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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1311178
審判番号 不服2015-1265  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-22 
確定日 2016-02-12 
事件の表示 特願2013-147507「空気流量測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-213834〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月18日に出願した特願2009-288323号の一部を平成25年7月16日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月15日付けで手続補正がなされたが、平成26年10月22日付けで拒絶査定がなされ(送達日:平成26年10月28日)、これに対し、平成27年1月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年1月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年1月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前(平成26年4月15日付け手続補正書参照)に、
(本件補正前)
「【請求項1】
空気流量相当の電気信号を発生する検出部を備え、前記空気流量相当の電気信号を所定の制御回路により処理して出力する空気流量測定装置において、
前記検出部は
通電により発熱する発熱部と、
この発熱部から空気を介して熱的影響を受けることで、前記空気流量相当の電気信号を発生する測温部と、
前記空気流量相当の電気信号を前記制御回路に出力するための電極と、
この電極と前記測温部とを導通させるリード部と、
表面と裏面との間を貫通する空洞および表面に設けられた電気絶縁膜を備え、この電気絶縁膜の一部が前記空洞を覆うメンブレンをなしている半導体基板とを有し、
前記発熱部、前記測温部および前記リード部は、前記電気絶縁膜上に成形されるものであって、
前記測温部および前記リード部はケイ素の半導体膜として成形され、前記リード部は前記測温部よりも不純物濃度が高く、
前記リード部の内、前記測温部から連続する特定部分が、前記発熱部および前記測温部とともに前記メンブレン上に成形されていて、
前記特定部分には、前記測温部から連続して不純物濃度が前記測温部と同等の範囲が存在しており、
かかる範囲とは、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域であることを特徴とする空気流量測定装置。」
とあったものを、

(本件補正後)
「【請求項1】
空気流量相当の電気信号を発生する検出部を備え、前記空気流量相当の電気信号を所定の制御回路により処理して出力する空気流量測定装置において、
前記検出部は
通電により発熱する発熱部と、
この発熱部から空気を介して熱的影響を受けることで、前記空気流量相当の電気信号を発生する測温部と、
前記空気流量相当の電気信号を前記制御回路に出力するための電極と、
この電極と前記測温部とを導通させるリード部と、
表面と裏面との間を貫通する空洞および表面に設けられた電気絶縁膜を備え、この電気絶縁膜の一部が前記空洞を覆うメンブレンをなしている半導体基板とを有し、
前記発熱部、前記測温部および前記リード部は、前記電気絶縁膜上に成形されるものであって、
前記測温部および前記リード部はケイ素の半導体膜として成形され、
前記リード部の内、前記測温部から連続する特定部分が、前記発熱部および前記測温部とともに前記メンブレン上に成形されていて、
前記特定部分は、境界線よりも前記半導体基板側に位置し前記測温部よりも不純物濃度が高い第1領域と、前記境界線よりも前記測温部側に位置し前記測温部と同等の不純物濃度である第2領域とからなり、
前記第1領域は、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっておらず、
前記第2領域は、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの範囲であることを特徴とする空気流量測定装置。」(下線は補正箇所を表す。)
と補正しようとするものである。

上記補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
ア 「前記リード部は前記測温部よりも不純物濃度が高く」なる要件を削除し、
イ 「前記リード部の内」の「前記測温部から連続する特定部分」について、「前記特定部分には、前記測温部から連続して不純物濃度が前記測温部と同等の範囲が存在しており、かかる範囲とは、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域である」とあったところを、「前記特定部分は、境界線よりも前記半導体基板側に位置し前記測温部よりも不純物濃度が高い第1領域と、前記境界線よりも前記測温部側に位置し前記測温部と同等の不純物濃度である第2領域とからなり、前記第1領域は、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっておらず、前記第2領域は、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの範囲である」と補正するものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加について
本件補正により請求項1に新たに追加された「前記第1領域は、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっておらず」との技術事項が、出願当初の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されているか否かを以下に判断する。
ア 当初明細書等に記載された事項について
本件の当初明細書等には、次の記載がある。
(ア)「【0043】
〔実施例1の効果〕
実施例1の空気流量測定装置1によれば、測温部8およびリード部43はケイ素の半導体膜として設けられ、リード部43は測温部8よりも不純物濃度が高い。
ここで、検出部4から得られる流量信号は、検出部4側の電極34、35、ボンディングワイヤ44、および制御回路5側の電極を介して制御回路5に入力される。このため、流量信号には、測温部8における電圧降下に基づく信号部分以外に、リード部43における電圧降下に基づく信号部分が含まれている。
【0044】
この結果、流量信号に対する測温部8の感度は、リード部43における電圧降下の影響を受けるので、リード部43のシート抵抗が大きく、リード部43における電圧降下が測温部8における電圧降下に比べて無視できないほどに有意な数値になってしまうと、空気流量の検出精度が低下してしまう。
【0045】
そこで、リード部43の不純物濃度を測温部8の不純物濃度よりも高めて、リード部43のシート抵抗を測温部8のシート抵抗よりも低く設定する。これにより、リード部43における電圧降下を測温部8における電圧降下に比べて無視できる程度に小さくして、流量信号に対する測温部8の感度を高めることができるので、空気流量の検出精度を高めることができる。」(当初明細書等の明細書の段落【0043】ないし【0045】)

