• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1311809
異議申立番号 異議2015-700076  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-08 
確定日 2016-01-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5696745号「伝熱管拡管装置及び伝熱管拡管方法」の請求項1及び9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5696745号の請求項1及び9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5696745号の請求項1及び9に係る特許についての出願は、平成25年6月28日に特許出願され、平成27年2月20日に特許の設定登録がされ、その後平成27年10月8日に、その特許に対し、特許異議申立人関正敏により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5696745号の請求項1ないし9に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1及び9に係る特許は次のとおりである。
「【請求項1】
所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィン(202)の挿通孔(202a)に挿通された状態の複数の伝熱管(203)の軸方向の一端部(203a)を掴持する掴持部(37a)と、前記伝熱管の軸方向に移動することによって前記掴持部の周囲を覆う第1状態と前記掴持部の周囲を覆わない第2状態とが切り換わる移動部(32)と、を有する伝熱管固定装置(103)と、
前記伝熱管の軸方向の一端部側から前記伝熱管内に挿入されるマンドレル(51)を有するマンドレル装置(105)と、
を備え、
前記移動部は、ガイド孔(32a)が形成された板状部材であり、
前記第1状態は、前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆う位置まで移動する状態であり、前記第2状態は、前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆わない位置まで移動する状態であり、
前記移動部が前記第1状態にある状態で、前記マンドレルを前記伝熱管内に挿入して前記伝熱管を拡管することで、前記掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、前記伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する、
伝熱管拡管装置(1)。
【請求項9】
所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィン(202)の挿通孔(202a)に挿通された状態の複数の伝熱管(203)の軸方向の一端部(203a)に掴持部(37a)を配置し、
ガイド孔(32a)が形成された板状部材であって前記伝熱管の軸方向に移動することによって前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆う位置まで移動する第1状態と前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆わない位置まで移動する第2状態とが切り換わる移動部(32)を前記第2状態から前記第1状態にし、
前記伝熱管の軸方向の一端部側からマンドレル(51)を前記伝熱管内に挿入して前記伝熱管を拡管することで、前記掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、前記伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する、
伝熱管拡管方法。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として特開2000-301271号公報(以下「刊行物」という。)を提出し、請求項1及び9に係る特許は、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1及び9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.刊行物の記載
特許異議申立人が提出し、本件特許出願の出願日前に頒布された上記刊行物には、「熱交換器の製造方法及びその装置」について、図1ないし9とともに、次の事項が記載されている。

(1) 「【0014】図1に於いて、1は熱交換器の製造装置を示し、1aは基台1b上に設けられた装置本体を示す。
【0015】1cは前記基台1b上に立設された熱交換器5の載置台を示し、該熱交換器5には複数重合された放熱フィン6に、所定長のヘアピン管7が載置台1cの面に沿った方向で複数本1列(図示せず)に挿通されてなり、しかも前記載置台1cの上方には、前記熱交換器5を該載置台1cとの間で押圧固定するための押圧プレート11が昇降自在に設けられている。
【0016】2は前記装置本体1a上に略水平状態で、且つ前記各ヘアピン管7の夫々の管口部7bに対向して出退(往復動)自在に設けられた拡管用マンドレルを示し、該拡管用マンドレル2には、図2に示す様に、外周に該拡管用マンドレル2の先端方向に向かって上向きの傾斜面3bが形成され、且つ前記ヘアピン管7の長手方向と交差する方向に放射状で拡縮自在な複数の管当接部材3fを有すると共に、シリンダー(図示せず)を介して往復動自在な第1プレート体3hに螺着部9を介して設けられた掴持体3が往復動自在に外嵌されてなり、しかも該掴持体3にはシリンダー(図示せず)を介して往復動自在な第2プレート体3dに螺着部8を介して設けられた掴持体摺動手段の一つである掴持体ガイド筒3cが摺動自在に外嵌されている。尚、上記の如くヘアピン管7の長手方向と交差する方向に放射状で拡縮自在な複数の管当接部材3fの先端内周部には、拡管用マンドレル2の軸芯方向に突出した凸部13が形成されている。
【0017】尚、上記掴持体3の管当接部材3fの夫々は、拡管用マンドレル2の長手方向に沿って該マンドレル2の外周を包囲すべく、例えば4枚以上設けられ、しかも夫々の管当接部材3fの間には、前記掴持体ガイド筒3cが前進することで、該掴持体ガイド筒3cの内周面が摺動する前記上向きの傾斜面3bを介して管当接部材3fの夫々が軸芯方向(放射状)に収縮する際に必要な所定量の隙間3aが形成されてなり、しかも前記複数の管当接部材3fを有する掴持体3は熱交換器5に挿通された各ヘアピン管7の管口部7bと対向すべく前記載置台1cの面に沿った方向に複数(図示せず)設けられている。」

