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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1311817
異議申立番号 異議2015-700185  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-13 
確定日 2016-01-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5716423号「プロピレン系共重合体およびそれからなるフィルム」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5716423号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 主な手続の経緯等
特許第5716423号(請求項の数は4。以下「本件特許」という。)は,平成23年2月2日(先の出願に基づく優先権主張 平成22年2月9日)にされた特許出願に係るものであって,平成27年3月27日にその特許権が設定登録されたものである。
特許異議申立人榊原彰子(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成27年11月13日,本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。

2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。なお,請求項2?4の記載は,これを省略する。)。
「プロピレンに由来する構造単位が主な構造単位である重合体成分である成分(A)79?90重量%と,エチレンに由来する構造単位の含有量が50?80重量%であるプロピレン-エチレン共重合体成分である成分(B)10?21重量%とからなり(但し,成分(A)と成分(B)との合計を100重量%とする。),成分(A)の極限粘度([η]A)に対する成分(B)の極限粘度([η]B)の比([η]B/[η]A)が式:1.3<[η]B/[η]A≦1.8を満たし,温度230℃,荷重21.18Nで測定されるメルトフローレートが5g/10分以上,30g/10分以下であるプロピレン系共重合体。」

3 申立理由の概要
異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。
(1) 本件発明1?4は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。すなわち,本件発明1?4は,後記する甲1に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるし(以下「取消理由1」という。),後記する甲2に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる(以下「取消理由2」という。)。
(2) そして,上記取消理由1?2にはいずれも理由があるから,本件の請求項1?4に係る発明についての特許は,113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
(3) また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1?9)を提出する。
・甲1: 特開昭59-41311号公報
・甲2: 特開平6-145268号公報
・甲3: 「ポリプロピレンハンドブック」,株式会社工業調査会,1998年5月15日初版第1刷の抜粋
・甲4: 特開平6-93061号公報
・甲5: 特開2006-161033号公報
・甲6: 特開2003-213069号公報
・甲7: 特開平7-233291号公報
・甲8: 「シヨウアロマー DATA LIST フィルム・ラミネート成形用」と題するパンフレットの抜粋
・甲9: Macromol. Symp. 78,213-228(1994)