(イ)「【0048】
これにより、部分47を含む全てのリード部43に関して、シート抵抗を測温部8よりも低く設定することができる。
また、ケイ素の半導体膜は、図9に示すように、不純物濃度が大きくなると経時的な抵抗変動の割合(抵抗変化率)が大きくなる。よって、部分47の内、測温部8から連続するさらに小さい範囲51、換言すれば、測温部8から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域(図5参照)では、発熱部7からの伝熱により温度が上昇するので、不純物濃度が高いとシート抵抗が経時的に変化して測定誤差が生じてしまう。
【0049】
そこで、範囲51に関しては、不純物濃度を測温部8と同等にしてシート抵抗を測温部8と同じになるように設定する。
なお、範囲51の境界線(図5参照)は、実際に温度が上昇するか否かを測定して決定される。」(当初明細書等の明細書の段落【0048】、【0049】)

(ウ)以下に示す当初明細書等の図5には、範囲51の境界線を示す破線が、発熱部7の線幅が最も狭い部分よりも、矩形状のメンブレン13の底辺側(つまり半導体側)に、リード線47(43)を横切って、矩形状のメンブレン13の底辺と平行な直線として描かれている。

イ 当初明細書等の図5の正確性について
次に、本願の当初明細書等の図5が、「範囲51の境界線」のメンブレン上における位置を技術的に正確に表した図であるか否かを検討する。
まず、上記「ア」「(イ)」の段落【0049】に記載されているとおり、範囲51の境界線(図5参照)は、任意に設定できる線ではなく、実際に温度が上昇するか否かを測定して決定される線であるから、「境界線」と「発熱部の線幅が最も狭い部分」の位置関係は、図5から一意に決定できない性質のものである。
そこで、特開2006-52944号公報に、熱式流量センサのダイヤフラム部3の温度分布が示されているので、これを参酌すると、該公報には、「【0044】図8および図9は、熱式流量センサのダイヤフラム部3の温度分布を示したもので、図8は媒体流10が無い場合、図9は媒体流10がある場合である。
【0045】
図8の媒体流10が無い場合のダイヤフラム部3の温度分布は、発熱抵抗体4が配置されたダイヤフラム3の中央部分が最も温度が高く(Th)の温度で示された長楕円形状の等温度分布を示す。ダイヤフラム部の周辺に近づくに従い、T2,T3(Th>T2>T3)と同じく長楕円形状の等温度分布を保ちながら温度が下がる。ダイヤフラム部3周辺の基板2の温度は、基板2が熱伝導率の良い単結晶Si基板となっており、且つ、基板体積が十分に大きい(熱容量が大きい)ことからほぼ媒体温度(Ta)となる。
【0046】
図9の媒体流10がある場合のダイヤフラム部3の温度分布は、発熱抵抗体4の上流側が媒体の冷却効果により下がり、下流側が発熱抵抗体4により暖められることから、下流側に長楕円形状の等温度分布がシフトする。但し、発熱抵抗体4が配置されたダイヤフラム3の中央部分は常時加熱されている為に、図8の無風状態とほぼ同じく(Th)の温度で示された長楕円形状の等温度分布となる。」と記載され、また、図8、図9に示されているとおり、熱式流量センサにおいて、所定の線幅の発熱抵抗体の発熱により実際に温度が上昇する領域は、ダイヤフラム部が矩形の場合には、所定の線幅の発熱抵抗体の中央部分からその周囲に略楕円形状に拡がった領域となることが示されている。

すると、本願発明に係る空気流量測定装置においても、発熱部7の発熱により実際に温度が上昇する領域は、発熱部7の中央部分からその周辺に略楕円形状に拡がった領域となると考えるのが自然であるから、範囲51の境界線が、本願の当初明細書等の図5に図示されているような、発熱部7の線幅が最も狭い部分よりも矩形状のメンブレン13の底辺側(つまり半導体側)に、矩形状のメンブレン13の底辺と平行な直線となることは、通常考えられないことである。
よって、本願の当初明細書等の図5は、「範囲51の境界線」に関しては、単なる説明図にすぎず、「範囲51の境界線」のメンブレン上における位置を技術的に正確に描いた図ではないものといえる。

