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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1311424
審判番号 不服2014-13016  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-04 
確定日 2016-02-24 
事件の表示 特願2012-520550「多視点映像符号化方法、多視点映像符号化装置、多視点映像復号化方法、多視点映像復号化装置及び多視点映像提供システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月20日国際公開、WO2011/008065、平成24年12月27日国内公表、特表2012-533925〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2010年7月19日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年7月17日 韓国)を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由 平成25年 5月27日(起案日)
手続補正 平成25年 9月 3日
拒絶理由(最後) 平成25年10月 2日(起案日)
手続補正 平成26年 1月15日
補正却下の決定 平成26年 2月24日(起案日)
拒絶査定 平成26年 2月24日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 平成26年 7月 4日
手続補正 平成26年 7月 4日

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成25年9月3日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項10に記載された、

「【請求項10】
多視点映像サービスを提供するための多視点映像符号化装置であって、
任意の映像コーデックを用いて基本階層映像を符号化する基本階層符号化器と、
前記符号化された基本階層映像から再構成された基本階層映像及び前記基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する再構成された階層映像を用いて予測映像を生成する視点変換器と、
前記生成された予測映像を用いて前記異なる視点に対応する階層映像を残差符号化する残差符号化器とを有し、
前記再構成された基本階層映像は、現在時間の基本階層映像であり、前記再構成された基本階層映像は、該当階層で前の時間の残差映像と前の時間の予測映像を加えて生成された前の時間の再構成された階層映像であることを特徴とする多視点映像符号化装置。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、平成26年7月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項10に記載された、

「【請求項10】
多視点映像サービスを提供するための多視点映像符号化装置であって、
任意の映像コーデックを用いて基本階層映像を符号化する基本階層符号化器と、
前記符号化された基本階層映像からの現在の再構成された基本階層映像と前記基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する向上階層映像についての前の時間の再構成された向上階層映像とを用いて予測映像を生成する視点変換器と、
前記生成された予測映像と前記異なる視点に対応する向上階層映像との間の残差を表す残差映像を残差符号化する残差符号化器とを有し、
前記現在の再構成された基本階層映像は、現在時間の基本階層映像を符号化した後に復号化することにより生成され、前記前の時間の再構成された向上階層映像は、前の時間の再構成された残差映像と前の時間の予測映像とを加算することにより生成される、多視点映像符号化装置。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に記載された「再構成された基本階層映像」という構成を「現在の再構成された基本階層映像」という構成に限定し、本願発明に記載された「階層映像」という構成を「向上階層映像」という構成に限定し、本願発明の「再構成された階層映像」という構成を「前の時間の再構成された向上階層映像」という構成に限定している。また、本願発明の「生成された予測映像を用いて前記異なる視点に対応する階層映像を残差符号化する」を「生成された予測映像と前記異なる視点に対応する向上階層映像との間の残差を表す残差映像を残差符号化する」という構成に限定している。また、再構成された基本階層映像に関し、本願発明の「前記再構成された基本階層映像は、現在時間の基本階層映像であり、前記再構成された基本階層映像は、該当階層で前の時間の残差映像と前の時間の予測映像を加えて生成された前の時間の再構成された階層映像である」という構成を、「前記現在の再構成された基本階層映像は、現在時間の基本階層映像を符号化した後に復号化することにより生成され、」という構成に限定している。また、前の時間の再構成された向上階層映像に関し、「前の時間の再構成された残差映像と前の時間の予測映像とを加算することにより生成される」という構成を追加することにより限定している。
このように、本件補正は、これらの各限定によって特許請求の範囲を減縮しているから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第17条の2第5項2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。
なお、下記のとおり説明のために(A)ないし(F)の記号を当審において付与した。以下、構成要件A、構成要件Bなどと称することにする。

