• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1311617
審判番号 不服2015-9960  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-28 
確定日 2016-03-15 
事件の表示 特願2013-525505「ハイブリッド車両の制御装置および制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月31日国際公開、WO2013/014772、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年7月27日を国際出願日とする出願であって、平成26年1月17日に国内書面が提出されるとともに、同日に手続補正書及び上申書が提出され、平成26年12月5日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年2月27日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年5月28日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成27年11月24日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年1月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年1月17日付けの手続補正により補正された明細書及び図面並びに平成28年1月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
エンジンおよび走行用電動機を搭載したハイブリッド車両の制御装置であって、
車両の状態に基づいて、前記エンジンを停止して前記走行用電動機の出力で走行する第1の走行モードと前記エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モードとの選択を伴って車両走行するための走行制御部と、
前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更に伴って前記エンジンを始動する一方で、前記第2の走行モードから前記第1の走行モードへの変更に伴って前記エンジンを停止するためのエンジン制御部とを備え、
前記走行制御部は、前記車両走行における一定期間内における前記エンジンの停止回数に基づいて、前記エンジンの間欠始動の頻度が高いときには前記間欠始動の頻度が低いときと比較して、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更が抑制されるように前記ハイブリッド車両の走行を制御し、
前記走行制御部は、前記第1の走行モードにおいて前記ハイブリッド車両の要求パワーが閾値よりも高くなると、前記第2の走行モードへの変更を指示し、
前記閾値は、前記間欠始動の頻度が高いときには、前記間欠始動の頻度が低いときよりも高い値に設定される、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
エンジンおよび走行用電動機を搭載したハイブリッド車両の制御装置であって、
車両の状態に基づいて、前記エンジンを停止して前記走行用電動機の出力で走行する第1の走行モードと前記エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モードとの選択を伴って車両走行するための走行制御部と、
前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更に伴って前記エンジンを始動する一方で、前記第2の走行モードから前記第1の走行モードへの変更に伴って前記エンジンを停止するためのエンジン制御部とを備え、
前記走行制御部は、前記車両走行における一定期間内における前記エンジンの停止回数に基づいて、前記エンジンの間欠始動の頻度が高いときには前記間欠始動の頻度が低いときと比較して、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更が抑制されるように前記ハイブリッド車両の走行を制御し、
前記ハイブリッド車両は、前記走行用電動機に入出力される電力を蓄積するための蓄電装置と、前記エンジンの出力によって前記蓄電装置の充電電力を発生するために発電機構とをさらに搭載し、
前記走行制御部は、前記第1の走行モードにおいて、前記蓄電装置のSOCが所定値よりも低下すると前記蓄電装置を充電するために前記エンジンを始動するとともに、前記第2の走行モードでは、前記SOCを制御目標に近付けるように前記蓄電装置の充放電を制御し、
前記制御目標は、前記間欠始動の頻度が高いときに、前記間欠始動の頻度が低いときよりも高く設定される、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記一定期間内における前記エンジンの停止回数と、車両走行中に前記エンジンが停止した際における停止継続時間とに基づいて、前記停止回数が多く、かつ、前記停止継続時間が短いほど、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更を抑制する、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
エンジンおよび走行用電動機を搭載したハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、車両の状態に基づいて、前記エンジンを停止して前記走行用電動機の出力で走行する第1の走行モードと前記エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モードとを選択するように構成され、
