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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1311815
異議申立番号 異議2015-700115  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-23 
確定日 2016-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5708087号「ポリカーボネートの製造方法およびポリカーボネート成形物」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5708087号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5708087号に係る発明についての出願は、平成20年12月10日に出願した特願2008-314923号(優先権主張 平成19年12月12日(2件))の一部を平成23年3月18日に新たな特許出願としたものであって、平成27年3月13日にその発明についての特許設定の登録がされ(請求項の数8)、その後、特許異議申立人 林法子(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許第5708087号の請求項1?8に係る発明(以下それぞれ、「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.特許異議の申立て理由の概要
申立人は、以下の甲1号証?甲8-2号証及び参考文献1を提出して、本件発明1?8は、甲1号証ないし甲8号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものであり(以下、「申立て理由1」という。)、また、本件発明1、7及び8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法第113条第1項第4号に該当し取り消されるべきものである(以下、「申立て理由2」という。)点を主張している。

甲1号証 :国際公開第2007/063823号
甲2号証 :国際公開第2004/111106号
甲3号証 :特表2002-534486号公報
甲4号証 :特表2006-504812号公報
甲5号証 :特表2006-511688号公報
甲6号証 :特表2003-535866号公報
甲7号証 :特表2005-509667号公報
甲8号証 :国際公開第2006/036545号
甲8-2号証:特表2008-514754号公報
(甲8号証の公表公報)
参考文献1 :特願2008-314923号の平成22年11月25日 付け意見書

4.当審の判断
(1)申立て理由1について
(1-1)甲1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲1号証には以下の記載がある。

ア 「請求の範囲
[1]
一般式(1)
[化1]


(一般式(1)において、X_(1)、X_(2)はO、N-R7、Sであり、互いに同一でも異なっていても良い。また、R1,R2は炭素数が1?10のアルキレン鎖であり、直鎖状でも分岐状でも良い。また、R3?R7は水素原子または炭素数が1?10のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基であり、アルキル基は直鎖状でも分岐状でも良く、シクロアルキル基、フェニル基は置換基を有していても良い)で表される脂肪族ポリカーボネートユニット(a)75?99重量%および、
一般式(2)
[化2]


(一般式(2)において、R8は炭素数2?10の、直鎖状でも分岐状でも環状構造を含んでも良いでも良いアルキレン基またはアラルキル基である)
で表される脂肪族ポリカーボネートユニット(b)25?1重量%を含んでなる、重量平均分子量が5000?200000であって、かつガラス転移温度が90℃以上であるポリカーボネート共重合体。」(請求の範囲の請求項1)

イ 「本発明のポリカーボネート共重合体を、溶融法により製造する際は、触媒を用いてもよい。触媒としては、一般的に知られるエステル交換触媒、とりわけビスフェノールAと炭酸ジエステルとのエステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造に用いられる触媒を用いることが可能である。この様な触媒の具体例としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物、アルコキサイドや、…等類が挙げられる。

本発明における触媒の使用量は、実質的に反応を進行させる事ができる程度の量であれば特に制限されない。具体的な触媒の使用量は、使用する触媒の種類によって異なるが、一般的には、得られるポリカーボネート共重合体の0.00005?5重量%の範囲が好ましく、経済性を考慮すると、0.0001?1重量%の範囲がより好ましい。
また、一般に試薬中には極微量の触媒となり得る塩基性化合物が不純物として含まれるため、特に精製を行わない場合は、あらためて触媒を添加しなくても反応が進行する場合が多い。」(段落[0077]?[0082])

ウ 「イソソルビド:東京化成工業(株)社製試薬1級を、メチルエチルケトンを溶剤として再結晶した後、乾燥窒素雰囲気下で乾燥して用いた。保存は全て乾燥窒素雰囲気下で行った。」(段落[0103])

エ 「[実施例1]
攪拌機、温度計、ラシッヒリングを充填したト字管および空冷管、受器、窒素道入管を装着した反応装置に、イソソルビド:131.26g(0.8982mol)、1,3-プロパンジオール:43.74g(0.5748mol)、炭酸ジフェニル:315.55g(1.4730mol)を装入し、窒素気流下において180℃まで1時間かけて昇温した。同温度を保ちながら3時間撹拌し、エステル交換により反応を進行させた。生成するフェノールは系外へ除去した。続けて生成するフェノールを系外に除去しながら昇温および減圧を開始し、30分ほどで200℃/3.9KPaの条件に達した。同条件を1時間保持した後、さらに昇温および減圧を行い、最終的に215℃/0.1KPaの条件でフェノールの留出が実質的に観察されなくなるまで反応を行い、終了とした。
この様にして得られたイソソルビドと1,3-プロパンジオールのポリカーボネート共重合体は、Mw=5.84万、Tg=94℃であった。…」(段落[0111]?[0112])

