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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W |
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管理番号 | 1311604 |
審判番号 | 不服2014-5131 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-03-18 |
確定日 | 2016-02-24 |
事件の表示 | 特願2009-549587「アドホック無線ネットワークにおけるIP移動性及びIPルーティングを改善する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月21日国際公開、WO2008/100381、平成22年 5月27日国内公表、特表2010-518780〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成20年1月30日(パリ条約による優先権主張 平成19年2月12日 米国、平成19年6月30日 米国)の出願であって、平成25年11月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成26年3月18日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものであり、その後、当審による平成27年2月26日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年9月3日付けで手続補正がなされたものである。 第2.本件発明について 本願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成27年9月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 「複数の移動基地局を含み複数の無線デバイスをサポートするアドホック無線ネットワークにおいてパケットをルーティングするための方法であって、 前記複数の移動基地局の第1の移動基地局でユーザパケットを受信するステップであって、該ユーザパケットが前記第1の移動基地局に対応付けられた第1の無線デバイスから受信されるものであり、前記ユーザパケットが前記複数の移動基地局の第2の移動基地局に対応付けられた第2の無線デバイスに向けられるものであり、前記ユーザパケットが前記第2の無線デバイスの識別子を含み、 前記第1の移動基地局が複数の無線インターフェイスを含み、前記複数の無線インターフェイスは、 前記無線デバイスの内の1つとの無線通信をサポートするように構成される無線アクセスインターフェイスと、 前記第1の移動基地局と前記複数の移動基地局の少なくとも1つの他の移動基地局との間の無線メッシュ通信をサポートするように構成される無線メッシュインターフェイスと、 前記第1の移動基地局と無線バックホールネットワークとの間の無線バックホール通信をサポートするように構成される無線バックホールインターフェイスからなり、 前記第1の移動基地局が、前記アドホック無線ネットワークの前記複数の無線デバイス各々について、前記無線デバイスが現在対応付けられている移動基地局の表示を含む対応テーブルを含んでいる、ステップ、 前記第2の無線デバイスの識別子および前記対応テーブルに基づいて前記第1の移動基地局で前記第2の移動基地局を特定するステップ、 カプセル化ユーザパケットを形成するために受信された前記ユーザパケットをカプセル化するステップであって、該受信された前記ユーザパケットをカプセル化するステップが前記受信されたユーザパケットを前記カプセル化ユーザパケットのペイロードとして挿入し、前記ユーザパケットは前記第2の移動基地局の識別子からなるヘッダを用いてカプセル化される、ステップ、及び 前記カプセル化ユーザパケットを前記第1の基地局から前記第1の基地局の前記無線メッシュインターフェイスを介して前記第2の基地局に向けて伝搬させるステップからなる方法。」 第3.引用例 1.平成27年2月26日付けの拒絶理由通知に引用された、特開2003-333053号公報(以下「引用例1」という。下線は当審が付与した。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「そこで本発明は、配置場所や配線を考慮することなく、アクセスポイントやゲートウェイを手軽に設置して、簡単にネットワークを形成することができる自律形成型無線LAN方式を提供することを目的とする。」【0006】 (イ)「本発明の請求項1における自律形成型無線LAN方式は、複数のアクセスポイントと、インターネットとのアクセス手段を提供するゲートウェイとを構成要素とし、前記アクセスポイント間及び前記アクセスポイントと前記ゲートウェイ間に無線リンクを自律的に形成し、無線端末間あるいは無線端末と前記ゲートウェイ間のパケット通信を、一または複数の前記アクセスポイント及び前記無線リンクを経由して行なうものである。」