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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1310961
審判番号 不服2015-10242  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-02 
確定日 2016-03-01 
事件の表示 特願2011- 90614「薄膜太陽電池の製造方法、レーザ加工機」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月15日出願公開、特開2012-227188、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月15日の出願であって、平成26年4月17日付けで拒絶理由が通知され、同年5月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年7月28日付けで拒絶理由が通知され、同年9月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成27年2月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明(以下、本願の請求項1?3に係る発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成26年9月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1?本願発明3は、それぞれその請求項1?請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基板上に第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の製造方法であって、
基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点が第一の電極膜の材料の融点よりも低く、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、前記第一の電極膜を殆ど透過しないレーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、発電層のみまたは発電層及び第二の電極膜の両方を除去することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。」
「【請求項2】
第一の電極膜がモリブデンを含むものであり、
発電層がCIGS系、CIS系またはカルコパイライト系の結晶構造を含むものである請求項1記載の薄膜太陽電池の製造方法。」
「【請求項3】
基板上に第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池を製造する際に用いられるレーザ加工機であって、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するための、基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜を殆ど透過しないレーザ光を、第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、沸点が第一の電極膜の融点よりも低い発電層のみ、または、沸点が第一の電極膜の融点よりも低い発電層及び第二の電極膜の両方を除去するレーザ光照射手段を具備するレーザ加工機。」

第3 原査定の理由の概要
本願発明1?本願発明3は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?引用文献3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特許第4563491号公報
引用文献2:特開2009-177186号公報
引用文献3:特開2003-53559号公報
参考文献:F. J. Pern et al.,All-laser scribing for thin-film CuInGaSe_(2) solar cells,CONFERENCE RECORD OF THE 35TH IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE,2010年,pp.3479-3484

引用文献1の段落【0039】、【図15】には、薄膜太陽電池基板の裏面からレーザ光を照射して、光電変換層92を分離する溝921、又は、光電変換層92及び透明電極膜93を分離する溝931を形成する方法が開示されている。
また、引用文献1の段落【0021】には、上記光電変換層がCIGS層であってもよいこと、及び、裏面電極膜91がMoであってもよいことが開示されている。
そして、上記光電変換層及び裏面電極膜の構成材料によれば、本願請求項1に記載された「第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点が第一の電極膜の材料の融点よりも低く」の要件が満たされることは明らかである。
ここで、例えば引用文献2、3に開示されているように、下層にレーザ光を吸収させ、その際発生した熱により上層を除去する技術はよく知られた技術であるから、CIGS層及びMo電極からなる構成においても、上記の引用文献1に開示された方法によって、分離溝921又は931が形成可能なことは、当業者には自明である(必要であれば、参考文献の第3481頁左欄第9?18行も参照されたい。CIGS系太陽電池の分離溝形成の際に、Mo層にレーザエネルギを吸収させることが開示されている。)。
したがって、本願発明1?本願発明3は、引用文献1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 当審の判断
1 引用例の記載と引用発明
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に国内において頒布された刊行物である特許第4563491号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。)。

ア 「【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。はじめに、本実施形態のレーザ加工機1の用途の一つである、薄膜太陽電池の製造過程におけるレーザパターニング(換言すれば、アブレーション加工)に関して概説する。図15に例示するように、薄膜太陽電池は、透明基板9に積層膜、即ち透明導電膜91、非晶質半導体膜若しくは非晶質半導体膜と微結晶半導体膜との積層膜92、金属膜93を製膜して製造する。他の種類のものとして、CIGS系太陽電池の場合には、Mo等の裏面電極膜91、CIGS等の光電変換層92、ZnO等の透明導電膜93を製膜する。
【0022】
製造の手順としては、まず基板9上に透明導電膜91を製膜し、この透明導電膜91に波長1064nmのレーザビームを照射してこれを除去、分離溝911を形成する。次いで、透明導電膜91上に半導体膜92を製膜し、この半導体膜92に波長532nmのレーザビームを照射してこれを除去、分離溝921を形成する。分離溝911内には、半導体膜92が入り込む。さらに、半導体膜92上に金属膜93を製膜し、半導体膜92に波長532nmのレーザビームを照射して半導体膜92もろとも金属膜93を除去、分離溝931を形成する。分離溝921内には、金属膜93が入り込む。上述の工程を経て、分離溝931と分離溝911との間にあり分離溝921を介在させていない領域が光起電力素子として機能するものとなる。因みに、層と層との間に図示しない中間層を敷設することもある。
【0023】
本実施形態のレーザ加工機1は、薄膜太陽電池の製造工程において使用され、ガラス基板9の被加工面即ち上表面に製膜した透明導電膜91、光電変換膜92、裏面電極膜93等にレーザ光を照射して分離溝911、921、931等のパターニングを行うものである。」

