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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1311451
審判番号 不服2015-4879  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-12 
確定日 2016-02-24 
事件の表示 特願2013-524373号「電動車両の内部発電を始動させるための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年2月23日国際公開、WO2012/022455、平成25年11月7日国内公表、特表2013-540632号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年8月12日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年8月16日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月15日に国内書面が提出され、平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、平成26年9月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年11月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年3月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年3月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、下記(1)に示す記載から、下記(2)に示す記載へと補正された。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
電動車両を駆動するためのトラクションモータとしての機能を有する第1の電気機械エネルギ変換装置(1)と、電気エネルギを蓄積するとともに少なくとも部分的に前記第1の電気機械エネルギ変換装置(1)へエネルギを供給する電気エネルギ蓄積装置(4)と、電気エネルギを発生させるためのジェネレータとしての機能を有する第2の電気機械エネルギ変換装置(3)と、回転ピストン機関やピストン往復機関などの内燃機関(2)とを搭載し、
前記内燃機関(2)は前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)の駆動を目的とし、前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)は前記内燃機関(2)の始動を目的としており、前記内燃機関(2)は燃焼室壁(10)によって包囲された少なくとも1つの燃焼室(11)と少なくとも1つの作動ピストン(12)とを有し、前記燃焼室(11)の容積は前記作動ピストン(12)の運動によって可変し、前記燃焼室(11)は少なくとも一時的に完全にまたはほぼ完全に気密密閉可能である、電動車両の内燃機関始動プロセス制御方法であって、
- 前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)を用いて前記内燃機関(2)を駆動するステップと、
- 前記燃焼室(11)内の空気などの作動媒体を圧縮するステップと、
- 前記燃焼室壁(10)の予熱温度を測定するステップと、
- 前記予熱温度が所定の閾値(スタート温度)に達するかまたはそれを上回った後に、前記内燃機関(2)を始動して、前記内燃機関(2)から前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)へのトルク伝動を開始させるステップと、
を含んでいることを特徴とする内燃機関始動プロセス制御方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
電動車両を駆動するためのトラクションモータとしての機能を有する第1の電気機械エネルギ変換装置(1)と、電気エネルギを蓄積するとともに少なくとも部分的に前記第1の電気機械エネルギ変換装置(1)へエネルギを供給する電気エネルギ蓄積装置(4)と、電気エネルギを発生させるためのジェネレータとしての機能を有する第2の電気機械エネルギ変換装置(3)と、回転ピストン機関やピストン往復機関などの内燃機関(2)とを搭載し、
前記内燃機関(2)は前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)の駆動を目的とし、前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)は前記内燃機関(2)の始動を目的としており、前記内燃機関(2)は燃焼室壁(10)によって包囲された少なくとも1つの燃焼室(11)と少なくとも1つの作動ピストン(12)とを有し、前記燃焼室(11)の容積は前記作動ピストン(12)の運動によって可変し、前記燃焼室(11)は少なくとも一時的に完全にまたはほぼ完全に気密密閉可能である、電動車両の内燃機関始動プロセス制御方法であって、
前記内燃機関(2)が始動していない状態から、
- 前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)を用いて前記内燃機関(2)を駆動するステップと、
- 前記燃焼室(11)内の空気などの作動媒体を圧縮するステップと、
- 前記燃焼室壁(10)の予熱温度を測定するステップと、
- 前記予熱温度が所定の閾値(スタート温度)に達するかまたはそれを上回った後に、前記内燃機関(2)を始動して、前記内燃機関(2)から前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)へのトルク伝動を開始させるステップと、
をこの順で行うことを特徴とする内燃機関始動プロセス制御方法。」(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である、
「- 前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)を用いて前記内燃機関(2)を駆動するステップと、
- 前記燃焼室(11)内の空気などの作動媒体を圧縮するステップと、
- 前記燃焼室壁(10)の予熱温度を測定するステップと、
- 前記予熱温度が所定の閾値(スタート温度)に達するかまたはそれを上回った後に、前記内燃機関(2)を始動して、前記内燃機関(2)から前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)へのトルク伝動を開始させるステップ」が、「内燃機関(2)が始動していない状態から」行われる旨、及び、上記本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項におけるステップを「この順で行う」旨を限定するものである。
よって、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用例
(1)引用例の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-299527号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【0002】
【従来の技術】ハイブリッド車輌は、内燃機関と電動機とを備えており、内燃機関を停止した状態で電動機のみを駆動源としても走行することができる。内燃機関の動力を直接駆動輪に伝達できる、いわゆるパラレルハイブリッド車輌は、通常走行中は内燃機関を主駆動源として走行するが、減速時や降坂時など内燃機関の動力が必要とされない場合や初期加速時などには、内燃機関を停止して走行することもある。内燃機関が発電機の駆動のみに用いられる、いわゆるシリーズハイブリッド車輌は、電動機に電力を供給する二次電池の残容量が低下した場合等に、内燃機関により発電機を作動させて二次電池の充電を行ない、二次電池の残容量が回復すれば内燃機関を停止する。このようにハイブリッド車輌では、車輌の走行状態や二次電池の残容量に応じて、走行中に内燃機関が度々停止する。
【0003】一方、十分暖機していないときは、燃料となるガソリン等が気化しにくいため、混合気における燃料の割合を通常の運転時よりも高くした状態で内燃機関の運転が行なわれる。このときは、内燃機関の排気中に含まれるCO、HC、NOx等の有害成分、いわゆるエミッションの濃度が通常の運転時よりも高くなる。エミッションを除去するための触媒を備える車輌であっても、暖機前は触媒の温度も低く、エミッションを十分除去することができない。また、十分暖機していないときは、内燃機関に用いられている滑油の粘性が高く作動摩擦力が大きいこと等により内燃機関を効率的に運転することもできない。従って、内燃機関を運転する場合には、運転に先だって、内燃機関の暖機を行なっておくことが望ましい。
【0004】内燃機関のみを駆動源とする車輌では走行中に内燃機関の温度が下がる場合はないが、前述の通りハイブリッド車輌では内燃機関が度々運転を停止するため内燃機関の温度が低下する可能性がある。従って、ハイブリッド車輌では、エミッションの排出を抑え、内燃機関を効率的に運転するために、走行中においても、内燃機関の温度状態に応じて暖機を行なうことが重要である。」(段落【0002】ないし【0004】)

