• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1311126
審判番号 不服2014-15745  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-08 
確定日 2016-02-10 
事件の表示 特願2007-555150「燃料電池の劣化を低減する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開,WO2006/088679,平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-530755〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件に係る出願(以下,「本願」と言う。)は,2006(平成18)年2月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005(平成17)年2月11日,米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成26年3月28日付けで拒絶査定がされ(送達日は平成26年4月8日),これに対して,平成26年8月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
その後,当審より平成27年5月14日付けで拒絶理由を通知したところ,平成27年8月19日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

2 本願発明
本願の請求項11に係る発明は,平成27年5月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項11に記載された次のとおりのものである(以下,この発明を「本願発明」と言う。)。
「燃料電池であって,アノードと,白金触媒を含むカソードと,該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜と,酸化剤を含む流体を該カソードに適用する手段と,燃料を含む流体を該アノードに適用する手段と,純粋な又は支持された種として該カソードに添加されており標準酸化電位がPtより低くかつ水素より高く該燃料電池の動作中に触媒溶出を低減又は防止する固体還元剤とを含む,燃料電池。」

3 引用発明
原査定の拒絶の理由に示された,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-201417号公報(以下「刊行物」という。)には,図面とともに以下の事項ア?コが記載されている。
ア「【請求項1】DBP吸油量が170?300cm^(3)/100gで、BET法による比表面積が250?400m^(2)/gで、一次粒子径が10?17nmであり、かつ、半径が10?30nmである細孔の合計容積が0.40cm^(3)/g以上であることを特徴とするカーボンブラック。
・・・
【請求項3】請求項1または2に記載のカーボンブラックからなる電極触媒用の担体。
・・・
【請求項6】請求項3または4に記載の担体と、該担体に担持された白金とを有する電極触媒であって、該電極触媒全体に対する白金の量が5?70質量%であることを特徴とする電極触媒。
【請求項7】前記担体に、白金のほかにさらにパラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、金、銀、鉄、亜鉛、ニッケル、モリブデン、コバルト、錫、クロム、マンガン、レニウム、タングステンおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が担持されていることを特徴とする請求項6に記載の電極触媒。
【請求項8】請求項6または7に記載の電極触媒を備えた電気化学的装置。
【請求項9】固体高分子電解質型燃料電池、電気分解装置、またはセンサーである請求項8に記載の電気化学的装置。」
イ「【0001】本発明は、新規なカーボンブラック、該カーボンブラックからなる電極触媒用担体、該担体を用いる電極触媒、および該電極触媒を使用する固体高分子電解質型燃料電池等の電気化学的装置に関する。」
ウ「【0003】固体高分子電解質型燃料電池は、燃料極(アノード)と空気極(カソード)との間に固体高分子電解質であるイオン交換膜を配した構造からなる。燃料極及び空気極の両電極は貴金属が担持された触媒と高分子電解質の混合体からなる。」
エ「【0018】まず、本発明のカーボンブラックでは、半径が10?30nmである細孔の合計容積(以下、「特定細孔容積」という)が0.40cm3/g以上である。例えば、該カーボンブラックを固体高分子電解質型燃料電池の空気極の電極触媒に担体として用いた場合、反応場として機能するのは反応ガスである酸素の拡散が容易な細孔内において、酸素の還元反応を促進する貴金属と、その反応に必要な燃料極からの水素イオンを供給する高分子電解質と、反応の結果生じた電子を伝達する導電性担体カーボンブラックとが接する界面であると考えられる。細孔のうち、半径が小さすぎるものは、高分子電解質が侵入困難で、かつガス拡散性が低いので反応ガス供給路として適さない。」
