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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1310683
審判番号 不服2014-12889  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-03 
確定日 2016-02-03 
事件の表示 特願2010-166783「カメラモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日出願公開、特開2011-197626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年7月26日(パリ条約による優先権主張 平成22年3月23日、韓国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 7月 4日:拒絶理由の通知(起案日)
平成24年11月12日:意見書及び手続補正書の提出
平成25年 5月13日:最後の拒絶理由の通知(起案日)
平成25年10月18日:意見書及び手続補正書の提出
平成26年 2月25日:平成25年10月18日に提出された手続補正
書でした手続補正の却下の決定、拒絶査定
平成26年 7月 3日:審判請求書及び手続補正書の提出
平成26年 8月14日:手続補正書(方式)の提出

第2 平成26年7月3日に提出された手続補正書でした手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年7月3日に提出された手続補正書でした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル;
前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング;
マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部;
前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール;及び
前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部;
を含み、
前記レンズバレルが、前記ハウジングの収容空間の任意地点で、前記駆動部により上下方に駆動が始まることを特徴とするカメラモジュール。」
から、
「プレロード部が無いカメラモジュールであり、
外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル;
前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング;
マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部;
前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール;及び
前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部;
を含み、
前記レンズバレルが、初期駆動時、前記ハウジングの収容空間内部で位置検出部から検知された任意の地点で前記駆動部により上方又は下方に駆動が始まることを特徴とするカメラモジュール(但し、前記任意の地点が、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合を除く)。」
へと補正するものである(下線は、補正箇所を示すものとして当審で付した。)。

2 本件補正後の請求項1(以下、この項において、単に「請求項1」という。)の記載について
(1)本件補正の適法性を検討するに当たり、まず、請求項1の記載について検討する。
ア 請求項1は、
「プレロード部が無いカメラモジュールであり、
外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル;
前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング;
マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部;
前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール;及び
前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部;
を含み、
前記レンズバレルが、初期駆動時、前記ハウジングの収容空間内部で位置検出部から検知された任意の地点で前記駆動部により上方又は下方に駆動が始まることを特徴とするカメラモジュール。」に係る構成(以下「原則構成」という。)から、
「前記任意の地点が、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合」に係る構成(以下「例外構成」という。)
を除外したものと形式的には理解することができる。

イ しかしながら、請求項1の記載は以下の点で明確でない。
(ア)例外構成の「所定位置」がいかなる位置であるのかが不明である。
a すなわち、「所定位置」である以上、なんらかの基準により定められた位置を意味するものと解されるが、その位置が、レンズバレルの基準位置(例えば、無限遠に合焦する位置や、カメラモジュールの電源をオンした直後に配置される初期位置などが考えられる。)を意味しているのか、「外的な要因でレンズバレルが移動」する前の位置を意味しているのか、その他の位置を意味しているのかが不明である。
そして、そのいずれの位置を意味しているのかを判断するための手がかりが請求項1の記載に存在しないし、本願の明細書及び図面の記載を参酌したとしても明らかにならない。

b 平成26年8月14日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書(以下、単に「審判請求書」という。)「三.ウ」などによれば、請求人は、本件補正により、引用文献2(当審注:後記の「引用例2」である。)の段落【0029】に記載されている内容が除外された旨主張していると解される。
そして、上記「引用文献2」の段落【0029】には、
「(動作例)
このように構成したレンズ駆動装置1では、図2(a)?(e)を参照して説明した信号をコイル41、42に印加して、移動レンズ体2(レンズ21、22、23)を被写体側1a(左端側/第1の位置側)とCCD側1b(右端側/第2の位置側)との間で移動させてフォーカシング制御を行うとともに、その位置検出を行う。そして、移動レンズ体2を所定位置で停止した時点で、コイル41、42に印加する励磁用直流電圧成分を0Vに設定して制動を行う。または、コイル41、42に印加する励磁用直流電圧成分励磁電圧を低い電圧に設定し、低レベルで励磁を行う。ここで、外的な要因で移動レンズ体2が所定位置から移動したことが検出された場合、所定の励磁用直流電圧をコイル41、42に印加して移動レンズ体2を所定位置に戻す。」(下線は当審で付した。以下同じ。)
と記載されていることから、上記主張によれば、「所定位置」は、「外的な要因でレンズバレルが移動」する前にレンズバレルが停止していた位置を意味するものと解される。
しかしながら、本願の請求項の記載の明確性は、特許発明の技術的範囲が特許請求の範囲の記載に基づいて定められる(特許法第70条第1項)ことに照らせば、本願の請求項の記載に基づいて判断されるものであるところ、審判請求書の記載や上記「引用文献2」の記載に基づいて技術常識を明らかにするのであればともかく、そうでないときに、これらを参酌することによって判断されるものではない。
したがって、請求人の主張は採用できるものではない。

