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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1311396
審判番号 不服2014-24643  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-02 
確定日 2016-02-18 
事件の表示 特願2009-283198「フォトマスクブランク及びフォトマスクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日出願公開、特開2011-123426〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成21年12月14日の出願であって、平成25年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年11月18日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、平成26年5月15日付けで最後の拒絶理由通知が通知され、同年7月17日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、同年8月29日に平成26年7月17日付けの手続補正についての補正が却下されると共に拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成26年12月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成26年12月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成25年11月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「【請求項1】
フッ素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能な、クロム酸化物、クロム窒化物もしくはクロム酸窒化物を主成分とする金属化合物膜又はクロムを主成分とする金属膜もしくは合金膜からなる第1の膜の上に、
フッ素系ドライエッチング且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能なクロムを含まず、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムおよびニオブのうちから選択された遷移金属を含む第2の膜が積層されてなる構成であり、
前記遷移金属の含有量は、遷移金属と珪素との合計に対し10原子%以上であることを特徴とするフォトマスクブランク。」が、

「【請求項1】
酸素含有塩素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つフッ素系ドライエッチングでエッチング可能な第1の膜と、
前記第1の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能な、クロム酸化物、クロム窒化物もしくはクロム酸窒化物を主成分とする金属化合物膜又はクロムを主成分とする金属膜もしくは合金膜からなる第2の膜と、
前記第2の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチング且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能なクロムを含まず、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムおよびニオブのうちから選択された遷移金属を含む第3の膜と、が積層されてなる構成であり、
前記遷移金属の含有量は、遷移金属と珪素との合計に対し10原子%以上であり、
前記第1の膜または前記第2の膜のどちらか一方が遮光膜であり、
前記第1の膜を遮光膜とする場合、前記第1の膜は、複数の異なる組成の珪素系化合物の膜が積層される構造であり、
前記第2の膜を遮光膜とする場合、前記第2の膜は、複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造であり、前記第1の膜は、珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたものからなる
ことを特徴とするフォトマスクブランク。」と補正された。(下線部は補正箇所を示す。)

そして、特許請求の範囲の請求項1についての上記補正は、
フォトマスクブランクの構成として、「酸素含有塩素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つフッ素系ドライエッチングでエッチング可能な第1の膜」を付加すると共に、上記付加に伴い補正前の「第1の膜」及び「第2の膜」をそれぞれ、「第2の膜」と「第3の膜」に繰り下げる補正事項、
「第1の膜」と「第2の膜」の配置関係について、「第2の膜」が「第1の膜上に形成され」ることを特定する補正事項、
「前記第1の膜または前記第2の膜」について、「どちらか一方が遮光膜であ」ることを特定する補正事項、
「第1の膜を遮光膜とする場合」について、第1の膜の構造を「複数の異なる組成の珪素系化合物の膜が積層される構造」に特定する補正事項
「第2の膜を遮光膜とする場合」について、第2の膜の構造を「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造」に特定すると共に、第1の膜の構造を「珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたもの」に特定する補正事項
からなるものであり、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含む。


2 独立特許要件違反についての検討

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。

(1) 本願補正発明
本願補正発明は、平成26年12月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2) 引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-265620号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。)

(ア) 「【0001】
本発明は、半導体デバイスや表示デバイス(表示パネル)等の製造において使用される位相シフトマスクブランク及び位相シフトマスクの製造方法に関する。」

