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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1311306
審判番号 不服2013-23677  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-02 
確定日 2016-02-16 
事件の表示 特願2011-533373「刺繍システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月29日国際公開、WO2010/048516、平成24年 3月22日国内公表、特表2012-507082〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,2009年10月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月23日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成24年11月5日付けの拒絶理由通知に対して平成25年5月8日付けで手続補正がなされたが,同年7月23日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成25年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成27年1月6日付けの当審の拒絶理由通知に対して同年7月13日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項10に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年7月13日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項10】
カスタム刺繍デザインを受け取るためのデザインユニットを有する刺繍デザインユニットと,
3次元において,前記カスタム刺繍デザインの動画表現を製品上で生成し,前記動画表現はステッチ配置,糸の応答,前記カスタム刺繍デザインのステッチと照明の相互作用,及び前記カスタム刺繍デザインがその上にステッチされる布基材を示すものであり,前記カスタム刺繍デザインを製品上で表示する対話型ステッチプレーヤと,
を備えることを特徴とする刺繍システム。」

3.引用例
(1)引用例1
当審で通知した平成27年1月6日付けの拒絶理由通知において引用した特開2001-314677号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,刺繍システムおよび方法,とくにウェブベースの刺繍システムおよび方法に関する。」

(イ)「【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】カスタマイズしたパターンを創作する刺繍システムについては,Pulse Microsystems からのPulse Signatureという名称のものなど公知である。そのような他のシステムとしては,U.S. Patent Nos.6,012,402;5,988,083;5,865,134;および5932,372で公表されているBrother Kogyo Kabushiki Kaishaからのものなどが利用可能である。上記の発明は,一般的に,刺繍データを送信するためにインターネットを利用することに言及しているが,そのようなアプローチを実施するためのシステムや方法については何ら公表していない。インターネットを利用したウェブベースの最近の二つの先行技術では,インターネットを通じて衣服のある程度のカスタマイゼーションを許容している。これらのウェブサイトは, およびとして公知である。しかしこれら先行技術のウェブベースのシステムは,刺繍レタリングを自動的に作成する能力を含まないし,本当にカスタマイズした刺繍デザインを創作する能力も含まないし,インターネット上で選択可能な衣服のためにユーザーがカスタマイズした刺繍注文を自動的に実行することもできない。たとえばこれらの先行技術は刺繍データで作動するのではなく,ビットマップ・レーザー・イメージで作動する。さらにユーザーへのイメージの表示は二次元イメージで,3次元の刺繍シミュレーションではない。したがってユーザは,ユーザーが選択した衣服について注文した刺繍パターンの現実的な像をえることは難しい。さらに,これら先行技術システムのいずれも,イメージを載せ,それらを刺繍パターンに変換し,ユーザーに費用見積を提供し,しかる後にユーザーは注文を確認し,注文を実行するために実際の衣服上に刺繍パターンを施す,といった顧客主導のインターネット上の作業を自動デジタル化することを可能にするものではない。これらの先行技術の欠点は本発明により解決される。」

(ウ)「【0003】
【課題を解決するための手段】本発明は,インターネット上で選択可能な衣服に,ユーザーがカスタマイズした刺繍注文を作成して自動的に施すことのできるウェブベースの刺繍システムのための方法とシステムである。システムには,インターネット上でカスタマイズする衣服を選択し,衣服の刺繍部分を選択して決め,洗濯した衣服上にユーザーが決めてカスタマイズした刺繍パターンの刺繍済シミュレーションを3次元で表示し,表示された刺繍済シミュレーションに基づいて選択した衣服に合わせて,実際の衣服にユーザーが決めてカスタマイズした刺繍済パターンを自動的に縫うための遠隔地にある刺繍機械に,インターネットを通じて刺繍パターン制御信号を提供できる能力を含む。さらに,カスタマイズした刺繍レタリングを作成し,既存の刺繍パターンと組合せることもできる。さらに,オンライン編集を加えることができるとともに,ユーザーによる個別着色を加えることもできる。さらに本発明では,インターネット上でユーザーが作成したイメージを自動デジタル化して,自動的に刺繍パターンに変換し,それに基づいて費用見積を提供し,ユーザーが確認した後に,変換パターンを実際の衣服上の刺繍パターンを作成するために利用することもできるシステムを明らかにする。」

(エ)「【0004】
【発明の実施の形態】図の詳細を参照して説明するが,まず図1には,本発明のウェブベース刺繍システムの全体が示されている。図1の実施態様に示されているように,本発明のウェブベースのシステムには,Pulse Microsystem社から市販されている刺繍ソフトウェアで,刺繍デザインを記憶貯蔵するパスポート・スマートを含み,それが同じくPulse Microsystem社から市販されているパスポート・コントローラ12と接続され,Pulse社の用語を使えば,汎用のインターフェイスであるパスポート・スマートボックス14,16,18を通して刺繍機械のネットワークを許容する。パスポート・スマートボックス14,16,18は,一般に,たとえばTajima社から市販されている汎用の刺繍機械20,22,24にそれぞれ連結されている。パスポート・コントローラ12は,パスポート・スマートボックス14,16,18を通じて刺繍機械20,22,24のネットワーキングを許容し,パスポート・ライブラリアン10からパスポート・スマートボックス14,16,18に刺繍デザインをダウンロードすることができる。さらに図1の実施態様に示されているように,本発明のウェブベースのシステムでは,刺繍エンジン26が,ウェブサーバ28とパスポート・ライブラリアン10から分離されていて,両者間を連結している。ウェブサーバ28は,一般的な方法でインターネット32を通じて顧客ウェブブラウザ30と連結されている。
【0005】刺繍エンジン26は,例えば本発明のウェブベースの刺繍システムの一部分として,希望の刺繍機能を提供する単独のソフトウェア・モデュール又は祖ストウェア・モデュール(当審注:「祖ストウェア・モデュール」は「ソフトウェア・モデュール」の誤記である。)の集まりである。典型的には,本刺繍機能には,刺繍レタリング,刺繍レタリングと既存デザインを合併させた刺繍デザイン又はパターンの創作,実際の刺繍デザイン又はパターンへのイメージ変換,などの機能を含む。このタイプの機能は,典型的には,商用に供されているPULSE SIGNATUREなどの既存の刺繍デザインシステムにも見つけられる。刺繍エンジンは,刺繍エンジン26とウェブサーバー28の通信規約として,例えばマイクロソフト社の標準技術であるDCOM(Distributed ComponentObject Model)オブジェクトに機能を包含することで実現できる。」