(2) 「【0024】次に、図3(イ)に示すように、前記掴持体3をヘアピン管7の管口部7b側へと前進(矢印C)させると共に、該掴持体3の管当接部材3fの先端を熱交換器5のエンドプレート5aに当接させ、その後更に掴持体3を前進させてヘアピン管7のエンドプレート5aからのヘアピン管7の突出長(矢印D)を任意の寸法に設定する。」

(3) 「【0029】尚、前記拡管用マンドレル2の圧入を介して形成される所定長の拡管部7dは、エンドプレート5a及び所定数の放熱フィン6の夫々をヘアピン管7の端部に固着させることが出来る深さ寸法を有してなるものである。
【0030】その後、図4(イ)に示すように、シリンダー(図示せず)を介して往復動自在な第2プレート体3dをヘアピン管7側へと移動(矢印G)させることで該第2プレート体3dに設けられ、且つ掴持体3の各管当接部材3fに外嵌された掴持体ガイド筒3cを拡管用マンドレル2の前進方向と同方向に前進させると、掴持体ガイド筒3cは前記各管当接部材3fに設けられた上向きの傾斜面3bを摺動しつつ押圧し該各管当接部材3fの夫々を拡管用マンドレル2の軸芯方向(放射状)に収縮させることとなり、その結果として各管当接部材3fはエンドプレート5aから突出したヘアピン管7の拡管部7dの周面部7eを、各管当接部材3f間に形成された隙間3aの夫々を放熱フィン6に挿通された管の管径、即ち所定寸法に拡管された拡管部7dの径にあわせて調整しつつ拡管部7dの周面部7eを掴持(矢印H)して保持することになる。」

(4) 「【0032】その後、上記状態で再度前記拡管用マンドレル2をヘアピン管7のヘアピン部7c(図示せず)側へと前進(矢印I)させることにより、拡管後におけるヘアピン管7の全長の縮みを極めて微量にとどめることが出来る利点がある・・・」

(5) 「【0044】更に、上記実施形態にかかる熱交換器の製造方法は、放熱フィン6に挿通された管の管口部7bから拡管用マンドレル2を所定の寸法で圧入して所定長の拡管部7dを形成した後、該拡管部7dの周面部7eを、前記管口部7bに対向して管口部7b側へと進出する掴持体3の管の長手方向と交差する方向で放射状に拡縮自在な複数の管当接部材3fで掴持して保持した後、前記拡管用マンドレル2を前進させて管を拡管し、その後前記拡管部7dを管当接部材3fの固定から開放させた後、前記管口部7bにフレアポンチ10を圧入してフレア加工を施し熱交換器を製造するものであるが、必ずしも上記手順に限るものではなく、例えば,拡管用マンドレル2を介して形成された拡管部7dを複数の管当接部材3fで掴持して保持した後、前記拡管用マンドレル2を前進させて管を拡管し、その後前記管口部7bにフレアポンチ10を圧入してフレア加工を施した後、前記拡管部7dを管当接部材3fから開放させて熱交換器を製造する手順であってもよい。
【0045】更に、拡管部7dの周面部7eを複数の管当接部材3fで掴持して保持した後、前記管口部7bにフレアポンチ10を圧入してフレア加工を施し、その後前記拡管用マンドレル2を前進させて管を拡管し、その後前記拡管部7dを管当接部材3fの固定から開放して熱交換器を製造してもよく、又、拡管部7dの周面部7eを複数の管当接部材3fで掴持して保持した後、前記拡管用マンドレル2を前進させての拡管時に、前記管口部7bにフレアポンチ10を圧入してフレア加工を施し、その後拡管終了後に前記拡管部7dを管当接部材3fの固定から開放して熱交換器を製造してもよい。」