(【0007】) (ウ)「図1は、各実施例に共通して提案される無線マルチホップLAN(Wireless Multihop LAN:WMLAN)と呼ばれる装置の好適な構成図を示したものである。同図において、AP1?AP4は固定若しくは移動可能なアクセスポイント、MS1?MS3は携帯可能で移動可能な無線端末すなわちモバイル端末で、各アクセスポイントAP1?AP4の電波到達範囲内で、これらのアクセスポイントAP1?AP4を介しての情報のやり取りが可能になっている。携帯端末MS1?MS3やアクセスポイントAP1?AP4が移動することにより、例えば携帯端末MS3が一つのアクセスポイントAP3から別のアクセスポイントAP4に所属を変更する場合がある。これをローミングという。この場合、本実施例では、元のアクセスポイントAP3へ到着するデータパケットを現在のアクセスポイントAP4へ転送するアクセスポイント間通信手順を有する。なお、アクセスポイントAP1?AP4やモバイル端末MS1?MS3の数は、実施例中のものに限定されない。 本実施例では、アクセスポイントAP1?AP4の移設や移動を可能にする観点から、各アクセスポイントAP1?AP4間が無線リンクで接続される。具体的には、無線LANのアクセスポイントAP1?AP4は、例えば個人が自宅の玄関先に設置したり、自治体が街路沿いに設置したり、バス会社が停留所沿いに設置したり、タクシーや自家用車などの移動体に設置することが考えられる。例えば始点のアクセスポイントAP1と終点のアクセスポイントAP4が離れていて、1ホップでアクセスポイントAP1からAP4へのパケット転送ができないときには、途中にある他のアクセスポイントAP2,AP3を中継に使い、マルチホップで終点のアクセスポイントAP4にパケット転送を行なう。こうした形態を特に無線マルチホップLAN(WMLAN)と呼ぶと共に、無線マルチホップLANで利用するアクセスポイントAP1?AP4を、マルチホップアクセスポイントと呼ぶ。 一方、モバイルMS1?MS3は、通常の無線LAN(WLAN)で使用する端末であり、特別の機能を必要としない。つまり、上記の例ではモバイルMS1とアクセスポイントAP1との間、およびアクセスポイントAP4とモバイルMS3との通信手順は従来のWLANによるものと同じ方式であり、始点のアクセスポイントAP1と終点のアクセスポイントAP4との間の通信手順は、各モバイルMS1,MS3から見れば隠された状態にある。これにより、既存の端末をそのまま無線マルチホップLANに組み入れることができる。 無線マルチホップLANでは、アクセスポイントAP1?AP4間の接続に、モバイルアドホックネットワーク(MANET)を用いる。モバイルアドホックネットワークそのものは、アクセスポイントが介在せず、モバイル端末どうしが直接無線で情報を交換するネットワーク(電子情報通信学会誌 Vol84 No.2 pp.127?134 2001年2月参照)として知られている。このモバイルアドホックネットワークでは、従来の移動通信ネットワークの構成に不可欠な要素であった基地局や、基地局間間を結ぶ有線網に依存せず、モバイル端末が自身を構成要素として互いに対等で自律分散的に振る舞い、しかも電波が届かず直接情報を交換できないモバイル端末どうしでは、途中のモバイル端末を中継して情報交換を行なうことができる機能を備えている。これをモバイル端末間ではなく、アクセスポイントAP1?AP4間や、後述するゲートウェイGW1?GW3とアクセスポイントAP1?AP4間の接続に利用したことに特徴がある。 そして、各アクセスポイントAP1?AP4は、WLANのアクセスポイントして機能する一方で、アクセスポイントAP1?AP4間の通信は、MANETのワイヤレスマルチホップ機能を利用して行なう。すなわち、各々のアクセスポイントAP1?AP4は、モバイルMS1?MS3と通信を行なうためにWLANサービスを提供する第1の無線装置11と、他のアクセスポイントAP1?AP4とMANETの無線マルチポップ通信を行なうための第2の無線装置12とからなる二つの無線インターフェースを有する。」(【0040】?【0044】) (エ)「図4は、IP-IPカプセル化に基づくWMLANのプロトコル階層構造を図示したものである。ここでも、アクセスポイントAP1に従属するモバイル端末MS1から、アクセスポイントAP3に従属するモバイル端末MS3に、マルチホップでのパケット転送を行なう例を考える。 WLANレイヤ21は、いくつかのBSSのかたまりとして構成され、一つのBSSが一つの物理ネットワークを構成する。また、前記図3におけるTCP/IP層33に代わり、ここではプロトコル階層構造トランスポート層単独のTCP/UDP層37と、ネットワーク層であるIP層38を分けて記述している。 