(オ)「【0007】図2,3,5には,本発明のウェブベース刺繍システムと方法が示されている。図2の参照番号34のように,一般に,ユーザーはウェブブラウザー30を開き,システムは標準的に図2の参照番号36のインターネット32を通して探索し,ウェブベース刺繍システムに到達する。そこでユーザーに対して,標準的ソフトウェアを通じて刺繍のためにユーザーが選択し,その上に刺繍をカスタマイズできる一連の衣服が表示される。ユーザーはまた,刺繍される衣服の色を選択することができて,衣服の色表現が提示される。本発明の実施態様におけるこれらの二つのステップは,図2の参照番号38と40に示されている。そこでユーザーは,刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択する。これは図2の参照番号42に示されている。
【0008】その後で,ユーザーはその場所に置く刺繍パターンを,例えばパスポート・ライブラリアン10に記憶された既存の刺繍パターンから選択する。これは図2の参照番号44に示されている。本発明の実施態様によれば,ユーザーはまた,刺繍パターンに刺繍レタリングを追加して,カスタマイズされて統合された刺繍パターンを創作することができる。もしユーザーがテキストを追加するときには,標準様式では,ユーザーはレタリングのテキスト,フォント,高さ及び色を選択することができる。これらのステップは図2の参照番号46と48に示されている。それから,テキストが追加されると否とを問わず,カスタマイズされた刺繍パターンが作成されて,例えばユーザーのサイトに,選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成される。これらのステップは図2の参照番号50,52及び54に示されている。これらのステップは図3により詳しく示されている。図3に示されているように,文字のテキスト,フォント,高さ及び色付けは,パスポート・ライブラリアン10から選択される既存の刺繍パターンと統合するために刺繍エンジン26に送られる。このステップは図3の参照番号56で示されている。そこで刺繍エンジン26は,例えば図3の参照番号58で示されるように,選択された刺繍縫取りパターンを作成し,図3の60に示されているように,レタリング刺繍パターンと事前に選択された刺繍縫取りパターンを統合する。これで図3の参照番号62に示されたように,ユーザーのサイトに表示されてインターネット32で送られたカスタマイズされた刺繍パターンが作成されたことになる。そこで図3の参照番号64で示されるように,カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションを作成するために,刺繍エンジン26の3次元表現機能が呼び出され,図3の参照番号66に示されるように,刺繍パターンと刺繍シミュレーションをユーザーのサイトに表示するために,インターネット32を通じて顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返される。図2の差bb章番号68(当審注:「差bb章番号68」は「参照番号68」の誤記である。)に示されるように,例えばユーザーはウェブ・ブラウザー30上に表示されたパターンを編集することができて,それから編集されたパターンはウェブサーバー28及び刺繍エンジン26を通じ,インターネット32を通してパスポート・コントローラー12に送られ,適当なパスポート・スマート・ボックス14,16又は18を通じて刺繍機械20,22又は24に送られて,選択された衣服上にユーザーが支持した(当審注:「支持した」は「指示した」の誤記である)場所に対応して,実際の衣服上にカスタマイズされた刺繍パターンを縫取ることで,自動的にカスタマイズされた刺繍注文を実施する。この実施ステップは図2の参照番号70に示されている。」

(カ)「【0011】図4は,顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様が示されている。この方法により,ユーザーは,刺繍パターン作成のためにアップロードされ自動デジタル化されるビッドマップ・デザインを創作することが可能になり,顧客の費用見積を提出し,顧客の承認を得てから実際の衣服に縫取ることができるが,これら全てがインターネット32を通して実行できる。図4に示されているように,最初の数ステップから衣服上の刺繍場所選択までは,図2に示されているのと同様に記述できて,同一の参照番号が付与されている。衣服上の刺繍場所が選択された後は,アップロードされるイメージがユーザーにより選択されて,ウェブ・ブラウザー30からインターネット32を通じてビッドマップとして送信される。これは図4の参照番号72として示されている。それから図4の参照番号74に示されているように,このビッドマップを刺繍パターンに変換するための刺繍エンジン機能が刺繍エンジン26内で呼び出される。次の数ステップである,希望によりテキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加すること,例えば3次元表現でカスタマイズされた刺繍パターン及び刺繍シミュレーション・イメージを作成すること,及び選択された衣服上の選択された場所に刺繍シミュレーションを表示することは,図2参照することで同様に記述することが可能で,図4でも同一の参照番号を採用することが可能である。同様に,図2に参照して説明されるように,表示されるデザインも編集され,図2の機能を利用するように,図4でも同一の参照番号を採用することが可能である。この点で,例えばビットマップは刺繍パターンに変換されるので,一般的に刺繍パターンの縫取りの費用見積に利用される縫目数などの変数に関連してシステムに記憶している情報に基づいた刺繍パターンの縫取りの費用見積を提供することができる。この費用見積は,例えばインターネット32を通じてブラウザー30に送られて,ユーザーのサイトに表示される。このステップは図4の参照番号76に示されている.ユーザーが費用見積に満足の場合は,ユーザーは承諾をインターネット32を通じてウェブサーバー28に送る。再述すれば,この承諾は支払承認の形式で行われる。このステップは図4の参照番号78により示されている。承諾の後,以前に図2を参照して説明したのと同様,図4の参照番号80で示されているように,刺繍パターンが作成されて,自動的に実施される。図6は上述の自動デジタル化機能に従った典型的なプロセスの図示ダイアグラムであり,顧客のアートワークから始まり,刺繍完成品で終わる。」

(キ)「【0012】以上述べたように,本発明に従えば,既存の刺繍パターンは自動的に実施することができ,または,ユーザーが作成したアートワークは刺繍パターンに変換されて自動的に実施することが可能になる。いずれの場合も,ユーザーはカスタマイズしたレタリングを作成して刺繍パターンと統合することができる。この態様で,カスタマイズした注文と自動実施ができる真にウェブベースのシステムにおいては,ユーザーは,縫い取りをする前に,まず最終製品の3次元刺繍シミュレーションを見る機会が得られる。」

ここで,上記引用例1に記載されている事項を検討する。

(a)上記(ア)の「本発明は,刺繍システムおよび方法,とくにウェブベースの刺繍システムおよび方法に関する。」との記載,上記(ウ)の「本発明は,インターネット上で選択可能な衣服に,ユーザーがカスタマイズした刺繍注文を作成して自動的に施すことのできるウェブベースの刺繍システムのための方法とシステムである。」との記載からみて,引用例1には,「インターネット上で選択可能な衣服に,ユーザーがカスタマイズした刺繍注文を作成して自動的に施すことのできるウェブベースの刺繍システム」が記載されていると認められる。

(b)上記(エ)の【0004】段落の「図1には,本発明のウェブベース刺繍システムの全体が示されている。」との記載,同段落の「本発明のウェブベースのシステムでは,刺繍エンジン26が,ウェブサーバ28とパスポート・ライブラリアン10から分離されていて,両者間を連結している。ウェブサーバ28は,一般的な方法でインターネット32を通じて顧客ウェブブラウザ30と連結されている。」との記載,及び図1の記載からみて,引用例1には,「ウェブベース刺繍システムは,刺繍エンジン26が,ウェブサーバ28とパスポート・ライブラリアン10との間を連結しており,ウェブサーバ28は,インターネット32を通じて顧客ウェブブラウザ30と連結されている」ことが記載されていると認められる。