1b)「【0019】エンジン150は、吸入口200から吸入した空気と燃料噴射弁151から噴射されたガソリンとの混合気を燃焼室152に吸入し、この混合気の爆発により押し下げられるピストン154の運動をクランクシャフト156の回転運動に変換する。エンジン150の運動はさらに具体的には、燃焼室152の体積を減少させる方向にピストン154が移動し混合気を圧縮する圧縮行程、点火された混合気の爆発によりピストン154が押し下げられる膨張行程、排気バルブを開きつつピストン154が上方に移動することにより燃焼ガスを排出する排気行程および吸気バルブを開きつつピストン154が下方に移動することにより新たな混合気を燃焼室内に吸入する吸入行程の4行程からなっている。前記爆発は、イグナイタ158からディストリビュータ160を介して導かれた高電圧によって点火プラグ162が形成した電気火花によって混合気が点火され燃焼することで生じる。燃焼により生じた排気は、排気口202を通り、触媒コンバータ204、サブ・マフラ208およびメイン・マフラ210からなる排気系を通って大気中に排出される。触媒コンバータ204は、内燃機関の排気に含まれるHC,COおよびNOx等の有害成分、いわゆるエミッションを三元触媒により酸化還元処理する装置である。触媒コンバータ204は、触媒が活性温度(本実施例では摂氏400度前後)に達していないと排気を十分に浄化することができないため、バッテリからの通電により触媒を加熱するための電気触媒加熱ヒータ(以下、EHCという)206が備えられている。」(段落【0019】)

