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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G04B
管理番号 1311350
審判番号 不服2015-694  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-14 
確定日 2016-02-17 
事件の表示 特願2013- 27497「金属嵌め込み細工を確実に固定する素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月29日出願公開、特開2013-167628〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・原査定の拒絶の理由

特許出願: 平成25年2月15日
(パリ条約による優先権主張2012年2月15日、EP)
拒絶査定: 平成26年9月25日付け(送達日:同年同月30日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成27年1月14日
手続補正: 平成27年1月14日 (以下、「本件補正」という。)

そして、原査定の拒絶の理由は、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし25に係る発明は、本願の優先権主張の基礎となる出願の出願日前に国内又は外国において頒布された刊行物である特開2011-230506号公報(発明の名称:少なくとも1つの金属装飾が嵌め込まれたセラミック要素、出願人:オメガ・エス アー、以下「引用例1」という。)、及び米国特許出願公開第2011/0236580号明細書(発明の名称:THREE DIMENSIONAL DECORATION METHOD、譲受人:The Swatch Group Research and Development Ltd.、以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


第2 本願発明
本件補正により、補正前の請求項1ないし13が削除され、補正前の請求項14を引用する請求項15をさらに引用する請求項23が新たな請求項1とされており、この補正は請求項の削除を目的とするものであるといえる。
そして、本願の請求項1ないし10に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「嵌め込み素子(10)を作製するための方法(21)であって、
a)本体(11,18,18’)を形成するステップと、
b)前記本体(11,18,18’)の1つの表面(F)における少なくとも1つの凹部(12)をエッチングするステップであって、少なくとも1つの凹部の各々が装飾物(13)のためのパターン空洞を形成する、ステップと、
c)固定装置を形成するために、前記本体(11,18,18’)を貫通し、かつ、前記少なくとも1つの凹部(12)と連通する少なくとも1つの穴(14)をエッチングするステップと、
d)前記少なくとも1つの凹部を完全に充填し、かつ前記少なくとも1つの穴を少なくとも部分的に充填するために、金属材料をガルバニ堆積するステップと、
e)前記本体(11,18,18’)の表面から全てのガルバニ堆積物(16)を除去するステップであって、その結果、前記ガルバニ堆積物が、前記少なくとも1つの凹部および前記少なくとも1つの穴の中空部においてのみ残される、ステップと、
を有し、
前記素子に対して前記ガルバニ堆積物(16)を保持するために、前記少なくとも1つの穴(14)の直径が、前記少なくとも1つの凹部(12)から遠ざかるにつれて、フレア状に徐々に広がり、
前記ステップc)が、前記少なくとも1つの凹部(12)を受け入れるように意図された表面(F)と対向する表面(P)からビームの方向を合わせることでレーザによって達成されることを特徴とする、
方法。」(以下「本願発明」という。)


第3 引用例記載の事項・引用発明
1 引用例1
引用例1には、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。(下線は当審が付した。以下同様。)

(a)
「【0001】
本発明は少なくとも1つの金属装飾の埋め込み(象嵌)を施されたセラミック要素に関し、より具体的には、時計に装着されることを意図されるこの種の要素に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば目盛またはブランド名を形成するベゼルの下の凹部内にめっきされる被覆物を透明性によって表示するために、少なくとも部分的に人工サファイアで作られる腕時計ベゼルを構成することが知られている。この構成には、被覆物の全体をサファイア部品で覆うことによって被覆物をいかなる機械的劣化からも保護することができるという利点がある。しかし、この構成では、被覆物の透過する色彩効果が弱まることに加えてサファイアと被覆物との間に色の違いがないことにより、装飾を読むことが困難である場合がある。」