(イ)例外構成が除外されることによって請求項1に何が特定されたことになるのかが不明である。
a 請求項1の記載の理解としては、少なくとも次の(a)及び(b)の2つが考えられる。
(a)例外構成の「前記任意の地点」を、レンズバレルがハウジングの収容空間内部で位置しうる全ての地点の集合と解した上で、
i そのうちの特定の地点(すなわち、「外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点」)に限って、「レンズバレルが、初期駆動時、前記ハウジングの収容空間内部で位置検出部から検知された任意の地点で前記駆動部により上方又は下方に駆動が始まる」との駆動制御ではなく、それ以外の駆動制御を行うとともに、
ii 上記特定の地点以外の「任意の地点」では「レンズバレルが、初期駆動時、前記ハウジングの収容空間内部で位置検出部から検知された任意の地点で前記駆動部により上方又は下方に駆動が始まる」との駆動制御を行うこと、
を特定しているとの理解。
この理解の場合、原則構成に属する態様のうち、外的な要因でレンズバレルが移動した場合に、レンズバレルを所定位置に戻すように制御する態様であっても、ただちに請求項1から除外されるわけではなく、当該態様のうち、外的な要因が実際には働かずレンズバレルが移動しなかったときは上記駆動制御を行い、外的な要因が実際に働きレンズバレルが移動してしまったときは所定位置に戻すとともに上記駆動制御以外の駆動制御(例えば、カメラモジュールの電源をオンした直後に配置される初期位置にさらに戻してから駆動を始めるという制御。)を行うものは、請求項1に文言上含まれることになる。

(b)例外構成の「前記任意の地点」が「外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合」が起こり得ない、すなわち、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻すとの制御をそもそも行わない(例えば、外的な要因でレンズバレルが移動した場合は、レンズバレルをそのまま動かさないでおく。)から、上記のことが起こり得ないということを特定しているとの理解。
この理解の場合、例外構成の除外により、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻すとの制御をそもそも行わないことが、実質的に特定されたことになるから、原則構成に属する態様のうち、外的な要因でレンズバレルが移動した場合に、所定位置に戻すように制御する態様は、ただちに請求項1から除外されることになる。
もっとも、この理解は、「前記任意の地点」が「外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合」を「除く」というよりはむしろ「起こり得ない」と解する点で文言からは乖離しており、本願の明細書及び図面に手がかりがあればともかく、そのようなものがない以上、不自然なものである。

b 上記aのとおり、請求項1の記載は多義的であり、そのいずれの理解が適切なのかを判断する手がかりが当該請求項1の記載に存在せず、また、本願の明細書及び図面の記載を参酌したとしても明らかにならない。

c 上記(ア)bと同様に、請求人は、本件補正により、上記「引用文献2」の段落【0029】に記載されている内容が除外された旨主張していると解されるから、請求人は、請求項1の文言をどのように解しているのかはともかく、結果として、上記a(b)の理解をしているものと解される。
しかしながら、上記(ア)bと同様の理由で、請求人の主張は採用できるものではない。

(2)上記(1)のとおり、請求項1の記載は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3 本件補正が新規事項を追加していることに伴う却下理由
(1)上記2のとおり、本件補正後の請求項1の記載には不備があるが、審判請求書の記載を踏まえ、「所定位置」は「外的な要因でレンズバレルが移動」する前にレンズバレルが停止していた位置を意味するものと解するとともに、原則構成から例外構成が除外されたことによって、「前記任意の地点」が「外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合」が起こり得ない、すなわち、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻すとの制御をそもそも行わないことが実質的には特定されたものと解した上で、本件補正が新規事項を追加するものであるか否かを検討する。

(2)ア 本件補正後の請求項1には、「初期駆動時、前記ハウジングの収容空間内部で位置検出部から検知された任意の地点で前記駆動部により上方又は下方に駆動が始まること」が記載されている。
そして、「任意の地点」は「位置検出部から検知された」ものであるところ、上記の記載からみて、その検知のタイミングは、レンズバレルがその「任意の地点」にあるときと解される。

イ 本件補正では、さらに、「(但し、前記任意の地点が、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合を除く)」との記載がなされているところ、その結果、外的な要因でレンズバレルが(所定位置から)移動した場合にレンズバレルを所定位置に戻さないことが明らかになった。
ここで、「所定位置」は「外的な要因でレンズバレルが移動」する前にレンズバレルが停止していた位置を意味するから、その停止していた時刻が存在することになる。

ウ ところで、外的な要因でレンズバレルが(所定位置から)移動した場合にレンズバレルを所定位置に戻すのであれば、その後、当該所定位置から駆動を始めるためには、当該所定位置が「位置検出部から検知」されるタイミングは、当該駆動の開始時刻の直前のみならず、上記イ(又はその直前)の時刻においてであってもよく、そうすると、外的な要因でレンズバレルが移動する前であってもよいということになる。
そして、所定位置も「任意の地点」に属するから、外的な要因でレンズバレルが(所定位置から)移動した場合にレンズバレルを所定位置に戻す態様では、所定位置、すなわち、任意の地点が「位置検出部から検知」されるタイミングは、外的な要因でレンズバレルが移動する前であってもよいことになる。