1c)「【0029】次に、本実施例における暖機制御処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。この処理は制御ユニット190によりハイブリッド車輌の運転中に繰り返し実行される処理であり、エンジン150の暖機を行なうか否かの判断をし、暖機処理を実行する。以下に示す処理の流れから明らかな通り、エンジン150の暖機処理を行なうか否かの判断は、ハイブリッド車輌がモータのみで走行中に、エンジン150の始動要求があった場合に限る必要はない。
【0030】暖機制御処理が開始されると(ステップS300)、制御ユニット190は、EFIECU170とやりとりされる情報に基づいて、エンジン150が停止中か否かを判断する(ステップS305)。エンジン150が停止中の場合には、ステップS310に進み、車速が所定の値V1よりも大きいか否かを判断する。煩雑さを避けるためフローチャート内には図示していないが、車速の判断に先立ち、制御ユニット190は車速センサにより検出された車速を読み込んでいる。車速が値V1より小さい場合には暖機処理フラグXEHEATに値0を代入して(ステップS345)、暖機制御処理を一旦終了する(ステップS360)。これは、暖機処理を行なわないことを意味する。本実施例は車輌が減速中または降坂中等の制動力を利用してエンジン150の暖機を行なうため、前記所定の値V1は車輌がエンジン150の暖機を行なうのに十分な運動エネルギを有している速度の下限値として設定される。本実施例においては、値V1は時速3?5km程度の速度である。
【0031】前記ステップS310において車速が値V1よりも大きい場合には、制御ユニット190は、次にエンジン水温が所定の値t1よりも小さいか否かを判断する(ステップS315)。煩雑さを避けるためフローチャート内には図示していないが、エンジン水温の判断に先立ち制御ユニット190は水温センサ174により検出されたエンジン水温を読み込んでいる。エンジン水温が値t1よりも大きい場合には、エンジン150の温度は高いため暖機の必要はないと判断し、暖機処理フラグXEHEATに値0を代入して(ステップS345)、暖機制御処理を一旦終了する(ステップS360)。前記値t1はエンジン150の暖機が必要になるエンジン水温の下限に設定されている。
【0032】前記ステップS315において、エンジン水温が値t1以下である場合には、制御ユニット190はモータの駆動力が値0であるか否かを判断する(ステップS320)。モータの駆動力が値0でない場合は、エンジン150の暖機に用いる余剰のエネルギがないと判断し、暖機処理フラグXEHEATに値0を代入して(ステップS345)、暖機制御処理を一旦終了する(ステップS360)。本実施例は、ハイブリッド車輌が減速中または降坂中等の制動力を利用してエンジン150の暖機を行なうものであり、換言すれば、減速中等の車輌の運動エネルギをエンジン150の暖機に有効活用するものである。ステップS320においてモータの駆動力が値0でないと判断された場合は、車輌がモータの駆動力により運動エネルギを維持または増加しようとしている状態であるため、エンジン150の暖機に用いる余剰のエネルギはないことになり、暖機処理を行なわないと判断するのである。
【0033】本実施例では、余剰エネルギの有無をモータの駆動力の有無で判断しているが、ステップS320はエンジン150の暖機に用いる余剰のエネルギがあるか否かを判断できる他の要素としてもよい。例えばブレーキペダルポジションセンサ165aからのブレーキペダルポジション(ブレーキペダルの踏込量)BPが所定の値以上であるか否かを判断するものとしてもよい。
【0034】前記ステップ320においてモータの駆動力が値0の場合には、暖機処理フラグXEHEATに値1を代入して(ステップS350)、暖機処理を行なう(ステップS400)。暖機処理の内容は後で詳述する。」(段落【0029】ないし【0034】)