(イ) 「【0015】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る位相シフトマスクブランク11の一例を示す。本例において、位相シフトマスクブランク11は、位相シフトマスクブランクであり、透明基板1、位相シフト膜5、遮光性膜2、エッチングマスク膜3、レジスト膜4をこの順で備える。
位相シフト膜5としては、例えば、珪素を含む珪素含有膜を用いることができる。珪素含有膜としては、珪素膜や、珪素とクロム、タンタル、モリブデン、チタン、ハフニウム、タングステンの金属を含む金属シリサイド膜、さらに、珪素膜や金属シリサイド膜に、酸素、窒素、炭素の少なくとも一つを含む膜が挙げられる。位相シフト膜5としては、例えば、遷移金属シリサイド酸化物、遷移金属シリサイド窒化物、遷移金属シリサイド酸窒化物、遷移金属シリサイド酸化炭化物、遷移金属シリサイド窒化炭化物又は遷移金属シリサイド酸窒化炭化物を主成分とする膜を用いることができる。位相シフト膜5としては、例えば、モリブデン系(MoSiON、MoSiN、MoSiO等)、タングステン系(WSiON、WSiN、WSiO等)、シリコン系(SiN、SiON等)などのハーフトーン膜を用いることができる。
位相シフト膜5としては、例えば、主に露光光の位相を制御する位相調整層と、主に露光光の透過率を制御する機能を有すると透過率調整層との2層からなるハーフトーン膜を用いることができる(特開2003-322947号公報参照)。ここで、透過率調整層の材料としては、金属及びシリコンのうちから選ばれる一種又は二種以上からなる膜、あるいはそれらの酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物等を用いることができ、具体的には、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ランタン、タンタル、タングステン、シリコン、ハフニウムから選ばれる一種又は二種以上の材料からなる膜あるいはこれらの窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物なとが挙げられる。また、位相調整層としては、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素など珪素を母体とした薄膜が紫外領域での露光光に対して、比較的高い透過率を得やすいという点から好ましい。
【0016】
エッチングマスク膜3としては、例えば、珪素を含む珪素含有膜を用いることができる。珪素含有膜としては、珪素膜や、珪素とクロム、タンタル、モリブデン、チタン、ハフニウム、タングステンの金属を含む金属シリサイド膜、さらに、珪素膜や金属シリサイド膜に、酸素、窒素、炭素の少なくとも一つを含む膜が挙げられる。エッチングマスク膜3としては、例えば、遷移金属シリサイド酸化物、遷移金属シリサイド窒化物、遷移金属シリサイド酸窒化物、遷移金属シリサイド酸化炭化物、遷移金属シリサイド窒化炭化物又は遷移金属シリサイド酸窒化炭化物を主成分とする膜を用いることができる。エッチングマスク膜3としては、例えば、モリブデン系(MoSiON、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiCN、MoSiCON等)、タングステン系(WSiON、WSiN、WSiO等)、シリコン系(SiN、SiON等)などの膜を用いることができる。エッチングマスク膜3は、例えば、位相シフト膜5がMoSiNである場合、エッチングマスク膜3は、MoSiN、MoSiON、SiONであることが好ましい。
【0017】
遮光性膜2としては、位相シフト膜のエッチングに対して耐性を有する材料とすることができる。例えば、金属を含む金属膜を用いることができる。金属を含む金属膜としては、クロム、タンタル、モリブデン、チタン、ハフニウム、タングステンや、これらの元素を含む合金、又は上記元素や上記合金を含む材料(例えば、上記元素や上記合金を含む材料に加え、酸素、窒素、珪素、炭素の少なくとも一つを含む膜)からなる膜が挙げられる。
遮光性膜2としては、例えば、クロム単体や、クロムに酸素、窒素、炭素、水素からなる元素を少なくとも1種を含むもの(Crを含む材料)、などの材料を用いることができる。遮光性膜の膜構造としては、上記膜材料からなる単層、複数層構造とすることができる。また、異なる組成においては、段階的に形成した複数層構造や、連続的に組成が変化した膜構造とすることができる。
具体的な遮光性膜2は、窒化クロム膜(CrN膜)及び炭化クロム膜(CrC膜)からなる遮光層と、クロムに酸素及び窒素が含有されている膜(CrON膜)からなる反射防止層との積層膜である。窒化クロム膜は、窒化クロム(CrN)を主成分とする層であり、例えば10?20nmの膜厚を有する。炭化クロム膜は、炭化クロム(CrC)を主成分とする層であり、例えば25?60nmの膜厚を有する。クロムに酸素及び窒素が含有されている膜(CrON膜)は、例えば15?30nmの膜厚を有する。
【0018】
本発明において、上述した課題の解決方法としては、エッチングマスク膜及び遮光膜をマスクとしてハーフトーン膜をエッチングする際のローディング効果を小さくするために、エッチングマスク膜のエッチングタイム(膜が消失するまでに要する時間、以下同様)を、ハーフトーン膜のエッチングタイムと比べて、同じに、又は遅く、なるようにエッチングマスク膜を設計することが挙げられる。詳細は、位相シフト膜であるハーフトーン膜の膜厚をt_(1)、位相シフト膜を、エッチングマスク膜及び遮光膜をマスクとしてエッチャントによりドライエッチングされるエッチング速度をv_(1)、エッチングマスク膜の膜厚をt_(2)、エッチングマスク膜がエッチャントによりドライエッチングされるエッチング速度をv_(2)としたときに、(t_(1)/v_(1))≦(t_(2)/v_(2))となるように設計する。なお、ハーフトーン膜のエッチング後にエッチングマスク膜が残存すると、エッチングマスク膜を除去する工程が発生するので、(t_(1)/v_(1))=(t_(2)/v_(2))となるように設計するとより好ましい。また、ハーフトーン膜のエッチング後、遮光膜をエッチングする際のエッチングガスを用いて物理的エッチングで除去可能な程度の膜厚でエッチングマスク膜が残存するように設計してもよい。
