• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1311820
異議申立番号 異議2015-700114  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-22 
確定日 2016-01-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第5706506号「眼科装置」の請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5706506号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5706506号の請求項1?6に係る特許についての出願は,平成21年9月28日に出願した特願2009-223312号(優先権主張 平成21年4月15日)の一部を平成25年12月11日に特願2013-256140号として新たな特許出願としたものであって,平成27年3月6日に特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人田中将隆氏により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5706506号の請求項1?6に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
1 異議申立人の主張
特許異議申立人は,本件特許の請求項1?6に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1?6」という。)は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものである。よって,当該特許は特許法第113条第2号に該当し,同法114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
また,これらの発明は,甲第3号証及び甲第4号証または甲第1号証記載の発明に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができた発明であるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって,その特許は特許法第113条第2号に該当し,同法114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
また,これらの発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでなく,また,明確でなく,本件特許出願は特許法第36条第6項第1号および第2号の要件を満たしていない。よって,その特許は特許法第113条第4号に該当し,同法114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
と主張している。

2 異議申立人の提出する証拠方法

(1)甲第1号証:米国特許出願公開第2005/0270486号明細書
(2)甲第2号証:米国特許出願公開第2005/0270486号明細書の抜粋の翻訳文
(3)甲第3号証:特開2008-29467号公報
(4)甲第4号証:特表2008-538612号公報

第4 刊行物の記載
以下,「甲第1号証」?「甲第4号証」を「甲1」?「甲4」という。
なお,これら書証のうち日本語ではない原語で記載された「甲第1号証」については,異議申立人の抜粋翻訳文である「甲第2号証」を翻訳文として用い,「甲第1号証」の摘記は省略する。(下線は,特に断りのないものは当審で付与した。)

1 甲1について

本件の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲1には,「装置」に関して,以下の事項が記載されている。

(甲2-ア)
「[0001]
本発明は,眼底診断/手術装置において目の動き又は位置の画像に基づくトラッキングに用いられる方法及び装置に関わる。」

(甲2-イ)
「[0050]
・・・カメラ110(例えばCCDカメラ)が目100の動画像を撮像し,画像はコンピュータ120に送られる。
そのような構成は,典型的な眼球トラッキングシステムと同じであり,本願発明にも適用することができる。通常の眼球トラッキングシステムにおいては,捕捉された画像に基づいてコンピュータ120が眼球運動をトラッキングし,例えば,瞬間的な画像のいくつかの指標の位置と前の画像の位置とを比較して眼球運動をトラッキングしている。
トラッキングされた実際の位置に基づいてフィードバック信号を確定することができ,このフィードバック信号は,手術又は診断装置(図1に不図示)において位置補正を行うために用いられる。」

(甲2-ウ)
「[0099]・・・シーケンスアライメントは,リアルタイムでの動画トラッキングの基礎である。」

(甲2-エ)
「[0101]・・・,OCTの走査中に得られるリアルタイム画像に対してOCTの矯正を行うことができる。・・・」


(甲2-オ)
「[0103]
網膜の血管,視神経,黄斑惨出等有用な指標の検出について
改良された基準画像において検出された検出指標は,シーケンスアライメントの際に位置決めのために手動又は自動で用いられる。
[0104]
基準画像と現在測定された画像との間でのマッチング技術(位相相関,相互相関,エントロピーの最大化等)の実行について
これらの方法は実際にその変位を導き出し,この変位は,診断又は手術装置において補正フィードバックを生成するのに用いられる。又は,マッチング技術は,画像全体として,画像の一部として,又はステップ3で検出された指標として包括的である。

