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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N |
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管理番号 | 1311135 |
審判番号 | 不服2014-20369 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-08 |
確定日 | 2016-02-10 |
事件の表示 | 特願2012-526003「画像シーケンスを符号化するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月 3日国際公開、WO2011/023599、平成25年 1月31日国内公表、特表2013-503534〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2010年8月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年8月28日 フランス)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月27日に拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年5月1日に手続補正がなされたが同年6月3日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2.補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年10月8日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成26年5月1日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「【請求項1】 ブロックに分割された画像シーケンスを符号化するための方法であって、符号化デバイス(12)が、 - 前記ブロックに対して、少なくとも2つの符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード、ならびに少なくとも第1の変換および第2の変換を含む変換セット内の変換を選択し(20、22)、 - 選択された前記符号化モードおよび前記変換に応じて前記ブロックを符号化する(24)ことを含み、 -前記第1の変換を使用しながら、前記符号化モードセット内の前記符号化モードを、ビットレートおよび歪みを最良にするものとして、選択する工程(20)と、 -選択された前記符号化モードを使用しながら、前記変換セット内の前記変換を、ビットレートおよび歪みを最良にするものとして、選択する工程(22)と を含む各工程を前記符号化デバイス(12)が、順次実行して、前記符号化モードおよび前記変換を選択する処理を行うことを特徴とする方法。」 という発明(以下、「本願発明」という。)を、平成26年10月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「【請求項1】 ブロックに分割された画像シーケンスを符号化するための方法であって、符号化デバイス(12)が、 - 前記ブロックに対して、少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード、ならびに少なくとも第1の変換および第2の変換を含む変換セット内の変換を選択し(20、22)、 - 選択された前記符号化モードおよび前記変換に応じて前記ブロックを符号化する(24)ことを含み、 - 前記第1の変換を使用しながら、少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む前記符号化モードセット内の前記符号化モードを、ビットレートおよび歪みを最良にするものとして、選択する工程(20)と、 - 選択された前記符号化モードを使用しながら、前記変換セット内の前記変換を、ビットレートおよび歪みを最良にするものとして、選択する工程(22)と を含む各工程を前記符号化デバイス(12)が、順次実行して、前記符号化モードおよび前記変換を選択する処理を行うことを特徴とする方法。」 という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。(下線は、補正箇所である。) 2.