(A)多視点映像サービスを提供するための多視点映像符号化装置であって、
(B)任意の映像コーデックを用いて基本階層映像を符号化する基本階層符号化器と、
(C)前記符号化された基本階層映像からの現在の再構成された基本階層映像と前記基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する向上階層映像についての前の時間の再構成された向上階層映像とを用いて予測映像を生成する視点変換器と、
(D)前記生成された予測映像と前記異なる視点に対応する向上階層映像との間の残差を表す残差映像を残差符号化する残差符号化器とを有し、
(E-1)前記現在の再構成された基本階層映像は、現在時間の基本階層映像を符号化した後に復号化することにより生成され、
(E-2)前記前の時間の再構成された向上階層映像は、前の時間の再構成された残差映像と前の時間の予測映像とを加算することにより生成される、
(F)多視点映像符号化装置。」

(2)引用発明
原審の平成25年10月2日付の拒絶理由に引用された、特開平11-252586号公報(以下、「引用例」という。)には「ステレオ動画像用符号化装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0002】
【従来の技術】従来のステレオ動画像の符号化装置の一例を、図5のブロック図を参照して説明する。ステレオ動画像符号化装置は左右のチャンネルの動画像を符号化する二つの符号化装置から構成されている。
【0003】左チャンネル(または、基本チャンネル)の符号化装置は、原画を記憶する原画フレームメモリ11と、予測誤差信号を生成する減算器12と、該減算器12から出力された予測誤差信号を直交変換、例えばDCT変換する直交変換部13と、直交変換されたデータを量子化する量子化部14と、該量子化されたデータを可変長符号化する可変長符号化部15を備えている。また、さらに、前記量子化部14で量子化されたデータを逆量子化する逆量子化部16と、逆直交変換部17と、加算器18と、再生画を一時的に記憶する再生画フレームメモリ19と、前記原画フレームメモリ11からの原画と前記再生画とで動き補償を行う動き補償部20と、予測値フレームメモリ21とを具備している。
【0004】一方、右チャンネル(または、拡張チャンネル)の符号化装置は、予測モード選択部41および視差補償部43を除いて、前記左チャンネルの符号化装置の構成と同様の構成31?40および42を具備している。なお、前記再生画フレームメモリ19からの再生画は視差補償部43に入力されるように構成されている。
【0005】上記の構成において、左チャンネルは、通常の(動き補償+DCT)に基づく符号化が行われる。一方、右チャンネルでは、(動き補償または視差補償+DCT)に基づく符号化が行われる。すなわち、前記予測モード選択部41は動き補償部40と視差補償部43の両方のうちの予測誤差の小さい方を選択し、予測画フレームメモリ42に接続する。この動作以外は、左チャンネルと同様の動作が行われる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記の従来技術では、右チャンネルの動き補償部40は左チャンネルの動き補償部20と同規模の構成が使用されており、回路規模が大きいという問題があった。例えば、当該マクロブロックの動きベクトルの探査に、(±128)画素×(±32)ラインの範囲の探査を行っており、例えば(±8)画素×(±8)ラインの範囲をカバーする動き検出用LSIチップでこれを実現する場合、必要なチップの個数は64であった。
【0007】本発明の目的は、前記した従来技術の問題点を除去し、小さな回路規模で、かつ精度の良い動きベクトルを検出することのできるステレオ動画像用動きベクトル符号化装置を提供することにある。」

イ.「【図5】



上記ア.の記載及び関連する上記イ.の図面並びにこの分野における技術常識を考慮して引用例の記載事項を検討する。

(i)上記ア.に記載されるように、引用例の【従来の技術】の欄には、左右のチャンネルの動画像を符号化する二つの符号化装置から構成される「ステレオ動画像用符号化装置」に関して記載がある。ここで、技術常識から、左チャンネルは、左目の視点に対応する動画像のチャンネルであり、右チャンネルは右目の視点に対応する動画像のチャンネルであり、左目及び右目の視点に対応する二つの動画像によりステレオ動画像が得られるようになっている。

(ii)上記ア.の段落【0003】及び上記イ.の図の上部分には、左チャンネルの符号化装置(11?21)が記載されている。ここで、左チャンネルは基本チャンネルであるから、引用例には、『基本チャンネルの動画像を符号化する基本チャンネルの符号化装置』が記載されているといえる。

