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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1311345
審判番号 不服2014-5415  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-24 
確定日 2016-02-17 
事件の表示 特願2010-517460号「触媒の不活性化を制限するための粒子フィルタの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成21年2月12日国際公開、WO2009/019395、平成22年11月11日国内公表、特表2010-534558号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,2008年7月23日(パリ条約による優先権主張2007年7月27日,(FR)フランス国)を国際出願日とする出願であって,平成24年11月13日付けの拒絶理由の通知に対して平成25年2月19日に意見書及び手続補正書が提出され,これに対して同年11月27日付けで拒絶査定がなされ,そして,平成26年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され,特許法第164条第3項に基づく同年6月6日付けの報告の後の同年7月24日に上申書が提出され,平成27年1月26日付けの当審による拒絶理由の通知に対して同年6月12日に意見書及び手続補正書が提出され,さらに,同年6月29日付けの当審による拒絶理由の通知に対して同年7月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年7月2日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
互いに平行な複数の流路を有し,この流路の壁が多孔質セラミックで作られているモノリス(一体成形物)の,多管式反応器内で実施されるプロピレンまたはプロパンのアクロレインへの気相酸化反応またはアクロレインまたはプロパンのアクリル酸への気相酸化反応の中から選択される触媒反応の触媒層の粒子フィルタとしての使用であって,
上記モノリスは上記多管式反応器の各反応管の寸法に合った単一部品から成り,
上記モノリスは流路の入口の断面が出口の断面と同じかそれ以上である互いに平行な複数の流路を有し,互いに隣り合う2つの流路では流路の一端が交互に塞がれており,
流入するガス流は上記流路を互いに分離している多孔質セラミックの壁によって邪魔され且つこの壁を貫通して流れる,
ことを特徴とする使用。」

3.当審による拒絶理由
平成27年1月26日付けの当審による拒絶理由の概要は,「特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は,特表2006-523139号公報(引用例1),国際公開第2006/126278号(引用例2)記載の発明及び従前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」旨を理由にするものである。