[0110]
以下において,網膜のOCT画像を提供するOCT装置に関連する本発明の更なる実施例について述べる。この装置は,基準画像に対する眼底のx/y変位に関するリアルタイム情報を提供する眼底トラッカーを用いている。OCT走査システムは,眼底の位置変化を取り込むようにして走査パターンを調整し,走査パスを意図する軌跡に追随するようにしている。
[0111]
しかしながら,標準的なビデオに基づく眼球トラッキング装置(≦60HZ)は,サッケードに代表されるような眼底の早い動きを正しく補正するにはあまりにも遅い。同様に,瞬きや,大きな瞳孔の閉塞等により眼底トラッキングは一時的に利用できない場合がある。これを考慮し,これらの影響を補正するために,本実施例においてはオペレーションにおいて以下の二つの方法が行なわれる。
[0112]
トラッキングに用いられる画像シーケンスで異変が検出された場合,診断/手術装置並びに特定の実施例において,OCT走査ビームがホールドされる。眼底トラッキングシステムは,サッケード,瞬き等の異変をトラッキングにおいて検出する。(図5のオペレーション500参照)これは,ある適切な基準を用いることにより行うことができる。例えば,画像の質の突発的な低下(質のファクターをある閥値よりも下方に低下させる)が瞬きの代表例である。他方,早い動きに関連する画像のボケは,サッケードを代表例として考慮される。そのような種類の基準を用いることにより,トラッキングの性能及び/又は手術/診断装置の性能に悪影響を及ぼす可能性のある異変が生じたか否かを判定することができる。
特定の実施例において,装置はOCT装置であり,異変が検出された場合には,眼底トラッキングシステムはオペレーション510において,OCT走査システムに対しHOLD信号を送出する。このHOLD信号がアクティブである(図5のオペレーション520が肯定的な回答をもたらさない限り)場合には,OCT走査装置は走査パターンプログラムを停止する。オペレーション520において,異変がもはや存在しないと判断された場合には,HOLD信号はインアクティブとなり,走査を続行する。一過性の事態が眼底トラッキングシステムによって検出される限り,このようにして,一過性の部分は回避される。
[0113]
更なるオペレーションが追加的に又は代替的に用いられることができる。本実施例においては,システムは,追加的には,第一の方法において記載した全てのパーツを維持する。追加的には,OCT走査データによる眼底の将来軌跡のような,眼底トラッキングシステムによって得られた更なるデータに基づいて,いくつかの走査部分を過去に照らして無効であると判断することができる。無効とは,主に二つの状況において存在する。
[0114]
a.サッケードの検出により,第1の方法では除去できなかった,サッケードの開始からのサンプルを除くことができる。サッケードは,3-5の高スピードサンプルのシーケンスとして,眼底上の速度によって検出される。データサンプルに対し予め画定されたパラメータ化された関数(シグモイド又は多項式)を適合させることにより,サッケードのより正確な開始/終了を得ることができる。
[0115]
b.眼底の軌跡においてディスラプター(崩壊させるもの)として現れる偶発的なトラッキングエラーの検出 これらの異常値測定は統計フィルタリングによって検出される。主として,軌跡の状況において位置的なある値が生じる確率を評価することとなる。この確率は,一般的な目の動態の大きなデータセットに基づいてオフラインで算出される。低い確率での測定は拒絶される。
[0116]
次いで,OCT走査システムは,第二のパスにおいてそのような無効の部分を再取得するようにプログラムをしなおす。所望される結果が達成されるまで,第三のパス等を用いるようにしてもよい。この方法は,走査が十分でなかったという判断は更なるデータに基づいており,より堅牢性をもたらすことができる。」

2 甲3について
本件の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲3には,「眼科撮影装置」に関して,以下の事項が記載されている。

(甲3-ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
低コヒーレント長の光束を出射する光源から発せられた第1の測定光を被検眼に対して走査する第1走査手段を持ち,前記光源から発せられた光によって生成される参照光と被検眼に照射された前記第1測定光の反射光との合成により得られる干渉光を受光することにより被検眼の断層画像を得る干渉光学系と,
該干渉光学系が持つ前記第1走査手段とは別の走査手段であって,前記光源または前記光源とは異なる光源から発せられた光束を第2の測定光として被検眼に対して2次元的に走査する第2走査手段を持ち,その反射光を受光することにより被検眼の正面画像を得る共焦点光学系と,
被検眼の像を得るために被検眼に向けて照射する測定光を,前記干渉光学系を介して照射される第1測定光と前記共焦点光学系を介して照射される第2測定光とで実質的に交互に切り換える測定光切換手段と,
該測定光切換手段による切換制御に伴い前記干渉光学系及び前記共焦点光学系によって逐次取得される前記断層画像と正面画像とを表示モニタの同一画面に動画画像として並べて表示する表示制御手段と,
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。」

(甲3-イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような被検眼の断層画像を得ることができる装置においては,眼底の正面画像を動画表示させ,適宜選択した箇所の断層画像と共に随時観察できると使い勝手が良く便利である。しかしながら,特許文献1のような装置の場合,OCT光学系とSLO光学系とで眼底上で照射光を走査させる走査系(例えば,ガルバノミラー)を共用させているため,SLO画像とOCT画像とを画面に同時に動画表示させることは困難である。また,SLO画像やOCT画像を同時期に取得する際には眼内に入射する測定光の光量が患者に負担にならないように気をつける必要がある。
【0005】
本発明は,上記問題点を鑑み,患者の負担を抑制しつつ,SLO画像とOCT画像とを同時に動画表示することが可能で,使い勝手の良い眼科撮影装置を提供することを技術課題とする。」