(b)
「【0004】
したがって、本発明は象嵌を施されたセラミック要素を製造する方法に関し、この方法は、
a)セラミック素地を形成するステップと;
b)装飾用のパターンをそれぞれ形成する少なくとも1つの凹部をセラミック素地の一表面にエッチングするステップと;
c)上記少なくとも1つの凹部を含む表面全体を覆うように約50nmの第1の層を付着させるステップと;
d)第1の層を覆うために、上記少なくとも1つの凹部を含む表面全体を覆うように約50nmの第2の電気伝導層を付着させるステップと;
e)上記少なくとも1つの凹部を完全に充填するために第2の導電層から金属材料またはその合金の電着(galvanic deposition) をするステップと;
f)上記少なくとも1つの凹部の窪みを除いてセラミック素地の表面からすべての被覆物を除去するステップと
を含む。」

(c)
「【0019】
次に、象嵌を施されたセラミック要素10を製造する方法21を図3から9を参照して説明する。図9に示される第1のステップ22では、方法21は例えばジルコニアのセラミック素地11を形成する。図3から図4への変化で部分的に示されるように、ステップ22の最終的なセラミック素地11は、好適には、注入処理を介して実施される焼結により、すなわち未焼結または未焼成の素地17から得られる。ステップ22の終了時では、図4に見られる素地11は最終的な寸法を有する。
【0020】
図9に示すように、方法21は、セラミック素地11の一方の面Fにおいて、隠れていてよい少なくとも1つの凹部12をエッチングするための第2のステップ23を含み、凹部12は図5に見られるようにその後の装飾13のためのパターンを形成する。好適には、各凹部12は100μmの最小深さPを有する。また、好適には、各凹部12は、後で説明する電着ステップ27の実施を促進するために少なくとも部分的に丸みがつけられた表面Rを有する。ステップ23は、好適には、非常に正確な食刻を実現するために、レーザを使用した破壊的な放射線によって達成される。」

(d)
「【0026】
方法21は、図7に見られるように各凹部12を完全に充填するために導電層15から金属材料16を電着させる第5のステップ27で継続される。好適には、電解質的の変化
は、凹部12のいかなる充填問題も防止するために、攪拌することによりすなわち電気浴の流体を強制的に流動させることにより引き起こされる。
【0027】
上で説明したように、色、より一般的には所望される視覚的表現に応じて、ステップ27で析出される金属材料は金および/または銅および/または銀および/またはインジウムおよび/または白金および/またはパラジウムおよび/またはニッケルを含む。
【0028】
最後に、方法21は、第6のステップ28において、図2および8に見られるように、各凹部12を除いてセラミック素地11の表面Fから被覆物14、15および16を除去することで終了する。象嵌をされたセラミック要素10はこのようにして仕上げられることから、最後は単に組み合わせられるだけでよい。このステップ28は、余分な材料をすべて除去するための研削またはラッピングなどの通常の表面仕上げ手法とその後の研磨とによって達成され得る。」

上記記載(a)ないし(d)、及び図面の第1?9図の記載から、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「金属装飾の埋め込み(象嵌)を施されたセラミック要素を製造する方法であって、
a)セラミック素地を形成するステップと、
b)セラミック素地の一表面に、装飾用のパターンをそれぞれ形成する少なくとも1つの凹部をエッチングするステップと、
c)上記少なくとも1つの凹部を完全に充填するために、金属材料またはその合金の電着(galvanic deposition) をするステップと、
d)上記少なくとも1つの凹部の窪みを除いてセラミック素地の表面からすべての被覆物を除去するステップと、
を有し、
前記ステップb)が、レーザを使用して達成されることを特徴とする、
方法。」(以下「引用発明1」という。)

2 引用例2
引用例2には、次の事項(a)ないし(c)が図面とともに記載されている。なお、引用例2の出願とパテントファミリーの関係にある出願の公表特許公報(特表2012-512385号公報)の対応する記載をそれぞれかっこ内に記載する。

(a)
「BACKGROUND OF THE INVENTION
[0001] Methods of making decorations as raised portions on a base or substrate such as a watch dial or a bezel are known from the prior art. These methods consist in manufacturing the decorations and the base separately and then securing them to each other.」
(【背景技術】
【0002】
時計の文字板またはベゼルなどのベースまたは基板上に隆起部分の装飾を作製する方法が、従来技術から知られている。これら従来の方法によれば、装飾とベースとを別個に製造したあとに、これらを互いに取り付けることにある。)

