• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  G09G
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G09G
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G09G
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  G09G
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G09G
管理番号 1310762
審判番号 無効2013-800140  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-29 
確定日 2015-09-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第5079759号発明「高ダイナミック・レンジ表示装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5079759号の請求項7ないし14に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5079759号の請求項1ないし6に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その14分の6を請求人の負担とし、14分の8を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許は、ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビアにより出願された2002年2月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年2月27日、米国)を国際出願日とする出願である特願2002-568092号の一部を、平成20年10月22日に新たな特許出願とした特願2008-272107号(平成21年6月12日付けの出願人名義変更届により、出願人が、ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビアからドルビー ラボラトリーズ ライセンシング コーポレイション(以下「被請求人」という。)に変更された。)の一部を、平成21年8月27日に新たな特許出願とした特願2009-196728号に係り、平成24年7月17日付けの手続補正によって補正された願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の内容について、特許第5079759号として平成24年9月7日に設定登録されたものである。
本件特許無効審判事件は、請求人 岡本 敏夫(以下「請求人」という。)が、「特許第5079759号の請求項1?14に係る発明についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」として、平成25年7月29日に請求したものであって、当該審判請求後の手続は以下のとおりである。
平成25年12月19日 審判事件答弁書
訂正請求書
平成26年 2月 7日 手続補正書(審判事件答弁書)
手続補正書(訂正請求書)
平成26年 3月19日 審判事件弁駁書
平成26年 6月17日 審理事項通知書
平成26年 9月11日 請求人 口頭審理陳述要領書
被請求人 口頭審理陳述要領書
平成26年 9月25日 第1回口頭審理
平成26年10月16日 上申書(被請求人)
平成26年10月30日 上申書(請求人)
平成26年12月 5日 審決の予告
なお、本件特許に対する本件特許無効審判事件とは別に請求された特許無効審判事件である無効2013-800192号において、被請求人により提出された平成26年3月24日付けの訂正請求(以下「別件訂正」という。)を認容するとした平成26年12月24日付けの審決が、平成27年2月7日に確定している。
第2 平成25年12月19日付けの訂正請求について
平成25年12月19日付けの訂正請求(以下「本件訂正」という。)の適否について、以下に検討する。
1.本件訂正の内容
本件訂正は、「特許第5079759号の明細書、特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求める。」とするものであって、その内容は以下のとおりである。なお、本件訂正により訂正されたのは、特許請求の範囲の請求項7?10からなる一群の請求項である。
(1)訂正事項a
【請求項7】について、本件訂正前の、
「表示装置であって、前記前記表示装置」を、
「表示装置であって、前記表示装置」と訂正する。
(2)訂正事項b
【請求項7】について、本件訂正前の、
「前記光のパターンを有する」を、
「前記光のパターンが有する」と訂正する。
2.本件訂正の訂正の目的、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)被請求人の主張
本件訂正について、被請求人は、
訂正事項aについて、「「前記前記」という「前記」が重複する誤記があり不明瞭であるので、「前記」を一つ削除した。」と、
訂正事項bについて、「請求項7の冒頭には「第1の大きさの画素を有する光のパターン」という記載があり、「光のパターン」が「画素」を有するという主体と客体の関係を規定している。したがって、動詞「有する」の主体が「光のパターン」であり、客体が「画素」であるという関係を請求項7で統一すべく、「前記光のパターンを有する前記画素」との記載を、「前記光のパターンが有する前記画素」に訂正した。」と、釈明し、
「以上のとおり訂正事項a及びbはいずれも明瞭でない記載の釈明を目的とし、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲を超えるものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。したがって特許法第134条の2第1項第3号に適合する。」としている。
(2)平成26年3月19日付けの審判事件弁駁書における請求人の主張
請求人は、平成26年3月19日付けの審判事件弁駁書(以下、単に「弁駁書」という。)において、
「請求項7?10からなる一群の請求項に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えており、さらに実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるから認められるべきでない(特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項)。」として、概ね、以下のとおり、主張している。(弁駁書「5.」「(1)-1」)
ア:明細書等の記載事項超過(特許法第126条第5項)について
「前記光のパターンが有する前記画素」という訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載されておらず、訂正請求書においても、上記の訂正事項の根拠が、明細書等のいずれの箇所に存在するのかが一切説明されていない。
イ:特許請求の範囲の拡張・変更(特許法第126条第6項)について
「前記光のパターンが有する前記画素」という訂正事項は、本件訂正前の「前記光のパターンを有する前記画素」という事項と、主体と客体が入れ替わっており、また、本件訂正前の事項は図7に示されたものであるから、本件訂正後の事項は本件訂正前の事項から変更されたものである。
(3)当審の判断
(ア)上記「第1」で記載したとおり、別件訂正を認容する審決が確定しているので、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲は、別件訂正後の特許請求の範囲であって、その内容は、以下のとおりである。
「【請求項1】
表示装置であって、
空間光変調器と、
拡散器と、
光学系であって、前記光学系により伝達される光が前記拡散器を通過して前記空間光変調器に達するように、空間的に変調された光を、前記空間光変調器と前記拡散器とに伝達するように構成された前記光学系と
を備え、前記空間的に変調された光は、0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数を有する、隣接する画素へ広がる複数の画素を含み、d_(2)は、画素間の中心から中心までの距離であり、前記光学系からの前記空間的に変調された光は、前記空間光変調器を通過するのに伴って更に変調される、表示装置。
【請求項2】
前記表示装置は、800:1よりも大きなコントラスト比を有する高ダイナミック・レンジ(HDR)表示装置を含む、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記空間光変調器は、前記光学系からの前記空間的に変調された光よりも高い分解能を備え、前記空間光変調器は、前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響を低減するように制御されるように構成される、請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
前記光学系により前記空間光変調器に伝達される光は、第1の分解能を有し、前記空間光変調器は、前記第1の分解能とは異なる第2の分解能を有し、前記表示装置は更に、前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響を低減するように、表示される所望の画像を含む画像信号に従って前記空間光変調器を制御するように構成されるコントローラを含む、請求項1に記載の表示装置。
【請求項5】
前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む、請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む、請求項1に記載の表示装置。
【請求項7】
表示装置であって、前記表示装置は、第1の大きさの画素を有する光のパターンを、前記第1の大きさよりも小さい第2の大きさの画素を有し、前記光のパターンを変調して所望の画像を生成するように構成される空間光変調器に射影するように構成された光学系と、前記所望の画像を含む画像信号に従って、前記光学系の光源と前記空間光変調器とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラとを備え、前記コントローラは、前記空間光変調器を制御するように構成される前記信号を調整して、前記光のパターンが有する前記画素と前記空間光変調器の画素との間の画素の大きさの差に起因する前記所望の画像における影響を低減する、表示装置。
【請求項8】
前記空間光変調器の面にほぼ平行な方向に前記光源から発せられる光は、前記空間光変調器の後方から、前記空間光変調器の前記面にほぼ垂直な方向に反射される、請求項7に記載の表示装置。
【請求項9】
前記光源は、前記空間光変調器の端部の後方かつ外側に配置される、請求項7に記載の表示装置。
【請求項10】
前記空間光変調器に射影された光の前記パターンの画素は、0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲の半値全幅の光分布関数を有し、d_(2)は、光の前記パターンの画素間の中心から中心までの距離である、請求項7に記載の表示装置。
【請求項11】
方法であって、第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階と、第2画素のアレイを含む空間光変調器を制御する段階とを備え、各第1画素は複数の第2画素に共通し、前記画像信号の一部を含む制御信号であって、各第1画素が複数の第2画素に共通することに起因する影響を、前記光学系及び前記空間光変調器を含む表示装置において低減させる前記制御信号を提供することにより、前記所望の画像を生成するように光の前記パターンを変調するように前記空間光変調器が制御される、方法。
【請求項12】
前記光学系は前記空間光変調器の面とは軸外の面にある光源を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記光学系は、光源を含み、前記方法は、前記空間光変調器の面にほぼ平行な方向の前記光源からの発光を、前記空間光変調器の後方から、前記空間光変調器の前記面にほぼ垂直な方向に反射する段階を更に備える、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記光学系は、光源と、前記光源と前記空間光変調器との間に配置された拡散器とを含み、0.3×d_(2)から3×d_(2)までの範囲の半値全幅を有する分布関数に従って前記第1画素のアレイからの光が混合され、d_(2)は前記第1画素間の中心から中心までの距離である、請求項11に記載の方法。」
(イ)訂正事項aについて
別件訂正後の特許請求の範囲の請求項7では、「前記前記」はすでに「前記」と訂正されているから、訂正事項aは「前記」を「前記」と訂正するものとなる。
すると、訂正事項aは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはいえず、さらに、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものともいえない。
したがって、訂正事項aは、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにもにも該当しない。
(ウ)訂正事項bについて
別件訂正後の特許請求の範囲の請求項7では、「前記光のパターンを有する」はすでに「前記光のパターンが有する」と訂正されているから、訂正事項bは「前記光のパターンが有する」を「前記光のパターンが有する」と訂正するものとなる。
すると、訂正事項bは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはいえず、さらに、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものともいえない。
したがって、訂正事項bは、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにもにも該当しない。
3.本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、訂正事項a及びbは、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当しないから、本件訂正は認められない。
第3 別件訂正特許発明
別件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ、「別件訂正特許発明1」?「別件訂正特許発明14」という。)は、別件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項(上記「第2」「2.」「(3)」「(ア)」参照)により特定されるとおりのものである。
第4 請求人の主張する無効理由
1.審判請求書での請求人の主張
請求人は、審判請求書において、本件特許について、別件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明14」という。)は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項(以下、単に「特許法第36条第4項」という。)、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであるというものであって、概略、以下のとおり主張している。
(一)本件特許発明1について
(一の1)
本件特許発明1は、「空間的に変調された光」という表現、及び別件訂正前の本件特許の明細書及び図面(以下「本件特許明細書」という。)に記載の課題を解決するための手段より、「空間光変調器」以外の「他の空間光変調器(第1の光変調器)」が必須となるにもかかわらず、本件特許発明1の構成要件にされていないという点で明確と云えず、一方、その構成要件にされていない「他の空間光変調器」の画素の寸法関係を、「d_(2)は、画素間の中心から中心までの距離である」によって規定するという点においても明確と云えず、以上の二点において明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
また、本件特許発明1は、上述したように「他の空間光変調器」を構成要件にしていないことから、本件特許明細書に記載した発明と実質的に対応していないので、サポート要件に違反する(特許法第36条第6項第1号)。
さらに、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載の発明と実質的に対応しないことにより、本件特許明細書に基づき本件特許発明1を当業者が実施できないので、実施可能要件にも違反する(特許法第36条第4項)。
(一の2)
本件特許明細書は段落[0018]で「本実施形態においては、光源12からの光は、第1の光変調器16へと指向される。光源12は好ましくは、第1の光変調器16に実質的に均一な照明を供給する。光変調器16は個々にアドレス可能な素子のアレイを備えている。光変調器16は、例えば、透過型光変調器の一種であるLCD(液晶表示装置)、または、反射型光変調器の一種であるDMD(可変ミラー装置)を備えていてもよい。・・・」というように、「光源12」からの光を「第1の光変調器16」へ指向させることを説明しており、その「第1の光変調器16」の具体例としては、「LCD(液晶表示装置)」又は「DMD(可変ミラー装置)」を挙げるに留まるのに対して、本件特許発明1は、本件特許明細書で記載されていない自発光式のELパネル、LEDパネル、プラズマパネル、CRT等を用いる場合も、その技術的範囲に含むものとなっており、「空間的に変調された光」を、どのようになし得るのか規定していないという点において、本件特許明細書の記載より広い技術的範囲を有し、この本件特許明細書の記載より広い技術的範囲に対して、本件特許発明1は、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(一の3)
本件特許発明1は、「前記空間的に変調された光は、0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数を有する、隣接する画素へ広がる複数の画素を含み」と規定されるが、「0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数」において、下限の「半値全幅が0.3×d_(2)」となる場合、及び上限の「半値全幅が0.3×d_(2)」となる場合を、どのように実施すればよいか、本件特許明細書の記載から不明であるので、実施可能要件を満たしておらず(特許法第36条第4項)、また、本件特許明細書には、「0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数」の上下限について実施できる程度の記載が無いことから、構成要件1Eの中の「0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数」は、その範囲の上下限について本件特許明細書でサポートされていないので、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載されていないことになり、サポート要件も満たしていない(特許法第36条第6項第1号)。
(二)本件特許発明2について
本件特許発明2は、「800:1よりも大きなコントラスト比を有する高ダイナミック・レンジ(HDR)表示装置」と規定されるが、本件特許明細書の段落[0040]には、最大輝度値と最小輝度値との比は「10000:1」が記載されているが、「800:1」という下限値を示す例に該当しないし、他に、光変調器の輝度を、どのように設定して800:1というコントラスト比を有する表示装置を実現するかに関して、本件特許明細書は一切説明していないので、本件特許明細書は実施可能要件を満たしておらず(特許法第36条第4項)、また、本件特許明細書には、下限となる800:1のコントラスト比を有する表示装置について実施できる程度の記載が無いことから、「前記表示装置は、800:1よりも大きなコントラスト比を有する」ということが、少なくとも下限値についてサポートされていないことになり、本件特許発明2は、本件特許明細書に記載されていないことになり、サポート要件を満たしていない(特許法第36条第6項第1号)。