4.引用例に記載の事項
(4-1)特表2006-523139号公報(引用例1)には,以下の記載及び図示がある。(当審注:以下の下線は,当審において付与した。)
(ア)「【請求項34】
汚染されているプロセス流れから汚染物を除去する方法であって,
(a)多数のセラミック製モノリスを化学反応槽の中に供給し,
(b)相当数の前記セラミック製モノリスの表面で起こる汚染物濾過作用が向上して実質的に浄化されたプロセス流れがもたらされるようにする目的で前記多数のセラミック製モノリスを前記化学反応槽の中に相当数の前記セラミック製モノリスの間に隙間が存在するように無作為に詰め込み,そして
(c)前記実質的に浄化されたプロセス流れが前記多数のセラミック製モノリスの中を妨げられないで通ることを可能にしながら前記汚染されているプロセス流れから汚染物が取り除かれるように前記汚染されているプロセス流れを相当数の前記セラミック製モノリスと接触させる,
段階を含んで成る方法。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に従い,網状要素を用いてプロセス流れを濾過し,プロセス流れをプロセス装置内で分配しそしてこれらの片方または両方を所望反応に触媒作用を及ぼしながら同時に達成する本方法によって前記利点を達成した。本発明は,有利に,汚染されているプロセス流れから汚染物を除去する方法を提供する。本方法を,好適には,当該プロセス流れをプロセス装置の中に入れておいた多数の網状要素に通すことで実施する。前記網状要素の表面で起こる汚染物濾過が向上すると同時に浄化されたプロセス流れが前記多数の網状要素の中を妨げられないで通ることができるようにする目的で,前記網状要素を前記プロセス装置の中に各網状要素の間に有意な隙間が存在するように無作為に詰め込む。表面には内部表面および外側表面が含まれ得る。本発明に従って作成する網状要素は,濾過で利用可能な内部表面積の方が外側表面積よりも大きい。網状要素には発泡材料およびモノリス材料が含まれ得る。発泡材料は一般に不規則なパターンを有する一方で,モノリスが有するパターンはより均一である。そのような網状要素は商業的に入手可能な如何なる材料で作られていてもよく,例えばジルコニアで強化されたアルミナ(これは一般にZTAと呼ばれる)などで作られていてもよい。ZTAは本社がCudahy(ウィスコンシン)に在るFiber Ceramics,Inc.からセラミック発泡体として入手可能である。別の適切な種類のセラミックは,本社がCorning(ニューヨーク)に在るCorning,Inc.が製造しているモノリスである。前記プロセス流れは液体流れ,気相または両方の相の組み合わせであってもよく,汚染物には埃,酸化鉄,硫化鉄,アスファルテン,コークス微細物,煤,触媒微細物,沈澱物,または連行された他の外来粒状物,蒸留塔の中の塩,気体流れの中の粒子,または排ガス装置に由来する硫黄または硫化物が含まれ得る。そのようなプロセス流れはまた有機物が基になったプロセス流れであってもよい。前記網状要素をこれが当該プロセス流れから汚染物のいくらかまたは全部を除去するに充分な量で供給すべきである。本発明の別の特徴は,浄化されたプロセス流れにさらなる処理を受けさせる段階を包含する。
【0016】
より詳細には,本発明は,プロセス装置に入って来るプロセス流れの流れ品質を向上させる方法に関する。具体例には,触媒床プロセス装置に入って来る有機物が基になったプロセス流れの流れ品質を向上させることが含まれる。そのような触媒床プロセス装置には,好適には,個々別々の固体状要素が固定されている触媒床が用いられている。そのような触媒床プロセス装置には水素添加処理装置(hydrotreater),水素添加精製装置(hydrorefiner),水素添加分解装置,改質装置,アルキル置換反応槽,脱アルキル反応槽,異性化反応槽,酸化反応槽,エステル化反応槽および重合反応槽が含まれ得る。前記個々別々の固定状触媒粒子は1個以上の固定床の中に上昇流,下降流または放射状流デザインのいずれかで入っている可能性がある。
【0017】
本発明の網状要素は,触媒床プロセス装置で使用可能であることに加えて,他の種類のプロセス装置から汚染物を除去する目的でも使用可能である。そのようなプロセス装置には,焼却炉,スクラバー,排ガス処理装置および蒸留塔,そして連続様式で作動する製造装置のいずれも含まれ得る。本網状要素を蒸留塔で用いる場合,それらを蒸留塔の底に位置させることで,それを蒸留過程に由来する塩を除去するフィルターとして働かせることができる。塩を除去すると,蒸留塔に沿って起こる圧力降下が低下し,蒸留塔が示す分離効率がより良好になり,かつそのような塩を蒸留塔から除去するに典型的に要する休止時間と休止時間の間の時間が長くなる。
【0018】
本発明は,また,有利には,プロセス装置の中で垂直流れ分配を起こさせる方法も提供する。本垂直流れ分配方法は,1個以上の網状要素を当該プロセス装置の中に供給することを包含する。用いる網状要素が1個のみの場合には,典型的に,それの大きさが有効に当該プロセス装置の全長に及ぶようにする。用いる網状要素が多数の場合には,それらを典型的には無作為に詰め込まれた床の状態に配置する。そのような網状要素の形態に関係なく,各網状要素は,この網状要素の全体を貫く多数の流路を限定している多数のウエブ材(web members)を有する。従って,プロセス流れが各網状要素のウエブ材で限定されている多数の流路を通ることによって前記プロセス流れが前記多数の網状要素と接触するとそれらは多数のより小さい流体流れに細分される。前記プロセス流れの流れが前記網状要素の中の流路の中を通りかつ使用する網状要素が多数の時には前記網状要素の間に存在する隙間を通ることで,前記プロセス装置の中を通る前記プロセス流れの流れに対して垂直な有効な流れ分配がもたらされる。本方法は当該プロセス装置の中に入って来るプロセス流れが入り込む地点が当該プロセス装置の中の任意地点であるか,プロセス装置の出口であるか或はそのような場所の任意組み合わせであるいずれにも適用可能である。本方法はプロセス流れに適用可能であると同時に前記プロセス流れから汚染物を濾過で除去することを可能にする。本方法はプロセス流れに適用可能であると同時に前記プロセス流れの中に存在する所望化学種をある程度または完全に除去または転化させる触媒反応を実施することを可能にする。」

