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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A41D
管理番号 1311317
審判番号 不服2015-7963  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2016-02-15 
事件の表示 特願2010- 21600「釣り用上着」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日出願公開、特開2011-157665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年2月2日の出願であって、平成25年10月30日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年12月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年5月29日付けで、最後の拒絶理由が通知され、平成26年7月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月23日付けで平成26年7月11日付けの手続補正を却下する決定及び拒絶査定がなされた。
これに対して、平成27年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2.平成27年4月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正する補正を含むものである。
「【請求項1】
上着本体が、前身頃と、固形状の浮力体と、膨脹式の袋状の浮力体と、該袋状の浮力体を非膨脹状態で収納する収納部とを備えた釣り用上着であって、
前記袋状の浮力体は、膨脹状態では前記上着本体から膨出した状態となるように構成され、
前記固形状の浮力体は、前身頃の表地と裏地との間に配置され、
前記収納部は前身頃に設けられ、該収納部は、上着本体の幅方向中心部側で係止される面ファスナーを前身頃の裾部を外して備え、前記袋状の浮力体は前記収納部に固定されるとともに、前記面ファスナーに対して幅方向外側に収納され、膨出した状態では、前記前身頃の表地の幅方向途中に縫着された生地により、幅方向の広がりが制限されることを特徴とする釣り用上着。」(以下、「本願補正発明」という。)

(2)補正の適否
ア 本願補正発明は、本件補正前の請求項1(平成25年12月13日付け手続補正の請求項1)の「袋状の浮力体」について、さらに、「膨出した状態では、前記前身頃の表地の幅方向途中に縫着された生地により、幅方向の広がりが制限され」ると補正するものである。
しかし、「袋状の浮力体」が、「膨出した状態では、前記前身頃の表地の幅方向途中に縫着された生地により、幅方向の広がりが制限され」ることについては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に明示的に記載されているものではない。