(三)本件特許発明3について
(三の1)
本件特許発明3は、「前記空間光変調器は、前記光学系からの前記空間的に変調された光よりも高い分解能を備え」と規定されており、「分解能」という用語が、「空間光変調器」と「空間的に変調された光」の両方に使用されているところ、甲第4号証、甲第5号証に示されるように、「分解能」は器械や装置に使用される用語であることから、本件特許発明3は明確性要件に違反し(特許法第36条第6項第2号)、また、本件特許明細書に当業者が実施できる程度に記載されていないことになるから、実施可能要件に違反し(特許法第36条第4項)、さらに実施可能に記載されていないことは本件特許明細書でサポートされていないことにもなるので、サポート要件にも違反する(特許法第36条第6項第1号)。
(三の2)
本件特許発明3は、「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響」と規定されているが、本件特許明細書の段落【0014】、【0036】、【0043】の「影響」は、「低分解能空間光変調器(第1の光変調器16)」の画素と「高分解能空間光変調器(第2の光変調器)」の画素との関係による影響であるから、本件特許発明3の「前記光学系からの光の各画素」と「前記空間光変調器の複数の画素」との関係による影響とは異なるものであって、本件特許発明3の「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響」が不明であるから、本件特許発明3は、「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響」について、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
(三の3)
上記(三の2)のように、「影響」は明確でないので、その影響を低減するように「制御」されることにおいても、制御の対象となる「影響」が明確でないことからも、本件特許発明3は、「前記空間光変調器は、・・・、表示される画像に生じる影響を低減するように制御されるように構成される」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(四)本件特許発明4について
(四の1)
上記(三の1)と同様、本件特許発明4は、「前記光学系により前記空間光変調器に伝達される光は、第1の分解能を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(四の2)
上記(四の1)のように、「第1の分解能」が不明であるから、本件特許発明4は、「前記空間光変調器は、前記第1の分解能とは異なる第2の分解能を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(四の3)
「影響」については上記(三の2)のようであり、「第1の分解能」については上記(四の1)のようであるから、本件特許発明4は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響」について、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
(四の4)
「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響」については上記(四の3)のようであり、「制御」については上記(三の3)のようであるから、本件特許発明4は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響を低減するように、表示される所望の画像を含む画像信号に従って前記空間光変調器を制御するように構成されるコントローラを含む」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(五)本件特許発明5について
(五の1)
本件特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・片側」と規定されるが、「空間光変調器」の「片側」とは一体、「空間光変調器」のどちらの側を指すのか不明であり、本件特許明細書でも、「空間光変調器の片側」が、「空間光変調器」のどちらの側を指すかについて、一切説明されていないから、本件特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・片側」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件に違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(五の2)
本件特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・軸」と規定されるが、「空間光変調器」の「軸」とは一体、「空間光変調器」において、どの軸を指すのか不明であり、本件特許明細書でも、「空間光変調器の軸」が、「空間光変調器」におけるどの軸を指すかについて、一切説明されていないから、本件特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・軸」ついて、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件に違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(六)本件特許発明6について
本件特許発明6は、「前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む」と規定されるが、本件特許発明6は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1は、「前記空間的に変調された光は、0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数を有する、隣接する画素へ広がる複数の画素を含み」と規定されているところ、この「光分布関数」と、「平行な面の光」とが両立しないし、また、本件特許明細書には「光源」として面光源が記載されていないことからも、本件特許発明6は、「前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む」について、明確性要件、実施可能要件及びサポート要件を満たさない(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(七)本件特許発明7について
(七の1)
本件特許発明7は、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」と規定されるが、まず、「光のパターン」とは、どのようなものであるのかが明確でないし、本件特許明細書にも、「光のパターン」について一切記載がないので、本件特許明細書を参照しても、「光のパターン」は明確とならない。また、「光のパターン」が明確でないことから、その「光のパターン」が「第1の大きさの画素を有する」ということも明確でない。さらに、本件特許発明1では「空間的に変調された光」というように、「光」は空間的に変調されたものに限定されるが、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」というように、「光のパターン」が空間的に変調されたものに限定していないので、当然、変調されていないものも含むことになるから、変調されていない「光のパターン」が「画素」を有するという点においても明確でない。
したがって、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」は明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
また、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」という表現では、「光のパターン」が「単数」の画素を有する場合と、「複数」の画素を有する場合の両方を含む表現になっており、一方、本件特許発明1では「空間的に変調された光が、・・・複数の画素を含み」というように、「複数」の場合に限定されており、「単数」の画素を有する光のパターンの場合について、本件特許明細書には、当業者が実施できる程度の記載がないから、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」について、本件特許発明7は実施可能要件に違反する(特許法第36条第4項)。
最後に、サポート要件について、「第1の大きさの画素を有する光のパターン(特に、変調されていない光のパターン)」は、本件特許明細書でサポートされておらず、また、上述したように、「単数」の画素を有する光のパターンの場合も本件特許明細書でサポートされていないので、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」は、サポート要件に違反する(特許法第36条第6項第1号)。
(七の2)
本件特許発明7は、「前記第1の大きさよりも小さい第2の大きさの画素を有し」と規定されるが、「第1の大きさを有する光のパターン」については上記(七の1)のようであるから、「第1の大きさ」についても同様であり、また、「第2の大きさ」についても同様であるから、本件特許発明7は、「前記第1の大きさよりも小さい第2の大きさの画素を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(七の3)
本件特許発明7は、「第1の大きさの画素を有する光のパターンを、・・・空間光変調器に射影する」と規定されるが、本件特許明細書では、空間光変調器(第2の光変調器)へ射影される「光」としては、変調された光についてのみ説明されており、一方、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」という表現では、変調されたものに限定されていないので、当然、変調されていない「光のパターン」が空間光変調器へ射影されることも含む内容になっているから、「第1の大きさの画素を有する光のパターンを、・・・空間光変調器に射影する」は、本件特許明細書に記載されていない内容も含むので、この点において、本件特許発明7は実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(七の4)
本件特許発明7は、「前記光学系の光源と前記空間光変調器とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」と規定されるが、本件特許明細書に、『「光学系の光源」と、「空間光変調器」とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ』に関する記載は存在しないし、本件特許明細書に記載されているのは、『「第1の光変調器」と、「第2の光変調器」とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ』であり、「光学系の光源」を制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラについての記載は無い。
また、甲第2号証、甲第3号証に示されるように、「光源」は「光を発するみなもと」であること、「第1の光変調器16」は別に「光源12」を要することから、「第1の光変調器」が「光学系の光源」に該当することはないので、「第1の光変調器」をコントローラが制御することをもって、「光学系の光源」をコントローラが制御することにはならない。
したがって、「第1の光変調器」が「光源」になることはないので、本件特許明細書には、「光学系の光源」を制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラは、当業者が実施できる程度に記載されておらず、「前記光学系の光源と前記空間光変調器とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」について、実施可能要件が満たされない(特許法第36条第4項)。
さらに、「前記光学系の光源と前記空間光変調器とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」は、本件特許明細書に記載されていないことになるので、サポート要件にも違反する(特許法第36条第6項第1号)。
(七の5)
「コントローラ」については上記(七の4)のようであるから、本件特許発明7は、「前記コントローラは、前記空間光変調器を制御するように構成される前記信号を調整して」について、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(七の6)
本件特許発明7は、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」と規定されており、一方、「前記光のパターンを有する前記画素」と規定されているが、「第1の大きさの画素を有する光のパターン」と、「前記光のパターンを有する前記画素」では、「主体」となるものと、その「主体」が有する「対象」との関係が逆になっていて、両者間で内容に整合性が取れていないので、少なくとも「前記光のパターンを有する前記画素」は、その内容が明確でない(特許法第36条第6項第2号)。
(七の7)
「前記光のパターンを有する前記画素」については上記(七の6)のようであり、「影響」については上記(三の2)及び(四の3)のようであるから、本件特許発明7は、「前記光のパターンを有する前記画素と前記空間光変調器の画素との間の画素の大きさの差に起因する前記所望の画像における影響」について、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
(七の8)
「影響」については上記(七の7)のようであるから、本件特許発明7は、「(前記光のパターンを有する前記画素と前記空間光変調器の画素との間の画素の大きさの差に起因する前記所望の画像における)影響を低減」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(八)本件特許発明8について
(八の1)
本件特許発明8は、「前記空間光変調器の面にほぼ平行な方向」と規定されるが、「ほぼ平行な方向」は、「ほぼ」という表現を含むので、方向の程度が不明確な表現であり、請求項6に係る「前記空間光変調器の面に平行」という表現に比べても明らかに方向の程度が不明であるから、本件特許発明8は、「前記空間光変調器の面にほぼ平行な方向」について、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
また、「ほぼ平行な方向」とは、どの程度の方向であるかについて、本件特許明細書に当業者が実施できる程度の記載が無いから、本件特許発明8は、「前記空間光変調器の面にほぼ平行な方向」について、実施可能要件に違反すると共に、「ほぼ平行な方向」は本件特許明細書にもサポートされていないことからサポート要件にも違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(八の2)
本件特許発明8は、「前記空間光変調器の後方」と規定されるが、「前記空間光変調器の後方」については、何を基準にした「後方」であるのかが不明確であって、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(八の3)
本件特許発明8は、「ほぼ垂直な方向」は、「ほぼ」という表現を含むことで、上記(八の1)と同様の理由により、また、図1A、図4の記載からみても、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(九)本件特許発明9について
(九の1)
本件特許発明9は、「前記空間光変調器の端部」と規定されるが、「前記空間光変調器の端部」とは、一体、どの箇所を指すのか明確でないから、本件特許発明9は、「前記空間光変調器の端部」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(九の2)
本件特許発明9は、「前記空間光変調器の端部の後方」と規定されるが、「前記空間光変調器の端部」について上記(九の1)のようであるから、その「後方」も不明確であり、また、「後方」自体も、上記(八の2)のようであるから、何を基準にして「後方」であるのか不明確である。
したがって、本件特許発明9は、「前記空間光変調器の端部の後方」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(九の3)
本件特許発明9は、「前記空間光変調器の端部の後方かつ外側」と規定されるが、「前記空間光変調器の端部の後方」について上記(九の2)のようであるから、「かつ外側」も不明確であり、また、「外側」自体も、何を基準にして「外側」であるのか不明確である。
したがって、本件特許発明9は、「前記空間光変調器の端部の後方かつ外側」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十)本件特許発明10について
(十の1)
本件特許発明10は、「前記空間光変調器に射影された光の前記パターンの画素」と規定されるが、「(前記空間光変調器に射影された)光の前記パターンの画素」とは、「光の前記パターン」が有する「画素」という意味であるから、本件特許発明10が引用する本件特許発明7の「前記光のパターンを有する前記画素」に対して、「主体」となるものと、その「主体」が有する「対象」との関係が逆になっている。
したがって、本件特許発明10は、「前記空間光変調器に射影された光の前記パターンの画素」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十の2)
本件特許発明10は、「0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲の半値全幅の光分布関数」について、上記(一の3)と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十の3)
本件特許発明10は、「d_(2)は、光の前記パターンの画素間の中心から中心までの距離である」と規定されるが、本件特許明細書には、「光のパターン」が「画素」を有する旨の記載は存在しないから、「d_(2)」が、「光の前記パターンの画素間の中心から中心までの距離である」という旨も当然、存在しないから、本件特許発明10は、「d_(2)は、光の前記パターンの画素間の中心から中心までの距離である」について、本件特許明細書に当業者が実施できる程度の記載は存在しないので、本件特許発明10は、実施可能要件に違反すると共に、それに伴いサポート要件にも違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十一)本件特許発明11について
(十一の1)
本件特許発明11は、「第1画素のアレイを含む光のパターン」と規定されるが、まず、「第1画素のアレイを含む光のパターン」について上記(七の1)と同様に、「光のパターン」というものが、どのようなものであるか明確でないから、その「光のパターン」が「第1画素のアレイを含む」ということも明確でない。
また、本件特許発明1の「空間的に変調された光」というように、「光」は空間的に変調されたものに限定されるが、本件特許発明11では、「第1画素のアレイを含む光のパターン」というように、「光のパターン」が空間的に変調されたものに限定していないので、当然、変調されていないものも含むことになるから、変調されていない「光のパターン」が「第1画素のアレイ」を含むという点において明確でない。
さらに、「第1画素のアレイを含む光のパターン」の中の「第1画素のアレイ」は、光変調器が有する「画素のアレイ」を意味するものであるから、光変調器という機器が有する「画素のアレイ」を、何故、「光のパターン」が、含み得るのか不明である。
さらにまた、「第1画素のアレイを含む光のパターン」は、本件特許明細書の記載を参照しても、不明確である。
したがって、本件特許発明11は、「第1画素のアレイを含む光のパターン」が明確でないので、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