(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1を参照して,プロセス流れを処理する目的で,実質的に球形の球122(図11)の形状の網状要素15を用いた単一触媒固定床プロセス装置22を記述するが,この上で考察したように,他の形状の網状要素15ばかりでなく他のプロセス装置も使用可能である。プロセス装置22が下降流形態の場合,汚染されているプロセス流れ20は入り口24の所でプロセス装置22の中に入る。本発明は固定床または流動床のいずれのプロセス装置でも使用可能である。好適には,本発明を上昇流または下降流または放射状流形態のいずれかの1個以上の固定床で用いる。そのような触媒床プロセス装置には,好適には,水素添加処理装置,水素添加精製装置,水素添加分解装置,改質装置,アルキル置換反応槽,脱アルキル反応槽,異性化反応槽,エステル化反応槽および重合反応槽が含まれる。
供給流れに典型的に存在する汚染物には,典型的には,埃,酸化鉄,硫化鉄,アスファルテン,コークス微細物,煤,触媒微細物,沈澱物,または連行された他の外来粒状物,蒸留塔の中の塩,気体流れの中の粒子,排ガス装置に由来する硫黄または硫化物,または重合体前駆体,例えばジオレフィンなどが含まれる。網状要素15の層26,好適には層26,28を当該槽の中にそれがプロセス流れ20から汚染物を所望時間(これには,これらに限定するものでないが,当該反応槽内の触媒が前記反応槽の運転を保証するに充分な活性を示す間が含まれる)に渡って濾過で除去するに充分な量で装備する。好適には,入って来るプロセス流れが網状要素15の床を通って流れる時に網状要素15,例えば球122などの大きさが層26の中の1つの大きさから層28の中の別の大きさへと段階的であるように複数の層26,28を装備してもよい。網状要素には発泡材料およびモノリス材料が含まれ得る。発泡材料は一般に不規則なパターンを有する一方でモノリスが有するパターンの方がより均一である。セラミック製網状要素を用いる場合,そのようなセラミック製網状要素は商業的に入手可能な如何なる材料で作られていてもよく,例えばジルコニアで強化されたアルミナ(これは一般にZTAと呼ばれる)などで作られていてもよい。ZTAは本社がCudahy(ウィスコンシン)に在るFiber Ceramics,Inc.から入手可能である。本発明で用いるに適した典型的なモノリスは,本社がCorning(ニューヨーク)に在るCorning,Inc.から入手可能である。そのように網状要素15の大きさを段階的にすることで濾過可能な汚染物の大きさの範囲の幅が広がる。」

(エ)「【実施例1】
【0029】
蒸留液水素添加処理装置における使用
4種類の蒸留液水素添加処理装置を実質的に同じプロセス条件下で用いて行った製油所でデータを得た。そのような水素添加処理装置の中の2つ,即ちAおよびBには,「リンググレーディングシステム(ring grading systems)」として知られる通常の網状材料が入っていた。残りの2つの水素添加処理装置,即ちCおよびDでは,本発明の網状要素を用いた。図17に,通常のリンググレーディングシステムおよび本発明の網状要素を用いた4種類の水素添加処理装置が示した圧力降下の比較を示す。このグラフで分かるであろうように,本網状要素を入れておいたCおよびDの水素添加処理装置では450日を超える期間に渡って圧力降下は実験開始時の圧力降下に比較して低いままであったが,通常のリンググレーディングシステムが用いられているAおよびB水素添
加処理装置はほんの200日の稼働時間後に劇的な圧力増加を示した。このような圧力降下の比較の結果を表1に見ることができる。蒸留液水素添加処理装置の中の汚染されているプロセス流れは主に液相状態であった。前記C水素添加処理装置の場合の450日目の圧力差は8psiのみであった。前記D水素添加処理装置の場合の450日目の圧力差は0.5psiのみであった。前記AおよびB水素添加処理装置の場合の圧力差はそれぞれ82.5psiおよび54psiであった。比較として,本発明の網状要素を用いた前記CおよびD水素添加処理装置が示した性能の方が通常のリンググレーディングシステムを用いた場合よりも有意に良好であった。本発明の網状要素を用いると圧力差が低くなることで入れ替えと入れ替えの間の時間が劇的に長くなる。
【0030】
【表1】