エ 他方、外的な要因でレンズバレルが(所定位置から)移動した場合にレンズバレルを所定位置に戻さないのであれば、外的な要因でレンズバレルが移動した後の地点から駆動を開始するためには、当該地点が「位置検出部から検知」されるタイミングは、外的な要因でレンズバレルが移動した後でなければならないことになる。
そして、外的な要因でレンズバレルが移動した後の地点も「任意の地点」に属するから、外的な要因でレンズバレルが(所定位置から)移動した場合にレンズバレルを所定位置に戻さない態様では、外的な要因でレンズバレルが移動した後の地点、すなわち、任意の地点が「位置検出部から検知」されるタイミングは、外的な要因でレンズバレルが移動した後でなければならないことになる。

オ そうすると、本件補正により、実質的には、「任意の地点」から駆動を始めるに際して、当該「任意の地点」が「位置検出部から検知され」るタイミングが、外的な要因でレンズバレルが移動した後でなければならないとの技術的事項が特定されたものということができる。

カ 請求人は、審判請求書「四.オ」で、「これに対し、本願発明における任意の地点は、実際、レンズバレルが駆動される直前まではその特定の停止位置を知らない、真の任意の地点を意味するのである。本願発明においては、位置検出部(例えばホールセンサー)は、電流が印加されてレンズバレルが駆動するときに初めて作動して、レンズバレルの位置を検知する。」と主張しているから、請求人の請求項の記載の解釈についてはともかく、結果として、上記オと同趣旨の理解を示しているものと解される。

キ そこで、上記オの技術的事項が、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれるものであるかどうかについて以下に検討する。
(ア)当初明細書等には、「位置検出部」、「任意の地点」及びそこからの駆動に関して、以下の記載がある。
a 「【特許請求の範囲】」、
「外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル;
前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング;
マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部;
前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール;及び
前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部;
を含むカメラモジュール。」(【請求項1】)、
「前記レンズバレルが、前記ハウジングの収容空間の任意地点で、前記駆動部により上下方に駆動が始まることを特徴とする請求項1に記載のカメラモジュール。」(【請求項4】)、
「前記位置検出部が、前記マグネットの位置変化を検知するホールセンサーであることを特徴とする請求項1に記載のカメラモジュール。」(【請求項9】)、
「前記ハウジングが上面に付着固定される回路基板に実装されたイメージセンサーの画像信号から前記レンズバレルのフォーカシング目標位置を算出し、前記フォーカシング目標位置と前記位置検出部から検知されたレンズバレルの駆動位置を比べて、前記レンズバレルに印可される電源を制御する制御部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のカメラモジュール。」(【請求項10】)、
「本発明の好ましい実施形態によるカメラモジュールは、外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル、前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング、マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部、前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール、及び前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部を含むことを特徴とする。」(段落【0013】)、
「更に、前記レンズバレルは、前記ハウジングの収容空間の内部に任意地点で前記駆動部により上方と下方に駆動が始まることが好ましい。」(段落【0016】)、
「前記位置検出部は、前記マグネットの位置変化を検知するホールセンサーであることが好ましい。」(段落【0021】)、
「また、前記ハウジングが上面に付着固定される回路基板に実装されたイメージセンサーの画像信号から前記レンズバレルのフォーカシング目標位置を算出し、前記フォーカシング目標位置と前記位置検出部から検知されたレンズバレルの駆動位置を比べて、前記レンズバレルに印可される電源を制御する制御部をさらに含むことが好ましい。」(段落【0022】)、
「図4及び図5に示すように、本発明の好ましい実施形態によるカメラモジュール100は、レンズバレル110、ハウジング120、駆動部130、ガイドボール140、及び位置検出部150を含んで構成される。」(段落【0032】)、
「ここで、レンズバレル110は、レンズバレル110を収容支持するハウジング120の収容空間の内部の任意地点に位置する。このような任意地点に位置したレンズバレル110は、駆動部130によって光軸方向に上方及び下方に駆動を始めながら焦点距離を合わせるようになる。駆動部130は、以下に後述することにする。」(段落【0035】)、
「位置検出部150は、レンズバレル110の駆動位置を検知するためのもので、例えば、マグネット132から発生する磁気力の変化を検知して、レンズバレル110の駆動位置を検知するホールセンサーであることが好ましい。」(段落【0052】)、
「この際、位置検出部150は、例えば、ハウジング120の内周面に介されたコイル134らの間に、すなわちコイル134によって取り囲まれた形態で備えられることができる。」(段落【0053】)、
「図6は、図4及び図5に示したカメラモジュールの駆動原理を説明するための図であり、図7は、図4及び図5に示したカメラモジュールの駆動部に印可される電流とレンズバレルの変位の関係を示すグラフである。以下、これを参照して本発明の好ましい実施形態によるカメラモジュール100の駆動原理に対して説明する。」(段落【0054】)、
「図6及び図7に示すように、位置検出部150から検知されたレンズバレル110の駆動位置は、イメージセンサー126の画像信号から算出されたレンズバレル110のフォーカシング目標位置と制御部160で比較され、制御部160は、これからフォーカシング目標位置にレンズバレル110が到逹するための駆動変位を算出するようになり、この駆動変位を発生させるために、必要な電源(電流)量を制御してコイル134に供給することによって、レンズバレル110の駆動変位を制御するようになる。」(段落【0055】)、
「この際、本発明では、従来技術のようなプレロード部がないから、レンズバレル110を上昇させるため、レンズバレル110の荷重Mより大きい第1駆動力F1を印可することによって、レンズバレル110を上昇駆動させることができるようになる。したがって、図3の従来のカメラモジュールに印可される電流に対するレンズバレル110の変位グラフにて初期駆動の際に必要な電流値M+Kより、図7の本発明による初期駆動に必要な電流値Mがもっと小さいので、レンズバレル110の初期駆動による電流消費が節減される。また、プレロード部がないからレンズバレル110がハウジング120の収容空間の内部の任意地点に位置し、駆動部130によって駆動を始めるようになる。レンズバレル110の初期駆動後には、コイル134に供給される電流量とレンズバレル110の駆動変位が比例するから、コイル134に供給される電流量を制御することによって、レンズバレル110を上昇させる第1駆動力F1と第2駆動力F2を制御することができるようになる。このように、第1駆動力F1と第2駆動力F2によって、レンズバレル110の駆動位置を制御することで、正確な位置でレンズバレル110のオートフォーカス機能を果たすことができるようになる。」(段落【0056】)