新規事項の有無、補正の目的要件について 本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に記載された「少なくとも2つの符号化モード」という構成を「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モード」という構成に限定し、また、本願発明に記載された「前記符号化モードセット」という構成を「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む前記符号化モードセット」という構成に限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第17条の2第5項2号(補正の目的)の規定に適合している。 3.独立特許要件について 本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。 (1)補正後の発明 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。 なお、「補正後の発明」に対し、下記のとおり(A)ないし(F)の記号を当審において説明のために付与した。以下、構成要件A、構成要件Bなどと称することにする。 (A)ブロックに分割された画像シーケンスを符号化するための方法であって、符号化デバイス(12)が、 (B-1)- 前記ブロックに対して、少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード、ならびに少なくとも第1の変換および第2の変換を含む変換セット内の変換を選択し(20、22)、 (B-2)- 選択された前記符号化モードおよび前記変換に応じて前記ブロックを符号化する(24)ことを含み、 (B-3)- 前記第1の変換を使用しながら、少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む前記符号化モードセット内の前記符号化モードを、ビットレートおよび歪みを最良にするものとして、選択する工程(20)と、 (C)- 選択された前記符号化モードを使用しながら、前記変換セット内の前記変換を、ビットレートおよび歪みを最良にするものとして、選択する工程(22)と (D)を含む各工程を前記符号化デバイス(12)が、順次実行して、前記符号化モードおよび前記変換を選択する処理を行うことを特徴とする方法。 (2)引用例の記載及び引用発明 (2-1)引用例1の記載 原審の拒絶理由に引用された、特開2008-205627号公報(以下、「引用例1」という。)には「情報処理装置およびインター予測モード判定方法」として図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.「【発明が解決しようとする課題】 【0003】 H.264/AVC規格に対応するエンコード処理では、マクロブロック毎の予測モードの判定の処理量が多い。特に、ハイプロファイル(HP:High Profile)では、インター予測において、予測モードのブロックサイズが8画素×8画素以上の場合、4画素×4画素のブロックサイズのDCT(Discrete Cosine Transform)、8画素×8画素のブロックサイズのDCTのいずれかから最適な方を選択可能となったことで、(実質的に、予測モード数×2の予測モードが存在することになり)当該インター予測の予測モード判定に要する処理量が、予測モード候補数に比例して増大する。このため、例えば画質劣化等を抑止しつつ、この予測モード判定を効率的に行う仕組みが強く望まれる。 【0004】 この発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、インター予測の予測モード判定を効率的に行うことを可能とした情報処理装置およびインター予測モード判定方法を提供することを目的とする。」 イ.「【0014】 次に、図2を参照して、このようなハードウェア構成の本コンピュータ上で動作するビデオエンコーダアプリケーション200によって実現されるソフトウェアエンコーダの機能構成を説明する。 【0015】 ビデオエンコーダアプリケーション200によるエンコード処理は、H.264/AVC規格に対応しており、図示のように、ビデオエンコーダアプリケーション200は、入力部201、DCT・量子化部202、エントロピー符号化部203、逆量子化・逆DCT部204部、イントラ予測部205、デブロッキングフィルタ206、フレームメモリ207、動き検出部208、インター予測部209、予測モード判定部210、可算器211,212等を備えている。 【0016】 ビデオエンコーダアプリケーション200は、入力部201から入力される各画面(ピクチャ)の符号化を、例えば16×16画素のマクロブロック単位で実行する。予測モード判定部210は、このマクロブロックごとに、フレーム内予測符号化モード(イントラ予測モード)および動き補償フレーム間予測符号化モード(インター予測モード)のいずれか一方を選択するものである。図3は、この予測モード判定部210の機能ブロックを示している。」 ウ.「【0017】 図3に示すように、予測モード判定部210は、イントラ予測モード判定部2101、インター予測モード判定部2102およびイントラ・インター予測モード判定部2103を備えている。 