また、「第1画素のアレイを含む光のパターン」に関する記載は、本件特許明細書に存在しないので、「第1画素のアレイを含む光のパターン」については、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十一の2)
本件特許発明11は、「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」と規定されるが、本件特許明細書では、段落[0016]等に記載されているように、「第1の光変調器(例えば、光変調器16)が制御されること」が説明されているだけであって、「光学系を制御」と表現すれば、「第1の光変調器(例えば、光変調器16)」以外のものを制御することも含まれることになるので、このように本件特許明細書で記載されている以外のものを制御するという内容に対して、「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」は、本件特許明細書の記載に対して広すぎる内容を含むので、その広すぎる内容について、本件特許発明11は実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十一の3)
本件特許発明11は、「各第1画素は複数の第2画素に共通し」と規定されるが、「第1画素」に係る「第1画素のアレイを含む光のパターン」について、上記(十一の1)のようであるから、本件特許発明11は、「各第1画素は複数の第2画素に共通し」について、明確性要件、実施可能要件及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十一の4)
本件特許発明11は、「前記画像信号の一部を含む制御信号」について、本件特許明細書の段落【0045】の記載を参酌しても、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十一の5)
「各第1画素は複数の第2画素に共通する」について、上記(十一の3)のようであり、「影響」について、上記(三の2)、(四の3)のようであるから、本件特許発明11は、「各第1画素は複数の第2画素に共通することに起因する影響」について、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
(十一の6)
「影響」について、上記(十一の5)のようであるから、本件特許発明11は、「(各第1画素が複数の第2画素に共通することに起因する)影響を、前記光学系及び前記空間光変調器を含む表示装置において低減させる前記制御信号を提供する」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十一の7)
本件特許発明11は、「前記所望の画像を生成するように光の前記パターンを変調するように前記空間光変調器が制御される」と規定されるが、空間光変調器(第2の光変調器)へ伝達されるのは、本件特許明細書では、変調された光についてのみ説明されているが、本件特許発明11では、「光の前記パターン」については変調されているものに限定されていないので、当然、「変調されていない光の前記パターン」が空間光変調器へ伝達されて変調されることも含む内容になっている。
したがって、「光の前記パターンを変調するように前記空間光変調器が制御」は、本件特許明細書に記載されていない内容も含むので、この点において、本件特許発明11は実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十二)本件特許発明12について
(十二の1)
「軸」について、上記(五の2)のようであるから、本件特許発明12は、「前記光学系は前記空間光変調器の面とは軸外の面にある光源を含む」の「軸」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十二の2)
「軸」について、上記(十二の1)のようであるから、本件特許発明12は、「前記光学系は前記空間光変調器の面とは軸外の面にある光源を含む」の「軸外」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十二の3)
「軸外」について、上記(十二の2)のようであるから、本件特許発明12は、「前記光学系は前記空間光変調器の面とは軸外の面にある光源を含む」の「軸外の面」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十三)本件特許発明13について
(十三の1)
本件特許発明13は、「前記空間光変調器の面にほぼ平行な方向」について、上記(八の1)と同様の理由により、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十三の2)
本件特許発明13は、「前記空間光変調器の後方」について、上記(八の2)と同様の理由により、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十三の3)
本件特許発明13は、「ほぼ垂直な方向」について、上記(八の3)で説明した理由と同様の理由により、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反する(特許法第36条第6項第2号、同条第4項、同条第6項第1号)。
(十四)本件特許発明14について
(十四の1)
本件特許発明14は、「前記光学系は、光源と、前記光源と前記空間光変調器との間に配置された拡散器とを含み」と規定されるが、「前記光学系は、・・・拡散器を含み」という内容は、本件特許明細書に記載されていない。
「拡散器」について、本件特許明細書は段落[0021]、[0053]、及び図1に記載されるように、「拡散器(拡散器22)」は、光学系17からの光が照射される対象となる「スクリーン23」に含まれるものとして説明されており、「拡散器(拡散器22)」が光学系に含まれるという内容は、本件特許明細書に一切説明されていない。
したがって、本件特許発明14は、「前記光学系は、光源と、前記光源と前記空間光変調器との間に配置された拡散器とを含み」について、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十四の2)
本件特許発明14は、「0.3×d_(2)から3×d_(2)までの範囲の半値全幅を有する分布関数」について、上記(一の3)と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
(十四の3)
本件特許発明14は、「前記第1画素のアレイからの光」と規定されるが、本件特許発明14の引用先となる本件特許発明11では、「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」と記載されているように、「第1画素のアレイ」は、「光のパターン」に含まれるものとなっている、一方、本件特許発明14では、「前記第1画素のアレイからの光」というように、「第1画素のアレイ」から「光」が出るようになっているので、本件特許発明11と、本件特許発明14との間で、「第1画素のアレイ」について整合性が取れていないため、「第1画素のアレイ」は不明確であり、この点に対して、本件特許発明14は、明確性要件に違反する(特許法第36条第6項第2号)。
(十四の4)
本件特許発明14は、「前記第1画素のアレイからの光が混合され」と規定されるが、本件特許明細書には、光が混合されることについて一切説明されていないので、「光の混合」が、表示装置における「どこで」、「どのようにして」行われるのか一切不明であり、仮に、「拡散器」で「光の混合」が行われるとしても、そのようなことは本件特許明細書に記されていないから、このような点において、本件特許発明14は、実施可能要件及びサポート要件に違反する(特許法第36条第4項、同条第6項第1号)。
2.弁駁書での請求人の主張
(1)請求人は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項7?10に係る発明(以下、それぞれ、「訂正特許発明7」?「訂正特許発明10」という。また、「訂正特許発明7」?「訂正特許発明10」は、それぞれ、「別件訂正特許発明7」?「別件訂正特許発明10」と同じである。)について、以下のとおり、主張している。
「前記光のパターンが有する前記画素」という事項は、発明の詳細な説明に記載されていないから、訂正特許発明7は、サポート要件違反であると共に(特許法第36条第6項第1号)、実施可能要件も満たしていない(特許法第36条第4項)。
また、訂正特許発明7を引用する訂正特許発明8?10も、同様である。
(2)平成25年12月19日付けの審判事件答弁書(以下、単に「答弁書」という。)に対する請求人の反論
(2-1)答弁書第3頁第8?12行の記載に対して
被請求人は、この段落[0051]の一文を、請求項1等が「空間光変調器が1つだけであるものを含む」ことに対するサポートであると主張するが、誤りである。
発明の詳細な説明には、複数の空間光変調器を用いた発明だけが説明されており、段落[0051]の中の「必要なことは、プロジェクタ37が、スクリーン34上に画像を結像するために、空間的に変調された光を投影することができることだけである。」という一文は、「空間光変調器が1つだけであるものを含む」ことをサポートしない。
(2-2)答弁書第4頁第2行の記載に対して
「請求項に記載の光学系(バックライト)」という記載があるが、発明の詳細な説明における「光学系」とは、レンズ、ミラー、光学素子を意味し、バックライトといった光を発するものを意味しないことから、上記「光学系(バックライト)」という記載は誤りである。
(2-3)答弁書第4頁第7?11行の記載に対して
LEDパネル等の自発光式の光変調器は、「空間的に変調された光」を放さず、単に「変調した光」を放つだけであるから、本件特許発明1に含まれない。
請求項1は「空間的に変調された光」を規定することから、「空間的に変調された光」を放つことができないLEDパネルのような自発光式の光変調器は、本件特許発明1に含まれない。
(2-4)答弁書第5頁の「d」欄の中の下から3行目以降の記載に対して
課題解決手段として空間的に変調されていない光を空間的に変調された光に変更することを必須としていないということを被請求人は主張するが、段落[0009]及び[0010]には、「光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器」という記載があり、空間的に変調されていない光(光源からの光)を、第1の空間光変調器によって空間的に変調された光に変調することを必須とするのは明らかなので、この主張も誤りである。
(2-5)答弁書第5頁以降の「e」欄の中の記載に対して
LED等の自発光式の光変調器は、上記(2-3)」のように、「空間的に変調された光」を放さないので、「空間的に変調された光」を第2の空間光変調器に伝達する構成の本件特許発明に、そもそも適用できない。また、当然ながら、発明の詳細な説明にも、このようなLED等の自発光式の光変調器を適用できる旨の記載は存在しない。
乙第2?4、33号証の記載の自発光式の光変調器を無理矢理、本件特許発明への適用を試みたとしても、両者間で装置構成、装置の種類等が相違するから、乙第2?4、33号証の記載の自発光式の光変調器を、そのまま本件特許発明の第1の空間光変調器と交換できない。
乙第2号証は、ELパネル20及び液晶パネル30を直接的に積層した構成の表示装置を示し、このような積層構成において、ELパネル20の均等物としてPDPが扱われるにすぎない。
乙第3号証は、光処理システム400を示し、ダンマン格子408、マスクアレイ410、及びレンズレットアレイ412を通過した光を検出器414で検出する構成であり、このような表示装置とは無関係の構成において、LEDアレイと、空間光変調器とを均等に扱っているにすぎない。
乙第4号証が開示するのは単に「眼の調整の位置決めおよび緩和のための装置ならびに方法」であり、表示装置とは無関係の装置における光源としてLEDS、LCDピクセル、蛍光発光源が例示されるにすぎない。
乙第33号証は電子ディスプレイで適用できる例として「白熱、ブラウン管、液晶、蛍光、エレクトロクロミック、電気流体、発光ダイオード」を単に示すだけであり、このような例を、第1の空間光変調器で空間的に変調された光を光学系により、拡散器を通過させて第2の空間光変調器へ伝達させる構成の表示装置の中で、第1の空間光変調器へ直ちに適用できるわけはない。
したがって、「LED、LCD、CRT、およびプラズマパネルは、本件特許発明の出願時において当業者にとって交換可能である。」という被請求人の主張は、誤りである。
(2-6)答弁書第10頁以降の「g」欄の記載に対して
鑑定事項1は特許法に基づいた鑑定になっておらず、考慮に値しない。
(2-7)答弁書第11頁以降の「h」欄の記載に対して
乙第7?9号証の記載等が示されるが、「画素」という用語の意味が、投影画像で得られるものになっているのは、乙第7?9号証の場合であり、これら乙第7?9号証の場合における「画素」の意味が、本件特許に適用される謂われはない。
(2-8)答弁書第13頁の「j」欄の記載に対して
「以下の乙号証は、光のパターンが画素を有することを示す。」等の記載と共に、乙第7、8号証の記載が紹介され、また、答弁書第13頁以降の「k」?「m」欄にも同様のことが色々と記載され、乙10号証等の記載が紹介されているが、上述した「(2-7)」で説明したように、これらの記載内容及び各乙号証の記載内容等が、本件特許に適用される謂われはない。
(2-9)答弁書第16頁以降の「n」欄の記載に対して
「以下の乙号証はLCDパネルが、光源のアレイであることを示す。」との記載と共に、乙第13?17号証の記載が紹介されるが、乙第13?15号証はカメラに関する内容であり、表示装置である本件特許発明と構成が相違し、乙第16号証は「マイクロ偏光型の複数ビューアーの自動裸眼立体ディスプレイ」に関する内容であり、本件特許発明に係る表示装置と全く構成が相違し、乙第17号証はレーザプリンタに関する記載であることから、これら乙第13?17号証は、本件特許発明に何ら関係なく、これらの各乙号証で紹介された内容が、本件特許に適用される謂われはない。
(2-10)答弁書第17頁以降の「o」欄の記載に対して
「以下の乙号証はLCDパネルが、たとえば光源のアレイに置換できることを示す。」との記載と共に、乙第14?19号証の記載が紹介されるが、そもそも各乙号証には、置換できることは明確に記載されておらず、仮に置換できたとしても、そのことは各乙号証に示された場合であり、本件特許発明には何ら関係のないことである。
(2-11)答弁書第18?28頁の「(一の3)について」の欄の記載に対して
ア:答弁書第19?21頁で挙げられた乙第20?24号証等は、いずれもLED等の自発光式の光変調器であり、上記の「(2-3)」で説明したように、自発光式の光変調器は、空間的に変調された光を放つことができないので、空間的に変調された光に関する構成と無関係である。
イ:答弁書第20頁第1?5行での被請求人の主張について、請求項1等において、これらレンズ、拡散器、コリメータ、または市販の光学部品などは、発明特定事項として規定されておらず、被請求人の主張は請求項1等の記載に基づいたものでなく、妥当でない。
ウ:答弁書第24頁で示された「乙参考図1」は、乙第20?24号証等がLED等の自発光式の光変調器に基づいたものであるから、空間的に変調された光に関する構成と無関係であり、また、上記「イ」で説明したように、レンズ、拡散器、コリメータ、または市販の光学部品などは発明特定事項ではないので、そもそも本件特許発明に用いることもできず、「乙参考図1」のような分布関数が、請求項1及び発明の詳細な説明等の記載に基づき、どのようにして得られるのかは依然として不明である。
エ:答弁書第25頁で「乙参考図2」を示して主張する事項について、空間的に変調された光を放つことができないLEDは、空間的に変調された光の分布関数等を規定する構成と無関係であり、乙第23号証のレンズLEDクラスタ(3LED×340mcd/45°)も本件特許発明に適用できない。
(2-12)本件特許発明2について
答弁書第28頁の「(二)本件特許発明2について」の記載では、どのようにして「800:1よりおおきなコントラスト比」を実現するのか、依然として不明である。
(2-13)本件特許発明3について
ア.(三の1)について
本件特許発明では、画素に関して変調された光を説明することと、変調器の画素を説明することとは区別される必要があり、答弁書第28頁以降の「a」欄の記載内容、及び乙第25?27号証の記載内容は本件特許発明に当てはまらない。
イ.(三の2)について
答弁書第32?34頁の記載は、発明の詳細な説明に基づくものではないか、誤りである。
ウ.(三の3)について
答弁書第35頁第5段落の記載は、明細書の記載に基づくものではなく、同第36頁の「b欄」の記載における「技術常識」はどのような技術常識であるかを説明しておらず、答弁書第36頁以降の「d」欄で、被請求人は乙第33?35号証に示される事項を色々と挙げているが、今まで述べてきたように、本件特許発明には、LEDのような自発光式の光変調器は適用されず、また、乙第33?35号証に示される事項を、本件特許発明にそのまま適用できるわけでもない。
(2-14)本件特許発明5について
答弁書第42?43頁、乙第28?30号証の記載を参照しても、「片側」、「軸」及び「軸外」は不明確である。
(2-15)本件特許発明6について
答弁書第44頁の記載を参照しても、「平行な面の光」は不明確である。また、乙第31?32号証の記載を参酌しなければならない理由はない。
(2-16)本件特許発明7について
答弁書第46頁の「(七の4)および(七の5)」の二段落目で、被請求人は、『本件特許明細書の段落0026では、本件特許発明7の「光学系」の例である「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37」が、「透過投影スクリーン23の後側の制御装置39からの信号38Aによって形成される画像を投影するように設けられた」と説明されている。したがって、本件特許発明は、制御されている光学系の特徴をサポートしている。』と主張するが、請求項7の制御の対象の一つは、光学系ではなく、「光源」である。
そして、段落0026の記載、図4の記載によっても、制御装置39からの信号38Aが「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37」に入力されることを示すだけであり、「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37」の光源を制御することまでは説明されていない。
なお、上記の二段落目の記載の中で『本件特許発明7の「光学系」の例である「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37」』という記載は誤りであり、発明の詳細な説明において「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37」は、光源12、第1の空間光変調器16、及び光学系17を含む装置を意味する。
(2-17)
被請求人は、答弁書第47頁の「(八の1)について」、「(八の2)について」及び「(八の3)について」で色々と主張するが、そのような事項は、明細書には一切記載されていない。
(2-18)
答弁書第49頁の「(十一の2)について」の中で、被請求人は、『第1の光変調器は、光学系の一部であってもよい。・・・プロジェクタは光学系であることが知られている。』と主張するが、このような被請求人の主張は、明細書に記載されていない。
既に上述したように、「光学系」とは、明細書の段落[0019]の記載より、レンズ、ミラー、その他の光学素子であり、本件特許発明で、光学系17の一部が第1の光変調器に該当することはあり得ない。
また、「プロジェクタ」も上述したように、光源12、第1の空間光変調器16、及び光学系17を含む装置を意味するものであり、「プロジェクタ」を「光学系」と同一視することはできない。
(2-19)
答弁書第54頁以降の「(十四の1)について」の中で、被請求人は、『すなわち「拡散器」を含む光学系は、本件特許明細書に記載されている。(答弁書第55頁第4?5行)』と述べるが、具体的に本件特許明細書のいずれの箇所に記載されているのかを指摘できていない。