(6) 「【0047】尚、上記実施形態において、複数の管当接部材3fを放射状に拡縮する際には、掴持体3に外嵌された掴持体ガイド筒3cを掴持体摺動手段として用いたが、必ずしもこれに限るものではなく、例えば、掴持体摺動手段が熱交換器の製造装置に設けられた往復動プレート体(図示せず)に設けられた穿孔部であってもよく、この場合には、往復動プレート体の穿孔部が掴持体3に外嵌(穿孔部内に掴持体3が挿通した状態)されて往復動することにより、穿孔部内周面が管当接部材3fを摺動することで複数の管当接部材3fを放射状に拡縮することが出来る。よって、この場合には掴持体ガイド筒3cそのものを削減して製造コスト及び製造工程を低減することが出来る利点がある。
【0048】更に、上記実施形態において、掴持体3は往復動自在な第1プレート体3hに設けられ、且つ前記掴持体摺動手段の一つである掴持体ガイド筒3cが前記第1プレート体3hと管との間に位置する第2プレート体3dに設けられているが、例えば、横型、竪型を問わず、現在使用されている各種の熱交換器の製造装置に、上記構成からなる第1プレート体3hと第2プレート体3dとを一つのユニットとして組み込む構成であってもよく・・・」

(7) 図2ないし5の記載及び上記摘記事項(1)の「該熱交換器5には複数重合された放熱フィン6に、所定長のヘアピン管7が載置台1cの面に沿った方向で複数本1列(図示せず)に挿通されてなり、」という記載からみて、複数重合された放熱フィン6には「挿通孔」が設けられて複数のヘアピン管7が挿通されているものと認められる。

(8) 図4の記載からみて、掴持体ガイド筒3cの移動方向(矢印G及び矢印K)は、ヘアピン管7の軸方向であり、当該移動により掴持体ガイド筒3cは、管当接部材3fの周囲を覆う第1状態(図4(イ))と、管当接部材3fの周囲を覆わない第2状態(図4(ロ))とが、切り換わることが理解できる。

(9) 図1の記載からみて、熱交換器の製造装置1が、拡管用マンドレル2を有しており、当該拡管用マンドレル2を前進及び後進させる機能を有するマンドレル装置を備えていることは、当業者には自明である。