前記制御方法は、
車両走行中に前記エンジンの停止および作動に応じて、前記車両走行における一定期間内における前記エンジンの停止回数を管理するステップと、
前記一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、前記エンジンの間欠始動の頻度が高いときには前記間欠始動の頻度が低いときと比較して、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更が抑制されるように前記ハイブリッド車両の走行を制御するステップとを備え、
前記制御するステップは、
前記第1の走行モードにおいて前記ハイブリッド車両の要求パワーが閾値よりも高くなると、前記第2の走行モードへの変更を指示するステップと、
前記間欠始動の頻度が高いときに、前記閾値を、前記間欠始動の頻度が低いときよりも高い値に設定するステップとを含む、ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
エンジンおよび走行用電動機を搭載したハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、車両の状態に基づいて、前記エンジンを停止して前記走行用電動機の出力で走行する第1の走行モードと前記エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モードとを選択するように構成され、
前記制御方法は、
車両走行中に前記エンジンの停止および作動に応じて、前記車両走行における一定期間内における前記エンジンの停止回数を管理するステップと、
前記一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、前記エンジンの間欠始動の頻度が高いときには前記間欠始動の頻度が低いときと比較して、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更が抑制されるように前記ハイブリッド車両の走行を制御するステップとを備え、
前記ハイブリッド車両は、前記走行用電動機に入出力される電力を蓄積するための蓄電装置と、前記エンジンの出力によって前記蓄電装置の充電電力を発生するために発電機構とをさらに搭載し、
前記制御するステップは、
前記第1の走行モードにおいて、前記蓄電装置のSOCが所定値よりも低下すると前記蓄電装置を充電するために前記エンジンを始動するステップと、
前記第2の走行モードにおいて、前記SOCを制御目標に近付けるように前記蓄電装置の充放電を制御するステップと、
前記間欠始動の頻度が高いときに、前記制御目標を、前記間欠始動の頻度が低いときよりも高く設定するステップとを含む、ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記管理するステップは、前記一定期間内におけるエンジンの停止回数と、前記エンジンが停止した際における停止継続時間とを管理し、
前記制御するステップにおいて、前記停止回数が多く、かつ、前記停止継続時間が短いほど、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更が抑制される、請求項4または5に記載のハイブリッド車両の制御方法。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-8
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献1には、ハイブリッド車両において、エンジンを停止してからの経過時間が予め設定された基準値よりも短い場合にエンジンを停止した第1の走行モードからエンジンの作動を伴う第2の走行モードへの変更が抑制(具体的には、禁止)されていることが開示若しくは示唆されている(例えば段落【0051】-【0060】等参照)。
引用文献2には、エンジンの停止する頻度(一定時間内におけるエンジンの停止回数)が高い場合にSOCの目標値を高くし、エンジンの停止する頻度が低い場合にSOCの目標値を低く設定している例が開示若しくは示唆されている(例えば段落【0030】,【0031】等参照)。
さらに、エンジンを停止した第1の走行モードからエンジンの作動を伴う第2の走行モードへの変更を抑制する制御に、車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数を用いることは、従来より周知である(以下、「周知の技術」という。必要ならば、周知例1の段落[0082],[0083],図8等参照。)。
よって、引用文献1,2に係る発明は、エンジンの始動・停止の頻度を抑制し、燃費を向上させるという共通の課題を有するものであるから、したがって、引用文献1に記載のハイブリッド車両において、引用文献2に記載の技術思想及び上記周知の技術を参照して、エンジンを停止してからの経過時間や一定時間内におけるエンジンの停止回数を用いて、エンジンを停止した第1の走行モードからエンジンの作動を伴う第2の走行モードへの変更が抑制される構成とすることに格別の困難性があるとは認められない。
よって、請求項1-8に係る発明は、引用文献1,2に記載の技術思想及び上記周知の技術から当業者が容易になし得たものである。
なお、走行モードの変更を実行するか判定するのに要求パワーを用いることは、SOCと要求パワーとが関連することを勘案すると、当業者がエンジンの始動・停止の頻度、燃費向上を考慮しつつ適宜選択し得る事項である。