(1-2-1)甲1号証に記載された発明及び本件発明1との対比
上記(1-1)の摘示より、甲1号証には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「東京化成工業(株)社製試薬1級を、メチルエチルケトンを溶剤として再結晶した後、乾燥窒素雰囲気下で乾燥し、保存は全て乾燥窒素雰囲気下で行ったものであるイソソルビド及び1,3-プロパンジオールとを、炭酸ジフェニルと、エステル交換により反応を進行させる、イソソルビドと1,3-プロパンジオールのポリカーボネート共重合体の製造方法。」

本件発明1と、甲1発明とを対比すると、
甲1発明における「イソソルビド」、「炭酸ジフェニル」はそれぞれ、本件発明1における「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物」、「炭酸ジエステル」に、それぞれ相当するものと認められる。
したがって、両者は、
「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物を、炭酸ジエステルと反応させる工程を含むポリカーボネートの製造方法」という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、重合触媒の存在下に反応を行い、重合触媒が、少なくともアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を含み、その使用量が、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として0.1μモル以上25μモル以下の範囲内である点、及び、全ヒドロキシ化合物に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量が、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として5μモル以下である点を特定するのに対し、甲1発明は、これらの点を特定していない点。

<相違点2>
本件発明1は、分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量が、3ppm以下であるのに対し、甲1発明では、その点が特定されていない点。

(1-2-2)相違点1についての検討
相違点1に係る発明特定事項の容易想到性について検討する。
甲3号証には、イソソルビドのポリマー用途での利用に関し、「ポリマー用途では、特に包装用ポリマーのような光学的透明度が要求される用途では、一つの要求されるモノマー純度とは、合成中及び/又は加工中に生成するポリマーに許容されない程度の着色を引き起こす、いかなる物質又は不純物をも含有しないことである。」(段落【0004】)との記載があり、甲4号証には、「低い色の3GITに関しては、モノマー出発原料中に存在する色形成不純物を除去するか、または少なくとも最小限に抑えることも重要である。1,3-プロパンジオールおよびイソソルビドの紫外線吸光度は、好ましくは220nmで0.20未満、さらに好ましくは0.10未満である」(段落【0026】)こと、甲5号証には、「低明度の製品、特に3GITに関して、一部の部分出発材料に存在する発色不純物を除去する、もしくは少なくとも最小限に抑えることも重要である。1,3-プロパンジオールおよびイソソルビドのUV吸光度は、220nmで約0.20未満であるのが好ましく、約0.10未満であるのがさらに好ましい」(段落【0035】)ことが記載されている。
また、甲6号証及び甲7号証には、イソソルビドを蒸留し、不純物を除去する技術が記載されている。
さらに、甲8号証には、「本発明で提示されるタイプの溶融反応については、使用するモノマーの純度が生成物ポリカーボネートの性質に強い影響を及ぼし得ることが理解されている。したがって、使用するモノマーは金属イオン、ハロゲン化物イオン、酸性夾雑物及び他の有機化学種のような夾雑物を含まないか又は非常にわずかな量しか含まないことが多くの場合に望ましい。これは、特にポリカーボネート中に存在する夾雑物がディスク性能に影響を及ぼすことがある光ディスク(例えば、コンパクトディスク)のような用途について言える。通例、モノマー中に存在する金属イオン(例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ナトリウム及びカリウム)の濃度は10ppm未満、好ましくは1ppm未満、さらに好ましくは100十億分率(ppb)未満にすべきである。」との記載がある。
しかしながら、まず、甲3号証?甲7号証については、そのいずれにも、「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物中の全ヒドロキシ化合物に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量が、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として5μモル以下とする」点は記載されていない。
そして、甲3号証?甲7号証のいずれにも、イソソルビド等のジヒドロキシ化合物中に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物が着色の原因となること、そして、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物が、蒸留により除去が可能であることは記載されておらず、この点を示唆する記載すらないことから、これらの刊行物の記載から、甲1発明における全ジヒドロキシ化合物のアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として5μモル以下とすることに想到することは、当業者にとって困難である。
次に、甲8号証の上記記載は、ポリカーボネート中に存在する種々の不純物が生成物に影響を及ぼす可能性を示すという一般的・抽象的な記載にすぎず、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物が、着色の原因となること、そして、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物が、蒸留により除去が可能であることは記載も示唆もない。
したがって、甲1発明において、「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物中の全ヒドロキシ化合物に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量が、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として5μモル以下とする」という構成に想到することは困難であり、当業者であっても容易ではない。