(甲3-ウ)
「【0025】
次に,BスキャンによりXZ面の断層画像(Bスキャン画像)を取得する手法について説明する。図2は,BスキャンによるOCT画像(右側)と二次元的なスキャンによるSLO画像(左側)を逐次取得する際の動作について説明する図である。
・・・
【0029】
この場合,OCT画像取得に必要な時間分に相当するSLO画像取得における上下方向の走査線の本数を求め,求めた走査線分をSLO画像の取得エリアの上下端側から均等に設定する。そして走査部64のガルバノミラーによってレーザ光が走査されている間,設定された走査線部分に位置する間だけ,SLO光源61を消灯し,代わりにOCT光源27を点灯させる制御を交互に行う。前述したように,SLO画像の1フレーム分を1024×1024ピクセル,OCT画像の一方向のスキャン幅を1024ピクセルとすると,SLO光源61の消灯時間は0.0175secであり,代わりに0.0175secだけOCT光源27を点灯させる。このOCT光源27が点灯している間に少なくとも1フレーム分のOCT画像の取得が行われる。制御部70は,このような制御を連続して行い,交互に得られたSLO画像及びOCT画像を,表示モニタ75に同時に動画として表示させる。」

(甲3-エ)
「【0035】
ここで,検者によってラインLSがSLO眼底画像に対して移動されると,制御部70は,随時測定位置の設定を行い,これに対応する測定位置の断層画像の取得を行う。そして,取得された断層画像を随時モニタ75の表示画面上に表示する。このようにして,検者の所望する断層画像がモニタ75に表示され,検者によって撮影開始スイッチ74cが押されると,所望する断層画像と正面画像がメモリ72に記憶される。
【0036】
このようにすれば,被検眼に負担をかけることなく,断層画像の取得時における眼底の正面画像を観察することができる。よって,検者は,断層画像取得時の被検眼の状態の把握が容易となる。また,断層画像取得時のSLO画像に基づいて被検眼の位置ずれを検出することにより,断層画像の補正を行うことも可能である。この場合,得られたSLO画像から被検眼の眼底の特徴点(血管形状や視神経乳頭)を画像処理により抽出し,抽出された特徴点の偏位量を求めることにより被検眼の位置ずれを検出することが可能である。そして,制御部70は,検出された被検眼の位置ずれ量に基づいて走査部23を駆動制御させ,位置ずれ量分測定位置を補正する(ラインLSの表示位置も補正するとよい)ことにより,測定中に被検眼が動いても,その影響なく一定の断層像を観察することができる。その他,制御部70は,検出された被検眼の位置ずれ量に基づいて装置本体全体を移動させるよう図示なき駆動部を制御することにより,被検眼の位置ずれを補正することが可能である。」

(甲3-オ)
「【0039】
図4は,OCT3次元画像を撮影する際の動作について説明する図である。この場合,OCT画像を256×256で取得する。図4において,SLO画像を1ライン測定する時間は0.17msecであり,この時間はOCT画像の5ポイントに相当する。
・・・
【0041】
より具体的には,制御部70は,OCT画像の第1ライン256ポイントのうち,251点までOCT光源27をONとして,251点まで測定したらOCT光源27をOFFにし,SLO光源61をONにする。そして,SLO画像の第1ラインのスキャンを行い,0.17msec後に,SLO光源61をOFFし,OCT光源をONする。次に,OCT画像の第2ラインのOCTを251点測定し,次にSLOの第2ラインを測定する。これを256回繰り返すことで,2.3秒後に251×256エリアの3次元OCT画像と1枚のSLO画像が得られる。ここで得られたSLO画像とOCT測定前(又は後)に得られた0.043秒で測定するSLO画像を比較することで,2.3秒かけて測定した256ラインのBスキャン画像それぞれの位置ずれを検出することができる。この場合,OCT測定前(又は後)に得られたSLO画像における被検眼の眼底全体から各Bスキャン画像における被検眼の眼底の特徴点(血管形状や視神経乳頭等)の相当する位置を算出し,各Bスキャン画像における被検眼の眼底の特徴点の偏位量を求めることにより,各Bスキャン画像取得時における位置ずれ量を求めることができる。そして,制御部70は,前述のように求められた位置ずれ量に基づいて,256枚のOCT画像の固視微動による位置ずれを補正する。このようにすれば,位置ずれが補正された3次元OCT画像を取得することができる。この場合,制御部70は,走査部64に設けられたガルバノミラーの走査スピード(縦方向の走査スピード)を遅くしてOCTのスキャンに合わせる必要がある。」

そうすると,甲3には,「測定光切換手段による切換制御に伴い干渉光学系及び共焦点光学系によって逐次取得される断層画像(OCT画像)と正面画像(SLO眼底画像)とを表示モニタの同一画面に動画画像として並べて表示する表示制御手段」を備え,
「断層画像取得時のSLO画像に基づいて抽出された特徴点の偏位量を求めることにより検出された被検眼の位置ずれ量に基づいて走査部23を駆動制御させ,位置ずれ量分」「断層画像の」「測定位置を補正する」「断層画像と正面画像とを表示モニタの同一画面に動画画像として並べて表示する」「眼科撮影装置」の発明が記載されている。

