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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1311120
審判番号 不服2014-11186  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-12 
確定日 2016-02-10 
事件の表示 特願2010-543215「EGFL8アンタゴニストを使用する血管新生阻害方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月23日国際公開、WO2009/091810、平成23年 3月31日国内公表、特表2011-510011〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2009年 1月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年 1月14日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。
平成22年 9月13日 国際出願翻訳文提出書
平成25年 4月22日付け 拒絶理由通知書
平成25年 7月31日 意見書・手続補正書
平成26年 1月30日付け 拒絶査定
平成26年 6月12日 手続補正書・審判請求書
平成26年 7月30日 手続補正書(審判請求書)
平成27年 1月19日付け 審尋
なお、審尋に対する指定期間である3ヶ月を過ぎても、請求人からは何ら回答はなかった。

2 本願発明
平成26年 6月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
EGFL8アンタゴニストを含む、血管新生を減少させ又は阻害するための医薬であって、EGFL8アンタゴニストが抗EGFL8アンタゴニスト抗体、アンチセンスRNA又はDNAコンストラクト、阻害性二本鎖RNA、リボザイム、トリプルヘリックス形成における核酸、又はRNAiである、医薬。」
この請求項1に記載された事項により特定される発明を以下、「本願発明」という。

3 原査定の拒絶の理由
平成26年 1月30日付け拒絶査定には、以下の記載がある。
「 この出願については、平成25年 4月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由3-5によって、拒絶をすべきものです。」

また、平成25年 4月22日付け拒絶理由通知書には、理由3及び4について、以下の記載がある。

「この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から3か月以内に意見書を提出してください。

理 由
・・・
3.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・・・


・・・
(C)
・理由 3、4
・備考
請求項1-14に係る発明は、『EGFL8アンタゴニスト』を用いた血管新生を減少又は阻害する方法に関する発明である。
しかしながら、本願明細書の実施例においては、EGFL8のノックアウトマウスを製造し、角膜の血管密度が野生型マウスのものよりも半分程度少なくなったことが示されているものの、抗体等を用いて腫瘍などのその他部位における血管新生を減少又は阻害したことについての具体的記載はなく、特に、EGFL8アンタゴニストとして血管新生を減少又は阻害できるような抗体やペプチド、受容体の可溶性断片、アンチセンスRNA等が実際に得られたことの記載もないから、それらアンタゴニストを用いて該治療効果を得ることができるものとまでは言えず、そのような活性を有するアンタゴニストがあるとする技術常識があったとも認められない。さらに、EGFL8の受容体の存在や具体的な受容体を特定した記載もないから、該不明な受容体の可溶性断片を取得できるかも不明であり、そのような存在するのかも不明な化合物についてはなおさら実施できる程度に記載のないものである。
してみると、本願明細書の記載からは、上記請求項に記載された『EGFL8アンタゴニスト』全般に対して、実際に血管新生の減少や阻害する薬剤として機能することが明らかなものとは認められないから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないし、上記請求項に係る発明にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。」

4 当審の判断
当審は、原査定のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合せず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しておらず、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものであると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

(1)特許法第36条第4項第1号への適合性(いわゆる実施可能要件)の検討
ア 特許法第36条第4項第1号の規定について
請求項1の記載からみて、本願発明は、EGFL8アンタゴニストを含む、血管新生を減少させ又は阻害するための医薬であって、EGFL8アンタゴニストが抗EGFL8アンタゴニスト抗体、アンチセンスRNA又はDNAコンストラクト、阻害性二本鎖RNA、リボザイム、トリプルヘリックス形成における核酸、又はRNAiであるEGFL8アンタゴニストを含み、その薬理作用を利用して、血管新生を減少させ又は阻害するための医薬とする点に技術的特徴を有する物の発明であると認められる。
医薬の発明のような物の発明の実施とは、その物を製造し、使用することを含むから、医薬の発明について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するといえるためには、発明の詳細な説明の記載から、当業者がその発明の医薬を製造することができ、その発明の医薬を使用できる程度の記載がされている必要がある。ここで、医薬を使用するということは、本件においては、本願発明の医薬を用いて、血管新生を減少させ又は阻害するための医薬としての薬理作用を発揮させることに他ならない。
そこで、これらの観点から、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するといえるかを検討する。