圧力降下の典型的な想定は,最初の数カ月間の運転期間中の圧力降下は低いが,その後,圧力が比較的短い期間の間に装置を休止させて詰まりを除去し,その除去した材料を交換しそして装置を再始動させる必要がある地点にまで有意に増大するが,その時点は予測不能である。そのような出来事が予測不能であるか,非常に短い先行時間で代わりの材料を取得する必要があるか或は代わりの材料の在庫を充分な量で維持する必要があるか,或は代わりの材料の配達を待つまで休止時間を長くする必要があると,それは厄介であり得る。本網状要素を本明細書に記述する方法に従って用いると,プロセス流れに入っている汚染物の濃度およびプロセス装置に充填する本網状要素の能力を基準にした圧力降下が予測可能な期間に渡って低いままである。本網状要素が飽和状態になる前に装置に入っている触媒が枯渇するに充分な量で網状要素を充填してもよい。」

(オ)「【0049】
図6に,本発明の具体的な態様を網状要素の盤124として示す。場合により,この盤に穴125を持たせてもよい。好適には,場合により網状要素で満たしてもよいスクリーンバスケットに適応するように多数の穴を用いる。他の形状にはサドル126(図7),中空円柱128(図8),網状材料15の単一シート121(図9),多数の断片134 a-fで作られた盤134(図10),実質的に球形の球122(図11),固形円柱132(図12),ラシッヒリング130(図13),正方形(図14)およびモノリス(図14)が含まれ得る。各形状物の大きさを個々の仕様に合わせることができる。使用する形状物の大きさには,直径が約1/8から2インチの実質的に球形の球,内径が約1/8から1インチで外径が約1/4から1.5インチで高さが約1/4から2インチのラシッヒリング,半径が約1/4から2インチのサドル形状,内径が約1/8から1 1/4インチで外径が約1/4から2インチで高さが約1/4から3インチの中空円柱および直径が約1/8から1インチで高さが約1/4から2インチの固形円柱が含まれ得る。特注のワンピース盤124または単一シート121構造物を反応槽の物理的形態に特別に適合させてもよい。本発明のこの面のさらなる特徴は,網状材料15を穴125を有する盤124または単一シート121のいずれかに成形してもよい点にある。本発明の追加的特徴は,前記網状要素を構築する時に反応槽の物理的形態に特別に適合する組み立てシートまたは盤を生じさせる目的で多数の断片に成形してもよい点にある。本網状要素の間隙率は4から800ppiの範囲であってもよい。この間隙率を好適には約4から80ppiの範囲にしてもよい。この間隙率をより好適には約10から60ppiの範囲にしてもよい。このようにして網状材料15の大きさおよび形状を用途制約,大きさ制約,粒子充填率制約および圧力降下制約に合わせることができる。この網状要素の孔または開口部を取り巻く網状要素材がウエブ材123(図9)を構成していて,それが流路120(図9)を限定している。
【0050】
本発明は,また,有利には,プロセス装置内で垂直流れ分配を起こさせる方法も提供する。本垂直流れ分配方法は,1個以上の網状要素を当該プロセス装置の中に供給することを包含する。用いる網状要素が1個のみの場合には,典型的に,それの大きさをそれが有効に当該プロセス装置の全長に及ぶに充分な大きさにする。用いる網状要素が多数の場合には,それらを典型的には無作為に詰め込まれた床の状態に配置する。そのような網状要素の形態に関係なく,各網状要素は,この網状要素の全体を貫く多数の流路を限定している多数のウエブ材を有する。従って,プロセス流れが各網状要素のウエブ材によって限定されている多数の流路を通ることによって前記プロセス流れが前記多数の網状要素と接触するとそれらは多数のより小さい流体流れに細分される。前記プロセス流れの流れが前記網状要素の中の流路の中を通りかつ使用する網状要素が多数の時には前記網状要素の間に存在する隙間を通ることで,前記プロセス装置の中を通る前記プロセス流れの流れに対して垂直な有効な流れ分配がもたらされる。本方法は,図19に示すように,当該プロセス装置の中に入って来るプロセス流れが入り込む地点が当該プロセス装置の中の任意地点であるか,プロセス装置の出口であるか或はそのような場所の任意組み合わせであるいずれにも適用可能である。本方法はプロセス流れに適用可能であると同時に前記プロセス流れから汚染物を濾過で除去することを可能にする。本方法はプロセス流れに適用可能であると同時に前記プロセス流れの中に存在する所望化学種をある程度または完全に除去または変化させる触媒反応を実施することを可能にする。」

