置。」
(イ)「【0002】
【従来の技術】近年、住環境の高気密化に伴い、室内等の居住空間に浮遊する人体に有害な成分を取り除き、健康で快適な生活を送りたいという要望が強くなっている。この要望に応えるため、各種のフィルタを備えた空気清浄機が開発されている。」
(ウ)「【0007】このイオン発生装置は、筒状又は板状のガラス等の絶縁体を挟んで対向するメッシュ状の電極間に交流電圧を印加することにより正イオンと負イオンを同時に発生させるように構成されたものである。
【0008】このイオン発生装置の動作原理について説明する。イオン発生装置の電極間に交流高電圧を印加すると、大気中で放電等の電離現象が起こり、正イオン及び負イオンが同時に発生する。このとき、正イオンとしてはH^(+)(H_(2)O)_(n)、負イオンとしてはO^(2-)(H_(2)O)_(n)が最も安定に生成する。
【0009】これらのイオンは、正イオン又は負イオン単独では空気中の浮遊細菌に対し、格別な効果はない。しかし、これらのイオンが同時に生成すると、化学反応によって活性種である過酸化水素H_(2)O_(2)又は水酸化ラジカル・OHが生成する。このH_(2)O_(2)又は・OHは、極めて強力な活性を示すため、これにより空気中の浮遊細菌を除去することができる。」
(エ)「【0015】
【発明の実施の形態】<第1の実施形態>本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係るイオン発生装置11の概略的な構成を図1の断面図に示すと、両端が封止された円筒状の絶縁体であるパイレックス(登録商標)ガラス管21(内径10mm、長さ150mm、厚さ1mm)を挟んで内側と外側にそれぞれ、筒状の内電極22と外電極23が対向して配設されている。尚、内電極22及び外電極23の材料としては多数の透穴を有する電極材料が望ましく、例えばメッシュ状の電極が好適である。
【0016】本実施形態では、内電極22としては線径0.18mm、目開き数40mesh、長さ80mmのステンレス(SUS304)製の金属メッシュを用い、外電極23としては線径0.40mm、目開き数40mesh、長さ80mmのステンレス(SUS304)製の金属メッシュを用いた。そして、ガラス管21と電極22,23との密着は、接着の他、ワイヤー等を巻いて固定する圧着、スクリーン印刷等により容易に行える。」
(オ)「【0017】そして、外電極23を接地電位として、内電極22に、高周波回路24を用いて種々の周波数及び実効電圧の交流電圧を印加した。このとき、イオン発生装置11のガラス管21の側面からの距離10cmの位置でイオン発生装置11から発生するの濃度(個/cm^(3))を空気イオンカウンタによって測定し、移動度1cm^(2)/Vsec以上の小イオンを検出した。また、イオンと同時に生成する有害なオゾンの濃度もオゾン濃度センサにより計測した。結果を図2に示す。
【0018】図2より明らかなように、周波数25kHzにおいて、実効電圧を44Vとすると、極微量しかイオンは検出されなかったが、実効電圧を10倍の440Vまで高めると、正イオン、負イオンともに非常に高濃度で確認された。また、実効電圧を440V以上に更に上げると、いずれの周波数においても大量のイオンの発生が確認され、しかもオゾン濃度を人体にとって有害とされる基準値の0.01ppm以下に概ね抑えることができた。」
(カ)「【0027】そして、ガス検知管により空気清浄機の運転開始時と、運転開始から30分後のアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素の濃度を測定した。その結果、わずか30分でアンモニアは35%、酢酸は65%、スチレンは58%、一酸化窒素は90%の除去率が得られた。これは、イオン発生装置11から生じた正イオンと負イオンとの反応により生成するラジカル・OHによる酸化反応によって上記の悪臭成分の分子が分解されるためであると考えられる。」
(キ)図1

(ク)図2


(2)引用例1に記載された発明
記載事項(ア)(エ)(オ)(キ)によれば、引用例1には、両端が封止された円筒状の絶縁体と、該絶縁体の外側に密着して設けられた筒状の外電極と、該絶縁体を挟んで外電極と対向するように配置され、該絶縁体の内側に密着して設けられた筒状の内電極とを備えたイオン発生装置の、該絶縁体を挟んで対向する電極間に交流電圧を印加することにより、正イオンと負イオンを同時に発生させることが記載されている。
記載事項(ウ)(カ)によれば、引用例1には、イオン発生装置から生じた正イオン及び負イオンの反応によって、活性種である過酸化水素H_(2)O_(2)又は水酸化ラジカル・OHが生成され、水酸化ラジカル・OHによる酸化反応によって、悪臭成分であるアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素の分子が分解されて除去されることが記載されている。
したがって、引用例1には、
「両端が封止された円筒状の絶縁体の外側に密着して設けられた外電極と、前記絶縁体を挟んで前記外電極と対向するように配置され、前記絶縁体の内側に密着して設けられた内電極とを備えるイオン発生装置を用いて、正イオンと、負イオンとを同時に発生させ、
前記正イオン及び前記負イオンが反応して生成する活性種により、悪臭成分であるアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素の分子を分解して除去する方法。」が記載されている(以下「引用発明1」という)。

