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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1311141
審判番号 不服2014-24521  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-01 
確定日 2016-02-10 
事件の表示 特願2012-516272「多数無線サービス共存のための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月23日国際公開、WO2010/148114、平成24年11月29日国内公表、特表2012-530473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、2010年6月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年6月16日、米国、2009年7月20日、米国、2010年6月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年3月22日付けで拒絶理由が通知され、平成25年6月28日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成25年11月28日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成26年7月23日付けで拒絶査定がされ、平成26年12月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年6月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。

「多数無線サービス共存のための方法であって、
第1サービス送信器を第1フィルタ経路を通じてアンテナへ接続し、且つ第1サービス受信器を前記アンテナから切断するため、第1スイッチを作動させることと、
第2サービス受信器を第2フィルタ経路を通じて前記アンテナへ接続し、且つ第2サービス送信器を前記アンテナから切断するため、第2スイッチを作動させることと、
前記第1サービス送信器に対する送信電力制御を有効にすることであって、前記送信電力制御は、前記第2サービス受信信号の受信を改善するために前記第1サービス送信器の送信電力を低減することを備える、ことと、
a)第2サービスの帯域の高排除率により、前記第1フィルタ経路を通じて前記アンテナへ第1サービス送信信号を送信することと、
b)第1サービスの帯域の高排除率により、前記アンテナから前記第2フィルタ経路を通じて第2サービス受信信号を受信することであって、前記第1サービス送信器と前記第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、前記ダイバーシティアンテナは、前記ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する、こととのうち、
いずれか一方または両方を遂行することと、を備える、方法。」


3.平成25年11月28日付けの最後の拒絶理由の概要

平成25年11月28日付けの最後の拒絶理由の概要は下記のとおりである。

「A.平成25年6月28日付けでした手続補正は、下記の点で外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



(1)手続補正後の請求項1、10、20、21に記載された事項は、本願の出願当初の明細書(国際出願翻訳文)に記載されたものではない。
備考:
請求項1には、上記手続補正により、「第1サービス送信器と第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、ダイバーシティアンテナは、ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する」との記載が付加されたが、このようなことは、本願の出願当初の明細書、図面等に記載されていない。
特に、出願人により上記手続補正と同日付けで提出された意見書には、上記補正の根拠が、本願出願当初の明細書の段落[0064]に記載されている旨が主張されているが、当該段落[0064]には、

「一例において、別々のアンテナを使用する並行動作のときに、WLANモードはダイバーシティアンテナを使用でき、BTモードはプライマリアンテナを使用できる。加えて、WLAN受信器はダイバーシティLNAを使用でき、WLAN送信器はダイバーシティアンテナを経由することができる。一態様において、WLANダイバーシティ経路受信経路フィルタは、例えば0.2mm2の余分な土地を費やすことで三次から五次まで増加する。別の態様において、自動利得制御(AGC)アルゴリズムはハードウェア影響をともなうことなく変化する。」

と記載されているのみであり、補正後の請求項1に記載された上記内容に対応する事項は、記載されていない。
また、本願の明細書における他の記載箇所を精読したが、補正後の請求項1に記載された上記内容については、記載されていない。

さらに、補正後の請求項1における上記記載の前後を含めた記載を見ると、

「a)第2サービスの帯域の高排除率により、前記第1フィルタ経路を通じて前記アンテナへ第1サービス送信信号を送信することと、
b)第1サービスの帯域の高排除率により、前記アンテナから前記第2フィルタ経路を通じて第2サービス受信信号を受信することであって、前記第1サービス送信器と前記第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、前記ダイバーシティアンテナは、前記ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する、こととのうち、
いずれか一方または両方を遂行する」

と記載されているが、仮に、「ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する」ことが、明細書の段落[0064]に記載されていたとしても、このように、a)の事項と、b)の事項(「ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する」内容を含む)のいずれか一方、または、両方を遂行する、という技術内容は、出願当初の明細書及び図面には、記載されていない。