(c)上記(エ)の【0005】段落の「刺繍エンジン26は,例えば本発明のウェブベースの刺繍システムの一部分として,希望の刺繍機能を提供する単独のソフトウェア・モデュール又は祖ストウェア・モデュール(当審注:「祖ストウェア・モデュール」は「ソフトウェア・モデュール」の誤記である。)の集まりである。」との記載からみて,引用例1には,「刺繍エンジン26は,ウェブベースの刺繍システムの一部分として,希望の刺繍機能を提供する単独のソフトウェア・モデュール又はソフトウェア・モデュールの集まりである」ことが記載されていると認められる。

(d)上記(カ)の「図4は,顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様が示されている。この方法により,ユーザーは,刺繍パターン作成のためにアップロードされ自動デジタル化されるビッドマップ・デザインを創作することが可能になり,」との記載からみて,引用例1には,「顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様では,ユーザーは,刺繍パターン作成のためにアップロードされ自動デジタル化されるビッドマップ・デザインを創作することが可能になるものである」ことが記載されていると認められる。

(e)ここで,上記(カ)の「図4に示されているように,最初の数ステップから衣服上の刺繍場所選択までは,図2に示されているのと同様に記述できて,同一の参照番号が付与されている。」との記載,及び図2,図4の記載からみて,図4のステップ34?42が図2のステップ34?42に対応するから,図4に記載される,「顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様」のステップ34?42に関する記載として,図2のステップ34?42の記載を引用する。
上記(オ)の【0007】段落の「ユーザーはウェブブラウザー30を開き,システムは標準的に図2の参照番号36のインターネット32を通して探索し,ウェブベース刺繍システムに到達する。そこでユーザーに対して,標準的ソフトウェアを通じて刺繍のためにユーザーが選択し,その上に刺繍をカスタマイズできる一連の衣服が表示される。ユーザーはまた,刺繍される衣服の色を選択することができて,衣服の色表現が提示される。本発明の実施態様におけるこれらの二つのステップは,図2の参照番号38と40に示されている。そこでユーザーは,刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択する。」との記載からみて,引用例1には,「ユーザーはウェブブラウザー30を開き,インターネット32を通して探索し,ウェブベース刺繍システムに到達し,そこでユーザーに対して,刺繍のためにユーザーが選択し,その上に刺繍をカスタマイズできる一連の衣服が表示され,ユーザーは,刺繍される衣服の色を選択することができ,ユーザーは,刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択する」ことが記載されていると認められる。

(f)上記(カ)の「衣服上の刺繍場所が選択された後は,アップロードされるイメージがユーザーにより選択されて,ウェブ・ブラウザー30からインターネット32を通じてビッドマップとして送信される。これは図4の参照番号72として示されている。それから図4の参照番号74に示されているように,このビッドマップを刺繍パターンに変換するための刺繍エンジン機能が刺繍エンジン26内で呼び出される。」との記載からみて,引用例1には,「衣服上の刺繍場所が選択された後は,アップロードされるイメージがユーザーにより選択されて,ウェブ・ブラウザー30からインターネット32を通じてビッドマップとして送信され,このビッドマップを刺繍パターンに変換するための刺繍エンジン機能が刺繍エンジン26内で呼び出される」ことが記載されていると認められる。

(g)上記(カ)の「次の数ステップである,希望によりテキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加すること,例えば3次元表現でカスタマイズされた刺繍パターン及び刺繍シミュレーション・イメージを作成すること,及び選択された衣服上の選択された場所に刺繍シミュレーションを表示することは,図2参照することで同様に記述することが可能で,図4でも同一の参照番号を採用することが可能である。」との記載からみて,引用例1には,「希望によりテキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加する」ことが記載されていると認められる。

(h)ここで,上記(カ)の「次の数ステップである,希望によりテキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加すること,例えば3次元表現でカスタマイズされた刺繍パターン及び刺繍シミュレーション・イメージを作成すること,及び選択された衣服上の選択された場所に刺繍シミュレーションを表示することは,図2参照することで同様に記述することが可能で,図4でも同一の参照番号を採用することが可能である。」との記載,及び図2,図4の記載からみて,図4のステップ46?54が図2のステップ46?54に対応するから,図4に記載される,「顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様」のステップ46?54に関する記載として,図2のステップ46?54の記載を引用する。
上記(オ)の【0008】段落の「それから,テキストが追加されると否とを問わず,カスタマイズされた刺繍パターンが作成されて,例えばユーザーのサイトに,選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成される。これらのステップは図2の参照番号50,52及び54に示されている。」との記載,及び同段落の「そこで図3の参照番号64で示されるように,カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションを作成するために,刺繍エンジン26の3次元表現機能が呼び出され,図3の参照番号66に示されるように,刺繍パターンと刺繍シミュレーションをユーザーのサイトに表示するために,インターネット32を通じて顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返される。」との記載からみて,引用例1には,「テキストが追加されると否とを問わず,刺繍エンジン26の3次元表現機能が呼び出されて,カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションが作成され,刺繍パターンと刺繍シミュレーションをユーザーのサイトに表示するために,インターネット32を通じて顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返し,ユーザーのサイトに,選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成される」ことが記載されていると認められる。

(i)上記(キ)の「カスタマイズした注文と自動実施ができる真にウェブベースのシステムにおいては,ユーザーは,縫い取りをする前に,まず最終製品の3次元刺繍シミュレーションを見る機会が得られる。」との記載からみて,引用例1には,「ユーザーは,縫い取りをする前に,まず最終製品の3次元刺繍シミュレーションを見る機会が得られる」ことが記載されていると認められる。

(j)ここで,上記(カ)の「同様に,図2に参照して説明されるように,表示されるデザインも編集され,図2の機能を利用するように,図4でも同一の参照番号を採用することが可能である。」との記載,及び図2,図4の記載からみて,図4のステップ68が図2のステップ68に対応するから,図4に記載される,「顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様」のステップ68に関する記載として,図2のステップ68の記載を引用する。
上記(オ)の【0008】段落の「図2の差bb章番号68(当審注:「差bb章番号68」は「参照番号68」の誤記である。)に示されるように,例えばユーザーはウェブ・ブラウザー30上に表示されたパターンを編集することができて,それから編集されたパターンはウェブサーバー28及び刺繍エンジン26を通じ,インターネット32を通してパスポート・コントローラー12に送られ,適当なパスポート・スマート・ボックス14,16又は18を通じて刺繍機械20,22又は24に送られて,選択された衣服上にユーザーが支持した(当審注:「支持した」は「指示した」の誤記である)場所に対応して,実際の衣服上にカスタマイズされた刺繍パターンを縫取ることで,自動的にカスタマイズされた刺繍注文を実施する」との記載からみて,引用例1には,「ユーザーはウェブ・ブラウザー30上に表示されたパターンを編集することができ,編集されたパターンはウェブサーバー28及び刺繍エンジン26を通じ,インターネット32を通してパスポート・コントローラー12に送られ,適当なパスポート・スマート・ボックス14,16又は18を通じて刺繍機械20,22又は24に送られて,選択された衣服上にユーザーが指示した場所に対応して,実際の衣服上にカスタマイズされた刺繍パターンを縫取ることで,自動的にカスタマイズされた刺繍注文を実施する」ことが記載されていると認められる。