また、基本チャンネルの符号化装置では、減算器12の出力である「予測誤差信号」を直交変換部13で直交変換した後に量子化部14で量子化し、そして、前記量子化部14の出力を逆量子化部16で逆量子化した後に逆直交変換部17で逆直交変換し、そして、前記逆直交変換部17の出力を予測画フレームメモリ21の出力である予測画と加算器18で加算して「再生画フレームメモリ」に「再生画」として記憶している。
以上のとおりであるから、引用例には、『基本チャンネルの動画像の再生画は、基本チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力と予測画を加算することにより生成』されることが記載されている。

(iii)上記ア.の段落【0004】、【0005】及び上記イ.の図の下部分には、右チャンネルの符号化装置(31?43)が記載されており、右チャンネルは拡張チャンネルであるから、引用例には、拡張チャンネルの動画像を符号化する『拡張チャンネルの符号化装置』が記載されているといえる。なお、拡張チャンネルである右チャンネルは、右目の視点に対応しており、基本チャンネルである左チャンネルは、左目の視点に対応しているので、拡張チャンネルは基本チャンネルとは『異なる視点に対応』している。

また、拡張チャンネルの符号化装置では、減算器32の出力である「予測誤差信号」を直交変換部33で直交変換した後に量子化部34で量子化し、そして、前記量子化部34の出力を逆量子化部36で逆量子化した後に逆直交変換部37で逆直交変換し、そして、前記逆直交変換部37の出力を予測画フレームメモリ42の出力である予測画と加算器38で加算して「再生画フレームメモリ」に「再生画」として記憶している。
以上のとおりであるから、引用例には、『拡張チャンネルの動画像の再生画は、拡張チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力と予測画とを加算することにより生成』されることが記載されている。

また、拡張チャンネルの符号化装置の減算器32の出力である「予測誤差信号」は、原画フレームメモリ31を介して入力される拡張チャンネルの動画像と、予測画フレームメモリ42の予測画との差分であり、この「予測誤差信号」は、直交変換部33で直交変換した後に量子化部34で量子化されている。また、拡張チャンネルが基本チャンネルと『異なる視点に対応』していることは上記したとおりである。
以上のとおりであるから、引用例には、『予測画と異なる視点に対応する拡張チャネルの動画像との差分である予測誤差信号を直交変換し量子化する直交変換部33及び量子化部34からなる構成』が記載されている。

また、拡張チャンネルの符号化装置には、基本チャンネルの符号化装置における再生画フレームメモリ19の再生画を入力して視差補償を行う視差補償部43があり、また、拡張チャンネルの再生画フレームメモリ39の再生画を入力して動き補償を行う動き補償部40がある。そして、予測モード選択部42において、視差補償部と動き補償部の両方の出力のうち予測誤差の小さい方を選択し、その出力を予測画フレームメモリ42に入力している。ここで、予測画フレームメモリに入力されるのは「予測画」である。
以上のとおりであるから、引用例には、『基本チャンネルの動画像の再生画を視差補償して得られた予測画と、拡張チャンネルの符号化装置の再生画を動き補償して得られた予測画のいずれかを選択して予測画を得る、動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成』が記載されている。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
なお、下記のとおり説明のために(a)ないし(f)の記号を当審において付与した。以下、構成要件a、構成要件bなどと称することにする。

(引用発明)
「(a)ステレオ動画像用符号化装置であって、
(b)基本チャンネルの動画像を符号化する基本チャンネルの符号化装置と、
(c)基本チャンネルの動画像の再生画を視差補償して得られた予測画と、拡張チャンネルの動画像の再生画を動き補償して得られた予測画のいずれかを選択して予測画を得る、動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成と、
(d)予測画と異なる視点に対応する拡張チャネルの動画像との差分である予測誤差信号を符号化する直交変換部33及び量子化部34からなる構成とを有し、
(e-1)前記基本チャンネルの動画像の再生画は、基本チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力と予測画を加算することにより生成され、
(e-2)前記拡張チャンネルの動画像の再生画は、拡張チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力と予測画とを加算することにより生成される、
(f)ステレオ動画像用符号化装置。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明と対比する。
(i)補正後の発明の構成要件Aと引用発明の構成要件aの対比
引用発明の「ステレオ動画像用符号化装置」は、左目及び右目の視点、すなわち「多視点」に対応するステレオ動画像のための符号化装置であり、ここで、引用発明の「動画像」は補正後の発明の「映像」に相当することは明らかである。さらに、ステレオ動画像により、ステレオ動画像のサービスが行われるのは自明である。