イ EGFL8アンタゴニストを有効成分とする医薬の製造可能性について
発明の詳細な説明の【0015】【0058】-【0072】には、抗体、アンチセンスRNA又はDNAコンストラクト、阻害性二本鎖RNA、リボザイム、トリプルヘリックス形成における核酸、又はRNAiなどのアンタゴニストとなり得る物質の種類が挙げられ、その一般的な作製方法が概説されている。また、発明の詳細な説明には、これらの種類の物質の中から、アンタゴニストを得る手段について、【0037】-【0057】にスクリーニングアッセイの方法が記載され、【0097】-【0114】に、一般的な抗体の作製方法が記載されている。
しかし、発明の詳細な説明には、EGFL8アンタゴニストを含む医薬を実際に製造した具体的実施例は記載されておらず、EGFL8アンタゴニストであるといえるような何らかの物質を得たことも記載されていない。また、発明の詳細な説明には、EGFL8アンタゴニストが記載された公知文献も示されてもおらず、現実に、本願にいうEGFL8アンタゴニストである抗体、アンチセンスRNA又はDNAコンストラクト、阻害性二本鎖RNA、リボザイム、トリプルヘリックス形成における核酸、又はRNAiが存在するのかも定かではない。
このような発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者がEGFL8アンタゴニストを得て、本願発明の医薬を製造しようとする場合には、試行錯誤により、EGFL8アンタゴニストの候補となる物質を設計して製造し、EGFL8アンタゴニスト活性を評価することになる。
EGFL8活性のアンタゴニストの同定については、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【0015】 『アンタゴニスト』なる用語は、最も広い意味で用いられ、EGFL8の生物学的活性を部分的に又は完全に阻止(ブロック)し、阻害し、又は中和する任意の分子を含む。適切なアンタゴニスト分子は、特にアンタゴニスト抗体又は抗体断片、天然EGFL8ポリペプチドの断片又はアミノ酸配列変異体、EGFL8レセプターの可溶型断片、ペプチド、アンチセンスRNA、リボザイムRNAi、小有機分子等々を含む。EGFL8ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法は、EGFL8ポリペプチドと候補アンタゴニスト分子を接触させ、通常はEGFL8ポリペプチドに関連している一又は複数の生物学的活性の検出可能な変化を測定することを含みうる。
【0016】 ここでの目的のための『活性な』又は『活性』とは、EGFL8の生物学的及び/又は免疫学的活性を保持するEGFL8の形態を意味し、その中で、『生物学的』活性とは、EGFL8が保持する抗原性エピトープに対する抗体の生産を誘導する能力以外の、EGFL8によって引き起こされる生物機能(阻害又は刺激)を指す。EGFL8の主要な生物学的活性は、血管形成を促進し内皮細胞接着及び遊走を支援するその能力である」

「【0038】 EGFL8活性のアンタゴニストの調製と同定
アンタゴニスト薬剤候補のスクリーニングアッセイはEGFL8ポリペプチドに結合し又はそれと複合化するか、又はEGFL8の他の細胞性タンパク質との相互作用を妨害等する化合物を同定するために設計される。
【0039】 小分子はEGFL8アンタゴニストとして作用する能力を有している場合があり、よって治療的に有用である場合がある。かかる小分子は、天然に生じる小分子、合成有機又は無機化合物及びペプチドを含みうる。しかし、本発明における小分子はこれらの形態に限られない。小分子の広範なライブラリーが商業的に利用可能で、所望の活性についてこれらの分子をスクリーニングするための広範囲のアッセイが当該分野でよく知られている。
【0040】 ある実施態様では、EGFL8の生物学的活性の一又は複数を阻害するその能力によって、小分子EGFL8アンタゴニストが同定される。而して、候補化合物がEGFL8と接触させられる。ついで、EGFL8の生物学的活性が評価される。一実施態様では、内皮細胞接着及び遊走を支持するEGFL8の能力である。EGFL8の生物学的活性が阻害される化合物がアンタゴニストとして同定される。
EGFL8アンタゴニストとして同定される化合物を本発明の方法で使用することができる。例えば、EGFL8アンタゴニストを、癌を治療するために使用することができる。」

発明の詳細な説明の上記記載から、EGFL8アンタゴニストを同定するために測定されるEGFL8に関連する生物活性として、血管形成の促進と、内皮細胞接着及び遊走があることは理解できる。しかし、EGFL8アンタゴニストとなる物質の具体的な構造に関する情報が記載されていない発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者がEGFL8アンタゴニストを得ようとする場合には、製造した候補物質について逐一、血管形成の促進、内皮細胞接着及び遊走という、組織や細胞を用いて、その形態変化を観察して評価する必要があるだけでなく、そもそも、EGFL8アンタゴニストとなる物質が実在するかどうかも定かでなく、EGFL8アンタゴニスト活性を示す物質が得られる保証は全くない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて、EGFL8アンタゴニストを得て、本願発明の医薬を製造するには、その当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤の負担があるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされたものであるとはいえない。