イ 「【0038】
レーザ加工を実行するにあたっては、まず、薄膜91、92、93を製膜した被加工面を上にした基板9を前方から搬入する。即ち、搬送用クランパ(図示せず)で基板9の側縁をクランプしつつ搬送ユニット(図示せず)を駆動して、基板9を台枠4上に送り込み、台枠4に載置する。次いで、保定用押付板2を基板9の両側端面に押し付けて基板9を両側から挟持し、架台7に対して基板9を保定する。
【0039】
しかる後、加工ノズル3を所要の加工部位に移動させてレーザ光を上向きに発射し、基板9を透過させて被加工面にある薄膜91、92、93に照射する。具体的には、X軸ユニット322を前後方向に走行させながらパルスレーザを連続的に照射して、前後方向に延伸した分離溝911、921、931を薄膜91、92、93に形成する。同時に、横架フレーム53を前後方向に走行させることで集塵ノズル5をX軸ユニット322に追随させ、図9に示すように、吸引口511を恒常的にレーザ光の照射部位Lの直上に位置づける。その上で、集塵機を運転して、照射部位Lから発生する粉塵の集塵を行う。」

ウ 図9及び図15は以下のものである。


エ 上記ア【0023】、上記イ【0038】、【0039】の記載に照らして図9を見ると、薄膜91、92、93等を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3からレーザ光を上向きに発射し、基板9を透過させて被加工面にある薄膜91、92、93等に照射し、分離溝911、921、931等を形成することが理解できる。

オ また、上記ア【0022】には、「まず基板9上に透明導電膜91を製膜し、この透明導電膜91に波長1064nmのレーザビームを照射してこれを除去、分離溝911を形成」し、「次いで、透明導電膜91上に半導体膜92を製膜し、この半導体膜92に波長532nmのレーザビームを照射してこれを除去、分離溝921を形成」し、「さらに、半導体膜92上に金属膜93を製膜し、半導体膜92に波長532nmのレーザビームを照射して半導体膜92もろとも金属膜93を除去、分離溝931を形成」するという、製膜とレーザビーム照射を交互に行う製造工程が記載されており、その際の各レーザビーム照射を、上記エで述べたように、被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3からレーザ光を上向きに発射し、基板9を透過させて行うものと認められる。

(2)引用発明
ア 上記(1)ア乃至オより、引用例1には以下の発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(ア)引用発明1
「透明基板9に、透明導電膜91、非晶質半導体膜若しくは非晶質半導体膜と微結晶半導体膜との積層膜である半導体膜92、金属膜93を製膜して製造する薄膜太陽電池の製造工程であって、
まず基板9上に透明導電膜91を製膜し、この透明導電膜91を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長1064nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて透明導電膜91に照射してこれを除去、分離溝911を形成し、次いで、透明導電膜91上に半導体膜92を製膜し、この半導体膜92を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射してこれを除去、分離溝921を形成し、さらに、半導体膜92上に金属膜93を製膜し、この金属膜93を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射して、半導体膜92もろとも金属膜93を除去、分離溝931を形成する、薄膜太陽電池の製造工程。」

(イ)引用発明2
「透明基板9に、透明導電膜91、非晶質半導体膜若しくは非晶質半導体膜と微結晶半導体膜との積層膜である半導体膜92、金属膜93を製膜して製造する薄膜太陽電池の製造工程において使用されるレーザ加工機1であって、
まず、透明導電膜91を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長1064nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて透明導電膜91に照射してこれを除去、分離溝911を形成し、次いで、透明導電膜91上に半導体膜92を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射してこれを除去、分離溝921を形成し、さらに、半導体膜92上に金属膜93を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射して、半導体膜92もろとも金属膜93を除去、分離溝931を形成する、レーザ加工機1。」