なお、本願に関連する国際公開第2013/014772号の国際調査報告も参照してください。

引 用 文 献 等 一 覧

刊行物1:特開2000-324613号公報
刊行物2:特開2004-201411号公報
周知例1:特開2008-094238号公報

2.原査定の理由の判断
(1)刊行物
a)刊行物1の記載等
図1ないし13及び明細書全体の記載からみて、刊行物1には以下の発明が記載されている。
「エンジン12およびモータジェネレータ14を搭載したハイブリッド車両の制御装置であって、
車速やアウトプットトルクのパラメータに基づいて、モータジェネレータ14によって走行する態様とエンジン12によって走行する態様との切り換えを伴って走行するための原動機切換判断手段102と、
モータジェネレータ14によって走行する態様からエンジン12によって走行する態様への切り換えにあたってエンジン12を始動する一方で、エンジン12によって走行する態様からモータジェネレータ14によって走行する態様への切り換えにあたってエンジン12を停止する原動機駆動制御手段100とを備え、
原動機切換判断手段102によりエンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまでは、モータジェネレータ14によって走行する態様およびエンジン12によって走行する態様の一方から他方への切り換えを禁止するように制御する、ハイブリッド車両の制御装置。」(以下、「引用発明1」という。)

「エンジン12およびモータジェネレータ14を搭載したハイブリッド車両の制御方法であって、
ハイブリッド車両は、車速やアウトプットトルクのパラメータに基づいて、エンジン12を停止してモータジェネレータ14によって走行する態様と、エンジン12によって走行する態様とを切り換えるように構成され、
制御方法は、
エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたか判断する段階と、
エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまで、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14による走行の一方から他方への切り換えを禁止するようにハイブリッド車両の走行を制御する段階とを備える、ハイブリッド車両の制御方法。」(以下、「引用発明2」という。)

b)刊行物2の記載等
図1ないし3及び明細書全体の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されている。
「アイドルストップを行う車両において、アイドルストップの頻度に応じて蓄電池の充電状態が所定の範囲となるように制御する蓄電池充放電制御部を備え、アイドルストップの頻度が所定の閾値以上であれば、前記所定の範囲の上限値を高く設定する技術。」

(2)対比・判断
a)本願発明1について
引用発明1における「エンジン12」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1における「エンジン」に相当し、以下同様に、「モータジェネレータ14」は「走行用電動機」に、「車速やアウトプットトルクのパラメータ」は「車両の状態」に、「モータジェネレータ14によって走行する態様」は「エンジンを停止して走行用電動機の出力で走行する第1の走行モード」に、「エンジン12によって走行する態様」は「エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モード」に、「切り換えを伴って走行する」は「選択を伴って車両走行する」に、「原動機切換判断手段102」は「走行制御部」に、「モータジェネレータ14によって走行する態様からエンジン12によって走行する態様への切り換えにあたってエンジン12を始動する」は「第1の走行モードから第2の走行モードへの変更に伴ってエンジンを始動する」に、「エンジン12によって走行する態様からモータジェネレータ14によって走行する態様への切り換えにあたってエンジン12を停止する」は「第2の走行モードから第1の走行モードへの変更に伴ってエンジンを停止する」に、「原動機駆動制御手段100」は「エンジン制御部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1において「原動機切換判断手段102によりエンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまでは、モータジェネレータ14によって走行する態様およびエンジン12によって走行する態様の一方から他方への切り換えを禁止するように制御する」ことは、モータジェネレータ14によって走行する態様およびエンジン12によって走行する態様の一方から他方への頻繁な切り換えを抑制するものである。
したがって、「第1の走行モードから第2の走行モードへの頻繁な変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御する」という限りにおいて、引用発明1における「エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまでは、モータジェネレータ14によって走行する態様およびエンジン12によって走行する態様の一方から他方への切り換えを禁止するように制御する」は、本願発明1における「車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御する」と一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジンおよび走行用電動機を搭載したハイブリッド車両の制御装置であって、
車両の状態に基づいて、前記エンジンを停止して前記走行用電動機の出力で走行する第1の走行モードと前記エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モードとの選択を伴って車両走行するための走行制御部と、
前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更に伴って前記エンジンを始動する一方で、前記第2の走行モードから前記第1の走行モードへの変更に伴って前記エンジンを停止するためのエンジン制御部とを備え、
走行制御部は、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの頻繁な変更が抑制されるように前記ハイブリッド車両の走行を制御する、ハイブリッド車両の制御装置。」