ウ EGFL8アンタゴニストを有効成分とする医薬の使用可能性について
発明の詳細な説明には、EGFL8遺伝子のノックアウトマウスを用いた実験について、以下の記載がある。

「【0142】 実施例2 Egfl8ノックアウトマウスは血管新生に欠陥を示す
LacZ及びネオマイシン耐性遺伝子と置換されたEgfl8のエキソン2-7でコンストラクトを作製し、標準的な相同組換え法を使用してEgfl8ノックアウトマウスを生成するために使用した(図2参照)。得られたノックアウト対立遺伝子はEGFL8の最初の35アミノ酸をコードするのみであり、その28がシグナル配列をコードする。Egfl8ヘテロ接合性ノックアウトマウス(Egfl8+/-)をEgfl7+/-マウス(Schmidt等,Development,134(16):2913-23.(2007)に記載)に交雑させて、二重のヘテロ接合性マウス(Egfl7-/-Egfl8-/-)を作製した。
・・・
【0145】 野生型及びEgfl7-/-網膜(データは示さず)、並びにEgfl7+/-、Egfl8-/-網膜(図3の左側パネル)において、我々は、NFL血管から血管新生を発芽させることによって形成される個々の垂直の出芽の正常な分布と形態を観察した。しかしながら、Egfl7-/-、Egfl8-/-網膜(図3の右側パネル)では、垂直な出芽は共にクラスター化し、異常に大きい出芽を形成していた。よって、これらの結果は、Egfl7とEgfl8が一緒になって網膜のより深い層での出芽血管新生を制御するように作用することを示している。何れかの遺伝子だけの喪失は血管形成異常を引き起こすには不十分である。
【0146】 次に、我々は、マウス角膜における血管新生のモデルでEgfl8変異体の表現型を分析した(例えば、Kenyon等,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.37:1625-32(1996)を参照)。・・・FITCによって標識された新血管領域並びに角膜サイズをコンピュータ支援画像解析(Image-ProPlus6.0,MediaCybernetics)を使用して測定した。血管領域の割合は、式:(新血管面積/角膜サイズ)×100に従って計算した。
【0148】 我々は、Egfl8-/-マウスの角膜血管密度が野生型マウスのものの半分より僅かに少ないことを知見した(図4)。これらの結果から、Egfl8が単独で血管新生においてある役割を担っていることが確認される。」

上記の【0142】から【0145】に記載された実験は、マウスにおいて網膜の血管新生に対するEgfl7及びEgfl8遺伝子ノックアウトの影響を調べたものであり、【0145】に「Egfl7+/-、Egfl8-/-網膜(図3の左側パネル)において、我々は、NFL血管から血管新生を発芽させることによって形成される個々の垂直の出芽の正常な分布と形態を観察した。」「何れかの遺伝子だけの喪失は血管形成異常を引き起こすには不十分である。」と記載されるとおり、EGFL8が存在しない場合でも、血管形成に影響がなかったと理解できる。そうすると、この実験からは、EGFL8アンタゴニストが血管新生を減少させ又は阻害し、病気の治療に用いることのできる医薬として使用できるとはいえない。
また、上記【0146】から【0148】に記載された実験においては、【0148】に「Egfl8-/-マウスの角膜血管密度が野生型マウスのものの半分より僅かに少ないことを知見した(図4)。これらの結果から、Egfl8が単独で血管新生においてある役割を担っていることが確認される。」と記載され、Egfl8-/-マウスにおいても、野生型マウスの50%弱の血管新生が観察されている。そうすると、発明の詳細な説明には、実際にアンタゴニストによりEGFL8の活性を阻害して血管新生を減少又は阻害した具体例が示されておらず、EGFL8の活性を全く持たないEgfl8-/-マウスにおいてすら、血管新生が50%程度減少するにすぎず、完全には阻止されないのであるから、仮に、EGFL8アンタゴニストが存在するとしても、EGFL8アンタゴニストを用いた場合の血管新生の減少又は阻害の程度が、医薬として治療等に使用できる程の薬効を示すものであるとは理解できない。

