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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01P
管理番号 1311146
審判番号 不服2015-3259  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-20 
確定日 2016-02-10 
事件の表示 特願2009-277696「低位相速度のための構造,方法,および設計構造(低位相速度のためのミリメートル波伝送線)」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 8日出願公開,特開2010-154525〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年12月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年12月23日 米国)を出願日とする出願であって,原審において平成25年11月12日付けで手続補正され,平成26年4月8日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年6月13日付けで手続補正され,同年10月16日付けで同年6月13日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年2月20日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年2月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願補正と補正後の発明
上記手続補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の平成25年11月12日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「構造であって,
基板の頂上面に直隣接的に配置された少なくとも1つの第1の誘電材料層と,
前記少なくとも1つの第1の誘電材料層の頂上面に直隣接的に配置された接地金属面と,
前記接地金属面上に配置された少なくとも1つの第2の誘電材料層と,
前記少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれ,且つ第1の幅を有する第1の伝送線部分と第2の幅を有する第2の伝送線部分とを含む金属伝送線であって,前記第1の幅および前記第2の幅が異なり,前記第1の伝送線部分および前記第2の伝送線部分が交互に交差されている,前記金属伝送線と,
前記基板上に配置された金属フィン・アレイであって,前記金属フィン・アレイの各金属フィンが,前記第2の伝送線部分の下にあるかまたは上にあり,且つ,前記第1の伝送線部分の下になく上にもない,前記金属フィン・アレイと
を備えている,前記構造。」

という発明(以下「本願発明」という。)を

「構造であって,
基板の頂上面に直隣接的に配置された少なくとも1つの第1の誘電材料層と,
前記少なくとも1つの第1の誘電材料層の頂上面に直隣接的に配置された接地金属面と,
前記接地金属面上に配置された少なくとも1つの第2の誘電材料層と,
前記少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれ,且つ第1の幅を有する第1の伝送線部分と第2の幅を有する第2の伝送線部分とを含む金属伝送線であって,前記第1の幅および前記第2の幅が異なり,前記第1の伝送線部分と前記第2の伝送線部分とが相互に横方向に当接して繰り返し単位構造を構成し,前記繰り返し単位構造が長さ方向に繰り返されることにより,前記第1の伝送線部分および前記第2の伝送線部分が交互に交差されている,前記金属伝送線と,
前記基板上に配置された金属フィン・アレイであって,前記金属フィン・アレイの独立した各金属フィンが,前記第2の伝送線部分の下にあるかまたは上にあり,且つ,前記第1の伝送線部分の下になく上にもない,前記金属フィン・アレイと
を備えている,前記構造。」

という発明(以下「補正後の発明」という。)に変更する補正を含むものである。
なお,本件補正後の請求項1の,第5段落に記載の「前記第1の伝送部分」及び「前記第2の伝送部分」はそれぞれ指し示すものが存在しないため,「前記第1の伝送線部分」及び「前記第2の伝送線部分」の誤記と認め,上記のとおり認定した。

2.新規事項の有無,シフト補正,補正の目的要件について
上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内において,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記第1の伝送線部分および前記第2の伝送線部分が交互に交差されている,金属伝送線」及び「各金属フィン・アレイの各金属フィン」のそれぞれを,「前記第1の伝送部分と前記第2の伝送部分とが相互に横方向に当接して繰り返し単位構造を構成し,前記繰り返し単位構造が長さ方向に繰り返されることにより,前記第1の伝送線部分および前記第2の伝送線部分が交互に交差されている,金属伝送線」及び「各金属フィン・アレイの独立した各金属フィン」に限定して,特許請求の範囲を減縮するものである。
また,本件補正は,上記補正以外に,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内において,本件補正前の特許請求の範囲の請求項20の記載に上記補正と同様の限定を加える補正(以下「補正1」という。)を含むものであって,当該補正1は,特許請求の範囲を減縮するものである。
よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するとともに,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするのものであるから,本件補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
補正後の発明は,上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりのものと認める。