新規事項の追加に当たるか否かの判断
上記「ア」「イ」を踏まえて、本件補正により請求項1に新たに追加された「前記第1領域は、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっておらず」との技術事項が新規事項の追加に当たるか否かを判断する。
上記「ア」にて摘記した当初明細書等の明細書の記載より、次の(a)?(c)の技術事項を読み取ることができる。
(a)「境界線」は、「リード部の内、前記測温部から連続する特定部分」を、「発熱部7からの伝熱」により温度が上昇する領域(第2領域)と、温度が上昇しない領域(第1領域)とに仕切る線である。
(b)「境界線」より「測温部側に位置」する「第2領域」の不純物濃度は、「測温部と同等」として「シート抵抗が経時的に変化」しないようにする。これに対し、「境界線」より「半導体基板側に位置」する「第1領域」の不純物濃度を高して、シート抵抗を低くし、リード部における電圧降下を小さくする。
(c)「境界線」は、実際に温度が上昇するか否かを測定して決定される。

しかし、当初明細書等の明細書には、実際に温度が上昇するか否かを測定して決定した「境界線」が、メンブレン13上のどのような線となるのか、何ら記載されておらず、したがって、「境界線」より「半導体基板側に位置」する「第1領域」が、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっていない領域となる、との技術的知見は、何ら開示されていない。
また、上記「イ」で述べたとおり、本願の当初明細書等の図5は、「範囲51の境界線」に関しては、単なる説明図にすぎず、本件補正に係る上記技術事項が当初明細書等の図5に記載されていたとすることもできない。

よって、本件補正により請求項1に新たに追加された「前記第1領域は、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっておらず」との技術事項は、当初明細書等に記載されていない事項である。

新規事項の追加についてのまとめ
以上のとおり、本件補正により請求項1に新たに追加された「前記第1領域は、空気の流れ方向において前記発熱部の線幅が最も狭い部分と重なっておらず」との技術事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関連において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、本件補正は特許法第17条の2第3項(新規事項の追加)に規定する要件を満たしていない。

(2)補正の目的について
本件補正により、本件補正前の請求項1から「前記リード部は前記測温部よりも不純物濃度が高く」という要件が削除されたため、本件補正後では、メンブレン上に形成された特定部分の「第2領域」(「境界線よりも前記測温部側に位置し」、「前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの範囲」)以外にも、リード部が「測温部よりも不純物濃度が高」くない(例えば、不純物濃度が測温部と同等の)領域を含むことも新たに許容されることとなった(なお、本願明細書の段落【0009】に「また、特許文献2では、発熱部のシート抵抗を発熱部用リード部のシート抵抗の5倍以上に設定するために、発熱部用リード部の幅を広げたり、発熱部用リード部を2段階で成膜して厚みを増したり、発熱部用リード部を少なくとも2種類の金属膜を成膜することで設けたりしているが、いずれの方法もコストアップになってしまう。」(下線は、当審で付与した。)と記載されているとおり、不純物濃度を高めることに代え、リード部の幅を広げたり、膜厚を増したりすることによっても、リード部の電気抵抗を下げることは可能である。)。
よって、特許請求の範囲についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものではない。
また、特許請求の範囲についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)、第4号(明瞭でない記載の釈明)の何れにも該当しない。

(3)補正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)に規定する要件を満たさず、また、同法第17条の2第5項(補正の目的)に規定する要件を満たしていないから、同法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり平成27年1月22日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成26年4月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」「1」「(本件補正前)」に記載したとおりのものである。

2 引用例の記載事項
原査定の拒絶理由で通知された、本願の原出願の出願前に頒布された、特開2001-41790号公報(出願公開:平成13年2月16日)(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、次の技術事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体基板の空洞部を覆って形成した電気絶縁膜の一方の面に少なくとも発熱抵抗体を配置して空気流量を計測する熱式空気流量センサにおいて、
前記発熱抵抗体は、流量を計測すべき空気の流れに対してほぼ直交する方向に沿ってほぼ一直線上に配置され、且つ、その一部にスリットが形成されていることを特徴とする熱式空気流量センサ。」

(イ)「【請求項4】 請求項1に記載の発明又は請求項2に記載の発明において、
前記空洞部は、その形状が略矩形に作られ、
前記電気絶縁膜は、前記空洞部を覆う部分において、空気の流れ方向に直交する方向の寸法Lを有し、
前記発熱抵抗体の長さをL1としたとき、前記電気絶縁膜の直交方向の寸法Lについて、L>1.1×L1の関係式が成り立ち、
前記測温抵抗体の長さをL2としたとき、前記発熱抵抗体の長さL1との間にL1>1.05×L2の関係式が成り立つように構成したことを特徴とする熱式空気流量センサ。