あるBSSのモバイル端末MS1が、別のBSSに属するモバイル端末MS2にフレームを送ったと仮定する。モバイル端末MS1は、デフォルト(初期設定)のルートとして、モバイル端末MS1と同じBSSのアクセスポイントAP1を選択する。始点のアクセスポイントAP1が受け取ったIPパケットは、このアクセスポイントAP1でIPカプセル化され、目的のアクセスポイントAP3へと無線マルチホップを行ないながら転送される。そして、終点のアクセスポイントAP3がIPパケットを受け取ると、そのアクセスポイントAP3はパケット内にカプセル化されたフレームを取り出して復元し、自分のエリア内に従属する宛先のモバイル端末MS2にIPパケットを送信する。 ここでは、通信中における各モバイル端末MS1?MS3の移動をサポートするために、モバイル端末MS1?MS3のIPアドレスが移動により変わることのないようにする。始点のアクセスポイントAP1は、転送先のモバイル端末MS2のネットワークアドレスであるIPアドレスに対応する終点のアクセスポイントAP3のIPアドレスを解明する必要がある。そのために、各アクセスポイントAP1?AP3は、個々のアクセスポイントAP1?AP4とそこに従属するモバイル端末MS1?MS3のIPアドレスのリストを管理する。 このように、上記WMLANでは、個々のアクセスポイントAP1?AP4がモバイル端末MS1?MS3に対し通常のWLANサービスを提供する一方で、アクセスポイントAP1?AP4間ではMANETによる無線マルチポップ通信で接続される。したがって、アクセスポイントAP1?AP4の追加や除去によって、WMLANで構築されるネットワークのサイズを容易に変更できる。」(【0052】?【0056】) (オ)「図1に示すWMLANのトポロジー構成では、各モバイル端末MS1?MS3がWMLANを経由してインターネットにアクセスできる環境を構築するために、WNLANとインターネットとを接続するインターネットアクセスゲートウェイが必要になる。図8は、その例を示したものである。 ・・・途中省略・・・ またRT1?RT3はゲートウェイGWとインターネット網43との間に接続するルーターで、これは周知のように、異なるネットワーク間でパケットを中継するための機器として、各ゲートウェイGW1?GW3毎に設けられる。なお、WMLAN40の構成は図1に示すものと共通している。」(【0091】) なお、上記(エ)で「アクセスポイントAP1に従属するモバイル端末MS1から、アクセスポイントAP3に従属するモバイル端末MS3に、マルチホップでのパケット転送を行なう例を考える。」と記載されている『モバイル端末MS3』は、図4の記載から明らかに『モバイル端末MS2』の誤記である。 上記(ア)?(オ)の記載から引用例1には、 「複数の移動可能なアクセスポイントAP1?AP4と、インターネットとのアクセス手段を提供するゲートウェイとを構成要素とし、前記アクセスポイント間及び前記アクセスポイントと前記ゲートウェイ間に無線リンクを自律的に形成し、無線端末間あるいは無線端末と前記ゲートウェイ間のパケット通信を、一または複数の前記アクセスポイント及び前記無線リンクを経由して行なう自律形成型無線LAN方式において、アクセスポイントAP1に従属するモバイル端末MS1から、アクセスポイントAP3に従属するモバイル端末MS2に、マルチホップでのパケット転送を行なう方法であって、 モバイル端末MS1が、モバイル端末MS2にフレームを送るに際して、モバイル端末MS1は、デフォルト(初期設定)のルートとして、モバイル端末MS1と同じBSSのアクセスポイントAP1を選択し、始点のアクセスポイントAP1が受け取ったIPパケットは、このアクセスポイントAP1でIPカプセル化され、目的のアクセスポイントAP3へと無線マルチホップを行ないながら転送し、 アクセスポイントAP1?AP4は、モバイルMS1?MS3と通信を行なうためにWLANサービスを提供する第1の無線装置11と、他のアクセスポイントAP1?AP4とMANETの無線マルチポップ通信を行なうための第2の無線装置12とからなる二つの無線インターフェースを有し、 アクセスポイントAP1?AP3は、個々のアクセスポイントAP1?AP4とそこに従属するモバイル端末MS1?MS3のIPアドレスのリストを管理し、 始点のアクセスポイントAP1は、転送先のモバイル端末MS2のネットワークアドレスであるIPアドレスに対応する終点のアクセスポイントAP3のIPアドレスを解明する方法」 が記載されている。(以下「引用発明1」という) 2.平成27年2月26日付けの拒絶理由通知に引用された、特開2005-236767号公報(以下「引用例2」という。)、特表2007-502056号公報(以下「引用例3」という。)、特表2005-535172号公報(以下「引用例4」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。 