以上の検討から,引用例1には,次のとおりの発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「インターネット上で選択可能な衣服に,ユーザーがカスタマイズした刺繍注文を作成して自動的に施すことのできるウェブベースの刺繍システムであって,
ウェブベース刺繍システムは,刺繍エンジン26が,ウェブサーバ28とパスポート・ライブラリアン10との間を連結しており,
ウェブサーバ28は,インターネット32を通じて顧客ウェブブラウザ30と連結されており,
刺繍エンジン26は,ウェブベースの刺繍システムの一部分として,希望の刺繍機能を提供する単独のソフトウェア・モデュール又はソフトウェア・モデュールの集まりであり,
顧客が創作したアートワークの自動デジタル化の実施態様では,ユーザーは,刺繍パターン作成のためにアップロードされ自動デジタル化されるビッドマップ・デザインを創作することが可能になるものであり,
ユーザーはウェブブラウザー30を開き,インターネット32を通して探索し,ウェブベース刺繍システムに到達し,
そこでユーザーに対して,刺繍のためにユーザーが選択し,その上に刺繍をカスタマイズできる一連の衣服が表示され,
ユーザーは,刺繍される衣服の色を選択することができ,
ユーザーは,刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択し,
衣服上の刺繍場所が選択された後は,アップロードされるイメージがユーザーにより選択されて,ウェブ・ブラウザー30からインターネット32を通じてビッドマップとして送信され,
このビッドマップを刺繍パターンに変換するための刺繍エンジン機能が刺繍エンジン26内で呼び出され,
希望によりテキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加し,
テキストが追加されると否とを問わず,刺繍エンジン26の3次元表現機能が呼び出されて,カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションが作成され,
刺繍パターンと刺繍シミュレーションをユーザーのサイトに表示するために,インターネット32を通じて顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返し,
ユーザーのサイトに,選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成され,
ユーザーは,縫い取りをする前に,まず最終製品の3次元刺繍シミュレーションを見る機会が得られ,
ユーザーはウェブ・ブラウザー30上に表示されたパターンを編集することができ,
編集されたパターンはウェブサーバー28及び刺繍エンジン26を通じ,インターネット32を通してパスポート・コントローラー12に送られ,適当なパスポート・スマート・ボックス14,16又は18を通じて刺繍機械20,22又は24に送られて,選択された衣服上にユーザーが指示した場所に対応して,実際の衣服上にカスタマイズされた刺繍パターンを縫取ることで,自動的にカスタマイズされた刺繍注文を実施する
刺繍システム。」

(2)引用例2
当審で通知した平成27年1月6日付けの拒絶理由において引用した特開平2-104758号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(ク)「[産業上の利用分野]
本発明は,刺繍模様の縫い上がりをシミュレートするための刺繍シミュレーション装置に関する。」(第1頁左下欄17?19行)

(ケ)「[課題を解決するための手段]
即ち,本発明の要旨とするところは,第1図に例示する如く,ジグザグ縫目により形成される刺繍模様を形成するための縫製データを記憶する記憶手段M1と,画像表示手段M2と,前記記憶手段M1から縫製データを読出し,画像表示手段M2に縫目を順次表示させる表示制御手段M3と,を備えた刺繍シミュレーション装置において,前記表示制御手段M3は,前記表示する縫目の所定部分を他の部分よりも明度を変更して画像表示手段M2に表示させること,を特徴とする刺繍シミュレーション装置にある。」(第2頁左上欄12行?同頁右上欄3行)

(コ)「本実施例においては,CRT2上へは,縫目毎に第3図の如く中央部を明るく,端部を暗く表示する。この際,実際の縫目は第4図(イ)の如く,縫目長さL=Lsが短い場合は急傾斜の山となり,同(ロ)の如くL=Llと長い場合は緩やかな傾斜の山となる。従って,視覚的には,光線による陰影は,Lが短い場合に鮮明となり中央部が他の部分に比し極めて明るく感じられ,Lが長い場合は中央部と端部との明度差が小さく感じられる。そこで実際の縫い上り状態に近くするために,縫目長さLに応じた所定の明度変化率にて,端部を暗く,中央部を明るくCRT2へ表示する構成としている。」(第2頁左下欄16行?同頁右下欄8行)

(サ)「処理が開始されると,まず,ステップS1(以下単にS1という)にて,一針データ化された刺繍模様の縫製データを記憶装置1からRAM33へ読込む。次に,S2にて,上記読込んだ縫製データに基づき,縫目長さLを各縫目毎に計算する。続いて,S3にて予じめ設定され,ROM32に記憶されている長さ基準値K_(1),K_(2)と縫目長さLとを比較する。ここで,K_(1)<K_(2)である。L<K_(1)の場合にはS4へ,K_(1)<L<K_(2)の場合はS5へ,K_(2)<Lの場合はS6へ進む。
S4では,Lが短い方の基準値K_(1)より小さいことから,縫目は第4図(イ)の如く急傾斜となるため,縫い上り状態では,当該箇所は光線による陰影が鮮明となることから,これと対応すべく明度変化率大が設定される。同様に,S5では明度変化率中が,S6では明度変化率小が設定される。明度変化率に応じて,以下の処理を経て,大の場合は第3図Lsの如く明暗の境界を鮮鋭に表現し,中はLmの如く,小はLlの如く順次明暗の変化の段階を増して緩やかに表現することになる。尚,本実施例では簡単のため,明度変化率を3段階としたが,さらに明度変化率を細かく設定すれば,光沢の違いをより実際に近い状態にて表示できる。」(第2頁右下欄11行?第3頁左上欄14行)

(シ)「上記いずれかの処理にて設定された明度変化率に応じて,S7にて,縫目の端部を暗くし,中央部を明るくする様に表示データが演算され,さらに,CRT2へ表示した場合に暗部と明部の間を階段状の明度変化でなく自然な感じの変化となる様に縫目方向の明度変化にランダムノイズがのせられる。次に,S8にて,表示後に縫目方向が分かる様に,縫目データ毎に異なった一定ノイズが付加される。その結果,縫目の一本一本がCRT2上で若干異なる明度にて表示されることにより違和感なく縫目方向を表現することができる。」(第3頁左上欄15行?同頁右上欄5行)