エ 小括
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載からは、本願発明におけるEGFL8アンタゴニストを有効成分とする本願発明の医薬を当業者が製造することができるとはいえず、また、本願発明の医薬を血管新生を減少させ又は阻害するための医薬として使用することができるとはいえないから、本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものでない。

(2)特許法第36条第6項第1号への適合性(いわゆるサポート要件)の検討
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により本願出願時における当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても本願出願時における当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件については、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。
ここで、本願発明は、上述のとおり、EGFL8アンタゴニストを有効成分とする血管新生を減少させ又は阻害するための医薬の発明であって、その課題は、EGFL8アンタゴニストによってヒトの患者における血管新生を減少させ又は阻害するという薬理作用をもたらすことにほかならない。
しかしながら、(1)イで述べたように、発明の詳細な説明には、当業者がEGFL8アンタゴニストを入手して、本願発明の医薬が製造可能なように記載されておらず、EGFL8アンタゴニストは発明の詳細な説明に記載がなくとも、当業者がその存在を認識可能なものであるという事情も存在しない。また、上記(1)ウで述べたように、発明の詳細な説明には、上記医薬が上記薬理作用を示すことを本願出願時における当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえないし、上記組成物が上記薬理作用を示すことは本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、上記薬理試験結果の記載がなくとも上記組成物が上記薬理作用を示すと本願出願時における当業者が認識できるといえる、格別の事情も見いだせない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により本願出願時における当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくても本願出願時における当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在しないにもかかわらず、本願明細書の特許請求の範囲には本願発明が記載されているから、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

(3)上記(1)及び(2)に関する審判請求人の主張についての検討
請求人は、参考資料1?5を提出し、平成26年 7月30日付け手続補正により補正された審判請求書の「(3)拒絶理由に対する意見」の「理由3、4について」において、概略以下の主張をしている。