したがって、引用発明の構成要件aは、補正後の発明の構成要件Aに相当する

(ii)補正後の発明の構成要件Bと引用発明の構成要件bの対比
引用発明の「ステレオ動画像用符号化装置」では、左目の視点のための符号化を「基本チャンネル」の符号化とし、右目の視点のための符号化を「拡張チャンネル」の符号化とする符号化手法、すなわち階層符号化手法がとられているから、引用発明の「基本チャンネルの動画像」、「基本チャンネルの符号化装置」は、明らかに補正後の発明の「基本階層映像」、「基本階層符号化器」に相当している。
そして、上記(2)イ.の図の上半分に記載される「基本チャンネルの符号装置」(11?21)の構成は、動画像符号化装置の一般的な構成を示すものであり、この一般的な構成を利用する種々の動画像コーディック(MPEG2、MPEG4 等)を用いることができることは明らかである。

したがって、引用発明の構成要件bは、補正後の発明の構成要件Bに相当する。

(iii)補正後の発明の構成要件Cと引用発明の構成要件cの対比
上記(ii)で検討したとおり、引用発明の「ステレオ動画像用符号化装置」では、左目の視点の「基本チャンネル」と右目の視点による「拡張チャンネル」からなる階層符号化が行われているから、引用発明の「基本チャンネルの動画像」、「拡張チャンネルの動画像」は、明らかに補正後の発明の「基本階層映像」、「基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する向上階層映像」に相当している。また、下記(v)及び(vi)に後記するように、引用発明の「基本チャンネルの動画像の再生画」、「拡張チャンネルの動画像の再生画」は、それぞれ「再構成された基本階層映像」、「再構成された向上階層映像」に相当する。また、引用発明の「予測画」は、明らかに補正後の発明の「予測映像」に相当している。
ここで、引用発明では、補正後の発明の「再構成された基本階層映像」に相当する「基本チャンネルの動画像の再生画」から「視差補償」することにより得られた「予測画」と、補正後の発明の「再構成された向上階層映像」に相当する「拡張チャンネルの動画像の再生画」から「動き補償」することにより得られた「予測画」とを選択して「予測画」を得ている。ここで、予測画を「得る」ことは、予測画を「生成」しているといえる。このように、引用発明の「動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成」と補正後の発明の「視点変換器」は、両構成ともに予測映像を生成する構成であるので「予測映像生成装置」である点で共通する。

したがって、引用発明の構成要件cと補正後の発明の構成要件Cは、「前記符号化された基本階層映像からの再構成された基本階層映像と前記基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する向上階層映像について再構成された向上階層映像とにより予測映像を生成する予測映像生成装置」である点で共通する。

しかしながら、「予測映像生成装置」に関し、補正後の発明では、「再構成された基本階層映像」と「再構成された向上階層映像」を用いて予測映像を生成する「視差変換器」であるのに対し、引用発明では、「再構成された基本階層映像」を視差補償した予測映像と「再構成された向上階層映像」を動き補償した予測映像とから選択して予測映像を生成する「動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成」である点で相違している。
また、「再構成された基本階層映像」に関し、補正後の発明では、「現在の」再構成であるのに対し、引用発明では、どのような時点で再構成されたのか不明であり、また、「再構成された向上階層映像」に関し、補正後の発明では、「前の時間の」再構成であるのに対し、引用発明では、どのような時点で再構成されたのか不明である点で相違している。