【請求項5】 請求項1?請求項4に記載の発明の何れかにおいて、
前記発熱抵抗体と前記測温抵抗体が、夫々の接続配線部も含めて不純物ドープした多結晶又は単結晶の半導体膜で構成され、
前記測温抵抗体の不純物濃度が、前記接続配線部の不純物濃度より小さく設定されていることを特徴とする熱式空気流量センサ。」

(ウ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱式空気流量センサと内燃機関制御装置に係り、特に内燃機関の吸入空気量の測定に好適な熱式空気流量センサと、この熱式空気流量センサを用いた内燃機関制御装置に関する。」

(エ)「【0013】温度差方式のセンサでは、空気の流れ方向の温度分布の変化(温度差)から空気流量を計測するのであるが、このとき、空気の流れに直交する方向(発熱抵抗体の長さ方向)での温度分布も測定精度に大きな影響を与える。しかるに従来技術では、この点に配慮が充分にされているとはいえないので、上記の問題が生じてしまうのである。」

(オ)「【0018】この計測誤差は、空気流量センサ素子の取付位置のバラツキなどにより、空気の流れ方向がx軸に対して傾いた場合、特に顕著になり、上記した温度分布の頂点の位置ずれ(ΔL)が大きくなって、測温抵抗体6a、6cの有効領域から外れてしまう可能性もある。」

(カ)「【0026】
【発明の実施の形態】以下、本発明による熱式空気流量センサについて、図示の実施の形態により詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態におけるセンサ素子の平面図で、図2は、図1のA-A’線による断面図、そして図3は、図1の部分拡大図であり、これらの図において、1がセンサ素子1で、これは、全体が半導体基板2をベースとして形成されている。
【0027】半導体基板2は、空洞部9が形成されている単結晶ケイ素(Si)の板で、その一方の面(図では上側の面)にダイヤフラム部3が形成されている。ここで、空洞部9は、平面形状が略矩形の孔として形成されているものである。
【0028】ダイヤフラム部3は、半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8aの空洞部9を覆う部分により形成され、その表面に発熱抵抗体4と上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dが形成してある。ここで、電気絶縁膜8aは二酸化ケイ素(SiO_(2))の薄膜で作られている。
【0029】発熱抵抗体4は、不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜により、所定の導電性(抵抗値)を持つ細条として作られたもので、これにはスリット5a、5bが形成され、これにより、この発熱抵抗体4は、その両端の近傍において、一部が横方向に分割された形にされている。また、測温抵抗体6a?6dも同じく不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で、同じく所定の導電性を持つ細条として作られたものである。
【0030】一方、ダイヤフラム部3の外側の電気絶縁膜8aの表面には、空気温度測温抵抗体7と、各抵抗体の配線接続部11(11a、11b、11c、11d、11e、11f、11g、11h、11i、11j、11k、11l)、それに端子電極部12(12a、12b、12c、12d、12e、12f、12g、12h)が形成されている。
【0031】空気温度測温抵抗体7は、不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で所定の導電性を持つように作られている。一方、配線接続部11も不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で作られているが、ここでは更に不純物濃度を高め、極力高い導電性が与えられるようになっている。
【0032】端子電極部12は、アルミニウム(Al)、金(Au)などの薄膜パッドで形成されている。そして、電気絶縁膜8aの表面には、各抵抗体などを保護するための電気絶縁膜8bが、図2に示すように設けられている。
【0033】ここで、発熱抵抗体4は、矢印10で示した空気の流れ方向(x軸方向)に直交する方向(y軸方向)に沿って、ほぼ一直線上に配置されており、更に上記したように、スリット5a、5bが設けられていて、これにより両端近傍で一部が幅方向に分割されており、測温抵抗体6a、6b、6c、6dは、この発熱抵抗体4に対して、空気の流れ方向の上流側と下流側、及び直交する方向の夫々で離間して、夫々が対になるようにして設けられている。
【0034】従って、発熱抵抗体4と測温抵抗体6a、6b、6c、6dは、空洞部9上のダイヤフラム部3領域において、空気の流れ方向(x軸方向)と直交方向(y軸方向)に対称(2回転対称)に形成されていることになる。」

(キ)「【0041】次に、図5は、センサ素子1と支持体27を拡大して示した図で、図示のように、センサ素子1は、絶縁体からなる支持体27に取付けられ、アルミナ等の電気絶縁基板上に端子電極部29と信号処理回路が形成してある外部回路28が、同じく支持体27上に取付けられている。
【0042】センサ素子1と外部回路28は、端子電極部12と端子電極部29の間を金線30などでワイヤボンディングして電気的に接続した後、金線30、電極端子12、29と外部回路28を保護するため、上側から図示してない支持体を設けることにより保護される。」