3.平成26年9月11日付けの口頭審理陳述要領書での請求人の主張
請求人は、平成26年6月17日付けの審理事項通知書(以下、単に「審理事項通知書」という。)で通知した審理事項について、以下のように、主張している。
(1)審理事項通知書の「請求人に対して」の(1)について
本件特許発明1が「空間光変調器が1つだけであるものを含む」と主張する理由は、本件特許の請求項1の「記載ぶり」によるものである。
被請求人は答弁書第3頁1?2行目で「請求項1は、一つの空間光変調器のみを有する表示装置を記載しているものではないことにご留意願いたい。」という意図を述べている。

この被請求人の意図が、請求項1の「記載ぶり」では正確に表現されていないため、請求項1の「記載ぶり」に従って本件特許発明1を認定すると、本件特許発明1は、その技術的範囲に、被請求人の意図を超えて「空間光変調器が1つだけであるもの」を含むようになっている。
(2)審理事項通知書の「請求人に対して」の(2)について
「空間的に変調された光」は「変調前の光」を要し、一方、「単に「変調した光」」は「変調前の光」を要せず、この点において両者は相違する。
「空間的に変調された光」は、空間光変調器により生成されるものであり、その空間光変調器については、甲第6号証の「2次元の光の位相・偏波面・振幅あるいは強度の分布を、他の2次元の光情報又は電気信号によって変調するものである」という記載より、まず「変調前の光」を要し、その「変調前の光」の2次元の分布(位相・偏波面・振幅あるいは強度の分布)を空間光変調器で空間的に変調して、変調された光の分布を得ており、その変調された光の分布を有するものが、「空間的に変調された光」である。甲第7?9号証には、「空間的に変調された光」が、「変調前の光」を要することが記載されている。
したがって、「空間的に変調された光」は、空間光変調器へ入射する「変調前の光」を必要とし、例えば、光源の光を空間光変調器へ入射する構成であれば、光源の光が「変調前の光」に相当する。
一方、「単に「変調した光」」とは、自発光式の光変調器により生成されるものである。自発光式の光変調器は、自発光式であるから、そもそも光を入射させる構成ではなく、当然「変調前の光」を必要としない。
よって、「空間的に変調された光」と「単に「変調した光」」の違いは「変調前の光」を必要とするか否かである。
4.平成26年10月30日付けの上申書での請求人の主張
被請求人が平成26年10月16日付けで提出した上申書(以下「被請求人上申書」という。)に対して、請求人は、平成26年10月30日付けの上申書(以下「請求人上申書」という。)で、概略、以下のとおり主張している。
(一)被請求人上申書の「5.上申の内容」の(1)について
本件特許明細書及び図面から明らかなように、光源12と第1の光変調器16は別のものであり、第1の光変調器16が光源に該当することはない。
第2の光変調器36について、本件特許明細書の段落0033に表示素子が例示されているが、この第2の光変調器36は、第1の光変調器16とは無関係である。
本件特許明細書の段落0051の記載も、自発光式の空間光変調器をサポートしない。
以上のとおり、自発光式の空間光変調器は、本件特許明細書でサポートされていない。
(二)被請求人上申書の「5.上申の内容」の(2)について
本件特許明細書には、第1の空間光変調器として、LCD、DMDを記載するのみである。
(三)被請求人上申書の「5.上申の内容」の(3)について
被請求人は、「5.上申の内容」の(3)で一体何を主張したいのか、皆目理解できない。
本件特許明細書の段落0051の記載から複数の光源を用いる例が把握できても、各光源に応じた空間光変調器は自発光式ではない。
(四)被請求人上申書の「5.上申の内容」の(4)について
被請求人は、「さらに商用のプロジェクタは、表示される内容に応じて光源の輝度を可変とする。」と主張するが、このような事項は、本件特許明細書に記載されておらず、本件特許の出願時(又は優先日当時)における周知技術でもない。
(五)被請求人上申書の「5.上申の内容」の(5)について
被請求人は、本件特許発明11の光学系は光学系17のみを意図するのではないと主張するが、このような主張内容は、本件特許明細書には記載されていない。
また、被請求人が、上申書第10?14頁で説明するように、光学系を解釈することは、本件特許明細書には記載されていない。
(六)被請求人上申書の「5.上申の内容」の(6)について
被請求人上申書の「5.上申の内容」の(6)での主張は意味不明であり、考慮に値しない。
5.請求人の提示した証拠方法
請求人が提示した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特許第5079759号公報(本件特許の登録公報)
甲第2号証:広辞苑(第五版 岩波書店)第890頁
甲第3号証:大辞泉(第一版 増補・新装板 小学館)第890頁
甲第4号証:広辞苑(第五版 岩波書店)第2381頁
甲第5号証:大辞泉(第一版 増補・新装板 小学館)第2361頁
甲第6号証:空間光変調器の開発と並列光情報処理への応用に関する研究
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告27,p.161-163
(ウェブサイト)2006年3月11日発行 向坂直久
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/bitstream/10297/1194/1/27-0161.pdf
甲第7号証:プロジェクターの技術と応用
2010年8月20日 普及版 第1刷 シーエムシー出版
監修 西田信夫(第4、34、151、152頁)
甲第8号証:NHK放送技術研究所 技研だよりNo.43 2008/10
超高精細・高速光変調素子 材料デバイス専任研究員
町田賢司
http://www.nhk.or.jp/strl/publica/giken_dayori/jp2/rd-0810.html
甲第9号証:NEW GLASS Vol.23 No.3 2008
空間光変調器と三次元デバイス高効率製造技術
浜松ホトニクス株式会社 中央研究所 原勉
http://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/90-pdf/+90-p054.pdf
第5 被請求人の主張
1.答弁書での被請求人の主張
被請求人は、「訂正を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」とし、その理由を、本件特許発明1-14は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たすから、特許法第123条第1項第4号の無効理由を有さないとして、概略、以下のとおり主張している。
(一)本件特許発明1について
(一の1)と(一の2)について
基本的には、乙第1号証としての平成24年7月17日付けの意見書で説明済みである。
本件特許発明1が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0008記載のように「表示画像中に広レンジの光強度を再現できる費用効率の良い表示装置」を提供することにある。すなわち高ダイナミック・レンジを持つ画像を供給すべく、本件特許発明1は空間的に変調された光を、空間光変調器に伝達することを規定する。つまり請求項に記載の光学系(バックライト)は、空間的に変調された光を伝達すれば足りるので、空間的に変調された光をどのようにして生成しているかは本件特許発明1が解決しようとする課題に関係しない。
審判請求書の第9頁の下から8行目には「これらのものは「LCD」又は「DMD」とは異なり、自発光式の素子(画素)を具え、別途光源を要しない。」と記載されている。しかし自発光式であろうとなかろうと、本件特許発明1の記載は「空間的に変調された光を、・・・に伝達するように構成された前記光学系」である。したがってLEDパネル、プラズマパネル、及びCRTは、本件特許明細書に記載されていなくとも本件特許発明1に含まれると理解するのが妥当である。
乙第2?19号証、乙第33号証にも示されるように、LED、LCD、CRT、およびプラズマパネルは、本件特許発明の出願時において当業者にとって交換可能である。すなわち本件特許発明の出願時において、本件特許明細書の段落0018に記載されたLCDやDMDに限らず、LED、CRT、プラズマパネル、ELパネル等も周知であった。
(一の3)について
当業者は、本願優先日当時の技術常識および本件特許明細書の記載に基づいて、半値全幅が0.3×d_(2)から3×d_(2)であり、かつ、隣接する画素へ広がる複数の画素を含む空間的に変調された光を容易に作ることができる。
乙第20?23号証にはLEDの光拡散のデータが示され、乙第24号証には、乙第11号証の記載も参照すると、CRTの光拡散のデータが示され、乙第8号証には拡散器が示されている。
(二)本件特許発明2について
本件特許明細書の段落0036や段落0040は、「10,000:1」と「10,000,000:1」のコントラスト比をどのように実現するかを示しており、このコントラスト比に関する本件特許明細書の記載は、「800:1」の下限のコントラスト比を当業者が実現することを可能にする。
(三)本件特許発明3について
(三の1)について
乙第1号証としての意見書でも説明したことであるが、画素に関して変調された光を説明することや、それらの画素を生成する光変調器の画素を説明することは、通常の語句の使用方法であって、例として、乙第25?27号証が挙げられる。さらに文脈に依存してそれら画素に関して変調された光と、画素を生成する変調器の画素とを区別せずに言及することは通常の語句の使用方法であり、一般の知識の範囲内であることは明らかである。
分解能については、乙第5?6号証に示されるように、空間的に変調された光の特性を示す用語として適切である。
(三の2)について
本件特許発明3の限定事項は、本件特許明細書の段落0038-0042、0046、図5Aに一致している。これら段落0038-0042、0046、図5Aは、2つの空間光変調器同士の間の画素サイズの差異による、画像上の望まない歪み、たとえばハロー効果を説明している。したがって本件特許発明に記載された「表示される画像に生じる影響」の意味は、表示される画像と、理想の画像との間の望まない歪みである、と当業者には理解できる。これらの説明は、乙第5号証においても支持されている。
(三の3)について
本件特許明細書の段落0044、0045を参照すれば、影響を低減するためにどのように空間光変調器を制御するかは明確である。これらの説明は、乙第5号証においても支持されている。
また、乙第33?37号証には、レンズによる光の拡散への影響が示されている。
(四)本件特許発明4について
(四の1)と(四の2)について
(三の1)で説明したとおりである。
(四の3)について
(三の2)で説明したとおりである。
(四の4)について
(三の2)及び(三の3)で説明したとおりである。
(五)本件特許発明5について
(五の1)について
本件特許の図3、図4を参酌すれば、「片側3」であることが問題なく解釈できる。また、乙第28、29号証は、「軸」が光軸を意味することと、光源が光軸から外れた軸(軸外)であることを示しており、甲第30号証は、「直進透過」と記載することで、光が変調器の軸に対して平行であると説明している。
(五の2)について
少なくとも図3を参酌すれば、「軸外」の意味は容易に理解できる。
(六)本件特許発明6について
本件特許発明6の記載「前記空間光変調器の面に平行な面の」は、図4に示されるように、空間光変調器の光軸に垂直な面を明らかに意味している。
本件特許発明6は、空間光変調器の面に平行な面に向かって光が「照射される」ことを要求しているのみである。
乙第31号証は、面に平行又は垂直な光を説明することが技術常識であることを示しており、乙第32号証には、光軸に対して光が平行または垂直であることを説明するための技術常識が記載されており、乙第8号証には、拡散器を使用することが記載されている。
(七)本件特許発明7について
(七の1)-(七の3)について
「第1の大きさの画素を有する光のパターン」は、光が空間的に変調されることを本質的に意味している。本件特許発明1でも、第1の大きさの複数の画素を有する空間的に変調された光(本件特許発明7記載「光のパターン」)が明確である。このことは、乙第7?12号証によって支持されている。
(七の4)および(七の5)について
(三の3)で説明したとおりである。
本件特許明細書の段落0026では、本件特許発明7の「光学系」の例である「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37」が、「透過投影スクリーン23の後側の制御装置39からの信号38Aによって形成される画像を投影するように設けられた」と説明されている。したがって、本件特許明細書は、制御されている光学系の特徴をサポートしている。
(七の6)について
「画素を有する光のパターン」との記載を、「画素が有する光のパターン」に訂正することを請求する訂正請求書を提出した。
(七の7)について
(三の2)で説明された。
(七の8)について
(三の2)および(三の3)で説明された。
(八)本件特許発明8について
(八の1)について
用語「ほぼ」の使用は、実際には或る光線が光源から外側に向かって、つまり軸を外れて広がっていくことを反映している。しかし、最も明るい光が、光軸に平行な方向である。
(八の2)について
本件特許発明8の記載「後方」は、光源と空間光変調器との間の位置を明確に指している。
(八の3)について
当業者は、光線の最も明るい成分が空間光変調器の面に対して垂直であること、つまり全体としての光が空間光変調器に向けられ、空間光変調器に対して大部分が垂直であることを理解するであろう。このことは、乙第31?32号証によって支持されている。
(九)本件特許発明9について
(九の1)について
「端部」は、空間光変調器の任意の端部を意味するように意図されている。空間光変調器の任意の端部は、空間的に変調された光を、光学系が空間光変調器に提供することを可能にする端部である。
(九の2)について
(八の2)で説明された。
(九の3)について
本件特許明細書の図3に示すように、「前記空間光変調器の端部の・・・外側に」は、空間光変調器の端部を越えた位置を指す。
(十)本件特許発明10について
(十の1)について
(七の6)で説明された。
(十の2)について
(一の3)で説明された。
(十の3)について
(一の1)および(一の2)で説明された。
(十一)本件特許発明11について
(十一の1)について
(七の1)で説明された。このことは、乙第7?12号証によって支持されている。
(十一の2)について
(七の4)で説明された。本件特許明細書が出願された時点において、当業者に利用可能な膨大な数のプロジェクタのデザインを考慮されたい。
(十一の3)について
(十一の1)で説明された。
(十一の4)について
本件特許明細書の段落0044?0045の記載によって、サポートされている。乙第11号証には、輝度値が画像データであることが説明されている。
(十一の5)について
(三の2)と(十一の1)で説明された。
(十一の6)について
本件特許明細書の文脈を考慮すると、アーティファクト(影響)に関する記述が不合理、不明確、または曖昧とは考えられない。
(十一の7)について
「第1画素のアレイを含む光のパターン」は、本質的に空間的に変調された光を意味する。これにより、「(前記空間光変調器が)光の前記パターンを変調する」は、(空間光変調器が)すでに変調された光を変調することを本質的に意味する。
(十二)本件特許発明12について
(十二の1)について
(五の2)で説明された。
(十二の2)について
(五の2)で説明された。
(十二の3)について
(五の2)で説明された。
(十三)本件特許発明13について
(十三の1)について
(八の1)で説明された。
(十三の2)について
(八の2)で説明された。
(十三の3)について
(八の3)で説明された。
(十四)本件特許発明14について
(十四の1)について
拡散器の概念は、乙第8号証に示されるように、本件特許出願の出願時において技術常識であった。
「拡散器」を含む光学系は、本件特許明細書の記載の範囲内にあり、解決すべき課題に影響を及ぼさない。すなわち「拡散器」を含む光学系は、本件特許明細書に記載されている。「拡散器」を含む光学系は、本願の課題を解決するための本質的部分ではない。
(十四の2)について
(一の3)で説明された。
(十四の3)について
本件特許発明14の記載「前記第1の画素のアレイからの光」と、本件特許発明11の記載「第1画素のアレイを含む光のパターン」とは、互いに同一のものを指しているとして明確に理解される。
(十四の4)について
本件特許明細書に記載されているように、互いに拡がって隣接する画素の光は、ミキシングされている。
すなわち本件特許発明14の混合操作は、本件特許明細書の段落0048に記載された広がる場合と同じである。
乙第38号証には拡散器が示されており、乙第39号証は、LCDパネルは光源であり、光源のアレイであることが共通の一般的に知識であることを示している。
2.平成26年9月11日付けの口頭審理陳述要領書での被請求人の主張
請求人は、審理事項通知書で通知した審理事項について、以下のように、主張している。
(1)審理事項通知書の「審理事項2.請求項7のサポート要件」について
サポート箇所として、本件特許明細書の段落【0026】の他に、段落【0029】と段落【0030】を提示する。
すなわち段落【0029】の最後には、図3に関連して「光源12と第1の光変調器16(または16A)は、例えば、市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器であってもよい。」という記載がある。下線は強調を示す。
つまりデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器とである光源と第1の光変調器(請求項7記載の空間光変調器に対応します)とは、いずれも制御信号を使う。
一般にデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源は、制御信号に基づき制御されますので、段落【0029】の光源12も制御信号に基づき制御される。
したがって請求項7の「光学系の光源」「を制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」がサポートされていると理解することができる。
(2)審理事項通知書の「審理事項3.請求項11のサポート要件」について
段落【0030】には、図4に関連して「プロジェクタ37は、適当な光源12と、第1の光変調器16と、第1の光変調器によって形成された画像をスクリーン34上に投影するのに好適な光学系17とを備えている。」という記載がある。段落【0030】には「プロジェクタ37は、市販の表示プロジェクタであってもよい。」という記載もある。
したがって当業者は、請求項11の「光学系」は、段落【0030】の市販の表示プロジェクタに対応すると理解できる。市販の表示プロジェクタは、所望の画像の画像信号に基づき制御される。したがって請求項11の「光学系を制御する」がサポートされていると理解できる。
3.被請求人上申書での被請求人の主張
被請求人は、平成26年10月16日付けで上申書を提出して、第1回口頭審理において、釈明すると申し立てた事項について、概略、以下のとおり主張している。
(1)自発光式の空間光変調器がサポートされていると主張する点および請求項7の「光学系の光源」について
第1の光変調器16は、第2の空間光変調器20に光を伝達する複数の光源アレイである。つまり自発光式の空間光変調器が、本件特許明細書に開示されていると当業者は理解できる。
段落【0051】の最後の文には「1つの光源12で、3つの光変調器16R、16G、16Bの全てに光を供給してもよいし、別々の光源(図示せず)で供給してもよい。」と記載されている。
これら本件特許明細書の記載は、「別々の光源」の多くの実施例を示す。
したがって本件特許明細書の記載に接した当業者は、「別々の光源」および「光を放つ複数の画素」の多くの実施例、すなわち自発光式の空間光変調器がサポートされていることを本件特許明細書から把握できる。「光を放つ」については、乙第40、41号証を参照できる。
また、液晶表示装置およびLEDアレイが交換可能なことを示す乙第42?44号証を追加し、本件特許明細書の段落0033記載の米国特許明細書等を乙第45?49号証として提出する。