4 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,取消理由1?2にはいずれも理由はないと解する。
(1) 取消理由1について
事案に鑑み,まず本件発明1に対する取消理由1の存否について検討し,次いで本件発明2?4について検討する。
ア 甲1に記載された発明
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1には,特にその実施例2に係る記載からみて,次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「極限粘度数1.23のプロピレン単独重合体(A)を87重量%,エチレン含量57.7重量%(=7.5/13)で極限粘度数2.59のプロピレン-エチレン共重合体(B)を13重量%の割合の緊密混合体であって,メルトフローインデックス(MI)が28であるプロピレン-エチレン共重合体。」
イ 一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明のMIは,JIS K7210に従うものであるから(甲1の3頁左下欄),同じJIS K7210に従って測定されるものであるとされる本件発明1のメルトフローレート(本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の【0015】参照)と同義である。
また,甲1発明のプロピレン単独重合体(A)の極限粘度数(本件発明1の「極限粘度[η]A」に相当。)は1.23であり,プロピレン-エチレン共重合体(B)の極限粘度数(同「極限粘度[η]B」に相当。)は2.59であるから,甲1発明における極限粘度の比([η]B/[η]A)は2.11(=2.59/1.23)である。
そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
プロピレンに由来する構造単位が主な構造単位である重合体成分である成分(A)87重量%と,エチレンに由来する構造単位の含有量が57.7重量%であるプロピレン-エチレン共重合体成分である成分(B)13重量%とからなり,温度230℃,荷重21.18Nで測定されるメルトフローレートが28g/10分であるプロピレン系共重合体。
・ 相違点1-1
極限粘度の比([η]B/[η]A)について,本件発明1は式「1.3<[η]B/[η]A≦1.8」を満たすと特定するのに対し,甲1発明は上記式を満たさない「2.11」と特定する点。
ウ 相違点1-1についての検討
(ア) 本件明細書の記載から,本件発明1のプロピレン系共重合体について,概ね次のことがいえる。
本件発明1は,ポリプロピレンを主成分とした高級感のある艶消しフィルムが求められていることを背景に,艶消しフィルムの外観,特にヘイズとフィッシュアイの量とのバランスを改良して,フィルムにした際に,艶消しフィルムに適したヘイズを有しかつ外観および剛性に優れるプロピレン系共重合体を提供することを解決課題とするものである(【0001】,【0002】,【0004】など)。
そして,本件発明1は,上記の解決課題を踏まえ,成分(A)の含有量が60重量%未満(成分(B)の含有量が40重量%を超える)場合には剛性が低下することがあり,成分(A)の含有量が90重量%を超える(成分(B)の含有量が10重量%未満となる)場合には艶消し効果が不十分となる(ヘイズが低くなる)との知見のもと,プロピレン系共重合体について「成分(A)79?90重量%」と「成分(B)10?21重量%」とからなると特定し,成分(B)におけるエチレンに由来する構造単位の含有量が50重量%未満の場合には艶消し効果が不十分となる(ヘイズが低くなる)ことがあり,80重量%を超えた場合には外観が悪化(フィッシュアイが増加)することがあるとの知見のもと,成分(B)について「エチレンに由来する構造単位の含有量が50?80重量%である」と特定し,プロピレン系共重合体のメルトフローレートが5g/10分未満の場合には流動性が低く加工性が悪化することがあり,30g/10分を超える場合には外観が悪化する(フィッシュアイが増加する)ことがあるとの知見のもと,プロピレン系共重合体「メルトフローレートが5g/10分以上,30g/10分以下」と特定し,さらに,極限粘度の比([η]B/[η]A)が1.3以下の場合には艶消し効果が不十分となる(ヘイズが低い)ことがあり,2.0を超える場合には外観が悪化する(フィッシュアイが増加する)との知見のもと,「式:1.3<[η]B/[η]A≦1.8を満た」すと特定するものである(【0010】,【0011】,【0014】,【0015】など)。
(イ) 他方,甲1の記載によれば,甲1発明は低温耐衝撃性,剛性に優れたプロピレン-エチレン共重合体を提供することを解決課題とするものであり(甲1の1頁右欄,2頁右上欄など),また,高い耐衝撃性を発現するためにはプロピレン-エチレン共重合体(B)の極限粘度数を「4以下」に制御することが必須であるとの知見に基づき,その値を「2.59」とするものである(同2頁右下欄,3頁右上欄など)。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で認定の事実,異議申立人が提出したその他証拠の記載内容及び技術常識を踏まえ,以下検討する。
上記(ア)から,本件発明1が相違点1-1に係る構成(「式:1.3<[η]B/[η]A≦1.8を満た」すこと)を有することの意義は,フィルムにした際に,艶消しフィルムに適したヘイズを有しかつ外観および剛性に優れるプロピレン系共重合体を提供するという解決課題の設定のもと,上記構成を採用することで,艶消しフィルムに適した高いヘイズとフィッシュアイの少ない良好な外観を発現させて上記課題を解決するものであると理解できる。
他方,甲1発明について,甲1にはそもそも艶消しフィルムに適したヘイズを有しかつ外観に優れるプロピレン系共重合体を提供するといった本件発明1と同じ課題を解決するものである旨の記載はない。また,異議申立人が提出したその他証拠をみても,本件発明1に係る技術分野において,上記解決課題の設定が本件特許の優先日当時に容易に着想し得たということはできない(甲2及び甲4には,極限粘度の比([η]B/[η]A)が1.8を超えるものはフィルムにフィッシュアイが発生して外観が損なわれるため使用できない旨の記載があるにとどまり,ヘイズが高く艶消し効果が十分なフィルムを提供するものである旨の記載はない。)。
そうすると,甲1発明において,極限粘度の比([η]B/[η]A)にあえて着目し,上記課題を解決するべく,その値について従たる引用発明(甲2,4,5及び9に記載の技術事項)を適用する動機は,これを見いだすことができない。
また仮に,甲1発明に従たる引用発明を適用する動機があるといえたとしても,甲2及び甲4からは,上述のとおり相違点1-1に係る構成のうち「[η]B/[η]A≦1.8」の部分が想到容易であるといえるにとどまり,「1.3<[η]B/[η]A」の部分は依然として想到容易であるということはできない。そして,本件発明1は,極限粘度の比([η]B/[η]A)が1.3よりも大きいという構成を有することで,甲1発明と比較して,艶消しフィルムに適した高いヘイズを発現できるといった有利な効果を奏するものである。
エ 本件発明1についての小括
そうすると,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件発明2?4について
請求項2?4の記載は,請求項1を直接又は間接的に引用するものである。そして,請求項1に係る本件発明1が甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2?4に係る本件発明2?4についても同様に,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
カ まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する取消理由1には理由がない。