(iv)補正後の発明の構成要件Dと引用発明の構成要件dの対比
上記(iii)で検討したとおり、引用発明の「予測画」、「拡張チャネルの動画像」は、補正後の発明の「予測映像」、「向上階層映像」に相当する。また、引用発明の「差分」、「予測誤差信号」は、明らかに補正後の発明の「残差」、「残差映像」に相当する。
また、引用発明の「直交変換部33及び量子化部34からなる構成」によって「直交変換し量子化」することは、技術常識から「符号化」処理であって、予測誤差信号、すなわち「残差映像」の符号化処理であるから補正後の発明の「残差符号化」に相当している。また、このことから引用発明の「直交変換部33及び量子化部34からなる構成」は、補正後の発明の「残差符号化器」に相当している。

したがって、引用発明の構成要件dは、補正後の発明の構成要件Dに相当する。

(v)補正後の発明の構成要件E-1と引用発明の構成要件e-1の対比
上記(ii)で検討したとおり、引用発明の「基本チャンネルの動画像」は補正後の発明の「基本階層映像」に相当する。また、技術常識から、予測誤差信号を「直交変換し量子化」する処理は、「符号化」処理にあたり、「逆量子化し逆直交変換」する処理は「復号化」処理にあたる。
ここで、引用発明の「基本チャンネルの動画像の再生画」は、「基本チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力と予測画を加算することにより生成」されているのであるから、基本チャンネルの動画像を符号化した後に復号化することを含めて生成されているものである。このことから、引用発明の「基本チャンネルの動画像の再生画」は補正後の発明の「再構成された基本階層映像」に相当している。

したがって、引用発明の構成要件e-1と補正後の発明の構成要件E-1とは、「前記再構成された基本階層映像は、基本階層映像を符号化した後に復号化することにより生成され、」において共通する。
しかしながら、「再構成された基本階層映像」に関し、補正後の発明では「現在の」再構成によるものであるのに対し、引用発明では、どのような時点で再構成されたのか不明であり、また、「基本階層映像を符号化した後に復号化すること」に関し、補正後の発明では「現在時間の」基本階層映像であるのに対し、引用発明では、どのような時点の基本階層映像であるのか不明である点で相違している。

(vi)補正後の発明の構成要件E-2と引用発明の構成要件e-2の対比
上記(iii)にて検討したとおり、引用発明の「拡張チャンネルの動画像」は、補正後の発明の「向上階層映像」に相当する。また、上記(v)と同様に技術常識から、「直交変換し量子化」する処理は、「符号化」処理にあたり、「逆量子化し逆直交変換」する処理は「復号化」処理にあたり、引用発明の「拡張チャンネルの予測誤差信号」、「予測画」は、それぞれ補正後の発明の「残差映像」、「予測映像」に相当している。
これらを踏まえれば、引用発明の「拡張チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力」は、予測誤差信号、すなわち残差映像を符号化した後に復号化することにより生成された出力であり、補正後の発明の「再構成された残差信号」に相当する。
以上のことから、「拡張チャンネルの予測誤差信号を直交変換し量子化した後に逆量子化し逆直交変換することにより生成された出力と予測画を加算することにより生成」することは、「再構成された残差信号」と「予測画像」を加算することにより生成することといえ、そのように生成された拡張チャンネルの動画像の「再生画」は、「再構成」されたものである。

したがって、引用発明の構成要件e-2と補正後の発明の構成要件E-2は、「前記再構成された向上階層映像は、再構成された残差映像と予測映像とを加算することにより生成される、」である点で共通する。

しかしながら、「再構成された向上階層映像」に関し、補正後の発明では「前の時間の」再構成によるものであるのに対し、引用発明では、どのような時点で再構成されたのか不明であり、また、「再構成された残差信号」に関し、補正後の発明では「前の時間の」残差信号であるのに対し、引用発明では、どのような時点の残差信号であるのか不明であり、また、「予測映像」に関し、補正後の発明では「前の時間の」予測映像であるのに対し、引用発明では、どのような時点の予測映像であるのか不明である点でそれぞれ相違している。