(2)自発光式の空間光変調器の種々の実施例について
本件特許明細書の段落0033には「光変調器36は、閉状態マイクロカプセル電気泳動表示装置、電気浸透表示装置及びその製造のための材料、電気的にアドレス可能なマイクロカプセル・インク及び表示装置、ナノ粒子を用いた電気泳動表示装置、発光粒子を備える電気泳動表示装置及びその製造のための材料、微小体電気泳動表示装置に述べられたような、電気泳動表示素子のアレイからなっていてもよい。」と記載されている。
したがって本件特許明細書は、光を放つ空間光変調器や、光源を含む空間光変調器のいくつもの実施例をサポートする直接的な開示をする。
(3)対応米国特許の特許権を潰そうとする側が、本件特許明細書に複数の光源が開示されていると認めていること
対応米国特許の再審査は、日本の特許無効審判とは関連しないが、対応米国特許の再審査請求者が「530特許(対応米国特許)が複数の光源を開示する」と主張している(乙第50号証)。
つまり本件特許明細書に接した当業者は、複数の光源を有する空間光変調器が本件特許明細書に開示されている把握できる。
(4)請求項7の「光源の制御」について
すべての商用プロジェクタは、光源のオンとオフと数回にわたってチューンする。さらに商用のプロジェクタは、表示される内容に応じて光源の輝度を可変とする。
本件特許明細書の段落0051の最後の文に記載された「別々の光源」は、光源と光変調器のための代替物である別々の光源をも意味する。
すなわち光源と光変調器の代わりに別々の光源が設けられると、空間的に変調された光を供給するために様々な制御が必要であるから、別々の光源からなる空間光変調器に必要な制御は、液晶表示装置からなる空間光変調器の制御に実質的に同じであることに留意されたい。
本件特許明細書の図7に示されるように、それぞれの画素は互いに異なる輝度の光を放つ光源として機能し、つまり1個の画素は1個の制御された光源である。つまり複数の画素である複数の光源は、明らかに制御される。
(5)請求項11の「光学系」について
本件特許発明11における「光学系」は、光学系17のみを意図するのではない。光学系17は、本件特許発明11が含む種々の実施形態のうちの一例であるに過ぎない。「光学系」は、表示装置の分野における一部品もしくは複数の部品の組に当てはまる上位概念としての用語である。
さらに本件特許明細書のほぼすべての図において、本件特許発明11の光学系は開示されている。
例えば、図1では、光源12、空間光変調器16、光学系17、およびコリメータ18を含む。
したがって本件特許発明11の「光学系」は、本件特許明細書において「光学系17」に限らず種々の実施例に開示されていることは明らかである。
(6)1つだけの空間光変調器ではないことについて
審判請求人は、口頭審理において本件特許発明1は図1に示すように1つだけの光源と1つだけの空間光変調器に基づくと主張した。しかし上述したように本件特許明細書の他の実施例では、複数の光源(光を生成したり光を放つ複数の源)および複数の空間光変調器が開示されている。
4.被請求人の提示した証拠方法
被請求人の提示した証拠方法は 以下のとおりである。
乙第1号証:平成24年7月17日付けの意見書
乙第2号証:特開平3-71111号公報
乙第3号証:国際公開第2000/072104号
乙第4号証:米国特許第5293532号明細書
乙第5号証:鑑定意見書、電気通信大学名誉教授 御子柴 茂生
乙第6号証:映像情報メディア用語辞典、映像情報メディア学会編、
株式会社コロナ社、1999
乙第7号証:PRACTICAL DIGITAL IMAGE PROCESSING、ELLIS HORWOOD LIMITED、1990
乙第8号証:MODERN DICTIONARY of ELECTRONICS SEVENTH EDITION、Rudolf F.Graf、1999
乙第9号証:「近くの映画に行こう」(2000年9月21日発行)、ヒギンズ エイミー、126頁、「機械デザイン 72.18」
乙第10号証:SEVICING TV SATELLITE & VIEDO EQUIPMENT SECOND EDITION、Eugene Trundle、1997
乙第11号証:COMPUTER GRAPHICS TECHNIQUES THEORY AND PRACTICE、David F.Roggers、Rae A.Earnshaw、1990
乙第12号証:MAID TO MEASURE NEW MATERIALS FOR THE 21ST CENTURY、PHILIP BALL、1997
乙第13号証:video CAMCORDER school、MALCOLM SQUIRES、1992
乙第14号証:POPULAR PHOTOGRAPHY、VOL.91、NO.6、JUNE 1984
乙第15号証:POPULAR PHOTOGRAPHY、VOL.59、NO.12、DECEMBER 1995
乙第16号証:Micropolarizer-based multiple-viewer autostereoscopic display、S.A.Benton、1999
乙第17号証:Peripherals for Computer Systems、Alan Bradley、1991
乙第18号証:米国特許第4782338号明細書
乙第19号証:Electroluminescent Displays、Yoshimasa A.Ono、1995
乙第20号証:Cree XLamp XR-E LED
乙第21号証:High Brightness LEDs、日亜化学工業、2000
乙第22号証:CREE G・SiC Technology Super Blue LED
乙第23号証:Application Notes、日亜化学工業
乙第24号証:The Infrared & Electro-Optical Systems Handbook、VOLUME 5 Passive Electro-Optical Systems、Stephen B. Campana、1993
乙第25号証:特開平11-266465号公報
乙第26号証:特開2000-279416号公報
乙第27号証:特開平11-47134号公報
乙第28号証:特開平4-21818号公報
乙第29号証:特開昭62-195975号公報
乙第30号証:特開昭58-166322号公報
乙第31号証:OPTICAL MATERIALS、VOLUME 1、A SERIES OF ADVANCES、SOLOMON MUSIKANT、1990
乙第32号証:Flat Panel Displays,Advanced Organic Materials、S.M.KELLY、2000
乙第33号証:Optoelectronics Applications Manual、Hewlett-Packard Company、1977
乙第34号証:国際公開第99/56158号
(特表2002-513165号公報)
乙第35号証:特開平7-56171号公報
乙第36号証:米国特許第4874228号明細書
(特開平2-228689号公報)
乙第37号証:米国特許第4704004号明細書
(特開昭62-165803号公報)
乙第38号証:Edmund Scientific Indusrrial Optics Division、1997
乙第39号証:Super-High-Definition Images Beyond HDTV、Sadayasu Ono、1995
乙第40号証:大辞林 第三版
乙第41号証:WEBSTER’S NEW TWENTIETH CENTURY DICTIONARY OF THE ENGLISH LANGUAGE、1945
乙第42号証:Handbook OF Optoelectronics Volume II、John P Dakin、2006
乙第43号証:COMPUTER DIGEST、VOL.2、NO.10、October 1985
乙第44号証:Infoworld,VOL.7,ISSUE42,Octobwer 21,1985
乙第45号証:米国特許第6300932号明細書
乙第46号証:米国仮出願第60/271563号
乙第47号証:米国特許第6120588号明細書
乙第48号証:米国特許第6327072号明細書
乙第49号証:米国特許第6323989号明細書
乙第50号証:米国特許第7753530号の査定系再審査第90/013211号
第6 当審の判断
1.別件訂正特許発明1について
(一の1)について
請求人は、本件特許発明1は、「空間的に変調された光」という表現、及び本件特許明細書(別件訂正後の明細書及び図面(以下「別件訂正明細書」という。)と同じである。)に記載の課題を解決するための手段より、「空間光変調器」以外の「他の空間光変調器(第1の光変調器)」が必須となるにもかかわらず、本件特許発明1の構成要件にされていないという点で明確と云えないから明確性要件に違反する、また、本件特許発明1は、上述したように「他の空間光変調器」を構成要件にしていないことから、本件特許明細書に記載した発明と実質的に対応していないので、サポート要件に違反する、さらに、本件特許発明1は本件特許明細書に記載した発明と実質的に対応しないことにより、実施可能要件にも違反すると主張するので、「空間光変調器」以外の「他の空間光変調器(第1の光変調器)」が構成要件とされていない別件訂正特許発明1(本件特許発明1の全発明特定事項を含む)が、別件訂正明細書に記載されたものであるか否かを検討する。
(a)別件訂正明細書には、以下の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像を表示するための表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願は、米国特許出願第60/271563号(2001年2月27日出願、発明の名称:高ダイナミック・レンジ・カラー表示装置及び投影技術(HIGH DYNAMIC RANGE COLOUR DISPLAY AND PROJECTION TECHNOLOGY))に基づき、優先権を主張している。
【0003】
ダイナミック・レンジとは、一場面における最高輝度の部分と最低輝度の部分との強度の比である。例えば、ビデオ投影系によって投影された画像は、300:1の最大ダイナミック・レンジを持ち得る。
【0004】
人の視覚体系は、非常に高いダイナミック・レンジを持つ場面で、特徴を認識することができる。たとえ、近くの太陽に照らされた領域の輝度が、景色の暗がり部分の輝度より何千倍も大きくても、人は、例えば、明るく太陽が輝く日に、明かりのついていない車庫の中を覗き込み、暗がりにある物の細部を見ることができる。このような場面を現実的に表現するためには、1000:1を超えるダイナミック・レンジを持つ表示装置が必要である。”高ダイナミック・レンジ”とは、800:1またはそれ以上のダイナミック・レンジを意味する。
【0005】
現代のデジタル画像システムは、場面のダイナミック・レンジが保存された状態で、デジタル表示画像を取り込み、記録することができる。コンピュータ画像システムは高ダイナミック・レンジを持つ画像を合成することができる。しかしながら、現在の表示技術は、高ダイナミック・レンジが正確に再現されるように画像を表示できない。
【0006】
ブラッカム(Blackham)他に付与された米国特許第5978142号にはスクリーン上に映像を投影するためのシステムが開示されている。そのシステムは、光源からの光を変調する第1及び第2の光変調器を備えている。それぞれの光変調装置は、光源からの光を画素レベルで変調する。両光変調器によって変調された光はスクリーン上に投影される。
【0007】
ギボン(Gibbon)他の国際特許出願PCT/US01/21367には前置変調器を含む投影システムが開示されている。前置変調器は可変ミラー表示装置に投射される光量を調節する。別体の前置変調器は選択された領域(例えば、4分円)を暗くするために用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表示画像中に広レンジの光強度を再現できる費用効率の良い表示装置が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、画像を表示するための表示装置と、画像を表示するための方法とを提供する。本発明の一態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器と、第2の空間光変調器を備える表示スクリーンと、第1の空間光変調器によって変調された光を表示スクリーンの第1の面上に投影するように構成された光学系とを備える表示装置が提供される。
【0010】
本発明の別の態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第1の空間光変調器と、第1の空間光変調器により変調された光を変調するように設けられた第2の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第2の光空間変調器とを備え、第1及び第2の空間光変調器の一方の各画素は、第1及び第2の空間光変調器の他方の複数の画素に対応する表示装置が提供される。
【0011】
本発明の別の態様では、第1の空間分解能で空間的に変調された光を供給するための第1の空間変調手段と、第1の分解能とは異なる第2の分解能で、光を更に空間的に変調するための第2の空間変調手段と、第1及び第2の空間変調手段を制御して画像データによって形成される画像を表示する手段とを備える表示装置が提供される。
【0012】
本発明のまた更なる態様では、高ダイナミック・レンジを持つ画像を表示するための方法が提供される。その方法は、光を生成し、第1の光変調段階において、画像データに基づく光を空間的に変調し、空間的に変調された光を、光変調器を備えるスクリーン上に結像する。」、
「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明を通して、本発明のより理解すべく、その詳細について述べる。しかし、これらの詳細なしで本発明を実施してもよい。また、発明が不必要にあいまいになることを避けるため、公知の部材は、示さないか、または、詳細な説明をしない。したがって、明細書と図面とは限定的というよりは、実施例としての意味を持つ。
【0016】
本発明は、高ダイナミック・レンジで画像を表示することができる表示装置を提供する。本発明に係る表示装置は、2つの光変調段を有している。光が連続的にそれらの段を通過することで、高められたダイナミック・レンジを持つ画像が供給される。」
また、段落【0017】?【0054】、図1?7には、各種実施例が記載されており、これら段落【0017】?【0054】、図1?7に記載された各種実施例の表示装置は「第1の光変調器」を有することは明らかである。
(b)段落【0002】の「本願は、米国特許出願第60/271563号(2001年2月27日出願、発明の名称:高ダイナミック・レンジ・カラー表示装置及び投影技術(・・・)に基づき、優先権を主張している。」、段落【0003】の「ダイナミック・レンジとは、・・・例えば、ビデオ投影系によって投影された画像は、300:1の最大ダイナミック・レンジを持ち得る。」、段落【0006】の「ブラッカム(Blackham)他に付与された米国特許第5978142号にはスクリーン上に映像を投影するためのシステムが開示されている。」、段落【0007】の「ギボン(Gibbon)他の国際特許出願PCT/US01/21367には前置変調器を含む投影システムが開示されている。」との記載から、別件訂正明細書では、従来技術として投影表示装置を挙げていること、
段落【0009】には、「本発明の一態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器と、第2の空間光変調器を備える表示スクリーンと、第1の空間光変調器によって変調された光を表示スクリーンの第1の面上に投影するように構成された光学系とを備える表示装置が提供される。」と、投影表示装置が記載されている。
また、段落【0017】?【0054】、図1?7に記載された各種実施例は、投影表示装置であることが明らかである。
(c)別件訂正明細書の上記記載事項から、別件訂正明細書には、従来の投影表示装置では、ダイナミック・レンジが低いため、投影表示装置が生成する画像を、さらに、(投影表示装置が有する空間光変調器とは異なる)空間光変調器に投影することにより、高ダイナミック・レンジを得るという技術思想が記載されていると認められる。
そして、この技術思想は、従来の表示装置により生成された何らかの画像を、さらに、空間光変調器に投影することで高ダイナミック・レンジを実現することが特徴であると認められ、この何らかの画像は従来の表示装置により生成されたものであればよいから、具体的にどのような手段で生成されたものであるかは、別件訂正明細書に記載された上記技術思想においては、格別な技術事項ではなく、公知の画像生成手段の任意のものであればよいと認められる。
すると、別件訂正明細書には、何らかの画像を空間光変調器に投影するという技術事項が記載されていると認められる。
(d)また、別件訂正特許発明1が「表示装置」に係る発明であることを考慮すると、別件訂正特許発明1において、「空間的に変調された光」は、精細度の大小の差はあれども、何らかの画像を意味すると解するのが相当である。
(e)したがって、別件訂正特許発明1の「・・空間的に変調された光を、前記空間光変調器と前記拡散器に伝達するように構成された・・表示装置。」は、何らかの画像を空間光変調器に投影するという技術事項を記載したものであり、また、画像である「空間的に変調された光」を生成する手段は公知の画像生成手段の任意のものであればよいことを考慮すると、請求人の主張するように、別件訂正特許発明1において「空間光変調器」以外の「他の空間光変調器(第1の光変調器)」が構成要件とされていないとしても、別件訂正特許発明1が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるとはいえないから、別件訂正特許発明1が別件訂正明細書に記載したものではないとすることはできない。
また、別件訂正特許発明1が明確でないとすることも、別件訂正明細書が別件訂正特許発明1を当業者が実施できる程度に記載したものではないとすることもできない。
(一の2)について
請求人は、本件特許発明1は、本件特許明細書で記載されていない自発光式のELパネル、LEDパネル、プラズマパネル、CRT等を用いる場合も、その技術的範囲に含むものとなっており、「空間的に変調された光」を、どのようになし得るのか規定していないという点において、本件特許明細書の記載より広い技術的範囲を有し、この本件特許明細書の記載より広い技術的範囲に対して、本件特許発明1は、実施可能要件及びサポート要件に違反すると主張する。
しかし、上述「(一の1)について」で検討したとおり、別件訂正明細書には、具体的にどのような手段で生成されたものであるかによらず、何らかの画像を空間光変調器に投影するという技術事項が記載されているのであるから、別件訂正特許発明1の「空間的に変調された光」を生成する手段が自発光式の表示装置を含むか否か、また、別件訂正明細書に「空間的に変調された光」を生成する手段として自発光式の表示装置が明記されているか否かは、別件訂正特許発明1が別件訂正明細書に記載したものであるか否かの判断を左右するものではない。
したがって、被請求人の提出した乙第2?19、33号証を検討するまでもなく、別件訂正特許発明1は、サポート要件に違反するとすることはできない。
さらに、別件訂正明細書には、「空間的に変調された光」を生成する表示装置として、LCD、DMDが記載されているのであるから、別件訂正明細書が別件訂正特許発明1を当業者が実施できる程度に記載したものではないとすることもできないことは明らかである。
(一の3)について
請求人は、本件特許明細書には、「0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数」の下限の「半値全幅が0.3×d_(2)」となる場合、及び上限の「半値全幅が0.3×d_(2)」となる場合を、どのように実施すればよいか、本件特許明細書の記載から不明であるので、実施可能要件を満たしておらず、また、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載されていないことになり、サポート要件も満たしていないと主張する。