また、本件発明1は、上述のとおり、全ヒドロキシ化合物に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量を、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として5μモル以下と特定すると共に、重合触媒が、少なくともアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を含み、その使用量が、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として0.1?25μモルであることも特定するものである。
しかしながら、全ヒドロキシ化合物中に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量をなるべく少なくする構成を採用する場合には、重合触媒として、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いると、全ヒドロキシ化合物中に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を少なくしたことの技術的意義を滅却することになると当業者であれば通常考える。
そうすると、甲1号証に、重合触媒の選択肢の一つとして、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物が例示されていたとしても、全ヒドロキシ化合物中に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量をなるべく少なくするという構成を採用した場合には、当業者は、重合触媒として、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物をあえて選択して用いることは避けるはずであり、相違点1に係る構成を採用することに、阻害要因があるといわざるを得ない。
したがって、少なくとも、相違点1に係る発明特定事項に想到することは、当業者であっても容易ではない。

(1-2-3)まとめ
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明を主たる引用発明として、当該発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(1-3)本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに減縮したものであるから、上記(1-2-2)で検討したとおり、本件発明1が、甲1号証?甲8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2?8も、甲1号証?甲8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1-4)小括
以上のとおりであって、本件発明1?8に対する申立て理由1は、理由がない。

(2)申立て理由2について
(2-1)本件明細書の記載事項
申立て理由2は、本件特許に係る請求項1、7及び8の記載要件に係るものであるところ、まず、これらの申立て理由に関連すると認められる本件特許明細書の記載を以下に摘記する。(下線は、審決で付記。以下同じ。)

「本発明の目的の一つは、上記従来の問題点を解消し、機械的強度に優れ、耐熱性があり、屈折率が小さく、アッベ数が大きく、複屈折が小さく、透明性に優れた、植物由来の構成単位を含むポリカーボネートの製造方法、該ポリカーボネート又はその組成物からなる成形物を提供することにある。」(段落【0008】)

「…さらに、分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物、例えば下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物中には、蟻酸を始めとする分解物や安定剤が存在し、これらの物質が重合反応に影響を与えること、また、少なくとも蟻酸含有量やアルカリ金属含有量の少ない、分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物、例えば下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を用いれば、高品質のポリカーボネートが安定的かつ効率的に製造できることを見出した。」(段落【0009】)

「本発明の方法により、着色等が少ない高品質のポリカーボネートを安定的かつ効率的に製造することができる。…」(段落【0025】)

「上記のとおり、本願発明は、「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物」(以下これを「ジヒドロキシ化合物(I)」と略称することがある)を用いることを一つの要件とするものである。
ここで、ジヒドロキシ化合物(I)としては、2個のアルコール性水酸基をもち、分子内に連結基-CH_(2)-O-を有する構造を含み、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルと反応してポリカーボネートを生成し得る化合物であれば如何なる構造の化合物であってもよい。
ジヒドロキシ化合物(I)における「連結基-CH_(2)-O-」とは、水素原子以外の原子と互いに結合して分子を構成する構造を意味する。この連結基において、少なくとも酸素原子が結合し得る原子又は炭素原子と酸素原子が同時に結合し得る原子としては、炭素原子が最も好ましい。ジヒドロキシ化合物(I)中の「連結基-CH_(2)-O-」の数は、1以上、好ましくは2?4である。
さらに具体的には、ジヒドロキシ化合物(I)としては、例えば、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記式(2)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有するジオール類が挙げられる。
【化5】


【化6】


これらジヒドロキシ化合物(I)は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、これらジヒドロキシ化合物(I)は、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を除いて、後述する「他のジヒドロキシ化合物」としても用いることができる。
上記のとおり、本発明では、蟻酸含有量が20ppm未満のジヒドロキシ化合物(I)、例えば一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を用いる。さらに、蟻酸含有量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、特に好ましくはジヒドロキシ化合物(I)の分解等により発生する蟻酸を全く含まないものである。かかる高純度のジヒドロキシ化合物(I)、例えば一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を原料として用いることにより、後述する重合反応における問題点が解決され、着色等が少ない高品質のポリカーボネートを安定的かつ効率的に製造することができる。