(ア)この点、引用例1の上記(1)ア【0022】段落以下に記載されている「製造の手順」では、「まず基板9上に透明導電膜91を製膜し」、当該透明導電膜91上に製膜した半導体膜92それ自体に波長532nmのレーザビームを照射(即ち、直射)し、照射された半導体膜92の部位が除去されることによって、分離溝921または931が形成されると認められることから、当該半導体膜92の部位(以下、「半導体膜92の分離溝形成部位」と呼ぶ。)にまでレーザビームが到達することが必要である。そして、引用例1の上記(1)ア【0021】段落に記載された、「透明基板9に積層膜、即ち透明導電膜91、非晶質半導体膜若しくは非晶質半導体膜と微結晶半導体膜との積層膜92、金属膜93を製膜して製造」してなる「薄膜太陽電池」の場合には、透明導電膜91がレーザビームの大部分を透過することから、基板9の裏側の加工ノズル3から発射されたレーザビームは、透明基板9および透明導電膜91を透過して、半導体膜92の分離溝形成部位にまで到達することができるものと認められる。
(イ)しかしながら、同【0021】段落において引き続き記載された、「他の種類のものとして」の「CIGS系太陽電池の場合」には、「Mo等の裏面電極膜91、CIGS等の光電変換層92、ZnO等の透明導電膜93を製膜する」ところ、Moは波長532nmのレーザビームに対してほぼ不透明であることは技術常識であるから、「Mo等の裏面電極膜91」は「透明導電膜91」であるとはいえないことは明らかであり、しかも、基板9の裏側の加工ノズル3からレーザビームを発射したとしても、当該レーザビームは、「Mo等の裏面電極膜91」をほとんど透過せず、「CIGS等の光電変換層92」にまで到達することができないものと認められる。したがって、引用例1の【0022】段落以下に記載された、基板9の裏側の加工ノズル3から発射したレーザビームを用いて分離溝921または931を形成する工程は、前記「CIGS系太陽電池の場合」について記載したものではなく、しかも、当該工程は、前記「CIGS系太陽電池の場合」には適用できないものと認められる。
(ウ)さらに、引用例1の明細書及び図面全体をみても、前記「CIGS系太陽電池の場合」において、基板9の裏側の加工ノズル3から発射したレーザビームを用いて分離溝921または931を形成することが可能となるようなレーザビームの具体的な照射手法について何ら開示されていない。
(エ)そうすると、引用例1には、前記「CIGS系太陽電池の場合」において、基板9の裏側の加工ノズル3から発射したレーザビームを用いて分離溝921または931を形成することが記載されているとはいえず、したがって、「第3 原査定の理由の概要」において述べられているように「・・・引用文献1の段落【0021】には、上記光電変換層がCIGS層であってもよいこと、及び、裏面電極膜91がMoであってもよいことが開示されている。」とはいえない。

(3)引用例2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2009-177186号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0020】
前側電極層を、例えば酸化すず(SnO_(2))などの導電性の金属酸化物、とくにはフッ素をドープした酸化すず、あるいは他の材料で構成することができる。透明であること、導電性であること、レーザの発する赤外放射の少なくとも一部、好ましくは少なくとも0.5%、とくには少なくとも2%を吸収すること、および半導体層を下方に位置させている後ろ側電極層よりも熱的に安定であること、だけが必須である。」

イ 「【0023】
半導体層を、例えば非晶質、ナノ結晶、マイクロ結晶、または多結晶シリコンなどのシリコンで構成でき、あるいは例えばテルル化カドミウムなどといった他の半導体で構成することも可能である。半導体層は、例えば非晶質、ナノ結晶、マイクロ結晶、または多結晶シリコンなどのシリコンを含むことができ、あるいは例えばテルル化カドミウムなどといった他の半導体を含むことも可能である。」

ウ 「【0035】
図1によれば、光起電モジュール1が、例えばガラス板などの透明な基板2を有しており、基板2上に、3つの機能層、すなわち透明な前側電極層3、半導体薄膜層4、および後ろ側電極層5が、重ねて堆積させられている。」