「 本明細書の開示、特に実施例における網膜脈管構造の実験及び角膜の微小ポケットアッセイは、一般的に血管新生と関連した病理症状のモデルとなるとしてこの技術分野で一般的に許容されているアッセイの使用に基づいて、本願特許請求の範囲に記載される発明を十分にサポートを提供するものであると思料します。
上述したように、本願の開示は、EGFL8が血管新生の過程に関連することを初めて証明したものであります。例えば、実施例1で行われた実験は、血管新生が起こっているマウス胚においてEGFL8の発現が動脈分岐階層に制限されていることを示しております(本明細書の第0141段落を参照ください)。さらに、同様のインビボにおけるマウス腫瘍モデルの実験は、EGFL8が腫瘍における特定の血管において発現していることを示しております(本明細書の第0141段落)。実施例2では、EGFL8ノックアウトマウスが網膜における血管形成異常(本明細書の第0145段落)及び角膜の微小ポケットアッセイにおいて野生型マウスのものの半分より僅かに少ない血管新生が起こることが示されております(本明細書の第0148段落)。したがって、本明細書の実施例は、明確に、初めてEGFL8が血管新生において重要な役割を担っていることを、1)EGFL8発現が哺乳動物の胚発生時に動脈分岐及び腫瘍の血管において標準的に観察されること;及び2)哺乳動物におけるegfl8遺伝子の破壊が出生後のマウス及び成体における血管新生の異常と関連していることを示すことにより証明しております。
よって、本願における実験は、血管新生に関連した疾患の治療において、治療的阻害の標的としてEGFL8の関連を確立するものであります。EGFL8の血管新生への関与が確立されたことにより、当業者であれば、EGFL8アンタゴニストを用いたEGFL8の阻害が、実施例2においてEGFL8ノックアウトマウスで観察された血管形成の妨害と同様に、血管新生を妨害するであろうと予測するものと思料します。
例えば、網膜における出生後の血管の発達へのegfl8遺伝子破壊の影響を詳述している実施例2で行われた実験は、一般的に血管新生破壊のモデルとしてこの技術分野において一般的に用いられております。これは、「出生直後、マウス網膜は、明確に定義された一連の事象において型通りの血管パターンを発達させるからであります(Ridway等、2006,Nature,444:1083-1087(手続補足書の参考資料2として平成25年8月1日付けで提出)の第1083頁、右欄、第2段落を参照ください)。したがって、血管新生を研究する研究者達は、幅広い血管新生に関連する病理症状を治療するための潜在的な抗血管新生療法の効果を試験するために、この「明確に定義された」血管形成のモデルをよく用います。例えば本出願のように、Ridway等は、Delta様リガンド4(Dll4)タンパク質が「活発な血管新生において非常に重要であること」を測定し、「Dll4を標的とすることは、固形腫瘍の治療において、広範に有効であり、良好な耐容性を示すこと」を推量するためにこの血管新生モデルを用いております(参考資料2、第1086頁、左欄、第1段落)。したがって、実施例2に記載される網膜血管新生の出生後のモデルにおける血管異常に基づいて、当業者は、本願の開示が活発な血管新生における血管形成におけるEGFL8の重要性をサポートするものであると結論付けるだけでなく、EGFL8の阻害が血管新生に関連した病理症状(例えば固形腫瘍)を治療するのに幅広く適用できることをサポートするものであると結論付けるものと思料します。
さらに、実施例2において発明者等が用いた角膜微小ポケットアッセイは、一般的な血管新生を研究するための成体の血管形成モデルとして一般的に用いられております。例えば、Klauber等は、スピロノラクトンがインビボで抗血管新生活性を有することを示すために、角膜微小ポケットアッセイを用いております(Klauber等、1996,Circulation,94:2566-2571:手続補足書の参考資料3として平成25年8月1日付けで提出)。角膜微小ポケットアッセイの結果にある程度基づくと、筆者等は、上記の薬剤が固形腫瘍増殖、黄斑変性、血管腫及び乾癬などの「血管新生に依存する様々な疾患の治療に有用である」と結論付けております(第2571頁を参照ください)。このアッセイは、哺乳動物の前肢出生異常などの異常な血管新生に関連した他の様々な疾患の研究やモデル化のため(D’Amato等、1994,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,91:4082-4085:手続補足書の参考資料4として平成25年8月1日付けで提出)や、固形腫瘍の治療のための血管新生療法の効果を証明するため(Liao等、2002,CancerRes.,62:2467-2475:手続補足書の参考資料5として平成25年8月1日付けで提出)に用いられております。それぞれの文献において、筆者等は、潜在的な各巻申請阻害(審決注:血管新生阻害の誤記と認められる。)剤は血管形成を阻害するのに有効であり、阻害剤は血管新生疾患を治療するための治療的可能性を有していることを結論付けるために、角膜微小ポケットアッセイの結果を少なくとも部分的に利用しております。したがって、本願実施例に記載される角膜微小ポケットアッセイ実験の結果は、egfl8遺伝子の破壊が成体哺乳動物における血管形成を有意に減少させたことが明確に示されていることから、血管新生に関連する病理症状を有する患者における血管新生を減少又は阻害するための医薬にEGFL8アンタゴニストを用い得ることを十分にサポートするものであると思料します。
また、ある遺伝子のノックアウトマウスで血管新生阻害が生じることが示されれば、その遺伝子に対するアンタゴニストを用いれば血管新生が阻害されるであろうという技術常識は本願出願時において存在していたであろうこともご留意いただきたいと思料します。」

請求人の上記主張は、結局のところ、網膜及び角膜を用いた本願の実施例の試験系は、血管形成のモデルとして血管新生の阻害を確認する際に他の研究者にも用いられているものであり、明細書において、ノックアウトマウスにより、EGFL8と血管新生の関係を示したことに基づき、EGFL8アンタゴニストが同様に作用すると予測でき、本願は実施可能要件及びサポート要件を満たす旨を骨子とするものと認められる。
しかし、上記(1)ウで述べたとおり、EGFL8の活性を全く持たないEgfl8-/-マウスにおいてすら、血管新生が50%程度減少するにすぎず、完全には阻止されないのであるから、EGFL8アンタゴニストを用いた場合の血管新生の減少又は阻害の程度が、医薬として治療等に使用できる程の薬効を示すものであるとは理解できない。したがって、請求人の主張を検討しても、本願の発明の詳細な説明及び特許請求の記載が実施可能要件及びサポート要件に適合するものであるとはいえない。
なお、原査定の拒絶の理由における、発明の詳細な説明には、EGFL8アンタゴニストとして血管新生を減少又は阻害できるような抗体やペプチド、受容体の可溶性断片、アンチセンスRNA等が実際に得られたことの記載もなく、血管新生を阻害できるEGFL8アンタゴニストの存在が技術常識であったとはいえないという、上記(1)イの観点からの指摘に対しては、請求人(出願人)から反論がされていない。

5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び同法同条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の点について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-11 
結審通知日 2015-09-15 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2010-543215(P2010-543215)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 齋藤 恵
新留 素子
発明の名称 EGFL8アンタゴニストを使用する血管新生阻害方法  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  
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