(ス)「こうして縫目毎に演算された表示データに基づき,S9にて,CRT2上に縫い上り状態が表示される。ここで,S2?S8の処理はS1にて読み込まれた縫製データの全てに基づいて行なうのではなく,例えば第3図の如く,縫点順に,P1-P2,P3-P4,・・・の様に縫目一本おきに演算すればよく,P2-P3,P4-P5,・・・については演算する必要はない。縫い上りにおいては,千鳥に形成された縫目であっても,あたかも,P1-P2,P3-P4・・・の如く縫製された様に見えることから,上述の如く一本おきであってもCRT2上の表示は実物に近く,却って,演算時間の短縮ができ,表示がすっきりした形となる。」(第3頁右上欄6?18行)

(セ)「また,S2?S9の処理は縫目一本毎ではなく,まず,S2?S8を繰り返し実行し,表示データを演算した後にS9へ進み縫い順に従って縫目をCRT2へ表示する構成としている。その結果,実際に刺繍ミシンにて縫目を形成すると同様に一本一本の縫目が作業者の目前でシミュレートされる。」(第3頁右上欄18行?同頁左下欄4行)

(ソ)「そこで,キーボード4より訂正データを与え,該データに基づいて再び第4図(当審注:「第4図」は「第5図」の誤記である。)のS2以下の処理を実行すれば,訂正も簡便に行なうことができる。」(第3頁左下欄18?20行)

(3)引用例3
当審で通知した平成27年1月6日付けの拒絶理由において引用した国際公開第03/085186号(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(タ)「技術分野
本発明は,刺繍の縫上がり状態を画像で確認することができる刺繍シミュレーション方法および装置,ならびにプログラムおよび記録媒体に関する。」(第1頁3?5行)

(チ)「本発明は,刺繍のための縫製データを入力して,縫上がり状態の画像を出力する刺繍シミュレーション方法において,縫製データに基づき,2次元平面上に複数の縫点位置を設定して,縫点位置間に,糸の画像で複数の縫目を形成し,該2次元平面上の1方向に光線の照射方向を設定し,各縫目の糸の画像に対し,光線の照射方向に向う一方側の端部側が明るく,他方側の端部側が暗くなり,縫目の糸の方向と照射方向とがなす角度が0度から90度まで増大する範囲で,角度に対応して全体的な明度を上げるように明暗を付加することを特徴とする刺繍シミュレーション方法である。」(第1頁24行?第2頁3行)

(ツ)「図1は,本発明の刺繍シミュレーションについての基本的な考え方を,第2596093号特許公報に開示されている基本的な考え方と比較して示す。図1(a)は,第2596093号特許公報に開示されている縫点間の縫目での明度の変化状態を示す。図1(b)は,本発明による縫点間の縫目での明度の変化状態を示す。縫点の位置は,縫製データに基づき2次元平面上に複数設定され,縫点位置間には,縫製データに基づいて縫目が形成される点は,両方の考え方で共通している。」(第3頁25行?第4頁3行)

(テ)「第2596093号特許公報では,縫点間の端,すなわち縫点位置で暗く,中央が明るく成るような明度変化状態となる。本発明では,縫目を形成する2次元平面上の1方向に光線の照射方向を設定し,各縫目の糸の画像に対し,光線の照射方向に向う一方側の端部側が明るく,他方側の端部側が暗くなるようにしている。すなわち図1(b)では,光線の照射方向を左から右に設定し,左方の縫点Aが明るく,右方の縫点Bが暗くなるようにしている。縫点Aは光源に近い,光線の照射方向に向う側の端部であり,縫点Bは光源から遠い,光線の照射方向に向う側の端部とは反対側の端部である。
さらに本発明では,縫目の糸の方向と照射方向とがなす角度が0度から90度まで増大する範囲で,角度に対応して全体的な明度を上げるように明暗を付与している。これによって,より立体感があり,質感が高くなるようなシミュレーションが可能になる。
(途中省略)
図3は,縫目1が存在する仮想的な2次元平面上で,縫目1となる糸の方向と光線の照射方向の投影との間でなす角度に応じ,角度θが0度から90度まで大きくなるのに対応して,全体的な明るさを増大させる状態を示す。(a)は角度θ=0度,すなわち縫目1の向きは光源2からの光線の照射方向に合っている状態を示す。(b)は0度<θ<90度となり,θ=0度のときよりも全体的に明度が明るくなる状態を示す。(c)は(b)よりも角度θが大きくなり,さらに明度が明るくなる状態を示す。θ=90度のときは,全体的に一様な明るさにする。以上のように,光源2に近い方の端部3では,角度による明るさの変化は生じないけれども,光源2から遠い方の端部4の明るさは,角度が0度で最も暗く,角度が90度に近づくにつれて明るさが増大するようにする。光源2から遠い方の端部4が明るくなるにつれて,光源2から近い方の端部3までの途中も全体的に明るくなる。」(第4頁4行?第5頁16行)

(ト)「図4は,以上で説明した本発明の考え方を適用して作成した刺繍シミュレーション画像の例を示す。対比のために,図5および図6には,縫目の糸の長さ方向について,第2596093号特許公報に開示される明度変化を適用した場合と,明度変化を付加しない場合とを比較して示す。すなわち,図6に示すシミュレーション画像に,縫目の一方側が明るく他方側が暗く,中間部で急峻に明度変化があるように明暗を付加したものが図4であり,縫目の両端が暗く中央が明るくなるように明暗を付加したものが図5である。本発明による図4では,図5に比較して,立体感のある質感の高いシミュレーション画像が得られていることが判る。なお,図4?図6では,縫目の一本一本が判るように表示するために,第2596093号特許公報に開示されているようなランダムノイズを付加する方法ではなく,図7に示すような糸の画像データの処理手法を用いている。(第5頁25行?第6頁7行)

(ナ)「図7は,(a)に示す糸6の画像データを,(b)に示す刺繍部分の縫目1a,1b,1cに順次割当てる手法を示す。糸6の画像データの長さがLであり,縫目1a,1b,1cの長さがそれぞれLa,Lb,Lcであるとする。縫目1aの画像には,糸6の画像データから長さLaの部分を割当てる。縫目1bには,糸6の画像データの一端7から長さLbの部分を割当てる。縫目1cには,糸6の画像データから長さLcの部分を割当てる。ただし,La+Lb<Lであって,La+Lb+Lc>Lであれば,縫目1cに割当てるLcの長さの糸6の画像データは,糸6の他端8までを割当てた後,不足する長さ分を一端7から再び割当てるようにする。
糸6の画像データとして実写データを使用すると,画像撮影時の光線の照射方向に応じて,糸6の幅方向の中央が比較的明るく,その両端あるいは片端は比較的暗くなる。さらに,長さ方向にも変化が現れ,縫目1a,1b,1cを並べても一本一本を区別しやすくなる。図4はもちろん,図5および図6でも,この効果が現れている。糸6の画像データを,実写ではなくコンピュータグラフィックスなどによる描画で形成する場合も,糸6の幅方向に明暗を付加することによって,実写データに近づけることができる。また,明暗の付加状態は,糸6の長さ方向についてと同様に,光線の照射方向と糸6の幅方向とのなす角度に応じて変化させることによって,より立体感があり,質感が高くなるようなシミュレーションが可能になる。」(第6頁8?26行)