2-1.引用例2 (カ)「本発明は、複数の通信装置が互いに接続することによりアドホックネットワークを構築する通信システム、通信装置及び中継装置並びに通信方法に関する。」(【0001】) (キ)「本実施例に係る通信システムは、無線LAN基地局3-1?3-4を備えるネットワーク1を備える。ネットワーク1は、ゲートウェイ5-1及び5-2を介して他のネットワーク2と接続されている。また、無線LAN端末4-1は、ネットワーク1と無線により接続可能である。無線LAN基地局3-1?3-4は、例えば、ネットワーク1内での経路制御機能を有する通信装置である。また、無線LAN端末4-1は、ネットワーク1内での経路制御機能を有さない通信装置である。 無線LAN基地局3-1、3-2、3-3、3-4は、互いに無線で接続することができ、また、無線LAN基地局3-4とゲートウェイ5-1、無線LAN基地局3-3とゲートウェイ5-2は無線で接続される。即ち、メッシュネットワークを構成する。」(【0029】、【0030】) 2-2.引用例3 (ク)「NAP101は、メッシュゲートウェイ103と通信可能であり、バックホール通信リンク107を介してネットワーク106と直接的に通信可能であり、及び/又は近隣のノード102に通信可能である。バックホールは有線でも無線でもかまわないことが理解されるべきである。」(【0015】) 2-3.引用例4 (ケ)「システム20は、無線基地局24と、複数の加入者局28a、28b…28nとを含む。無線基地局24は、適切なゲートウェイと、T1、T3、E1、E3、OC3又は他の適切な地上回線リンクや、衛星、他の無線又はマイクロ波チャネルリンクや、バックホールとして動作するのに適した他の任意のリンクであり得る、当業者に自明の1つ以上のバックホール(図示せず)とによって、地上回線ベースの交換データネットワーク、パケットネットワーク等の少なくとも1つのデータ通信ネットワーク(図示せず)に接続されている。」(【0012】) 2-4.引用例2?4に記載されている事項(周知技術) 上記(カ)?(ケ)の記載から、引用例2?4には、 「無線基地局に無線バックホールネットワークと接続するための無線インターフェイスを備えること」(以下「周知技術」という。)との事項が記載されている。 第3.本件発明と引用発明1の対比 1.引用発明1の『アクセスポイントAP1』及び『アクセスポイントAP3』は上記(ウ)に「AP1?AP4は固定若しくは移動可能なアクセスポイント」、「無線LANのアクセスポイントAP1?AP4は、例えば・・・途中省略・・・タクシーや自家用車などの移動体に設置することが考えられる。」と記載されているように移動可能なものであるから、それぞれ本件発明でいうところの『第1の移動基地局』及び『第2の移動基地局』に相当する。 2.引用発明1の『モバイル端末MS1』及び『モバイル端末MS2』は、それぞれ本件発明でいうところの『第1の無線デバイス』及び『第2の無線デバイス』に相当する。 3.引用発明1の『複数のアクセスポイントと、インターネットとのアクセス手段を提供するゲートウェイとを構成要素とし、前記アクセスポイント間及び前記アクセスポイントと前記ゲートウェイ間に無線リンクを自律的に形成し、無線端末間あるいは無線端末と前記ゲートウェイ間のパケット通信を、一または複数の前記アクセスポイント及び前記無線リンクを経由して行なう自律形成型無線LAN方式において』は、上記(ア)に記載されているように、「配置場所や配線を考慮することなく、アクセスポイントやゲートウェイを手軽に設置して、簡単にネットワークを形成する」ものであり、上記(イ)に記載されているように「無線端末間あるいは無線端末と前記ゲートウェイ間のパケット通信を、一または複数の前記アクセスポイント及び前記無線リンクを経由して行なうもの」であるから本件発明でいうところの『複数の移動基地局を含み複数の無線デバイスをサポートするアドホック無線ネットワーク』に相当し、引用発明1の『アクセスポイントAP1に従属するモバイル端末MS1から、アクセスポイントAP3に従属するモバイル端末MS2に、マルチホップでのパケット転送を行なう方法』は、無線LAN内でパケットを転送する方法であるから、本件発明でいうところの『パケットをルーティングするための方法』に相当する。 4.引用発明1は、『アクセスポイントAP1に従属するモバイル端末MS1から、アクセスポイントAP3に従属するモバイル端末MS2に、マルチホップでのパケット転送を行なう』際、『モバイル端末MS1が、モバイル端末MS2にフレームを送るに際して、モバイル端末MS1は、デフォルト(初期設定)のルートとして、モバイル端末MS1と同じBSSのアクセスポイントAP1を選択し、始点のアクセスポイントAP1が受け取ったIPパケットは、このアクセスポイントAP1でIPカプセル化され、目的のアクセスポイントAP3へと無線マルチホップを行ないながら転送』するものであるから、「アクセスポイントAP1はモバイル端末MS1から送信されたIPパケットを受信し、当該IPパケットはアクセスポイントAP3の管理下にあるモバイル端末MS2へ向けられたものである」と言える。