3 甲4について
本件の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲4には,「スペクトルドメイン偏光感受型光コヒーレンストモグラフィを提供することの可能な構成,システム,及び方法」に関して,以下の事項が記載されている。

(甲4-ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学画像生成に関するものであり,更に詳しくは,スペクトルドメイン偏光検出型光干渉断層法を提供する能力を有する構成,システム,及び方法に関するものである。」

(甲4-イ)
「【0071】
更には,本発明の具体例によるいくつかの方法によって更に高い信号対雑音比(SNR)を実現可能である。まず,最初に,ソースアームパワーを増大させることにより,SNRを改善可能である。ANSI規格は,スキャニングビームについて,600μWを上回る大きなパワーの使用を提供している。7.5kHzの取得速度,9.4mmのスキャン長(最短半径によるスキャン),及び1スキャン当たりに132msのスキャン時間において,パワーを15倍の約9mWまで増大可能である。更には,パワーを低減することなしに,スキャンレートを低減することも可能である。例えば,スキャンレートを約3kHzに低速化させることにより,信頼性の高いDPPR/UD結果を入手可能である。モーションアーチファクトが発生する可能性が高いため,緑内障患者の場合には,相対的に長い取得時間は,問題となろう。網膜トラッカは,このようなアーチファクトを回避可能であり,且つ,R. D. Ferguson他による「Tracking optical coherence tomography」(Optics letters,2004年,第29(18)巻,2139?2141頁)に記述されているように,瞬きに起因して失われたエリアを自動的に再スキャンすることも可能である。健康な被検者におけるスペクトルドメイン計測は,時間ドメイン計測において取得されたものと良好にマッチングしているため,更なる選択肢は,緑内障を有する若い被検者に対して本発明による例示的な手順を実行することであろう。」

そうすると,甲4には,「スペクトルドメイン偏光検出型光干渉断層」「装置」において「瞬きに起因して失われたエリアを自動的に再スキャンする」という技術的課題が記載されているといえる。

第5 判断
1 本件特許発明1?6についての甲1記載の発明に基づく新規性欠如について

甲1記載のOCT走査システムの発明は,再取得する無効の部分の判定を,「データサンプルに対し予め画定されたパラメータ化された関数(シグモイド又は多項式)を適合させることにより」,「より正確な開始/終了を得ることができる」「サッケードの検出」,または,「主として,軌跡の状況において位置的なある値が生じる確率を評価することとなる」「統計フィルタリングによって検出される」「トラッキングエラーの検出」に基づいて行っているものであるところ,「サッケードの検出」も「トラッキングエラーの検出」も「複数の検出結果」の「相対位置」に基づいた検出とはいえないことは明らかである。

他方,本件特許発明1は,「複数の検出結果」の「相対位置」に基づいて光を再度照射させるものである。

そうすると,甲1記載のOCT走査システムの発明は,本件特許発明1の「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」に相当する構成を備えていない。

なお,異議申立人は,本件特許発明1?6の「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」に相当する構成が,甲1の段落[0110]?[0115]に記載されていると主張するが,甲1には「複数の検出結果」の「相対位置」に基づいて光を再度照射させることが記載されていないことは上記のとおりであるから,異議申立人の上記主張は採用できない。

したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,本件特許発明1をさらに限定する発明である本件特許発明2?6も,同様に,甲1に記載された発明であるとはいえない。

2 本件特許発明1?6についての甲3,甲4又は甲1記載の発明に基づく進歩性欠如について

本件特許発明1と甲3記載の発明とは,少なくとも甲3記載の発明が「演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」に相当する構成を備えていない点で相違する。

上記相違点について検討するに,甲4には,「スペクトルドメイン偏光検出型光干渉断層」「装置」において「瞬きに起因して失われたエリアを自動的に再スキャンする」という点が記載されているといえるとしても,本件特許発明1の「演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」に相当する構成が記載されているとはいえない。
したがって,甲3記載の発明に甲4記載の発明を適用したとしても,本件特許発明1の「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」には到達し得ないことは明らかである。

また,甲1記載の発明は,本件特許発明1の「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」に相当する構成を備えていないことは上記の1 で記載したとおりである。
したがって,甲3記載の発明に甲1記載の発明を適用したとしても,本件特許発明1の「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」には到達し得ないことは明らかである。