【0018】 イントラ予測モードおよびインター予測モードのいずれにも、各マクロブロック毎に選択し得る複数の予測モード候補が存在しており、第1に、イントラ予測モード判定部2101およびインター予測モード判定部2102のそれぞれが、この複数の予測モード候補の中から最もコストの優れた(符号量の少ない)予測モード候補を選択する。そして、第2に、イントラ・インター予測モード判定部2103が、イントラ予測モード判定部2101およびインター予測モード判定部2102がそれぞれ選択した2つの予測モード候補を比較して、よりコストの優れた方の予測モード、即ち、イントラ予測モードおよびインター予測モードのいずれか一方を最終的に選択する。」 エ.「【0023】 図5は、本コンピュータのインター予測モード判定部2102が実行する予測モード判定の基本原理を説明するための図である。 【0024】 最適な予測モードの候補は、DCTによらずにある程度の割合で同じとなる性質を有している。よって、先に予測モードの選択を行い、最適なDCTの選択判定を行う予測モードを絞り込んだ場合でも、真に最適な予測モードとDCTとの組み合わせを選択できる割合は相当高いといえる。本コンピュータのインター予測モード判定部2102は、この性質に着目し、まず、特定のDCTの条件下で予測モード判定を行い、最適な予測モード候補を選択する(図5(1))。そして、インター予測モード判定部2102は、その最適な予測モード候補のみを対象に、最適なDCTを選択する判定を行い、最終的に予測モードを決定する(図5(2))。なお、この際、特定のDCTについては、最適な予測モード候補の選択時に評価済みであるので、特定のDCT以外のDCTについてのみ評価を行えば良い。 【0025】 より具体的な例を挙げて説明すると、前述したH.264/AVC規格のハイプロファイルでは、図6に示すように、16画素×16画素、16画素×8画素、8画素×16画素、8画素×8画素の互いに異なるブロックサイズを処理単位とする4種類の予測モードが存在する。また、このH.264/AVC規格のハイプロファイルでは、図7に示すように、4画素×4画素、8画素×8画素の互いに異なるブロックサイズを処理単位とする2種類のDCTが存在する。従って、予測モード候補数は、4(図4,5のm)×2(図4,5のn)=8となる。 【0026】 一方、本コンピュータのインター予測モード判定部2102は、まず、4画素×4画素および8画素×8画素の2種類のDCTのうち、例えば4画素×4画素の1(図5のN)種類のDCTのみで予測モードの評価を行い(候補数は4(m)×1(N))、最適な予測モード候補を例えば1(図5のM)個選択する。そして、この4画素×4画素のDCTで得られた1個の最適な予測モード候補のみを対象に、もう一方の8画素×8画像のDCTでの評価を行い(候補数は1(M)×(2(n)-1(N)))、最終的に予測モードを決定する。 【0027】 つまり、この(最適な予測モード候補を1つとする)場合、本コンピュータのインター予測モード判定部2102は、4+1=5個まで(3個分)予測モード候補数を低減することを実現する。4画素×4画素のDCT、8画素×8画素のDCTで最適な予測モードが同じとなる確率は高いため、真に最適な組み合わせを選択できる割合は高く、画質劣化はほとんどない。」 オ.「【0031】 次に、インター予測モード判定部2102は、複数種類のDCTの中の特定種類のDCTについて、全種類の予測モードそれぞれのコストを計算する(ステップA3)。このコスト計算の結果に基づき、インター予測モード判定部2102は、先に決定した候補数だけ最適予測モード候補を選択する(ステップA4)。 【0032】 そして、インター予測モード判定部2102は、今度は、特定種類のDCT以外のDCTについて、先に決定した候補数だけ選択された最適予測モード候補それぞれのコストを計算し(ステップA5)、(ステップA3にて計算済みの特定種類のDCTに関わるコストを含めた中から)最適な予測モード、DCTを決定する(ステップA6)。」 (2-2)引用発明1 上記(2-1)の摘記事項ア.?オ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して引用例1の記載を検討する。 (2-2-1) 引用例1には、上記ア.及びイ.に記載されるように、『マクロブロック単位で各画面を符号化』する『ビデオエンコーダアプリケーションによって実現されるソフトウェアエンコーダが動作するコンピュータ』において、マクロブロックの予測モードの判定を効率的に行う方法について記載がある。 (2-2-2) 引用例1には、上記ウ.ないし上記オ.に記載のように、インター予測及びイントラ予測を行うコンピュータのソフトウェアエンコーダにおいて、インター予測モードの中から最もコストの優れた(符号量の少ない)予測モードを選択することについて記載がある。そして、上記エ.