(ニ)「縫点設定手段12は,仮想的な2次元平面上に,記憶手段11に記憶されている縫製データに基づいて,複数の縫点位置を設定する。縫目形成手段13は,縫点設定手段12によって設定される縫点位置間に縫目が形成されるように,記憶手段11に記憶されている縫製データに基づく糸の画像で複数の縫目を形成する。」(第7頁3?7行)

(ヌ)「ステップs6で縫製データに基づく縫目の形成が終了していると判断するときは,ステップs7で画像表示を行う。ステップs8では,利用者からの光線の照射方向の変更指示がキーボード32などを介して入力されているか否かを判断する。変更の指示が入力されていれば,ステップs9で変更された光線の照射方向に従って明暗を変更し,ステップs7で画像を表示する。光線の照射方向を変えれば,照射方向の違いによる見え方を確認することができる。光線の照射方向を変えることができるので,他の画像,たとえば刺繍を施す被服を着用しているモデルの画像に重ね合わせる際に,モデルの画像の光源の方向に合わせて光線の照射方向を設定し,違和感を生じさせないで,刺繍のシミュレーション画像をモデルの画像に重ねて,刺繍のデザインを検討することも可能になる。なお,照射方向の変更は,予め用意されている複数の方向を選択するようにしてもよい。ステップs8で光線の方向について変更の指示がなければ,ステップs10で手順を終了する。」(第9頁7?19行)

(4)引用例4
当審で通知した平成27年1月6日付けの拒絶理由において引用した特開2005-118215号公報(以下,「引用例4」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(ネ)「【0009】
また好ましくは,求めたステッチに少なくとも明暗を付与してシミュレーションするためのシミュレーション手段を設け,特に好ましくは,リアルタイムで,即ち軌跡の入力と並行してシミュレーションができるようにする。シミュレーションはステッチの3次元画像を用いて明暗を付与するものでも,2次元画像に明暗を付与するものでよい。
特に好ましくは,前記シミュレーション手段には,光源方向を記憶するための手段を設けて,記憶した光源方向に近い側が明るく遠い側が暗く,かつ明暗がステッチに沿って単調に変化するように,ステッチに明暗を付与する。」

(ノ)「【0018】
また入力した刺繍データを,ステッチに少なくとも明暗を付与してシミュレーションすると,刺繍データのイメージを確認できて便利である。特にシミュレーションをリアルタイムに行うようにすると,刺繍のデザインが特に容易になる。
シミュレーションでは,光源の方向を真上からステッチを照らすものに限らないようにして,ステッチの中央が明るく両端が暗い画像に限らず,ステッチの一端が明るく他端が暗い画像にすると,刺繍の立体感を強調できる。そこで光源方向を記憶し,記憶した光源方向に近い側が明るく遠い側が暗く,かつ明暗がステッチに沿って単調に変化するように,ステッチに明暗を付与してシミュレーションすると,浮き彫りのように立体感のあるシミュレーション画像が得られる。」

(ハ)「【0025】
刺繍シミュレーション部20は,コマンド管理部14で記憶する光源の方向(コマンド入力部6から入力)と糸の種類,例えば糸の画像と,針落ち点のデータ(刺繍データ)を用いて,刺繍データをシミュレーションする。21はモニタで,描画入力部4で刺繍データを入力する毎に,即ち軌跡を入力する毎に,刺繍データを個々のステッチを表した画像として出力する。またコマンド入力部6から刺繍シミュレーションが選択されていると,スタイラスの移動と並行して,刺繍シミュレーション画像がモニタ21にリアルタイムに表示される。ステッチの画像や刺繍シミュレーション画像はプリンタ22から出力することもできる。(以下省略)」

(ヒ)「【0027】
ユーザインターフェース命令40は,コマンド入力部6から入力されたメニューや種々のパラメータを記憶して管理する。刺繍シミュレーション命令42は,コマンド入力部6から入力された光源の向きに基づいて,ステッチの明暗を算出するための明暗算出命令43と,糸の太さや撚りなどに基づくステッチの長さ分の糸画像の作成命令44とを備え,糸画像と明暗とを合成して刺繍データをシミュレーションする。なお糸を単純な棒状の部材と見なす場合,糸画像作成命令44は不要である。」