(2)引用発明
ア.引用発明1
原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平5-251914号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0015】
【実施例】以下,図面を参照して本発明に係る実施例について以下に説明する。
【0016】<マイクロ波遅波回路の構成及び動作>図1は本発明に係る一実施例であるマイクロ波遅波回路の斜視図であり,図2は図1のA-A’線についての縦断面(以下,第1の縦断面という。)を示す断面図であり,図3は図1のB-B’線についての縦断面(以下,第2の縦断面という。)を示す断面図である。なお,図1ないし図3において図20と同様のものについては同一の符号を付している。
【0017】本実施例のマイクロ波遅波回路は,第1の縦断面においてストリップ導体6aから突出する2個の突出導体6bを備えることによりストリップ導体6aの幅Wsよりも広い中心導体6の幅Wstを備える第1の縦断面を有して容量性の比較的低い特性インピーダンスZ_(L)を有する図2に示すトリプレートマイクロストリップ線路で構成された複数の第1の伝送線路100と,第2の縦断面を有して誘導性の比較的高い特性インピーダンスZ_(H)を有する図3に示すエレベーテッドコプレーナ線路で構成された複数の第2の伝送線路200とを備え,上記第1の伝送線路100と上記第2の伝送線路200とを交互に,かつ中心導体6の長手方向と平行な方向である各伝送線路100,200の延伸接続方向に縦続して接続することによって構成されたことを特徴としている。以下,本実施例においては,当該マイクロ波遅波回路の半導体基板4の平面をX-Y平面とし,各線路100,200の長手方向をY軸方向とし,Y軸方向と垂直な方向をX軸方向とする。
【0018】本実施例のマイクロ波遅波回路は以下の工程で形成される。
【0019】まず,図4に示すように,GaAsにてなる半導体基板4の全面上に,X軸方向に平行な長手方向を有する長さLgの辺とY軸方向に平行な長さLbの辺を有する複数の矩形スロット5sが互いに所定の間隔Laだけ離れてY軸方向に並置されて形成された接地導体5が形成される。次いで,上記接地導体5及び矩形スロット5sを介して露出した半導体基板4の全面上に,誘電体層3aが形成された後,図5に示すように,当該誘電体層3a上に,X軸方向の幅Wsを有するとともにY軸方向が長手方向となり各矩形スロット5sの中心を通過するストリップ導体6aと,各矩形スロット5sの間に位置する接地導体5の直上に位置しかつストリップ導体6aからX軸方向及びX軸方向と反対の方向に突出するY軸方向の幅Laの矩形形状の突出導体6bとからなる中心導体6が形成される。ここで,ストリップ導体6aと2つの突出導体6bからなるX軸方向の長さはそれぞれ,図1及び図2においてWst,Wstで示されている。なお,図5において,PIは当該マイクロ波遅波回路の入力端であり,POはその出力端である。
【0020】さらに,中心導体6及び露出している誘電体層3aの全面上に誘電体層3bが形成された後,誘電体層3b上に,ストリップ接地導体1の一部が各矩形スロット5sの間に位置する接地導体5の直上に位置しかつX軸方向が長手方向となり幅Laを有する複数のストリップ接地導体1が,互いに所定のLbだけ離れかつ接地導体5の直上に位置するように,言い換えれば,各矩形スロット5sの直上に位置しないように,いわゆる枕木形状又は格子形状で形成される。
【0021】以上のように形成されたマイクロ波遅波回路の第1の縦断面においては,図2に示すように,ストリップ導体6aと突出導体6bからなる中心導体6が接地導体5とストリップ接地導体1との間にそれぞれ誘電体層3a,3bを介して挟設されてなるトリプレートマイクロストリップ線路で構成された第1の伝送線路100が形成されている。この第1の伝送線路100は,容量性の比較的低い特性インピーダンスZ_(L)を有する。一方,当該マイクロ波遅波回路の第2の縦断面においては,図3に示すように,接地導体5よりも誘電体層3aの厚さだけ上側に位置するストリップ導体6aが,図3の図上左右方向に位置する各接地導体5から所定の同一の間隔だけ離れて形成されてなるエレベーテッドコプレーナ線路で構成された第2の伝送線路200が形成されている。この第2の伝送線路200は,中心導体6と接地導体5との間で比較的多い磁力線が鎖交するため,誘導性の比較的高い特性インピーダンスZ_(H)を有する。ここで,周期長(La+Lb)が管内波長に比べて十分に短くかつZ_(H)≫Z_(L)であるように上記各導体が形成される。なお,好ましい実施例においては,La=Lbであり,このとき,遅波率が最大になる。
【0022】上記のように構成されたマイクロ波遅波回路の入力端PIにマイクロ波信号が入力されたとき,その電気エネルギーが主として第1の伝送線路100に蓄積される一方,その磁気エネルギーが主として第2の伝送線路200に蓄積され,その結果,光の速度よりも遅い位相速度を有する遅波が伝搬する。」(第3?4ページ)