の段落【0024】に記載のように、インター予測モードの予測モードとDCTの最適な組み合わせを選択する方法について記載されている。 その方法では、上記エ.及びオ.に記載のように、まず、複数のDCT(4画素×4画素DCT、8画素×8画素DCT)のうち、1種類のDCTについて、複数の予測モード(16画素×16画素、16画素×8画素、8画素×16画素、8画素×8画素の互いに異なるブロックサイズを処理単位とする予測モード)のそれぞれのコストを計算し評価を行って最適な予測モードを1個選択している。すなわち、引用例1には、『複数の異なるブロックサイズを処理単位とするインター予測モードにおける予測モード、ならびに複数種類のDCTのうち1種類のDCTで前記複数の予測モードのコストを計算し、最もコストの優れた(符号量の少ない)最適予測モードを選択する処理』が記載されている。 次に、前記1種類のDCTについて選択された最適な予測モードを対象に、前記1種類のDCT以外のDCTのそれぞれについてのコストを計算し評価を行って、最適なDCTを決定する。すなわち、引用例1には、『前記複数種類のDCTのうち前記1種類のDCT以外のDCTについて前記最適予測モードのコストをそれぞれ計算して、最もコストの優れた(符号量の少ない)最適なDCTを決定する処理』を行うことが記載されている。 この方法による処理は、上記ウ.に記載されるように、『マクロブロックごと』に『各マクロブロック』で行われている。 したがって、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。なお、引用発明1に対し、下記のとおり(a)ないし(d)の記号を当審において説明のために付与した。以下、構成要件a、構成要件bなどと称することにする。 (引用発明1) 「(a)マクロブロック単位で各画面を符号化する方法であって、ビデオエンコーダアプリケーションによって実現されるソフトウェアエンコーダが動作するコンピュータが、 (b)前記マクロブロックごとに、複数の異なるブロックサイズを処理単位とするインター予測モードにおける予測モード、ならびに複数種類のDCTのうち1種類のDCTで前記複数の予測モードのコストを計算し、最もコストの優れた(符号量の少ない)最適予測モードを選択する処理と、 (c)前記複数種類のDCTのうち前記1種類のDCT以外のDCTについて前記最適予測モードのコストをそれぞれ計算して、最もコストの優れた(符号量の少ない)最適なDCTを決定する処理を行い、 (d)前記各処理を各マクロブロックで行う方法。」 (2-3)引用例2の記載 原審の拒絶理由に引用された、特開2007-243427号公報(以下、「引用例2」という。)には「符号化装置及び復号化装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。 カ.「【課題を解決するための手段】 【0008】 上記課題を解決するため、本発明による符号化装置は、原画像に対し、予測処理、直交変換処理、量子化処理及び符号化処理を施してビットストリームを生成する符号化装置において、直交変換処理を施す画像ブロックの大きさを示す変換サイズを、符号化効率を示す評価値に基づいて決定する決定部と、該決定部により決定された変換サイズで、画像ブロックに直交変換を施す変換処理部とを備えたことを特徴とする。これにより、符号化効 率を考慮した変換サイズで直交変換処理を行うことができる。 【0009】 また、本発明による符号化装置は、前記決定部が、少なくとも4×4画素、8×8画素及び16×16画素のサイズに対する評価値をそれぞれ求め、これらの評価値に基づいて変換サイズを決定することを特徴とする。 【0010】 また、本発明による符号化装置は、前記決定部が、原画像と復号画像との間の誤差、及び前記ビットストリームの情報量を用いた評価関数により評価値を求め、変換サイズを決定することを特徴とする。 【0011】 また、本発明による符号化装置は、前記変換処理部が、DCT(離散コサイン変換)による直交変換を施す変換行列であって、その要素を近似して整数化した変換行列を用いて、前記変換サイズで画像ブロックに直交変換を施すことを特徴とする。 【0012】 また、本発明による符号化装置は、前記決定部が、符号化効率を示す評価値に基づいて、入力した原画像ブロックを、直交変換処理を施すためのブロックに分割する大きさを示す分割モード、画面内予測または動き補償予測を示す予測モード、及び、前記変換サイズをそれぞれ決定することを特徴とする符号化装置。」 キ.「【0018】 モード決定部12は、予め設定された分割モード、予測モード及び変換サイズモードの複数の組み合わせの中から、符号化効率や処理速度等を考慮した最適な組み合わせを決定する。具体的には、モード決定部12は、16×16をそのままの単位とする場合、16×16を4分割して8×8の単位とする場合等を示す複数の分割モード、(本実施の形態では16×16をそのままの単位とするモード)と、画面内予測及び動き補償予測の2つの予測モード、4×4等の複数の変換サイズモードから、予め複数の組み合わせを設定しておき、その組み合わせ毎に、後述する評価値を計算し、当該評価値が最も良い場合の組み合わせを決定する。