(b)
「[0052] In a second variant, the mould formed by dial 1 and mask 4 is filled by galvanoplasty. This technique is used to make metal decorations 5 . To achieve this, a bath including suitable metal ion salts is used. As with the hot forming method, mask 4 is placed on dial 1 so as to form a mould whose bottom is made electrically conductive. The conductive parts of dial 1 are then connected to an electrode and the whole assembly is then dipped into said bath. Using a counter-electrode, an electrical current is then sent so as to achieve galvanoplastic electrolysis. This galvanoplasty produces a migration of the metal ions of the bath to the conductive parts of dial 1 so as to form decorations 5 . Of course, those skilled in the art of galvanoplasty will adapt the parameters depending upon the material and thickness of decorations 5 , without requiring any explanation thereof in the present invention.」
(【0036】
第2の変形形態では、文字板1およびマスク4によって形成された金型は、電気めっき法によって充填される。この技術は、金属装飾5を作製するために使用される。これを達成するために、適切な金属イオン塩を含む浴が使用される。熱間成形法と同様に、マスク4は、導電性にされた底部を有する金型を形成するように文字板1上に置かれる。文字板1の導電部分は、次いで、電極に接続され、次いでこの組立体全体は、前記浴内に浸される。次いで、電気めっき法の電気分解を実現するために、対電極を用いて電流が送られる。この電気めっき法は、装飾5を形成するために、文字板1の導電部分への浴の金属イオンの泳動を生成する。当然ながら、電気めっき法の当業者は、装飾5の材料および厚さに応じたパラメータを、本発明においてその説明を必要とすることなく適合させるはずである。)