エッチングマスク膜のエッチングタイムの制御は、エッチングマスク膜の組成および膜厚により制御することが可能である。エッチングマスク膜のエッチングタイムは、(エッチングマスク膜の膜厚t_(1))/(エッチングマスク膜の速度v_(1))で定義される。
ここで、半導体デザインルール DRAMハーフピッチhp45nm以降の世代で使用される位相シフトマスクブランクにおけるエッチングマスク膜の膜厚については、マスク加工上5?40nmが好ましい。また、半導体デザインルール DRAMハーフピッチhp45nm以降の世代で使用される位相シフトマスクブランクにおけるハーフトーン膜の膜厚は、所望の位相差(例えば、175度?185度)となるような膜厚である必要があるが100nm以下(例えば70nm)が好ましい。以上の点などを考慮し、半導体デザインルール DRAMハーフピッチhp45nm以降の世代で使用される位相シフトマスクブランクにおける、エッチングマスク膜に要求されるエッチング速度は、ハーフトーン膜のエッチング速度を1とした場合、0.07?0.5倍遅くすることが好ましい。
エッチングマスク膜のエッチング速度を制御する方法の1つとして、エッチングマスク膜の組成を制御する方法が挙げられる。 エッチングマスク膜はMoSiN、MoSiON、およびSiONの材料から選択して構成することができ、ハーフトーン膜はMoSiN、MoSiONの材料から選択して構成することができる。このとき、エッチングマスク膜がMoSiN、ハーフトーン膜がMoSiNの場合においては、互いに同じ材料で構成されているので、MoSiN膜のエッチング速度は、Nの含有率よりも、MoとSiの含有比率に依存する。エッチングマスク膜のエッチング速度をハーフトーン膜よりも遅くするには、Moの含有量を高くすることでなされる。
例えば、ハーフトーン膜のMoとSi比率(Mo:Si=1:9)に対して、エッチングマスク膜のMoとSi比率(Mo:Si=4:5?9:1)とし、エッチングマスク膜の膜厚を、Mo:Si=4:5のとき40nm(ハーフトーン膜のエッチング速度に対するエッチング速度比:約0.5倍) ? Mo:Si=9:1のとき5nm(ハーフトーン膜のエッチング速度に対するエッチング速度比:エッチング速度:約0.07倍)とすることで、エッチングマスク膜のエッチングタイムをハーフトーン膜のエッチングタイムに合わせる(一致させる)ことが可能となる。この条件に基づいて、エッチングマスク膜の組成および膜厚を制御することにより、半導体デザインルール DRAMハーフピッチhp45nm以降の世代で使用される位相シフトマスクブランクにおけるエッチングマスク膜に要求させる膜厚5?40nm範囲又はこれに近い範囲で、エッチングマスク膜のエッチングタイムをハーフトーン膜のエッチングタイムよりも遅らせることが可能である。なお、さらなる微細パターンに対応する場合にはエッチングマスク膜の膜厚を20nm以下とすることが好ましく、このときのエッチングマスク膜のハーフトーン膜のエッチング速度に対するエッチング速度比の上限は、約0.25倍とするとよい。
一方、SiONのエッチングマスク膜のエッチング速度についても、その組成比で制御することが可能となる。SiONのエッチング速度を低下させるには、Nの含有量を減らし、Oの含有量を増加させることでなされる。ハーフトーン膜のMoとSi比率(Mo:Si=1:9)に対して、エッチングマスク膜のSiとOとNの比率(Si:O:N=35:45:20)にすることで、エッチングマスク膜のエッチングタイムをハーフトーン膜のエッチングタイムに合わせる(一致させる)ことが可能となる。
尚、ハーフトーン膜の組成比及び膜厚は、ハーフトーン膜の光学特性(使用する露光光に対する位相シフト量、透過率)を優先して決定される。
【0019】
本発明において、位相シフトマスクブランクには、レジスト膜付き位相シフトマスクブランク、レジスト膜形成前の位相シフトマスクブランクが含まれる。位相シフトマスクブランクには、ハーフトーン膜上にクロム系材料等の遮光性膜が形成される場合を含む。位相シフトマスクには、位相シフタが基板の彫り込みによって形成される場合を含む。
【0020】
本発明において、基板としては、合成石英基板、ソーダライムガラス基板、無アルカリガラス基板、低熱膨張ガラス基板などが挙げられる。
【0021】
本発明において、遮光膜であるクロム系薄膜のドライエッチングには、塩素系ガス、又は、塩素系ガスと酸素ガスとを含む混合ガスからなるドライエッチングガスを用いることが好ましい。この理由は、クロムと酸素、窒素等の元素とを含む材料からなるクロム系薄膜に対しては、上記のドライエッチングガスを用いてドライエッチングを行うことにより、ドライエッチング速度を高めることができ、ドライエッチング時間の短縮化を図ることができ、断面形状の良好な遮光性膜パターンを形成することができるからである。ドライエッチングガスに用いる塩素系ガスとしては、例えば、Cl_(2)、SiCl_(4)、HCl、CCl_(4)、CHCl_(3)等が挙げられる。
【0022】
本発明において、エッチングマスク膜(ハードマスク膜)や、位相シフト膜(ハーフトーン膜)である珪素を含む珪素含有膜や、金属シリサイド系薄膜、のドライエッチングには、例えば、SF_(6)、CF_(4)、C_(2)F_(6)、CHF_(3)等の弗素系ガス、これらとHe、H_(2)、N_(2)、Ar、C_(2)H_(4)、O_(2)等の混合ガス、或いはCl_(2)、CH_(2)Cl_(2)等の塩素系のガス又は、これらとHe、H_(2)、N_(2)、Ar、C_(2)H_(4)等の混合ガスを用いることができる。」