しかし、空間光変調器の画素の強度プロフィールがガウス分布関数によって近似できる分布を有すること、該分布を空間光変調器の構成やその前後の光学系の構成により変更し得ることは、被請求人が提出した乙第8、11、20?24号証を検討するまでもなく、当業者の技術常識である。
また、隣り合う画素の中心間の距離である「d_(2)」が適宜設計し得ることも、また、当業者には自明である。
すると、「空間的に変調された光」を、「0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数を有する、隣接する画素へ広がる複数の画素を含」むようにすることは、別件訂正明細書に具体的な記載がなくても、当業者が実施できることは明らかである。
したがって、別件訂正明細書が別件訂正特許発明1を当業者が実施できる程度に記載したものではないとすることはできず、さらに、別件訂正特許発明1は、別件訂正明細書に記載されていないとすることもできない。
以上のとおり、請求人の主張する無効理由によっては、別件訂正特許発明1は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
2.別件訂正特許発明2について
請求人は、本件特許明細書には、どのようにして「800:1よりも大きなコントラスト比」を実現するのかという点について、当業者が実施できる程度の記載が無いことから、実施可能要件を満たしておらず、また、「前記表示装置は、800:1よりも大きなコントラスト比を有する」ということが、少なくとも下限値についてサポートされていないことになり、本件特許発明2は、本件特許明細書に記載されていないことになり、サポート要件も満たしていないと主張する。
しかし、別件訂正明細書の段落【0005】に「しかしながら、現在の表示技術は、高ダイナミック・レンジが正確に再現されるように画像を表示できない。」と記載されるように、表示装置において、一般に、ダイナミック・レンジは、低いものより高いものの方が実施することが困難であることが技術常識であるから、あるダイナミック・レンジが実施できれば、そのダイナミック・レンジより低いダイナミック・レンジを実施することは、当業者には可能であるといえる。
すると、別件訂正明細書には、段落【0036】に「10,000:1」、段落【0040】に「10,000,000:1」のダイナミック・レンジを得る構成が記載されているから、これらよりも低い「800:1」のダイナミック・レンジを得ることが当業者であれば可能であることは明らかである。
したがって、どのようにして「800:1よりも大きなコントラスト比」について、別件訂正明細書が、別件訂正特許発明2(本件特許発明2と同じである。)を当業者が実施できる程度に記載したものではないとすることはできず、また、別件訂正特許発明2は、別件訂正明細書に記載されていないとすることもできない。
以上のとおり、請求人の主張する無効理由によっては、別件訂正特許発明2は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
3.別件訂正特許発明3について
(三の1)について
請求人は、「分解能」という用語が、「空間光変調器」と「空間的に変調された光」の両方に使用されているところ、「分解能」は器械や装置に使用される用語であることから、本件特許発明3は明確性要件に違反し、また、本件特許明細書に当業者が実施できる程度に記載されていないことになるから、実施可能要件に違反し、さらに実施可能に記載されていないことは本件特許明細書でサポートされていないことにもなるので、サポート要件にも違反すると主張する。
確かに、「分解能」は、本来、甲第4、5号証に示されるように、請求人の主張するような事項を示す用語であって、「空間光変調器」には「解像度」を使用することが適切であるが、一般に、「分解能」と「解像度」は混同して使用されることも少なくなく、また、別件訂正特許発明3(本件特許発明3と同じである。)において、「分解能」という用語の使用が不適切であったとしても、当業者が別件訂正特許発明3の発明特定事項を明確に把握できないとはいえない。
したがって、被請求人の提出した乙第5、6、25?27号証を検討するまでもなく、別件訂正特許発明3は明確性要件に違反するとはいえず、また、別件訂正明細書が実施可能要件に違反するとはいえず、さらに別件訂正特許発明3がサポート要件にも違反するとはいえない。
(三の2)について
請求人は、本件特許発明3は、「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響」について、明確性要件に違反すると主張する。
別件訂正特許発明3は、「前記空間光変調器は、前記光学系からの前記空間的に変調された光よりも高い分解能を備え、前記空間光変調器は、前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響を低減するように制御される・・・」という発明特定事項を有する。この中の、「前記空間光変調器は、前記光学系からの前記空間的に変調された光よりも高い分解能を備え」から、「空間光変調器」は「空間的に変調された光」よりも高い分解能を有することが明らかであり、この構成により「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通すること」となり、このことに起因して、「表示される画像に」「影響」が「生じる」ことが明らかである。
このことは、別件訂正明細書の段落【0041】?【0045】の記載によって裏付けられている。
また、「空間的に変調された光」を同じ「分解能」を有する「空間光変調器」に投影する構成と、「空間的に変調された光」を高い「分解能」を有する「空間光変調器」に投影する構成とでは、最終的に表示される画像が異なる、すなわち、高い「分解能」を有する「空間光変調器」に投影する構成では、同じ「分解能」を有する「空間光変調器」に投影する構成とは異なる影響が生じることは、当業者には自明のことである。
すると、別件訂正特許発明3の「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響」が示す事項は、当業者には明確であるといえるから、被請求人の提出した乙第5号証を検討するまでもなく、別件訂正特許発明3は、「前記光学系からの光の各画素が前記空間光変調器の複数の画素に共通することに起因する、表示される画像に生じる影響」について、明確性要件に違反するとはいえない。
(三の3)について
請求人は、(三の2)のように、「影響」は明確でないので、その影響を低減するように「制御」されることにおいても、制御の対象となる「影響」が明確でないことからも、本件特許発明3は、「前記空間光変調器は、・・・、表示される画像に生じる影響を低減するように制御されるように構成される」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反すると主張する。
しかし、上記「(三の2)について」で検討したとおり、「影響」は明確であるから、別件訂正特許発明3は、「前記空間光変調器は、・・・、表示される画像に生じる影響を低減するように制御されるように構成される」について、被請求人の提出した乙第5、33?37号証を検討するまでもなく明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のいずれにも違反するとはいえない。
なお、「制御」の具体的方法は、別件訂正明細書の段落【0044】に記載されている。
以上のとおり、請求人の主張する無効理由によっては、別件訂正特許発明3は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
4.別件訂正特許発明4について
(四の1)について
請求人は、上記(三の1)と同様、本件特許発明4は、「前記光学系により前記空間光変調器に伝達される光は、第1の分解能を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反すると主張する。
しかし、上記「(三の1)について」で検討したとおりであるから、別件訂正特許発明4(本件特許発明4と同じである。)は、「前記光学系により前記空間光変調器に伝達される光は、第1の分解能を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のいずれにも違反するとはいえない。
(四の2)について
請求人は、上記(四の1)のように、「第1の分解能」が不明であるから、本件特許発明4は、「前記空間光変調器は、前記第1の分解能とは異なる第2の分解能を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反すると主張する。
しかし、上記「(四の1)について」で検討したとおりであるから、別件訂正特許発明4は、「前記空間光変調器は、前記第1の分解能とは異なる第2の分解能を有し」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のいずれにも違反するとはいえない。
(四の3)について
請求人は、「影響」については上記(三の2)のようであり、「第1の分解能」については上記(四の1)のようであるから、本件特許発明4は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響」について、明確性要件に違反すると主張する。
しかし、上記「(三の2)について」、「(四の1)について」で検討したとおりであるから、別件訂正特許発明4は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響」について、明確性要件に違反するとはいえない。
(四の4)について
請求人は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響」については上記(四の3)のようであり、「制御」については上記(三の3)のようであるから、本件特許発明4は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響を低減するように、表示される所望の画像を含む画像信号に従って前記空間光変調器を制御するように構成されるコントローラを含む」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のそれぞれに違反すると主張する。
しかし、上記「(四の3)について」、「(三の3)について」で検討したとおりであるから、別件訂正特許発明4は、「前記第1の分解能と前記第2の分解能との間の差に起因する影響を低減するように、表示される所望の画像を含む画像信号に従って前記空間光変調器を制御するように構成されるコントローラを含む」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のいずれにも違反するとはいえない。
以上のとおり、請求人の主張する無効理由によっては、別件訂正特許発明4は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
5.別件訂正特許発明5について
(五の1)について
請求人は、「空間光変調器」の「片側」とは一体、「空間光変調器」のどちらの側を指すのか不明であり、本件特許明細書でも、「空間光変調器の片側」が、「空間光変調器」のどちらの側を指すかについて、一切説明されていないから、本件特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・片側」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件に違反すると主張する。
しかし、別件訂正特許発明5(本件特許発明5と同じである。)の「空間光変調器」は面状構造であって、投影型の表示装置では、この面の少なくとも一方に「空間的に変調された光」を供給する手段が配置されることが一般的であることを考慮すれば、別件訂正特許発明5の「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側」が示す方向は明らかであって、当業者であれば、請求人が主張するような「空間光変調器」の面の延長上の方向を示すと解することはできない。
したがって、被請求人の提出した乙第28?30号証を検討するまでもなく別件訂正特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・片側」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のいずれにも違反するとはいえない。
(五の2)について
請求人は、「空間光変調器」の「軸」とは一体、「空間光変調器」において、どの軸を指すのか不明であり、本件特許明細書でも、「空間光変調器の軸」が、「空間光変調器」におけるどの軸を指すかについて、一切説明されていないから、本件特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・軸」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件に違反すると主張する。
しかし、「空間光変調器」において、単に「軸」と記載されれば、「空間光変調器」の面の中心を通り、「空間光変調器」の面に垂直な軸を示すことは、当業者には明らかであるといえ、請求人が主張するような「空間光変調器」の面の延長方向に延びる軸を示すと解することはできない。
したがって、別件訂正特許発明5は、「前記光学系は、前記空間光変調器の少なくとも片側の軸外にある光源を含む」の中の「前記空間光変調器の・・・軸」について、明確性要件、実施可能要件、及びサポート要件のいずれにも違反するとはいえない。
以上のとおり、請求人の主張する無効理由によっては、別件訂正特許発明5は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
6.別件訂正特許発明6について
請求人は、本件特許発明6は、「前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む」と規定されるが、本件特許発明6は、本件特許発明1を引用するものであり、本件特許発明1は、「前記空間的に変調された光は、0.3×d_(2)から3×d_(2)の範囲内の半値全幅を有する光分布関数を有する、隣接する画素へ広がる複数の画素を含み」と規定されているところ、この「光分布関数」と、「平行な面の光」とが両立しないし、また、本件特許明細書には「光源」として面光源が記載されていないことからも、本件特許発明6は、「前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む」について、明確性要件、実施可能要件及びサポート要件を満たさないと主張する。
しかし、別件訂正特許発明6(本件特許発明6と同じである。)の「平行な面の光」の「面」について、当業者は光の面という旨の記載からは光の波面を想起するのが一般的であり、また、空間光変調器に入射する光の波面は必ずしも平面ではないことも併せて考慮すると、当業者であれば、別件訂正特許発明6の「前記空間光変調器の面に平行な面の光」は、「空間光変調器」の面に入射する光の光軸が「空間光変調器」の面に垂直であることを示すものと解するのが相当である。
すると、別件訂正特許発明6の「前記空間光変調器の面に平行な面の光」が示す構成は不明確であるとはいえない。
したがって、被請求人の提出した乙第8、31、32号証を検討するまでもなく別件訂正特許発明6は、「前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む」について、明確性要件に違反する。
そして、別件訂正明細書には、「空間的に変調された光」の光軸が「空間光変調器」に垂直に入射する構成が記載されていることは明らかであるから、別件訂正特許発明6は、「前記光学系は、前記空間光変調器の面に平行な面の光を発するように配向された光源を含む」について、実施可能要件及びサポート要件に違反するとはいえない。
なお、請求人の主張における「光分布関数」は、光の強度に関するものであるから、光の面とは無関係のものである。
以上のとおり、請求人の主張する無効理由によっては、別件訂正特許発明6は、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとすることはできない。
7.別件訂正特許発明7について
(七の4)について
請求人は、本件特許発明7は、「前記光学系の光源と前記空間光変調器とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」と規定されるが、本件特許明細書には、「光学系の光源」を制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラは、本件特許明細書に記載されていないから、サポート要件に違反すると主張する。
そこで、別件訂正特許発明7の「前記光学系の光源」「を制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」が、別件訂正明細書に記載されたものであるか否かを検討する。
(a)まず、「光学系の光源」が示すものについて、請求人は、審判請求書及び弁駁書において、本件特許明細書に記載された「光源12」に相当する構成であると主張しており、被請求人は口頭審理陳述要領書において、訂正明細書に記載された「市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器」の「光源」に相当する構成である、すなわち、「光源12」に相当する構成であると主張していることから、「光学系の光源」は「光源12」に相当する構成であるとして、以下、検討する。
(b)別件訂正明細書には、「コントローラ」という記載はないが、「制御」について、以下の記載がある。(下線は、当審が付した。)
「【0010】
本発明の別の態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第1の空間光変調器と、第1の空間光変調器により変調された光を変調するように設けられた第2の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第2の光空間変調器とを備え、第1及び第2の空間光変調器の一方の各画素は、第1及び第2の空間光変調器の他方の複数の画素に対応する表示装置が提供される。
【0011】
本発明の別の態様では、第1の空間分解能で空間的に変調された光を供給するための第1の空間変調手段と、第1の分解能とは異なる第2の分解能で、光を更に空間的に変調するための第2の空間変調手段と、第1及び第2の空間変調手段を制御して画像データによって形成される画像を表示する手段とを備える表示装置が提供される。」、
「【0018】
本実施形態においては、光源12からの光は、第1の光変調器16へと指向される。光源12は好ましくは、第1の光変調器16に実質的に均一な照明を供給する。光変調器16は個々にアドレス可能な素子のアレイを備えている。光変調器16は、例えば、透過型光変調器の一種であるLCD(液晶表示装置)、または、反射型光変調器の一種であるDMD(可変ミラー装置)を備えていてもよい。表示駆動回路(図1には示さず)は、表示される画像を規定するデータにしたがって、光変調器16の素子を制御する。」、
「【0026】
図1Aに示すように、光源12と、第1の光変調器16と、光学系17とが、透過投影スクリーン23の後側の制御装置39からの信号38Aによって形成される画像を投影するように設けられたデジタル・ビデオ・プロジェクタ37の部品であってもよい。第2の光変調器20の素子は、制御装置39からの信号38Bによって制御され、高ダイナミック・レンジを持つ視聴者に画像を提供する。
【0027】
図2に示すように、本発明に係る表示装置10Aは、1つ以上の付加的な光変調段24を備えていてもよい。各付加的な光変調段24は、コリメータ25と、光変調器26と、光学系27とからなっており、光学系27は、光変調器26からの光の焦点を次の付加的な光変調段24、または、コリメータ18上に合わせる。図2の表示装置10Aでは、2つの付加的な光変調段24がある。本発明のこの実施形態に係る装置は、1つ以上の付加的な光変調段24を有していてもよい。
【0028】
拡散器22の出力の任意の点の輝度は、光変調器16,20,26の対応する素子を通過する光の量を制御することにより調節することができる。この制御は、光制御装置16,20,26のそれぞれを駆動するために接続された適当な制御システム(図2には示さず)によって行われてもよい。