(c)
「[0056]In a second embodiment shown in FIGS. 2 a to 2 e, step a) consists in making dial 11 which will be decorated. However, this embodiment differs in that cavities 6 are present on the top surface 12 of dial 11 . These cavities 6 are made at the places where decorations 5 are to be made. Preferably, cavities 6 have a smaller section than that of decorations 5 . They are intended to form anchoring means 7 for better securing decorations 5 .
[0057]The securing of anchoring means 7 may be more or less important depending upon the inclination of walls 6 a of cavities 6 relative to a vertical plane. Thus, the walls of cavities 6 may belong to said vertical plane or be inclined relative to said plane. Anchoring means 7 in cavity 6 will be of better quality if the inclination of walls 6 a of cavity 6 produces a section that increases towards the bottom surface 13 of dial 11 . Indeed, the opposite situation does not provide good anchoring efficiency.
[0058]Step b) consists in placing mask 4 on dial 11 but by ensuring that cavities 6 and the openings in mask 2 communicate with each other in order to form a mould.
[0059]In step c), said mould is filled so as to form said decorations 5 but also anchoring means 7 . This anchoring means 7 includes a part 8 formed in cavity 6 . This part 8 is formed of the material deposited in step c) and therefore forms a single part with the decoration 5 associated therewith. The shapes of walls 6 a of cavities 6 thus improve the anchoring of decorations 5 .
[0060]Steps d) and e) of this second embodiment are identical in every way to steps d) and e) of the first embodiment. Thus a dial 11 is obtained with a top surface 12 including decorations 5 provided with part 8 .
[0061]In a third embodiment shown in FIGS. 3 a to 3 e, step a) consists in making the dial 21 which is to be decorated. However, this embodiment differs in that there are cavities 6 on the top surface 22 of dial 21 and holes 6’ on the bottom part 23 of dial 21 . These cavities 6 and holes 6’ communicate with each other to form an opening.
[0062]Preferably, the section of holes 6’ will be larger than the section of cavities 6 . Likewise, the depth of cavities 6 will preferably be larger than that of holes 6’. The section of the space formed by cavity 6 and hole 6’ may also vary in a uniform manner or hole 6’ may be arranged to form a step relative to the section of cavity 6 .
[0063]Step b) consists, as in the second embodiment, in placing mask 4 on dial 21 ensuring that the openings 4’ in mask 24 communicate with the cavities 6 and incidentally with holes 6’ so as to form a mould. This step b) also consists in placing dial 21 on means 9 for closing one end of said mould substantially at the level of bottom surface 23 .
[0064]Step c) consists in filling each mould, i.e. opening 4’, cavity 6 and hole 6’. Thus, the anchoring means 7 of the third embodiment includes part 8’ formed by cavity 6 and hole 6’. This embodiment is more efficient than the preceding one because the shoulder present between cavity 6 and hole 6’ improves the anchoring of decorations 5 .
[0065]Step d) of this third embodiment is the same as that of the preceding embodiments. Step e) consists in removing mask 4 but also closing means 9 . A dial 21 is thus obtained with a top surface 22 including decorations 5 provided with part 8’.」
(【0040】
図2aから2eに示す第2の実施形態では、ステップa)は、装飾される文字板11を作製することにある。しかし、この実施形態は、空洞6が、文字板11の上面12上に存在する点において異なる。これらの空洞6は、装飾5が作製される対象の場所に作製される。好ましくは、空洞6は、装飾5の断面よりも小さい断面を有する。装飾5をより良好に取り付けるための固定手段7を形成するとよい。
【0041】
固定手段7の取り付けは、垂直平面に対する空洞6の壁6aの傾斜に応じて多かれ少なかれ重要になり得る。したがって、空洞6の壁は、前記垂直平面に属しても、前記平面に対して傾斜させてもよい。空洞6内の固定手段7は、空洞6の壁6aの傾斜が、文字板11の底面13に向かって増大する断面を生成すればより良好な品質のものになる。実際、反対の状況は、良好な固定効率を与えない。
【0042】
ステップb)は、空洞6およびマスク2内の開口部が、金型を形成するために互いに連通するように形成することによって、マスク4を文字板11上に設けることである。
【0043】
ステップc)では、前記金型は、前記装飾5だけでなく固定手段7も形成するように充填される。この固定手段7は、空洞6内に形成された部分8を含む。この部分8は、ステップc)で堆積された材料から形成され、したがってそれに関連付けられた装飾5と共に単一の部分を形成する。空洞6の壁6aの形状は、こうして装飾5の固定を向上させる。
【0044】
この第2の実施形態のステップd)およびe)は、あらゆる点で第1の実施形態のステップd)およびe)と同一である。したがって、文字板11は、部分8が設けられた装飾5を含む上面12を有する状態で得られる。
【0045】
図3aから3eに示す第3の実施形態では、ステップa)は、装飾される対象である文字板21を作製すること工程である。しかし、この実施形態は、文字板21の上面22上に空洞6および文字板21の底部23上の穴6’が存在する点で異なる。これらの空洞6および穴6’は、互いに連通して開口部を形成する。
【0046】
好ましくは、穴6’の断面は、空洞6の断面より大きい。同様に、空洞6の深さは、好ましくは穴6’の深さより大きい。空洞6および穴6’によって形成された空間の断面はまた、一定の方法で変化してよく、あるいは穴6’は、空洞6の断面に対して段を形成するように配置されてよい。
【0047】
ステップb)は、第2の実施形態のように、金型を形成するために、マスク4内の開口部4’が空洞6および付随して穴6’と連通することを確実にしながら、文字板21上にマスク4を置くことにある。このステップb)はまた、ほぼ底面23の高さのところに前記金型の一方の端部を閉じるための手段9上に文字板21を置くことにある。
【0048】
ステップc)は、各々の金型を、すなわち開口部4’、空洞6および穴6’を充填する工程である。したがって、第3の実施形態の固定手段7は、空洞6および穴6’によって形成された部分8’を含む。この実施形態は、空洞6と穴6’の間に存在するショルダが、装飾5の固定を向上させるので、前述のものより効率的である。
【0049】
この第3の実施形態のステップd)は、前述の実施形態のものと同様である。ステップe)は、マスク4だけでなく閉じる手段9をも除去する工程である。文字板21は、こうして、部分8’が設けられた装飾5を含む上面22を有する状態となる。)