(ク)「【0046】上流側測温抵抗体6a、6bと下流側測温抵抗体6c、6dの温度差は、上流側測温抵抗体6a、6bと、下流側測温抵抗体6c、6dから形成されたブリッジ回路の端子12g、12eの電位差により検出する。
【0047】まず、空気流量がゼロの時には、ブリッジ回路の端子12g、12eの電位が一致するように、調整抵抗(図示せず)の抵抗値を調整するか、メモリ17に予め空気流量がゼロの時の端子12g、12eの電位差を記憶しておく。
【0048】空気流量の計測は、予め空気流量(Q)とブリッジ回路の端子12g、12eの電位差との関係をメモリ17にマップとして記憶しておき、端子12g、12eの電位差及び大小関係から、空気流量(Q)の計測値と流れの方向を判定して出力することができる。」

(ケ)図6には、制御回路16が、ブリッジ回路の端子12g、12eの電位が入力される入力回路、空気流量(Q)を出力する出力回路及びCPUから構成されることが示されている。」

(コ)段落【0023】には「測温抵抗体の長さをL2」と記載され、段落【0057】には、図3に関して「L2は測温抵抗体6a、6bの対と測温抵抗体6c、6dの対のy軸方向の長さ」と記載され、段落【0063】には「測温抵抗体6a、6b、6c、6dの各対のy軸方向の長さL2」と記載されている。
さらに、図3、図10には、測温抵抗体の長さL2について、次のとおり図示されている。

上記記載から、引用例には、次の技術事項が記載されている。
ア 【0046】ないし【0048】、及び図6より、「制御回路16は、上流側測温抵抗体6a、6bと、下流側測温抵抗体6c、6dから形成されたブリッジ回路の端子12g、12eの電位が入力され、その電位差及び大小関係から、空気流量(Q)の計測値と流れの方向を判定して出力する。」との技術事項を読み取ることができる。

イ 段落【0026】ないし【0034】、及び段落【0041】ないし【0042】より、
「半導体基板2は、空洞部9が形成されている単結晶ケイ素(Si)の板で、その一方の面にダイヤフラム部3が形成されており、ここで、空洞部9は、平面形状が略矩形の孔として形成されているものであり、ダイヤフラム部3は、半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8aの空洞部9を覆う部分により形成され、その表面に発熱抵抗体4と上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dが形成してあり、
測温抵抗体6a?6dも同じく不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で、同じく所定の導電性を持つ細条として作られたものであり、
一方、ダイヤフラム部3の外側の電気絶縁膜8aの表面には、各抵抗体の配線接続部11、それに端子電極部12が形成されており、配線接続部11も不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で作られているが、ここでは更に不純物濃度を高め、極力高い導電性が与えられるようになっており、端子電極部12は、アルミニウム(Al)、金(Au)などの薄膜パッドで形成されている。」との技術事項を読み取ることができる。

ウ 段落【0013】より、
「温度差方式のセンサは、空気の流れ方向の温度分布の変化(温度差)から空気流量を計測する。」との技術事項を読み取ることができる。

エ 【請求項1】、【請求項5】より、
「半導体基板の空洞部を覆って形成した電気絶縁膜の一方の面に少なくとも発熱抵抗体を配置して空気流量を計測する熱式空気流量センサにおいて、前記発熱抵抗体と前記測温抵抗体が、夫々の接続配線部も含めて不純物ドープした多結晶又は単結晶の半導体膜で構成され、前記測温抵抗体の不純物濃度が、前記接続配線部の不純物濃度より小さく設定されている、熱式空気流量センサ。」
との技術事項を読み取ることができる。

オ 【請求項4】、段落【0057】、段落【0063】、図3及び図10より、「上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」は、図3及び図10に「L2」で示された範囲の領域に該当するから、図3及び図10に示された、該「L2」の端部より連続して線幅が徐々に広がっていき接続配線部に繋がる領域(以下、「線幅が徐々に拡がる領域」という。)は、測温抵抗体の「有効領域」(引用例の段落【0018】参照。)ではなく、「接続配線部」と「上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」とを導通させる領域であることが理解できる。
よって、【請求項4】、段落【0057】、段落【0063】、図3及び図10より、「線幅が徐々に拡がる領域により、接続配線部と、上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dとを導通させている。」との技術事項を読み取ることができる。