オ「【0031】-電極触媒-
本発明は、上記の特定の物性を有するカーボンブラックからなる担体と、該担体に担持された白金とを有する電極触媒であって、該電極触媒全体に対する白金の量が5?70質量%であることを特徴とする電極触媒にも関する。
【0032】 前記担体には、場合により、白金のほかに他の金属が担持されていてもよい。他の金属としては、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、金、銀、鉄、亜鉛、ニッケル、モリブデン、コバルト、錫、クロム、マンガン、レニウム、タングステンおよび銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。」
カ「【0048】[電極触媒粉末の調製]
[実施例2] 実施例1のファーネスブラックAを35.0g秤量し水に懸濁させスラリーとした。次にPt15.0gを含むヘキサクロロ白金酸(IV)水溶液を加え、次いでPtに対し10倍当量のヒドラジンヒドラートにて還元した後、濾別、洗浄、乾燥、粉砕をおこない、Pt30%の電極触媒の粉末を調製した。該粉末は、Pt分析値30.8質量%、BET比表面積185m^(2)/g、CO吸着量によるPtの表面積93m^(2)/g-Pt(Pt単位重量あたりに有する表面積。以下、同様に表記する)、Ptの結晶子径は3.1nmであった。」
キ「【0050】[実施例4] 実施例2で調製した30%Pt電極触媒21.7gを秤量し水に懸濁させスラリーとした。次にRu3.3gを含む三塩化ルテニウム(III)水溶液を加え、Ruに対し3倍当量の水酸化ナトリウム溶液で中和した後濾別してから乾燥させ、500℃にて水素還元をおこなった。該粉末は、Pt分析値27.1質量%、Ru分析値12.1質量%、BET比表面積188m2/g、Ptの結晶子径は4.2nmであった。」
ク「【0057】[電解質膜-電極接合体の作成] PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、三井フルオロケミカル製:テフロン30J)で撥水処理した50×50mm、厚さ60μmの多孔質カーボンペーパー(東レ製:TGP-H-060)を電極基質として準備した。実施例2?4および比較例5?10で得られた白金担持または白金-ルテニウム担持カーボン粉末触媒それぞれを、質量比で触媒/テフロン粉末(喜多村製:KTL-4N)=7/3となるように混合し、この混合物にアルコールを加えてペースト状になるまでさらに混合をした。このようにペースト状にしたものを上記多孔質カーボンペーパーの片面全面に均一に塗布し、焼成し触媒層を形成した。次に、この触媒層の表面に5wt%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)を、電極幾何面積に対して0.02ml/cm2となるように均一に塗布し、80℃において1時間乾燥した。こうして、各実施例及び各比較例の白金担持カーボン粉末又は白金-ルテニウム担持カーボン粉末を用いた電極を作成した。
【0058】次に、アノードとなる市販品Pt27%-Ru13%/Carbon(商品名:SA27-13RC、エヌ・イー ケムキャット製) を用いた電極と、カソードとして実施例2の白金担持カーボン粉末を用いて得た電極とを、パーフルオロスルフォン酸電解質膜(デュポン社製、商品名:ナフィオン112)の両面に、それぞれの電極の触媒層側が電解質に接するように重ね合わせ、ホットプレスで熱圧着して電解質膜-電極接合体MEA-1を得た。」
ケ「【0062】次に、アノードとして比較例9の白金担持カーボン粉末を用いた電極を使用し、カソードとして実施例4の白金-ルテニウム担持カーボン粉末を用いた電極を用いた以外は、上記MEA-1の作製と同様の方法で電解質膜-電極接合体MEA-8を作製した。」
コ「【0063】<性能評価試験>上記のように作製した各MEAを燃料電池単セル評価装置(Scriber Associates製:model890)に組み込み、セル温度を80℃とし、アノードに90℃にて飽和水蒸気で加湿した水素もしくは100ppmCOを含む水素を、カソードには同様に50℃で加湿した空気もしくは酸素を、それぞれのガスの利用率が常に50%となるように流量を増加させ単セルを運転した。」
サ 上記記載ケの「アノードとして比較例9の白金担持カーボン粉末を用いた電極を使用し、カソードとして実施例4の白金-ルテニウム担持カーボン粉末を用いた電極を用いた・・・電解質膜-電極接合体MEA-8」は,記載コで「MEAを燃料電池単セル評価装置(Scriber Associates製:model890)に組み込み・・運転し」て性能評価試験を行われるものであって,実質的に上記記載アの「固体高分子電解質型燃料電池・・・である請求項8に記載の電気化学的装置」に係る実施例に当たるものと言える。