また、補正後の請求項10、20、21についても、請求項1と同様の理由により、出願当初の明細書及び図面には記載されていない事項を含んでいる。


なお、当該補正がなされた請求項1、10、20、及び21と、これらの請求項に従属する請求項2-9、11-19に記載した事項は、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから、当該請求項に係る発明については新規性進歩性等の特許要件についての審査を行っていない。


B.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1、10、20、21に記載された発明は、発明の詳細な説明と対応していない。
備考:
上記拒絶理由A.で指摘したように、請求項1に記載された、「第1サービス送信器と第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、ダイバーシティアンテナは、ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する」という点は、発明の詳細な説明に記載されていない。
特に、出願人が意見書において指摘している明細書の段落[0064]の記載を見ても、そのようなことは見出せない。

そして、同時に、発明の詳細な説明には、請求項1に記載の
「a)第2サービスの帯域の高排除率により、前記第1フィルタ経路を通じて前記アンテナへ第1サービス送信信号を送信することと、
b)第1サービスの帯域の高排除率により、前記アンテナから前記第2フィルタ経路を通じて第2サービス受信信号を受信することであって、前記第1サービス送信器と前記第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、前記ダイバーシティアンテナは、前記ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する、こととのうち、
いずれか一方または両方を遂行する」という点は記載されていない。

請求項10、20、21についても同様である。」


4.請求人の主張

請求人は、平成25年6月28日に提出した意見書において、

「2.補正後の特許請求の範囲の説明
手続補正書において、特許請求の範囲を補正しました。ここで、手続補正書における下線は、審査官殿の理解を助けるため、実質的な変更部分にのみ付しています。
補正後の請求項1-9は、本願出願当初の請求項1-10に対応しています。また、補正後の請求項10-19は、本願出願当初の請求項27-36に対応しています。また、補正後の請求項20は、本願出願当初の請求項53に対応しています。また、補正後の請求項21は、本願出願当初の請求項60に対応しています。
ここで、補正後の本願請求項1、10、20、21における「送信電力制御は、第2サービス受信信号の受信を改善するために第1サービス送信器の送信電力を低減することを備える」は、本願出願当初の請求項2の内容です。また、補正後の請求項1、10、20、21における「第1サービス送信器と第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、ダイバーシティアンテナは、ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する」は、本願出願当初の明細書の段落[0064]の記載に基づいています。
さらに、請求項2、11-26、37-52、54-59、61-66については削除致しました。
以上の特許請求の範囲に係る補正は、本願の出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているものと思料致します。
また、補正後の請求項1、10、20、21は、審査官殿によって最後に発明の特別な技術的特徴の有無が判断された補正前の請求項2の要件を全て含むものです。したがって、以上の補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件も満たしているものと思料致します。
また、段落[0092]の補正は、出願当初の請求項に係る発明を「付記」として、明細書最終段落に記載したものであり、新規事項を追加したものではありません。」

と主張するとともに、審判請求書において、

「3-2.理由A(特許法第17条の2第3項)について
(1)審査官は、各独立クレームの、”wherein one of the first service transmitter or the second service receiver uses a diversity antenna, and wherein the diversity antenna requires an increase in a filter order associated with the diversity antenna”が、明細書に記載されていないと指摘しています。
しかしながら、平成25年6月28日に提出した意見書において、上記記載の補正の根拠として挙げた本願明細書の段落[0064]には、WLAN送信器とWLAN受信器とには、ダイバーシティアンテナを使用できることが記載されています。WLAN送信器及びWLAN受信器は、請求項1等の第1サービス又は第2サービスに対応していることは明らかです。また、フィルタ次数が、余剰の土地(real estate)を増やすことで増加されることも記載されています。したがって、審査官によって記載がないと指摘された部分は段落[0064]に記載されています。ダイバーシティアンテナは、複数のアンテナを用いるもので、実際、本願明細書の段落[0064]の内容に関連する本願の[図3]には、2つのアンテナが記載されています。
審査官は、クレーム1の「a)第2サービスの帯域の高排除率により、前記第1フィルタ経路を通じて前記アンテナへ第1サービス送信信号を送信することと、b)第1サービスの帯域の高排除率により、前記アンテナから前記第2フィルタ経路を通じて第2サービス受信信号を受信することであって、前記第1サービス送信器と前記第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、前記ダイバーシティアンテナは、前記ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する、こととのうち、いずれか一方または両方を遂行すること」の、特に下線部を含むb)を遂行することが明細書に記載がないと指摘しています。
先ず、下線部を含まないb)については[図8]等に記載があります。下線部を含むb)、すなわち「ダイバーシティアンテナ」を用いた場合のWLANとBTとの共用制御については、本願明細書の段落[0064]の記載は、段落[0063]に記載された表1の変形例を記載したものであり、表1は、WLANとBTとの共用制御についての表ですので、これらの記載から、「ダイバーシティアンテナ」を用いた場合のWLANとBTとの共用制御に適用すること、そしては下線部を含むb)は、当業者にとって自明であると思料いたします。