イ また、当初明細書等には、従来、「前後に備える膨脹式の袋状の浮力体が、前身頃内に備える固形状の浮力体と前身頃の表地との間及び後身頃内に備える固形状の浮力体と後身頃の表地との間の狭いスペースに収納されているため、膨脹式の袋状の浮力体が膨脹したとしても、その膨脹した体積は小さく、十分な浮力を得ることができないものであった」(段落【0006】)ことから、「ポケットなどに重量のあるタックルを収納した場合でも、十分な浮力を得ることができる釣り用上着を提供すること」(段落【0007】)を、発明が解決しようとする課題としたことが記載され、
その「袋状の浮力体」の収納に係る具体的な構成について、
「図2、図3及び図9(a),(b)に示すように、前記左前身頃3は、前記浮力体5を収納するための表側生地42Aと裏側生地42Bとからなる左側収納袋42と、この左側収納袋42の前方に膨脹式の袋状の浮力体43の一部(左側部分)を収納するための収納部S1を形成するための裏生地44A(図9にのみ図示している)を備えた左側表地44とを備えている。・・・・これら左側表地44及び右側表地46の表面に前記ポケット10,11,13,14を備えている。図9(a),(b)に示すように、裏生地44A,46Aの左右方向一端が、左右の表地44,46の合わせ部側端に縫着され、左右方向他端が、表側生地42A,45Aの脇側寄り部分に縫着されている。尚、図9では、ポケット11,14を省略している。また、前記裏生地44A,46Aを省略して実施することもできる。」(段落【0025】)
「図3、図8及び図9(a),(b)に示すように、前記左側表地44の上端には、該上端から後側に延びてから左右中央側に延びることで前記背中部21の左側表地21Aを備えている。また、右側表地46の上端には、該上端から後側に延びてから左右中央側に延びることで前記背中部21の右側表地21Bを備えている。・・・・前記右前身頃4の右側表地46及び背中部21の右側表地21Bの右脇側(身頃の合わせ部から離間する側)が、右側収納袋45及び背中部21の右脇側身頃の合わせ部から離間する側)に縫着され、右前身頃4の右側生地46及び背中部21の右側表地21Bが右脇側(身頃の合わせ部から離間する側)の縫着部分T2を支点として揺動自在に構成している。前記右前身頃4の右側生地46及び背中部21の右側表地21Bが、前記右半分の収納部S2を開閉することができる開閉可能な開閉部を構成している。従って、前記左右の開閉部が閉じ状態から開状態になって前記袋状の浮力体43が膨脹状態になるように構成されている。図3及び図8では、左右の収納部S1,S2を開放した状態を示している。また、図8では、浮力体43を収納部S1,S2に収納する直前の状態を示している。」(段落【0027】)と記載されている。
当初明細書等の記載によれば、「袋状の浮力体」の収納部S1、S2を形成するための裏生地44A、46Aは、縫着部分T1、T2を支点として揺動自在に構成されており、図9(b)からは、膨張した浮力体43に、裏生地44A、46Aが、一部当接する程度に近接した状態が看取できる。
しかし、「幅方向の広がりが制限される」とは、更なる幅方向への広がりを防ぐことと理解できるが、図9(b)は、ある時点の状態が示されているのみであって、図9(b)をはじめ、明細書及び図面には、浮力体43が更に膨張した際に、どのようになるかについては記載されていない。
また、当初明細書等の段落【0012】?【0013】には、「本発明の釣り用上着は、前記前身頃に左右のポケットを備え、前記袋状の浮力体は、膨脹状態では、該左右のポケットの間から前方側へ膨出している構成であってもよい。
上記のように、膨脹状態では、該左右のポケットの間から前方側へ膨出している構成にすれば、落水時等に袋状の浮力体を膨脹状態にすることで、着用者の身体の左右中心部から前方側へ膨出して、顔側が上になるような仰向けの浮遊姿勢をより一層維持し易い。」と記載されているが、上記の記載によれば、「着用者の身体の左右中心部から前方側へ膨出」させることは、膨張する袋状の浮力体を、左右のポケットの間に配置することにより実現されるのであって、裏生地44A、46Aにより実現するものとは記載されていない。
実際、当初明細書等には、釣り具上着の裏生地に用いられる素材について、格別、記載がなく、落水時の救命のために、ある程度の強度が要求されるとしても、人の着心地等を考慮すれば、柔らかな材質を用いることが通常であって、浮力体43の幅方向の広がりを制限する程度の硬さを有するものとは直ちにはいえない。また、裏生地44A、46Aの他端に取り付けた表地生地44、46についても、着心地等を考慮すれば、裏生地44A、46Aの運動を制限して浮力体43を支持する硬さや機能を有するものとは認められない。そもそも、当初明細書等の記載によれば、本願補正発明は、十分な浮力を得ることを目的とするものであるから、「広がりが制限される」ことは、本願補正発明の目的に反するものともいえる。
そうすると、「袋状の浮力体」が、「膨出した状態では、前記前身頃の表地の幅方向途中に縫着された生地により、幅方向の広がりが制限され」ることが、出願時の技術常識に照らしても、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえず、この補正が新たな技術的事項を導入するものではないといえる特段の事情も見いだせない。

ウ 請求人は、審判請求書において、上記補正の根拠として図9(b)をあげ、「『膨出した浮力体43が、前身頃3,4の表地42A,45Aの幅方向途中に縫着された生地44Aにより、幅方向の広がりを制限されている状態』が明確に記載されている。」と主張しているが、明細書の段落【0031】には、「この膨脹により、面ファスナー47と49、48と50、55と56、53と54、52と54の係止が解除され、図3、図8及び図9(b)に示すように左右の前身頃3の表地44,46が左右に広がるように開くことで、図6及び図9(b)に示すように、浮力体43が前方だけでなく、左右方向にも膨出することができるようになっている。そして、このように浮力体43が膨出することにより、浮力の容量を増大させることができ、図5に示すように顔側が上になるような仰向けの浮遊姿勢を安定させることができる。」と記載され、浮力体43が、むしろ左右方向にも膨出することができることにより、浮力の容量を増大させることができ、顔側が上になるような仰向けの浮遊姿勢を安定させることができるとされていると理解できるから、図9(b)より、膨張した浮力体43に、一部当接する程度に近接して配置されたことが看取できるとしても、前身頃3,4の表地42A,45Aの幅方向途中に縫着された生地44A、46Aにより、浮力体43の幅方向の広がりが制限されている状態が示されているとは、直ちにはいうことができない。