b.「【0034】一方,本実施例のマイクロ波遅波回路は,第1の縦断面においてストリップ導体6aから突出する2個の突出導体6bを備えることによりストリップ導体6aの幅Wsよりも広い中心導体6の幅Wstを備える第1の縦断面を有して容量性の比較的低い特性インピーダンスZ_(L)を有する図2に示すトリプレートマイクロストリップ線路で構成された複数の第1の伝送線路100と,第2の縦断面を有して誘導性の比較的高い特性インピーダンスZ_(H)を有する図3に示すエレベーテッドコプレーナ線路で構成された複数の第2の伝送線路200とを備え,上記第1の伝送線路100と上記第2の伝送線路200とを交互に,かつ中心導体6の長手方向と平行な方向である各伝送線路100,200の延伸接続方向に縦続して接続することによって構成されている。すなわち,以下の3つの特徴を有する。
(…中略…)
【0036】以上説明したように,本実施例のマイクロ波遅波回路においては,上記3つの特徴を備えることによって,同一の遅波率及び同一の特性インピーダンスを有するように遅波回路を構成したときに,矩形スロット4の長手方向の長さLgすなわち接地導体5のX軸方向の間隔を,図20に図示した従来例のマイクロ波遅波回路の接地導体5a,5bのX軸方向の間隔(Ws+2Wp)に比較して大幅に短縮することができる。実際には,上述のように,同一の遅波率を有する従来例に比較してX軸方向の線路幅を1/10以下に減少させることができ,これによって,当該マイクロ波遅波回路を大幅に小型化することができる。従って,本実施例のマイクロ波遅波回路を,ハイブリッド回路,電力合成回路,電力分岐回路,遅延回路などの各種マイクロ波回路に適用することによって,これら各種の回路を大幅に小型化することができる。また,本実施例のマイクロ波遅波回路は半導体ドープ層を用いていないので,FETなどの能動素子と容易に集積化することができ,上述の各種のマイクロ波回路を組み込んだMMICを同一の基板に形成することができる。これによって,MMICの小型化,高機能化に寄与できる。」(第5?6ページ)

c.「

」(図1,第8ページ)

d.「

」(図2,第8ページ)

e.「

」(図3,第8ページ)

以下,上記a.ないしe.の記載及びこの分野における技術常識を考慮しつつ,引用例1に記載された技術事項について検討する。

(a)上記a.の【0016】からして,引用例1は,「マイクロ波遅波回路」に関するものである。

(b)上記a.の【0019】及び【0020】並びに上記c.(図1)からして,引用例1の「マイクロ波遅波回路」は,「半導体基板」(4)と,当該「半導体基板」の頂上面に直隣接的に配置された「接地導体」(5)と,当該「接地導体」の上に配置された2つの「誘電体層」(3a,3b)と, 下層側の 「誘電体層」(3a)上に配置された,すなわち,2つの「誘電体層」に埋め込まれた,「中心導体」(6)と,上層側の「誘電体層」(3b)上に配置された,すなわち,前記「半導体基板」の上に配置された「ストリップ接地導体」(1)とを備えている。