(カ)「【図1】



(2-3-1-2)原査定の拒絶理由において引用文献2として引用した国際公開第2006/126278号(以下,「引用例2」という。)には,以下の記載及び図示がある。
(キ)「【0030】
以下,本発明のハニカム構造体の実施形態について説明する。
本発明のハニカム構造体は,多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム構造体であって,その外周表面及び/又は端面に,二次元コードにより上記ハニカム構造体の情報が表示されていることを特徴とする。
【0031】
本発明のハニカム構造体は,多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設された多孔質セラミック等からなるものであればよい。従って,該ハニカム構造体は,多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設された一の多孔質セラミック等からなる柱状のハニカム構造体であってもよいし,多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設された柱状形状のハニカム部材がシール材層を介して複数個結束されたものであってよい。
【0032】
そこで,以下の説明においては,両者を区別して説明する場合には,前者を第一の形態のハニカム構造体,後者を第二の形態のハニカム構造体として説明する。また,両者を特に区別する必要がない場合には,単にハニカム構造体として説明する。
【0033】
まず,第一のハニカム構造体について,図1を参照しながら説明する。
図1(a)は,第一の形態のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり,(b)は,(a)のA-A線断面図である。
【0034】
第一の形態のハニカム構造体10は,図1に示すように,二次元コード16によりその外周表面に情報が表示されている。
この情報には,一方の端部(二次元コード16に近い側(図中手前側))が排気ガスの入口側で,他方の端部(二次元コード16から遠い側(図中奥側))が排気ガスの出口側であるとの端面に関する情報が記載されている。
【0035】
また,ハニカム構造体10は,多数の貫通孔11が壁部13を隔てて長手方向に並設された柱状体15の外周にシール材層14が形成された構造を有している。シール材層14は,柱状体15の外周部を補強したり,形状を整えたり,ハニカム構造体10の断熱性を向上させたりする目的で設けられているものである。
【0036】
さらに,図1に示したハニカム構造体10では,貫通孔11同士を隔てる壁部13が粒子捕集用フィルタとして機能するようになっている。
【0037】
即ち,一の焼結体からなる柱状体15に形成された貫通孔11は,図1(b)に示したように,排気ガスの入口側又は出口側のいずれかが,封止材12により目封じされ,一の貫通孔11に流入した排気ガスは,必ず,貫通孔11を隔てる壁部13を通過した後,他の貫通孔11から排出されるようになっている。
【0038】
従って,図1に示したハニカム構造体10は,排気ガス浄化用ハニカムフィルタとして機能することができる。なお,上記ハニカム構造体が,排気ガス浄化用ハニカムフィルタとして機能する場合,貫通孔の壁部の全部が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されていてもよいし,貫通孔の壁部の一部のみが粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されていてもよい。」

(ク)「【図1】






5.引用例1に記載された発明
引用例1の【請求項34】摘示(ア)には,以下の発明が記載されている。
「汚染されているプロセス流れから汚染物を除去する方法であって,
(a)多数のセラミック製モノリスを化学反応槽の中に供給し,
(b)相当数の前記セラミック製モノリスの表面で起こる汚染物濾過作用が向上して実質的に浄化されたプロセス流れがもたらされるようにする目的で前記多数のセラミック製モノリスを前記化学反応槽の中に相当数の前記セラミック製モノリスの間に隙間が存在するように無作為に詰め込み,そして
(c)前記実質的に浄化されたプロセス流れが前記多数のセラミック製モノリスの中を妨げられないで通ることを可能にしながら前記汚染されているプロセス流れから汚染物が取り除かれるように前記汚染されているプロセス流れを相当数の前記セラミック製モノリスと接触させる,
段階を含んで成る方法。」(以下,「引用発明」という。)