上記アないしオより、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、「接続配線部」と「配線接続部」とは同義であるから、「配設接続部」に表記を統一した。)。
「半導体基板の空洞部を覆って形成した電気絶縁膜の一方の面に少なくとも発熱抵抗体を配置して、空気の流れ方向の温度分布の変化(温度差)から空気流量を計測する熱式空気流量センサにおいて、
前記発熱抵抗体と前記測温抵抗体が、夫々の配線接続部も含めて不純物ドープした多結晶又は単結晶の半導体膜で構成され、前記測温抵抗体の不純物濃度が、前記配線接続部の不純物濃度より小さく設定されており、
半導体基板2は、空洞部9が形成されている単結晶ケイ素(Si)の板で、その一方の面にダイヤフラム部3が形成されており、ここで、空洞部9は、平面形状が略矩形の孔として形成されているものであり、ダイヤフラム部3は、半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8aの空洞部9を覆う部分により形成され、その表面に発熱抵抗体4と上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dが形成してあり、
測温抵抗体6a?6dも同じく不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で、同じく所定の導電性を持つ細条として作られたものであり、
一方、ダイヤフラム部3の外側の電気絶縁膜8aの表面には、各抵抗体の配線接続部11、それに端子電極部12が形成されており、配線接続部11も不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層で作られているが、ここでは更に不純物濃度を高め、極力高い導電性が与えられるようになっており、
線幅が徐々に拡がる領域により、配線接続部と、上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dとを導通させ、
制御回路16は、上流側測温抵抗体6a、6bと、下流側測温抵抗体6c、6dから形成されたブリッジ回路の端子12g、12eの電位が入力され、その電位差及び大小関係から、空気流量(Q)の計測値と流れの方向を判定して出力する、
熱式空気流量センサ。」

3 対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「熱式空気流量センサ」のセンサ素子における「ブリッジ回路」は、「その電位差及び大小関係から、空気流量(Q)の計測値と流れの方向を判定して出力する」ための電気信号を発生しているから、「発熱抵抗体4」とともに、本願発明の「空気流量相当の電気信号を発生する検出部」に相当する。
次に、引用発明の「制御回路16」により、「上流側測温抵抗体6a、6bと、下流側測温抵抗体6c、6dから形成されたブリッジ回路の端子12g、12eの電位が入力され、その電位差及び大小関係から、空気流量(Q)の計測値と流れの方向を判定して出力する」ことが、本願発明の「前記空気流量相当の電気信号を所定の制御回路により処理して出力する」ことに相当する。
よって、引用発明の「熱式空気流量センサ」のセンサ素子と「制御回路16」とを含む装置が、本願発明の「空気流量測定装置」に相当する。
次に、引用発明の「熱式空気流量センサ」のセンサ素子において、「発熱抵抗体4」が、本願発明の「通電により発熱する発熱部」に相当する。
次に、熱式空気流量センサは、例えば特開昭60-142268号公報第6頁左上欄第10?15行に「空気の流れがあるときには、この実施例において上流に位置する熱感知センサ22はヒータ26へ向う空気の流れにより熱が運び去られるので冷やされ、-力、下流に位置する熱感知センサ24はヒータ26からの空気の流れによって熱せられることになる。」と説明されているとおり、ヒータ、すなわち発熱抵抗体からの空気を介した熱的影響により、下流に位置する熱感知センサ、つまり下流側測温抵抗体に加熱が生じることを動作原理とするものである。よって、引用発明の「熱式空気流量センサ」のセンサ素子において、「空気の流れ方向の温度分布の変化(温度差)から空気流量を計測する」「ブリッジ回路」を形成する「上流側測温抵抗体6a、6bと、下流側測温抵抗体6c、6d」(図3、図10において、長さL2で示される領域)が、本願発明の「この発熱部から空気を介して熱的影響を受けることで、前記空気流量相当の電気信号を発生する測温部」に相当するといえる。
次に、引用発明の「端子電極部12」は、「ブリッジ回路の端子12g、12e」であって、「制御回路16」にその「電位が入力され」、「その電位差及び大小関係から、空気流量(Q)の計測値と流れの方向」が得られるものであるから、本願発明の「前記空気流量相当の電気信号を前記制御回路に出力するための電極」に相当する。
次に、引用発明の「線幅が徐々に拡がる領域」は「配線接続部と、上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dとを導通させ」ているから、引用発明の「配線接続部11」及び「線幅が徐々に拡がる領域」が、本願発明の「電極と前記測温部とを導通させるリード部」に相当する。
よって、引用発明の「線幅が徐々に拡がる領域」は、本願発明の「リード部の内」の「前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域」に相当する。
次に、引用発明の「半導体基板2」に形成される「空洞部9」が、本願発明の「半導体基板」が備える「表面と裏面との間を貫通する空洞」に相当する。
次に、引用発明の「半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8a」は、「空洞部9を覆う部分」を備えているから、本願発明の「半導体基板」が備える「表面と裏面との間を貫通する空洞および表面に設けられた電気絶縁膜」に相当する。
次に、引用発明の「半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8aの空洞部9を覆う部分により形成され」た「ダイヤフラム部3」が、本願発明の「電気絶縁膜の一部が前記空洞を覆うメンブレン」に相当する。
次に、引用発明の「ダイヤフラム部3は、半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8aの空洞部9を覆う部分により形成され、その表面に発熱抵抗体4と上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dが形成してあり」、「ダイヤフラム部3の外側の電気絶縁膜8aの表面には、各抵抗体の配線接続部11、それに端子電極部12が形成されて」いることが、本願発明の「前記発熱部、前記測温部および前記リード部は、前記電気絶縁膜上に成形される」ことに相当する。
次に、引用発明の「前記測温抵抗体が、夫々の配線接続部部も含めて不純物ドープした多結晶又は単結晶の半導体膜で構成され」、「測温抵抗体6a?6d」が、「不純物ドープ処理された多結晶又は単結晶のケイ素の薄膜層」で「導電性を持つ細条として作られ」ていることが、本願発明の「前記測温部および前記リード部はケイ素の半導体膜として成形され」ることに相当する(なお、「線幅が徐々に拡がる領域」も「不純物ドープした多結晶又は単結晶の半導体膜で構成され」ていることは、引用例の段落【0075】ないし【0086】の熱式空気流量センサ素子1の製造工程より明らかである。)。
次に、引用発明において「前記測温抵抗体の不純物濃度が、前記配線接続部の不純物濃度より小さく設定されて」いること、言い換えると、「配線接続部11」が「測温抵抗体の不純物濃度」より「更に不純物濃度を高め、極力高い導電性が与えられるようになって」いることが、本願発明における「前記リード部は前記測温部よりも不純物濃度が高」いことに相当する。
次に、前記のとおり、引用発明における該「線幅が徐々に拡がる領域」が、本願発明における「前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域」、つまり「リード部の内、前記測温部から連続する特定部分」に相当するから、引用発明における「線幅が徐々に拡がる領域により、配線接続部と、上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6dとを導通させ」ることと、本願発明における、「前記リード部の内、前記測温部から連続する特定部分」には「前記測温部から連続して不純物濃度が前記測温部と同等の範囲が存在しており、かかる範囲とは、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域である」こととは、リード部の内には、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域がある点で共通する。。
次に、引用発明における 「発熱抵抗体4と上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」が「ダイヤフラム部3」の「表面に」「形成」されていることと、本願発明における「前記リード部の内、前記測温部から連続する特定部分が、前記発熱部および前記測温部とともに前記メンブレン上に成形されてい」ることは、「前記発熱部および前記測温部が前記メンブレン上に成形されてい」る点で共通する。