(c)上記a.の【0017】及び【0019】並びに上記c.(図1)ないしe.(図3)には,上記「中心導体」が,X軸方向の幅Wsを有するとともにY軸方向が長手方向となるストリップ導体(6a)と,当該ストリップ導体からX軸方向及びX軸方向と反対の方向に突出する,Y軸方向の幅Laの矩形形状の2つの突出導体(6b)部分とからなること,「中心導体」の幅が,突出導体がある部分はWstであること,が記載されている。
さらに,上記a.の【0017】,【0021】,上記d.(図2)及びe.(図3)には,引用例1の「マイクロ波遅波回路」が,ストリップ導体とストリップ接地導体との間に誘電体層を介して狭設されてなるトリプレートマイクロストリップ線路で構成された第1の伝送線路(100)と,接地導体から下層側の誘電体層(3a)の厚さだけ上側に位置するストリップ導体が,左右方向に位置する各接地導体から所定の同一の間隔だけ離されて形成されてなるエレベーテッドコプレーナ線路で構成された第2の伝送線路(200)とで構成され,中心導体のうち,第1の伝送線路に含まれる部分の幅がWstであり,第2の伝送線路に含まれる部分の幅がWsであり,幅Wstが幅Wsより広いこと,すなわち,幅Wstと幅Wsとが異なることが記載されている。
ここで,前記「中心導体」は,伝送線路の一部を構成していることから,中心導体のうち,第1の伝送線路に含まれる部分を「第1の伝送線路の部分」,第2の伝送線路に含まれる部分を「第2の伝送線路の部分」と称するのは任意である。
そうすると,前記「中心導体」は,幅Wsを有する第2の伝送線路の部分と幅Wstを有する第1の伝送線路の部分とを含むものである。

(d)上記a.の【0017】には,第1の伝送線路と,第2の伝送線路とが,交互に,かつ中心導体の長手方向と平行な方向である各伝送線路の延伸接続方向に縦続して接続することによって構成されることが記載されており,上記c.を参照すると,第1の伝送線路と第2の伝送線路とが,中心導体の長手方向に,繰り返し接続してなる構造を有することが見て取れ,第1の伝送線路及び第2の伝送線路のそれぞれに対応している,前記「中心導体」を構成する上記「第1の伝送線路の部分」及び「第2の伝送線路の部分」も,同様の構造を有している。
そうすると,前記(c)を加味すると,上記「中心導体」は,前記「第2の伝送線路の部分」と前記「第1の伝送線路の部分」とが前記「中心導体」の長手方向と平行な方向に縦続した構造が,前記長手方向に繰り返し接続されることにより,前記「第2の伝送線路の部分」及び前記「第1の伝送線路の部分」が交互に配置されたものである。

(e)上記a.の【0021】,上記d.(図2)及び上記e.(図3)と,上記(b)からすると,基板上に配置された「ストリップ接地導体」は,前記「第1の伝送線路の部分」の上にあり,且つ,前記「第2の伝送線路の部分」の下になく上にもない。

(f)上記a.の【0020】には,「複数のストリップ接地導体」(1)が,互いに距離Lbだけ離れ,枕木形状又は格子形状であることが記載されており,また,上記c.(図1)を参照すると,前記「複数のストリップ接地導体」を構成する各「ストリップ接地導体」は,互いに並行に配置されており,各「ストリップ接地導体」は互いに独立しているといえる。