エ 「【0040】
図2fが、隣り合う2つのセルの直列接続を、図1によるセルC_(1)およびC_(2)の例によって示している。図2a?2fによれば、直列接続されたセルC_(1)およびC_(2)は、以下のように製造される。
【0041】
前側電極層3で覆われたガラス基板2から出発して、分割線6が、例えば酸化すずで構成されている前側電極層3をパターン加工するために、例えば1064nmの波長を有するNd:YVO_(4)またはNd:YAGレーザなど、赤外放射を発するレーザ14のレーザビーム13の焦点を合わせることによって形成される。これは、前側電極層3がこの波長のレーザ放射を吸収することで、融解または気化することによって生じる。
【0042】
図2aにおいては、レーザビーム13が、ガラス基板3を介して前側電極層3へと向けられている。しかしながら、前側電極層3のパターン加工を、反対側から、すなわち前側電極層3へと直接向けられたレーザビームで行うことも可能である。
【0043】
このように形成されてパターン加工された図2bによる前側電極層3に、例えばシリコンで構成される半導体薄膜層4が、例えば化学蒸着によって堆積させられる。
【0044】
図2cに示されているように、例えば1064nmの波長を有するNd:YAGまたはNd:YVO_(4)レーザなど、同じ赤外放射を発するレーザ14が、半導体層4をパターン加工するために使用される。このレーザが、図2cに半導体層4の上方に配置されたレーザ14によって示されているように半導体層側から、あるいは図2cにガラス基板2の下方に配置されたレーザ13(審決注:「レーザ14」の誤記と認められる。)によって示されているようにガラス基板2を介して、半導体層4をパターン加工すべく分割線7を形成すべき領域において、2つの層3および4へと向けられ、すなわち合焦される。
【0045】
半導体層4は、この波長の放射をまったく吸収せず、あるいはきわめて少ししか吸収しないが、下方に位置する前側電極層3によるレーザ14のレーザ放射13の吸収が存在し、したがって前側電極層3が高温になる。その結果、より熱的に不安定である半導体層4が焼失、またはいずれにせよ除去されて、分割線7が形成され、分割線7の領域において前側電極層3が露出される。前側電極層3の損傷を理想的に避けるため、レーザ14の出力は、このプロセスの際に相応に小さくされる。
【0046】
次いで、パターン加工済みの前側電極層3およびパターン加工済みの半導体薄膜層4で覆われた図2dによるガラス基板2に、例えば金属で構成される後ろ側電極層5が、例えばスパッタ法によって成膜される。
【0047】
後ろ側電極層5をパターン加工するために、例えば1064nmの波長を有するNd:YVO_(4)またはNd:YAGレーザなど、同じIR放射を発するレーザ14が、随意による揺動光学装置15(例えば、拡大器、絞り、屈折/回折光学系)とともに、図2eに従って使用され、このレーザが、後ろ側電極層5をパターン加工すべく分割線8を形成すべき領域において、ガラス基板2を介して層3、4、5へと向けられ、すなわち合焦される。
【0048】
半導体層4は、この波長の放射をまったく吸収せず、あるいはきわめて少ししか吸収しないが、下方に位置する前側電極層3によるレーザ14のレーザ放射13の吸収が存在し、したがって前側電極層3が高温になる。その結果、より熱的に不安定である半導体層4が焼失、またはいずれにせよ除去されて、分割線7が形成され、分割線7の領域において前側電極層3が露出される。前側電極層3の損傷を避けるため、レーザ14の出力は、このプロセスの際に相応に小さくされる。
【0049】
後ろ側電極層5が、この波長の一部分しか吸収せず、半導体層4は、この波長の放射をまったく吸収せず、あるいはきわめて少ししか吸収しないが、半導体層4の下方の前側電極層3によるレーザ14のレーザ放射13の吸収が存在し、したがって前側電極層3が高温になる。その結果、より熱的に不安定である半導体層4および半導体層4の上方の後ろ側電極層5が、この領域において焼失、またはいずれにせよ除去されて、後ろ側電極層5の分割線8および分割線8と同一面である半導体層4のさらなる分割線9が形成される。前側電極層3の損傷を避けるため、レーザ14の出力は、このプロセスの際に相応に小さくされる。」

オ 図1、図2a乃至図2fは以下のものである。


カ 上記ア乃至オより、引用例2には以下の事項が記載されているといえる。

「ガラス板などの透明な基板2上に、透明な前側電極層3、半導体薄膜層4、および後ろ側電極層5が、重ねて堆積させられている、光起電モジュール1の製造方法であって、
透明な前側電極層3は、例えば酸化すず(SnO_(2))などの導電性の金属酸化物で構成することができ、レーザの発する赤外放射の少なくとも一部、好ましくは少なくとも0.5%、とくには少なくとも2%を吸収し、
半導体薄膜層4は、シリコンあるいは例えばテルル化カドミウムなどといった他の半導体で構成することができ、
ガラス基板2の下方に配置されたレーザ14のレーザ放射13が、ガラス基板2を介して、半導体層4をパターン加工すべく分割線7を形成すべき領域において、2つの層3および4へと向けられ、すなわち合焦され、半導体層4は、この波長の放射をまったく吸収せず、あるいはきわめて少ししか吸収しないが、下方に位置する前側電極層3によるレーザ14のレーザ放射13の吸収が存在し、したがって前側電極層3が高温になり、その結果、より熱的に不安定である半導体層4が焼失、またはいずれにせよ除去されて、分割線7が形成され、分割線7の領域において前側電極層3が露出され、
同じIR放射を発するレーザ14が、後ろ側電極層5をパターン加工すべく分割線8を形成すべき領域において、ガラス基板2を介して層3、4、5へと向けられ、すなわち合焦され、後ろ側電極層5が、この波長の一部分しか吸収せず、半導体層4は、この波長の放射をまったく吸収せず、あるいはきわめて少ししか吸収しないが、半導体層4の下方の前側電極層3によるレーザ14のレーザ放射13の吸収が存在し、したがって前側電極層3が高温になり、その結果、より熱的に不安定である半導体層4および半導体層4の上方の後ろ側電極層5が、この領域において焼失、またはいずれにせよ除去されて、後ろ側電極層5の分割線8および分割線8と同一面である半導体層4のさらなる分割線9が形成される、
光起電モジュール1の製造方法。」

(4)引用例3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-53559号公報(以下「引用例3」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。
(第1の実施形態)本発明の第1の実施形態を図1に示す。図1はパターン形成方法のプロセスを示す模式図である。図1において、1はガラス板、アルミナ若しくは窒化アルミニウムセラミックス板、金属箔若しくはテープ、又は樹脂膜、箔若しくはテープ等からなる基材であり、前記基材1には所望の膜2がコーティングされている。膜2は、基材1がガラス板、アルミナ若しくは窒化アルミニウム等のセラミックス板であればクロム、ニッケル等の金属の膜が使用されることが多く、また基材1が金属箔若しくはテープ、又は樹脂膜、箔若しくはテープであれば樹脂膜が使用されることが多い。膜2がコーティングされた係る基材1は、金属、ガラス、樹脂等からなるパターン形成対象物3に合わせてレーザ5を基材1に照射するものである。基材1が金属箔若しくはテープの場合には、レーザ5を照射した時、レーザの熱を金属箔若しくはテープが吸収して樹脂膜(膜2)が溶融し、パターン形成対象物3に付着し(図1(a))、膜パターン4がパターン形成対象物3に形成されるものである(図1(b))。・・・(後略)・・・」