(ウ) 「【0023】
以下、本発明の実施例及び比較例を示す。
(実施例1及び比較例1、2)
図2を参照して、本発明の実施例1による位相シフトマスクの製造方法について説明する。
まず、石英からなる基板を鏡面研磨し所定の洗浄を施すことにより、6インチ×6インチ×0.25インチの透光性基板1を得た。
次いで、透光性基板1の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=1:9[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚70[nm]のMoSiN系の半透光性の位相シフト膜5を成膜した(図2(a))。
次いで、同一のチャンバ内に複数のクロム(Cr)ターゲットが配置されたインラインスパッタ装置を用いて、位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる遮光性クロム膜2を成膜した(図2(b))。具体的には、まず、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=72:28[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、CrN膜を成膜した。続けて、アルゴン(Ar)とメタン(CH_(4))の混合ガス雰囲気(Ar:CH_(4)=96.5:3.5[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、CrN膜の上に、CrC膜を成膜した。続けて、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)の混合ガス雰囲気(Ar:NO=87.5:12.5[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、CrC膜の上に、CrON膜を成膜した。そして、膜厚67nmの遮光性クロム膜2を得た。以上のCrN膜、CrC膜、及びCrON膜は、インラインスパッタ装置を用いて連続的に成膜されたものであり、これらCrN、CrC、及びCrONを含んでなる遮光性クロム膜2は、その厚み方向に向かって当該成分が連続的に変化して構成されている。
次いで、実施例1においては、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=9:1[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚が5[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜した(図2(c)参照)。
また、比較例1、2においては、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=20:80[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚が5[nm](位相シフト膜エッチング時に位相シフト膜よりも先に消失する膜厚:比較例1)及び膜厚が92[nm](エッチマスク層が厚いためにCD精度の向上が図れない膜厚:比較例2)の各MoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜した(図2(c)参照)。
次いで、無機系エッチングマスク用膜3の上に、ポジ型電子線レジスト4(FEP171:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)をスピンコート法により膜厚が300[nm]となるように塗布した(図2(d)参照)。
以上により、透光性基板1上に、MoSiN系材料からなる半透光性の位相シフト膜5と、Cr系材料からなる遮光性クロム膜2と、MoSiN系材料からなる無機系エッチングマスク用膜3と、レジスト4が順次形成されたハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11(ハーフトーン位相シフトマスクブランク)を準備した(図2(d))。
【0024】
次いで、レジスト4に対し、日本電子社製のJBX9000によって電子線描画し、現像して、図2に示すようなレジストパターン41(0.4μmのライン&スペース)を形成した(図2(e)参照)。
このとき、作成したレジストパターン41は、hp45nmで形成される、局所的にパターンの面積差が生じる箇所(例えばOPCパターン形成箇所)、またマスク面内においてもパターンの疎密差も大きい箇所、を有するパターンとした。
次いで、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成した(図3(f)参照)。
次いで、レジストパターン41を除去した後、無機系エッチングマスクパターン31のみをマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用い、圧力:3mmTorrの条件にて、イオン性を限りなく高めた(=イオンとラジカルがほぼ同等となる程度までイオン性を高めた)ラジカル主体のドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成した(図3(g)参照)。
次いで、無機系エッチングマスクパターン31及び遮光性クロムパターン21をマスクにして、位相シフト膜5を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、位相シフト膜パターン51を形成した(図3(h)参照)。
次いで、ごく薄い膜厚で残存する無機系エッチングマスクパターン31をエッチングCl_(2)ガス等の透光性基板がエッチング耐性を有するエッチングガスを用いた物理的なドライエッチングによって、あるいは前記の弗素系ガスを用いたイオン性のドライエッチングによって剥離し、再度レジストを塗布し、露光・現像によってレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、不要な箇所の遮光性クロムパターン21をエッチングにより除去する。しかる後、所定の洗浄を施して位相シフトマスク10を得た(図3(i)参照)。なお、位相シフト膜パターン51形成後に残存する無機系エッチングマスクパターン31については、膜厚が薄いので遮光性クロムパターン形成のエッチング時に物理的なドライエッチングで剥離するようにしてもよい。
そして、得られた位相シフト膜パターン51の寸法を、ホロン社製CD-SEM(EMU-220)を用いて、局所的にパターンの面積差が生じる箇所(例えばOPCパターン形成箇所)、及び、マスク面内においてもパターンの疎密差も大きい箇所、においてそれぞれ測定した。その結果、実施例1に係る位相シフトマスクでは、各箇所におけるローディング効果の影響を少なくすることができ、hp45nm位相シフトマスクに見られる微細なパターンを高精度に加工することが可能となることを確認した。これに対し、比較例1に係る位相シフトマスクでは、各箇所におけるローディング効果の影響が大きく、hp45nm位相シフトマスクに見られる微細なパターンを高精度に加工することが困難であることを確認した。」