b 図4?図7は次のとおりである。


(イ)上記(ア)の各記載によれば、当初明細書等には次の技術的事項が記載されていると認められる。
a カメラモジュールは位置検出部を含むこと(【請求項1】・段落【0013】・段落【0032】)
b 位置検出部はレンズバレルの位置を検知すること(【請求項1】・段落【0013】・段落【0052】)。
c 位置検出部は、マグネットの位置変化を検知するホールセンサーであって、マグネットから発生する磁気力の変化を検知して、レンズバレルの駆動位置を検知すること(【請求項9】・段落【0021】・段落【0052】)
d 位置検出部は、ハウジングの内周面に介されたコイルらの間に、すなわちコイルによって取り囲まれた形態で備えられること(段落【0053】・図4?図6)
e 位置検出部から検知されたレンズバレルの駆動位置と、イメージセンサーの画像信号から算出されたレンズバレルのフォーカシング目標位置とを比べて、フォーカシング目標位置にレンズバレルが到達するための駆動変位を算出すること(【請求項10】・段落【0022】・段落【0055】)
f プレロード部がないからレンズバレルがハウジングの収容空間の内部の任意地点に位置し、駆動部によって駆動を始めること(【請求項4】・段落【0016】・段落【0035】・段落【0056】)
g レンズバレルの初期駆動後には、コイルに供給される電流量とレンズバレルの駆動変位が比例するから、コイルに供給される電流量を制御することによって、レンズバレルを上昇させる第1駆動力F1と第2駆動力F2を制御することができ、第1駆動力F1と第2駆動力F2によって、レンズバレルの駆動位置を制御することができること(段落【0056】)
h 第1駆動力F1と第2駆動力F2によって、レンズバレルの駆動位置を制御することで、正確な位置でレンズバレルのオートフォーカス機能を果たすことができること(段落【0056】)

(ウ)上記(イ)によれば、当初明細書等からは、レンズバレルの位置が「位置検出部から検知され」るタイミングについて、フォーカシング動作中では実質的にリアルタイムに駆動位置を検知していることが読み取れる(同e)にとどまり、「任意の地点」から駆動を始めるに際して、当該「任意の地点」が「位置検出部から検知され」るタイミングについては一切記載されていないと認められる。
そして、本件補正により、「任意の地点」から駆動を始めるに際して、当該「任意の地点」が「位置検出部から検知され」るタイミングが、外的な要因でレンズバレルが移動した後であるとの技術的事項が実質的に特定された結果、外的な要因でレンズバレルが移動してもレンズバレルを所定の位置に戻すことなく、レンズバレルが移動した後の地点から駆動を開始することができるという技術的意義が追加されたものといえる。

(エ)以上によれば、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとはいえず、新規事項の追加に該当する。

(3)ア 本件補正は、いわゆる「除くクレーム」の形式をとっているものの、上記(1)のとおり、実質的には、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻すとの制御をそもそも行わないとの技術的事項を特定しているものと認められる。

イ しかしながら、外的な要因でレンズバレルが移動した場合においてレンズバレルの位置をどうするのかについて当初明細書等には一切記載がないことが明らかである。
さらに、外的な要因でレンズバレルが移動した場合に、レンズバレルを所定位置に戻すとの制御をそもそも行わないということが技術常識であるとはいえず、むしろ、上記「引用文献2」の段落【0029】(上記2(1)イ(ア)b)のとおり、外的な要因でレンズバレルが移動した場合に、レンズバレルを所定位置に戻すことが公知であったものと認められる。