(g)上記b.の【0036】には,「マイクロ波遅波回路」を,同一の基板に,FETなどの能動素子と一緒に集積化できることが記載されている。

したがって,上記(a)ないし(g)より,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

「マイクロ波遅波回路であって,
半導体基板の頂上面に直隣接的に配置された接地導体と,
前記接地導体上に配置された2つの誘電体層と,
前記2つの誘電体層に埋め込まれ,且つ幅Wsを有する第2の伝送線路の部分と幅Wstを有する第1の伝送線路の部分とを含む中心導体であって,前記幅Wsおよび前記幅Wstが異なり,前記第2の伝送線路の部分と前記第1の伝送線路の部分とが前記中心導体の長手方向と平行な方向に縦続した構造が,前記長手方向に繰り返し接続されることにより,前記第2の伝送線路の部分及び前記第1の伝送線路の部分が交互に配置されている,前記中心導体と,
前記基板上に互いに平行に配置された複数のストリップ接地導体であって,前記複数のストリップ接地導体の独立した各ストリップ接地導体が,前記第1の伝送線路の部分の上にあり,且つ,前記第2の伝送線路の部分の下になく上にもない,前記複数のストリップ接地導体と
を備えている,同一の基板に能動素子とともに集積化可能な,前記マイクロ波遅波回路。」

イ.引用発明2
原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特許第3781178号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

h. 「【0002】
【従来の技術】
HEMTやHBT等の高速半導体素子をキャパシタや抵抗等の受動素子とともに半導体基板上に集積化したMMICでは,素子間における信号伝送用配線として高周波帯域における信号伝送特性の良好なマイクロストリップ型の伝送線路が用いられる。また,MMICの高密度化のためこれらの伝送線路は,通常多層化される。
【0003】
図5は多層配線構造を有する従来のMMICを示す断面図であり,図5(a) は平面図,図5(b) はAA断面図である。同図に見られるように,GaAs基板1の表面にはHEMT等の能動素子2,キャパシタや抵抗等の受動素子3が形成されており,これらのデバイスは表面絶縁膜4で覆われ,この表面絶縁膜4の上に接地電位に固定された接地プレート5が形成される。そして,接地プレート5の上には,必要とされる配線層数に応じて層間絶縁膜と配線層が交互に積層形成される。」(第2ページ)

j.「【0014】
【発明の実施の形態】
以下,図面を参照して本発明の実施例を説明する。図1(a) は本発明の実施例に係るMMICの平面図,図1(b) はAA断面図である。同図に見られるように,GaAs基板1の表面にHEMT等の能動素子2,MIMキャパシタや抵抗等の受動素子3が形成されており,この上にこれらのデバイスを外部雰囲気から保護するための表面絶縁膜4が形成される。表面保護膜4として窒化シリコン等の安定な材料が用いられる。そして,表面保護膜4の上に接地電位に固定された接地プレート5を形成し,この上に第1層目の層間絶縁膜6,第1層目の配線層7,第2層目の層間絶縁膜8,分離電極9,第3層目の層間絶縁膜10,第2層目の配線層11が形成される。
【0015】
層間絶縁膜6,8,10の材料として,ポリイミド等の誘電率の低い有機樹脂が用いられる。また,接地プレート5,配線層7,11及び分離電極9の材料として金等の導電性材料が用いられる。分離電極9はスルーホール12を介して接地プレート5と接続される。」(第4ページ)

k.「

」(図1(b),第6ページ)

以下,上記h.ないしk.の記載及びこの分野における技術常識を考慮しつつ,引用例2に記載された技術事項について検討する。

(h)上記h.ないしk.からして,引用例2には,マイクロストリップ型の伝送線路を能動素子とともに同一の基板に集積化したマイクロ波集積回路(MMIC)において,基板(1)の表面に能動素子(2)が形成されるとともに,当該基板の頂上面に直隣接的に配置された1つの表面絶縁膜(4)(表面保護膜)と,前記1つの表面絶縁膜上の頂上面に直隣接的に配置された接地プレート(5)と,前記接地プレート上に配置された少なくとも1つの層間絶縁膜(6,8,10)と,少なくとも1つの層間絶縁膜に埋め込まれた配線層(7)である伝送線路を備えることが記載されている。
上記j.の【0014】には,表面絶縁層の材料の例として窒化シリコンが挙げられているが,窒化シリコンが,所定の誘電率を有する誘電材料であることは自明である。また,上記j.の【0015】には,層間絶縁膜として,誘電率の低い有機樹脂が用いられることが記載されているが,有機樹脂の誘電率は0ではないことから,当該層間絶縁膜は,誘電率の低い誘電材料層であるといえる。また,上記j.の【0015】によると,接地プレートの材料の例として金(金属)が挙げられているところ,当該接地プレートは,接地金属面を構成しているといえる。