また、全ジヒドロキシ化合物に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の量は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、好ましくは10μモル以下、より好ましくは5μモル以下である。
これにより、重合反応を確実に制御することができ、安定的かつ効率的に高品質のポリカーボネートを製造することができる。
本発明において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらのジヒドロキシ化合物(I)のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。」(段落【0033】?【0037】、【0040】、【0041】)



」(【表8】)

「実施例46、47から、蟻酸が少なければ重合反応は進行するが、アルカリおよびアルカリ土類金属の含有量が多いと着色がし易くなることがわかる。」(段落【0250】)

「表8から、蒸留などにより蟻酸を除去したイソソルビドを使用することで、より着色の少ない、ポリカーボネートが得られることがわかる。」(段落【0270】)

(2-2)申立人の主張の概要
申立人が主張する申立て理由2、すなわち、いわゆる、サポート要件違反についての概要は以下のとおりである。

本件発明1は、「機械的強度に優れ、耐熱性があり、アッベ数が大きく、複屈折が小さく、透明性に優れた、植物由来の構成単位を含むポリカーボネートの製造方法を提供すること」を課題とするものである。そして、「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルと反応させる工程を含む」との事項を備えるものである。
しかしながら、「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物」(以下、「ジヒドロキシ化合物(I)」という。)については、本件明細書の実施例1?47において、上記課題が解決できることを具体的に確認できるのは、ジヒドロキシ化合物(I)として「イソソルビド」を用いた場合だけである。
ポリカーボネートの機械的強度等の物性は、その重合成分であるジヒドロキシ化合物に大きく影響を受けるものであるので、「イソソルビド」以外のジヒドロキシ化合物(I)を用いた場合にも、上記実施例と同様に課題を解決できるか否かは不明であり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(2-3)本件特許発明のサポート要件についての当審の判断
本件発明の解決しようとする課題の一つは、「機械的強度に優れ、耐熱性があり、屈折率が小さく、アッベ数が大きく、複屈折が小さく、透明性に優れた、植物由来の構成単位を含むポリカーボネートの製造方法、該ポリカーボネート又はその組成物の提供」(段落【0008】)であるが、当該課題のみならず、「着色等が少ない高品質のポリカーボネートを安定的かつ効率的に製造すること」も解決しようとする課題の一つであることは、段落【0025】や【0009】の記載から明らかである。
そして、本件明細書段落【0009】、【0038】、【0039】、【0250】、【0270】の各記載を総合すれば、ポリカーボネートに用いられるジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量やアルカリおよびアルカリ土類金属含有量を少なくすれば、着色が少ないポリカーボネートが得られることが読み取れる。そして、表8の実施例及び比較例1?4の実験データからもその点が具体的に確認されている。
そうすると、「着色等が少ない高品質のポリカーボネートを安定的かつ効率的に製造すること」という課題を解決するために、本件発明1において、「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量が3ppm以下であり、全ヒドロキシ化合物に含まれるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量が、反応に用いる全ヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、5μモル以下であり」との発明特定事項を有することから、本件発明1により、上記課題は解決されているといえる。
そして、分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物として使用可能な化合物は、段落【0033】?【0037】、【0040】、【0041】に例示されるものを使用可能であり、イソソルビドはあくまでも好ましい化合物としての例示にすぎないものである。
さらに、分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物としてイソソルビドのみに限定されなければ、上記課題が解決できないことに関して、申立人は何ら具体的な根拠を示しておらず、また、イソソルビドのみに限定しなければ課題が解決できないとする技術常識が存在するとも認められない。
そうすると、この点に関する申立人の主張を採用することはできない。
また、本件発明7は、本件発明1のポリカーボネートの製造方法により得られるポリカーボネート、本件発明8は、本件発明7のポリカーボネート又はその組成物からなる成形物と特定したものにすぎないから、本件発明1と同様、サポート要件を満たしており、この点に関する申立人の主張を採用することはできない。

(2-4)小括
以上のとおりであって、本件発明1、7及び8に対する申立て理由2は、理由がない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2015-12-25 
出願番号 特願2011-60072(P2011-60072)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 政志岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 堀 洋樹
平塚 政宏
登録日 2015-03-13 
登録番号 特許第5708087号(P5708087)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 ポリカーボネートの製造方法およびポリカーボネート成形物  

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