なお,甲3記載の発明は,「SLO眼底画像」と当該SLO眼底画像上に表示するラインLSの位置における「OCT画像」とをモニタ75に随時動画として並べて表示する(段落【0029】,【0035】)ものであり,被検眼の位置ずれを検出して断層画像の補正をする動作としては,甲3の「断層画像取得時のSLO画像に基づいて被検眼の位置ずれを検出することにより断層画像の補正を行うことが可能である」との記載(段落【0036】),その具体的動作として,「検出された被検眼の位置ずれ量に基づいて操作部23を駆動制御させ,位置ずれ量分測定位置を補正することにより,測定中に被検眼が動いても,その影響なく一定の断層像を観察することができる」との記載(段落【0036】)によれば,甲3記載の発明の「測定中の被検眼の移動」に関して行う「OCT画像」の補正とは,SLO画像上に示されている断層像測定箇所であるラインLSに対応する位置が被検眼の移動により変化した移動分に対応してその測定位置を補正するものであることが理解できる。
すなわち,SLO画像取得により被検眼の位置ずれを検出して断層画像の補正を行うことは,既に修正されている測定位置で当該OCT画像の次のOCT画像を取得することとなるから,次のOCT画像取得において再度の当該OCT画像の測定をする必要性が生じることはない。
そうすると,仮に,甲4及び甲1記載の発明が,本件特許発明1の「演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」に相当する構成を備えていたとしても,甲3記載の発明に甲4または甲1記載の発明を適用する動機付けが見い出せない。

以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲3記載の発明に甲4又は甲1記載の発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,本件特許発明1をさらに限定する発明である本件特許発明2?6も,同様に,甲3記載の発明に甲4又は甲1記載の発明を適用して当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

3 本件特許発明1?6の明確性要件違反とサポート要件違反について
本件特許発明1を特許異議申立書に合わせて以下のようにA?Gに分節し,その後の検討を行う。

「【請求項1】
A 光源からの光を被検眼に複数回照射し,前記被検眼を経由した光をそれぞれ検出する光学系と,
B 前記光源からの光の複数回の照射と並行して,前記被検眼の位置の検出を複数回実行する検出手段と,
C 前記検出手段により取得された前記位置の複数の検出結果に基づいて,前記光学系により取得された複数の検出結果の相対位置を求める演算手段と,
D 前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段とを有し,
E 前記光学系は,前記光源からの光を被検眼の複数の位置に向けて順次に照射させる走査手段を含み,
F 前記第1の制御手段は,前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数の位置の少なくとも一部に向けて前記光源からの光を再度照射させるように前記光学系を制御する
G 眼科装置。」

(1)明確性要件違反について
ア 構成要件Bに関して
(ア)異議申立人の主張
「複数回の位置検出」と「光の複数回の照射」について
本件特許発明1の構成要件Bにおいては,「前記光源からの光の複数回の照射と並行して,前記被検眼の位置の検出を複数回実行する」と規定しているが,「複数回の位置検出」と光源からの「光の複数回の照射」との関係が不明であるため,構成要件Bで規定される構成が特定できない。
従って,本件特許発明1は不明確である。

(イ)当審の判断
本件特許発明1の構成要件Bは「前記光源からの光の複数回の照射と並行して,前記被検眼の位置の検出を複数回実行する検出手段」と規定されているところ,当該規定によれば,当該「検出手段」が,「光源からの光の複数回の照射」と並行して,「被検眼の位置の検出」を「複数回実行」するものであることが明確に把握できる。
そして,そのように把握できることが,発明の詳細な説明の記載と矛盾するものでないことは,後述の「(2)サポート要件違反についてイ 構成要件Bに関して」における「(イ)当審の判断」のとおりである。
なお,異議申立人は,「前記光源からの光の複数回の照射」と「被検眼の位置の検出」との関係が不明であるため,構成要件Bで規定される構成が特定できないと主張するが,そのような関係が特定できないとしても,構成要件Bにより特定される「検出手段」が明確に把握できることは上記のとおりである。

イ 構成要件Cに関して
(ア)異議申立人の主張
本件特許発明1の構成要件Cは,「前記検出手段により取得された前記位置の複数の検出結果に基づいて,前記光学系により取得された複数の検出結果の相対位置を求める演算手段」と規定されている。
本件特許発明1の構成要件Cが,「最初の眼底像に対応する基準静止画像の特徴部位の画像領域に対する,他の各静止画像における特徴部位の画像領域の変位を演算しているという構成である。」ことを意図しているのであれば,相対位置を求めるための基準となる画像及びその領域が規定されていないのであるから,本件特許発明1の構成要件Cにより規定される発明特定事項は明確でない。

(イ)当審の判断
本件特許発明1の構成要件Cは「前記検出手段により取得された前記位置の複数の検出結果に基づいて,前記光学系により取得された複数の検出結果の相対位置を求める演算手段」と規定されているところ,当該規定によれば,当該「演算手段」が,「前記検出手段により取得された前記位置の複数の検出結果」に基づいて「前記光学系により取得された複数の検出結果の相対位置を求める」ものであることが明確に把握できる。
そして,ここでの「相対位置」は,これら検出された「被検眼」相互の相対的な位置関係を求めるものとして特定されていることが明らかであれば,特にその基準となるものが定められていないとしてもその位置関係は把握できるし,「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供する」という本件特許発明の課題を解決するとの本件特許発明の目的に照らせば,そのように解釈できることで充分である。
したがって,構成要件Cは明確でないとはいえない。