イ 図1(a)及び図1(b)は以下のものである。


ウ 上記アの記載に照らして図1(a)および図1(b)を見ると、基材1の樹脂膜2とは反対側から、レーザ5を基材1に照射することが理解できる。

エ 上記ア乃至ウより、引用例3には以下の事項が記載されているといえる。

「樹脂膜2がコーティングされ、金属箔若しくはテープからなる基材1に、レーザ5を、基材1の樹脂膜2とは反対側から照射し、レーザ5の熱を金属箔若しくはテープからなる基材1が吸収して樹脂膜2が溶融し、パターン形成対象物3に付着し、膜パターン4がパターン形成対象物3に形成される、パターン形成方法。」

(5)引用例4
平成27年2月26日付け拒絶査定において参考文献として挙げられた、本願の出願前に外国において頒布された刊行物である、 F. J. Pern et al.,All-laser scribing for thin-film CuInGaSe_(2) solar cells,CONFERENCE RECORD OF THE 35TH IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE,2010年,pp.3479-3484 (以下「引用例4」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(なお、当審による訳文を括弧書きで付した。)。

ア 「INTRODUCTION
Thin-film photovoltaic CuInGaSe_(2) (CIGS) modules can be fabricated with monolithic integration using a scribing approach or with cell assembly similar to that for screenprinted crystalline Si cells. Although the latter is gaining popularity, especially for flexible CIGS modules, the all-laser-scribing approach can offer certain all-in-line advantages in terms of module manufacturing.・・・(後略)・・・」(3479頁左欄第2段落第1?7行)
(導入 薄膜光起電力CuInGaSe_(2) (CIGS)モジュールは、スクライビング(引っ掻き)アプローチを用いたモノリシック集積化、または、スクリーン印刷された複数の結晶シリコンセルに対して用いられるのと同様のセル集積化によって、製造することができる。後者が普及しているものの、特にフレキシブルなCIGSモジュールのためには、全レーザースクライビングのアプローチが、モジュール製造の観点から、所定のオール・イン・ラインの利点を提供することができる。)

イ「EXPERIMENTAL
・・・(前略)・・・ Figure 1 shows the typical component layers, thicknesses and the desired three scribe lines and a cross-section scanning electron microscope (SEM) image of NREL's high-efficiency CIGS solar cells. As depicted in Fig.1, the "practice" P1 samples were made of ?0.8-μm Mo with a bilayer feature sputter-deposited on 2-mm-thick soda-lime glass (SLG). For P2 samples, typical layers of 1.5?2-μm CIGS by NREL's 3-stage thermal co-evaporation, ?0.07-μm CdS by chemical-bath deposition (CBD), and 0.10-μm intrinsic-ZnO by sputtering were sequentially deposited, resulting in a structure of SLG/Mo/CIGS/CdS/i-ZnO. (審決注:表記の都合上、左上の始点と右下の終点を結ぶ斜線記号を、右上の始点と左下の終点を結ぶ斜線記号「/」に置き換えた。)A final layer of 0.12-μm 2% Al-doped ZnO was sputtered on top of the P2 structure, completing the P3 samples. A PyroFlex^(TM) 25 Yb-doped optical fiber laser was employed to perform the scribing at 1064 nm using programmable pulse shape, train, and intensity with duration varying from 2 to 250 ns at a repetition rate up to 500 kHz.」(3479頁右欄下から7行目?3480頁左欄第11行)
(実験 図1は、NRELの高効率CIGS太陽電池の典型的な構成層、層厚、要求される3本のスクライブ(引っ掻き)線および走査電子顕微鏡(SEM)による断面像を示す。図1において描かれているように、「実行」P1サンプルは、2mm厚のソーダライムガラス(SLG)上に2層式でスパッタ堆積された約0.8μmのMoによって作製された。P2サンプルのために、NRELの3段階熱共蒸着による1.5?2μmのCIGS、化学浴析出法(CBD)による約0.07μmのCdS、およびスパッタリングによる0.10μmの真性-ZnOからなる、典型的な積層体が、引き続き堆積され、その結果、SLG/Mo/CIGS/CdS/i-ZnOの構造が得られた。P2構造の頂上に0.12μmの2%AlドープされたZnOの最終層がスパッタされ、P3サンプルが完成した。PyroFlex^(TM) Ybドープされた光ファイバレーザを採用することにより、プログラム可能なパルスの形状、列、および強度を用い、最大500kHzまでの繰り返しレートにおいて2から250nsまでパルス持続時間を変化させて、波長1064nmにおけるスクライビングを実行した。)