上記記載(a)ないし(c)、及び図面の第2?3図の記載から、時計の文字板またはベゼルなどのベースまたは基板上に装飾を電気めっき法によって作製する方法であって、装飾の固定手段7を、装飾が形成されるマスク2内の開口部に連通するように形成される空洞6、および文字板21の底部23上の穴6’によって形成する方法が読み取れる。

したがって、引用例2には、次の発明が記載されていると認められる。

「時計の文字板またはベゼルなどのベースまたは基板上に装飾を電気めっき法によって作製する方法であって、
装飾の固定手段を形成するために、文字板などの底部まで連通し、かつ、装飾が形成される開口部に連通する空洞及び穴を形成する工程と、
電気めっき法によって前記開口部、空洞及び穴を充填する工程と、
を有し、
空洞の壁の傾斜が、底面に向かって増大する断面を生成することにより良好な固定効率を与えることを特徴とする方法。」(以下「引用発明2」という。)


第4 対比
本願発明と引用発明1とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。

まず、引用発明1における「金属装飾の埋め込み(象嵌)を施されたセラミック要素を製造する方法」は、本願発明における「嵌め込み素子(10)を作製するための方法(21)」に相当し、引用発明1における「セラミック素地を形成するステップ」は、本願発明における「本体(11,18,18’)を形成するステップ」に相当する。
また、引用発明1の「少なくとも1つの凹部」は、「装飾用のパターンをそれぞれ形成する」ものであるから、「少なくとも1つの凹部の各々が装飾物(13)のためのパターン空洞を形成する」ものであるといえる。したがって、引用発明1における「セラミック素地の一表面に、装飾用のパターンをそれぞれ形成する少なくとも1つの凹部をエッチングするステップ」は、本願発明における「前記本体(11,18,18’)の1つの表面(F)における少なくとも1つの凹部(12)をエッチングするステップであって、少なくとも1つの凹部の各々が装飾物(13)のためのパターン空洞を形成する、ステップ」に相当する。
次に、引用発明1の「金属材料またはその合金の電着(galvanic deposition) 」は、本願発明における「金属材料をガルバニ堆積」することに相当するから、引用発明1における「上記少なくとも1つの凹部を完全に充填するために、金属材料またはその合金の電着(galvanic deposition) をするステップ」と、本願発明における「前記少なくとも1つの凹部を完全に充填し、かつ前記少なくとも1つの穴を少なくとも部分的に充填するために、金属材料をガルバニ堆積するステップ」とは、「前記少なくとも1つの凹部を完全に充填するために、金属材料をガルバニ堆積するステップ」である点で共通する。
そして、引用発明1における「上記少なくとも1つの凹部の窪みを除いてセラミック素地の表面からすべての被覆物を除去するステップ」と、本願発明における「前記本体(11,18,18’)の表面から全てのガルバニ堆積物(16)を除去するステップであって、その結果、前記ガルバニ堆積物が、前記少なくとも1つの凹部および前記少なくとも1つの穴の中空部においてのみ残される、ステップ」とは、「前記本体(11,18,18’)の表面から全てのガルバニ堆積物(16)を除去するステップであって、その結果、前記ガルバニ堆積物が、前記少なくとも1つの凹部においてのみ残される、ステップ」である点で共通する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「嵌め込み素子(10)を作製するための方法(21)であって、
a)本体(11,18,18’)を形成するステップと、
b)前記本体(11,18,18’)の1つの表面(F)における少なくとも1つの凹部(12)をエッチングするステップであって、少なくとも1つの凹部の各々が装飾物(13)のためのパターン空洞を形成する、ステップと、
c)前記少なくとも1つの凹部を完全に充填するために、金属材料をガルバニ堆積するステップと、
d)前記本体(11,18,18’)の表面から全てのガルバニ堆積物(16)を除去するステップであって、その結果、前記ガルバニ堆積物が、前記少なくとも1つの凹部においてのみ残される、ステップと、
を有することを特徴とする、
方法。」