したがって,上記(h)より,引用例2には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

「マイクロストリップ型の伝送線路を能動素子とともに同一の基板に集積化したマイクロ波集積回路(MMIC)において,基板の表面に能動素子が形成されるとともに,当該基板の頂上面に直隣接的に配置された少なくとも1つの第1の誘電材料層と,前記1つの第1の誘電材料層の頂上面に直隣接的に配置された接地金属面と,前記接地金属面上に配置された少なくとも1つの第2の誘電材料層と,少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれた伝送線路を備えること。」

(3)対比・判断
ア.対比
補正後の発明と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「マイクロ波遅波回路」が,構造であることは自明である。
よって,引用発明1の「マイクロ波遅波回路」は,補正後の発明の「構造」に相当する。

(イ)引用発明1の「半導体基板」は,補正後の発明の「基板」に相当する。

(ウ)「導体」として金属を用いることは出願時の技術常識であることから,引用発明1の「接地導体」は,金属により構成されたものを含んでいる。また,引用発明1の「接地導体」が,面を有していることは自明である。すると,引用発明1の「接地導体」は,以下で挙げる相違点を除いて,補正後の本願発明の「接地金属面」に相当する。
また,補正後の発明の「接地金属面」は,第1の誘電材料層を介して基板の上にあることから,引用発明1の「接地導体」と,補正後の本願発明の「接地金属面」とは,基板上に配置される点において共通している。

(エ)前記(ウ)を加味すると,引用発明1の「前記接地導体上に配置された2つの誘電体層」は,補正後の発明の「前記接地金属面上に配置された少なくとも1つの第2の誘電材料層」に相当する。

(オ)引用発明1の「中心導体」は,伝送線路を構成するものであり,かつ,「導体」として金属を用いることは出願時の技術常識であることから,補正後の発明の「金属伝送線」に相当する。

(カ)前記(オ)を加味すれば,引用発明1において,「中心導体」が,「2つの誘電体層に埋め込まれ」ることは,補正後の発明において,「金属伝送線」は,「少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれ」ることに相当する。

(キ)引用発明1の「中心導体」は,「第1の伝送線路の部分」と,「第2の伝送線路の部分」とが,前記中心導体の長手方向と平行な方向(補正後の発明の「横方向」に相当。)に縦続(補正後の発明の「当接」に相当。)した構造を単位構造として,この単位構造が,前記長手方向(補正後の発明の「長さ方向」に相当。)に繰り返されることにより,前記「第2の伝送線路の部分」及び前記「第1の伝送線路の部分」が交互に配置(補正後の発明の「交互に交差」に相当。)されたものである。
すると,引用発明1の「第2の伝送線路の部分」及び「第1の伝送線路の部分」はそれぞれ,補正後の発明の「第1の伝送線部分」及び「第2の伝送線部分」に相当し,また,引用発明1の「幅Ws」及び「幅Wst」はそれぞれ補正後の発明の「第1の幅」及び「第2の幅」に相当する。
そして,前記(オ)及び(カ)を加味すれば,引用発明1の「前記2つの誘電材料層に埋め込まれ,且つ幅Wsを有する第2の伝送線路の部分と幅Wstを有する第1の伝送線路の部分とを含む中心導体であって,前記幅Wsおよび前記幅Wstが異なり,前記第2の伝送線路の部分と前記第1の伝送線路の部分とが前記中心導体の長手方向と平行な方向に縦続した構造が,前記長手方向に繰り返し接続されることにより,前記第2の伝送線路の部分及び前記第1の伝送線路の部分が交互に配置されている,前記中心導体」は,
補正後の発明の
「前記少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれ,且つ第1の幅を有する第1の伝送線部分と第2の幅を有する第2の伝送線部分とを含む金属伝送線であって,前記第1の幅および前記第2の幅が異なり,前記第1の伝送線部分と前記第2の伝送線部分とが相互に横方向に当接して繰り返し単位構造を構成し,前記繰り返し単位構造が長さ方向に繰り返されることにより,前記第1の伝送線部分および前記第2の伝送線部分が交互に交差されている,前記金属伝送線」
に相当する。