エ したがって、本願補正発明において、「袋状の浮力体」が、「膨出した状態では、前記前身頃の表地の幅方向途中に縫着された生地により、幅方向の広がりが制限され」るとする補正は、当初明細書等に明示的に記載されているものではなく、また、その記載から自明であるともいえず、この補正が新たな技術的事項を導入するものではないといえる特段の事情も見いだせないから、この補正は、当初明細書等に記載された範囲内においてするものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、当初明細書等に記載された範囲内においてするものとはいえない補正を含むものであり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
なお、仮に、請求人が主張するように、「請求項1に付加した『浮力体は、膨出した状態では、前記前身頃の表地の幅方向途中に縫着された生地により、幅方向の広がりが制限される』の発明特定事項を追加することで減縮補正し、新たな請求項1としている。この発明特定事項の追加は、〔0025〕、〔0027〕段落、図9(a)(b)の記載に基づく補正」(審判請求書「3-1.補正の根拠」)であったとしても、以下3.(2)に示す引用文献1(英国特許出願公開第2223987号明細書)において、浮袋の膨張時に、ベルクロストリップの閉鎖が解かれ、分離されて、外皮の表地の生地が、浮袋に当接することは明らかであり、本願補正発明が、浮力体への生地の当接をもって「幅方向の広がりが制限される」ことにあたるとされるのであれば、上記引用文献1の外皮の表地の生地も、本願補正発明の「生地」と同様に、浮袋の幅方向の広がりを制限するように作用するものといえる。
そして、上記引用文献1の外皮の表地の生地を、どの位置で縫着するかは、外皮の表地と裏地で形成される空間を、どの程度とするかにより決まる設計的事項である。
したがって、仮に、本件補正が、請求人が主張するとおり、当初明細書等に記載された範囲内であったとしても、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.平成25年12月13日付けの手続補正の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について
(1)本願発明は、以下のとおりのものである。
「上着本体が、前身頃と、固形状の浮力体と、膨脹式の袋状の浮力体と、該袋状の浮力体を非膨脹状態で収納する収納部とを備えた釣り用上着であって、
前記袋状の浮力体は、膨脹状態では前記上着本体から膨出した状態となるように構成され、
前記固形状の浮力体は、前身頃の表地と裏地との間に配置され、
前記収納部は前身頃に設けられ、該収納部は、上着本体の幅方向中心部側で係止される面ファスナーを備え、前記袋状の浮力体は前記収納部に固定されるとともに、前記面ファスナーに対して幅方向外側に収納されていることを特徴とする釣り用上着。」

(2)引用文献記載の発明及び技術的事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、英国特許出願公開第2223987号明細書には、以下の技術的事項及び発明が記載されている。
(ア)「This invention relates to lifejackets of the inflatable type. 」(1頁2?3行)
(和訳:本発明は、膨張可能なタイプの救命胴衣に関するものである。)

(イ)「According to the present invention, there is provided a lifejacket having a harness and an inflatable bladder which is secured to the harness, characterised in that at least part of the bladder is arranged to expand forwardly (in relation to the wearer's chest) on being inflated, to such an extent as to provide sufficient turning force to move the wearer to a satisfactory supine position if the wearer becomes immersed in the water in an unsatisfactory position.」(1頁21?29行)
(和訳:本発明によれば、固定用ベルトと、固定用ベルトに固定される膨張可能な浮袋からなる救命胴衣を提供され、少なくとも浮袋の一部は、(着用者の胸に対して)前方に膨張するように設定され、着用者が不満足な位置で水に浸漬になった場合には、着用者を仰向けに移動させるのに十分な程度の回転力を提供することができる。)