ウ「P2 Scribe. The P2 scribing step required the removal of i-ZnO/CdS/CIGS, at a total thickness of ?2μm, from the Mo surface. To scribe it properly, the i-ZnO/CdS/CIGS multilayer has to be transparent to the laser light so that the laser light can hit on the Mo.」(3481頁左欄第9?13行)
(P2 スクライブ P2スクライビングステップは、Mo表面からの、全体の厚さ約2μmのi-ZnO/CdS/CIGSの除去を必要とした。これを適切にスクライブする(引っ掻く)ためには、レーザ光がMo上に当たることができるように、i-ZnO/CdS/CIGS多層膜はレーザ光に対して透明でなければならない。)

エ 図1は以下のものである。


オ 上記ア乃至エより、引用例4には以下の事項が記載されているといえる。

「2mm厚のソーダライムガラス(SLG)上に、約0.8μmのMo、1.5?2μmのCIGS、約0.07μmのCdS、0.10μmの真性-ZnOが堆積された、SLG/Mo/CIGS/CdS/i-ZnOのP2構造の頂上に、0.12μmの2%AlドープされたZnOの最終層がスパッタされ、P3サンプルが完成する、CIGS太陽電池において、P2スクライビングステップは、Mo表面からの、全体の厚さ約2μmのi-ZnO/CdS/CIGSの除去を必要とし、これを適切にスクライブする(引っ掻く)ためには、レーザ光がMo上に当たることができるように、i-ZnO/CdS/CIGS多層膜はレーザ光に対して透明でなければならないこと。」

2 対比・判断
(1)本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「透明基板9に、透明導電膜91、非晶質半導体膜若しくは非晶質半導体膜と微結晶半導体膜との積層膜である半導体膜92、金属膜93を製膜して製造する、薄膜太陽電池の製造工程」と、本願発明1の「基板上に第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の製造方法」とは、「基板上に第一の電極膜、発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の製造方法」の点で一致する。

イ 引用発明1では、「まず基板9上に透明導電膜91を製膜し」「透明導電膜91上に半導体膜92を製膜」するところ、半導体膜92がその材料、組成に応じた所定値の沸点を有することは明らかであるから、引用発明1と本願発明1とは、「基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点」が所定の値である点で一致する。

ウ 引用発明1の「この半導体膜92を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射してこれを除去、分離溝921を形成」すること、または「この金属膜93を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射して、半導体膜92もろとも金属膜93を除去、分離溝931を形成する」ことと、本願発明1の「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、前記第一の電極膜を殆ど透過しないレーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、発電層のみまたは発電層及び第二の電極膜の両方を除去する」こととは、「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、レーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射することにより、発電層のみまたは発電層及び第二の電極膜の両方を除去する」点で一致する。

エ 以上をまとめると、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「基板上に第一の電極膜、発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池の製造方法であって、
基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点が所定の値であり、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際、レーザ光を第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射することにより、発電層のみまたは発電層及び第二の電極膜の両方を除去することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。」

<相違点1>
「発電層」に関して、本願発明1では「非シリコン系」であるのに対し、引用発明1ではそのような特定がなされていない点。

<相違点2>
「基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点」に関して、本願発明1では、当該沸点が「第一の電極膜の材料の融点よりも低」いのに対し、引用発明1では、当該沸点が所定の値であるものの、「第一の電極膜の材料の融点よりも低」いことまでは特定されていない点。

<相違点3>
「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際」に用いられる「レーザ光」に関して、本願発明1では「前記第一の電極膜を殆ど透過しない」のに対し、引用発明1では、そのようなものではない点。

<相違点4>
「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際」に「第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射」した「レーザ光」を、本願発明1では、「第一の電極膜」に照射するのに対して、引用発明1では、「発電層」に相当する半導体膜92に照射する点。

(2)本願発明1についての判断
相違点1?相違点4について検討する。
本願発明1は、「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際」に用いられる「レーザ光」が「第一の電極膜を殆ど透過しない」(上記<相違点3>を参照)ような当該「第一の電極膜」に重ねて製膜される「非シリコン系」発電層(上記<相違点1>を参照)の「沸点」が「第一の電極膜の材料の融点よりも低」い(上記<相違点2>を参照)ことを用い、「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際」に「第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射」した「レーザ光」を「第一の電極膜」に照射する(上記<相違点4>を参照)ことにより、本願明細書の【0009】、【0019】段落等に記載のとおり、「レーザ光」の照射を受けた「第一の電極膜」が加熱され、この熱が「発電層」に伝わって「発電層」が加熱され、「発電層」の材料を一部分解・気化させて「発電層」を除去し、もって、「発電層のみまたは発電層及び第二の電極膜の両方を除去する」ものである。
このように、相違点1?相違点4は相互に関連するので、まとめて検討する。