(vii)補正後の発明の構成要件Fと引用発明の構成要件fの対比
上記(i)で検討したとおり、引用発明の「ステレオ動画像用符号化装置」は、補正後の発明の「多視点映像符号化装置」に相当する。

したがって、引用発明の構成要件fは、補正後の発明の構成要件Fに相当する。

(viii)まとめ
上記(i)ないし(vii)で検討したとおりであるから、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「多視点映像サービスを提供するための多視点映像符号化装置であって、
任意の映像コーデックを用いて基本階層映像を符号化する基本階層符号化器と、
前記符号化された基本階層映像からの再構成された基本階層映像と前記基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する向上階層映像について再構成された向上階層映像とを用いて予測映像を生成する予測映像生成装置と、
前記生成された予測映像と前記異なる視点に対応する向上階層映像との間の残差を表す残差映像を残差符号化する残差符号化器とを有し、
前記再構成された基本階層映像は、基本階層映像を符号化した後に復号化することにより生成され、前記再構成された向上階層映像は、再構成された残差映像と予測映像とを加算することにより生成される、
多視点映像符号化装置。」

<相違点>
(相違点1)
「予測映像生成装置」に関し、補正後の発明では、「再構成された基本階層映像」と「再構成された向上階層映像」を用いて予測映像を生成する「視差変換器」であるのに対し、引用発明では、「再構成された基本階層映像」を視差補償した予測映像と「再構成された向上階層映像」を動き補償した予測映像とから選択して予測映像を生成する「動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成」である点。
(相違点2)
「再構成された基本階層映像」に関し、補正後の発明では、「現在の」再構成であるのに対し、引用発明では、どのような時点で再構成されたのか不明である点。
(相違点3)
「再構成された向上階層映像」に関し、補正後の発明では、「前の時間の」再構成であるのに対し、引用発明では、どのような時点で再構成されたのか不明である点。
(相違点4)
「基本階層映像を符号化した後に復号化すること」に関し、補正後の発明では「現在時間の」基本階層映像を符号化した後に復号化するのに対し、引用発明では、どのような時点の基本階層映像を符号化した後に復号化するのか不明である点。
(相違点5)
「再構成された残差信号」に関し、補正後の発明では「前の時間の」再構成された残差信号であるのに対し、引用発明では、どのような時点の再構成された残差信号であるのか不明な点。
(相違点6)
「予測映像」に関し、補正後の発明では「前の時間の」予測映像であるのに対し、引用発明では、どのような時点の予測映像であるのか不明である点。