イ 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「空気流量相当の電気信号を発生する検出部を備え、前記空気流量相当の電気信号を所定の制御回路により処理して出力する空気流量測定装置において、
前記検出部は
通電により発熱する発熱部と、
この発熱部から空気を介して熱的影響を受けることで、前記空気流量相当の電気信号を発生する測温部と、
前記空気流量相当の電気信号を前記制御回路に出力するための電極と、
この電極と前記測温部とを導通させるリード部と、
表面と裏面との間を貫通する空洞および表面に設けられた電気絶縁膜を備え、この電気絶縁膜の一部が前記空洞を覆うメンブレンをなしている半導体基板とを有し、
前記発熱部、前記測温部および前記リード部は、前記電気絶縁膜上に成形されるものであって、
前記測温部および前記リード部はケイ素の半導体膜として成形され、前記リード部は前記測温部よりも不純物濃度が高く、
前記発熱部および前記測温部が前記メンブレン上に成形されていて、
前記リード部の内には、前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域があることを特徴とする空気流量測定装置。」

(相違点1)
本願発明では、「前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域」が「メンブレン上」に成形されているのに対し、引用発明では、「線幅が徐々に拡がる領域」を「ダイヤフラム部3」(メンブレン)上に形成することは示されていない点。

(相違点2)
本願発明では、リード部の内、前記測温部から連続する特定部分には、「前記測温部から連続して線幅が徐々に広がっていき広がり終わるまでの領域」が存在し、その「領域」の「不純物濃度」が、測温部から連続して前記測温部と同等の範囲とされているのに対し、引用発明では、「上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」から連続して「線幅が徐々に拡がる領域」が存在し、該領域が「不純物ドープした多結晶又は単結晶の半導体膜で構成され」ていることは明らかであるものの、「上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」の「不純物濃度」との関係が明らかでない点。

4 判断
以下、相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 引用発明が、「配線接続部」及び「線幅が徐々に拡がる領域」を、「ダイヤフラム部3」上に形成していない理由について
引用例の段落【0065】ないし段落【0068】には、次のとおり記載されている。
「【0065】この図9から明らかなように、ダイヤフラム部3の長さDが長い(D1)ときの温度差ΔT1が、短い(D2)ときの温度差ΔT3に比して小さくなっており、ダイヤフラム部3の長さDが長い方が温度分布が平均化され、一様に近くなるが判る。
【0066】これは、ダイヤフラム部3のy軸方向の長さが短い場合には、発熱抵抗体4とダイヤフラム部3の終端が近接し、間隔が狭まるので、熱抵抗が下がって発熱抵抗体4の熱が容易に半導体基板2に伝導されてしまうためであり、この結果、ダイヤフラム部3の温度分布が急峻になって、一様な分布から外れてしまうからである。
【0067】ここで、特にダイヤフラム部3のy軸方向の長さDとx軸方向の幅Wの間に、D>4Wの関係が満たされ、更に発熱抵抗体4の長さL1とダイヤフラム部3のy軸方向の長さDとの間にD>(1.1×L1)の関係が成り立つように構成するのが望ましい。
【0068】何故なら、この関係が成り立つように構成することにより、ダイヤフラム部3の機械強度を左右する幅Wを大きくすることなく、つまり機械強度を下げることなく、ダイヤフラム部3のy軸方向の長さDが充分に確保できるので、機械強度の保持と温度分布の安定化の両立が図れることになるからである。」