6.対比・判断
本願発明は,全体として「・・・モノリスの・・・使用」(「すなわち,モノリスの使用方法」に関する発明)というものであるから,この観点から引用発明と対比する。
(A)引用発明の「多数のセラミック製モノリス」は,
i)「セラミック製モノリスの表面で起こる汚染物濾過作用が向上して実質的に浄化されたプロセス流れがもたらされるようにする目的」のものであることから,汚染物濾過を担う「フィルタ」として使用されるものであり,
ii)ここにおける「汚染物」に関しては,「モノリス」が「網状要素」であることを踏まえつつ,引用例1の記載を見ると,「前記プロセス流れは液体流れ,気相または両方の相の組み合わせであってもよく,汚染物には埃,酸化鉄,硫化鉄,アスファルテン,コークス微細物,煤,触媒微細物,沈澱物,または連行された他の外来粒状物,蒸留塔の中の塩,気体流れの中の粒子,または排ガス装置に由来する硫黄または硫化物が含まれ得る。そのようなプロセス流れはまた有機物が基になったプロセス流れであってもよい。前記網状要素をこれが当該プロセス流れから汚染物のいくらかまたは全部を除去するに充分な量で供給すべきである。」(【0015】摘示(イ))なる記載があることから,気相反応体中の粒子の除去をも目的にしたものであると解されるので,
本願発明でいう「粒子フィルタ」に対応するものといえる。
(B)また,引用発明の「多数のセラミック製モノリス」は,
i)「多数のセラミック製モノリスを前記化学反応槽の中に相当数の前記セラミック製モノリスの間に隙間が存在するように無作為に詰め込」まれるものであり,
ii)引用例1の【図1】摘示(カ)において,「多数の網状要素15」が反応管の断面方向全体を覆うように詰め込まれていると見ることができるので,
本願発明でいう「反応管の寸法に合った部品」に対応するものといえる。
(C)さらに,引用発明の「多数のセラミック製モノリス」は,「化学反応槽」が「プロセス装置」の一つであることを踏まえつつ,引用例1の記載を見ると,例えば,「本発明は,プロセス装置に入って来るプロセス流れの流れ品質を向上させる方法に関する。具体例には,触媒床プロセス装置に入って来る有機物が基になったプロセス流れの流れ品質を向上させることが含まれる。そのような触媒床プロセス装置には,好適には,個々別々の固体状要素が固定されている触媒床が用いられている。」(【0016】摘示(イ))などの記載があることから,触媒床を想定していると解されるので,本願発明の「触媒反応の触媒層」に対応するものといえる。
そうすると,本願発明と引用発明とは,
「セラミックで作られているモノリス(一体成形物)の,
触媒反応の触媒層の粒子フィルタとしての使用であって,
上記モノリスは反応器の寸法に合った部品から成る,
ことを特徴とする使用。」という点で一致していて,以下の点で相違している。

相違点1
対象の反応及び反応器に関して,
本願発明では,「多管式反応器内で実施されるプロピレンまたはプロパンのアクロレインへの気相酸化反応またはアクロレインまたはプロパンのアクリル酸への気相酸化反応の中から選択される」とされているとともに,該反応器で使用するモノリスについて,「上記多管式反応器の各反応管の寸法に合った単一部品から成り」とされているのに対して,
引用発明では,上記の反応の明記がないとともに,使用するモノリスについては,「多数のセラミック製モノリスを…(単一の)反応槽にモノリスの間に隙間が存在するように無作為に詰め込み」とされている点。

相違点2
セラミックで作られているモノリスに関して,
本願発明では,「互いに平行な複数の流路を有し,この流路の壁が多孔質セラミックで作られている」モノリスとされていて,さらに,「流路の入口の断面が出口の断面と同じかそれ以上である互いに平行な複数の流路を有し,互いに隣り合う2つの流路では流路の一端が交互に塞がれており,流入するガス流は上記流路を互いに分離している多孔質セラミックの壁によって邪魔され且つこの壁を貫通して流れる」とされているのに対して,引用発明のモノリスはそのような特定がない点。