また,燃料電池において,空気極(カソード)に酸化剤として働くことになる流体である空気を供給する手段と,燃料極(アノード)に燃料を含む流体を供給する手段を設けることは,当業者にとって自明の事項である。
シ そうすると,刊行物には,記載ケのカソードとして実施例4の白金-ルテニウム担持カーボン粉末を用いて得られた電極を備えた電気化学的装置である固体高分子電解質型燃料電池に着目し,本願発明の表現にならって整理すれば,次の発明が開示されているものと認めることができる(以下,この発明を「引用発明」と言う。)。
「カーボンブラックからなる電極触媒用の担体と,該担体に担持された白金とを有する電極触媒を備えた,固体高分子電解質型燃料電池である電気化学的装置であって,アノードとしての白金担持カーボン粉末を用いて得た電極と,カソードとしての白金-ルテニウム担持カーボン粉末を用いて得た電極を用い,これらの電極を,パーフルオロスルフォン酸電解質膜の両面に,それぞれの電極の触媒層側が電解質に接するように重ね合わせ,ホットプレスで熱圧着して作製した電解質膜-電極接合体と,
カソードとしての電極に空気を供給する手段と,アノードとしての電極に燃料を含む流体を供給する手段と,
を有する固体高分子電解質型燃料電池である電気化学的装置。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「アノードとしての白金担持カーボン粉末を用いて得た電極」は,「アノード」と言い替えることができて,本願発明の「アノード」に含まれるものである。
(2)引用発明の「カソードとしての白金-ルテニウム担持カーボン粉末を用いて得た電極」は,「カソード」と言い替えることができ,明らかに本願発明の「白金触媒を含むカソード」に含まれるものである。
(3)引用発明の「これらの電極を,パーフルオロスルフォン酸電解質膜の両面に,それぞれの電極の触媒層側が電解質に接するように重ね合わせ,ホットプレスで熱圧着して作製した電解質膜-電極接合体」は,本願発明の「該アノードと該カソードの間に介在している高分子電解質膜」に相当する。
(4)引用発明の「カソードとしての電極に空気を供給する手段」,「アノードとしての電極に燃料を含む流体を供給する手段」は,それぞれ,本願発明の「酸化剤を含む流体を該カソードに適用する手段」,「燃料を含む流体を該アノードに適用する手段」に相当する。
(5)引用発明の「カーボンブラックからなる電極触媒用の担体と,該担体に担持された白金とを有する電極触媒を備えた,固体高分子電解質型燃料電池である電気化学的装置」は,明らかに「燃料電池」である。
(6)本願発明における「純粋な又は支持された種として該カソードに添加されており標準酸化電位がPtより低くかつ水素より高く該燃料電池の動作中に触媒溶出を低減又は防止する固体還元剤」とは,本願明細書の段落【0016】に「本発明のさらなる実施態様は、カソードに供給される還元剤が、標準酸化電位がPtより低くかつ水素より高い固体を含む、上述の方法である。この実施態様における固体を、貴金属からなる群から選択してもよく、あるいはCu、Ag、Pd、Os、Ru及びIrからなる群から選択してもよい。」と説明されていることを踏まえれば,Ru,すなわちルテニウムを含むものであることが明らかである。
したがって,引用発明の「ルテニウム」は,本願発明の「標準酸化電位がPtより低くかつ水素より高く該燃料電池の動作中に触媒溶出を低減又は防止する固体還元剤」に相当すると言うべきである。
そして,引用発明の「ルテニウム」は,刊行物の記載カキク等を参酌すれば,本願発明と同様に,「純粋な又は支持された種として該カソードに添加されて」いるものである。
(7)以上を総合すると,本願発明と引用発明は,その発明特定事項において異なるところがない。
すなわち,本願発明と引用発明は,同一である。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-08 
結審通知日 2015-09-15 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2007-555150(P2007-555150)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 賢一池田 貴俊  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 藤井 昇
新海 岳
発明の名称 燃料電池の劣化を低減する方法  
代理人 堂垣 泰雄  
代理人 小林 良博  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