(ア)引用例2には、上記1(3)カで述べた事項が記載されており、「半導体層4は、この波長の放射をまったく吸収せず、あるいはきわめて少ししか吸収しないが、下方に位置する前側電極層3によるレーザ14のレーザ放射13の吸収が存在し、したがって前側電極層3が高温になり、その結果、より熱的に不安定である半導体層4が焼失、またはいずれにせよ除去されて、分割線7が形成され」るものであるところ、引用例2における「前側電極層3」は「透明」であって、「レーザの発する赤外放射の少なくとも一部、好ましくは少なくとも0.5%、とくには少なくとも2%を吸収」するに過ぎず、「前側電極層3」における「レーザ放射13」の透過率は相当程度高いと認められるから、本願発明1のように、「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するレーザ加工工程の際」に用いられる「レーザ光」が「第一の電極膜を殆ど透過しない」(上記<相違点3>を参照)とはいえない。
(イ)また、引用例2には、「前側電極層3」の材料の例として酸化すず(SnO_(2))が、「半導体薄膜層4」の材料の例としてシリコンまたはテルル化カドミウムが、それぞれ挙げられているが、酸化すず(SnO_(2))の融点は1127℃である一方、シリコンの沸点は2357℃、テルル化カドミウムの沸点は1130℃であることから、「半導体薄膜層4」の材料の沸点が「前側電極層3」の材料の融点よりも高いことになる。したがって、本願発明1のように、「基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜に重ねて製膜される発電層の材料の沸点」が「第一の電極膜の材料の融点よりも低」い(上記<相違点2>を参照)とはいえない。
(ウ)よって、引用発明1において、引用例2に開示の技術を組合わせたとしても、本願発明1の相違点2及び相違点3に係る構成を導くことはできない。
(エ)また、上記(ア)で述べたとおり、引用例2では、「前側電極層3」における「レーザ放射13」の透過率は相当程度高いと認められるのに対して、引用例1の【0021】段落に記載された「CIGS系太陽電池の場合」(上記1(2)イにおける検討を参照)には、Mo等の裏面電極膜91の透過率はきわめて低いと考えられることから、引用例2に開示の技術を参酌しても、引用発明1の製造方法を、引用例1の【0021】段落に記載された「CIGS系太陽電池の場合」に適用しようとする動機付けとなるものではない。


(ア)次に、引用例3には、上記1(4)エで述べた事項が記載されているところ、引用例3は、パターン形成対象物3上に所望の膜パターン4を形成することを目的とするものであって、引用例1のように、基板上に第一の電極膜、発電層及び第二の電極膜が積層されてなる太陽電池の製造に関するものではない。
(イ)また、引用例3において、金属からなる基材1にレーザ光を照射し、基材1によりレーザ光が吸収されることにより発生した熱によって、基材1上の樹脂膜2が溶融、除去されるとしても、基材1はレーザ光を吸収する性質を有するものであって、かつ、溶融、除去されるのは「樹脂」膜である。これに対して、引用発明1における「透明導電膜91」はレーザ光を吸収する性質を有するものではなく、かつ、除去される「半導体膜92」は「半導体」膜であるから、引用発明1に引用例3に開示の技術を組合わせようとすることが技術的にみて合理的であるとはいえない。
(ウ)よって、引用発明1において、引用例3に開示の技術を組合わせる動機付けがなく、引用発明1とともに引用例3に開示の技術を参酌したとしても、本願発明1の相違点1乃至4に係る構成を導くことはできない。
(エ)また、上記(イ)で述べたとおり、引用例3では、溶融、除去されるのは「樹脂」膜であるのに対して、引用例1の【0021】段落に記載された「CIGS系太陽電池の場合」(上記1(2)イにおける検討を参照)には、分離溝を形成するために部分的に除去すべき光電変換層は、Cu、In、Ga、Seからなる「CIGS」層であるから、引用例3に開示の技術を参酌しても、引用発明1の製造方法を、引用例1の【0021】段落に記載された「CIGS系太陽電池の場合」に適用しようとする動機付けとなるものではない。


(ア)次に、引用例4には、上記1(5)オで述べた事項が記載されているところ、「レーザ光がMo上に当たることができるように、i-ZnO/CdS/CIGS多層膜はレーザ光に対して透明でなければならない」ことからみて、基板上に製膜された積層膜(Mo電極膜およびi-ZnO/CdS/CIGS多層膜)の側からレーザ光を照射し、i-ZnO/CdS/CIGS多層膜からなる発電層を透過したレーザ光が、Mo電極膜上に当たるものと認められる。そして、レーザ光が当たったMo電極膜が加熱され、この熱が、i-ZnO/CdS/CIGS多層膜からなる発電層に伝わり、当該発電層が加熱され、Mo電極膜の表面から除去されるものと認められる。
(イ)しかしながら、上述のとおり、引用例4では、基板上に製膜された積層膜の側からレーザ光を照射するのであって、基板の積層膜が製膜される側とは反対側から基板母材越しにレーザ光を第一の電極膜に照射する引用発明1とは、レーザ光の照射方向が異なることから、引用例4に開示の技術を参酌しても、引用発明1の製造方法を、引用例1の【0021】段落に記載された「CIGS系太陽電池の場合」(上記1(2)イにおける検討を参照)に適用しようとする動機付けとなるものではない。
(ウ)よって、引用例4に開示の技術を参酌しても、本願発明1の相違点1乃至4に係る構成を導くことはできない。