相違点の検討
相違点1
気体中の粒子状物質をモノリスにより除去する,という引用発明の技術思想については,引用発明における単一(単管)の反応槽に止まらず,気相の触媒反応であれば,この分野で広く採用されている多管式反応器に対しても同様に適用され得ることは,当業者にとって容易に理解されるところである。
そして,引用例1には,「そのような触媒床プロセス装置には水素添加処理装置(hydrotreater),水素添加精製装置(hydrorefiner),水素添加分解装置,改質装置,アルキル置換反応槽,脱アルキル反応槽,異性化反応槽,酸化反応槽,エステル化反応槽および重合反応槽が含まれ得る。前記個々別々の固定状触媒粒子は1個以上の固定床の中に上昇流,下降流または放射状流デザインのいずれかで入っている可能性がある。」(【0016】摘示(イ))との記載があり,ここで記載された反応のうちの酸化反応について,これの一例である気相触媒酸化反応を,以下に例示するように,多管式反応器を用いて行なうことは一般的な技術的事項である。
[参考1]特開平5-194467号公報(例えば,【0001】など参照。)
[参考2]特表2004-506706号公報(例えば,【0001】など参照。)
[参考3]特開2005-298376号公報(例えば,【0001】及び【0030】など参照。)
[参考4]特開2005-325043号公報(例えば,【0002】など参照。)
そして,例えば,上記参考3及び4に記載されているように,「プロピレンまたはプロパンのアクロレインへの気相酸化反応」または「アクロレインまたはプロパンのアクリル酸への気相酸化反応」は,気相酸化触媒反応として周知の反応の一つである。
したがって,引用発明について,気相触媒酸化反応を多管式の反応器を用いて行うことは,当業者が容易に想到することといえる。
さらに,引用例1には,「本発明は,また,有利には,プロセス装置の中で垂直流れ分配を起こさせる方法も提供する。本垂直流れ分配方法は,1個以上の網状要素を当該プロセス装置の中に供給することを包含する。用いる網状要素が1個のみの場合には,典型的に,それの大きさが有効に当該プロセス装置の全長に及ぶようにする。」(【0018】摘示(イ))及び「本垂直流れ分配方法は,1個以上の網状要素を当該プロセス装置の中に供給することを包含する。用いる網状要素が1個のみの場合には,典型的に,それの大きさをそれが有効に当該プロセス装置の全長に及ぶに充分な大きさにする。」(【0050】摘示(オ))と記載されていることから,多数のモノリス(網状要素)の代わりに単一のモノリス(網状要素)を反応管の管径に応じたものとして使用することが示唆されているので,多管式反応管の各反応管の寸法に合った単一のモノリスを使用することも,当業者が容易に想到することといえる。
よって,引用発明の「気体流れの中の粒子をモノリスにより除去する」酸化反応を,「多管式反応器内で実施されるプロピレンまたはプロパンのアクロレインへの気相酸化反応」または「アクロレインまたはプロパンのアクリル酸への気相酸化反応」とし,その際にモノリスを「上記多管式反応器の各反応管の寸法に合った単一部品」とすることは,当業者が容易になし得るというべきものである。

相違点2
一般に,「モノリス」とは,典型的にはディーゼルエンジンの排気ガスから粒子状物質などを除去する際に使用されるフィルターであって,本願優先日当時,当業者においてその形状からハニカム又はハニカムモノリスなどとも呼ばれていたものである。(例えば,特表2005-514551号公報の【0064】及び特表2009-515680号公報(=WO2007/058867)の【0060】等参照。)
ところで,そのようなモノリス(ハニカム)の一類型として,例えば,引用例2に記載のような,「多数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設された一の多孔質セラミックからなる柱状のハニカム構造体」(【0031】摘示(キ)及び【図1】摘示(ク))であって,「各貫通孔は,排気ガスの入口側又は出口側のいずれかが,封止材12により目封じされ,一の貫通孔11に流入した排気ガスは,必ず,貫通孔11を隔てる壁部13を通過した後,他の貫通孔11から排出されるようになっているモノリス」(【0037】摘示(キ)及び【図1】(b)摘示(ク))は知られていたものである。
そして,引用発明も,気体流れの中の粒子を除去するためにモノリスを使用しているものであるから,引用発明におけるモノリスとして,引用例2のモノリス(ハニカム)を適用すること,つまり,「互いに平行な複数の流路を有し,この流路の壁が多孔質セラミックで作られている」モノリスとし,さらに,「流路の入口の断面が出口の断面と同じかそれ以上である互いに平行な複数の流路を有し,互いに隣り合う2つの流路では流路の一端が交互に塞がれており,流入するガス流は上記流路を互いに分離している多孔質セラミックの壁によって邪魔され且つこの壁を貫通して流れる」ようにすることは,当業者が容易になし得るというべきものである。

本願発明の効果について
例えば,反応器内の圧力降下が小さいといった効果については,引用例1の実施例(【0029】乃至【0056】)にも記載されているものであることから,本願発明により当業者が予期し得ない格別の効果が奏されたものとすることができない。

7.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1及び2に記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,本願は拒絶をすべきものであるから,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-16 
結審通知日 2015-09-24 
審決日 2015-10-06 
出願番号 特願2010-517460(P2010-517460)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知谷水 浩一  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 豊永 茂弘
日比野 隆治
発明の名称 触媒の不活性化を制限するための粒子フィルタの使用  
代理人 越場 隆  

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