4.対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「外電極」、「内電極」は、本願発明1の「放電電極」、「誘導電極」に相当する。
「円筒」は「円柱」のうち中空の形状を意味する用語であるから、引用発明1における「両端が封止された円筒状の絶縁体」は、本願発明1の「円柱状の誘電体」に相当する。
引用発明1の「外電極」と「内電極」とは、「円筒状の絶縁体」に「密着」して設けられているから、引用発明1の「外電極」は、「円筒状の絶縁体」の「外周表面」に設けられたものであり、また、「外電極」と「内電極」との距離は「円筒状の絶縁体」の厚さに等しいものであって、「一定」であるといえる。
引用発明1の「悪臭成分」と、本願発明の「ホルムアルデヒド」とは、「有害な化学物質」である点で一致するから、引用発明1の「イオン発生装置を用いて、正イオンと、負イオンとを同時に発生させ、前記正イオン及び前記負イオンが反応して生成する活性種により、悪臭成分であるアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素の分子を分解して除去する」点は、本願発明1の「イオン発生素子を用いて、正イオンと、負イオンとを放出し、前記正イオン及び前記負イオンが反応して生成する活性種により有害な化学物質を無害化する」点に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1とは、
「円柱状の誘電体と、前記誘電体の外周表面に設けられた放電電極と、前記誘電体を挟んで前記放電電極と一定の距離を保って対向するように配置された誘導電極とを備えるイオン発生素子を用いて、正イオンと、負イオンとを放出し、
前記正イオン及び前記負イオンが反応して生成する活性種により有害な化学物質を無害化することを特徴とする有害な化学物質の無害化方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
正イオン及び負イオンが反応して生成する活性種により無害化する有害な化学物質が、本願発明1では、ホルムアルデヒドであるのに対し、引用発明1では、悪臭成分として列挙されたアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素であって、ホルムアルデヒドでない点。

(相違点2)
正イオン及び負イオンが、本願発明1では、空気中に浮遊する有害な化学物質であるホルムアルデヒドに付着するのに対し、引用発明1では、空気中に浮遊する有害な化学物質であるアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素の分子に付着するか不明である点。

(2)判断
(相違点1)について
引用例1の記載事項(イ)によれば、引用発明1の「悪臭成分」は、「居住空間に浮遊する」「人体に有害な成分」であるといえる。ここで、「ホルムアルデヒド」が、「居住空間に浮遊する」「人体に有害な成分」である「悪臭成分」に含まれることは周知である(必要であれば特開平2-280818号公報の第1頁左下欄第10行-右下欄第4行、特開2002-18231号公報の段落【0002】、【0003】等を参照。)。
さらに、ホルムアルデヒドを含む「悪臭成分」が、「活性種」によって分解、除去されることも周知の技術である(必要であれば特開平2-280818号公報の第2頁右上欄第7行-左下欄第6行、米国特許第6372131号明細書の第4欄第48行-第65行等を参照。)。
引用例1には、ホルムアルデヒドが分解除去すべき悪臭成分であることは明記されていないが、イオン発生装置で発生させた正イオン及び負イオンの反応によって生成する活性種により、居住空間に浮遊する人体に有害な化学物質である悪臭成分を分解して除去する引用発明1において、生成した活性種によって分解し除去する処理対象を、居住空間に浮遊する人体に有害な成分である悪臭成分として周知であり、当該活性種によって分解除去可能であることも周知であるホルムアルデヒドとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(相違点2)について
記載事項(オ)(ク)によれば、引用例1には、イオン発生装置で発生させた正イオン及び負イオンが空気中に多数存在することが記載されており、また、記載事項(オ)によれば、引用発明1の空気中には「悪臭成分」も存在しているといえる。
そして、空気中に浮遊して存在する粒子はランダムに移動するものであるから、「正イオン」、「負イオン」、「悪臭成分」が存在している引用発明1では、「正イオン」及び「負イオン」が「悪臭成分」に付着する前に反応して「活性種」が生成する現象と、「正イオン」及び「負イオン」が反応して「活性種」が生成する前に、「悪臭成分」に付着する現象が起きているといえる。
したがって、引用発明1においても、イオン発生装置で発生させた正イオン及び負イオンは、空気中に浮遊する有害な化学物質であるアンモニア、酢酸、スチレン及び一酸化窒素の分子に付着しているといえるから、(相違点2)は、本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでなく、作用効果も格別なものといえない。

よって、本願発明1は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-27 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-16 
出願番号 特願2013-79451(P2013-79451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡谷 祐哉  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 後藤 政博
萩原 周治
発明の名称 ホルムアルデヒドの無害化方法、イオン発生素子、電気機器  

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