(2) 取消理由2について
まず,本件発明1に対する取消理由2の存否について検討し,次いで本件発明2?4について検討する。
ア 甲2に記載された発明
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲2には,特に請求項1の記載から,次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「プロピレンを主体とした重合体部分(A成分)60?90重量%と,エチレン含有量が20?50重量%でその極限粘度(〔η〕B )が2.0?6.5 dl/g であるエチレン-プロピレン共重合部分(B成分)10?40重量%とからなり,かつB成分の極限粘度(〔η〕B )とA成分の極限粘度(〔η〕A )の比(〔η〕B /〔η〕A )が1.8以下であるポリプロピレンブロック共重合体を溶融混練し,分解度を0.20?0.50,溶融膨張比(SR)を1.30以上としてなることを特徴とする改質ポリプロピレンブロック共重合体。」
イ 一致点及び相違点
本件発明1と甲2発明とを対比したとき,両発明の一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
プロピレンに由来する構造単位が主な構造単位である重合体成分である成分(A)79?90重量%と,プロピレン-エチレン共重合体成分である成分(B)10?21重量%とからなり,成分(A)の極限粘度([η]A)に対する成分(B)の極限粘度([η]B)の比([η]B/[η]A)を[η]B/[η]A≦1.8の範囲で満たすプロピレン系共重合体。
・ 相違点2-1
プロピレン-エチレン共重合体成分である成分(B)について,本件発明1は「エチレンに由来する構造単位の含有量が50?80重量%」であると特定するのに対し,甲2発明は「エチレン含有量が20?50重量%」と特定する点。
・ 相違点2-2
極限粘度の比([η]B/[η]A)の数値範囲について,本件発明1は式「1.3<[η]B/[η]A≦1.8」を満たすと特定するのに対し,甲2発明は上限値については「1.8以下」と特定するものの,下限値について何ら特定しない点。
・ 相違点2-3
プロピレン系共重合体(改質ポリプロピレンブロック共重合体)の性状について,本件発明1は「温度230℃,荷重21.18Nで測定されるメルトフローレートが5g/10分以上,30g/10分以下である」と特定するのに対し,甲2発明はそのような特定事項を有していない点。
ウ 相違点2-1についての検討
甲2の記載によれば,甲2発明は加工性,機械的性質に優れ,さらに外観,透明性,光沢性の良好な改質ポリプロピレンブロック共重合体を提供することを解決課題とするものであり(【0003】,【0006】など),エチレン-プロピレン共重合体(B成分)について,エチレン含有量が50重量%を超えたものでは透明性,光沢性が劣り課題を解決できないとの知見に基づき,エチレン含有量を20?50重量%とするものである(【0011】など)。
そうすると,甲2発明において,エチレン-プロピレン共重合部分(B成分)のエチレン含有量を50重量%を超えて「50?80重量%」とすることは,透明性,光沢性の良好な改質ポリプロピレンブロック共重合体を提供するという甲2発明の解決課題と逆行するものであって,阻害事由があるといわざるを得ない。
よって,相違点2-1に係る構成は,当業者であれば想到容易であるということはできない。
エ 相違点2-2についての検討
異議申立人が提出した証拠からは,甲2発明の極限粘度の比([η]B/[η]A)の数値範囲について,下限値「1.3」を設定することは想到容易であるということはできない。そして,本件発明1は,極限粘度の比([η]B/[η]A)が1.3よりも大きいという構成を有することで,甲2発明と比較して,艶消しフィルムに適した高いヘイズを発現できるといった有利な効果を奏するものである。しかも,上記ウで述べたように,甲2発明は透明性,光沢性の良好な改質ポリプロピレンブロック共重合体を提供することを解決課題とするものであるから,甲2発明において,艶消しフィルムに適した高いヘイズを発現させようとすることはそもそも想定し得ない。
よって,相違点2-2に係る構成は,当業者であれば想到容易であるということはできない。
オ 本件発明1についての小括
そうすると,上記相違点2-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
カ 本件発明2?4について
請求項1に係る本件発明1が甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2?4に係る本件発明2?4についても同様に,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
キ まとめ
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する取消理由2には理由がない。

5 むすび
したがって,異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては,特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また,他に当該特許が113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-13 
出願番号 特願2011-20399(P2011-20399)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 須藤 康洋
大島 祥吾
登録日 2015-03-27 
登録番号 特許第5716423号(P5716423)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 プロピレン系共重合体およびそれからなるフィルム  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 新井 規之  
代理人 中山 亨  
代理人 松山 美奈子  
代理人 清水 義憲  
代理人 三上 敬史  
代理人 坂元 徹  

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