(フ)「【0033】
このようにして描画入力部4から軌跡が入力されるのと並行して,中間点を算出すると共に針落ち点を求めて,描画入力と並行してリアルタイムにステッチの画像をモニタに表示する。表示する画像は複数のステッチの画像で,例えば図4の刺繍データ51,52などに相当する画像である。そしてコマンド入力部6から刺繍シミュレーションが指令されると,図7?図9のように刺繍シミュレーションを行う。コマンド入力部6では,光源方向を入力し,コマンド管理部14で記憶する。光源方向の意味を図8に示すと,編地や布地などから成る2次元平面に対して,光源がどのような高さを向いているか(θ)と,編地や織布の巾方向や丈方向に対して,光源がどの向きにあるか(φ),の2種類のデータを光源方向とする。なお簡単のため,光源は編地や布地の左側にあるものと仮定し,高さのみを指定するようにしても良い。
【0034】
図7の64は刺繍用の糸を示し,光源の高さが低い場合(光源位置α),ステッチの左右での明暗が著しく,光源の高さが高い場合(β),ステッチの明暗は弱くなる。ステッチは光源方向が明るく,それと反対側の方向が暗く,明暗はステッチの一端から他端へとほぼ階段状に変化し,真上からの照明のように,ステッチの中心が明るく両端が暗い放物線上の明暗ではない,単調な明暗である。これに対して通常の刺繍のシミュレーションでは,光源方向は編地や織布の真上にあるものとし,ステッチの中央部が明るく,両端側が暗いとする例が多い。実施例のように,光源方向の指定を自由にし,それに基づいてステッチに明暗を施すと,ステッチを浮き彫りしたようなリアルなシミュレーションを行える。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)
(1-1)引用発明の「カスタマイズされた刺繍パターン」は,ユーザによって「カスタマイズ(カスタム化)」されたものであり,この「刺繍パターン」は,「実際の衣服上にカスタマイズされた刺繍パターンを縫取る」ための「デザイン」であるといえるから,引用発明の「カスタマイズされた刺繍パターン」が本願発明の「カスタム刺繍デザイン」に相当する。
(1-2)本願明細書の【0011】段落の「刺繍デザインユニット130は,ユーザが刺繍デザインをアップロードし,サイズを決め,色を選択することができるようにするユニット130a,以下でより詳しく説明する粗刺繍プレビュージェネレータ130b,以下でより詳しく説明する粗刺繍見積りコンポーネント130c,ユーザが粗刺繍デザインをプレビューできるようにする承認済み粗刺繍プレビューユニット130d,及び,以下でより詳しく説明する刺繍シミュレーションユニット(対話型ステッチプレーヤ)130eをさらに備えることができる。」との記載によれば,本願の「刺繍デザインユニット」は,ユーザが刺繍デザインをアップロードし,サイズを決め,色を選択する機能を有すると共に,対話型ステッチプレーヤの機能も包含するものである。
一方,引用発明では,「ユーザーは,刺繍される衣服の色を選択することができ,ユーザーは,刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択し,衣服上の刺繍場所が選択された後は,アップロードされるイメージがユーザーにより選択されて,ウェブ・ブラウザー30からインターネット32を通じてビッドマップとして送信され」,「希望によりテキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加し,テキストが追加されると否とを問わず,刺繍エンジン26の3次元表現機能が呼び出されて,カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションが作成され,刺繍パターンと刺繍シミュレーションをユーザーのサイトに表示するために,インターネット32を通じて顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返し」ているから,引用発明の刺繍システムが,「刺繍される衣服の色をユーザーが選択する機能,ユーザーが刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択する機能,イメージをアップロードする機能,及び,テキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加する機能」(以下,これらの機能を総称して「刺繍カスタマイズ機能」という。),及び,「カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションを作成する刺繍エンジン26の3次元表現機能,及び,刺繍パターンと刺繍シミュレーションを顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返す機能」(以下,これらの機能を総称して「3次元シミュレーション機能」という。)を有していることは明らかである。
ここで,引用発明の「刺繍カスタマイズ機能」は,その機能の内容からみて,本願の「刺繍デザインユニット」が有する「ユーザが刺繍デザインをアップロードし,サイズを決め,色を選択する機能」に対応するものと認められ,また,引用発明の「3次元シミュレーション機能」は,その機能の内容からみて,本願の「刺繍デザインユニット」が有する「対話型ステッチプレーヤの機能」に対応するものと認められる。
また,引用発明の「刺繍カスタマイズ機能」及び「3次元シミュレーション機能」が,「刺繍エンジン26及びウェブサーバ28」によって実現されるものであることは明らかである。
してみれば,引用発明の「刺繍エンジン26及びウェブサーバ28によって実現される刺繍カスタマイズ機能(刺繍される衣服の色をユーザーが選択する機能,ユーザーが刺繍を施したいと希望する表示衣服上に刺繍個所又は場所を選択する機能,イメージをアップロードする機能,テキスト又はカスタマイズされたレタリングを追加する機能)及び3次元シミュレーション機能(カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションを作成する刺繍エンジン26の3次元表現機能,刺繍パターンと刺繍シミュレーションを顧客又はユーザーのウェブ・ブラウザー30に送り返す機能)」が本願発明の「刺繍デザインユニット」に対応する。
(1-3)引用発明の「3次元表現機能」は,「カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションを作成する」ものであり,当該3次元シミュレーションを「作成する」ために,「カスタマイズされた刺繍パターン(カスタム刺繍デザイン)」を「受け取るための手段」を「有」していることは自明のことであるから,引用発明の「カスタマイズされた刺繍パターンを受け取るための手段」が本願発明の「カスタム刺繍デザインを受け取るためのデザインユニット」に相当する。
そして,引用発明の「3次元表現機能」は,「刺繍エンジン26及びウェブサーバ28によって実現される刺繍カスタマイズ機能及び3次元シミュレーション機能」(刺繍デザインユニット)に含まれているものであるから,引用発明の「刺繍エンジン26及びウェブサーバ28によって実現される刺繍カスタマイズ機能及び3次元シミュレーション機能」(刺繍デザインユニット)は,「3次元表現機能」が「有」している「カスタマイズされた刺繍パターンを受け取るための手段」(カスタム刺繍デザインを受け取るためのデザインユニット)を「有」しているということができる。
(1-4)上記(1-1)?(1-3)の検討から,引用発明と本願発明とは,「カスタム刺繍デザインを受け取るためのデザインユニットを有する刺繍デザインユニット」を備える点で一致している。

(2)引用発明では,「カスタマイズされた刺繍パターンの3次元シミュレーションが作成され」,「選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成され」るものである。
ここで,引用発明の「衣服」は,刺繍がなされる対象の「製品」であるから,引用発明の「衣服」が本願発明の「製品」に相当し,引用発明の「衣服上」が本願発明の「製品上」に相当する。
また,引用発明の「カスタマイズされた刺繍パターンの刺繍シミュレーション・イメージ」と本願発明の「カスタム刺繍デザインの動画表現」とは共に「カスタム刺繍デザインの視覚的表現」である点で共通している。
また,引用発明の「シミュレーション」は,「3次元のシミュレーション」であるから,「視覚的表現」が「3次元において」「生成」されることは明らかである。
してみれば,引用発明と本願発明とは,「3次元において,カスタム刺繍デザインの視覚的表現を製品上で生成し」ている点で共通している。

(3)引用発明では,「選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成され」,「ユーザーは,縫い取りをする前に,まず最終製品の3次元刺繍シミュレーションを見る機会が得られ」るものであるから,引用発明の「刺繍シミュレーション・イメージ」が,「最終製品」である「衣服」を「示すもの」であることは明らかである。
そして,「衣服」は,「カスタマイズされた刺繍パターン(カスタム刺繍デザイン)」が「その上に」施される,すなわち「ステッチされる」対象であり,また,引用発明の「衣服」が「布基材」であることは明らかであるから,引用発明の「衣服」が本願発明の「カスタム刺繍デザインがその上にステッチされる布基材」に相当する。
してみれば,引用発明と本願発明とは,「視覚的表現は,カスタム刺繍デザインがその上にステッチされる布基材を示すものであ」る点で共通している。

(4)引用発明では,「選択された衣服上の選択された場所に3次元の刺繍シミュレーションとして,刺繍シミュレーション・イメージが作成され」ているから,「カスタム刺繍デザインを製品上で表示」しているということができる。

(5)引用発明の「刺繍システム」が本願発明の「刺繍システム」に相当する。
そして,上記(2)及び(4)の検討から,引用発明の「刺繍システム」が「3次元において,カスタム刺繍デザインの視覚的表現を製品上で生成し」,「カスタム刺繍デザインを製品上で表示」する「手段」を「備え」ていることは自明のことである。

そうすると,本願発明と引用発明とは,

「カスタム刺繍デザインを受け取るためのデザインユニットを有する刺繍デザインユニットと,
3次元において,カスタム刺繍デザインの視覚的表現を製品上で生成し,前記視覚的表現は,前記カスタム刺繍デザインがその上にステッチされる布基材を示すものであり,前記カスタム刺繍デザインを製品上で表示する手段を備える刺繍システム。」