(エ) 「【図1】



(オ) 「【図2】


【図3】




イ 引用例1に記載された発明の認定
a 上記摘記事項(ウ)には、「次いで、透光性基板1の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=1:9[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚70[nm]のMoSiN系の半透光性の位相シフト膜5を成膜した」と記載されており、混合ターゲットのモリブデンとシリコンの原子割合が記載されているのみであって、成膜された位相シフト膜5自体のモリブデンとシリコンの原子割合は記載されていない。
一方、摘記事項(ウ)は、摘記事項(イ)で開示された実施形態の一実施例に関する記載であるところ、摘記事項(イ)には、位相シフト膜(ハーフトーン膜)について、「MoとSi比率(Mo:Si=1:9)」(【0018】)と記載されている。
このことから、上記摘記事項(ウ)における上記記載は、「次いで、透光性基板1の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=1:9[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、MoとSiの原子比率が1:9である膜厚70[nm]のMoSiN系の半透光性の位相シフト膜5を成膜した」との技術的事項が開示されていると認められる。(下線部は強調のため、当審で付した。)

b 上記摘記事項(ウ)には、「次いで、実施例1においては、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=9:1[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、膜厚が5[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜した」と記載されており、混合ターゲットのモリブデンとシリコンの原子割合が記載されているのみであって、成膜された無機系エッチングマスク用膜3自体のモリブデンとシリコンの原子割合は記載されていない。
一方、摘記事項(ウ)は、摘記事項(イ)で開示された実施形態の一実施例に関する記載であるところ、摘記事項(イ)には、エッチングマスクについて、「エッチングマスク膜のMoとSi比率(Mo:Si=4:5?9:1)とし、エッチングマスク膜の膜厚を、Mo:Si=4:5のとき40nm(ハーフトーン膜のエッチング速度に対するエッチング速度比:約0.5倍) ? Mo:Si=9:1のとき5nm(ハーフトーン膜のエッチング速度に対するエッチング速度比:エッチング速度:約0.07倍)とする」と記載されており、エッチングマスク膜のモリブデンとシリコンの原子割合として、Mo:Si=9:1のものが記載されている。
このことから、上記摘記事項(ウ)における上記記載は、「次いで、実施例1においては、遮光性クロム膜2の上に、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=9:1[原子%])を用いて、アルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガス雰囲気(Ar:N_(2)=10:90[体積%]、圧力0.3[Pa])中で、反応性スパッタリングを行うことにより、MoとSiの原子比率が9:1である膜厚が5[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜した」との技術的事項が開示されていると認められる。(下線部は強調のため、当審で付した。)

c 上記摘記事項(ウ)には、「次いで、同一のチャンバ内に複数のクロム(Cr)ターゲットが配置されたインラインスパッタ装置を用いて、位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる遮光性クロム膜2を成膜した」と記載されている。
一方、摘記事項(ウ)は、摘記事項(イ)で開示された実施形態の一実施例に関する記載であるところ、摘記事項(イ)には、「具体的な遮光性膜2は、窒化クロム膜(CrN膜)及び炭化クロム膜(CrC膜)からなる遮光層と、クロムに酸素及び窒素が含有されている膜(CrON膜)からなる反射防止層との積層膜である。」と、積層膜である旨が記載されている。
してみると、上記摘記事項(ウ)における上記記載は、「次いで、同一のチャンバ内に複数のクロム(Cr)ターゲットが配置されたインラインスパッタ装置を用いて、位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる積層膜の遮光性クロム膜2を成膜した」との技術的事項が開示されていると認められる。(下線部は強調のため、当審で付した。)