ウ そして、当初明細書等には、「本発明によれば、駆動部がレンズバレルを上下駆動させる第1及び第2駆動力を提供して、レンズバレルを上下に駆動させ正確なレンズバレルのオートフォーカス機能を遂行することができる。この際、レンズバレルを初期位置に復元させるプレロード(レンズバレルを下降させる駆動力)を提供するプレロード部を別途に具備しないから、電力消耗及びレンズバレルのチルト現象を最小化し、駆動の信頼性を向上させることができる。」(段落【0025】)との記載があるところ、本件補正により、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻すとの制御をそもそも行わないとの技術的事項が実質的に特定された結果、電力消耗を最小化することを更に助けるという技術的意義が追加されたものと認められる。

エ 以上によれば、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとはいえず、新規事項の追加に該当する。

(4)上記(2)及び(3)によれば、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件に違反してなされたものである。
よって、本件補正は、特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

4 本件補正後の請求項1の記載の明確性要件違反に伴う却下理由
(1)上記3のとおり、本件補正は却下すべきものであるが、その点を措くと、本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「任意の地点」から、「前記任意の地点が、外的な要因でレンズバレルが移動した場合、レンズバレルを所定位置に戻した地点である場合」を除いたものということができる。
そうすると、本件補正は、発明特定事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものということができるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと一応解することができる。

(2)しかしながら、上記2(2)のとおり、本件補正後の請求項1の記載は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年11月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル;
前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング;
マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部;
前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール;及び
前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部;
を含み、
前記レンズバレルが、前記ハウジングの収容空間の任意地点で、前記駆動部により上下方に駆動が始まることを特徴とするカメラモジュール。」

2 引用例
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平8-86949号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】」
「移動可能な第1の部分と固定されている第2の部分によって構成される駆動部と、
光学部材を保持するとともに、重心位置近傍に該駆動部の第1の部分を有する光学保持部材と、
該光学保持部材を移動可能に支持する少なくとも2カ所以上の支持部と、該駆動部の第2の部分を位置決めする位置決め部を有する固定の支持部材とから構成され、
該支持部材の該支持部は該駆動部の第1の部分と略同一平面上に設けられるとともに、該駆動部の第1の部分に対して略対称な位置に設けられていることを特徴とする光学機器。」(【請求項1】、なお、「略対象な位置」は「略対称な位置」の明らかな誤記であるので、誤記を正して摘記した。)

(イ)「【従来の技術】」(段落【0002】)、
「近年、メモリ、マイコン等半導体チップの進歩により、携帯型の情報機器は、小型化、高性能化の一途をたどり、その普及が期待されている。この携帯型情報機器は、顧客の管理等のため上着のポケットに入れて持ち歩くものであるから、携帯性に優れるような小型であること、その中でも特に薄いことが必要条件になっている。またこのような情報機器には被写体像を撮像する機能が含まれるものがあり、その場合、薄型化するためには撮像光学系、駆動機構系を含めた撮像系全体を薄くしなければならない。」(段落【0002】)、
「図8に従来の撮像系であるズームレンズ機構を示す。101aは第1レンズ群、101bは第2レンズ群、101cは第3レンズ群、101dは第4レンズ群である。その中で第2レンズ群101bがズーミングのために、第4レンズ群101dが焦点調節のために所定範囲光軸方向に可動となっている。102は光学ローパスフィルタ、103はCCD等の撮像素子である。104は第1レンズ群1a、第3レンズ群101c、撮像素子103等を保持している筐体である。・・・」(段落【0003】)