1d)「【0072】次に、本発明の第3の実施例を図11に基づいて説明する。図11はいわゆるシリーズ式のハイブリッド車輌の構成を示している。シリーズ式のハイブリッド車輌は、第1および第2の実施例と同様のエンジン150を備え、エンジン150のクランクシャフト156は発電機Gのロータ(図示しない)に結合されている。発電機Gはバッテリ194に電気的に接続されている。また、バッテリ194にはモータMG4も電気的に接続されている。モータMG4のロータ(図示しない)は、駆動軸112に結合されており、さらにディファレンシャルギヤ114を介して駆動輪116、118に結合されている。エンジン150はEFIECU170を介して制御ユニット190と接続されており、発電機GおよびモータMG4の運転はトランジスタインバータ193を介して制御ユニット190と接続されている。第1の実施例と同様に制御ユニット190にはエンジン150等の制御をするために必要な種々の信号が入力されている(図11ではバッテリ残容量検出器199の信号入力のみを図示してある)。なお、発電機GおよびモータMG4は同期電動発電機として構成され、発電機としても動作し、バッテリ194からの通電によりロータを回転駆動する電動機としても動作する。
【0073】このような構成をとるシリーズ式のハイブリッド車輌は、通常、バッテリ194の電力によりモータMG4を駆動し、その動力により走行する。バッテリ194の残容量が少なくなった場合には、エンジン150を始動し、その動力で発電機Gを駆動して発電し、バッテリ194の充電を行なう。エンジン150の動力が直接、車輌の駆動力として使用されることはない。一方、モータMG4も発電機として機能しうるため、モータMG4の駆動力を必要としない場合、例えば、減速時や降坂時等は駆動輪116、118の回転力でモータMG4のロータを回転させることにより発電し(以下、回生という)、バッテリ194を充電することもできる。
【0074】本実施例における暖機制御処理は第1の実施例と同じである(図2)が、暖機処理が異なっている。本実施例における暖機処理を図12に示す。暖機処理が開始されると(ステップS400)、制御ユニット190は、エンジン150のモータリングを行なう(ステップS440)。モータリングとは、発電機Gにバッテリ194から通電して電動機として動作させることにより、ロータに結合されたクランクシャフト156を回転させ、エンジン150を回転させることをいう。
【0075】本実施例では、上述の通り、エンジン150をモータリングすることにより、エンジン150のピストン154と燃焼室152間で摩擦熱が発生し、エンジン150を暖機することができる。また、エンジン150は吸入された空気を圧縮する仕事をするため、断熱圧縮により発熱した空気によってもエンジン150を暖機することができる。エンジン150は駆動輪116、118に動力を伝達するようには構成されていないため、暖機処理に際し、バルブオーバラップの制御を行なわなくても、通常の走行感覚を維持することができる。暖機処理はモータMG4の駆動力を必要としない場面で行なわれるため、モータMG4で回生された電力をエンジン150のモータリングに使用することができ、バッテリ194の電力消費を抑えた効率的な暖機を行なうことが可能である。」(段落【0072】ないし【0075】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1e)図1の記載からみて、エンジン150はクランクシャフト156を有することから、ピストン154は往復動するものであり、燃焼室152の容積はピストン154の往復動により変化することが分かる。

1f)図1,図11の記載及び(1)1d)の記載から、シリーズ式のハイブリッド車輌は、シリーズ式のハイブリッド車輌を駆動するためのモータMG4、モータMG4へ電力を供給するバッテリ194と、発電のために設けられた発電機Gと、往復動するピストン154を備えるエンジン150とを備えること、エンジン150は発電機Gを駆動するものであって、燃焼室152とピストン154とを備えていることが分かる。

1g)図12の記載及び(1)1d)段落【0074】及び【0075】の記載から、暖機制御処理は、発電機Gを電動機として動作させることによりエンジン150を駆動する段階、エンジン150に吸入された空気を断熱圧縮することにより発熱させて暖機する段階をこの順に行うことによるものが分かる。

1h)(1)1a)「内燃機関を運転する場合には、運転に先だって、内燃機関の暖機を行なっておくことが望ましい。」の記載から、暖機処理は、エンジン150が始動していない状態で行われることが分かる。