上記の点も含めて、引用例1の記載事項を総合すると、引用例1には、

「半導体デバイスや表示デバイス(表示パネル)等の製造において使用される位相シフトマスクブランクであって、

まず、透光性基板1を得、
次いで、透光性基板1の上に、MoとSiの原子比率が1:9である膜厚70[nm]のMoSiN系の半透光性の位相シフト膜5を成膜し、
次いで、位相シフト膜5の上にCrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる積層膜の遮光性クロム膜2を成膜し、
次いで、遮光性クロム膜2の上に、MoとSiの原子比率が9:1である膜厚が5[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3を成膜し
次いで、無機系エッチングマスク用膜3の上に、ポジ型電子線レジスト4(FEP171:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を塗布することで準備された、

透光性基板1上に、MoSiN系材料からなる半透光性の位相シフト膜5と、Cr系材料からなる遮光性クロム膜2と、MoSiN系材料からなる無機系エッチングマスク用膜3と、レジスト4が順次形成されたハーフトーン位相シフト型のマスクブランク11(ハーフトーン位相シフトマスクブランク)であって、

レジスト4に対し、日本電子社製のJBX9000によって電子線描画し、現像して、レジストパターン41(0.4μmのライン&スペース)を形成し、
次いで、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成し、
次いで、レジストパターン41を除去した後、無機系エッチングマスクパターン31のみをマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用い、圧力:3mmTorrの条件にて、イオン性を限りなく高めた(=イオンとラジカルがほぼ同等となる程度までイオン性を高めた)ラジカル主体のドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成し、
次いで、無機系エッチングマスクパターン31及び遮光性クロムパターン21をマスクにして、位相シフト膜5を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、位相シフト膜パターン51を形成し、
次いで、ごく薄い膜厚で残存する無機系エッチングマスクパターン31をエッチングCl_(2)ガス等の透光性基板がエッチング耐性を有するエッチングガスを用いた物理的なドライエッチングによって、あるいは前記の弗素系ガスを用いたイオン性のドライエッチングによって剥離し、再度レジストを塗布し、露光・現像によってレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、不要な箇所の遮光性クロムパターン21をエッチングにより除去し、
しかる後、所定の洗浄を施して位相シフトマスク10を得る、
位相シフトマスクブランク。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


ウ 本願補正発明と引用発明との対比

(ア) 対比

ここで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「マスクブランク11」は、本願補正発明の「フォトマスクブランク」に相当する。


b 引用発明において、「レジストパターン41を除去した後、無機系エッチングマスクパターン31のみをマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用い、圧力:3mmTorrの条件にて、イオン性を限りなく高めた(=イオンとラジカルがほぼ同等となる程度までイオン性を高めた)ラジカル主体のドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成し、
次いで、無機系エッチングマスクパターン31及び遮光性クロムパターン21をマスクにして、位相シフト膜5を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、位相シフト膜パターン51を形成し」ている。
このことから、遮光性クロム膜2のエッチングが進行すると、当該遮光性クロム膜2の下層に位置する位相シフト膜5は、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスに接触する環境下にあるが、それにも関わらず、その後にSF_(6)とHeの混合ガスでエッチングを行っている。
してみると、「位相シフト層5」は、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスでは実質的にエッチングされず、SF_(6)とHeの混合ガスでエッチングされているのは明らかである。
そうすると、引用発明の「位相シフト膜5」は、本願補正発明の「酸素含有塩素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つフッ素系ドライエッチングでエッチング可能な第1の膜」に相当する。


c 引用発明の上記「遮光性クロム膜2」は、本願発明の「第1の膜」に相当する「位相シフト膜5の上に」「成膜」されたものでもある。

さらに、引用発明において、「次いで、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成し、
次いで、レジストパターン41を除去した後、無機系エッチングマスクパターン31のみをマスクにして、遮光性クロム膜2を、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスを用い、圧力:3mmTorrの条件にて、イオン性を限りなく高めた(=イオンとラジカルがほぼ同等となる程度までイオン性を高めた)ラジカル主体のドライエッチングを行い、遮光性クロムパターン21を形成し」ている。
このことから、無機系エッチングマスク膜3のエッチングが進行すると、当該無機系エッチングマスク膜3の下層に位置する遮光性クロム膜2は、SF_(6)とHeの混合ガスに接触する環境下にあるが、それにも関わらず、その後にCl_(2)とO_(2)の混合ガスでエッチングを行っている。
してみると、「遮光性クロム膜2」は、SF_(6)とHeの混合ガスでは実質的にエッチングされず、Cl_(2)とO_(2)の混合ガスでエッチングされているのは明らかである。

また、引用発明の「CrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる積層膜」である構成は、本願補正発明の「クロム酸化物、クロム窒化物もしくはクロム酸窒化物を主成分とする金属化合物膜又はクロムを主成分とする金属膜もしくは合金膜からな」り、「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造であ」る構成に相当する。