上記摘記事項(1)?(6)及び認定事項(7)?(9)を整理すると、刊行物には以下の2発明が記載されていると認められる。
「複数重合された放熱フィン6の挿通孔に挿通された状態の複数のヘアピン管7の管口部7bを掴持する管当接部材3fと、前記ヘアピン管の軸方向に移動することによって前記管当接部材3fの周囲を覆う第1状態と前記管当接部材3fの周囲を覆わない第2状態とが切り換わる掴持体摺動手段と、を有する掴持体3と、
前記ヘアピン管7の管口部7b側から前記ヘアピン管7内に挿入される拡管用マンドレル2を有するマンドレル装置と、
を備え、
前記掴持体摺動手段は、穿孔部が形成された往復動プレート体であり、
前記第1状態は、前記穿孔部の内面が前記管当接部材3fの周囲を覆う位置まで移動する状態であり、前記第2状態は、前記穿孔部の内面が前記管当接部材3fの周囲を覆わない位置まで移動する状態であり、
前記移動部が前記第2状態にある状態で、前記管当接部材3fを熱交換器5のエンドプレート5aに当接させ、前記拡管用マンドレル2を前記ヘアピン管7内に挿入して前記ヘアピン管7の拡管部7dを拡管した後、前記移動部を前記第1状態にして、前記管当接部材3fが前記ヘアピン管7を軸方向に動かないように掴持して保持するとともに、再度前記拡管用マンドレル2を前進させて前記放熱フィン6と前記ヘアピン管7とを固着する、
熱交換器の製造装置1。」(以下「引用発明1」という)
「複数重合された放熱フィン6の挿通孔に挿通された状態の複数のヘアピン管7の管口部7bに管当接部材3fを配置し、
穿孔部が形成された往復動プレート体であって前記ヘアピン管7の軸方向に移動することによって前記穿孔部の内面が前記管当接部材3fの周囲を覆う位置まで移動する第1状態と前記穿孔部の内面が前記管当接部材3fの周囲を覆わない位置まで移動する第2状態とが切り換わる掴持体摺動手段を前記第2状態にし、
前記ヘアピン管7の管口部7b側から拡管用マンドレル2を前記ヘアピン管7内に挿入して前記ヘアピン管7を拡管した後に、前記掴持体摺動手段を前記第1状態にすることで、前記管当接部材3fが前記ヘアピン管7を軸方向に動かないように掴持して保持するとともに、前記放熱フィン6と前記ヘアピン管7とを固着する、
熱交換器の製造方法。」(以下「引用発明2」という)

5.対比・判断
(1)本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という)と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「放熱フィン6」が本件発明1の「伝熱フィン」に相当することは自明であり、引用発明1の「複数重合された放熱フィン6」が本件発明1の「所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィン」に相当することも明らかである。
次に、引用発明1の「ヘアピン管7」、「管当接部材3f」、「掴持体摺動手段」、「掴持体3」、「拡管用マンドレル2」、「マンドレル装置」、「穿孔部」、「往復動プレート体」、「熱交換器の製造装置1」が、それぞれ、本件発明1の「伝熱管」、「掴持部」、「移動部」、「伝熱管固定装置」、「マンドレル」、「マンドレル装置」、「ガイド孔」、「板状部材」、「伝熱管拡管装置」に相当するものと認められる。また、引用発明1の「ヘアピン管7の管口部7b」は、管口部7bがヘアピン管7の軸方向の一端部に在ることは自明であるから、本件発明1の「伝熱管の軸方向の一端部」に相当するものである。
さらに、引用発明1で、管当接部材3fがヘアピン管7を軸方向に動かないように「掴持して保持する」ことは、本件発明1で、掴持部が伝熱管を軸方向に動かないように「固定する」ことに相当し、同様に、引用発明1で、放熱フィン6とヘアピン管7とを「固着する」ことは、本件発明1で、伝熱フィンと伝熱管とを「固定する」ことに相当することも、当業者には明らかである。
そして、引用発明1では、掴持体摺動手段が管当接部材3fの周囲を覆わない位置にある第2状態で、拡管用マンドレル2をヘアピン管7内に挿入して拡管部7dを拡管するものであるのに対し、本件発明1のマンドレルは、移動部が掴持部の周囲を覆った第1状態で伝熱管内に挿入され前記伝熱管を拡管するものである点で異なっているものの、当該ヘアピン管7(本件発明1の「伝熱管」に相当)を管当接部材3f(本件発明1の「掴持部」に相当)が掴持してヘアピン管7を動かないように保持するとともに、放熱フィン6(本件発明1の「伝熱フィン」に相当)とヘアピン管7とを固着する点は共通しているものである。