ウ 構成要件Dに関して
(ア)異議申立人の主張
本件特許発明1の構成要件D「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」は,「少なくとも」という限定により,本件特許発明1を不明確にさせている。

(イ)当審の判断
本件特許発明1の構成要件Dは「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」と規定されているところ,当該規定によれば,当該「制御手段」が,「前記演算手段により求められた相対位置」に基づいて「前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる」ものであることが明確に把握できるので,「少なくとも」という限定によって,不明確になるものではない。
したがって,構成要件Dは明確でないとはいえない。


エ 構成要件Fに関して
(ア)異議申立人の主張
本件特許発明1の構成要件F「前記第1の制御手段は,前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数の位置の少なくとも一部に向けて前記光源からの光を再度照射させるように前記光学系を制御する」は,「少なくとも」という限定により,本件特許発明1を不明確にさせている。

(イ)当審の判断
本件特許発明1の構成要件Fは「前記第1の制御手段は,前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数の位置の少なくとも一部に向けて前記光源からの光を再度照射させるように前記光学系を制御する」と規定されているところ,当該規定によれば,当該「第1の制御手段」が,「前記演算手段により求められた相対位置」に基づいて「前記複数の位置の少なくとも一部に向けて前記光源からの光を再度照射させるように前記光学系を制御する」ものであることが明確に把握できるので,「少なくとも」という限定によって,不明確になるものではない。
したがって,構成要件Fは明確でないとはいえない。


(2)サポート要件違反について
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
そこで,本件特許明細書の記載事項等を検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「【技術分野】」(段落【0001】),「【背景技術】(段落【0002】?【0010】)」,「【発明が解決しようとする課題】」(段落【0012】?【0013】),「【課題を解決するための手段】」(段落【0014】),「【発明を実施するための形態】」(段落【0016】?【0204】)が記載されている。
さらに「【発明を実施するための形態】」は「<第1の実施形態>」(段落【0019】?【0114】),「<第2の実施形態>」(段落【0115】?【0159】),「[変形例]」(段落【0160】?【0204】)と記載されている。
これらの記載を総合すれば,本件特許明細書には,「眼底の3次元画像を取得する際には信号光を2次元的にスキャン(走査)させて計測を行う。このスキャンには数秒程度の時間が掛かる。よって,スキャン中に被検眼が移動したり(固視ズレなど),瞬きをしてしまったりするおそれがある。そうすると,3次元画像が歪んでしまったり,計測対象領域の一部の画像が得られなくなったりするなど,画像の確度が低下してしまう。」という課題があったこと,「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供すること」を目的とし,その課題を解決するための手段として,本件特許発明1?6の構成を採用したことが開示されているものと認められる。

ア 構成要件Aに関して
(ア)異議申立人の主張の概要
本件特許発明1の構成要件Aに関して,本件特許明細書に記載されている事項は,段落【0035】?【0048】に記載されているOCTユニット100の干渉光学系のみである。
しかしながら,本件特許発明1の構成要件Aに規定されている光学系は,干渉光以外の光の検出も可能であり,本件特許明細書に開示されていない事項を含むものである。

(イ)当審の判断
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,前記基準により判断されるべきものであり,発明の詳細な説明に,想定され得る全ての実施態様についての記載がないからといって,そのことが直ちにサポート要件違反を構成するものではない。
本件特許明細書に接した当業者であれば,本件特許明細書の実施例の構成のほかに,例えば,高倍率の眼底画像の一部と低倍率の全眼底画像を並べて表示する眼科装置など,構成要件Aに規定されている光学系として干渉光以外の光を検出するものを含むものを容易に理解するものといえる。
つまり,本件特許明細書に接した当業者は,構成要件Aに規定されている光学系が干渉光以外の光を検出するものを含んでいても,「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供する」という本件特許発明の課題を解決できると認識できるものと認められる。
したがって,構成要件Aは本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。

イ 構成要件Bに関して
(ア)異議申立人の主張の概要
用語「並行」とは,「同時に行う又は行われること」を意味する。(岩波国語辞典)
従って,本件特許発明1の構成要件Bは,「前記光源からの光の複数回の照射と同時に,前記被検眼の位置の検出を複数回実行する検出手段」と同義である。
一方,本件特許明細書には・・・すなわち,「光源からの光の複数回の照射と同時に」行われるのは,被検眼の位置の検出ではなく,観察画像の取得である。
そして,観察画像の取得後,本件特許明細書の段落【0068】に記載されているように,静止画像の画素値を解析して眼底の特徴部位の画像領域を特定する。次に,段落【0069】に記載されているように,画像領域の位置ズレ量を算出する構成とされており,画像の取得後一定の時間経過とともに被検眼の位置検出を行っているものである。
すなわち,構成要件Bの記載は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。
本件特許発明1は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないものである。