(ウ)「【実施例】」(段落【0007】)、
「図1は、本発明の特徴を最もよく表す第1の実施例である。同図において1はレンズ等の光学部材を保持する光学保持部材であって図中下面にV溝部1a、1bと平面溝部1cおよび後述の永久磁石等の磁気部材が取付られる取付部1eが形成されている。kは光学系の光軸を表している。2は駆動部を構成する移動可能な第1の部分としての磁気部である、例えば永久磁石などの磁気部材であって光軸方向に着磁され、光学保持部材1の取付部1eに接着剤等により固着している。3は駆動部を構成する固定されている第2の部分としての通電されることで磁界を発生させるコイル、4は回転部材としてのボール、5は光学保持部材1を移動可能に支持する支持部材である。コイル3は支持部材5のコイル取付部5eに接着剤等により固着される。支持部材5には光学保持部材1の移動規制する3つのV溝部5a、5b、5cが形成されていて、支持部材5の各V溝部5a、5b、5cと光学保持部材1のV溝部1a、1bと平らな面の溝1cとの間にボール4がそれぞれ挾持されている。ここで光学保持部材1のV溝部1a、1bと支持部材5のV溝部5a、5bの溝方向はレンズの光軸方向であって、この2組のV溝部およびボール4と、残る1つの平面溝部1cと支持部材5のV溝部5cと光学保持部材1の平面溝部1cと支持部材5のV溝部5c間に挟まれているボール4とによって支持部材5に対する光学保持部材1の三次元方向の姿勢が決まり、ボール4の転がりによって光学保持部材1がレンズ光軸方向に移動する。6a、6bは光学保持部材1の位置を検出する位置センサで、一方が光学保持部材1の保持部1dに、他方が支持部材5の保持部5dにそれぞれ保持され、光学保持部材1の位置を磁気的、あるいは光学的な手段等で検出する。例えば磁気的に検出する場合、6aが永久磁石、6bがホール素子の組み合わせであったり、光学的に検出する場合、6aが規則正しい凹凸を持ったスケール、6bがレーザの発光部と受光部を持った半導体素子の組み合わせ等である。これらの検出手段は特開平5-344404号公報、特開平5-224112号公報等で公開されているためここでは詳述しない。尚、以降の説明では便宜上、磁気的に検出するものとし、6aを磁石、6bをホール素子とする。7は電気実装基板であってコイル3が結線され、支持部材5の外形に嵌合するような穴部7aが設けられているので支持部材5に対し嵌合して位置決めされる。8は高透磁率の物性を持った軟鉄等で出来た磁路形成部材としてのヨークであり、穴部8a、8bに支持部材5の一部が嵌合することによって支持部材5に対する位置が決められ、永久磁石2との間で磁気回路を形成している。したがって永久磁石2とヨーク8の間は磁力によって吸引力が働いていて、それぞれに固設している光学保持部材1と支持部材5はボール4を挾持する方向に力を加えている。このため光学保持部材1が移動中であっても光学保持部材1と支持部材5とボール4の関係は常にガタが生じることなく極めて安定である。なお光学保持部材1をプラスチックマグネットで作ることによって永久磁石2を一体で作製することも出来る。」(段落【0007】)、
「次にその組立法を述べる。
1.支持部材5に対して、コイル3、ホール素子6b、電気実装基板7、ヨーク8が上述のようにそれぞれ位置決めされ、積み重ねるようにして接着剤等により固着する。
2.電気実装基板7に対してコイル3と位置センサ6bの配線を行う。
3.ボール4をそれぞれガイド上のV溝5a、5b、5cに乗せる。
4.レンズ系を含む光学保持部材1の所定の位置に永久磁石2、6aを接着剤等で固着する。
5.所定の溝間にボール4が挟まれるように光学保持部材1を支持部材5に乗せる。」(段落【0008】)、
「このように光学保持部材1を光軸方向に駆動するコイル3、永久磁石2、ヨーク8から成るアクチュエータ、位置センサ、光学保持部材1と支持部材5間のボール支持部が一方向の積み重ねによって容易に組み立てられるので例えばロボット等による大量生産によってコストを低減することが出来る。」(段落【0009】)、
「図2に光軸と垂直方向の断面図を示す。図1と同一のものには同じ番号が付加してある。21、22はそれぞれV溝1a、溝1cとボール4との接触点すなわち支持部である。永久磁石2、コイル3、ヨーク8によって構成されたアクチュエータにおいてコイル3に電流を流すと後述する磁気回路と電流との相互作用により駆動力が発生し光学保持部材1が光軸方向(紙面と垂直方向)に移動する。このとき永久磁石2は光学保持部材1に固着されており、レンズを保持しているときの光学保持部材1に対して永久磁石2が十分重いとすると、可動部としての重心は光軸に対して図中下方、すなわち永久磁石2の近辺となる。光軸と垂直平面内において図のようにX軸、Y軸を定め、右上の象限から時計回りに第1、第2、第3、第4象限とすると、第2また第3象限に前記重心が存在し、連続した第2、第3象限内に支持部材5および永久磁石2、コイル3、ヨーク8から成るアクチュエータが配置されている。このように可動部としての重心が光軸から外れている場合、重心が存在する同一象限内あるいは連続した2象限内に駆動力を発生させる部分もしくは駆動力が作用する部分と可動部が支えられる支持部が配置されている、つまり駆動力が作用する永久磁石2近傍が光学保持部材1を含む可動部の重心であって、その重心に対して近傍位置であって重心位置の両側に設けた支持部21、22で光学保持部材1を支持しているから、光学保持部材1が駆動中でも安定した状態を保つことが出来る。」(段落【0010】)、
「本図において光学保持部材1のY軸を通る断面とボール4を通りY軸と平行な断面をそれぞれ断面A-A、断面B-Bとして図3に示し、光学保持部材1が光軸方向に駆動する様子を説明する。」(段落【0011】)、
「図3の断面A-A(a)、(b)、(c)および断面B-Bにおける(A)、(B)、(C)は、光学保持部材1が同一位置でのそれぞれの断面を示す。断面A-A(b)において永久磁石2とヨーク8の間で図中点線で示す磁路が形成されている。永久磁石2とヨーク8の間の磁路中に存在するコイル3に電流を流すと、磁力と電流の相互作用により発生する駆動力によって光学保持部材1は光軸方向に移動する。電流の方向を変化させることによって移動する方向が変化する。断面B-B(B)はボール4が光学保持部材1を支持している様子を表したものである。前述したように断面A-Aにおいて永久磁石2とヨーク8の間は磁力によって吸引力が働いているため光学保持部材1と支持部材5はボール4を介してガタなく密着しており、光学保持部材1が図中方向すなわち(A)方向に移動する際はボール4は左回転しながら、また(C)方向に移動する際は右回転をしながらやはり光学保持部材1と支持部材5はボール4を介してガタなく安定に光学保持部材1の姿勢を移動中も保持することができる。」(段落【0012】)、
「また光学保持部材1と支持部材5間のボール4が転がりながら光学保持部材1が移動するので、ボール4に対して光学保持部材1および支持部材5との間に働く転がり摩擦は、従来例で記載したガイドピンとレンズの保持部材の接触部に働くすべり摩擦に比べると、無視できるほど小さく、摩擦によるレンズ移送時の負荷を低減できる。」(段落【0013】)