そうすると、引用発明1と本件発明1とは、以下の点で一致し、また、相違するものと認められる。
<一致点>
「所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィンの挿通孔に挿通された状態の複数の伝熱管の軸方向の一端部を掴持する掴持部と、前記伝熱管の軸方向に移動することによって前記掴持部の周囲を覆う第1状態と前記掴持部の周囲を覆わない第2状態とが切り換わる移動部と、を有する伝熱管固定装置と、
前記伝熱管の軸方向の一端部側から前記伝熱管内に挿入されるマンドレルを有するマンドレル装置と、
を備え、
前記移動部は、ガイド孔が形成された板状部材であり、
前記第1状態は、前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆う位置まで移動する状態であり、前記第2状態は、前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆わない位置まで移動する状態であり、
前記掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、前記伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する、
伝熱管拡管装置。」
<相違点1>
本件発明1が、「移動部が第1状態にある状態で、マンドレルを伝熱管内に挿入して前記伝熱管を拡管することで、掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する」のに対し、引用発明1では、掴持体摺動手段が管当接部材3fの周囲を覆う第1状態にある状態で、拡管用マンドレル2をヘアピン管7内に挿入して拡管部7dを拡管するものではない点。

ここで、上記相違点1について検討する。当該刊行物の上記摘記事項(5)の段落【0044】には、「上記実施形態にかかる熱交換器の製造方法は、・・・管の管口部7bから拡管用マンドレル2を所定の寸法で圧入して所定長の拡管部7dを形成した後、該拡管部7dの周面部7eを、・・・管当接部材3fで掴持して保持した後、前記拡管用マンドレル2を前進させて管を拡管し、その後前記拡管部7dを管当接部材3fの固定から開放させた後、前記管口部7bにフレアポンチ10を圧入してフレア加工を施し熱交換器を製造するものであるが、必ずしも上記手順に限るものではなく、」と記載されており、一応、製造時の手順を変更してもよいことが示唆されている。しかし、当該手順の変更を具体的に示したものは、前記記載の直後に「例えば,拡管用マンドレル2を介して形成された拡管部7dを複数の管当接部材3fで掴持して保持した後、前記拡管用マンドレル2を前進させて管を拡管し、その後前記管口部7bにフレアポンチ10を圧入してフレア加工を施した後、前記拡管部7dを管当接部材3fから開放させて熱交換器を製造する手順であってもよい。」との記載があり、この記載からは、管当接部材3fの保持の開放をフレア加工の前工程にするか後工程にするかという手順の変更は示されているものの、拡管用マンドレルを前進させて管の拡管部7dを形成した後に該拡管部7dを管当接部材3fで掴持して保持する手順についての変更まで、示唆されているとはいえない。また、上記摘記事項(5)の段落【0045】に記載された手順をみても、フレア加工とマンドレルの前進による拡管と管当接部材3fの開放に係る手順についての変更が示唆されているのみである。さらに、刊行物のその他の記載箇所をみても、上記拡管部7dを形成した後に該拡管部7dを管当接部材3fで掴持して保持する手順を変更することを示唆する記載は見当たらない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることで、従来の管当接部材及びガイド筒による伝熱管の固定に比べて、精度のよい拡管を行うことができ、熱交換器のコンパクト化にも寄与することができる等の効果を奏する(本件明細書の段落【0007】を参照)ものであり、上記相違点1に係る構成が、単なる設計変更に相当するものとも認められない。
そうすると、上記相違点1に係る構成は、引用発明1及び上記刊行物に記載された事項から、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、特許異議申立人は、上記相違点1について、拡管における手順が相違するものであり、同人が提出した刊行物には、「係る手順に限らず、拡管用マンドレル2を介して形成された拡管部7dを掴持体3の複数の管当接部材3fで掴持し保持して拡管用マンドレル2を前進させて管を拡管してもよい旨が開示されており」、よって、刊行物の記載事項を引用発明1に適用して上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものであると主張している。しかし、特許異議申立人の当該主張における刊行物の引用箇所には、上記のとおり、拡管部7dを形成した後に当該拡管部7dを管当接部材3fで掴持し、その後に拡管用マンドレル2を前進させる手順しか記載されておらず、手順の変更についても、拡管された拡管部7dを管当接部材3fで掴持した後の手順についての変更が記載されているだけで、管当接部材3fで掴持し保持した後に拡管用マンドレル2を介して拡管部7dを形成することまで開示するものではない。よって、刊行物の記載から上記相違点1に係る構成を備えることが示唆されるということはできず、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、本件発明1は、引用発明1及び上記刊行物に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件請求項9に係る発明について
本件請求項9に係る発明(以下「本件発明2」という)と引用発明2とを対比する。
上記(1)で説示したのと同様に、引用発明2の「放熱フィン6」、「複数重合された放熱フィン6」、「ヘアピン管7」、「ヘアピン管7の管口部7b」、「管当接部材3f」、「穿孔部」、「往復動プレート体」、「掴持体摺動手段」、「拡管用マンドレル2」、「熱交換器の製造方法」が、それぞれ、本件発明2の「伝熱フィン」、「所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィン」、「伝熱管」、「伝熱管の軸方向の一端部」、「掴持部」、「ガイド孔」、「板状部材」、「移動部」、「マンドレル」、「伝熱管拡管方法」に相当するものと認められる。
また、同様に、引用発明2で、管当接部材3fがヘアピン管7を軸方向に動かないように「掴持して保持する」ことは、本件発明2で、掴持部が伝熱管を軸方向に動かないように「固定する」ことに相当し、引用発明2で、放熱フィン6とヘアピン管7とを「固着する」ことは、本件発明2で、伝熱フィンと伝熱管とを「固定する」ことに相当するものである。
そして、引用発明2では、掴持体摺動手段を管当接部材3fを覆わない位置にある第2状態にしたまま、拡管用マンドレル2をヘアピン管7内に挿入して拡管部7dを拡管するものであるのに対し、本件発明2のマンドレルは、移動部(本件発明2の「掴持体摺動手段」に相当)を備え、管当接部材3f(本件発明1の「掴持部」に相当)がヘアピン管7(本件発明2の「伝熱管」に相当)を軸方向に動かないように掴持して保持するとともに、放熱フィン6(本件発明2の「伝熱フィン」に相当)とヘアピン管7とを固着する点は、本件発明2と共通しているものである。