【0029】
前述のように、光変調器16,20,26は、全て同じ種類でもよいし、2つまたはそれ以上が異なる種類でもよい。図3は、本発明の変形例に係る表示装置10Bを示しており、その表示装置10Bは可変ミラー装置からなる第1の光変調器16Aを備えている。可変ミラー装置は、各画素を”オン”または”オフ”にするという意味においては2値の装置である。異なる見掛けの輝度レベルは、画素を素早くオン及びオフさせることによって生み出すことができる。このような装置は、例えば、米国特許第4441791号や米国特許第4954789号に記載されており、そして、デジタル・ビデオ・プロジェクタに一般的に使われている。光源12と第1の光変調器16(または16A)は、例えば、市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器であってもよい。
【0030】
図4は、本発明に基づく反射投影型(front-projection-type)表示装置10Cを示している。表示装置10Cはスクリーン34を備えている。プロジェクタ37は画像38をスクリーン34上に投影する。プロジェクタ37は、適当な光源12と、第1の光変調器16と、第1の光変調器によって形成された画像をスクリーン34上に投影するのに好適な光学系17とを備えている。プロジェクタ37は、市販の表示プロジェクタであってもよい。スクリーン34は第2の光変調器36を内蔵している。第2の光変調器36は、多数のアドレス可能な素子を備えており、それらは、スクリーン34の対応する領域の輝度に作用するように、個々に制御することができる。
【0031】
光変調器36はどのような構造をもっていてもよい。例えば、光変調器36は、反射器の前方に設けられた、個々の透過率を制御することができるLCD素子のアレイを備えていてもよい。プロジェクタ37によって投影された光は、各LCD素子を通過し、反射器によってLDC素子の後側で反射される。スクリーン34上のあらゆる点の輝度は、プロジェクタ37のその点で受け取られる光の強度と、光変調器36(例えば、その点のLCD素子)がそれを介して伝達される光を吸収する程度とによって決められる。
【0032】
光変調記36は、可変逆反射特性をもつ素子のアレイを備えてなることもできる。素子は、プリズム状であってもよい。このような素子は、例えば、ホワイトヘッド(Whitehead)に付与された米国特許第5959777号(発明の名称:受動型高性能可変反射率画像表示装置(Passive High Efficiency Variable Reflectivity Image Dysplay Device))や、ホワイトヘッド(Whitehead)他に付与された米国特許第6215920号(発明の名称:高性能可変反射率画像表示装置における全反射の、電気泳動の高インデックスと相転移制御(Electrophoretic High Index and Phase Transition Control of Total Internal Reflection in High Efficiency Variable Reflectivity Image Displays))に記述されている。」、
「【0036】
図4に示すように、制御装置39は、画像38を形成するデータを第1の光変調器16及び第2の光変調器36のそれぞれに供給する。制御装置39は、例えば、適当な表示補助装置を備えるコンピュータから構成することもできる。制御装置39は、画像処理段階を迅速化するための画像処理ハードウェアを備えていてもよい。スクリーン34上のあらゆる点の輝度は、その点に対応する、第1の光変調器16の画素及び第2の光変調器の画素の影響の組み合わせによって決まる。第1と第2の光変調器の対応する画素を、それらの”最も暗い”状態に設定すると、最小輝度の点が存在する。第1と第2の光変調器の対応する画素を、それらの”最も明るい”状態に設定すると、最大輝度の点が存在する。他の点は、中間の輝度値を持つ。最大輝度値は、例えば、10^(5)cd/m^(2)のオーダーである。最小輝度値は、例えば、10^(-2)cd/m^(2)のオーダーである。
【0037】
光変調器及び関連する制御回路の費用は、光変調器のアドレス可能な素子の数とともに増加する。本発明の一実施形態において、光変調器の1つが、他の1つ以上の光変調器よりも非常に高い空間分解能を持っている。そして、1つ以上の光変調器が低分解能の装置である場合、本発明のそのような実施形態に基づく表示装置の費用は低減され得る。2つ以上の光変調器を備えるカラー表示装置においては、どれか1つがカラー光変調器で(例えば、図6に示すように、複数のモノクローム光変調器を組み合わせたものが色彩光変調器を構成していてもよい)、どれか1つが高分解能光変調器であって、高分解能光変調器はカラー光変調器でもあるべきである。ある実施形態において、高分解能光変調器は、低分解能光変調器上に光を投影する。他の実施形態においては、低分解能光変調器は、高分解能光変調器上に光を投影する。」、
「【0043】
低分解能光変調器及び高分解能光変調器の両方を備えた、本発明に係る表示装置において、制御装置39は、低分解能空間光変調器の各画素の輝度を決定し、そして、高分解能空間光変調器を制御する信号を調節して、低分解能空間光変調器の各画素が高分解能空間光変調器の複数の画素に共通するという事実から生じる影響を低減するようにしてもよい。このことは、いろいろな方法によって行うことができる。
【0044】
例えば、低分解能空間光変調器の各画素が高分解能空間光変調器の複数の画素に対応する場合を考えてみる。所望の画像を特定する画像データは制御装置に供給される。画像データは、高分解能空間光変調器の各画素に対応する画像領域に対する所望の輝度を示す。制御装置は、所望の画像に近いものを与えるために低分解能光変調器の画素を設定する。このことは、例えば、低分解能光変調器の各画素に対応する画像領域の所望の輝度の平均値、または、重み付けされた平均値を決めることによって達成することができる。
【0045】
制御装置は、高分解能光変調器の画素を設定して、映し出される画像を所望の画像に近づける。このことは、例えば、所望の輝度を、低分解能光変調器から高分解能光変調器の対応する画素へ入射する光の既知の輝度で割ることによって行うことができる。光変調器を駆動させるための信号を生成するための処理は、制御装置39により即座に行ってもよいし、制御装置39またはその他の装置により先立って行い、そして、その画像データに統合してもよいし、または、ある処理を先立って行ってもよいし、そして、制御装置39が制御信号を生成するための最後の処理を行ってもよい。」
また、「制御装置39」について、図面には、以下の記載がある。
「【図1A】

【図4】


(c)別件訂正明細書の上記記載事項において、「制御」についての記載は、「制御装置39」、「制御装置」という記載を除くと、段落【0010】の「制御可能な画素のアレイを備えた第1の空間光変調器・・・制御可能な画素のアレイを備えた第2の光空間変調器」、段落【0011】の「第1及び第2の空間変調手段を制御して画像データによって形成される画像を表示する手段」、段落【0018】の「表示駆動回路(図1には示さず)は、表示される画像を規定するデータにしたがって、光変調器16の素子を制御する。」、段落【0028】の「拡散器22の出力の任意の点の輝度は、光変調器16,20,26の対応する素子を通過する光の量を制御することにより調節することができる。この制御は、光制御装置16,20,26のそれぞれを駆動するために接続された適当な制御システム(図2には示さず)によって行われてもよい。」、段落【0030】の「第2の光変調器36は、多数のアドレス可能な素子を備えており、それらは、スクリーン34の対応する領域の輝度に作用するように、個々に制御することができる。」、段落【0031】の「光変調器36はどのような構造をもっていてもよい。例えば、光変調器36は、反射器の前方に設けられた、個々の透過率を制御することができるLCD素子のアレイを備えていてもよい。」、段落【0032】の「光変調記36は、可変逆反射特性をもつ素子のアレイを備えてなることもできる。素子は、プリズム状であってもよい。このような素子は、例えば、ホワイトヘッド(Whitehead)に付与された米国特許第5959777号(発明の名称:受動型高性能可変反射率画像表示装置(Passive High Efficiency Variable Reflectivity Image Dysplay Device))や、ホワイトヘッド(Whitehead)他に付与された米国特許第6215920号(発明の名称:高性能可変反射率画像表示装置における全反射の、電気泳動の高インデックスと相転移制御(Electrophoretic High Index and Phase Transition Control of Total Internal Reflection in High Efficiency Variable Reflectivity Image Displays))に記述されている。」、段落【0037】の「光変調器及び関連する制御回路の費用は、光変調器のアドレス可能な素子の数とともに増加する。」であって、いずれの「制御」も、その前後の文脈からみて、「空間光変調器」を制御することを示すことが明らかである。
また、「制御装置39」、「制御装置」という記載は、段落【0026】の「図1Aに示すように、光源12と、第1の光変調器16と、光学系17とが、透過投影スクリーン23の後側の制御装置39からの信号38Aによって形成される画像を投影するように設けられたデジタル・ビデオ・プロジェクタ37の部品であってもよい。第2の光変調器20の素子は、制御装置39からの信号38Bによって制御され、高ダイナミック・レンジを持つ視聴者に画像を提供する。」、段落【0036】の「図4に示すように、制御装置39は、画像38を形成するデータを第1の光変調器16及び第2の光変調器36のそれぞれに供給する。制御装置39は、例えば、適当な表示補助装置を備えるコンピュータから構成することもできる。制御装置39は、画像処理段階を迅速化するための画像処理ハードウェアを備えていてもよい。」、段落【0043】の「低分解能光変調器及び高分解能光変調器の両方を備えた、本発明に係る表示装置において、制御装置39は、低分解能空間光変調器の各画素の輝度を決定し、そして、高分解能空間光変調器を制御する信号を調節して、低分解能空間光変調器の各画素が高分解能空間光変調器の複数の画素に共通するという事実から生じる影響を低減するようにしてもよい。このことは、いろいろな方法によって行うことができる。」、段落【0044】の「例えば、低分解能空間光変調器の各画素が高分解能空間光変調器の複数の画素に対応する場合を考えてみる。所望の画像を特定する画像データは制御装置に供給される。画像データは、高分解能空間光変調器の各画素に対応する画像領域に対する所望の輝度を示す。制御装置は、所望の画像に近いものを与えるために低分解能光変調器の画素を設定する。」、段落【0045】の「制御装置は、高分解能光変調器の画素を設定して、映し出される画像を所望の画像に近づける。このことは、例えば、所望の輝度を、低分解能光変調器から高分解能光変調器の対応する画素へ入射する光の既知の輝度で割ることによって行うことができる。光変調器を駆動させるための信号を生成するための処理は、制御装置39により即座に行ってもよいし、制御装置39またはその他の装置により先立って行い、そして、その画像データに統合してもよいし、または、ある処理を先立って行ってもよいし、そして、制御装置39が制御信号を生成するための最後の処理を行ってもよい。」であって、いずれの「制御装置39」,「制御装置」も、その前後の文脈からみて、「空間光変調器」を制御する装置を示すことが明らかである。
(d)すると、別件訂正明細書の「制御」、「制御装置39」、「制御装置」という記載は、「空間光変調器」を制御することを示すものであって、「光源12」を制御することは記載されていない。
(e)また、他に、別件訂正明細書に、「光源12」を、画像信号に従って制御することの記載はないから、別件訂正明細書には、「前記光学系の光源と前記空間光変調器とを制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」は記載されておらず、別件訂正特許発明7は、サポート要件に違反する。
(f)なお、被請求人は、口頭審理陳述要領書において、一般にデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源は、制御信号に基づき制御されるので、「光源12」も制御信号に基づき制御されると主張する。
確かに、一般に、デジタル・ビデオ・プロジェクタの光源は、何らかの制御信号に基づき制御されるものであるが、該光源が、画像信号に従って制御するように構成された制御信号に基づいて制御されることは、被請求人の提示する全乙号証を参照しても一般的であるとは認められないから、上記被請求人の主張は根拠を欠くものであって、採用することはできない。
(g)以上のように、別件訂正明細書には、(「前記所望の画像を含む画像信号に従って、」)「光学系の光源と」「を制御するように構成された制御信号を生成するように構成されたコントローラ」は記載されておらず、別件訂正特許発明7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(h)次に、被請求人は、上申書において、「第1の光変調器」は光源又は光源のアレイである等と記載しており、別件訂正特許発明7の「光源」は「第1の光変調器」に相当するものであると主張しているとも考えられるので、以下、別件訂正特許発明7の「光源」が示すものについて検討する。
(i)別件訂正明細書等には、「光源」について、以下の記載がある。(下線は、当審が付した。)
「【0006】
ブラッカム(Blackham)他に付与された米国特許第5978142号にはスクリーン上に映像を投影するためのシステムが開示されている。そのシステムは、光源からの光を変調する第1及び第2の光変調器を備えている。それぞれの光変調装置は、光源からの光を画素レベルで変調する。両光変調器によって変調された光はスクリーン上に投影される。」、
「【0009】
本発明は、画像を表示するための表示装置と、画像を表示するための方法とを提供する。本発明の一態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器と、第2の空間光変調器を備える表示スクリーンと、第1の空間光変調器によって変調された光を表示スクリーンの第1の面上に投影するように構成された光学系とを備える表示装置が提供される。
【0010】
本発明の別の態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第1の空間光変調器と、第1の空間光変調器により変調された光を変調するように設けられた第2の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第2の光空間変調器とを備え、第1及び第2の空間光変調器の一方の各画素は、第1及び第2の空間光変調器の他方の複数の画素に対応する表示装置が提供される。」、
「【0017】
図1は本発明の簡単な実施形態に係る表示装置10を概略的に示している。図1における部材の大きさやそれらの間の距離は、実寸ではない。表示装置10は光源12を備えている。光源12は、例えば、白熱灯、アーク灯等の投影ランプや、レーザや、その他適当な光源であってもよい。光源12は、表示装置10の他の部分に光を伝達するように協同する、1つ以上のミラー、レンズ、その他の光学素子からなる光学系を備えていてもよい。
【0018】
本実施形態においては、光源12からの光は、第1の光変調器16へと指向される。光源12は好ましくは、第1の光変調器16に実質的に均一な照明を供給する。光変調器16は個々にアドレス可能な素子のアレイを備えている。光変調器16は、例えば、透過型光変調器の一種であるLCD(液晶表示装置)、または、反射型光変調器の一種であるDMD(可変ミラー装置)を備えていてもよい。表示駆動回路(図1には示さず)は、表示される画像を規定するデータにしたがって、光変調器16の素子を制御する。」
「【0026】
図1Aに示すように、光源12と、第1の光変調器16と、光学系17とが、透過投影スクリーン23の後側の制御装置39からの信号38Aによって形成される画像を投影するように設けられたデジタル・ビデオ・プロジェクタ37の部品であってもよい。第2の光変調器20の素子は、制御装置39からの信号38Bによって制御され、高ダイナミック・レンジを持つ視聴者に画像を提供する。
【0027】
図2に示すように、本発明に係る表示装置10Aは、1つ以上の付加的な光変調段24を備えていてもよい。各付加的な光変調段24は、コリメータ25と、光変調器26と、光学系27とからなっており、光学系27は、光変調器26からの光の焦点を次の付加的な光変調段24、または、コリメータ18上に合わせる。図2の表示装置10Aでは、2つの付加的な光変調段24がある。本発明のこの実施形態に係る装置は、1つ以上の付加的な光変調段24を有していてもよい。
【0028】
拡散器22の出力の任意の点の輝度は、光変調器16,20,26の対応する素子を通過する光の量を制御することにより調節することができる。この制御は、光制御装置16,20,26のそれぞれを駆動するために接続された適当な制御システム(図2には示さず)によって行われてもよい。
【0029】
前述のように、光変調器16,20,26は、全て同じ種類でもよいし、2つまたはそれ以上が異なる種類でもよい。図3は、本発明の変形例に係る表示装置10Bを示しており、その表示装置10Bは可変ミラー装置からなる第1の光変調器16Aを備えている。可変ミラー装置は、各画素を”オン”または”オフ”にするという意味においては2値の装置である。異なる見掛けの輝度レベルは、画素を素早くオン及びオフさせることによって生み出すことができる。このような装置は、例えば、米国特許第4441791号や米国特許第4954789号に記載されており、そして、デジタル・ビデオ・プロジェクタに一般的に使われている。光源12と第1の光変調器16(または16A)は、例えば、市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器であってもよい。
【0030】
図4は、本発明に基づく反射投影型(front-projection-type)表示装置10Cを示している。表示装置10Cはスクリーン34を備えている。プロジェクタ37は画像38をスクリーン34上に投影する。プロジェクタ37は、適当な光源12と、第1の光変調器16と、第1の光変調器によって形成された画像をスクリーン34上に投影するのに好適な光学系17とを備えている。プロジェクタ37は、市販の表示プロジェクタであってもよい。スクリーン34は第2の光変調器36を内蔵している。第2の光変調器36は、多数のアドレス可能な素子を備えており、それらは、スクリーン34の対応する領域の輝度に作用するように、個々に制御することができる。」、
「【0051】
プロジェクタ37は、どのような適宜の構成を持っていてもよい。必要なことは、プロジェクタ37が、スクリーン34上に画像を結像するために、空間的に変調された光を投影することができることだけである。図6は、発明の更なる別の実施形態に係る表示システム10Dを図示している。システム10Dは、図4を参照して、先に述べられたような集積光変調器36を有するスクリーン34を備えている。システム10Dは、3色のそれぞれに分かれた光変調器16R,16G,16Rを有するプロジェクタ37を備えている。各光変調器16R,16G,16Rにより変調された光は、3つのカラーフィルタ47R,47G,47Bうちの対応する1つのフィルタによりフィルタにかけられる。変調された光は光学系17によりスクリーン34上に投影される。1つの光源12で、3つの光変調器16R,16G,16Bの全てに光を供給してもよいし、別々の光源(図示せず)で供給してもよい。」
また、「光源12」について、図面には、以下の記載がある。
「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図6】


(j)別件訂正明細書の上記記載事項において、「光源12」は、「第1の光変調器16」に照明光を供給するものであることは明らかである。