(イ)当審の判断
「並行」の意味は「ならび行われること」(広辞苑第五版)であって「同時に行う」ことに限定されない。
そうすると,構成要件Bは,「前記光源からの光の複数回の照射」と,「前記被検眼の位置の検出を複数回実行すること」とが,同期するかはともかく,構成要件Bが「光源からの光の複数回の照射」と並行して,「被検眼の位置の検出」を「複数回実行」する「検出手段」を意味することは明らかである。
したがって,本件特許発明1の構成要件Bは,「前記光源からの光の複数回の照射と同時に,前記被検眼の位置の検出を複数回実行する検出手段」と同義である。」ことを前提とした,「本件特許発明1は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないものである。」との主張は失当であり,採用できない。

さらに,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,例えば「【0117】 更に,この眼底観察装置は,信号光が走査されているときに,所定の時間間隔で眼底の位置を検出し,検出された眼底の位置の時間変化に基づいて眼底表面方向(xy方向)における複数のAスキャン像の位置ズレ量を算出する。」と,「信号光」の「走査」と「眼底の位置」の「検出」とをならび行う,すなわち,「前記光源からの光の複数回の照射」と並行して,「前記被検眼の位置の検出を複数回実行する」「検出手段」が開示されている。
そして,複数回「光源からの光の照射」がされる期間毎に1回の「被検眼の位置の検出の実行」を行うものであっても,複数回の「光源からの光の照射」によって得られる複数個の断層像を単位として位置補正が可能であることからすれば,「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供する」という本件特許発明の課題を解決するためには,「前記光源からの光の複数回の照射」と,「前記被検眼の位置の検出を複数回実行すること」とが対応できれば良いことは技術的に明らかである。
したがって,構成要件Bの記載は,本件特許明細書の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。

(ウ)異議申立人の主張の概要
本件特許発明1の構成要件Bでは,「複数回の位置検出」と光源からの「光の複数回の照射」との関係が規定されていないため,例えば,構成要件Bの記載では,各走査線に沿った走査に対応する静止画像のフレームレートよりも,低いフレームレートで静止画を撮影する場合までも含むこととなる。
このような構成では,本件特許明細書の段落【0156】に記載されている「特に,所定個数(1個以上)のAスキャン像群毎に位置を補正できるので,断層像単位で補正を行う第1の実施形態よりも高い精度での補正が可能である。」という作用・効果を奏することができないこととなる。従って,当該構成要件Bの記載は,本件特許明細書に記載されていない事項を含むものである。
構成要件Bの記載は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。

(エ)当審の判断
本件特許明細書の段落【0156】に記載されている「特に,所定個数(1個以上)のAスキャン像群毎に位置を補正できるので,断層像単位で補正を行う第1の実施形態よりも高い精度での補正が可能である。」という作用・効果は,本件特許明細書の段落【0115】?【0159】に記載されている<第2の実施形態>の作用・効果である。
本件特許発明1は,本件特許明細書の段落【0019】?【0114】に記載されている<第1の実施形態>や,本件特許明細書の段落【0160】?【0204】に記載されている[変形例]も実施例として含むものであり,「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供する」という本件特許発明の課題を解決するための構成であるから,その作用・効果は<第2の実施形態>の構成の作用・効果に限定されないことは明らかである。
そして,「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供する」という本件特許発明の課題を解決するためには,「前記光源からの光の複数回の照射」と,「前記被検眼の位置の検出を複数回実行すること」とが対応できれば良いことは技術的に明らかであることも上記(イ)で検討したとおりである。
したがって,異議申立人の上記主張は失当であり,採用できない。

(オ)構成要件Bに関してのまとめ
したがって,構成要件Bの記載は,本件特許明細書の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。

ウ 構成要件Cに関して
(ア)異議申立人の主張の概要
「相対位置を求める」ための基準が規定されていないため,無数の相対位置関係が生じることとなる。本件特許明細書においては,複数の位置検出を行った場合にそれぞれの検出位置同士全ての関係において相対位置を求めるような構成については記載が無い。

(イ)当審の判断
構成要件Cにおいて,特に「相対位置を求めるための基準」が明記されていないとしても,ここでの「複数の検出結果の相対位置」がこれら検出された「被検眼」相互の相対的な位置関係を求めるものとして特定されていることが明らかであること,そして,本件発明の目的に照らせば,そのように解釈できることで十分であることは上記(1)イで説示したとおりである。
異議申立人の,相対位置を求めるにあたりその基準となる位置が特定されていないことをもって無数の相対位置関係が生じることとなり,そのようか関係を求めることが発明の詳細な説明に記載されていないことを理由とする主張は,発明の詳細な説明の記載や本件発明の課題などに照らして合理的に解釈される特許請求の範囲の記載の意味内容の範囲を超えた構成要素Cの解釈を前提とする主張であって採用することはできない。
したがって,構成要件Cの記載は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。