1i)図1の記載から、燃焼室152は燃焼室壁によって包囲されていることが分かる。

以上の(1)及び(2)並びに図1、図2、図11及び図12の記載を総合すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「シリーズ式のハイブリッド車輌を駆動するためのモータMG4と、モータMG4へ電力を供給するバッテリ194と、発電の機能を有する発電機Gと、往復動するピストン154を備えるエンジンであるエンジン150とを備え、
エンジン150は発電機Gを駆動するためのものであり、
エンジン150は燃焼室壁によって包囲された燃焼室152とピストン154とを備え、燃焼室152の容積はピストン154の往復動により変化する、
シリーズ式のハイブリッド車輌の暖機処理方法であって、
エンジン150が始動していない状態から、
発電機Gを用いてエンジン150を駆動する段階、燃焼室152内の空気を断熱圧縮する段階をこの順に行う暖機処理方法。」

3.対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「シリーズ式ハイブリッド車輌」は、その機能、構造又は技術的意義からみて本件補正発明における「電動車両」に相当し、以下同様に、「モータMG4」は「第1の電気機械エネルギ変換装置」に、「電力を供給する」ことは「エネルギを供給する」ことに、「バッテリ194」は「電気エネルギ蓄積装置」に、「発電の機能を有する」ことは「電気エネルギを発生させるためのジェネレータとしての機能を有する」ことに、「発電機G」は「第2の電気機械エネルギ変換装置」に、「往復動するピストン154を備えるエンジン」は「ピストン往復機関」に、「エンジン150」は「内燃機関」に、「備え」は「搭載し」又は「有し」に、「駆動するためのものであり」は「駆動を目的とし」に、「燃焼室152」は「燃焼室」に、「ピストン154」は「作動ピストン12」に、「ピストン154の往復動」は「作動ピストンの運動」に、「変化する」ことは「可変」であることに、「段階」は「ステップ」に、「空気を断熱圧縮」することは「空気などの作動媒体を圧縮する」ことに、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「シリーズ式のハイブリッド車輌を駆動するためのモータMG4」は、シリーズ式のハイブリッド車輌を駆動する以上、トラクションモータとしての機能を有することは明らかであるから、本件補正発明における「電動車両を駆動するためのトラクションモータとしての機能を有する第1の電気機械エネルギ装置」に相当し、引用発明における「モータMG4へ電力を供給するバッテリ194」は、バッテリが電気エネルギを蓄積するものであることは明らかであるから、本件補正発明における「電気エネルギを蓄積するとともに少なくとも部分的に前記第1の電気機械エネルギ変換装置(1)へエネルギを供給する電気エネルギ蓄積装置(4)」に相当し、引用発明における「暖機処理方法」は、上記2.(1)1a)の段落【0003】「内燃機関を運転する場合には、運転に先だって、内燃機関の暖機を行なっておくことが望ましい。」の記載等を参酌すると、暖機処理が内燃機関を始動して運転することを前提とするものといえるので、本件補正発明における「内燃機関始動プロセス制御方法」に相当する。
さらに、引用発明におけるエンジン150は、「燃焼室152の空気を断熱圧縮」するものであるから、技術常識からみて、燃焼室152の空気を断熱圧縮する時点において「燃焼室は少なくとも一時的に完全にまたはほぼ完全に気密密閉可能である」ことは明らかである。

したがって、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「電動車両を駆動するためのトラクションモータとしての機能を有する第1の電気機械エネルギ変換装置と、電気エネルギを蓄積するとともに少なくとも部分的に前記第1の電気機械エネルギ変換装置へエネルギを供給する電気エネルギ蓄積装置と、電気エネルギを発生させるためのジェネレータとしての機能を有する第2の電気機械エネルギ変換装置と、ピストン往復機関などの内燃機関とを搭載し、
前記内燃機関は前記第2の電気機械エネルギ変換装置の駆動を目的とし、
前記内燃機関は燃焼室壁によって包囲された少なくとも1つの燃焼室と少なくとも1つの作動ピストンとを有し、前記燃焼室の容積は前記作動ピストンの運動によって可変し、前記燃焼室は少なくとも一時的に完全にまたはほぼ完全に気密密閉可能である、電動車両の内燃機関始動プロセス制御方法であって、
前記内燃機関が始動していない状態から、
- 前記第2の電気機械エネルギ変換装置を用いて前記内燃機関を駆動するステップと、
- 前記燃焼室内の空気などの作動媒体を圧縮するステップと、
をこの順で行う内燃機関始動プロセス制御方法。」