また、「光源12」という記載を除く「光源」という記載は、段落【0009】の「本発明の一態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器と、第2の空間光変調器を備える表示スクリーンと、第1の空間光変調器によって変調された光を表示スクリーンの第1の面上に投影するように構成された光学系とを備える表示装置が提供される。」、段落【0010】の「本発明の別の態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第1の空間光変調器と、第1の空間光変調器により変調された光を変調するように設けられた第2の空間光変調器であって、制御可能な画素のアレイを備えた第2の光空間変調器とを備え、第1及び第2の空間光変調器の一方の各画素は、第1及び第2の空間光変調器の他方の複数の画素に対応する表示装置が提供される。」、段落【0017】の「光源12は、例えば、白熱灯、アーク灯等の投影ランプや、レーザや、その他適当な光源であってもよい。」、段落【0029】の「光源12と第1の光変調器16(または16A)は、例えば、市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器であってもよい。」、段落【0051】の「1つの光源12で、3つの光変調器16R,16G,16Bの全てに光を供給してもよいし、別々の光源(図示せず)で供給してもよい。」であって、いずれの「光源」も、その前後の文脈からみて、「光源12」と同様の、「空間光変調器」に照明光を供給するものを示すことが明らかである。
(k)すると、別件訂正明細書の「光源」、「光源12」という記載は、「空間光変調器」に照明光を供給するものを示すものであって、「第1の光変調器」を示すものではない。
(l)また、他に、別件訂正明細書に、「第1の光変調器」が光源であるとの記載もない。
(m)したがって、被請求人が、別件訂正特許発明7の「光源」は「第1の光変調器」に相当するものであると主張しているとしても、該主張は、別件訂正明細書の記載に基づくものではないから、採用することはできない。
(n)以上のとおり、別件訂正特許発明7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、他の無効理由((七の1)?(七の3)、(七の4)の実施可能要件違反、(七の5)?(七の8))を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
8.別件訂正特許発明8?10について
別件訂正特許発明8?10は別件訂正特許発明7を引用するものであるから、別件訂正特許発明7と同様、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
9.別件訂正特許発明11について
(十一の2)について
請求人は、本件特許発明11は、「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」について、サポート要件に違反すると主張する。
(a)まず、「光学系」が示すものについて、請求人は、弁駁書において、本件特許明細書に記載された「光学系17」に相当する構成であると主張しており、被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書において、訂正明細書に記載された「市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタ」に相当する構成である、また、被請求人上申書において、プロジェクタと「コリメータ18」とからなる構成であると主張していることから、別件訂正特許発明11の「光学系」が示すものについて、以下、検討する。
(b)別件訂正明細書には、「光学系」について、以下の記載がある。(下線は、当審が付した。)
「【0009】
本発明は、画像を表示するための表示装置と、画像を表示するための方法とを提供する。本発明の一態様では、光源と、光源からの光を変調するように設けられた第1の空間光変調器と、第2の空間光変調器を備える表示スクリーンと、第1の空間光変調器によって変調された光を表示スクリーンの第1の面上に投影するように構成された光学系とを備える表示装置が提供される。」、
「【0017】
図1は本発明の簡単な実施形態に係る表示装置10を概略的に示している。図1における部材の大きさやそれらの間の距離は、実寸ではない。表示装置10は光源12を備えている。光源12は、例えば、白熱灯、アーク灯等の投影ランプや、レーザや、その他適当な光源であってもよい。光源12は、表示装置10の他の部分に光を伝達するように協同する、1つ以上のミラー、レンズ、その他の光学素子からなる光学系を備えていてもよい。
【0018】
本実施形態においては、光源12からの光は、第1の光変調器16へと指向される。光源12は好ましくは、第1の光変調器16に実質的に均一な照明を供給する。光変調器16は個々にアドレス可能な素子のアレイを備えている。光変調器16は、例えば、透過型光変調器の一種であるLCD(液晶表示装置)、または、反射型光変調器の一種であるDMD(可変ミラー装置)を備えていてもよい。表示駆動回路(図1には示さず)は、表示される画像を規定するデータにしたがって、光変調器16の素子を制御する。
【0019】
第1の光変調器16によって変調された光は、適当な光学系17によって透過投影(rear-projection)スクリーン23上に投影される。第1の光変調器16の小さな領域からの光は、光学系17によって、透過投影スクリーン23上の対応する領域へと指向される。本実施形態においては、光学系17は、焦点距離fを持つレンズを備えている。通常、第1の光変調器16によって変調された光を、透過投影スクリーン23上に結像する光学系17は、1つ以上のミラーやレンズ、その他の光学素子を備えている。このような光学系は第1の光変調器によって変調された光を第2の光変調器上に結像する機能を持っている。
【0020】
本実施形態においては、透過投影スクリーン23は、第2の光変調器20とコリメータ18とを備えている。コリメータ18の主な機能は、透過投影スクリーン23を通過する光を、優先的に視聴領域へと指向させることである。コリメータ18は、フレネル・レンズやホログラフィック・レンズ、また、1つ以上のレンズ及び/又は他の光学素子の他の装置を備えており、それらが光を視聴領域の方向へ導くこととなる。
【0021】
本実施形態において、コリメータ18は光を第2の光変調器20の素子を通して、通常はスクリーン23の法線方向へと伝える。コリメータ18からの入射光が第2の光変調器20を通過するのに伴って、その光は更に変調される。そして、光は拡散器22を通過してある範囲の方向へ出力光を拡散して、第1の光変調器16からみて拡散器22とは反対側に位置する視聴者は、スクリーン23の全域に由来する光を見ることができる。一般に、拡散器22は、水平面と垂直面とで光の拡散角度範囲が異なる。拡散器22は、第2の光変調器20によって変調された光が、ある範囲の角度に散乱され、その最大拡散角が、好ましい視聴位置から見られたときにスクリーン23によって決定される範囲の角度に少なくとも等しくなるように選択される。
【0022】
透過投影スクリーン23は第1の光変調器16と異なる面積であってもよい。例えば、透過投影スクリーン23が、第1の光変調器16よりも大きな面積であってもよい。この場合、光学系17は、第1の光変調器16によって変調された光束を拡大して、透過投影スクリーン23のより大きな面積に一致するように照射する。
【0023】
第2の光変調器20は第1の光変調器と同じタイプのものでも、また、異なるタイプのものでもよい。第1及び第2の光変調器16,20が両方とも光を偏光させるタイプである場合、実用的には、第2の光変調器20は、その偏光面が、第1の光変調器16から入射する光の偏光面と一致するように向きを合わせるべきである。
【0024】
表示装置10はカラー表示装置であってもよい。この場合、以下のような様々な方法がある。
・第1の光変調器16と第2の光変調器20とを1つのカラー光変調器にすること。
【0025】
・異なる色を同時に操作する複数の異なる第1の光変調器16を備えること。
・第2の光変調器20の前方の光路に異なる色のフィルタを迅速に導入するための機構を備えること。
前記の第1のやり方の例として、第2の光変調器20は、各々が多数のカラー・サブ画素からなる、複数の画素を備えたLCDパネルから構成されていてもよい。例えば、各画素は1つが赤色のフィルタと関連し、1つが緑色のフィルタと関連し、1つが青色のフィルタと関連する3つのサブ画素から構成されていてもよい。フィルタはLCDパネルと一体であってもよい。
【0026】
図1Aに示すように、光源12と、第1の光変調器16と、光学系17とが、透過投影スクリーン23の後側の制御装置39からの信号38Aによって形成される画像を投影するように設けられたデジタル・ビデオ・プロジェクタ37の部品であってもよい。第2の光変調器20の素子は、制御装置39からの信号38Bによって制御され、高ダイナミック・レンジを持つ視聴者に画像を提供する。
【0027】
図2に示すように、本発明に係る表示装置10Aは、1つ以上の付加的な光変調段24を備えていてもよい。各付加的な光変調段24は、コリメータ25と、光変調器26と、光学系27とからなっており、光学系27は、光変調器26からの光の焦点を次の付加的な光変調段24、または、コリメータ18上に合わせる。図2の表示装置10Aでは、2つの付加的な光変調段24がある。本発明のこの実施形態に係る装置は、1つ以上の付加的な光変調段24を有していてもよい。
【0028】
拡散器22の出力の任意の点の輝度は、光変調器16,20,26の対応する素子を通過する光の量を制御することにより調節することができる。この制御は、光制御装置16,20,26のそれぞれを駆動するために接続された適当な制御システム(図2には示さず)によって行われてもよい。
【0029】
前述のように、光変調器16,20,26は、全て同じ種類でもよいし、2つまたはそれ以上が異なる種類でもよい。図3は、本発明の変形例に係る表示装置10Bを示しており、その表示装置10Bは可変ミラー装置からなる第1の光変調器16Aを備えている。可変ミラー装置は、各画素を”オン”または”オフ”にするという意味においては2値の装置である。異なる見掛けの輝度レベルは、画素を素早くオン及びオフさせることによって生み出すことができる。このような装置は、例えば、米国特許第4441791号や米国特許第4954789号に記載されており、そして、デジタル・ビデオ・プロジェクタに一般的に使われている。光源12と第1の光変調器16(または16A)は、例えば、市販のデジタル・ビデオ・プロジェクタの光源と変調器であってもよい。
【0030】
図4は、本発明に基づく反射投影型(front-projection-type)表示装置10Cを示している。表示装置10Cはスクリーン34を備えている。プロジェクタ37は画像38をスクリーン34上に投影する。プロジェクタ37は、適当な光源12と、第1の光変調器16と、第1の光変調器によって形成された画像をスクリーン34上に投影するのに好適な光学系17とを備えている。プロジェクタ37は、市販の表示プロジェクタであってもよい。スクリーン34は第2の光変調器36を内蔵している。第2の光変調器36は、多数のアドレス可能な素子を備えており、それらは、スクリーン34の対応する領域の輝度に作用するように、個々に制御することができる。」、
「【0051】
プロジェクタ37は、どのような適宜の構成を持っていてもよい。必要なことは、プロジェクタ37が、スクリーン34上に画像を結像するために、空間的に変調された光を投影することができることだけである。図6は、発明の更なる別の実施形態に係る表示システム10Dを図示している。システム10Dは、図4を参照して、先に述べられたような集積光変調器36を有するスクリーン34を備えている。システム10Dは、3色のそれぞれに分かれた光変調器16R,16G,16Rを有するプロジェクタ37を備えている。各光変調器16R,16G,16Rにより変調された光は、3つのカラーフィルタ47R,47G,47Bうちの対応する1つのフィルタによりフィルタにかけられる。変調された光は光学系17によりスクリーン34上に投影される。1つの光源12で、3つの光変調器16R,16G,16Bの全てに光を供給してもよいし、別々の光源(図示せず)で供給してもよい。」
また、「光学系17」、「光学系27」について、図面には、以下の記載がある。
「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図6】


(c)別件訂正明細書の上記記載事項において、「光学系17」は、「第1の光変調器16」によって変調された光を、「第2の光変調器20」あるいは「光変調器26」に投影するためのものであり、1つ以上のミラーやレンズ、その他の光学素子を備えているものであること、また、「光学系27」は、「光変調器26」によって変調された光を、「光変調器26」あるいは「第2の光変調器22」に投影するためのものであることは明らかである。
また、「光学系17」、「光学系27」という記載を除く「光学系」という記載は、段落【0009】の「第1の空間光変調器によって変調された光を表示スクリーンの第1の面上に投影するように構成された光学系」、段落【0017】の「光源12は、表示装置10の他の部分に光を伝達するように協同する、1つ以上のミラー、レンズ、その他の光学素子からなる光学系を備えていてもよい。」,段落【0019】の「このような光学系は第1の光変調器によって変調された光を第2の光変調器上に結像する機能を持っている。」であって、段落【0009】の上記「光学系」、段落【0019】の上記「光学系」は、その前後の文脈からみて、「光学系17」を指し示すことが明らかである。
また、段落【0017】の上記「光学系」は、その指し示すものは必ずしも明らかではないが、「表示装置10は光源12を備えている。光源12は、例えば、白熱灯、アーク灯等の投影ランプや、レーザや、その他適当な光源であってもよい。光源12は、表示装置10の他の部分に光を伝達するように協同する、1つ以上のミラー、レンズ、その他の光学素子からなる光学系を備えていてもよい。」との文言、また、一般に、プロジェクタにおいて、ランプ等の光源からの光をプロジェクタ内の空間光変調器に伝達するために、反射鏡、レンズ、拡散器等の光学素子からなる照明光学系を使用することが通常であることを考慮すれば、当業者であれば、段落【0017】の上記「光学系」は、そのような照明光学系を示すと解するのが相当である。そして、そのような照明光学系は、投影光学系である「光学系17」、「光学系27」とは全く異なるものであることは、当業者には自明である。
すると、別件訂正明細書では、「光学系」という語は、投影光学系と、照明光学系の2種類の「光学系」に使用されていると認められる。
そして、別件訂正特許発明11では、「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」、「前記光学系及び前記空間光変調器を含む表示装置」と規定するのみであって、「光学系」が示すものは必ずしも明らかではないところ、別件訂正明細書の記載を参照すると、上述のとおり、「光学系17」、「光学系27」のような投影光学系、あるいは、「光源12」が備える照明光学系に相当するものであると認められる。
(d)なお、被請求人は、答弁書(第46頁の「(七の4)および(七の5)について:」)において、「本件特許明細書の段落0026では、本件特許発明7の「光学系」の例である「デジタル・ビデオ・プロジェクタ37が、・・・」と主張しているが、上述のとおりであって、被請求人の該主張は、別件訂正明細書の記載に基づくものではなく、採用することはできない。
また、被請求人は、口頭審理陳述要領書において、訂正明細書の段落【0030】の「プロジェクタ37は、適当な光源12と、第1の光変調器16と、第1の光変調器によって形成された画像をスクリーン34上に投影するのに好適な光学系17とを備えている。」、「プロジェクタ37は、市販の表示プロジェクタであってもよい。」という記載から、当業者は、訂正特許発明11の「光学系」は、市販の表示プロジェクタに対応すると理解できると主張するが、別件訂正明細書の段落【0030】の上記記載から、なぜ、当業者は、別件訂正特許発明11の「光学系」は、市販の表示プロジェクタに対応すると理解できるのかが全く不明であって、該主張は採用することはできない。
さらに、被請求人は、上申書において、訂正特許発明11の「光学系」は、光学系17のみを意図するのではなく、光学系17は、訂正特許発明11が含む種々の実施形態のうちの一例であるにすぎないとして、例えば、図1において、光源12、空間光変調器16、光学系17及びコリメータ18を「光学系」であると主張するが、そもそも、「光学系」がどのようなものを示すかは、意図する/しないではなく、別件訂正明細書の記載に基づいて判断するものであり、また、被請求人が各図面において「光学系」が「光学系17」以外の部材をも含むものであるとする説明も、その根拠が全く不明であるから、該主張は採用することはできない。
(e)そこで、別件訂正特許発明11の「光学系」は「光学系17」、「光学系27」のような投影光学系、あるいは、「光源12」が備える照明光学系に相当するものであると認めて、検討を進める。
(f)次に、別件訂正特許発明11の「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」が、別件訂正明細書に記載されたものであるか否かを検討する。
(g)別件訂正明細書では、上記「7.」での検討と同様に、「制御」は、「空間光変調器」を制御することに使用されていると認められる。
すると、別件訂正明細書には、「光変調器」を「制御」することは記載されていても、「光学系17」、「光学系27」のような投影光学系、あるいは、「光源12」が備える照明光学系を「制御」することは記載されていない。
また、他に、別件訂正明細書に、「光学系17」、「光学系27」のような投影光学系、あるいは、「光源12」が備える照明光学系を制御することの記載もない。
(h)したがって、別件訂正明細書には、「第1画素のアレイを含む光のパターンを発するように所望の画像の画像信号に少なくとも部分的に従って光学系を制御する段階」は記載されておらず、別件訂正特許発明11は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、他の無効理由((十一の1)、(十一の2)の実施可能要件違反、(十一の3)?(十一の7))を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
10.別件訂正特許発明12?14について
別件訂正特許発明12?14は別件訂正特許発明11を引用するものであるから、別件訂正特許発明11と同様、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
第7 むすび
以上のとおり、別件訂正特許発明1?6の特許は、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、無効とすることはできず、また、別件訂正特許発明7?14の特許は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その14分の6を請求人の負担とし、14分の8を被請求人の負担とする。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2015-04-22 
結審通知日 2015-04-24 
審決日 2015-05-08 
出願番号 特願2009-196728(P2009-196728)
審決分類 P 1 113・ 536- ZE (G09G)
P 1 113・ 841- ZE (G09G)
P 1 113・ 537- ZE (G09G)
P 1 113・ 855- ZE (G09G)
P 1 113・ 854- ZE (G09G)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 松岡 智也西島 篤宏北川 創  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 土屋 知久
伊藤 昌哉
登録日 2012-09-07 
登録番号 特許第5079759号(P5079759)
発明の名称 高ダイナミック・レンジ表示装置  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