(ク) 「導体」として金属を用いることは出願時の技術常識であることから,引用発明1の「複数のストリップ接地導体」は,金属により構成されたものを含んでいる。また,引用発明1の「互いに平行に配置された複数のストリップ接地導体」は,複数の「ストリップ接地導体」が,互いに平行に配置された配列,すなわち,「アレイ」を構成している。
そうすると,引用発明1の「複数のストリップ接地導体」と補正後の本願の「金属フィン・アレイ」は,金属からなるアレイ,すなわち「金属アレイ」である点において共通し,また,引用発明の「ストリップ接地導体」と,補正後の発明の「金属フィン」とは,「金属」である点において共通する。
そして,前記(キ)を加味すると,引用発明1と補正後の発明とは,上記「金属アレイ」及び「金属」に関し,金属アレイの独立した各金属が,前記第2の伝送線部分の下にあるかまたは上にあり,且つ,前記第1の伝送線部分の下になく上にもない点において共通する。

イ.一致点・相違点
前記ア.から,補正後の発明と引用発明1とは,以下の点で一致ないし相違している。

[一致点]
「構造であって,
基板上に配置された接地金属面と,
前記接地金属面上に配置された少なくとも1つの第2の誘電材料層と,
前記少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれ,且つ第1の幅を有する第1の伝送線部分と第2の幅を有する第2の伝送線部分とを含む金属伝送線であって,前記第1の幅および前記第2の幅が異なり,前記第1の伝送線部分および前記第2の伝送線部分が交互に交差されている,前記金属伝送線と,
前記基板上に配置された金属アレイであって,前記金属フィン・アレイの各金属が,前記第2の伝送線部分の下にあるかまたは上にあり,且つ,前記第1の伝送線部分の下になく上にもない,前記金属アレイと
を備えている,前記構造。」

[相違点1]
補正後の発明は,「基板の頂上面に直隣接的に配置された少なくとも1つの第1の誘電材料層」を備え,「接地金属面」が,当該「少なくとも1つの第1の誘電材料層」の「頂上面に直隣接的に配置されている」のに対し,引用発明1は,前記「第1の誘電材料層」に相当するものを備えず,「接地導体」(接地金属面)が,「基板」の頂上面に直隣接的に配置されている点。

[相違点2]
「金属アレイ」及び「金属」が,補正後の発明は,「金属フィン・アレイ」及び「金属フィン」であること,すなわち,「フィン」状のものであるのに対し,引用発明は,「フィン」状であるとの限定がないこと。

ウ.判断
前記イ.の各相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明1は,同一の基板に能動素子とともに集積化可能なマイクロ波遅波回路であるものの,能動素子と他の回路要素とをどのように集積化するのかについては具体的に特定していないが,引用発明2にあるように,マイクロストリップ型の伝送線路を能動素子とともに同一の基板に集積化したマイクロ波集積回路(MMIC)において,基板の表面に能動素子が形成されるとともに,当該基板の頂上面に直隣接的に配置された少なくとも1つの第1の誘電材料層と,前記1つの第1の誘電材料層の頂上面に直隣接的に配置された接地金属面と,前記接地金属面上に配置された少なくとも1つの第2の誘電材料層と,少なくとも1つの第2の誘電材料層に埋め込まれた伝送線路を備えることは,出願時に公知の技術である。
すると,引用発明1において,能動素子を他の回路要素ととも同一の基板に集積化するにあたり,引用発明2に係る公知技術を採用し,能動素子を半導体基板の表面に実装するとともに,半導体基板と接地導体との間に,能動素子を保護するための誘電体層を設けることにより,補正後の発明のように,「基板の頂上面に直隣接的に配置された少なくとも1つの第1の誘電材料層」を備え,「接地金属面」が,当該「少なくとも1つの第1の誘電材料層」の「頂上面に直隣接的に配置された」構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,当該[相違点1]は,当業者にとって格別のものではない。