そして、モバイル端末MS2へ向けられてモバイル端末MS1から送信されたIPパケットには、宛先としてモバイル端末MS2の識別子が含まれていることは自明である。 してみると、引用発明1は本件発明でいうところの『前記複数の移動基地局の第1の移動基地局でユーザパケットを受信するステップであって、該ユーザパケットが前記第1の移動基地局に対応付けられた第1の無線デバイスから受信されるものであり、前記ユーザパケットが前記複数の移動基地局の第2の移動基地局に対応付けられた第2の無線デバイスに向けられるものであり、前記ユーザパケットが前記第2の無線デバイスの識別子を含み』なる事項を有している。 5.引用発明1の『アクセスポイントAP1?AP4は、モバイルMS1?MS3と通信を行なうためにWLANサービスを提供する第1の無線装置11』及び『他のアクセスポイントAP1?AP4とMANETの無線マルチポップ通信を行なうための第2の無線装置12』は、それぞれ本件発明でいうところの『無線デバイスの内の1つとの無線通信をサポートするように構成される無線アクセスインターフェイス』及び『前記第1の移動基地局と前記複数の移動基地局の少なくとも1つの他の移動基地局との間の無線メッシュ通信をサポートするように構成される無線メッシュインターフェイス』に相当する。 また、本件発明でいうところの『前記第1の移動基地局とバックホールネットワークとの間のバックホール通信をサポートするように構成されるバックホールインターフェイス』とは、本願の【図2】を参酌するに移動基地局と既存のネットワークインフラであるインターネットとを無線接続するために利用されるインターフェイスである。そして、引用発明1においても、上記(イ)、(ウ)に記載されているように、引用発明1に係るアクセスポイントは、インターネットとのアクセス手段を提供するゲートウェイと接続されているから、引用発明1に係る『アクセスポイント』には、本件発明でいうところの『前記第1の移動基地局とバックホールネットワークとの間のバックホール通信をサポートするように構成されるバックホールインターフェイス』が備わっているものと認められる。 6.引用発明1のアクセスポイントAP1?AP3は、『個々のアクセスポイントAP1?AP4とそこに従属するモバイル端末MS1?MS3のIPアドレスのリストを管理』しているのであるから、引用発明1に係るアクセスポイントは、本件発明でいうところの『前記第1の移動基地局が、前記アドホック無線ネットワークの前記複数の無線デバイス各々について、前記無線デバイスが現在対応付けられている移動基地局の表示を含む対応テーブル』を有している。 7.引用発明1のアクセスポイントAP1は、『転送先のモバイル端末MS2のネットワークアドレスであるIPアドレスに対応する終点のアクセスポイントAP3のIPアドレスを解明する』のであり、その際、アクセスポイントが管理している『モバイル端末のIPアドレスのリスト』を用いることは当然のことであるから、引用発明1に係るアクセスポイントAP1は、本件発明でいうところの『前記第2の無線デバイスの識別子および前記対応テーブルに基づいて前記第1の移動基地局で前記第2の移動基地局を特定するステップ』を有している。 8.引用発明1のアクセスポイントAP1は、『受け取ったIPパケットは、このアクセスポイントAP1でIPカプセル化され、目的のアクセスポイントAP3へと無線マルチホップ』を行うものであり、その際、アクセスポイントAP1は『始点のアクセスポイントAP1は、転送先のモバイル端末MS2のネットワークアドレスであるIPアドレスに対応する終点のアクセスポイントAP3のIPアドレスを解明する』のであるから、受け取ったIPパケットをカプセル化する際、アクセスポイントAP3のIPアドレスをヘッダに用いることは自明である。 してみると、引用発明1は本件発明でいうところの『カプセル化ユーザパケットを形成するために受信された前記ユーザパケットをカプセル化するステップであって、該受信された前記ユーザパケットをカプセル化するステップが前記受信されたユーザパケットを前記カプセル化ユーザパケットのペイロードとして挿入し、前記ユーザパケットは前記第2の移動基地局の識別子からなるヘッダを用いてカプセル化される、ステップ』を有している。 9.引用発明1においては、始点のアクセスポイントAP1が受け取ったIPパケットは、このアクセスポイントAP1でIPカプセル化され、目的のアクセスポイントAP3へと無線マルチホップを行ないながら転送するに際して、上記(イ)、(ウ)に記載されているように、アクセスポイント間を無線でカプセル化されたIPパケットを転送するものである。 してみると、引用発明1は本件発明でいうところの『カプセル化ユーザパケットを前記第1の基地局から前記第1の基地局の前記無線メッシュインターフェイスを介して前記第2の基地局に向けて伝搬させるステップ』を有している。 