そうすると、引用発明2と本件発明2とは、以下の点で一致し、また、相違するものと認められる。
<一致点>
「所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィンの挿通孔に挿通された状態の複数の伝熱管の軸方向の一端部に掴持部を配置し、
ガイド孔が形成された板状部材であって前記伝熱管の軸方向に移動することによって前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆う位置まで移動する第1状態と前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆わない位置まで移動する第2状態とが切り換わる移動部を備え、
前記掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、前記伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する、
伝熱管拡管方法。」
<相違点2>
本件発明2が、「移動部を第2状態から第1状態にし、伝熱管の軸方向一端部側からマンドレルを前記伝熱管内に挿入して前記伝熱管を拡管することで、掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する」のに対し、引用発明2では、掴持体摺動手段が第2状態から第1状態にした状態で、拡管用マンドレル2をヘアピン管7内に挿入して拡管部7dを拡管するものではない点。

上記相違点2について検討すると、上記(1)で説示したのと同様に、刊行物には、上記相違点2に係る構成のように掴持体摺動手段を第1状態にした状態で、拡管用マンドレル2をヘアピン管7内に挿入して拡管を行うように手順を変更することを示唆する記載は見当たらない上、上記相違点2に係る構成が、単なる設計変更に相当するものとも認められない。よって、上記相違点2に係る構成は、引用発明2及び上記刊行物に記載された事項から、当業者が容易に想到し得るものではない
また、特許異議申立人は、上記(1)の場合と同様に、拡管における手順が相違するだけであり、刊行物の記載事項を引用発明2に適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものであると主張しているが、上記のとおり、刊行物の記載から上記相違点2に係る構成を備えることが示唆されるということはできないから、当該主張を採用することはできない。
したがって、本件発明2は、引用発明2及び上記刊行物に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-07 
出願番号 特願2013-136404(P2013-136404)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
久保 克彦
登録日 2015-02-20 
登録番号 特許第5696745号(P5696745)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 伝熱管拡管装置及び伝熱管拡管方法  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