(相違点)
相違点1
本願発明は「固定装置を形成するために、前記本体(11,18,18’)を貫通し、かつ、前記少なくとも1つの凹部(12)と連通する少なくとも1つの穴(14)をエッチングするステップ」を有しており、それに伴って、「金属材料をガルバニ堆積するステップ」が、「少なくとも1つの穴を少なくとも部分的に充填するため」とされ、また「ガルバニ堆積物(16)を除去するステップ」が、「ガルバニ堆積物が、・・・前記少なくとも1つの穴の中空部においてのみ残される」とされているのに対し、引用発明1においては凹部と連通する穴を設けるステップを有しておらず、したがって、それに伴う構成も有していない点。

相違点2
本願発明においては、「前記素子に対して前記ガルバニ堆積物(16)を保持するために、前記少なくとも1つの穴(14)の直径が、前記少なくとも1つの凹部(12)から遠ざかるにつれて、フレア状に徐々に広がり」とされているのに対し、引用発明1にはそのような穴及び穴の形状について特定がない点。

相違点3
本願発明においては、穴(14)をエッチングするステップが、「前記少なくとも1つの凹部(12)を受け入れるように意図された表面(F)と対向する表面(P)からビームの方向を合わせることでレーザによって達成されることを特徴とする」とされているのに対し、引用発明1には連通穴を設けるためのそのような工程がない点。


第5 判断
上記相違点について検討する。

1 相違点1について
上記引用発明2は、時計のベゼルなどに装飾を電気めっき(電着)によって作製する方法である点で引用発明1と共通するものである。一方、引用発明1の装飾は埋め込み装飾であり、引用発明2の装飾は隆起したものである点で両者は相違するが、いずれの装飾についても、より確実な固定方法が必要とされるという課題を共有するものであることは明らかであるから、引用発明2における装飾の固定手段の形成方法を引用発明1に採用することに関し、特段の困難性は認められない。
したがって、引用発明1に対して、装飾から底部までを貫通する穴を設け、電気めっき(ガルバニ堆積)により穴を充填するステップを設けて相違点1に係る構成となす程度のことは、当業者が容易になし得たものである。
なお、穴に充填された部材が引用発明1の「 d)上記少なくとも1つの凹部の窪みを除いてセラミック素地の表面からすべての被覆物を除去するステップ」により除去されないことは明らかである。

2 相違点2について
引用発明2の空洞の壁は、底面13に向かって増大する断面を生成することにより良好な固定効率を与えるものであり、相違点2に係る構成に相当する。

3 相違点3について
引用発明2においては、空洞及び穴を形成する手法は明示されてはいないが、引用発明1において凹部のエッチングにレーザが使用されており、凹部と連通する穴の形成にレーザを採用することに何らの困難性も認められない。また、そもそもフレア状(テーパー状)に穴開け加工を行う手段としてレーザの使用は周知慣用なものに過ぎない(必要であれば、レーザを用いた穴開け加工の周知例として、特開2010-120051号公報(特に段落【0018】?【0020】)を参照されたい。)。
また、上記周知例においても行われているように、フレア状(テーパー状)の穴開け加工に際してレーザを穴径の大きな方から照射することは、加工の容易性やレーザによる加工形状特性などを考慮すれば、当業者が通常選択すべき事項に過ぎないといえる。

また、引用発明1に引用発明2を採用することにより、新たな作用効果が奏されるものでもない。


第6 むすび
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-02 
結審通知日 2015-09-15 
審決日 2015-09-30 
出願番号 特願2013-27497(P2013-27497)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三笠 雄司  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 中塚 直樹
清水 稔
発明の名称 金属嵌め込み細工を確実に固定する素子  
代理人 山川 茂樹  
代理人 小池 勇三  
代理人 山川 政樹  

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