[相違点1]
第1の走行モードから前記第2の走行モードへの頻繁な変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御することに関して、本願発明1においては、「車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御する」のに対して、引用発明1においては「エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまでは、モータジェネレータ14によって走行する態様およびエンジン12によって走行する態様の一方から他方への切り換えを禁止するように制御する」点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本願発明1においては、「走行制御部は、前記第1の走行モードにおいて前記ハイブリッド車両の要求パワーが閾値よりも高くなると、前記第2の走行モードへの変更を指示し、前記閾値は、前記間欠始動の頻度が高いときには、前記間欠始動の頻度が低いときよりも高い値に設定される」のに対して、引用発明1においては、そのような構成を有しない点(以下、「相違点2」という。)。

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
刊行物2記載の技術は、「アイドルストップを行う車両において、アイドルストップの頻度に応じて蓄電池の充電状態が所定の範囲となるように制御する蓄電池充放電制御部を備え、アイドルストップの頻度が所定の閾値以上であれば、前記所定の範囲の上限値を高く設定する技術」であって、蓄電池の充電状態を制御する技術に過ぎず、本願発明1のように、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制されるものではない。
したがって、引用発明1に刊行物2記載の技術を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項となるとはいえない。

[相違点2について]
刊行物2記載の技術や刊行物2の記載全体並びに図面をみても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項に関して記載や示唆はなされておらず、また、この点が周知の技術であるともいえない。
したがって、引用発明1に刊行物2記載の技術を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項となるとはいえない。

そうすると、本願発明1は、引用発明1及び刊行物2記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b)本願発明2及び3について
本願発明2及び本願発明1または2を引用する本願発明3は、いずれも、上記「a)[相違点1]」における、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である「車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制される」ことを発明特定事項に含むものである。
よって、本願発明2あるいは3を引用発明1と対比した場合、少なくとも、本願発明1と同様に、上記相違点1を有することになる。
そして、上記「(1)a)[相違点1について]」で述べたように、「引用発明1に刊行物2記載の技術を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項となるとはいえない」のであるから、本願発明2及び3においても、引用発明1に刊行物2記載の技術を適用して、上記相違点1に係る本願発明2及び3の発明特定事項となるとはいえない。

そうすると、本願発明2及び3は本願発明1と同様に、引用発明1及び刊行物2記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

c)本願発明4について
本願発明4と引用発明2とを対比すると、
引用発明2における「エンジン12」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明4における「エンジン」に相当し、以下同様に、「モータージェネレータ14」は「走行用電動機」に、「車速やアウトプットトルクのパラメータ」は「車両の状態」に、「エンジン12を停止してモータジェネレータ14によって走行する態様」は「エンジンを停止して走行用電動機の出力で走行する第1の走行モード」に、「エンジン12によって走行する態様」は「エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モード」に、「切り換える」は「選択する」に、「段階」は「ステップ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2において、「エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたか判断する段階と、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまで、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14による走行の一方から他方への切り換えを禁止するようにハイブリッド車両の走行を制御する段階を備える」ことは、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14による走行の一方から他方への頻繁な切り換えを抑制するものである。
よって、「第1の走行モードから前記第2の走行モードへの頻繁な変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御するステップとを備える」という限りにおいて、引用発明2における「エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたか判断する段階と、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまで、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14による走行の一方から他方への切り換えを禁止するようにハイブリッド車両の走行を制御する段階とを備える」は、本願発明4における「車両走行中にエンジンの停止および作動に応じて、車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数を管理するステップと、一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御するステップとを備える」と一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジンおよび走行用電動機を搭載したハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両は、車両の状態に基づいて、前記エンジンを停止して前記走行用電動機の出力で走行する第1の走行モードと前記エンジンの作動を伴って走行する第2の走行モードとを選択するように構成され、
前記制御方法は、
前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの頻繁な変更が抑制されるように前記ハイブリッド車両の走行を制御するステップを備える、ハイブリッド車両の制御方法。」