上記記載より、引用発明において、次の(ア)?(イ)の点が理解できる。
(ア)ダイヤフラム部3の長さDが長い方が、温度分布が平均化され、一様に近くなる。
(イ)ダイヤフラム部3の幅Wの大きくしないのは、機械強度を考慮してのこと(機械強度を下げないため)である。

よって、引用発明が、「配線接続部11」及び「線幅が徐々に拡がる領域」を、「ダイヤフラム部3」上に形成しない理由は、ダイヤフラム部3の長さDを短くするためではなく、機械強度を考慮したレイアウト設計上の理由によるものと認められる。

イ 熱式流量計における周知の設計手法について
例えば、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である、特開平9-318412号公報(原査定の拒絶理由に引用された引用文献2)(段落【0023】及び図1、図2)、国際公開2003-16833号(第9頁第28行?第10頁第1行の「発熱抵抗体HF及び上流側測温抵抗体Ru1及びRu2、下流側測温抵抗体Rd1及びRd2は、配線部10を介して接続部20に接続されており、この接続部20を通じて図1に示す回路と電気的に接続される。」、図2、図6、図9、図10,図11、図13)、特開平4-158263号公報(第5図)、特開昭60-142268号公報(第9図、第10図)、特開平1-195327号公報(Fig.1、Fig.3、Fig.4)に記載されているとおり、熱式流量計において、測温抵抗体の配線をダイヤフラム部、つまり、半導体基板の空洞部を覆う電気絶縁膜上に形成するようレイアウトすることは、周知の設計手法である。

ウ 相違点1についての判断
上記「ア」、「イ」を総合して判断すると、引用発明において、ダイヤフラム部3の機械強度に問題が生じないのであれば、熱式流量計についての上記周知の設計手法に倣い、ダイヤフラム部3の幅Wを大きく、かつ、ダイヤフラム部3の長さDを長くし、「配線接続部11」及び「線幅が徐々に拡がる領域」を、「ダイヤフラム部3」、つまり「半導体基板2の一方の面に設けてある電気絶縁膜8aの空洞部9を覆う部分」上に形成するようにして、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)相違点2について
引用発明の「線幅が徐々に拡がる領域」は、長さL2の「測温抵抗体6a、6b、6c、6d」から「配線接続部」への導通を図るために、測温抵抗体から連続して線幅を徐々に広げている領域である。そして、引用例では、段落【0079】に「次に、このSOI基板の抵抗体形成用の半導体薄膜に不純物拡散を行う。まず最初、熱拡散又はイオン打ち込みなどの方法により、半導体薄膜全面に低濃度の不純物拡散を行い、ついで、二酸化ケイ素などのマスク材を用い、熱拡散又はイオン打ち込みなどの方法により、ダイヤフラム部3内の測温抵抗体6a、6b、6c、6dを除いた半導体薄膜領域に高濃度の不純物拡散を行う。」と記載されているとおり、抵抗体形成のため、最初に「半導体薄膜全面」に低濃度の不純物拡散を行っているから、測温抵抗体から、(高濃度の不純物拡散を行う)配線接続部への導通を図るために連続して線幅を徐々に広げている領域においても、その領域の不純物拡散を、抵抗体形成のための「半導体薄膜全面」への最初の不純物拡散を利用して行ない、その領域の不純物濃度を測温抵抗体と同等な不純物濃度とすることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
また、「線幅が徐々に拡がる領域」を「配線接続部」の一部とみなすことは、単なる表現の問題に過ぎない。
よって、引用発明における「線幅が徐々に拡がる領域」の「不純物濃度」を、「上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」の「不純物濃度」と同等な範囲にし、「上流側測温抵抗体6a、6b及び下流側測温抵抗体6c、6d」から連続するようにして、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)作用効果について
これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の設計手法の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)進歩性についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の設計手法に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-19 
結審通知日 2015-11-24 
審決日 2015-12-14 
出願番号 特願2013-147507(P2013-147507)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 知佳  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 中塚 直樹
清水 稔
発明の名称 空気流量測定装置  
代理人 石黒 健二  

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