すなわち、モード決定部12は、16×16画素の復号画像と16×16画素のマクロブロックの原画像とを比較して得られた誤差を比較部17から入力し、符号化によって生じるビットストリームの情報量(ビットレート)を符号化部16から入力し、これらの誤差及び情報量の線形和の評価関数を評価値として計算する。このような処理を予め設定されたモードの組み合わせ毎に繰り返して、最終的に評価値が最も小さい場合の分割モード、予測モード及び変換サイズモードの組み合わせを決定する。評価値の計算式を以下に示す。 min E=D+λR ここで、Eは評価値、Dは原画像と復号画像との間の誤差、λは係数、Rはビットストリームの情報量を示す。」 (2-4)引用例2記載の技術事項 上記(2-3)の摘記事項カ.?キ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して引用例2の記載事項について検討する。 引用例2には、上記カ.の特に段落【0012】に記載されるように、符号化効率を示す評価値に基づいて、分割モード、予測モード、及び、前記変換サイズをそれぞれ決定する符号化装置に関して記載がある。そして、上記キ.には「評価値の計算式を以下に示す。 min E=D+λR ここで、Eは評価値、Dは原画像と復号画像との間の誤差、λは係数、Rはビットストリームの情報量を示す。」との記載がある。 すなわち、引用例2には、「符号化効率を示す評価値(min E=D+λR)に基づいて、分割モード、予測モード、及び、前記変換サイズをそれぞれ決定すること」(以下、「技術事項1」という。)が記載されている また、上記キ.には、「モード決定部12は、予め設定された分割モード、予測モード及び変換サイズモードの複数の組み合わせの中から、符号化効率や処理速度等を考慮した最適な組み合わせを決定する。具体的には、モード決定部12は、16×16をそのままの単位とする場合、16×16を4分割して8×8の単位とする場合等を示す複数の分割モード、(本実施の形態では16×16をそのままの単位とするモード)と、画面内予測及び動き補償予測の2つの予測モード、4×4等の複数の変換サイズモードから、予め複数の組み合わせを設定しておき、その組み合わせ毎に、後述する評価値を計算し、当該評価値が最も良い場合の組み合わせを決定する」との記載がある。 この記載によれば、画面内予測モードにおける分割モード、変換サイズの複数の組み合わせの候補と、動き補償モードにおける分割モード、変換サイズの複数の組み合わせ候補とからなる全ての組み合わせの候補を同等に、かつ、同時に評価対象としている。 すなわち、引用例2には、「予測モードと変換サイズモードとの最適な組み合わせを決定する際に、画面内予測と動き補償予測の2つの予測モードの候補を同時に評価対象とすること」(以下、「技術事項2」という。)が記載されている。 (3)対比 補正後の発明と引用発明1と対比する。 (3-1)補正後の発明の構成要件Aと引用発明1の構成要件aとの対比 引用発明1の「各画面を符号化する」については、引用発明1がH.264/AVC規格に対応する方法の発明であって、「各画面」が動画像を構成していることが明らかであることから、補正後の発明の「画像シーケンスを符号化する」に相当する。また、引用発明1の「マクロブロック」は、符号化対象の各画面を分割するものであり、補正後の発明の「ブロック」に相当する。 したがって、引用発明1の構成要件a「マクロブロック単位で各画面を符号化する方法」は、補正後の発明の構成要件A「ブロックに分割された画像シーケンスを符号化するための方法」に相当する。 また、補正後の発明の「符号化デバイス」に関して、本願の明細書の段落【0027】には、「図7は、本発明による符号化デバイス12を示す。この図では、示されるモジュールは、物理的に区別できるユニットに対応しても対応しなくともよい機能ユニットである。例えば、これらのモジュールまたはモジュールの一部は、単一の構成要素内に一緒にグループ分けするか、または同じソフトウェアの機能を構成することができる。」と記載されている。(下線は、当審が加筆した。)一方、引用発明1において符号化を行う「ビデオエンコーダアプリケーションによって実現されるソフトウェアエンコーダが動作するコンピュータ」は、符号化の機能をソフトウェアで構成しているものであるから、上記本願の明細書の「符号化デバイス」の定義に含まれるものである。 したがって、引用発明1の「ビデオエンコーダアプリケーションによって実現されるソフトウェアエンコーダが動作するコンピュータ」は、補正後の発明の「符号化デバイス」に相当する。 以上のとおりであるから、引用発明1の構成要件aは、補正後の発明の構成要件Aに相当する。 (3-2)補正後の発明の「選択する工程」に係る構成要件B-1、B-2、B-3と引用発明1の構成要件bとの対比 (3-2-1)補正後の発明の構成要件B-1ないしB-3全体について 引用発明の構成要件bの「前記マクロブロックごと」に行われる「選択する処理」は、明らかに補正後の発明の「前記ブロックに対して」行われる「選択する工程」に相当する。また、引用発明1の「予測モード」は、明らかに補正後の発明の「符号化モード」に相当する。 (3-2-2)補正後の発明の構成要件B-1について 引用発明1の「複数の異なるブロックサイズを処理単位とするインター予測モードにおける予測モード」と、補正後の発明の「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード」に関し、補正後の発明の「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モード」は、少なくとも2つ、すなわち複数の符号化モードといえ、一方、引用発明1の「複数の異なるブロックサイズを処理単位とするインター予測モード」は、複数の符号化モードを含んでおり、「セット」であるといえるから、両者は、「複数の符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード」である点で共通する。 また、引用発明1の「複数種類のDCTのうち1種類のDCT」に関しては、「DCT」が明らかに補正後の発明の「変換」に相当し、「複数種類のDCT」は少なくとも2つのDCTを含む「セット」であるから、引用発明1の「複数種類のDCTのうち1種類のDCT」は、補正後の発明の「少なくとも第1の変換および第2の変換を含む変換セット内の変換」に相当する。 ここで、引用発明1の「1種類のDCT」は、コストを計算するにあたり、「複数種類のDCT」から「選択」されていることは自明である。 (3-2-3)補正後の発明の構成要件B-2について 引用発明1の「前記複数の予測モードのコストを計算」に関し、コストは「符号量」であるから、その計算に当該マクロブロックの「符号化」が必要であることは自明である。そして、「計算」は、補正後の発明の「符号化モード」に相当する「予測モード」と、補正後の発明の「変換」に相当する「DCT」とに応じて行われている。 (3-2-4)補正後の発明の構成要件B-3について 引用発明1の「最もコストの優れた(符号量の少ない)最適予測モードを選択」は、補正後の発明の「第1の変換」に相当する「1種類のDCT」を使用しながら、「複数の符号化モードセット内」の補正後発明の「符号化モード」に相当する最適な「予測モード」を選択するものである。ここで、「最もコストの優れた(符号量の少ない)」と、補正後の発明の「ビットレートおよび歪みを最良にする」とは、「符号化レートを最良にする」という点で共通しているといえる。 (3-2-5)まとめ 以上を総合すると、引用発明1の構成要件bと補正後の発明の構成要件B-1、B-2、B-3は、「前記ブロックに対して、複数の符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード、ならびに少なくとも第1の変換および第2の変換を含む変換セット内の変換を選択し、 選択された前記符号化モードおよび前記変換に応じて前記ブロックを符号化することを含み、 前記第1の変換を使用しながら、複数の符号化モードを含む前記符号化モードセット内の前記符号化モードを、評価を最良にするものとして、選択する工程と、」である点で共通する。 しかしながら、「複数の符号化モード」に関し、補正後の発明では「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード」であるのに対し、引用発明1では、「複数の異なるブロックサイズを処理単位とするインター予測モード」である点で相違している。また、「評価を最良にする」に関し、補正後の発明では、「ビットレートおよび歪みを最良にする」であるのに対し、引用発明1では、「最もコストの優れた(符号量の少ない)」である点で相違している。 (3-3)補正後の発明の構成要件Cと引用発明1の構成要件cとの対比 引用発明1の「決定する処理」と補正後の発明の「選択する工程」は同義である。 引用発明1の「前記複数種類のDCTのうち前記1種類のDCT以外のDCTについて前記最適予測モードのコストをそれぞれ計算」に関しては、構成要件bにおいて選択された「最適予測モード」を「複数種類のDCTのうち前記1種類のDCT以外のDCT」についてコスト計算することにより、「最適なDCT」を決定するものである。ここで、各DCTにおける計算には「最適予測モード」が「使用」されており、この「最適予測モード」は、補正後の発明の「選択された前記符号化モード」に相当している。また、決定された「最適なDCT」は「複数種類のDCT」内から選択されたものであり、この「複数種類のDCT」は「変換セット」に相当している。 