(エ)「以上説明した本発明による駆動および支持手段を従来の撮影光学系に適用した例を図7に模式的に示す。駆動の対象になるのは、第2レンズ群101b、第4レンズ群101d、および絞り手段114である。これらはそれぞれ支持手段70、71、72によって基板7に対して支持され、基板7上の駆動手段73、74、75によってそれぞれ所定の方向に駆動される。コイル等の電気部品は基板7に実装されている。tは駆動部第2レンズ群101b、第4レンズ群101d、および絞り手段114周辺の筐体の光軸と直交する方向の外形寸法である。レンズの両側のガイドピンによりレンズ枠が軸支された従来のものに対して撮像光学系の寸法を小型化することが出来る。」(段落【0016】)

(オ)図1?3・7・8は次のとおりである。


(カ)段落【0003】(上記(イ))の「104は第1レンズ群1a、第3レンズ群101c、撮像素子103等を保持している筐体」との記載、段落【0016】(上記(エ))の「以上説明した本発明による駆動および支持手段を従来の撮影光学系に適用した例を図7に模式的に示す。」との記載、及び図8を踏まえて、図7をみると、支持手段、駆動手段及び光学保持部材が、筐体によって取り囲まれていることがみてとれる。

イ 上記アの各事項によれば、引用例1(以下「引用発明1」という。)には次の発明が記載されていると認められる。
「移動可能な第1の部分と固定されている第2の部分によって構成される駆動部と、
光学部材を保持するとともに、重心位置近傍に該駆動部の第1の部分を有する光学保持部材と、
該光学保持部材を移動可能に支持する少なくとも2カ所以上の支持部と、該駆動部の第2の部分を位置決めする位置決め部を有する固定の支持部材とから構成され、
該支持部材の該支持部は該駆動部の第1の部分と略同一平面上に設けられるとともに、該駆動部の第1の部分に対して略対称な位置に設けられている光学機器であって、
前記光学機器は、携帯型情報機器に含まれる被写体像を撮像する機能に係る撮像光学系、駆動機構系を含めた撮像系全体であり、
前記第1の部分は、前記光学保持部材の取付部に接着剤等により固着された磁気部である、光軸方向に着磁された永久磁石であって、
前記第2の部分は、通電されることで磁界を発生させるコイルであり、前記支持部材のコイル取付部に接着剤等により固着されており、
前記光学部材はレンズであり、
前記支持部材には前記光学保持部材を移動規制する3つのV溝部が形成されていて、前記支持部材の各V溝部と前記光学保持部材のV溝部と平らな面の溝との間にボールがそれぞれ挾持されており、
前記ボールの転がりによって前記光学保持部材がレンズ光軸方向に移動するものであって、
前記光学保持部材の位置を検知する位置センサが設けられており、前記位置センサは、前記光学保持部材の位置を磁気的な手段で検出するものであって、一方が前記光学保持部材の保持部に保持された永久磁石であり、他方が前記支持部材の保持部に保持されたホール素子の組み合わせからなるものであり、
高透磁率の物性を持った軟鉄等で出来た磁路形成部材としてのヨークが前記支持部材に対して位置決めされ、前記永久磁石との間で磁気回路を形成しており、
前記永久磁石、前記コイル、前記ヨークによってアクチュエータが構成され、
前記永久磁石と前記ヨークの間の磁路中に存在する前記コイルに電流を流すと、磁力と電流の相互作用により発生する駆動力によって前記光学保持部材は光軸方向に移動し、電流の方向を変化させることによって移動する方向が変化するものであって、
前記支持部、前記駆動部及び前記光学保持部材が、筐体によって取り囲まれている
光学機器。」