(4)当審の判断
上記(相違点1)ないし(相違点6)について以下に検討する。
(i)(相違点1)についての検討
補正後の発明の視点変換器は、構成要件Cによる構成をもつものであり、大略「再構成された基本階層映像」と「再構成された向上階層映像」とを用いて「予測映像」を生成するものである。
この視点変換器に関して、本願の出願当初の明細書及び図面の記載をみるに、以下の記載がある。(下線は、当審が付したものである。)
「【0032】
また、実施形態に従って、向上階層の入力映像P2のPTがインターピクチャ(Inter-Picture)である場合に、現在基本階層映像P8及び以前向上階層映像P9を用いて予測映像P5の生成のための視点変換を実行することができる。PTは、例示的な実施形態の多視点映像符号化器が適用されたシステムの上位階層で与えられ得る。PTは、イントラ映像及びインター映像の中の1つとして予め定められたタイプであり得る。
【0033】
ディスパリティー予測器/動き予測器(DE/ME)1053は、映像タイプ決定器1051の決定結果に基づいて現在基本階層映像P8を用いてブロック単位のディスパリティー予測(Disparity Estimation:DE)を実行することによりディスパリティーベクトルを出力するか、又は現在基本階層映像P8及び以前向上階層映像P9を用いてブロック単位のディスパリティー予測(DE)及び動き予測(Motion Estimation:ME)を実行することにより関連するブロックのディスパリティーベクトル及び動きベクトルをそれぞれ出力する。また、向上階層が複数個である場合に、DE/ME1053は、対応する向上階層の入力映像の視点とは異なる視点を有する他の向上階層で現在向上階層映像を用いてブロック単位のDEを実行することができる。
( 中 略 )
【0038】
DE/ME1053により実行されるDE及び/又はMEの結果に基づいて、モード選択器1055は、ディスパリティーベクトルを用いてDEモードに従って現在のM×Nピクセルブロックに対してディスパリティー補償(Disparity Compensation:DC)を実行するか又は動きベクトルを用いてMEモードに従って動き補償を実行するようにDEモード及びMEモードの中で最適のモードを選択する。モード選択器1055は、M×Nピクセルブロックを複数のパーテーションに分け、複数のディスパリティーベクトル又は複数の動きベクトルを使用するかを決定し得る。この決定された情報は、後述する予測映像の制御情報を有する多視点映像復号化器に伝達され得る。この際に、分けられたパーテーションの個数は、予め定められ得る。
【0039】
ディスパリティー補償器/動き補償器(DC/MC)1057は、モード選択器1055で選択された最小予測値を有するモードがDEモードであるか又はMEモードであるかに従ってDCを実行するか又はMCを実行することにより予測映像P5を生成する。モード選択器1055で選択されたモードがDEモードである場合に、DC/MC1057は、現在基本階層映像でディスパリティーベクトルを用いてM×Nピクセルブロックを補償することにより予測映像P5を生成する。この選択されたモードがMEモードである場合に、DC/MC1057は、以前向上階層映像で動きベクトルを用いてM×Nピクセルブロックを補償することにより予測映像P5を生成する。例示的な実施形態によると、この選択されたモードがDEモードであるか又はMEモードであるかを示すモード情報は、例えば、フラグ情報の形態で多視点映像復号化器に伝達され得る。」

「【図2】



上記のように、本願の明細書及び図面には、「視点変換器」が、その内部にディスパリティー予測器/動き予測器(DE/ME)、モード選択器、及び、ディスパリティー補償器/動き補償器(DC/MC)を有する構成であることを開示している。さらに、ディスパリティー予測器/動き予測器(DE/ME)において、視点変換器に入力される「現在基本階層映像P8」及び「以前向上階層映像P9」を用いてディスパリティー予測(DE)及び動き予測(ME)が実行されること(段落【0033】)、モード選択器において、DEモードに従ってディスパリティー補償(DC)を実行するか又はMEモードに従って動き補償を実行するようにDEモード及びMEモードの中で最適のモードを選択すること(段落【0038】)、及び、ディスパリティー補償器/動き補償器(DC/MC)において、モード選択器選択された最小予測値を有するモードがDEモードであるか又はMEモードであるかに従ってDCを実行するか又はMCを実行することにより予測映像P5を生成すること(段落【0039】)が記載されている。
すなわち、本願の「視点変換器」が、ディスパリティー予測器/動き予測器、モード選択器、及び、ディスパリティー補償器/動き補償器を含み、現在の再構成された基本階層映像(P8)をディスパリティー補償(DC)するか、以前の再構成された向上階層映像(P9)を動き補償(DE)するかを選択して予測画像(P5)を生成する構成であることを開示している。
この構成は、視点変換器全体としてみれば、現在の再構成された基本階層映像(P8)と再構成された向上階層映像(P9)とを用いて予測画像(P5)を生成するものであるから、補正後の発明の構成要件Cの「前記符号化された基本階層映像からの現在の再構成された基本階層映像と前記基本階層映像の視点とは異なる視点に対応する向上階層映像についての前の時間の再構成された向上階層映像とを用いて予測映像を生成する視点変換器」の構成に含まれる構成である。

一方、引用発明の構成要件cは、「基本チャンネルの動画像の再生画を視差補償して得られた予測画と、拡張チャンネルの動画像の再生画を動き補償して得られた予測画のいずれかを選択して予測画を得る動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成」であり、上記したようにその内部にディスパリティ補償(視差補償)と動き補償を有する本願の明細書及び図面に開示される視点変換器の構成と一致していることから、引用発明の「動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成」は本願の「視点変換器」に相当する構成であるといえる。
してみれば、引用発明の構成要件cの「動き補償部40、視差補償部43及び予測モード選択部41からなる構成」も、基本チャンネルの動画像の再生画(補正後の発明の「再構成された基本階層映像」に相当)と拡張チャンネルの動画像の再生画(補正後の発明の「再構成された向上階層映像」に相当)とを用いて予測画(補正後の発明の「予測画像」に相当)を生成する構成である。