(ウ)「Referring to Fig. 1, a lifejacket 10 is strapped to a wearer 11, in a conventional manner, by an adjustable waist-belt 12 which has a front buckle 13, and an adjustable backstrap 14 which extends from the belt 12 to halter part 15 of the lifejacket.
The lifejacket has an outer envelope 16 of generally standard shape comprising a pair of front compartments 17 attached to the belt 12 at their lower ends and interconnected by the halter part 15. The envelope houses a shaped bladder 18 comprising a pair of lobes 19 which are flat-folded within the compartments 17, before inflation, and an arcuate chamber 20 which extends from the top ends of the lobes and lies within the halter part 15 of the envelope 16. The compartments 17 are closed by Velcro strips 21, but it will be noted that a releaseable tie strap 22 extends through the strips to interconnect the front ends of the lobes.
Figs. 2 to 4 show the lifejacket after inflation of the bladder, by means of a 50 lb CO2 cylinder 23 which is manually operated by a cord 24. Reference 25 denotes a mouth tube for oral inflation. On inflation, the lobes 19 expand to separate the Velcro strips, and continue to expand forwardly to the illustrated positions. The interconnecting chamber 20 also expands within the halter part 15 of the now-open envelope 16. 」(2頁16行?3頁11行)
(和訳:図1を参照する。救命胴衣10は、従来の方法で、フロントバックル13を有する調整可能なベルト12と、ベルト12から救命胴衣の首部15に延びる調節可能な背ひも14により、着用者11に装着される。
救命胴衣は、外皮16は、一般に標準的な形状の一対の前方区画17を有し、この前方区画17は、下端部にベルト12に取り付けられ、首部15により相互に接続されている。
外皮は、成形された浮袋18を収容し、この浮袋は、膨張する前に、区画17内で平らに折り畳まれた一対の袋片19と、一対の袋片の先端から延び、外皮16の首部15内に配置されたアーチ形の空間20から構成される。
区画17はベルクロストリップ21によって閉じられるが、開放可能なストラップ22が、両袋片を接続するために、ストリップを貫通することに留意されたい。
図2ないし4は、浮袋の膨張後の救命胴衣が示され、紐24で手動で作動される50ポンドの二酸化炭素が充填されたシリンダー23により膨張する。図番25は経口により膨張させるためのチューブを示している。膨張時、袋片19はベルクロストリップを分離するために広がり、図示の位置に前方に展開する。相互接続する空間20も、開放された外皮の首部15内で広がる。)

(エ)「As described, the lifejacket has a bladder which extends through the halter part. However, it is possible to include a halter part of, for example, plastics foam to give permanent buoyancy, and to have inflatable lobes attached thereto; such lobes may be pneumatically interconnected and may also be interconnected by a tie such as 22.」(4頁9?15行)
(和訳:説明したように、救命胴衣は、首部を通って延びている浮袋を有している。しかし、例えば、首部に、永久浮力を与えるプラスチック発泡体を備えることが可能であり、膨張可能な袋片を、それに取り付けることができる。そのような袋片は空気圧で相互に接続されてもよく、また、ストラップ22によって相互接続されてもよい。)

(オ)図1?4及び上記(ウ)の記載によれば、外皮16は、区画17を形成するために表地と裏地を有し、その表地と裏地の区画17に浮袋18を収納し、開放可能なストラップ22が、着用者前面の左右の両袋片間を接続するベルクロストリップ21を貫通することから、外皮16の幅方向中心部側にベルクロストリップ21が備えられ、外皮16の表地と裏地が閉鎖されているものと理解できる。

引用文献1には、上記(ア)によれば、膨張可能なタイプの「救命胴衣」に係る発明が記載され、上記(ウ)によれば、その「救命胴衣」が、「外皮16」と、膨張する「浮袋18」と、浮袋18を膨張する前に平らに折り畳んで収納する「区画17」を備え、上記(イ)(ウ)によれば、浮袋18は、膨張時、ベルクロストリップ21を分離するために広がり、着用者の胸に対して、前方に展開するように構成され、上記(オ)によれば、「区画17」は「外皮16」に設けられ、「外皮16」の幅方向中心部側にベルクロストリップ21が備えられて、外皮16の表地と裏地が閉鎖され、上記(イ)によれば、膨張可能な浮袋は固定用ベルトに固定されることが記載されている。

そうすると、引用文献1には、
「救命胴衣が、外皮16と、膨張する浮袋18と、浮袋18を膨張する前に平らに折り畳んで収納する区画17を備え、浮袋18は、膨張時、ベルクロストリップ21を分離するために広がり、着用者の胸に対して、前方に展開するように構成され、区画17は外皮16に設けられ、外皮16の幅方向中心部側にベルクロストリップ21が備えられて、外皮16の表地と裏地が閉鎖され、膨張可能な浮袋は固定用ベルトに固定される、救命胴衣。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、登録実用新案第3065606号公報には、以下の技術的事項が記載されている。
「図1,図2において、1は、一例としてベスト状に形成した救命胴衣、又は、常時着用タイプのベスト状作業衣となる本考案安全衣で、ファスナfにより開閉自在にした前身頃2,2にそれぞれ浮力体収納部21,22,23,24を形成し、それら浮力体収納部21?24に、図3に示す気体充填型の浮力体Aと軟質発泡プラスチック板による固形状の浮力体Bを重複して収納してある。」(段落【0010】)