エ 構成要件D(F)に関して
(ア)異議申立人の主張の概要
「相対位置に基づいて」について
本件特許発明1の構成要件D(F)で規定されている発明特定事項によれば,断層像の間隔が所定値未満の場合や,静止画像における位置ズレ量が所定値未満の場合に再度照射を行って再走査を行う構成も含む。
しかしこのような構成では,本件特許明細書の段落【0103】?【0114】に記載されている「断層像が疎な領域について,再度スキャンを行って断層像を補間する」という作用効果を奏し得ない。
本件特許発明1の構成要件D(F)で規定される発明特定事項は,本件特許明細書に記載されていない事項を含んでいる。

(イ)当審の判断
本件構成要件D「前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる第1の制御手段」,本件構成要件F「前記第1の制御手段は,前記演算手段により求められた相対位置に基づいて,前記複数の位置の少なくとも一部に向けて前記光源からの光を再度照射させるように前記光学系を制御する」により特定される内容は,ここでの「相対位置に基づいて・・・制御する」との記載に照らせば,「複数の位置の少なくとも一部」は,「演算手段により求められた相対位置」に基づき「決定された」ものであると解することができ,その理解は,発明の詳細な説明の記載及び本件発明の目的の記載に照らして合理的なものである。
そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明に照らせば,例えば,段落【0070】?【0076】において,「演算手段により求められた相対位置に基づいて」,補正された結果,隣接する断層像の間隔が所定値以上となる領域内に位置する走査線に沿うように信号光LSを走査させることが記載されているように,ここでの「演算手段により求められた相対位置」に基づき「決定された」「複数の位置の少なくとも一部」とは,本件発明の効果を奏する「位置ズレ量が所定値以上」の場所と解することができるものである。
異議申立人は,「前記複数回の照射の少なくとも一部」について,「位置ズレ量が所定値以上であると判断された位置」以外の位置に対応する照射も含むものであると主張しているが,構成要件D(F)において,「複数の位置の少なくとも一部」は,「演算手段により求められた相対位置」に基づき「決定された」ものであると解することができるのであるから,異議申立人の主張は,前提において失当といわざるを得ない。

(ウ)異議申立人の主張の概要
「前記複数回の照射の少なくとも一部」について
構成要件Dにおいて,「前記複数回の照射の少なくとも一部」という限定は,「前記複数回の照射」の全てを含むものである。
これに対し,本件特許明細書には,光源からの光の複数回の照射の全てを再度実行する構成については開示が無い。
「前記複数の位置の少なくとも一部」について
構成要件Fで規定される発明特定事項において,光源からの光の再度照射は,「前記複数の位置の少なくとも一部に向け」て行われる構成とされており,「複数の位置の少なくとも一部」という限定は,「複数の位置の全て」を含むものである。
これに対し,本件特許明細書には,光源からの光が照射された位置の全てについて再度光を照射して走査する構成については開示が無い。

(エ)当審の判断
構成要件Dにおいて「前記複数回の照射の少なくとも一部を前記光学系に再度実行させる」箇所,及び,構成要件Fにおいて「前記複数の位置の少なくとも一部に向けて前記光源からの光を再度照射させる」箇所は,共に「被検眼の移動や瞬きが発生した場合であっても高確度でデータを取得することが可能な眼科装置を提供する」という本件特許発明の課題を解決するために必要な箇所であることは技術的に明らかである。
文理解釈上「前記複数回の照射の少なくとも一部」という特定が,「前記複数回の照射」の全てを含む概念であるとしても,「前記複数回の照射の一部」の意味であることは技術的に明らかといえること,及び「前記複数の位置の少なくとも一部」という特定が,「前記複数の位置の全て」を含む概念であるとしても,「前記複数の位置の一部」の意味であることは技術的に明らかといえることからすれば,構成要件D及びFの「全て」を明確に排除する特定がないことをもって直ちにサポート要件違反を構成するものとまではいえない。

(オ)構成要件D(F)に関してのまとめ
したがって,構成要件D(F)の記載は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。

(3)本件特許発明1?6の明確性要件違反とサポート要件違反についてのまとめ
以上より,異議申立人の主張する明確性要件違反,サポート要件違反についての主張は,いずれも採用できない。


第6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件特許の請求項1?6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2016-01-14 
出願番号 特願2013-256140(P2013-256140)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61B)
P 1 651・ 537- Y (A61B)
P 1 651・ 113- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 順也  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 渡戸 正義
信田 昌男
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5706506号(P5706506)
権利者 株式会社トプコン
発明の名称 眼科装置  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