3-3.理由B(第36条第6項第1号)および理由C(第36条第6項第2号)について
理由Bについては、上記理由Aの説明を参照すれば、当業者であれば、本願明細書に記載されている事項であることが十分理解できるものと思料いたします。理由Cの事項(ア)乃至(エ)については、当業者が本願明細書の記載説明および添付された各図面を参酌すれば各請求項の記載に基づいて、各請求項にかかる発明を明確に理解することができるものと思料いたします。
よって、本願の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号および第36条第6項第2号に規定された要件を満たしているものと思料いたします。」

と主張している。


5.当審の判断

5-1.図3の構造を前提とした場合について

請求人は、「本願明細書の段落[0064]の内容に関連する本願の[図3]には、2つのアンテナが記載されています。」と主張している。

本願明細書および図面には、

「【0064】
一例において、別々のアンテナを使用する並行動作のときに、WLANモードはダイバーシティアンテナを使用でき、BTモードはプライマリアンテナを使用できる。加えて、WLAN受信器はダイバーシティLNAを使用でき、WLAN送信器はダイバーシティアンテナを経由することができる。一態様において、WLANダイバーシティ経路受信経路フィルタは、例えば0.2mm2の余分な土地を費やすことで三次から五次まで増加する。別の態様において、自動利得制御(AGC)アルゴリズムはハードウェア影響をともなうことなく変化する。
【0065】
BT-WLAN共存のための2アンテナダイバーシティソリューションの一例を図3に示す。例えば、BTおよびWLAN送信モードのための別個の電力増幅器(PA)が図示されている。また、プライマリアンテナとダイバーシティアンテナには別個の低雑音増幅器(LNA)がそれぞれ接続されている。さらに一例において、WLAN送信モードPAはプライマリアンテナとダイバーシティアンテナとで切り替え可能である。」


の記載があるから、ダイバーシティアンテナを用いた【0064】の記載は図3の構造により実現できる発明である。

そこで、図3の構造を基本として本願発明が記載されているかについて検討すると、本願明細書には、(下線部は当審が付与。)