[相違点1]
本件補正発明においては、「第2の電気機械エネルギ変換装置は内燃機関の始動を目的」とするのに対して、引用発明においては、暖機処理の目的で「発電機Gを用いてエンジン150を駆動」するものの、発電機Gがエンジン150の始動を目的とするものか不明である点。(以下「相違点1」という。)

[相違点2]
本件補正発明においては、内燃機関始動プロセスにおいて「前記燃焼室壁(10)の予熱温度を測定するステップと、前記予熱温度が所定の閾値(スタート温度)に達するかまたはそれを上回った後に、前記内燃機関(2)を始動して、前記内燃機関(2)から前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)へのトルク伝動を開始させるステップ」を有するのに対して、引用発明においては、始動に関するプロセスがどのようなものか不明である点。(以下「相違点2」という。)

以下、上記相違点について検討する。

[相違点1について]
エンジンと電動機及び発電機とを備えたハイブリッド車輌において、エンジンの始動の際に、発電機がエンジンのクランキングを行うことは、例えば、特開2010-149701号公報の段落【0017】,【0018】の記載及び図2等に示されるように周知(以下、「周知の技術1」という。)であるから、引用発明において、同一の技術分野における上記周知の技術1を適用し、発電機Gを、エンジン150をクランキングして始動することを目的として設けることにより、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
エンジンと電動機及び発電機とを備えたハイブリッド車輌において、冷間始動時の始動性の向上やエミッション低下防止のために、エンジンの始動前に予熱を行い、シリンダブロック等の温度を測定して所定の温度域に達した場合に始動を行うことは、例えば特開2004-52672号公報の段落【0017】、【0033】ないし【0034】、図3等に示されるように周知(以下、「周知の技術2」という。)であるから、
引用発明において、同一の技術分野における上記周知の技術2を適用し、発電機Gを用いてエンジン150を駆動する段階、燃焼室152内の空気を断熱圧縮する段階による暖機(予熱)に続けて、シリンダブロックの一部である燃焼室壁の温度を測定して所定の温度域に達した場合にエンジン150の始動を行い、エンジン150が発電機Gを駆動してトルク伝動を開始する段階を設けることにより、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知の技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明並びに周知の技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成26年9月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成25年2月15日に提出された国内書面に添付された明細書、図面の翻訳文及び国際出願時の図面の記載からみて、上記第2の[理由]の1.(1)に記載したとおりのものである。

2.引用例
原査定の理由に引用された引用例及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2の[理由]の2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本件発明は、上記第2の[理由]の1.で検討した本件補正発明における、
「- 前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)を用いて前記内燃機関(2)を駆動するステップと、
- 前記燃焼室(11)内の空気などの作動媒体を圧縮するステップと、
- 前記燃焼室壁(10)の予熱温度を測定するステップと、
- 前記予熱温度が所定の閾値(スタート温度)に達するかまたはそれを上回った後に、
前記内燃機関(2)を始動して、前記内燃機関(2)から前記第2の電気機械エネルギ変換装置(3)へのトルク伝動を開始させるステップ」の限定事項である、「内燃機関(2)が始動していない状態から」行う旨及び「この順で行う」旨を削除したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2の[理由]の3.に記載したとおり、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、引用発明並びに周知の技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-24 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-13 
出願番号 特願2013-524373(P2013-524373)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
発明の名称 電動車両の内部発電を始動させるための方法  
代理人 特許業務法人R&C  

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