[相違点2について]
補正後の発明において,「金属フィン」は,形状が数値等で具体的に特定されていないが,一般に,「フィン」(fin)とは,鰭(ひれ)を意味する語であり,該鰭(ひれ)が,偏平な板状の形状を有することは,出願時の技術常識である。
すると,補正後の発明において,「金属フィン」は,金属で形成された,偏平な板状の形状のものと解するのが合理的である。
一方,引用発明1の「ストリップ接地導体」は,枕木の形状を有することが例として挙げられており(上記a.の【0020】参照。),一般的に,枕木は,厚みが小さい,偏平な板状の形状を有することが出願時の技術常識であり,実際,図1(上記c.の図1参照。)を見ても,偏平な板状の形状を有している。
よって,引用発明1の「ストリップ接地導体」は,補正後の発明の「金属フィン」との差異が認められず,同様に,引用発明1の「互いに平行に配置された複数のストリップ接地導体」は,補正後の発明の「金属フィン・アレイ」との差異が認められない。また,本願の明細書の段落【0022】には,「様々な金属フィン部分(52,54,56,58)の各々の厚さは,50nmから2000nmとすれば良く,典型的には100nmから500nmであるが,これよりも小さい厚さおよび大きい厚さも本発明において想定されている。」(注意:下線は,合議体が付加した。)と記載されており,補正後の発明は,「金属フィン」の厚さが,引用発明1と同様に薄いものも含み得ると解するのが合理的であるから,本願の明細書に記載した事項を参酌した上で補正後の発明を解釈しても判断は変わらない。
なお,具体的な実施例を参酌して対比すると,本願の明細書及び図面(特に,図5及び図6)においては,「金属フィン」(52?58)は,長さ方向の長さL2に対して,幅方向の幅W3と厚み方向の厚さ(対応する記号なし)が大きく,基板側の面に対して,垂直方向に壁状に立設して設けられているのに対し,引用発明の「ストリップ接地導体」は,図1(上記c.の図1参照。)からして,基板側の面に対する垂直方向の厚さが薄く,基板側の面に貼り付いたように設けられている点で具体的に相違しているともいえる。
しかしながら,マイクロ波の伝送路は,伝送路を構成する導体の幅・厚さ,導体に介在する誘電体の厚さ・素材,誘電体と導体との距離などに応じて特性が変化することは出願時の技術常識であり,引用発明1において,所望の特性を得るために,「ストリップ接地導体」の厚さを,適宜厚くして,本願の実施例に開示されたものと同等の「フィン」の形状とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
よって,当該[相違点2」は,実質的なものではなく,また,本願の具体的な実施例を加味して当該[相違点2]について判断しても,当業者にとって格別なものとはいえない。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明1及び引用発明2から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり,補正後の発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)結語
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年2月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。

2.引用発明
引用発明1及び引用発明2は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記補正後の発明から本件補正に係る,「金属伝送線」についての「前記第1の伝送部分と前記第2の伝送部分とが相互に横方向に当接して繰り返し単位構造を構成し,前記繰り返し単位構造が長さ方向に繰り返されることにより,」との限定と,「各金属フィン」についての「独立した」との限定を省いたものである。
そうすると,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-11 
結審通知日 2015-09-15 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2009-277696(P2009-277696)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01P)
P 1 8・ 575- Z (H01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 美香富澤 哲生  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 林 毅
山中 実
発明の名称 低位相速度のための構造、方法、および設計構造(低位相速度のためのミリメートル波伝送線)  
代理人 上野 剛史  
復代理人 村上 博司  
復代理人 松井 光夫  
代理人 太佐 種一  

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