以上のとおりであるから、補正後の発明の構成要件Cのうち各再構成がされる時点を除いた構成と引用発明の構成要件cとの間には、実質的な差異は存在しない。
このように、相違点1は格別なものでない。

(ii)(相違点2)ないし(相違点6)についての検討
(相違点2)ないし(相違点6)についての相違点を総合すると、これらの相違点は、基本階層映像及び向上階層映像における種々の映像・信号が得られた時点について、補正後の発明では、「現在」、「前の時間」と時点を明記しているのに対し、引用発明では、時点が特定されていない点で相違していることに起因した相違点であると整理できる。
そこで、引用発明の種々の映像・信号が得られた時点に関して検討する。
引用発明の「ステレオ動画像用符号化装置」は、「基本チャンネルの符号化装置」と、引用発明の構成要件c、d、e-2からなる構成による『拡張チャンネルの符号化装置』で構成されている。そして、左右の視点の動画像は、それぞれ「基本チャンネルの符号化装置」、『拡張チャンネルの符号化装置』に入力され、それぞれにおいて符号化処理が行われている。
ここで、引用発明の「ステレオ動画像用符号化装置」は、左右の視点の動画像によりステレオ視、すなわち二次元の動画像を三次元の動画像的に見る立体視、のサービスを提供するために用いられる符号化装置であるから、左右の視点の動画像は『同じ時点』で得られた動画像であると認められる。この『同じ時点』を補正後の発明の「現在」の時点とするならば、「基本チャンネルの符号化装置」における「再生画」(補正後発明の「再構成された基本階層映像」に相当)は、「現在」の時点における符号化処理、すなわち、「現在」の時点の基本チャンネルの動画像を符号化し復号化すること、によって生成されたものとなる。
そして、この「現在」の時点において生成された「再生画」が『拡張チャンネルの符号化装置』を構成する引用発明の構成要件cに入力され、左右の視点の視差を補償して予測画(補正後発明の「予測映像」に相当)が生成される場合、この予測画と「現在」の時点と『同じ時点』の拡張チャンネル動画像との差分がとられて予測誤差信号が符号化(補正後の発明の「残差」を「残差符号化」に相当)されることになる。
一方、現在の「予測映像」を、拡張チャンネルの「再生画」(補正後の発明の「再構成された向上階層映像」に相当)から動き補償をして生成する場合、ステレオ視させるために、『拡張チャンネルの符号化装置』における符号化処理により得られた再生画を動き補償して、基本チャンネルの動画像と『同じ時点』の拡張チャンネルの予測画を生成する必要がある。この場合、再生画は、ステレオ視する「現在」の時点より前の時点、すなわち「前の時間」で生成されることになると認められる。
したがって、「再構成された基本階層映像」における「再構成」を「現在」の時点でのものとし(相違点2)、また、「基本階層映像を符号化した後に復号化すること」における「基本階層映像」を「現在時間」のものとし(相違点4)、また、「再構成された向上階層映像」における「再構成」を「前の時間」でのものとし(相違点3)、また、「再構成された残差信号」における「残差信号」を「前の時間」でのものとし(相違点5)、また、「予測映像」を「前の時間の」予測映像とすること(相違点6)は引用例の記載をみれば当業者が容易に想定し得るものである。
このように、相違点2ないし相違点6は格別なものでない。

そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-18 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-13 
出願番号 特願2012-520550(P2012-520550)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 健二  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 藤井 浩
渡邊 聡
発明の名称 多視点映像符号化方法、多視点映像符号化装置、多視点映像復号化方法、多視点映像復号化装置及び多視点映像提供システム  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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