そして、上記(3-2-4)にて検討したとおり、引用発明1の「最もコストの優れた(符号量の少ない)」と、補正後の発明の「ビットレートおよび歪みを最良にする」とは、「評価を最良にする」という点で共通しているといえる。 したがって、引用発明1の構成要件cと補正後の発明の構成要件Cは、「選択された前記符号化モードを使用しながら、前記変換セット内の前記変換を、評価を最良にするものとして、選択する工程と」である点で共通する。しかしながら、「評価を最良にする」に関し、補正後の発明では、「ビットレートおよび歪みを最良にする」であるのに対し、引用発明1では、「最もコストの優れた(符号量の少ない)」である点で相違している。 (3-4)補正後の発明の構成要件Dと引用発明1の構成要件dとの対比 引用発明1の「前記各処理を各マクロブロックで行う方法」については、構成要件bにおける処理、及び、構成要件cにおける処理をマクロブロックごとに行う、すなわち「順次実行」する方法である。そして、引用発明1では、マクロブロックごとに、最適予測モードと最適DCTの組み合わせが決定されることになる。 したがって、引用発明1の構成要件d「前記各処理を各マクロブロックで行う方法。」は、補正後の発明の構成要件D「各工程を前記符号化デバイスが、順次実行して、前記符号化モードおよび前記変換を選択する処理を行う方法。」に相当する。 したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。 (一致点) 「ブロックに分割された画像シーケンスを符号化するための方法であって、符号化デバイスが、 前記ブロックに対して、複数の符号化モードを含む符号化モードセット内の符号化モード、ならびに少なくとも第1の変換および第2の変換を含む変換セット内の変換を選択し、 選択された前記符号化モードおよび前記変換に応じて前記ブロックを符号化することを含み、 前記第1の変換を使用しながら、複数の符号化モードを含む前記符号化モードセット内の前記符号化モードを、評価を最良にするものとして、選択する工程と、 選択された前記符号化モードを使用しながら、前記変換セット内の前記変換を、評価を最良にするものとして、選択する工程と を含む各工程を前記符号化デバイスが、順次実行して、前記符号化モードおよび前記変換を選択する処理を行う方法。」 (相違点1)「複数の符号化モード」に関し、補正後の発明は、「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モード」であるのに対し、引用発明では、「少なくとも2つの符号化モード」という構成をである点。 (相違点2)「評価を最良にする」に関し、補正後の発明では「ビットレートおよび歪みを最良とする」であるのに対し、引用発明では、「最もコストの優れた(符号量の少ない)」である点。 (4)当審の判断 まず、上記(相違点1)について検討する。 引用例1には、上記(2-1)の摘記事項ウ.に記載されるように、最もコストの優れたインター予測モードと最もコストの優れたイントラ予測モードを別個に決定した後に比較して、よりコストの優れた方の予測モードを選択することが記載されている。 インター予測モードでは、引用発明1のように予測モードとDCT変換サイズとの最適な組み合わせを決定して、最もコストの優れたインター予測モードを決定している。そして、イントラ予測モードでも、同摘記事項ウ.に「イントラ予測モードおよびインター予測モードのいずれにも、各マクロブロック毎に選択し得る複数の予測モード候補が存在」すると記載されており、複数の異なるブロックサイズを処理単位とするイントラ予測モードにおける予測モードの中から最もコストの優れた予測モードを決定している。 一方、上記(2-4)に上述したように、引用例2には、「予測モードと変換サイズモードとの最適な組み合わせを決定する際に、画面内予測と動き補償予測の2つの予測モードの候補を同時に評価対象とすること」という「技術事項2」が開示されている。ここで、「画面内予測」の予測モードは引用例1の「イントラ予測モード」に、「動き補償予測」の予測モードは引用例1の「インター予測モード」に相当する。 当業者であれば、上記引用例2の技術事項2に基づき、引用例1に記載の最もコストの優れたイントラ予測モードを決定する処理と最もコストの優れたインター予測モードを決定する処理とを別個に行うことに替えて、複数のイントラ予測モードと複数のインター予測モードの中から最もコストの優れた予測モードを同時に決定すること、すなわち、引用発明1の「複数の符号化モード」を「少なくとも一つのINTRA符号化モードおよび少なくとも一つのINTER符号化モード」とすることを容易に想到するものである。 このように、(相違点1)は格別なものでない。 ついで、上記(相違点2)について検討する。 上記(2-4)に上述したように、引用例2には、「符号化効率を示す評価値(min E=D+λR)に基づいて、分割モード、予測モード、及び、前記変換サイズをそれぞれ決定すること」という「技術事項1」が開示されている。