してみると、引用発明の「位相シフト膜5の上に」「成膜」された、「CrN膜、CrC膜、及びCrON膜からなる積層膜の遮光性クロム膜2」は、本願補正発明の「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造」の「前記第1の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能な、クロム酸化物、クロム窒化物もしくはクロム酸窒化物を主成分とする金属化合物膜又はクロムを主成分とする金属膜もしくは合金膜からなる第2の膜」に相当する。


d 引用発明の「無機系エッチングマスク用膜3」は、本願補正発明の「第2の膜」に相当する「遮光性クロム膜2の上に」「成膜」されたものである。

さらに、引用発明において、「次いで、レジストパターン41をマスクにして、無機系エッチングマスク用膜3を、SF_(6)とHeの混合ガスを用い、圧力:5[mmTorr]の条件にてイオン性主体のドライエッチングを行い、無機系エッチングマスクパターン31を形成し」ている。
このことから、「無機系エッチングマスク用膜3」は、SF_(6)とHeの混合ガスでエッチングされるのは明らかである。

また、引用発明の「MoとSiの原子比率が9:1である膜厚が5[nm]のMoSiN系」である構成は、本願補正発明の「モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムおよびニオブのうちから選択された遷移金属を含む」構成、及び、「遷移金属の含有量は、遷移金属と珪素との合計に対し10原子%以上」である構成に相当する。

そうすると、引用発明の「遮光性クロム膜2の上に」「成膜」された、「MoとSiの原子比率が9:1である膜厚が5[nm]のMoSiN系の無機系エッチングマスク用膜3」と、本願補正発明の「前記第2の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチング且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能なクロムを含まず、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムおよびニオブのうちから選択された遷移金属を含」み「前記遷移金属の含有量は遷移金属と珪素との合計に対し10原子%以上」である「第3の膜」とは、「前記第2の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチングでエッチングが可能なクロムを含まず、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムおよびニオブのうちから選択された遷移金属を含」み「前記遷移金属の含有量は遷移金属と珪素との合計に対し10原子%以上」である「第3の膜」で一致する。


e 引用発明の「遮光性クロム膜2」は、「遮光性」という文言からして、本願補正発明の「遮光膜」に相当する。


f 引用発明の「位相シフト膜5」は、「MoとSiの原子比率が1:9である膜厚70[nm]のMoSiN系」の膜であって、硅素を含有する窒化物であり、MoとSiの比は1:9と、MoよりもSiを多く含有する化合物であるところ、本願補正発明の「珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたもの」に相当する。


g 上記eから、引用発明は、本願補正発明の「第2の膜」に相当する「遮光性クロム膜2」を「遮光膜」としており、上記「遮光性クロム膜2」は、上記cで指摘したとおり、「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造」であり、本願発明の「第1の膜」に相当する引用発明の「位相シフト層5」は、上記fで指摘したとおり、「珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたもの」からなる。
してみると、引用発明の、「遮光性クロム膜2」を「遮光膜」とし、「遮光性クロム膜2」が「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造」であり、「位相シフト層5」が「珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたもの」からなる構成は、本願補正発明の「前記第2の膜」「が遮光膜であ」る場合の、「前記第2の膜は、複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造で有り、前記第1の膜は、硅素酸化物、硅素窒化物、もしくは硅素酸窒化物を主成分とする硅素化合物に金属を含有させたものからなる」という構成をすべて備えている。
ここで、本願補正発明は、「第1の場合」と「第2の場合」のどちらか一方が遮光膜であり」という発明特定事項が選択肢を有するものであるところ、その対比においては、いずれか一の選択肢のみを、その選択肢に係る発明特定事項と仮定したときに請求項に係る発明と、引用発明とを対比することができる。
したがって、引用発明の、「遮光性クロム膜2」を「遮光膜」とし、「遮光性クロム膜2」が「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造」であり、「位相シフト層5」が「珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたもの」からなる構成は、本願補正発明の「前記第1の膜または前記第2の膜のどちらか一方が遮光膜であり、
前記第1の膜を遮光膜とする場合、前記第1の膜は、複数の異なる組成の珪素系化合物の膜が積層される構造であり、
前記第2の膜を遮光膜とする場合、前記第2の膜は、複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造であり、前記第1の膜は、珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたものからなる」構成に相当する。

(イ) 一致点
そこで、本願補正発明と引用発明は、
「 酸素含有塩素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つフッ素系ドライエッチングでエッチング可能な第1の膜と、
前記第1の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つ酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能な、クロム酸化物、クロム窒化物もしくはクロム酸窒化物を主成分とする金属化合物膜又はクロムを主成分とする金属膜もしくは合金膜からなる第2の膜と、
前記第2の膜上に形成され、フッ素系ドライエッチングでエッチングが可能なクロムを含まず、モリブデン、タンタル、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムおよびニオブのうちから選択された遷移金属を含む第3の膜と、が積層されてなる構成であり、
前記遷移金属の含有量は、遷移金属と珪素との合計に対し10原子%以上であり、
前記第2の膜が遮光膜であり、
前記第2の膜を遮光膜とする場合、前記第2の膜は、複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造であり、前記第1の膜は、珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたものからなる
フォトマスクブランク。」