したがって、本件発明と引用発明1は、 「複数の移動基地局を含み複数の無線デバイスをサポートするアドホック無線ネットワークにおいてパケットをルーティングするための方法であって、 前記複数の移動基地局の第1の移動基地局でユーザパケットを受信するステップであって、該ユーザパケットが前記第1の移動基地局に対応付けられた第1の無線デバイスから受信されるものであり、前記ユーザパケットが前記複数の移動基地局の第2の移動基地局に対応付けられた第2の無線デバイスに向けられるものであり、前記ユーザパケットが前記第2の無線デバイスの識別子を含み、 前記第1の移動基地局が複数の無線インターフェイスを含み、前記複数の無線インターフェイスは、 前記無線デバイスの内の1つとの無線通信をサポートするように構成される無線アクセスインターフェイスと、 前記第1の移動基地局と前記複数の移動基地局の少なくとも1つの他の移動基地局との間の無線メッシュ通信をサポートするように構成される無線メッシュインターフェイスと、 前記第1の移動基地局とバックホールネットワークとの間のバックホール通信をサポートするように構成されるバックホールインターフェイスからなり、 前記第1の移動基地局が、前記アドホック無線ネットワークの前記複数の無線デバイス各々について、前記無線デバイスが現在対応付けられている移動基地局の表示を含む対応テーブルを含んでいる、ステップ、 前記第2の無線デバイスの識別子および前記対応テーブルに基づいて前記第1の移動基地局で前記第2の移動基地局を特定するステップ、 カプセル化ユーザパケットを形成するために受信された前記ユーザパケットをカプセル化するステップであって、該受信された前記ユーザパケットをカプセル化するステップが前記受信されたユーザパケットを前記カプセル化ユーザパケットのペイロードとして挿入し、前記ユーザパケットは前記第2の移動基地局の識別子からなるヘッダを用いてカプセル化される、ステップ、及び 前記カプセル化ユーザパケットを前記第1の基地局から前記第1の基地局の前記無線メッシュインターフェイスを介して前記第2の基地局に向けて伝搬させるステップからなる方法。」 で一致し、下記の点で相違する。 [相違点] 本件発明は「第1の移動基地局には無線バックホールインターフェイスが備わっている」のに対し、引用発明1におけるアクセスポイントAP1が備えているバックホールインターフェイスが『無線』か否か明示されていない点、及び、引用発明1におけるアクセスポイントAP1が備えているバックホールインターフェイスが他のインターフェイスとは別個に備えられているものであるか明示されていない点。 第4.当審の判断 上記相違点について検討する。 [相違点]について 上記「第3.引用例 2-4.引用例2?4に記載されている事項(周知技術)」で言及したように、「無線基地局に無線バックホールネットワークと接続するための無線インターフェイスを備えること」は周知技術であること、また、引用例1においても上記(イ)に「アクセスポイントと前記ゲートウェイ間に無線リンクを自律的に形成し」と記載されているように、アクセスポイントとバックホールネットワークであるインターネットとを接続するためのゲートウェイとを無線で接続することが示唆されていること、とを合わせ鑑みると、引用発明1におけるアクセスポイントAP1が備えているバックホールインターフェイスを無線バックホールインターフェイスとすることは当業者にとって容易になし得るものと認められる。 また、引用発明1におけるアクセスポイントAP1が備えているバックホールインターフェイスを他のインターフェイスと共用するのではなく別個に備える様にすることは当業者であれば適宜なし得る設計的事項である。 そして、本件発明のように構成したことによる効果も引用発明1及び周知技術から予測できる範囲のものである。 したがって、本件発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 第5.むすび 以上のとおり、本件発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-28 |
結審通知日 | 2015-09-29 |
審決日 | 2015-10-13 |
出願番号 | 特願2009-549587(P2009-549587) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04W)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 望月 章俊、角田 慎治 |
特許庁審判長 |
加藤 恵一 |
特許庁審判官 |
佐藤 智康 吉田 隆之 |
発明の名称 | アドホック無線ネットワークにおけるIP移動性及びIPルーティングを改善する方法及び装置 |
代理人 | 吉澤 弘司 |
代理人 | 岡部 讓 |