(3)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「外皮16」、「浮袋18」、「区画17」は、それぞれ、本願発明の「前身頃」、「浮力体」、「収納部」に相当する。
また、引用発明の「救命胴衣」は、着用者の上半身に着用されるものであり、本願発明の「釣り用上着」とは、「上着」である限りにおいて一致し、引用発明の「救命胴衣」は、それ本体に、「外皮16」、「浮袋18」、「区画17」を備えるものである。
さらに、引用発明の浮袋18は、膨張時、ベルクロストリップ21を分離するために広がり、着用者の胸に対して、前方に展開するように構成されるものであり、本願発明の「袋状の浮力体は、膨脹状態では上着本体から膨出した状態となるように構成され」ることに相当し、
引用発明のベルクロストリップ21が、外皮16の幅方向中心部側に配置されることから、浮袋18が、ベルクロストリップ21の配置位置よりも、幅方向外側に収納されていることは明らかであり、ベルクロストリップは、面で着脱できるファスナーをいうから、引用発明の「区画17は外皮16に設けられて、外皮16の幅方向中心部側にベルクロストリップ21が備えられて、外皮16の表地と裏地が閉鎖され、膨張可能な浮袋は固定用ベルトに固定される」ことは、本願発明の「収納部は前身頃に設けられ、該収納部は、上着本体の幅方向中心部側で係止される面ファスナーを備え、袋状の浮力体は収納部に固定されるとともに、面ファスナーに対して幅方向外側に収納されていること」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明は、
「上着本体が、前身頃と、膨脹式の袋状の浮力体と、該袋状の浮力体を非膨脹状態で収納する収納部とを備えた上着であって、
袋状の浮力体は、膨脹状態では上着本体から膨出した状態となるように構成され、
収納部は前身頃に設けられ、該収納部は、上着本体の幅方向中心部側で係止される面ファスナーを備え、袋状の浮力体は収納部に固定されるとともに、面ファスナーに対して幅方向外側に収納されている、上着。」で一致し、下記の点で相違する。

《相違点》
本願発明が釣り用上着であるのに対し、引用発明の救命胴衣は釣り用か特定されておらず、また、その本願発明の釣り用上着が、固形状の浮力体を備え、前身頃の表地と裏地との間に配置されるのに対し、引用発明の救命胴衣は、着用者の胸に対して、前方に膨張するように構成された浮袋を備えるものの、固形状の浮力体については特定されていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明の救命胴衣は、落水時に着用者に浮力を与え、救命に資するものであり、当然、釣りをする際にも有効であることは明らかである。
また、引用文献1に、救命胴衣を釣りをする際に着用できないとする記載も特にないから、引用発明の救命胴衣を「釣り用」とすることに支障があるとはいえない。
そして、上記(2)ア(エ)には、引用文献1の救命胴衣は、膨張する浮袋の他、首部に永久浮力を与えるプラスチック発泡体を備えることができる旨記載され、浮袋が膨張しない時にも、ある程度の浮力を備えるために、必要に応じて、固形状の浮力体を設けることが示唆されているといえる。
さらに、救命胴衣の前身頃に浮力体収納部を形成し、その浮力体収納部に、気体充填型の浮力体と軟質発泡プラスチック板による固形状の浮力体を共に収納することは、引用文献2(上記(2)イ)に記載されており、引用発明の救命胴衣において、浮袋が膨張しない時にも、ある程度の浮力を備えるために、膨張するように構成された浮袋に加えて、固形状の浮力体を、外皮16の表地と裏地の間に配置することは、当業者が容易に成し得たものである。

しかも、本願発明により得られる作用効果も、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項から、当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別とはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-08 
結審通知日 2015-12-11 
審決日 2016-01-04 
出願番号 特願2010-21600(P2010-21600)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41D)
P 1 8・ 561- Z (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 薫  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 三宅 達
井上 茂夫
発明の名称 釣り用上着  
代理人 北田 明  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 藤本 昇  

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