「【0074】
多数無線サービス共存の第2の流れ図の一例を図10に示す。ブロック1010では、a)第1サービス送信器を第1アンテナへ接続することと、b)デュアルモード受信器を第1アンテナから切断することと、c)第2サービス送信器を第1アンテナから切断することと、d)第2サービス送信器を第2アンテナから切断することと、e)ダイバーシティ受信器を第2アンテナへ接続することと、を遂行するために、1つ以上のスイッチングデバイスを作動させる。ブロック1020では、第1アンテナを使用し第1サービスで第1サービス送信信号を送信する。ブロック1030では、第2アンテナとダイバーシティ受信器とを使用して第2サービスで第2サービス受信信号を受信する。
【0075】
多数無線サービス共存の第2の流れ図の一例を図11に示す。ブロック1110では、a)第1サービス送信器を第1アンテナから切断することと、b)デュアルモード受信器を第1アンテナへ接続することと、c)第2サービス送信器を第1アンテナから切断することと、d)第2サービス送信器を第2アンテナへ接続することと、e)ダイバーシティ受信器を第2アンテナから切断することと、を遂行するために、1つ以上のスイッチングデバイスを作動させる。ブロック1120では、第1アンテナとデュアルモード受信器とを使用して第1サービスで第1サービス受信信号を受信する。ブロック1130では、第2アンテナを使用して第2サービスで第2サービス送信信号を送信する。
【0076】
多数無線サービス共存の第2の流れ図の一例を図12に示す。ブロック1210では、a)第1サービス送信器を第1アンテナへ接続することと、b)デュアルモード受信器を第1アンテナから切断することと、c)第2サービス送信器を第1アンテナから切断することと、d)第2サービス送信器を第2アンテナへ接続することと、e)ダイバーシティ受信器を第2アンテナから切断することと、を遂行するために、1つ以上のスイッチングデバイスを作動させる。ブロック1220では、第1アンテナを使用して第1サービスで第1サービス送信信号を送信する。ブロック1230では、第2アンテナを使用して第2サービスで第2サービス送信信号を送信する。
【0077】
多数無線サービス共存の第2の流れ図の一例を図13に示す。ブロック1310では、a)第1サービス送信器を第1アンテナから切断することと、b)デュアルモード受信器を第1アンテナへ接続することと、c)第2サービス送信器を第1アンテナから切断することと、d)第2サービス送信器を第2アンテナから切断することと、e)ダイバーシティ受信器を第2アンテナへ接続することと、を遂行するために、1つ以上のスイッチングデバイスを作動させる。ブロック1320では、第1アンテナとデュアルモード受信器とを使用して第1サービスで第1サービス受信信号を受信する。ブロック1330では、第2アンテナとダイバーシティ受信器とを使用して第2サービスで第2サービス受信信号を受信する。
【0078】
一例において、第1サービスは無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)である。一例において、第1サービスはBluetooth(BT)である。一例において、第2サービスは無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)である。一例において、図10から図13の流れ図のステップは、図3に見られる構造の一部または全部により実現できる。」

の記載があるから、図3にみられる構造により実現できる発明として、図10から図13の流れ図が記載されているが、図3には「第1フィルタ経路」「第2フィルタ経路」が記載されていない。
また、図3には「スイッチ」は記載されているものの、(a)第1サービス送信器と第1アンテナを接続あるいは切断するスイッチ、(b)デュアルモード受信器と第1アンテナを接続あるいは切断するスイッチ、(c)第2サービス送信器と第1アンテナを接続あるいは切断するスイッチ、(d)第2サービス送信器と第2アンテナを接続あるいは切断するスイッチ、(e)ダイバーシティ受信器と第2アンテナを接続あるいは切断するスイッチ、が記載されているだけであって、
「第1サービス送信器を第1フィルタ経路を通じてアンテナへ接続し、且つ第1サービス受信器を前記アンテナから切断するため」のスイッチ、「第2サービス受信器を第2フィルタ経路を通じて前記アンテナへ接続し、且つ第2サービス送信器を前記アンテナから切断するため」のスイッチについては記載されていない。

したがって、本願発明が【0064】および図3の構造により実現できる発明を記載したものであるすると、「第1フィルタ経路」「第2フィルタ経路」「第1サービス送信器を第1フィルタ経路を通じてアンテナへ接続し、且つ第1サービス受信器を前記アンテナから切断するため」のスイッチ、「第2サービス受信器を第2フィルタ経路を通じて前記アンテナへ接続し、且つ第2サービス送信器を前記アンテナから切断するため」のスイッチが記載されていない。
したがって、本願発明は図3の構造により実現できる発明に裏付けられてはいない。

よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしてない。
また、平成25年6月28日付けの手続補正は、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


5-2.図5の構造を前提とした場合について

一方請求人は、平成25年6月28日に提出した意見書において、「補正後の請求項1-9は、本願出願当初の請求項1-10に対応しています。」と主張するとともに、「補正後の本願請求項1、10、20、21における「送信電力制御は、第2サービス受信信号の受信を改善するために第1サービス送信器の送信電力を低減することを備える」は、本願出願当初の請求項2の内容です。また、補正後の請求項1、10、20、21における「第1サービス送信器と第2サービス送信器のいずれかは、ダイバーシティアンテナを用い、ダイバーシティアンテナは、ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求する」は、本願出願当初の明細書の段落[0064]の記載に基づいています。」と主張している。