(2)引用例2
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2006-138954号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の記載がある。
「さらに、光軸L方向に配列された複数のコイル41、42のうち、第1のコイル41には、図2(c)に示すように、励磁用直流電圧信号に位置検出用交流信号が重畳された第1の駆動信号を印加し、第2のコイル42には、図2(b)に示すように、励磁用直流信号からなる第2の駆動信号を印加するので、位置検出用交流信号によって第2のコイル42に励起される交流成分を検出すれば、移動レンズ体2の光軸L方向の位置を検出することができる。それ故、動作毎に移動レンズ体2を原点位置に戻す必要がないなど、移動レンズ体2の動きを簡素化できる。」(段落【0031】)

イ 上記アの記載によれば、引用例2には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「移動レンズ体の光軸方向の位置を検出すれば、動作毎に移動レンズ体を原点位置に戻す必要がないなど、移動レンズ体の動きを簡素化できること。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明1とを以下に対比する。
ア 引用発明1の「携帯型情報機器に含まれる被写体像を撮像する機能に係る撮像光学系、駆動機構系を含めた撮像系全体であ」る「光学機器」は、本願発明の「カメラモジュール」に相当する。

イ 引用発明1の「レンズであ」る「光学部材」は、本願発明の「外部イメージを集めるためのレンズ」に相当する。

ウ 引用発明1の「レンズであ」る「光学部材」を「保持する」「光学保持部材」は、本願発明の「レンズが内蔵されたレンズバレル」に相当するといえる。

エ 引用発明1の「筐体」は、「前記支持部、前記駆動部及び前記光学保持部材」を「取り囲」んでいるから、本願発明の「前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング」に相当する。

オ 引用発明1の「永久磁石」及び「コイル」は、それぞれ、本願発明の「マグネット」及び「コイル」に相当する。

カ 引用発明1では、「前記永久磁石、前記コイル、前記ヨークによってアクチュエータが構成され」ており、「前記永久磁石と前記ヨークの間の磁路中に存在する前記コイルに電流を流すと、磁力と電流の相互作用により発生する駆動力によって前記光学保持部材は光軸方向に移動し、電流の方向を変化させることによって移動する方向が変化するものであ」るから、引用発明1は、本願発明の「マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部」を備えているといえる。

キ 引用発明1の「転がりによって前記光学保持部材がレンズ光軸方向に移動する」「ボール」は、本願発明の「前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール」に相当する。

ク 引用発明1の「ボール」は、「前記支持部材の各V溝部と前記光学保持部材のV溝部と平らな面の溝との間に」「挟持されて」いるものであるところ、引用発明1では、「支持部材」は「固定」されており、また、「前記支持部、前記駆動部及び前記光学保持部材が、筐体によって取り囲まれている」ものである。そうすると、引用発明1の「ボール」(本願発明の「ガイドボール」に該当。)は、本願発明の「前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて」いるとの特定事項を満たしているといえる。

ケ 引用発明1の「前記光学保持部材の位置を検知する位置センサ」は、本願発明の「前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部」に相当する。

(2)上記(1)によれば、本願発明と引用発明1とは、
「外部イメージを集めるためのレンズが内蔵されたレンズバレル;
前記レンズバレルが収容される収容空間を備えたハウジング;
マグネットとコイルで構成され、マグネットとコイルから発生する電磁気力により前記レンズバレルを上方に駆動させる第1駆動力と前記レンズバレルを下方に駆動させる第2駆動力を提供する駆動部;
前記レンズバレルと前記ハウジングの間に備えられて前記レンズバレルの動きを案内するガイドボール;及び
前記レンズバレルの位置を検知する位置検出部;
を含む、
カメラモジュール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「前記レンズバレルが、前記ハウジングの収容空間の任意地点で、前記駆動部により上下方に駆動が始まる」ものであるのに対し、引用発明1はそうであるのか明らかでない点。

4 相違点の判断
(1)上記[相違点]について検討する。
ア レンズを保持する光学保持部材の動きを簡素化することは例示するまでもなく周知の課題にすぎないところ、上記2(2)イのとおり、引用例2には、移動レンズ体の光軸方向の位置を検出すれば、動作毎に移動レンズ体を原点位置に戻す必要がないなど、移動レンズ体の動きを簡素化できるとの技術的事項が記載されている。
そして、引用例2の上記技術的事項においては、動作毎に移動レンズ体を原点位置に戻さないのであるから、移動レンズ体の任意の地点において移動を開始できるものであると解される。
そうすると、引用発明1において、レンズを保持する光学保持部材の動きを簡素化するために、引用例2に記載された上記技術的事項を採用し、上記[相違点]の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本願発明の作用効果は、引用発明1及び引用例2に記載された上記技術的事項に基づき、当業者が予測し得たことである。

(2)上記(1)によれば、本願発明は、引用発明1及び引用例2に記載された上記技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-07 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-24 
出願番号 特願2010-166783(P2010-166783)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
P 1 8・ 55- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 卓司辻本 寛司  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 山村 浩
清水 康司
発明の名称 カメラモジュール  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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