[相違点1]
第1の走行モードから第2の走行モードへの頻繁な変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御するステップを備えることに関して、本願発明4においては「車両走行中にエンジンの停止および作動に応じて、車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数を管理するステップと、一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御するステップ」を備えるのに対して、引用発明2においては「エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたか判断する段階と、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14の一方から他方への切り換え時点からの経過時間が予め設定された時間判断基準値を越えたと判断されるまで、エンジン12による走行およびモータジェネレータ14による走行の一方から他方への切り換えを禁止するようにハイブリッド車両の走行を制御する段階」を備える点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本願発明4においては、「制御するステップは、
第1の走行モードにおいてハイブリッド車両の要求パワーが閾値よりも高くなると、第2の走行モードへの変更を指示するステップと、
間欠始動の頻度が高いときに、閾値を、間欠始動の頻度が低いときよりも高い値に設定するステップとを含む」のに対して、引用発明2においては、そのようなステップを有しない点(以下、「相違点2」という。)。

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
刊行物2記載の技術は、「アイドルストップを行う車両において、アイドルストップの頻度に応じて蓄電池の充電状態が所定の範囲となるように制御する蓄電池充放電制御部を備え、アイドルストップの頻度が所定の閾値以上であれば、前記所定の範囲の上限値を高く設定する技術」であって、蓄電池の充電状態を制御する技術に過ぎず、本願発明4のように、「車両走行中にエンジンの停止および作動に応じて、車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数を管理するステップと、一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御するステップ」を備えるものではない。
したがって、引用発明2に刊行物2記載の技術を適用して、相違点1に係る本願発明4の発明特定事項となるとはいえない。

[相違点2について]
刊行物2記載の技術及び刊行物2の記載全体並びに図面をみても、上記相違点2に係る本願発明4の発明特定事項に関して記載や示唆はなされておらず、また、この点が周知の技術であるともいえない。
したがって、引用発明2に刊行物2記載の技術を適用して、相違点1に係る本願発明4の発明特定事項となるとはいえない。

そうすると、本願発明4は、引用発明2及び刊行物2記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

d)本願発明5及び6について
本願発明5及び6は、いずれも、上記「c)[相違点1]」における、相違点1に係る本願発明4の発明特定事項である「車両走行中にエンジンの停止および作動に応じて、車両走行における一定期間内におけるエンジンの停止回数を管理するステップと、一定期間内におけるエンジンの停止回数に基づいて、エンジンの間欠始動の頻度が高いときには間欠始動の頻度が低いときと比較して、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更が抑制されるようにハイブリッド車両の走行を制御するステップとを備え」ることを発明特定事項に含むものである。
よって、本願発明5あるいは6を引用発明2と対比した場合、少なくとも、本願発明4と同様に、上記相違点1を有することになる。
そして、上記「c)[相違点1について]」で述べたように、「引用発明2に刊行物2記載の技術を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項となるとはいえない」のであるから、本願発明5及び6においても、引用発明1に刊行物2記載の技術を適用して、上記相違点1に係る本願発明5及び6の発明特定事項となるとはいえない。

そうすると、本願発明5及び6は本願発明4と同様に、引用発明1及び刊行物2記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本件出願の請求項1、4、5及び8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

a)本願発明
本願の請求項1及び5に係る発明(以下、それぞれを「本願発明1」及び「本願発明5」という。)は、平成27年2月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び5に記載されたとおりのものであり、本願の請求項4及び8に係る発明(以下、それぞれを「本願発明4」及び「本願発明8」という。)は、平成26年1月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項4及び8に記載されたとおりのものと認める。

b)刊行物
刊行物1:特開2000-324613号公報
刊行物2:特開2008-14241号公報

・・・中略・・・

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項2、3、6及び7については、現時点では、拒絶理由を発見しない。拒絶理由が新たに発見された場合には改めて拒絶の理由が通知される。

2.判断
平成28年1月25日付けの手続補正により特許請求の範囲が補正されて、請求項1及び5が削除され、上記「1.当審拒絶理由」において拒絶理由を発見しないとされた補正前の請求項2、3、6及び7が、補正後に請求項1、2、4及び5となった。
これにより、拒絶の対象となる請求項が存在しなくなったので、当審拒絶理由は解消された。

3.小括
したがって、本願発明1ないし6は、当業者が当審拒絶理由における刊行物1及び2の記載事項等に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
そうすると、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-02-29 
出願番号 特願2013-525505(P2013-525505)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置および制御方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