の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
カスタム刺繍デザインの視覚的表現が,本願発明では,「動画表現」であるのに対して,引用発明では,「動画」であるとの特定はない点。

[相違点2]
本願発明では,カスタム刺繍デザインの視覚的表現が,「ステッチ配置」,「糸の応答」,及び「カスタム刺繍デザインのステッチと照明の相互作用」を示すものであるのに対して,引用発明では,刺繍シミュレーション・イメージの具体的な内容は特定されていない点。

[相違点3]
「カスタム刺繍デザインの視覚的表現を製品上で生成し,前記カスタム刺繍デザインを製品上で表示する手段」が,本願発明では,「対話型ステッチプレーヤ」であるのに対して,引用発明は,「対話型」の「手段」であるか明らかでない点。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。

[相違点1]について
刺繍シミュレーションにおいて,光線の照射方向を変化させてシミュレーションを行うことは,例えば,上記(ヌ)に「光線の照射方向を変えれば,照射方向の違いによる見え方を確認することができる。・・・なお,照射方向の変更は,予め用意されている複数の方向を選択するようにしてもよい。」と記載されているように周知技術である。
また,刺繍シミュレーションにおいて,縫目(ステッチ)を縫い順にしたがって表示するように構成することは,例えば上記(ケ)に「画像表示手段M2に縫目を順次表示させる表示制御手段M3と,を備えた刺繍シミュレーション装置」と記載され,上記(セ)に「表示データを演算した後にS9へ進み縫い順に従って縫目をCRT2へ表示する構成としている。その結果,実際に刺繍ミシンにて縫目を形成すると同様に一本一本の縫目が作業者の目前でシミュレートされる。」と記載されているように周知技術である。
してみれば,引用発明の刺繍シミュレーションにおいて,光線の照射方向を連続的に変化させてシミュレーションの視覚的表現を「動画表現」とすることや,縫目(ステッチ)を縫い順にしたがって連続的に表示するようにして,シミュレーションの視覚的表現を「動画表現」とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
刺繍シミュレーションを行う際に,「ステッチ配置」を表現することは,例えば,引用例2の上記(ス),引用例3の上記(チ),(ツ),(ニ),及び引用例4の上記(ネ),(ノ),(ハ),(フ)等に記載されているように周知技術である。
また,刺繍シミュレーションを行う際に,「ステッチと照明の相互作用」を表現することは,例えば,引例2の上記(コ),(サ),引用例3の上記(チ),(ツ),(テ),(ト),及び引用例4の上記(ネ),(ノ),(ハ),(ヒ),(フ)等に記載されているように周知技術である。
また,引用例2の上記(コ)には,「CRT2上へは,縫目毎に第3図の如く中央部を明るく,端部を暗く表示する。この際,実際の縫目は第4図(イ)の如く,縫目長さL=Lsが短い場合は急傾斜の山となり,同(ロ)の如くL=Llと長い場合は緩やかな傾斜の山となる。従って,視覚的には,光線による陰影は,Lが短い場合に鮮明となり中央部が他の部分に比し極めて明るく感じられ,Lが長い場合は中央部と端部との明度差が小さく感じられる。そこで実際の縫い上り状態に近くするために,縫目長さLに応じた所定の明度変化率にて,端部を暗く,中央部を明るくCRT2へ表示する構成としている。」と記載され,糸の縫目長さに応じた山の傾斜に応じて光線の陰影を変えることが記載され,引用例2の上記(シ)には,「次に,S8にて,表示後に縫目方向が分かる様に,縫目データ毎に異なった一定ノイズが付加される。その結果,縫目の一本一本がCRT2上で若干異なる明度にて表示されることにより違和感なく縫目方向を表現することができる。」と記載され,縫目の一本一本の明度を異ならせて縫目方向を表現することが記載され,引用例3の上記(ナ)には,「糸6の画像データとして実写データを使用すると,画像撮影時の光線の照射方向に応じて,糸6の幅方向の中央が比較的明るく,その両端あるいは片端は比較的暗くなる。さらに,長さ方向にも変化が現れ,縫目1a,1b,1cを並べても一本一本を区別しやすくなる。」と記載され,糸6の画像データとして実写データを使用することにより,縫目の一本一本を区別しやすくすることが記載され,さらに,引用例4の上記(ヒ)には,「刺繍シミュレーション命令42は,・・・糸の太さや撚りなどに基づくステッチの長さ分の糸画像の作成命令44とを備え,糸画像と明暗とを合成して刺繍データをシミュレーションする。」と記載され,「糸の太さや撚り」を考慮して刺繍シミュレーションを行うことが記載されている。
上記引用例2?4は,いずれも,一本一本の糸の形状等を考慮して「リアル」な刺繍シミュレーションを行うものであるところ,ここで考慮される,「一本一本の糸の形状」が本願発明の「糸の応答」に相当するということができる。
そして,引用例1の上記(イ)に「したがってユーザは,ユーザーが選択した衣服について注文した刺繍パターンの現実的な像をえることは難しい。」と記載されているように,刺繍シミュレーションにおいて,「現実的(リアル)」な像を得ることは,一般的な課題であるものと認められる。
してみれば,引用発明の刺繍シミュレーションにおいて,「リアル」な像を得るために上記周知技術及び引用例2?4の記載事項を適用して,カスタム刺繍デザインの視覚的表現が,「ステッチ配置」,「ステッチと照明の相互作用」,及び「糸の応答」を示すものであるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点3]について
刺繍シミュレーションを行う際に,パラメータを変更するなどの「対話型」の処理ができるようにすることは周知技術である。
例えば,引用例2の上記(ソ)には,「そこで,キーボード4より訂正データを与え,該データに基づいて再び第4図(当審注:「第4図」は,「第5図」の誤記である。)のS2以下の処理を実行すれば,訂正も簡便に行なうことができる。」と記載され,引用例3の上記(ヌ)には,「ステップs8では,利用者からの光線の照射方向の変更指示がキーボード32などを介して入力されているか否かを判断する。変更の指示が入力されていれば,ステップs9で変更された光線の照射方向に従って明暗を変更し,ステップs7で画像を表示する。」と記載されている。
してみれば,引用発明の刺繍システムにおいて,「カスタム刺繍デザインの視覚的表現を製品上で生成し,前記カスタム刺繍デザインを製品上で表示する手段」を「対話型」の処理ができる「対話型ステッチプレーヤ」とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明,引用例1?4の記載事項,及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本願発明は,引用発明,引用例1?4の記載事項,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例1?4の記載事項,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-15 
結審通知日 2015-09-16 
審決日 2015-10-06 
出願番号 特願2011-533373(P2011-533373)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小太刀 慶明月野 洋一郎  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 小田 浩
須田 勝巳
発明の名称 刺繍システム及び方法  
代理人 西島 孝喜  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 上杉 浩  
代理人 須田 洋之  
代理人 辻居 幸一  
代理人 近藤 直樹  
代理人 大塚 文昭  

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