である点で一致し、次の点で一見相違する。


(ウ) 相違点
本願補正発明の「第3の膜」が、「酸素含有塩素系ドライエッチングでエッチングが可能」な特性を有するのに対し、引用発明の「無機系エッチングマスク用膜3」が、上記特性を有する膜であるか否か明らかでない点。


オ 当審の判断

(ア) 上記の各相違点について検討する。
本願の発明の詳細な説明には、以下の通り記載されている。
「【0026】
またクロムを含まない膜14は、遷移金属を含有する。遷移金属の例としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)などが挙げられるが、エッチング加工の容易性の観点からモリブデンが望ましい。また、クロムを含まない膜14は、前記遷移金属を含む珪素酸化物や珪素窒化物あるいは珪素酸窒化物であってもよい。
【0027】
クロムを含まない膜14の具体的な原子組成は、例えば、モリブデン(Mo)と珪素(Si)の合計に対して、モリブデン(Mo)が10原子%?100原子%の範囲である。また、酸素含有塩素系ドライエッチング((Cl/O)系)でのエッチング加工の容易性の観点から、モリブデン(Mo)と珪素(Si)の合計に対して、モリブデン(Mo)が30原子%?100原子%の範囲であることが望ましい。」(下線部は強調のため、当審で付した。)

したがって、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明の「第3の膜」である「クロムを含まない膜14」について、モリブデンを含む硅素窒化物であってよく、モリブデン(Mo)と珪素(Si)の合計に対して、モリブデン(Mo)が30原子%?100原子%の範囲であれば、酸素含有塩素系ドライエッチング((Cl/O)系)でのエッチング加工が容易に実施できるという物質の特性が開示されている。

よって、引用発明の「MoとSiの原子比率が9:1である膜厚が5[nm]のMoSiN系」である「無機系エッチングマスク用膜3」は、「モリブデン(Mo)と珪素(Si)の合計に対して、モリブデン(Mo)が30原子%?100原子%の範囲」である「モリブデンを含む硅素窒化物」であることから、「酸素含有塩素系ドライエッチング((Cl/O)系)でのエッチング加工が容易に実施できるという特性」を有する物質であると判断するのが相当である。

してみると、上記相違点は、実体上は相違しておらず、相違点ではない。


(イ) まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。


3 むすび

したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成26年12月2日付けの手続補正は、上記の通り却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年11月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成26年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定)の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成26年12月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2) 引用例」に記載したとおりである。


3 対比・判断

上記「第2 平成26年12月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、以下構成を特定したものが、本願補正発明である。
(1)「酸素含有塩素系ドライエッチングでは実質的なエッチングがされず且つフッ素系ドライエッチングでエッチング可能な第1の膜」を付加
(2)「第1の膜」と「第2の膜」の配置関係について、「第2の膜」が「第1の膜上に形成され」ることを特定
(3)「前記第1の膜または前記第2の膜」について、「どちらか一方が遮光膜であ」ることを特定
(4)「第1の膜を遮光膜とする場合」について、第1の膜の構造を「複数の異なる組成の珪素系化合物の膜が積層される構造」に特定
(5)「第2の膜を遮光膜とする場合」について、第2の膜の構造を「複数の異なる組成のクロムを含む膜が積層される構造」に特定すると共に、第1の膜の構造を「珪素酸化物、珪素窒化物、もしくは珪素酸窒化物を主成分とする珪素系化合物に金属を含有させたもの」に特定
なお、上記(1)の補正に伴い、本願発明の「第1の膜」及び「第2の膜」をそれぞれ、「第2の膜」と「第3の膜」に繰り下げる補正も行っている。

そして、前記「第2 平成26年12月1日付けの手続補正についての却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」に記載したとおり、本願補正発明は、引用発明であるから、当該本願補正発明を包含する本願発明も、同様の理由により、引用発明である。


第4 むすび

以上の通りであり、「第3 本願発明について」の「対比・判断」で述べたとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2015-12-16 
結審通知日 2015-12-22 
審決日 2016-01-05 
出願番号 特願2009-283198(P2009-283198)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 浩樹渡戸 正義  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 土屋 知久
今浦 陽恵
発明の名称 フォトマスクブランク及びフォトマスクの製造方法  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 野河 信久  
代理人 砂川 克  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井上 正  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 峰 隆司  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  

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