エ したがって、本願発明1は、当業者が引用発明1および引用例1乃至4に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2についての判断
本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明1および引用例1乃至4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明3と引用発明2との対比
本願発明3と引用発明2とを対比する。

ア 引用発明2の「透明基板9に、透明導電膜91、非晶質半導体膜若しくは非晶質半導体膜と微結晶半導体膜との積層膜である半導体膜92、金属膜93を製膜して製造する薄膜太陽電池の製造工程において使用されるレーザ加工機1」と、本願発明3の「基板上に第一の電極膜、非シリコン系発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池を製造する際に用いられるレーザ加工機」とは、「基板上に第一の電極膜、発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池を製造する際に用いられるレーザ加工機」の点で一致する。

イ 本願発明3の「発電層」は、その「沸点」が「第一の電極膜の融点よりも低い」ものであるところ、引用発明2の「半導体膜92」がその材料、組成に応じた所定値の沸点を有することは明らかであるから、引用発明2と本願発明3とは、「発電層」の沸点が所定の値である点で一致する。

ウ 上記イを踏まえると、引用発明2の「透明導電膜91上に半導体膜92を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射してこれを除去、分離溝921を形成し、さらに、半導体膜92上に金属膜93を製膜した被加工面を上にした基板9の裏側の加工ノズル3から波長532nmのレーザビームを上向きに発射し、基板9を透過させて半導体膜92に照射して、半導体膜92もろとも金属膜93を除去、分離溝931を形成する」ことと、本願発明3の「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するための、基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜を殆ど透過しないレーザ光を、第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射して第一の電極膜に照射することにより、沸点が第一の電極膜の融点よりも低い発電層のみ、または、沸点が第一の電極膜の融点よりも低い発電層及び第二の電極膜の両方を除去するレーザ光照射手段を具備する」こととは、「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するためのレーザ光を、第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射することにより、沸点が所定の値である発電層のみ、または、沸点が所定の値である発電層及び第二の電極膜の両方を除去するレーザ光照射手段を具備する」点で一致する。

エ 以上をまとめると、本願発明3と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「基板上に第一の電極膜、発電層及び第二の電極膜が積層されてなる薄膜太陽電池を製造する際に用いられるレーザ加工機であって、
発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するためのレーザ光を、第一の電極膜及び発電層が製膜される面の裏側から基板母材越しに照射することにより、沸点が所定の値である発電層のみ、または、沸点が所定の値である発電層及び第二の電極膜の両方を除去するレーザ光照射手段を具備するレーザ加工機。」

<相違点1>
「発電層」に関して、本願発明3では「非シリコン系」であるのに対し、引用発明2ではそのような特定がなされていない点。

<相違点2>
「発電層」の「沸点」に関して、本願発明3では、当該沸点が「第一の電極膜の融点よりも低い」のに対し、引用発明2では、当該沸点が所定の値であるものの、「第一の電極膜の融点よりも低い」ことまでは特定されていない点。

<相違点3>
「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するための」「レーザ光」に関して、本願発明3では「基板母材の一方の表面に製膜される第一の電極膜を殆ど透過しない」のに対し、引用発明2では、そのようなものではない点。

<相違点4>
「発電層をセル単位に分割する分離溝を形成するための」「レーザ光」を、本願発明3では、「第一の電極膜」に照射するのに対して、引用発明2では、「発電層」に相当する半導体膜92に照射する点。

(5)本願発明3についての判断
上記<相違点1>乃至<相違点4>に係る本願発明3が有する構成は、上記(1)エで検討した<相違点1>乃至<相違点4>に係る本願発明1が有する構成と同様のものである。
したがって、上記(2)で述べたのと同様の理由により、本願発明3は、当業者が引用発明2および引用例1乃至4に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1および2に係る発明は、当業者が引用発明1および引用例1乃至4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、本願の請求項3に係る発明は、当業者が引用発明2および引用例1乃至4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-02-18 
出願番号 特願2011-90614(P2011-90614)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 元彦眞壁 隆一  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 星野 浩一
▲高▼ 芳徳
発明の名称 薄膜太陽電池の製造方法、レーザ加工機  
代理人 宮澤 岳志  
代理人 赤澤 一博  
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