ここで、評価値(min E=D+λR)は、ビットレートおよび歪みを最小とする評価値であるといえ、ビットレート及び歪みが最小のとき、「ビットレートおよび歪みが最良」であることは技術常識である。 一方、符号化の性能を評価するための評価手法として「ビットレートおよび歪み」を指標とする評価手法は周知のものであって、他の符号化の性能を評価する手法と置換可能であることは、原審の拒絶査定の際に周知例としてあげられた【参考資料1】(特開2006-93777号公報の段落【0083】の「本実施例では、レート歪最適化法を用いて全予測モードを評価したが、誤差値のみで評価する歪最適化法で評価値を計算することも可能である。また符号量のみで評価するレート最適化法で評価値を計算することも可能である」との記載参照。)及び【参考資料2】(国際公開第2008/127568号の第14頁第23?28行の「For the coding cost measurement, we use RDcost as one example. However, it is to be appreciated that the present principles are not limited to solely the preceding type of coding cost measurement and, thus, other coding cost measurements can be applied including, but not limited to, a distortion only measurement (such as mean square error, and so forth) and so forth, while maintaining the spirit of the present principles.」との記載(邦訳「符号化コストの測定について、RDcostが1例として使用される。しかし、本発明は、コスト測定を符号化する先のタイプのみに限定されず、本発明の精神を維持しつつ、限定されるものではないが(平均平方誤差等のような)歪みのみの測定等を含む他の符号化コスト測定を適用することができる。」)参照)に記載されるように従来から普通に知られている。特に、前記【参考資料1】には、符号量のみで評価するレート最適化法(引用発明1に記載の「最もコストの優れた(符号量の少ない)」評価に相当)とレート歪最適化法(補正後の発明に記載の「ビットレートおよび歪みを最良とする」評価に相当)が置換可能であることについて記載されている。 したがって、引用例2の技術事項2と上記周知事項に基づいて、引用発明1の「最もコストの優れた(符号量の少ない)」という評価を、「ビットレートおよび歪みを最良とする」という評価に替えることは、当業者が適宜為し得ることである。 このように、(相違点2)も格別なものでない。 さらに、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明1および引用例2に記載の技術事項ならびに周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 以上のとおりであるから、補正後の発明は引用発明1および引用例2に記載の技術事項ならびに周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2.引用発明及び周知技術 引用発明1および引用例2に記載の技術事項ならびに周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」及び「(4)判断」の項で認定したとおりである。 3.対比・判断 そこで、本願発明と引用発明1とを対比するに、本願発明は補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明1および引用例2に記載の技術事項ならびに周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明1および引用例2に記載の技術事項ならびに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-10 |
結審通知日 | 2015-09-15 |
審決日 | 2015-09-28 |
出願番号 | 特願2012-526003(P2012-526003) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04N)
P 1 8・ 572- Z (H04N) P 1 8・ 121- Z (H04N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保 光宏 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
渡辺 努 藤井 浩 |
発明の名称 | 画像シーケンスを符号化するための方法 |
代理人 | 木村 高久 |