本願出願当初の請求項1には、

「多数無線サービス共存のための方法であって、
第1サービス送信器を第1フィルタ経路を通じてアンテナへ接続し、且つ第1サービス受信器を前記アンテナから切断するため、第1スイッチを作動させることと、
第2サービス受信器を第2フィルタ経路を通じて前記アンテナへ接続し、且つ第2サービス送信器を前記アンテナから切断するため、第2スイッチを作動させることと、
前記第1サービス送信器に対する送信電力制御を有効にすることと、
a)第2サービスの帯域の高排除率により、前記第1フィルタ経路を通じて前記アンテナへ第1サービス送信信号を送信することと、
b)第1サービスの帯域の高排除率により、前記アンテナから前記第2フィルタ経路を通じて第2サービス受信信号を受信することとのうち、
いずれか一方または両方を遂行することと、を備える、方法。」

と記載されている。

そして、本願明細書および図面には、

「【0070】
多数無線サービス共存の第1の流れ図の一例を図7に示す。ブロック710では、第1サービス送信器を第1フィルタ経路を通じてアンテナへ接続し、且つ第1サービス受信器をアンテナから切断するために、第1スイッチを作動させる。ブロック720では、第2サービス受信器を第2フィルタ経路を通じてアンテナへ接続し、且つ第2サービス送信器をアンテナから切断するために、第2スイッチを作動させる。ブロック730では、第1サービス送信器に対する送信電力制御を有効にする。ブロック740では、a)第2サービスの帯域の高排除率により、第1フィルタ経路を通じてアンテナへ第1サービス送信信号を送信することと、b)第1サービスの帯域の高排除率により、アンテナから第2フィルタ経路を通じて第2サービス受信信号を受信することとのうち、いずれか一方または両方を遂行する。」


の記載があるから、本願出願当初の請求項1は、図7及び【0070】に裏付けられた発明である。
ここで、本願明細書および図面には、(下線部は当審が付与。)

「【0073】
一例において、第1サービスは無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)である。一例において、第1サービスはBluetooth(BT)である。一例において、第2サービスは無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)である。一例において、第1および第2スイッチは同じスイッチであってよい。一例において、第1および第2スイッチはプログラム可能である。一例において、図7、8、または9の流れ図のステップは、図5に見られる構造の一部または全部により実現できる。」


の記載があるから、図7は図5の構造により実現できる流れ図である。

上記によれば、本願出願当初の請求項1は、図5の構造により実現できる図7の流れ図に裏付けられた発明を記載したものであると理解することができる。
したがって、本願発明が図5の構造により実現できる図7の流れ図に裏付けられた発明を記載したものであるとすると、図5の構造には、そもそも「ダイバーシティアンテナ」を有することは記載されておらず、「ダイバーシティアンテナに関連したフィルタ次数における増加を要求」することも記載されていない。
請求人は、【0064】および図3に「2つのアンテナ」が記載されている旨主張しているが、上記5-1.に記載したように、【0064】は図5の構造とは異なる図3の構造における記載であって、図5の構造において「2つのアンテナ」を設けることは記載されていない。
したがって、本願発明は図5の構造により実現できる発明に裏付けられてはいない。

よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしてない。
また、図5の構造において「ダイバーシティアンテナ」を有する構造を記載した平成25年6月28日付けの手続補正は、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


5-3.まとめ

上記のように、本願発明は、図3の構造により実現できる発明としても、図5の構造により実現できる発明としても、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしてない。
また、平成25年6月28日付けの手続補正は、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


6.むすび

以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
また、平成25年6月28日付けの手続補正は、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-14 
結審通知日 2015-09-15 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2012-516272(P2012-516272)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H04B)
P 1 8・ 537- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 達朗角田 慎治  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 久松 和之
吉田 隆之
発明の名称 多数無線サービス共存のための装置および方法  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 奥村 元宏  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  

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